『安全地帯VII 夢の都』二曲目、「情熱」です。記念すべき20枚目のシングル(10枚目は何だっけ?と調べてみたら「碧い瞳のエリス」でした)にして、アルバムからのシングルカットであり、このアルバム収録曲唯一のシングルとなりました。カップリングは「Seaside Go Go」ですね。
「I Love Youからはじめよう」と同じく、「どーだい」の記事で「どーだいほど好きではないが似た曲」として紹介してしまった曲ですので、非常に気まずい記事執筆になります(笑)。あー、やめときゃよかたなー、あんときは「どーだい」の記事が書けるのがうれしくて、後先考えてなかったんだよなー。「どーだい」がいちアルバム曲であるのに対して、「I Love Youからはじめよう」も「情熱」もシングル曲なのですから、当然知名度だってかなり違うのでして、わたくし、多くの人を微妙に敵に回すようなオロカなマネをしてしまったわけです。ううう。
エレキギターバリバリの、爽快ハードロック、「I Love Youからはじめよう」と同じくキーはG【追記:情熱はB、I LOVE YOUからはじめようはAですね、コメントいただいて気付きました】、ブラス入りのイントロで景気よく始まるところも、「I Love Youからはじめよう」と同じです。これは「I Love Youからはじめよう」ファンなら狂喜できる再来ぶりです。JUDAS PRIESTの「EXCITER」が好きだった人が「PAINKILLER」を聴いたときの感激に近いでしょう(往年のヘビメタファンでないとわからない、説明する気があるのかあやしい喩え!)。
「I Love Youからはじめよう」をなぞるように、「ブシュウー!」とギターのスライド音が入ったかと思ったら一気にブラスがファンファーレのように鳴り響き、ギターは大胆に全音符のパワーコード、ベースも全音符中心で力強くシンプルに押してきます。よーく聴くと、なにかシンセが「キロキロカラコロコロカラ……」と入っているのですが、これはサビにも入ってますね。当時は気になりませんでしたが、五人以外の音をなるべく入れないように作成されたこのアルバムにおいて、どこまで「I Love Youからはじめよう」的なゴージャスさを残すべきか?と悩んだ末のアレンジではなかったかと思うのです。おそらく、ライブでやるならサポートメンバーに弾いてもらうに決まってるんですけど、おそらくレコーディング時はみずから打ち込んだコンピュータ・プログラムの音だったに違いないのです。
80年代安全地帯を知っている当時のリスナーなら、この程度の装飾音がないとガマンできなくなるというか、何か物足りない感じを受けただろうと思います。実際、わたくしは当時、80年代安全地帯のあのゴージャスな布陣でなかったにもかかわらず、最初は不自然さをあまり感じませんでした。徐々に、従来に比べてかなり肉をそぎ落とした骨太なアルバムだったと気がついていくのですが、そういう仕掛けがわたくしにとってショックアブソーバー的に機能していたものと思われます。
曲はロックとしてもっともシンプルな八分の刻みで進められていきます。安全地帯十八番の、裏箔に入れた「ブシュウー!」というギターとドラムの音がアクセントとなり、どこにも迷うところなくただただ前に進んでゆきます。なんというか、迷うところがなさすぎて、拍子抜けな気がするほどスッキリストレートなロックです。今後の安全地帯が、どんなバンドとして進んでゆくのか、世に宣言したのではないかと私には思えます。おれたちはこういう曲をやっていくよ!こういうバンドなんだよ!いままでの安全地帯は何かおかしかったんだよ!……書いていて悲しくなってきました(笑)。もちろん、過去と決別すると安全地帯が宣言したわけではないですから、わたくしの被害妄想なんですけども、この曲のあまりの清々しさが、そう言っているように思えてしまうのです。一回、半年とか静養して人生をよく見つめ直したほうがいいかもしれません、わたくし(笑)。
間奏もギターソロなく、ほぼイントロを繰り返す形になっています。イントロと違うところは、次にAメロが来ずに、いきなりサビに突入するところでしょう。なんと違和感のない!これは軽く裏切られて心地いいです。そしてサビを繰り返し、後奏もまたイントロのほぼ繰り返しとなっています。しかししかし、安全地帯のパターンとして「Tender Youth〜Tender Youth〜」という声が遠くなっていくようなフェイドアウトでなく、「ジャッジャーン!」とキメで一気に終える形になっています。おおーこれはわたしがフェードアウト嫌いなのを差し引いたとしても格好いい!そうそうそうこういうのでいいんだよ、なんて当時はぜんぜん思えませんでしたし、いまだってそんな偉そうなこと言うべきでないんです(言いたいけど!)。「一気に来たねえ〜」とは思わず、この潔い終わり方の爽やかさが終わり方の演出によるものだとも気づかず、ただ浸っていたのでした。
さてこの曲、「I Love Youからはじめよう」がバンド崩壊をくいとめようとする松井さんからメンバーへのラブソングだったという壮大な仮説(ほぼホラ話)をでっち上げたわたくしとしては、再び始動したバンドへの応援歌だと解釈したいところです。
いつか追いかけた夢はもちろんミュージシャンとして成功する夢で、それは叶ってしまった後に一度壊れ、またまぶしい光をもってメンバーを立ち上がらせたわけです。まだはじまったばかりなんだ!と、すでにデビューから八年を経過しているバンドでしたが、結果としてデビューしてから令和三年現在で40年近く続いてますので、ほんとに当時ははじまったばかりだったといってもいいでしょう。でも、当時はバンドというものがそんなに長く続くものだとは誰も思っていませんでしたから、松井さんエスパーか!と思わざるを得ません。
まだまだやれるよな?この五人なら、きっとできるよな?そう胸に問いかけた激しさは、バンド再開とその後の活動により、もうとめられないほどの勢いがあったと実証されました。だって「この道は何処へ」だけ作るはずだったのが、アルバムつくってシングルカット出してツアーまでいってますもんね。サポートメンバーを使わず、どこまでも五人の意思を純粋に反映した活動には、これまでとは違う勢い、従来の、大勢の人間の思惑にどこか引きずられてゆくような不快感を排した、そんな爽快で身軽な五人のエネルギーがあふれていたのでしょう。
しかし松井さんは「Tender Youth」と玉置さんに叫ばせます。プレスリーの「Love Me Tender」なら「やさしく」って訳すでしょうけど、「やさしい若者」じゃ意味が通りませんよね。ここは「こわれやすい」とか「傷つきやすい」とか、そういう意味だと考えるべきでしょう。こわれそうな、傷つきやすい若者たち!そう、松井さんは、安全地帯の結束がどれほど固くとも、一回壊れた過程を誰よりも近くで見ていたのですから、この再集結も盤石のものだとはきっと思えなかったのです。なにかあればこわれてしまうものなんだ……!その脆さゆえの尊さといったら!抱きしめる腕、つたえあう声、これらは、松井さんがメンバーたちに「もっとほしい」と願ったものなのです!
あー、やっぱりわたくし、なんだか自分がおかしいんじゃないのかと思えてきました(笑)。ふつうに若者への応援歌だ、この曲を聴くと元気をもらえるんですよねーとか言っておけばいいじゃないですか、でもできないんですから、困ったものです。真相を知る人からのツッコミ一発で終わる妄想を垂れ流し続けてはや五年目、そろそろエスカレートも限界まで来たのかもしれません。
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