2022年11月25日
『T』
玉置浩二初のライブアルバム『T』です。
安全地帯六曲、『あこがれ』から二曲、『カリント工場の煙突の上に』から一曲、『LOVE SONG BLUE』から四曲、アルバム収録のなかったシングルから一曲、全十四曲です。1995年7月17、18日、いまはなき東京厚生年金会館収録、前アルバム時のツアーからの音源です。
なお、同18日の様子はDVD『玉置浩二"LIVE"最高でしょ?』として映像化されています。曲目はだいたい重複していますが、DVDのみの収録が「いい顔で」「I'm Dandy」「プルシアンブルーの肖像」「最高でしょ?」「愛してるよ」「どーだい」「夏の終りのハーモニー」の七曲、CDのみの曲が「コール」一曲になります。
『LOVE SONG BLUE』のときにだいぶ語ってしまいましたが、一部重複を覚悟でメンバーに言及しますと、ベース六土さん、ドラムに田中さんが参加、そしてのちのパートナー安藤さんがキーボード、しばしば安全地帯や玉置さんのソロ作品に参加される飛鳥ストリングス(金子飛鳥グループ)、ギターに鈴木茂さん、コーラスに奥土居美可(美香名義)さん、ピアノに倉田信夫さん、サックスに古村敏比古さんが参加されています。
わたしの馴染みのある楽器がどうしても耳に入りやすいもので、彼らの素晴らしいプレイもちゃんとは味わえてないんだとは思いますが、非常にいいライブです。鈴木さんのスーパーナイスなギター(こんな音でライブやってみたい!やればいいじゃんと思うかもわからないですが、この音はダメなんですよ、ヘボがやるとただの丸い音です)、古村さんの恐ろしくよく通るソウルフルなサックス、そしてわたくしイチオシ!奥土居さんのコーラス、彼女の歌が聴けるのはわたしがもっている音源ではこれだけなのですが、おもにジャズをお歌いになっておられるようですので、何枚か買ってみようかなと思うくらいお気に入りの声です。倉田さんのピアノ、六土さん田中さんのリズム隊は安全地帯時代を彷彿とさせる職人ワザ、前に出てくる人たちの音を引き立ててくれます。そしてもちろん安藤さん……玉置さんの音楽をもっともよく理解し、全体のバランスをとることに腐心されていたように思われます。さすが後の……としかいいようのないキーボードワークです。玉置さんと奥土居さんというスーパーボーカリスト二人に古村さんという異様に音の目立つフロントマン陣、六土さん田中さんという玉置さんのもはやソウルメイトリズム隊、そして異様にナイスな孤高の存在感を放つ鈴木さん倉田さん、こんなメンバーの間で隙間を埋めつつ安全地帯・玉置浩二の音楽を演出するキーボードを弾け、なんてふつうムリですよ。全国の高級和牛肉が乗っているバーベキューコンロの上にあと一つ何かを乗せろ、飯をマズくしたらタダじゃおかないぞ!といわれているようなものです。しかし、よくこんな人たち揃えましたね……この後玉置さんは可能な限り自分自身で音を出して録音してゆく路線を爆走してゆきましたから、こんな豪華なメンバーは後にも先にも……といいつつ、ツアーというツアーで新たに驚くような人を連れてゆくのも玉置さんではあるのですが。
そしてもちろん玉置さん、絶望の時期を乗り越え、ゴキゲンなアルバム『LOVE SONG BLUE』をひっさげてツアー、テレビ出演など積極的にこなしていた時期の、絶好調の玉置さんです。玉置さんのボーカリストとしてのフィジカルが全盛期だったのはこの時期だったのではないかと、わたくし思っております。ハリのある、フェイクの少ない、なめらかでダイナミックな節回しとそれを支える肉体、こればかりはどうしたって若い時のほうが元気です。この時期に安全地帯が活動不能になっていたとはなんという運命のめぐりあわせか……後年の玉置ソロや安全地帯の復活を知っている私たちからみればこれは偶然でも不運でも何でもなく、必然だったのだとわかりますけども、当時は誰も、もちろん玉置さん本人でさえ、そんなこと知らなかったのです。このメンバーで、安全地帯時代からすれば人数は半分くらいですし、この東京厚生年金会館も2000人クラスのホールですけども、それだからこそこのライブ音源は光っています。一万人が息づく武道館とは音の響き、通りが全く違うことが一聴してハッキリわかります。
鈴木さんのギターサウンドで始まるこのライブアルバム、一曲目が終わったあとに大瀧が出てきて「はっぴいえんどです」って言うんじゃないかと一瞬ヒヤッとしますが(笑)、玉置さんのシャウトではっぴいえんどの影は吹っ飛び、鈴木さんのギターもアンサンブルに溶けてゆきます。サビで奥土居さんの透き通った「ガンバッテ」がなんと凛としていることか!この「正義の味方」でこのコンサートは成功を約束されたも同然のサウンドです。
そして「情熱」「キ・ツ・イ」「じれったい」と古めの曲が入ります。安全地帯と違ってギターは鈴木さんだけですしコーラスも奥土居さんだけ(いや六土さんも)ですが、それを感じさせない、いや感じるんですが(笑)。新しい形の演奏を聴かせてくれます。
新曲「ふたりなら」がほぼ安藤さん倉田さんの鍵盤組と玉置さんのアコギ演奏でしっとりと奏でられます。後半でフルバンドになるんですが、アルバムとは明らかに違うこのしっとりアレンジ、いや、これアルバムよりいいと思いますよ!惚れ惚れする倉田さんのピアノがそのまま「あの頃へ」と流れてゆきます。『LOVE SONG BLUE』が寒い冬にリリースされたアルバムだからでしょうか、「あの頃へ」と妙にマッチングしています。安藤さんのシンセ、そして鈴木さんのアルペジオが泣かせに来ます。イヤちょっと待て、安全地帯を越えるな!(笑)と言いたくなるくらい見事な演奏です。安全地帯のアンプラグドツアーを経て、玉置さんもかなりアルバム通りに演奏することへの志向を改めたんじゃないのってくらい、この二曲は卑怯なメンバーで卑怯なアレンジです。
そして「カリント工場の煙突の上に」、田中さんの細かいロール、大音量の鈴木さんギター、六土さんのボッキボキのベース、これもアルバムとは違ったプレイヤーの個性を反映したサウンドに仕上がっています。「レコード通りに」と言ってBAnaNAを怒らせていたほんの数年前の玉置さんはどこへ行ったのか、すっかりクラブチーム型のバンドマネジメント(理想像が先でそれに人が合わせる形でなく、いまいる人が先でその人たちのできることのなかに最適解を求める形)になっています。
つづきまして「ROOTS」「ワインレッドの心」、わたくしこのライブアルバムの中でこれらが一番の聴きものだと思っています。ここまでの曲でわかってきたメンバーのプレイが、いちばん遺憾なく発揮されているように思われるからです。
「悲しみにさよなら」「I Love Youからはじめよう」は安全地帯のヒット曲を連発したものですが、いまいるメンバーでこれらの曲をやってみるとしたらこんな感じかな?という予想にたがわぬ見事な演奏です。これは安全地帯でなく玉置ソロなんだ……と演奏がものがたっていてすこし切なくもなりますが……六土さんのコーラスがあたりまえに安全地帯のときそのものですので、寂しさもひとしおです(笑)。かつての代表曲を演奏するのは、いってみればファンサービスだとは思うのですが、会場にいた多くの人は、これを待っていたんだと思います。期待を裏切らないくらいには安全地帯の演奏を再現していて(というか安全地帯五人中三人がいるんですから当たり前ですが)、コンサートはクライマックスを迎えます。
つづいて「ロマン」、倉田さんのピアノに、飛鳥ストリングスが絡んでゆく、この美しい演奏、玉置さんの歌もなんと激しく切ないことか。つづいて「コール」も玉置さんのアコギのほかはピアノとストリングスです。『あこがれ』のときはリバーブがガンガンかかっていましたけども、これは生の玉置さんに近い歌が聴けます。玉置さんもリバーブお嫌いになっていた時期ありますが、そのとおりリバーブ薄いほうがいいじゃん!と気づかされますね。そしてラスト「世界中の人が仲良く暮らせるように」と歌い始める「星になりたい」、これら三曲は聴くタイミングを間違えると号泣ものの切なさ爆発演奏です。飛鳥ストリングスが大音量でアウトロを奏で、玉置さんの異様に上手な口笛で、このコンサートは終わります。
さて、セットリストというか収録曲は以下の通りです。上に語った通りではありますが、当ブログ記事へのリンクと一緒に掲載いたします。
1.「正義の味方」
2.「情熱」
3.「キ・ツ・イ」
4.「じれったい」
5.「ふたりなら」
6.「あの頃へ」
7.「カリント工場の煙突の上に」
8.「ROOTS」
9.「ワインレッドの心」
10.「悲しみにさよなら」
11.「I Love Youからはじめよう」
12.「ロマン」
13.「コール」
14.「星になりたい」
安全地帯・玉置さんのCD発表がほとんどなかった1995年(『玉置浩二ベスト・ソングス・フォー・ユー』という企画モノと「STAR」だけ)、ポンとこのライブアルバムが出てきました。いままでこんなことはあまりなかったので当時は心配していました。まあ、昨年末にアルバムが出ていたし……でもいつもならそろそろニューアルバム出てもいいよなと思っていたころではあったので、ライブアルバムだけというのはファンとして心配ではあったのです。ですが、聴いてビックリのゴキゲンサウンドでしたし、六土さん田中さんの参加も知ることができましたから、わたしの希望をつなぎとめるには十分の内容でした。
ところで、まったく安全地帯や玉置さんに関係がなく、私事なのですが、この記事を書く直前(2022年11月21日)、Dr.Feelgoodギタリストのウィルコ・ジョンソンが亡くなりました。モトリークルーのアルバム名から知ったDr.Feelgoodでしたが、そのプレイは凄まじく、ある時期のわたしに確実に光を与えてくれました。もし彼がいなければこのブログもなかったことでしょう。ほんとうにありがとうウィルコ、R.I.P.,Wilko……。
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その前にそもそもスタッフワーク覚えないと。音響ばかりです。その音響も、最近はデジタル卓が多くなってきて、おじさんこんなの覚えてられない!わかる機種もあるんですが、大体アサインだけしたらわかるふりしてわかるボタンだけ押して、ヘッドホンかけて腕を組んでます(笑)。マイ卓(バリバリアナログ)をできるだけ持ち込んでコレでやらせてくださいなんですが、そうは行かないハコもあるのです。恐怖です。
今だから話しても大丈夫と思い話しますが、このTのアルバムが出た1995から1996までの1年以上先のスケジュールがビシッと決まっていたそうです、ライヴレコーディングされた7月時点でですよ(笑)
カフェジャパンは1996発売なので、1995のアルバム分がおそらくこのライヴアルバムTなのでしょう。
スゴいですね。それだから田園が世に出る運命だったともいえそうです。以上です。