2022年05月01日
正義の味方
玉置浩二『LOVE SONG BLUE』一曲目、「正義の味方」です。味方と書いてヒーローと読ませます。
新生玉置さんの歌う世界第一曲、これでもかと「ガンバッテ」連呼、玉置さんの歌に限らずこれまでそんなストレートな応援歌は聴いたことがありませんでしたし、今もありません。これは頑張らざるをえません!「ガンバッテ」という言葉を連呼するという、ありそうでなかった鼓舞ソング、いきなりニッチなスポットに着弾させてきます。
余談ですが、玉置さんの「ガンバッテ」に遅れること五年、1999年にIce Cubeさんが”You Can Do It”という歌をリリースして、全米35位を記録していたようです。ほほう、アメリカ人も20世紀末にやっとこの手法に気づいたか、どれどれお手並み拝見とか思いながら聴いてみるとぜんぜん励ます歌でありませんでした(笑)。ジャケットを見た瞬間にお前励ます気ないだろとは思いましたが、案の定励ます歌では全くなく、やはりストレートに頑張れという歌はなかなかないらしいと思わされました。
さて曲はツインギターの刻みで始まり、玉置さんのシャウトとともににぎやかなホーン、ドラム、ベースが奏でられて軽快にそして重厚に始まります。クレジットにホーンはありませんので、これはシンセなのでしょう。湊さんの切れ味抜群ドラムにほれぼれしつつ、大きくミックスされたベース、これまでに安全地帯・玉置ソロになかったチューブスクリーマー系のギター、高音でスライドするピアノに耳を傾け、パワフルで新しい時代を感じます。
ブシュー!ブシュー!とコンプ感の強いシンバル音とスタン!スタン!と切り刻むようなドラム、ピアノとシンセが併存、ギターが二本でどっちも刻み系、ベースもルート音を基調にときおり高音部を連打というこのスタイルはまことにパワフルで、安全地帯にはなかったストレートさでゴリゴリと前進します。玉置さんどうかしちゃったんですか!と心配になるくらい、『カリント工場の煙突の上に』の深刻さは吹っ飛んでいます。さらに、『All I Do』のオシャレさもまったくありません。『あこがれ』?なにそれ?ってくらい実直で、素直で、ただ一点をみつめて笑顔でひたすら走るような玉置ニューワールドの登場を象徴する見事な一曲目です。
歌に入りまして、のっけから「太陽が笑っているよ」?な、なんという飾り気のないことばだ!驚愕です。玉置さんはもっと含蓄のある……恋愛に絡めないではおけない意味深なことばを色気のある声で歌う人なんですが……いや、これは何かの比喩なのか?隠喩か?……なぜあのとき僕は引き金を引いてしまったのかと問われてもそれはただ、太陽が暑かったからとしか答えられないのだ……的なアルベール・カミュのような不条理な肉体の衝動を恋愛に転用するのか?……なんと高度な!とか思っていたら、ほんとうにただ太陽が笑っているよ!だから元気出して!ガンバッテ!と歌っていたようです(笑)。いや、当時は本当に疑いました。そしてその疑いが空転したとわかり、オーディオの前でひっくり返らんばかりに驚きました。
90年代はストレートな、言っては悪いですが陳腐な歌詞とただ工夫の足りないだけのサウンドにおそまつな歌唱の歌が街にあふれていましたので、玉置さんもそっちの世界に行ってしまうのか?同じ土俵に上がるのか?と一瞬思いましたが、それもどうやら違っていました。ベタッとしておらず、サラッともしておらず、そんな化繊で作り出したようなわざとらしい「ナントカ感」とは全く次元の異なった、ホンモノの肌触りがそこにはあったのです。80年代における安全地帯のサウンドが他とは一線を画した80年代らしさであったのに対して、90年代にも玉置さんは90年代らしいのに90年代の他「アーティスト」とも一線を画す新しいサウンドを作り上げて私たちの前に帰って来てくれたわけです。その点、『あこがれ』と『カリント工場の煙突の上に』は80年代とか90年代とかを完全に超越してましたので(笑)、まさに「帰ってきた」感覚があったのです。
玉置さんの曲によくあるというか、もはやこれが玉置さんの真骨頂、短いAメロからなめらかに続くBメロ、「昔よくみた正義」が「愛を助けに」ゆくという、まことに混乱するメインテーマを歌います。正義ってのは悪をやっつけて弱い人を助けるものなのに、なにいきなり愛を助けに行ってるの?やはり玉置さん、一筋縄ではいきません(笑)。
サビに入りまして、ズシズシと響くリズム隊、シンセが大きくミックスされていて聴こえにくいギター、ピアノも合間にその存在感を感じさせます。最近はアナライザー使って位置と周波数ずらしでスキマつくってキックの音をトリガーにベースの音をコンプで引っ込めて……とかなんとか自称プロのエンジニアが煩わしくておちおち音源も発表してられないんですが、いいんだよ混ざっちゃって!分厚くていいんだよ!場合によるんだよ!90年代の機材でやってた俺にそんなこというな疲れるだろ、イコライザーなんてMTR付属の3バンドでいいんだよエキサイターだってラックしかなかったのにそんな重いものいちいち運んでられっか(笑)と強く思わされます。
「ガンバッテ……ガンバッテ……」とささやくような、それでいて力強い連呼、合間にシャウトのように伸びやかな「誰よりも……輝いて……」うーむ強い!なんだかわからないけど!その謎は二番以降でなんとなく解明されてゆきます。
サビから一気に二番に入ります。「世界中が闘っている」?それは正義の味方も大忙しです。よくよく読んでいくと、怪人とか戦闘員はどこにもいないことがわかります(笑)。どうも、「愛」こそが「正義」であって、「味方」はその「愛」がピンチに陥ったときに勇気を出してそれを修復しようとする、わたしたち自身のことのようです。
だから二回目のサビが終わった後、いわゆる「大サビ」的な箇所で「優しさと勇気」をみせてほしいと玉置さんは歌うのです。「正しい愛」、愛は正しくここにある、だからその正しさを守るんだ、勇気をもって優しさを示すんだ!とわたしたちを強く励ましてくれている……なんてこった、これは神への信仰にも似た見返りのない慈愛ではないか!そう、愛に見返りなどないのです。愛は利益があるから行うものではなく、それが正しいから行うのです。オーケー愛は正しいよな、それはわかった、だから、どうした?という無信仰者にはもちろん効きませんが(笑)、信じるもの、正しさのわかるものには「味方」が力をかしてくれるのです。まあ、励ますだけといや励ますだけですが、「ガンバッテ……ガンバッテ……」は、そんな敬虔な祈りなのです。
曲は最後のサビに入っていきます。そういや間奏なかったような気がします。一気に聴かせるパワーで聴き逃したかもしれませんが。そのかわりアウトロが長めに、鈴木さんの音と思しきスーパーいい音のギターソロが入ります。そうそう、ミックスってこうやるんだよ(笑)。「ガンバッテ……ガンバッテ……」の祈りも最高潮、そして突如演奏はキメとともに終わり、玉置さんの「ガンバッテ……」と最後の祈りが捧げられつつフェーダーが下がっていきます。うーむいきなり宗教的な境地まで高められてしまった!にぎやか時代の安全地帯サウンドでなく、凡百の90年代サウンドでなく、単純な応援歌でなく……と、玉置さんニューワールドの位置づけを考察しているうちに一曲目でなんだか崇高なものをキャッチしてしまいました。大丈夫か二曲目以降!
【追記】この記事が最新だったタイミングで鈴木さんがTC楽器にいらした(YouTUBEにリンク)とのこと。ちょっとタイムリーな話でビックリしました。
この曲はライブDVD/CD『最高でしょ』の一曲目でもあります。このライブ音源、いいですよ!田中さんに六土さん、安藤さんもキーボードで参加していて安心感安定感バッチリなのはもちろん、とりわけコーラスの奥土居美可さんが抜群にいいです。玉置さんがボーカルだからこれで済んでいるだけで、他のボーカリストだったらあっさり食われてしまうでしょう。どう聴いてもサポートやってないでステージの真ん中に立つべき人なんですが……控えめな人なんですかね、サディスティックミカバンドとかにしれっと入って歌っても歓迎されるんじゃないのってくらいなのに(笑)。
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でもまあ、マジな話をしておきますと、会場が安全地帯でよくみる武道館とかでなくて、ふつうのホールなんですよ。これは名古屋だったかな?ここのホール、近さと音のバランスが良くてオススメなんです。ご参考までに。
おすすめとのことで、やっぱり買おうかな(^-^)