『安全地帯III 抱きしめたい』五曲目、「恋の予感」です。
「なんていい曲を書いてしまったんだろう」と、ベストテンだったと思うのですが、テレビ番組で玉置さんが話していました。実際には「ワインレッドの心」の時点で少なくともデモテープはできてしまっていたはずですので、あたかも最近作ったかのように話したのか、それとも作詞、編曲、演奏まで含めての出来を語ったのか、のいずれかですね。
安全地帯のことをだれかと思う存分話せたことがないので、みなさんどのようにお感じになっているかはわからないのですが、
わたくし、シングル曲よりも、その他のアルバム収録曲のほうが好きということが、とてもよくありますもので、「恋の予感」がほかの曲と比べてものすごくいい曲だという感覚はあまりないんです。
ですから、玉置さんが「なんていい曲」と言ったとしても、それを言葉通りには受け取れないんです。ほかの曲もみんないい曲じゃないですか玉置さん、と思うからです。
「いやいやいや、そんな大した曲じゃないんですよ、それなのにみなさんにこんなに喜んでもらえて、驚くやら申し訳ないやらです。それでは、僭越ながら、一段高いところから失礼して演奏させていただきます。メンバー一同、精一杯演奏させていただきますので、みなさまなにとぞ今後も本バンドをよろしくお願い申し上げます」……とかなんとか、ここまで言う人はいないにしても、謙譲の美徳ってやつを多少は見せるのが無難でしょうに、それをあえて見せないところが、玉置さん一流のジョークだったのかもしれません。
さてこの曲、星勝さんによると思われるストリングスアレンジが胸に迫る、いかにも80年代キティ!って感じの切ないバラードになっています。
80年代キティ!の根拠が、来生たかおさんの曲ととても良く似ているストリングスアレンジだから、というだけに過ぎませんけど。
サビの、玉置さんのボーカルは、投手でいうと凄まじいコントロールによる豪速球です。よくぞ叫び声にならずにこんな凄い声が出せるものです。生半可な歌手では、この迫力を出せずに、フェイクを入れた叫び声になってしまうでしょう。このボーカルが、星さんの切ないストリングスをバックに歌われるんですから、そりゃ鳥肌物の曲です。「ワインレッドの心」は、この曲に比べると、だいぶ抑制を利かせて歌っていたのではないかと思われます。「恋の予感」のほうが、ハードロックバンドのパワーバラードっぽいボーカルになっていますね。
同時にこの曲は、安全地帯にとって、ギターロック路線でない、初めてのシングルであり、かつ初めてのヒット曲といっていいかもしれません。
基調となる伴奏は、当たり前ですがドラムとベースなんですけど、ふだんは変幻自在のツインギターが務める部分をピアノとストリングス音色のシンセサイザーが務めています。ギターはと言えば、武沢さんのギターシンセと思しき音色で前奏のテーマメロディーを奏で、歌の最中にアオリをクリーントーンで軽く入れているという、「あなたに」と似たアレンジ方針になっています。「あなたに」ではギターソロがありましたが、この「恋の予感」ではフルートらしき音色で間奏が行われています。
たったいま「あなたに」と似た、と書きましたが、「あなたに」はあくまでアルバム収録曲でした。それに対して、この曲はシングル曲です。露出が違います。テレビに出ることをなんとも感じず、ただの仕事の一部だと割り切っているのならいざ知らず、そうでなければ、だいぶ思い切ったのではないでしょうか。もちろん、彼らが、俺たちはギターロックのバンドなんだ、と思っていればの話なんですけど。
さて、井上陽水さんに提供された歌詞は、のちの「夏の終わりのハーモニー」を除けば、この詞で終わりになります。松井さんが、うまく書けなくて、陽水さんの詞を見てシンプルさに驚いた、勉強になったという意味のことを語っています(志田歩『幸せになるために生まれてきたんだから』より)。
きれいになりたい気持ち、好きだといえない気持ち、それに、なぜ?と聞いてしまう、色男のささやくような歌声
なぜ?と聞かれて千々に乱れる心を表現するかのような、嵐のようにかけぬける激しい歌、切ないことば
なんて完璧なんだ!よく考え付きますね、こんなこと。玉置さんが歌うとこの曲の、いい意味での破壊力がとてつもなく上がるとことを、完全に計算に入れています。『9.5カラット』に、陽水さん自身が歌ったバージョンが収められていますが、そっちはただのいい曲です(笑)。玉置さんが歌うからこそ、の威力があるわけです。
わたくし、井上陽水さんの声はフレディー・マーキュリーより凄い、歌は美空ひばりさんなみにうまいと勝手に思っていますが、それでもこの曲に関しては、完全に玉置さんのほうが上です。もちろん、陽水さんの曲を玉置さんが歌っても、ただうまいだけになるケースが多々あるでしょう。これはもう、曲と歌い手のマッチングとしかいいようがありません。
「なんていい曲を書いてしまったんだろう」という玉置さんのことばには、歌謡曲の仲間に入ってしまうんだ……という軽い後悔のようなものが含まれていたのかもしれません。ワインレッドの心は曲がりなりにもギターロックでした。その後のシングルもみな見事なツインギターが聴けるものでした。しかし、この曲は違います。それなのに、売れそうな雰囲気がプンプンするバラードです。「なんていい曲(売れそうなという意味で)を書いてしまったんだろう」、この道をこのまま進んでしまっていいのだろうか?……という迷いが、この言葉には込められていたのかもしれません。
価格:1,545円 |
陽水さんの「ワインレッドの心」「恋の予感」は、もちろんステキなんですが……好みの差では説明のつかない何かがありそうです。『9.5カラット』というアルバムなんですが、いまにいたるまでCDで買いなおしていません。こう書いたら、買いなおしたくなってきましたけども(笑)、なんか、あの頃のままにしまっておきたい気持ちがあるのです。
観覧車があるライブは『ONE NIGHT THEATER』といいます。とてもいいDVDですよ。わたくしVHSでしたけど、DVDも買いました。へたするとブルーレイも買います。ああ……(どこまでも堕ちてゆく感じ)。
ワインレッドの心や、恋の予感で
売れてしまって、本来やりたかったモノとは
ちょっと違ってました的な話を知りました。
確かに1枚目のアルバムと2枚目のアルバムは、
ビジュアルも含めてかなりの差がありますねー。
でも、どっちも好きです。
きっと、ワインレッドの心で売れなければ
後の安全地帯も玉置浩二さんもなかったような気も
します。
いい曲ですもん、全部。
井上陽水さんバージョンも聴いてみたけれど
そちらは、ちょっと甘すぎる感じがして、
聴いていて、(歌で語りかけている女性を)
放っておいたれや〜!と言いたくなります。
やっぱり玉置さんの声のほうが、自分にははまりました。
今の玉置さんの低めの声も、いいですね。
Youtubeでパラパラとお見受けする観覧車のある
お若いころのライブのDVD、欲しくなりました。
お人柄も無邪気で剽軽そう、人好きされたようですし、
男女限らず好かれたんですね、きっと。
興味深いです。