『安全地帯VII 夢の都』八曲目、「プラトニック>DANCE」です。
まず、なんて読むのかわからないですよね。当時、ラジオでこの曲をかけるときDJがなんて読んだらいいかわからなくて困る、プラトニック「大なり」ダンスかな?とか言っていたのを思い出します。当時はあまり不思議に思いませんでしたけど、この曲をラジオでかける機会というのがあったんですね。シングル曲でもなかったのに。きっとリスナーからのリクエストなんだとは思いますが……。
さて読み方の分からないこの曲ですが、このアルバムにちりばめられた従来の安全地帯らしからぬハッチャケ系の、真打ちといったところでしょう。正直、当時はわけがわかりませんでした。安全地帯ってこういうのじゃない!もっとこう……そろいの帽子でひとつに広がる空を知っていたとか、涙を集めてきたハンカチに迷路の地図を描くとか……とにかく、そういうやつだよ!と混乱した記憶があります。長渕剛さんが「順子」とかのリリカル路線をすっかり忘れて、忌野清志郎さんかよ!と思うような声で何事かを唸り始めたときにも同じようなことは起こったものと思われますが、アーティストには劇的に変化・進化する瞬間、あるいはあたためてきた本来の輝きを垣間見せる瞬間というものがあります。それについていけなかったからといって、恨み言をいえた筋合いではないことは、いまとなっては重々承知しているのですが、当時はもう身をよじらんばかりに混乱したものです。
この曲の真価をやっとそこそこ理解したのは二年後、安全地帯アコースティックツアーのときでした。雨が降る野外ステージ、透明のテントがかけられ眩しく反射する照明のなか、この曲が放たれたのです。シルクの〜と響き渡る玉置さんのボーカルが腹にズンズンと迫り、アコースティックのギターが、雨がテントに弾かれ水しぶきとなって砕けてゆくのといっしょにキラキラと目と耳を震わせ、六土さん田中さんが遠い市街地まで届くんじゃないかと思われるほどのタイトなリズムを放ち続けます。そこにいる誰もがみるみるまに曲の世界にはまり込み、その心地よさに魂を奪われていきました。雨と照明の幻想的な雰囲気も相まって、ほんとうにエクトプラズムみたいなのが観衆の口からステージ上へと集まって巨大なエネルギーが貯まっているんじゃないかと思いました。そして玉置さんの「東京なんて〜」につづけて「つまらない!」と一気に大爆発です。従来の安全地帯らしくない曲ですから、古参のリスナーからの評価はけっして高くはなかったであろうこの曲ですが、もうすっかりこの曲のトリコです。こんな曲だったのか!いや、何百回何千回と聴いているんだからどんな曲かは知っているつもりだったのです。でも、知らなかったのです……。なんて心地いんだ!なんて楽しいんだ!わたくしここで「いい曲」の新しい形を学んだのでした。
そのツアーは、もっと勝手に恋したり微笑んでさよならしたり坂道を一人で降りてみたい気がしたりはほとんどしないツアーでしたから、リスナーは新しい安全地帯、現在の安全地帯をリアルに味わうことになったのでした。ただガッカリした人も多少はいたことでしょうけども、多くは、新しい安全地帯の魅力に気づかされたのでした。しかし残念ながら、そのツアー終了後、安全地帯は崩壊していきます……。
さてこの曲、前フリに不穏なシンセが左右に流れ、玉置さんの歌と小さくツクツクと刻まれるギター、おそらくパッドで叩かれているポクポクとしたパーカッションという、音数の少ない始まり方をします。「絹」と書いて「シルク」、「天秤」と書いて「バランス」、「桃色」と書いて「ピンク」、「恋愛」と書いて「ロマンス」と読ませる歌詞は「彼女は何かを知っている」を思わせる、松井さんお得意の粋な言葉遊びに満ちています。
そしてサビ前、二小節でベースとドラムが入り、曲をトップギアまでガコンガコンと上げていきます。観衆のエクトプラズムがその濃度を一気に高めたところです。
抱擁なんてはじけない!いきなり意味がよくわかりませんが、抱き合ってもすでに心は燃え上がらないということなのでしょう。なにせ「妄想なんてみたくない」のですから、当ブログの存在意義があやういのはともかくとしても(笑)、思わせぶりな態度でいろいろ考えさせられちゃうのはもう飽き飽きしてるのでしょう。曲全体に、もうちょっとやそっとじゃときめかないオトナの、それでも燃え上がりたいという止むことを知らぬ愛情、ひらたくいえば欲求不満的な感情が満ちています。
東京なんてつまらないのです。東京だろうがどこだろうが、一通りのロマンス的儀式を終え飽きてしまえばつまらないに決まってるんですが、そういうものが薄っぺらに思えてくるころには、都会は薄っぺらい舞台装置ばかりだと思えてしまうのです。だって、仕方ないじゃないですか。そっちのほうが需要あるんだもん(笑)。DANCEひとつで燃え上がり動揺しまくった恋は過去のものなのに、街にはDANCEを楽しむようなところばかり……。
プラトニックのほうが大きい、マシだ、よりよい、価値がある、とは、薄っぺらいDANCEなどしてドギマギする恋愛に疲れ、飽きてしまったオトナの心情なのでしょう。プラトニックとは、もともとは古代ギリシャの哲学者プラトンがいかにも提唱しそうな(してませんけど)、高尚な、という意味なのですが、従来の安全地帯が演出してきたような、色っぽい恋愛の段階を脱したということなのでしょう。……いわれてみれば!このアルバムも終盤に差し掛かってきましたが、まだただの一曲もそういう曲がありません!いや次の曲こそはきっと……「この道は何処へ」、そのあと「夢の都」ですね、終わったー!(笑)。そうです、この曲は、安全地帯が完全に過去の色っぽさ路線を脱したことを宣言する曲でもあったのです。どおりで、ここのところ『安全地帯V』の頃みたいな恋愛妄想を書く機会が減ったなーと思ってたわけです。
そのわりには「破れたDress」とか「桃色の素肌」とか「卑猥な恋愛」とか、かなりきわどいワードがちりばめられているのが興味深いところでもあります。いや、することはするんですよ?(笑)。からだと心のやましいバランスってものがありますから。ただ、そういった瞬間にも、それを一歩、いやもしかしたら二歩も三歩も引いて見ている感覚があって、ハマりきれない、なにかを見過ごしているのではという疑念がぬぐえないのです。
アコースティック・ギターとエレキギターのオーケストレーションとでもいうべき見事な間奏、そしてサビの後さらに同じようなオーケストレーションのアウトロで一分ほどもじっくり聴かせて曲はフェイドアウトしていきます。アコースティック・ライブでは、当然ぜんぶアコースティックギターでしたが、武沢さんの見事な指さばきに見惚れている間に終わってしまい(笑)、違和感を感じる間もなく、当然どんな構成になっていたかを思いだすこともできずといった惨状です。トホホ。DVDにも収録されていますが、たしかにこんな感じだったような気はするけど……といったくらいです。
さて、わかったようなわかってないような解説、というか妄想ですけども(つ・ま・ら・な・い)、一番肝心かもしれないところがまだ謎のままに残されています。「不埒な四文字」は何だったのか?「LOVE」か?「LOVE」なのか?ふつうにはそれしか思いつきませんけども、あんまり不埒(けしからぬこと)じゃないような気がしてなりません。みなさま、なにか不埒な四文字を思いついたら、ぜひこっそりお知らせください!(笑)
【追記】わたくしとんだ無知でした!これはいわゆるfour-letter wordというやつで、排泄や性に関する卑猥なことば、汚いことばは多くが四文字であることから、卑猥なことば、汚い言葉、禁句を意味するのだそうです。うーむ奥深い!でもあんまり思いつきませんねえ、英語のfour-letter word。わたくし育ちがいいのか?やはり無知なのか?
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本当にそうなんですよね。CDももちろんいんですが、会場で聴くとなぜか涙が出てくるほどもの凄いんですよ。陳腐な言いかたになりますが、体全体を震わせてくるんです。人間は悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだというジェームズ=ランゲ説は正しいと、わたくし子どものころから信じておりました、玉置さんのおかげかもわかりません(笑)。
1992年はわたくしまだ実家のお子ちゃまでしたから、派手にコンサートなどいくことは当然できませんでしたのでとても羨ましいです。激動期・転換期、そしてなにより崩壊期です……とても貴重な経験をなさった、目撃をなさったのですね。93年、『あこがれ』を耳にしたわたくし、その美麗な音楽世界に感激しつつもあからさまに何かがおかしいと感じ、「あの頃へ」「ひとりぼっちのエール」でおいおい待てよ!ちゃんとアルバム出るんだろうな!(出なかった)と置いてけぼりの心境で立ち尽くしていました。
プラトニック、夢の都に入ってるのも完成度高いですし、当時JTスーパーサウンドに玉置ソロ、安全地帯よく出てました!私は1992の武道館に友人と観に行きまして、高中正義、カツミのあとにトリで安全地帯は出て来て1時間位のステージ。後にこのプラトニックがTVで夜中に放送されてました。
私は高校から大学へ進んだ時期、バイト代で観たいライヴはチケットぴあでよく買って観に行ってたので、この1992の頃の流れは詳細に語りあうことが出来ると思います。
まず、春先の3月クラブチッタでのアコースティックスペシャルナイト2日連続ライヴが玉置さんの風邪か体調で1ヶ月延期して4月に行われ、6月から9月まで全国ツアー。そのあと、玉置さんはあこがれのレコーディングとドラマの撮影をして、また12月から安全地帯10周年コンサート。
大変に目まぐるしい1年でしたが、私が観ていて気がついたのは、8月中に大宮のステージで玉置さんがMCで「この間首を痛めてしまい武沢のほうをむくことが出来ない」、云々話していたので何かあったのか?ちょっと気になりました。
10周年コンサートが終わると、活動は停止して各々がソロ活動に入り、玉置さんも苦しみながらもソロ活動に入っていったことは本などに載ってる通りです。
JTスーパーサウンドのプラトニックも凄かったですが、この日は玉置さんは会場入りが車の渋滞で5分前位にギリギリ着いたらしく、着くなりそのままステージに向かい間に合ったとのこと。
この日も即興ブルースから入り、「ちょうどいいなぁ〜」ジョンがくれたギター、ナンセンスだらけ、ビッグスターの悲劇、今すぐに恋、好きさ、プラトニック、だったと思います。途中、ギターばかり音が上がってて、歌をもっとください!とやりづらそうな感じでしたが、パワフルな歌に隣のお姉様方は「涙出て来る」と感極まってました。
安全地帯10周年コンサートのプラトニック>ダンスでした。
甲子園お持ちで良かったです!わたくし、うっかりアンプラグドを最初のDVDにオススメするところだったと、肝を冷やしました。甲子園ライブはほんとにいいDVDですよね。毎日車で聴いてます(DVDあるのにCDも買うバカチン)。
確かに…ジャケ写からして上級者向けっぽいです。みんなのクチコミもなんか凄かったですし。
昨年の甲子園のは無事持ってます。しかもこれが初めて見たやつです!!順番的に、すごくいいですね?笑
確かに穏やかで、特にファンじゃなくても誰でも楽しめそうないい感じのライブでした!
ギャップが楽しみです笑笑
四文字は、育ちのよろしくないわたくしにも正直わからないです(笑)。四という縛りで、あんなのやこんなのは当てはまらないし……と逡巡するばかりです。
DVDは、『アンプラグド』っていいます。公式サイト貼っておきますね。Amazonとかだともう少し安いと思います。https://www.universal-music.co.jp/anzen-chitai/products/umbk-1006/
あ、同じツアーの最終日(横浜)が収録されてます。私が行ったのは違う会場(札幌)ですんで、DVDみても雨は降ってません(笑)。
【追記】安全地帯のライブDVDをはじめてお買いになるのであれば、これはかなり特殊というか……衝撃の内容ですのでその点だけご了承を!無難というか、いい感じなのは、昨年リリースの甲子園のやつです。LONELY FARもプラトニック>DANCEも入ってます。
解説ありがとうございます。四文字って何なんですかね!
私は育ちが良いので全く分からなくて残念です笑
これが当時は安全地帯っぽくない歌だったとはすごく興味深い話です。そのライブDVDって、なんていう名前のですか?買いたいです!(*^^*)