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玉置浩二『GRAND LOVE』五曲目「GRAND LOVE」、アルバムのタイトルナンバーです。アルバムのタイトルナンバーがシングルでないのはいつものことなんですが、玉置さんの場合、シングルになった曲が一番ポップだとかコマーシャルだとかそういうことはなく、担当が分かれている感じです。コマーシャル担当のシングル、テーマ象徴担当のタイトルナンバー、これは出来がいいとか悪いとかでなく単に別々のことをしているわけです。もちろんメジャーレーベルと契約しているミュージシャンなんですからある程度売れないと困るでしょうけども、たぶん玉置さんはもうそういう心配あまりしてなさそうですし、当時もあんまりしてなかったんだと思います。わたくし玉置さんでないですから想像するしかないんですけど、一般的にというか、誰だってそういう心配しながら生きるってつまらないじゃないですか。沈むときは沈むんだから自分が信じたようにやるしかないんです。いざ沈むときに信じたようにやれてなかったと後悔しながら沈むなんてまっぴらゴメンです。
さてこの曲「GRAND LOVE」大いなる愛、壮大なる愛、遥かなる愛、地球の終わる日でもふたりで手を握り合って……的なハリウッドストーリーが語られるのかと一瞬心配しましたが、もちろんそんなことはなく「いつものカフェ」なんて癒し系な話でひと安心です。愛の偉大さ、壮大さはストーリーの派手さとは違うものであって、崖から落ちそうになっている君の手を腕がちぎれたって離すもんか的な想像しやすさによってのみ演出されるものではないわけです。玉置さんはそんな世相とはパーフェクトに無縁といっていい我が道を突っ走っていたといえるでしょう。いつものカフェにも大いなる愛はある、むしろ日常の風景の中にこそないとおかしい、くらいの思い切りでこの詞世界を描いたわけです。「足りないもの」は、実は足りています。不要だからです。冬の北大西洋に沈む豪華客船のデッキだろうが、地球に衝突する小惑星の上だろうが、いつものカフェだろうが、一定の空間であることには変わりませんので、どれかひとつの空間を特別扱いする理由はありません。それは「ウチら最強!」とかイキリまくってた90年代の若い人たちが自分でそう思っていただけでぜんぜん最強でなかったのと似ています。
ギター一本の弾き語りで始まるこの歌ですが、このギター何でしょうね?トーン的にはエレキなんですが、やけに箱鳴り的な残響をもち、さらに指で弾いたようなタッチで聴こえます。これは玉置さんがよく使っている薄いボディのエレガットかなと思うんですが、確証は持てません。はっきりしていることは、このアレンジに「足りないもの」はなく、玉置さんのボーカルとこのギターによって満ち足りているということなのです。なにせ、この記事を書くために聴き直して、歌が終わるまでギターしか伴奏がなかったことに気がついたくらいですから(笑)。いやすみません、これまで不真面目に聴いていたんじゃなくて、マジで気づかないまま四半世紀も経ってしまったのです。
良かったら、ゆっくりしてて、あったまったら、笑っておどけて……と、促音を駆使したというか玉置さん自身のリズムがここに促音を要求したからそういう詞を書いたのでしょうけども、絶妙のリズム感覚で歌とギターは続きます。
そして「あれこれと〜」と曲が展開します。ここ、曲の中に一回しかないメロディーなんですが、あまりに強烈すぎてこの曲のみならずアルバム全体を象徴するレベルで脳髄に叩き込まれます。伴奏がギターだけなのはすっかり認識し損ねていましたが。思いますに、このメロディー自体は別に奇異でもないし超絶メロディアスってわけでもないのです。ただ、Aメロとの対比によってその存在感が際立っているのだと、現時点では考えています。「良かっ〜たら〜」(タンターンタターン)のリズムと、後半下降するメロディーでゆったり来たのに、「あれこれ〜と〜」と「タタタタンターン」のリズム、そして下降せず複数回上昇するメロディーは下降のタイミングがこれまでより後ろにずれてきます。ひとことでいえば調子を変えた、たったこれだけのことなのですが、一体何がどうしてこんなに脳細胞が活性化するのかよくわからないくらいハッとさせられるのです。「スケジュール」があれほど単調な曲だったのに油断すると頭の中で鳴り響くのと似ています。
そしてゆったりの曲なのにスリリングなリズムで声フィルイン「できるなら〜ふたり」でサビに入ります。このリズムとメロディーの融合、さらにはストーリーテリングまでもが一体になった歌いっぷりはこのアルバムで顕著になった玉置さんの特徴なのですが、これ以上の表現ってあるんですかね……好きとか嫌いとかはもちろんあるんだと思いますが、表現の手法というか芸術の形態というか、歌を主体としたものとしてこれ以上の形は思いつきません。
そして語られるストーリーが「地球を回して」なのです。いや普通に考えればわたしらみんな地球に回されてるんですけども(笑)、そうじゃないんですね。地球だって回りたくて回っているのと違います。わたしらだってその上にいたくているわけじゃありません。ただ、大いなる力によってそうなっているだけであって、それは地球に作用する物理法則(ケプラーの法則)がわたしらに作用する物理法則(運動の法則)と同一のものであるというニュートンが発見し「万有引力の法則」と命名した事実を、さらに玉置さんが愛の法則も同一であると発見した……いやすみません、大いなる愛のことを壮大なスケールで書こうと思ってたら久しぶりに何を書いているのかわからなくなってきました(笑)。愛する二人が回転し地球をも回転させることによって球体マグヌス効果が発生し、「まぁーるく」なればなるほど発生する揚力が上がってゆき二人の愛はさらに高次元のものへと……とかムチャクチャなことを書こうと思っておりました。浮揚していってもらっちゃ困るんです。「いつまでも」「どこまでも」の美しい玉置さんの高音に酔いしれているうちにわたくし頭がバグったようです。
さて曲はブレイクを挟み、Aメロのリプライズになります。「LOVE SONG」の、調号を無視したかのような低音にドキッとさせられていると、ここからいきなりギターにあわせて美しいコーラス、ベース、ピアノによる演奏が入るのです。ちょうど一分、この「GRAND LOVE」のテーマをジャジーに、アドリブっぽく繰り返します。これは前作『JUNK LAND』において「おやすみチャチ」が「太陽さん」のテーマを繰り返すものであったことに似ています。違うのは「おやすみチャチ」が「太陽さん」から独立した曲であったことに対し、この「GRAND LOVE」は合体した一つの曲であることです。これが天才的なんですよね……思いつきませんよ、前作でこうしたから今作もこうしようかとは思いつくとしても、くっつけちゃってアウトロにしようかなんて。この美しいアウトロだけでもひとつの曲として聴くべきというか、驚きましたよ最初のころは。二回目に聴いてようやく理解したくらいです。ああ!これって一つの曲だったのか!まだまだ聴き込みが甘いなあ音の一つひとつが体に沁み込むまで聴かないとな……と思いつつも、時は容赦なく青年を氷河期の悲劇へと引きずり込んでいき、やがてそんな聴き方も難しい時代を迎えることになっていったのでした。
“GRAND LOVE" A LIFE IN MUSIC [ 玉置浩二 ] 価格:3,004円 |
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