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玉置浩二『ニセモノ』六曲目、「懺悔」です。
いきなりのオルガンチックな音!こりゃパープルじゃないですか。「Lazy」みたいなやつ!玉置さんとハードロックが結びつかなくなって久しいですが、もともと安全地帯はハードロックバンドであって、そこここにツェッペリンやパープルの要素を見いだすことができます。ドゥービーやらイーグルスやらポリスやらと、ウェストコーストやニューウェイブの影響があると指摘されることはしばしば散見されるのですが、もともとの根や幹にオールドでスタンダードなハードロックがあってこそのあのサウンドなんだとわたくしは考えています。で、玉置さんソロのアルバムにも、なにより安全地帯で作るつもりだったことのアルバムにその要素が見られたとしてもさして驚くことではないでしょう。
それで、なにやらブルージーなギター(ここですでにパープルとはちがう)、玉置さんの「ポッピー」とか「ぱっぴー」みたいな声が聴こえてきまして、ブリティッシュハードロックの世界からどんどん玉置ワールドへと色を変えてゆきます。ドン・ド・ドンドン・ドンドン……ドン・ド・ドンドン・ドンドン……エスニックなリズムのギターリフとパーカションが入り、もうこのへんでは玉置色90パーセントくらいに。玉置さんの曲はその美麗なメロディーでしばしば人気になるんですが、わたくし玉置さんの一番の特徴はこのリズム感覚なんだと思っています。キュイーン!タンラーとギターが何本も重なり、ゆっくりゆっくりテンションが上がっていきます。
おもむろにボーカル「救われたい」って六つもの母音を含む日本語を一気に!やはり玉置さんの日本語感覚とリズム感はどうかしています。これは歌詞を作詞家に任せていてはとても表現できないんじゃないかと思われる感性です。「勇気を出して!」と高音のコーラスを入れるのは煽っているんだか励ましているんだかわかりませんが(笑)、こういうのがたまんないんですよ、玉置さんの感覚は。
わたしたちは色々「鎧」をまとっています。それは当然のことで、いきなり無防備に心を許すと大抵ろくな目に遭いません。わたしたちは一人ひとり感覚が異なっていて、それなのに互いに似てるからです。中途半端に似てないし中途半端に似ています。もちろん、熱湯を冷たいと感じるとか闇を明るく感じるとかほどの違いをもった人はごくごく少ないですが、だからこそ油断なりません。熱湯を浴びてギャアアアつめてえ!凍え死ぬ!神はわれらを見放した―(八甲田山)とかやってるとドン引きされることは必至です。まさかそこまで違わないだろうと思っているからです。
懺悔します。わたくし、何かというと「固定観念(ステレオタイプ)」とか「二元論」とか不意打ちのように言ってきて機先を制しようとする人とはぜひとも遥かなる距離を確保していきたいと考えるタイプの人間です(笑)。ですから、いわゆる「通常」の感覚とか発想とかいうものをそれなりに尊重しています。熱湯は熱いだろう、ドリフは面白いだろう、「悲しみにさよなら」はいい歌だろう、一人は寂しいだろう……それに共感できることはうれしいですし、共感をわざわざ裏切ろうとされるといやな気分になります。だから、「鎧」をはぎ取った自分の特異性を無防備にさらしたりしませんし、相手にもそれを期待します。だって困るもん(笑)。でも多少困ってもいいから自分の特異性を理解しておいてほしいと願ったり、別段願ってはいないんだけども理解しておいてもらわないと後々困るなあと思って渋々鎧を下ろすことがないではありません。もしかしたらわたしは熱湯で凍えてしまう人かもしれず、それを知らない人にウッカリお湯神楽でも勧められることがあっては一大事だからです。それで、「救われる」というのはまさにその一大事です。もう、相手にすべて晒して「すがる」しかありません。もちろん相手が「救う」能力のある相手である場合だけ救われるかもしれない、というだけですけど。神は確かに救う能力がある(ことになっている)わけですが、人間はあまりに罪深いうえに神はそれも重々承知ですので、救われるとなったら「鎧」なんて着けてる場合じゃありません。
そして二回目のAメロに入るまえの短い間奏、「カシャ!」って音が何回か右チャンネルに入ってますよね。わたくし、これが噂の爪楊枝を入れたキットカットの箱、じゃないかなと思うんですが……真相はわかりません。
そしてズム!ズム!とベースが加わりましてAメロ二回目、今度は「取り憑かれたいなら」です。なんでしょう、悪霊とかでしょうか。爪に書いてある呪文って、耳なし芳一のお経のように悪霊避けではなくて、取り憑かれたいんだから、悪魔の呪文とかですよね。それを「そっとしる」して横たわっているわけです。悪魔との契約です。なんだ、さっきの「救われたい」と逆のことやってますよ。これじゃ怒られるだけじゃないですか。これは発想の転換が必要となります……つまり、救われることが悪魔との契約であると考えるか、堕ちてゆくことが救いであると考えるかのいずれかになります。これはどっちでも意味が通るような気がしますが……わたくし後者の方が好きですね。娯楽の快感なり性的な快感なり美食の快感なり、なんらかの快感に身を任せて堕ちるとことまで堕ちる……それによって抑圧されていた魂が救われる、というストーリーはわたしにとって魅力的なのです。あ、わたくし鎧を脱いじゃいました!ドン引きしないでえー(笑)。もちろんこの逆もあり得るのであって、さんざん放蕩を重ねて「神に救いを求めるようになったら終わりだ」なんて言っていた者が、良心の呵責に耐えきれなくなっていきなりストイックな生活を送り始めるような……うん、こういうのあんま好きじゃないな。
非常にメロディアスで耳に残るサビ、「ダメになっちゃえ」、「んダメんなー」まで一気に言って「ちゃえー」を添えます。メロディーもさることながら、この絶妙のリズム感覚と言葉選びの妙が、わたしを虜にするのです。あの『JUNK LAND』ですらまだぎこちなかったと思えるほどの、リズムとメロディーと言葉の一体感が、脊髄にビンビンと響きます。もうこのアルバムも中盤ですが、このあたりまで聴いてようやくこのアルバムの完成度に気がついてきます。結果的に、この『ニセモノ』はわたしにとって安全地帯を超えたのではないか(もちろん『太陽』までの安全地帯)と感じさせられた初の玉置ソロアルバムだったのです。
ダメになってしまえ、「鎧」は捨て無防備に、快感に身を任せ、思う存分やりきってしまえ、それで思わずサマになってしまって、一時的な放蕩のつもりだったのに今後も続けることになりそうだったら……「こんなはずじゃなかった」とニヤリと笑っていればいいんです。うむ、これは、玉置さん自身のことなんじゃないかと思えてきます。通常、音楽を仕事にしようなんて、思ってもやりませんよ。それなのに玉置さんは高校をやめて音楽に一直線でここまできてしまいました。初期は「鎧」を付けて売れセンロック・ポップスをやっていましたけども、どんどん自分の地を出して来ました……だから玉置さんの「懺悔」であって、みなさんのそれぞれの人生における「懺悔」として共感できる可能性もあるものとなっているわけです。さらにいうとそれを作品とするんだからすごい話です。
そして間奏、この「チンチン」って音は……これがウワサのワイングラス?さっきのキットカットもそうなんですが、まったくわたしには確かめようがありませんので話半分に。『幸せになるために生まれてきたんだから』や三万字インタビュー以外にはとくにソースがなく(だからぜんぶ志田さん経由)、どの曲のどこに用いられているという話はぜんぜん見あたりませんので、一つの説としてここに記しておこうと思います。
曲は二番に。「イカれちゃったら」……これは難しい。先ほどの救われた者が、誰かを好きになるってことなんじゃないかと思います。「おれ、あの娘にすっかりイカれちゃったよ」の「イカれる」であって、この機械いかれた(壊れた)ではないでしょう。目隠ししてから「ぼかし」を剥がしてやって(つまり、タイミングを見計らって一気に正体を明かす)、こっちからねだる(こっちの世界に来てよ!)わけですから。
それで、ここからサビに入るんですが、その直前に「ジャリン!」と異様にいい音のアコギストロークがあります。なんという鈴鳴り!このギターほしい!とストローク一発で思わされるくらいいい音です。
「ダメになっちゃえ!」これは、連れてきた「イカれ」ちゃった相手のことでしょう。きっと連れてこられてビックリ、おおよそ人間の理性というものが感じられないくらい荒んでいる可能性がある場所です。「なにここ!あんた恥ずかしくないの?」と思いつつ興味津々、「クズになったら恥ずかしくもないよ」(だからさらけ出しちゃえ!)と悪魔のささやき!
もう一度「ダメになっちゃえ!」そんなこともできないで、この先ずっとそうやって生きてくつもりかい?なんの人生なのさ、何かからこぼれ落ちることが怖くて、自分の感覚に蓋をして死ぬまでそうしているつもりかい?そんなんじゃ「何にもできないよ」「どうにもならないよ」「誰にも言えないよ」とコードを持ち上げて行っていったんブレイクします。
イントロのドン・ド・ドンドン・ドンドン……に高音のギターを時折キュイーンと混ぜ、玉置さんがもうほとんど裏声でコーラスも重ねて、それまでとは全く違った調子で歌い始めます。「夢のカギ」を探しに行こう……これは堕ちないと探せない、探せないどころか存在すら忘れていたようなものなのでしょう。この歌には、「夢」が鎧をまとうことによって忘れてしまっていたものであるという、「ダメ」側にあるものという前提があるように思われます。そりゃそうです。仲間と腹の探り合いをしながら夢なんて追えるわけがありません。うまいこと利用されて途中で裏切られるのがオチです。だから、本当にやりたいこと、ほしいものの前では当然バカになるべきなんですが……なかなかできませんよねえ。だから、この「懺悔」はその独独のリズムで、玉置さんのもの凄い声で、この上なく沁みてくるんだと思います。
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でいきましょうかね!案外悪くないやって意味ですもんね。気に入ってすらいます。これは楽しい。おっしゃるように飄々としてチャーミングです。ジョージ秋山の浮浪雲みたいです。
こんなはずじゃなかった…
と言えばいい
なんともいえない、飄々さと、チャーミングさと、かわいいおじさんの哀愁を感じます。
口癖にしようかな…
こんなはずじゃなかったんだんだけどね…。
(笑)