玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』六曲目、「Will...」です。
感覚としては「地平線を見て育ちました。」に近いです。つまり、ふつうにいい歌です。以上。
うーん、うーむ、むむむむ……さすがの弊ブログでもこれ以上の言葉がなかなか思い浮かばない曲ではあります。ですがそのぶんといいますかなんといいますか、アレンジは気合が入っています。フェードインでスリーフィンガーと思しきギターのアルペジオ、バスドラとほぼ完全にリズムを一緒にしたベース、そしてハイハット、ストリングスとが聴こえてきます。淡々です。淡々としすぎていて、かなりメカニックです。それだけに、ベースのうねりや、なにやら低音太鼓の「ドウン……ウウン……」という音が不定期に耳に響くのですが、それがとてもオーガニックに聴こえます。なんでしょうねこれ?ジャンベのテンション低いやつ?いわゆるロックバンドで日常に使うようなものでない太鼓であるように思われます。そしてアオリに高い音の「キキキキココココ」が入ってますね。マリンバですかね……もうわからん楽器だらけでめげそうになります。BanaNAが鍵盤ガシガシ叩いて作ったんじゃないでしょうかね。
さて曲は玉置さんが「Will」とささやいて歌が始まります。意味のよくわからない歌詞です。とりわけ一番の歌詞は中身のないバブル期日本歌謡曲そのもののような、ストーリーや情景の感じられない歌詞です。東村山音頭の「ちょいとちょっくらちょいと」なみです。う、むむむむ、「氷点」の美しさを考えますと並河さんの力量を疑うのは失礼な話なのですが、ここまで意味がないと超適当に作ったか、もしくは玉置さんの曲に詞をつける難しさに手を焼いてなんとか言葉をくっつけたんじゃないかと想定せざるを得ません。ちなみに「Will you......?」は意向を訊ねる表現であるかのように中学校とかでは習いますけど、実はほとんど命令なんですよ。”Will you go home now?”「お前はとっとと家にお帰りになるんだよな?」くらいの慇懃無礼な命令です。これをムリヤリ生かしたとしたら、うわあなんて素敵な雰囲気なんだ、風のささやきがメロディーになって聴こえるよね、聴こえるだろ、なあ聴こえるんだよな!よしそうだワンダフルだ、だからお前は〇〇することになさったんだよな?してくれるんだよな?早くしろよとかそういう恐怖の世界になってしまいます。たぶんですが、玉置さんのデモテープで、ここにあたる箇所がwillに近い発音で歌われていて、それがすごくしっくり来たんで並河さんもWillとそのままに近い形で採用したんじゃないか……歌い出しがいきなり助動詞なんて普通に考えたら思いつくわけがないので、おそらくそんな事情があったんじゃないかと愚考いたします。
曲は間奏、なにやら笛の音が……リコーダーじゃないですかね?当時リコーダーを首に下げて、間奏を自分で吹くというビックリアイドルがいていまでもその映像を覚えているんですが(名前は忘れた)、当時中学生くらいだったわたくし、テレビとかに出てくるミュージシャンはみんな学校の音楽室にはない楽器を使うものだと思っていましたから、リコーダーの音には驚いたものです。歌メロとはぜんぜん違う旋律を描き、曲はふたたびBメロに流れていきます。
消えない夢のときめき、これは、かなり穿った見方をすれば並河さんからみた玉置さんなのかもしれません。安全地帯が休止し、シングル連発、俳優活動ガツガツの玉置さんは、まるでわざと全力で空回りしているようにさえ見えます。松井さんもいます。星さんもいます。BAnaNAもいます。実際この三人だけいればできる音楽も安全地帯時代からやっていました。でも同時に安全地帯でなければ、あのメンバーたちと一緒でなければダメなんだ!とどこかで分かっていたんじゃないかと思えてきます。奔放すぎて嫁さん子どもから愛想をつかされた旦那さんが、それでも嫁さん子どものいる家庭がなければ心の底から安心して遊べず、「子供のような笑顔」を取り戻したい一心で全力で遊びまわろうとしているかのような暴走ぶりです。これは家族からすればたまったものじゃありません。だから安全地帯だって身動きが取れなくなったんじゃないかとさえ思われてくるのです。この時期の玉置さんはギラギラでした。曲も出すしドラマも出ます。でもどの現場に行ってもメンバーはいません。だから一人で五人分輝こうとしているんじゃないかってくらい光っています。押しも押されぬ大スターです。でも後にわかることですが、玉置さんはべつにテレビのスター歌手になりたかったわけじゃないんです。ですから、ひとことでいえば迷走していたんです。
そんなどこに向かって走っているのかわからない玉置さん、傍から見ればまあ落ち着けよって感じです。まさか並河さん、ここまで見抜いていてWill youなどというほとんど命令文(しかも中身を省略してぼかしてますが、メンバーに頭を下げて安全地帯にお戻りになるんだよな?が示唆されるという)の歌詞を書いたのでは……それだと中身がないだとといって失礼しましたあああ!……などと、ありそうもない妄想を抜きにしますと、歌詞カードに印刷されている、少年が草原を駆け回る情景を思い浮かべさせられる歌です。これは玉置さん・松井さんの作品(「…ふたり…」「パレードがやってくる」など)以外にあまり例がないテーマかもしれません。これを玉置さんが色っぽさを廃したさわやかボイスで歌うんですから、玉置ソングとしてのアイデンティティは保たれているともいえなくもありません。
ですがまあ、客観的にはけっして超名曲ってわけではないし、有名曲でもありません。言いかたが悪ければあっさりしていてホッとする曲、にすぎないのです。ただ、この「Will......」、Badfingerの"I Miss You"や"Day After Day"を不思議に思いだす曲です。構成とかアレンジの考え方が似ているのかもしれません。うっかりそれだけで名曲だと思えて来てしまうんですが、よくよく考えたらそれはBadfingerの力であるような気もします(笑)。Badfingerの悲劇を知り、そして安全地帯の歩みを知るわたくし、この時期の玉置ソロは、安全地帯を休まざるを得なかった玉置さんによる『涙の旅路』であるように思えてならないのです。
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『涙の旅路 BADFINGER』はアップルレコードを(かなりのゴタゴタの末に)傷つき離れ、ワーナーに移籍したBadfingerが1974年に送り出したアルバムである。バンド名をタイトルにするという心機一転を図った渾身の作品であったが、英米チャートの反応は冷ややかなものであった。皮肉なことに当時バンドは音楽的に円熟期・絶頂期に達しており、本ブログ管理人のような偏執狂的なファンによって最高傑作もしくはそれに並ぶ作品として評価されている。なおこの後バンドは坂を転げ落ちるように崩壊・分裂してゆく。2022年現在、安全地帯がそうならなさそうで本当によかったと本ブログ管理人は胸をなでおろしている。ただしBadfingerは2022年現在も唯一の生存メンバーであるジョーイ・モーランドが活動を続けているため、あのストーンズ(1962-)をも上回るビックリの長寿バンドである(1961-)ともいえよう。60年以上もバンドやってるって一体……
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