『安全地帯VII 夢の都』六曲目、「あの夏を追いかけて」です。
ソースの確認できない話で恐縮なのですが、玉置さんがこの曲は未完成だとおっしゃってたそうなんです。未完成なのにアルバムに収録してしまったのも不思議といえば不思議なんですが、『安全地帯BEST2』にも収録されたんですから、メンバーのお気に入りだったか、もしくは人気が高めでレコード会社がベスト収録をするべきだと判断したかのどちからかでしょう。まあ、曲中、二パターンしかないですからもうひと展開ほしいなと思わせる何かがあったんでしょうね、玉置さんにも。でもしっくりこなくて、このままのほうがいいじゃん!とアルバム収録に踏み切ったものと推察いたします。もし、幻のもうひと展開があったとしたら、それはもう「虹色だった」みたいな、悶絶もののダイナミックさだったことでしょうね。聴きたかったような、聴かずに想像の世界に遊んでいたいというか、痛しかゆしです。
パンパパンパ〜パンパパンパ〜と左右に振られたシンセの音を呼び水に、一気に歌に入ります。これもなんとなく未完成をうかがわせる部分なんですが、なんというか、これ以上料理しようがない気がします。それはわたくしがヘボだからそう思っているだけなのかもわかりませんが、たとえば、ここに間奏で聴けるようなギターソロをいれた前奏をつけたら、一気に「追いかけている」感じがなくなってしまうんじゃないかと思われます。最初から全力疾走で君の夏を追いかけるのです。
最初にいきなりサビ、六土さんのベース八分弾きと田中さんの、ごくごくシンプルなバスドラ一回につきスネア一回の組み合わせで疾走したあと、Aメロというかなんというか、そこではすこしリズムを落ち着かせて緩急をつけます。乱暴な言い方をすれば、この緩と急だけで一曲を組み立てています。ギタリストはクリーンでシャリーンシャリーン、タリリリーンとアルペジオ、そしてアコギのストロークでごくごくシンプルに曲を彩ります。もしかしてこのアコギは玉置さんじゃないかな?矢萩さんでも武沢さんでもアコギの名手ですからふつうに重ね録りという可能性があるんですけども、なんとなく、なるべくバンドで一回で演奏できるような編成で臨んでいたんじゃないかな?と思われるバンドっぽさが曲全体から感じられます。
間奏はギターソロ、残響を響かせ、途中でツインで重ねたように聴こえますね。『Remember to Remember』の「オン・マイ・ウェイ」で聴けたようなオーソドックスなロックのギターソロです。色っぽかったり、誘惑的だったり、切なすぎたりしません(笑)。
そしてサビを何度も繰り返し、前奏で聴けたパンパパンパ〜パンパパンパ〜とともに、曲は終わっていきます。最後は、アコギとパンパパンパ〜だけでかけあいを行い、曲はシャイーンと静かに終わります。決して短いアウトロではありませんが、終始あっさりと、醤油だけでイキのいいサシミを食べたようなスッキリ感を与えます。このたとえ、久しぶりだな(笑)。
と、まあ、あっさりと爽やかに駈けぬけてゆくサマーソング、サザンだTUBEだ日本の夏だ、と思いきや、「Seaside Go Go」で日本の夏を危ぶんだ安全地帯、そうは簡単ではありません。「きみの夏」を追いかけるのですから、いまは君の夏ではないのです。いや、季節は夏なのかもしれませんが、そこは定かではありません。少なくとも「君の」夏ではないから、追いかけるのです。
ははあ、またあれだな、と思った方、正解です(笑)。「君」は玉置さんなのです……妄想もいい加減にしやがれと、わたくし自分でもそう思わなくもないんですが、そのようにしか読めないんです、聴こえないんです。これはマジで何か異常をきたしているのかもしれません。ちょっと心配になりつつ、単なる芸風のひとつだと仮定して話を進めましょう。
玉置さんと松井さんがはじめて直接出会ったのは、『安全地帯II』の作詞依頼のときです。その頃、玉置さんは「ワインレッドの心」リリース前で、ひどく苦しい生活をしていたそうなのです。ですから、松井さんにとって玉置さんは、たんなるいち青年に近いくらいの感覚だったことでしょう。ふたりが意気投合し、「マスカレード」「眠れない隣人」等を経てベストパートナー、ソウルメイトになってゆく過程と、「ワインレッドの心」を皮切りに玉置さんがスターの階段を登ってゆく過程とはほとんど同時に起こっているはずです。「太陽の破片捜してた頃」から「なくせないものが〜あふれ」た状態へと変わってゆくさまを、松井さんはほとんど一番近くでみていたのです。
そしていっぱいになったポケットで走りづらくなり、そのうち身動きが取れなくなってゆくことに苦しむ玉置さんは、いったんバンドを休むことにします。ポケットの棚卸をしなくちゃ走れないよ!しかしそれは、動いている巨船を止めるようなもので、かなり痛みを伴うものだったはずです。なにせ北海道から一緒だったメンバーたちといったん離れなくてはならないからです。安全地帯という船が航行している限り、活動は常に数十〜数百人単位でのものになります。そこで星さん金子さんBanana、メンバー四人全員、そしてマネージャーの了解を取り付けながら進まなくてはならないということが、若き玉置さんにとってどれだけ重荷であったかは想像に難くありません。かつて吉永小百合さんが、演技だけ行っていればいい「芝居工場」の歯車でいることに疑問を抱き、大学進学〜卒業後はマネージメントをすべて自分で行うことに決めたのと方向は逆ですが、どこか似ています。自分にとって適切なスケールでない活動が与えるストレスは余人の想像を超えるものなのでしょう。
そしてスリムな体制で活動再開した安全地帯、玉置さんは喜びにあふれ、精力的に活動します。「なにができるの?」「君の夏」は、あのもの凄かったスターダムの時代だったのでなければ、きっと、それはこの先にきっとある、新しい形の「夏」なんだろう、だから、見てみたい、君が走りだしておいかけてゆくその「夏」が、どんな「夏」なのか……。
もちろんコンサートではかつての曲も歌います。でもそれは、「傷ついたことば くりかえす歌」なのです。うっかり思い出すと眠れない気持ちになるようなこともいろいろありますし、照れちゃって、もしくは意地はっちゃって「ひとりよりうまくふたりでいられない」ことも起こるのですが、それは安全地帯の仲間、松井さんが共感し受け止め支えることのできる傷です。
とかなんとか、訳知り顔で妄想を書きまくっているわけなのですが、この路線もそろそろ限界に近いような気がしてきました!だってこのアルバム、わたしにかかるとそんなのばっかじゃん(笑)。うーん、『安全地帯IV』『安全地帯V』のころに、ワンパターン化など一切気にせずに無茶苦茶な恋愛解説をしていた過去が、なんだかとても懐かしいです。
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ですがバンドマンならではのあの夏、はストルートに沁みてきます。30年経って風景はすっかり色褪せましたが、えの猛烈な暑さと眩しさだけは神経に焼き付いています。
太陽の破片!(かけら)と読むから尾崎とは少し違いますね。
なるほど。この夢の都のアルバムは車に入ってて、何故かこの曲は飛ばす癖が抜けませんが、今日は久しぶりに利いてから、もしも、に入りました。やはり、全体の構成を考えると、ともだち、あの夏を追いかけて、もしも、ビックリした!に
行くのがアルバムとしてベストだと発売から33年が過ぎても聴きあきない(わたしがバカなのか)
です。アルバム発売当初の夢の都ツアーのセットリストには入ってたようですが、わたしが観に行ったラストの頃はMCも、今日も全力でやります!のみで、この曲は外されてました。
活動再開!のメッセージは充分伝わってきますし、あの当時のラフな感じに似合っていました。メンバーの放つ音や玉置さんの声も若くパワフルで、申し分ありません。