玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』四曲目「"Hen"」です。
パーカッションと鋭い口笛、なにやら管楽器でポコポコピュウピュウ、バンブーバンブーと、なんだか呑気な雰囲気で曲ははじまります。よくこんな曲思いつきますね!口笛なんてそもそも唇が追い付きませんよこんなの!人間、フィジカルでできないことはそもそも思いつきません。現代のようにAIとかサンプル音源とかを使いながらアレンジをPCで組み立てて行ける時代でないですから、技量が追い付かないことを表現するのはぜんぜんムリだったのです。そんなわけで呑気な感じなのに口笛が超絶技巧でいきなり驚かされます。
「〜のは変」という内容をポコポコピュウピュウと十三回も繰り返す歌です。身もふたもないですが本当にそうなんです。しかも変だといっているその内容はあまり変じゃないのです。
いちおうわたくし、"Hen"が「変」以外の言葉である可能性も考えました。ええ、「Love ”セッカン” Do It」と同じパターンですよ。また大辞典中辞典駆使して手掛かりを探ってみます。すると一発目の英和大辞典で「hen」がめんどりの意味以外に鳥類の一部のメスの意味、またエビカニ等、そしてなぜか鮭のメス、転じて女性、とりわけ口やかましい中年女性、スコットランドではお嬢さん、彼女を意味することが分かりました。聞いたことないな、「ラッシー」が「お嬢さん」の意味だって知ってたくらいですよ、英語はヨーロッパじゅうから様々な語源が渦巻いていますから奥深いですねえ。でも少なくとも独仏ルーツではないようで、それらの辞書には何も見つけることができませんでした。しかしまあ、どう考えても「プロポーズは口やかましい中年女性」「抱きあうのは鮭のメス」とかはありえないので、このセンはないですね。スペイン語にhender割るという単語がありますが……この意味である場合「プロポーズは割ってしまえ……」ちょっと意味が通らなくもないのですが、スペイン語のhenderはhを発音しませんのでヘンでなくエンになるはずです。世界中にはもっとたくさん言語がありますが、もうふつうに日本語の「変」だと考えるのが自然でしょう、意味通るし(笑)。
「どーなんだろーね」のあとに「ヘ…ヘ…ヘ…ヘ…アーイアイ!」と女声と絡めて歌う変な箇所があります、って変な箇所を指摘していたらキリがないくらいどこもかしこも変な歌です。どうしろというんだ……
と、まあ、ぜんぜんいい歌だと思えなかったのですが、当ブログを開設したとき、いずれこの曲を解説する日も来るものだと覚悟しておりました。わたくし、以下のように宣言しております。
そういう曲もきっとその魅力がわかる時が来る!
それまではその曲について語らない!
つまり、安全地帯・玉置浩二の曲は全曲いい曲である!
いずれは全曲を語る!
うーん、鼻息荒ーい!(笑)いや笑いごとでないですね。この「"Hen"」を語る日なんてだいぶ後だろうからと、いずれ魅力がわかるだろうくらいに思っておりましたが、困ったことにまだよくわかりません。激烈な変さです。こういうときは発想を変えるべきでしょう。つまり、この変さこそがこの曲の魅力であると!
わたくしこう見えても、というかブログですから見えないんですが(笑)、ともあれわたくし若いときに音楽をやっておりましたから、こういう遊び心たっぷりでわざと変な曲を作って楽しむこともございました。普通に歌っているところをとつぜん叫ぶとか、ギターは終始ロングディレイでわけがわからなくなっているとか、とんでもない変拍子の連続で曲の流れがよくわからないとか、仲間と悪ノリでどんどん変な要素を付け加えてゆきムチャクチャな曲を作ることがあったのです。変であれば変であるほど価値がありますから、これは世間の「ふつう」「まともな」という価値が確立していてこそ成立する逆価値になります。わたし個人からみると変とかではなく、世間からみて変なのです。これは思ったよりも難しいことなのです。なにせ世間の「ふつう」に逆らって生きよう、出し抜いてやろうと思っているわけですから。若いですねえ。ともあれ、世間で「ふつう」だと思っていることを知らなければ世間からみて「ふつうでない」ことはできないものなのです。わたくしが「ふつう」だと思って行ったことが「ふつうでない」ことも、その逆のこともままあるわけですから、世間に対するアジャストが必要となるわけなのです。
で、わたくしのような凡人だとそのような過程になるわけなのですが、玉置さんの場合はこれが案外素なのではないか、という合理的な疑いが生ずるわけです(笑)。いやいや、玉置さんだってこれが売れる曲ではないというのはよくよくご存知でしょう。でも天才が凡才と違うところは、変なことを変だと思っていないところなのです。ゴッホにはひまわりがあのように見えていたんじゃないかと疑われるのと同じで、玉置さんにはこれがいい曲だと感じられている、少なくとも「悲しみにさよなら」みたいなタイプの曲でないこと、そしてウケそうな曲でないことはわかっているけども、いい曲だと思っているからリリースしたのではないかと思われるのです。レコード会社は嫌がる可能性がありますけども(笑)、当時は天下無敵の玉置さんの意向です。キティレコードもへたに逆らえません。そして玉置さんもこれは世間では変だと感じられることはわかっていたのでしょう。だから「変」だろうから「"Hen"」って言葉を使った、あるいは松井さんと話して「"Hen"」にしようか、と申し合わせたのではないかと思われるのです。
そう思ってこの曲をよくよく聴いてみますと……うーんやっぱり変!(笑)。でも、一発で口ずさんでしまうレベルで覚えやすいメロディーに、HenHen言ってるだけなのにメロディーが数通りあって飽きさせないフックの効いた展開、サビで玉置さんのボーカルがハーモナイザーでムリヤリ作ったような美しくないハモリになっていてインパクト大になっている点、間奏の流麗なピアノとのギャップなど気絶しそうなくらいショックです。おもに裏のリズムを取っている管楽器のマヌケな感じ、これらはすべてこの変さを最大値に引き上げるために計算された演出なのでしょう。この曲、いつものようにガットギターで弾き語りでお作りになったのだと思われますが、ガットギターで弾き語りしている音像を想像すると、玉置さんの優しい声に、この覚えやすいメロディー、そして素朴なギターの音色……うん、こりゃ玉置さんの曲だ、いい曲だと思えてこないこともありません、いやまだ無理してますかね(笑)。でも、この後90年代の玉置さんソロの音楽を彷彿とさせる曲であることは確かでしょう。当時は当時までの、主に安全地帯の作品しか知らなかったから大ショックだったわけで、逆に玉置さんソロからさかのぼっていくと、そこまで違和感はないのではないかと思われるのです。もちろん「うわ変な曲!」とは思うと思います。だって変に作ってあるんですからそれは当然です。でもそれは玉置さん松井さんの術中です。そこで立ち止まってしまいあんまり聴かないようにしていると、この曲は変な曲のままです。ですが何度も聴き込むことでだんだんハマっていく、そんな曲であるといえるでしょう。
珍しいことに今回わたくし歌詞にぜんぜん言及してません。よくわからないからですが(笑)。でもまあ、うん、これはバブル期特有の、とある若者の生活ですかね。恋人が泣いたタイミングでプロポーズするのもなあ……ちょっと意地悪して心を揺さぶるのもなあ……なんかわざとらしいんだよなあ……トレンディードラマじゃないんだからさ!気まずい場を笑ってごまかそうとか、ごまかせるわけないじゃんね、ドラマならそこで場面切り替わるけどドラマじゃないし。毎日仕事、毎日食事、こんな当たり前のことすらわざとらしい感覚さえしてきます。朝八時はちょっと早いですが(笑)。なあ、そこで彼女が泣いたんだよ、夜もまあそこそこなんだけど……朝早いからって気になっちゃうのも芝居がかっていて変だよな、こんなことおまえに電話して相談しているのもドラマのワンシーンにされてるんじゃないかって気になっちゃうよ、変だよなおれ。電話の相手がやたらやさしくてこっちが悪いみたいな気がするのも筋書き、パターン通りってわけなのかな、という疑いが晴れないんだよ、頭がフワフワしちゃってさ……。と、こんな心境なのかもしれません。バブル期はマンガとかドラマとかビデオとかがヒーローものとか熱血高校球児ものとかそういう70年代にありがちなものでなく、ぐっと「ふつう」の若者を描くようになっていました。ほんとに「ふつう」だったら作品として面白くないですから、よくよく考えるとぜんぜん「ふつう」じゃないんですけども。「アパッチ野球軍」みたいに人間離れした話でなく「タッチ」みたいな現実味がそこそこある作品がウケるようになっていたのです。ですから、マスコミが垂れ流す「ふつう」がホントの「ふつう」を侵食するような感覚すらありました。「これだけ毎週来てると渋谷も」「私たちの庭ね」みたいなキャラクターがいて、こっちは「中学生くらいになると毎週渋谷にいくものなんだ!おれも行かないと!しまったここ札幌だ!かわりに大通のオーロラタウンに行くぜ!」とかうっかり思わされる、といった具合です。マンガみたいなことは何も起こらず自転車で帰ってくるんですけども(笑)。虚構はどこまでも虚構で、現実はどこまでも現実でした。東京に行けば事情は違うかといえばもちろんそんなことはないわけでして。
そこかしこにわざとらしさ、演出のニオイ、芝居がかった何かを感じると、だんだんイヤになってきます。ギターを弾いて歌うのもマンガの一コマに影響されたみたいでイヤ、という感覚です。それを歌にしてしまった!これは革命的です。あげくに最後に「こんな歌を歌ってうれしいのはHen」と、さらに客観視する自分もいる、というとんでもない仕掛けになっています。
さて、ここ数週間急ピッチで記事を書いてまいりましたが、少しの間スローダウンいたします。いや、『CAFE JAPAN』の終わりで今年中に『JUNK LAND』に入ると宣言したのですが、宣言した後に、しまったその前に『EARLY TIMES』あるじゃん!安全地帯のライブアルバムも扱うってどこかで宣言したし!ヒイ!余裕こいてる場合じゃなかった!アルバム終わるたびにちょっと感無量になって余計なこという悪い癖は六年経ってもぜんぜん治ってねえ!と気づいてしまい、慌てたわけです。慌てた結果、まあ大丈夫だろってくらいの進捗具合にはなりましたので、弊ブログの通常くらいのペースにさせていただきたいと思います。それでは、また!
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濃い俺のファンなら、このぐらいは食いつく
それ嫌で離れていくなら、それは仕方ないと
変な曲を書けるのは才能だと思う
変なの聞けば聞くほど免疫出来るからいい