『安全地帯VII 夢の都』五曲目、「ともだち」です。
「一番好きなのは、ともだち」「へえ!」
ちょっと驚きました。なんでも安全地帯初心者で『memories』を買って聴いていたそうなんですが、「あなたに」「Friend」といった並みいる名バラードでなく、この「ともだち」を選ぶとは……意外でした。「あなたに」や「Friend」にはない要素をキャッチしたに違いありません。
普通に考えれば、遠い少年時代(あんまり遠くないリスナーもいると思いますけど)の思い出を歌った曲です。誰の胸にもある、ともだちとの楽しい思い出、時を忘れて走り回り、赤い夕暮れ空、夕餉の準備の音、ご飯を炊く匂いのなか、また明日ね!と手を振って別れる……
あるいは、明日はいつでも今日の続きだった子ども時代に、家庭の事情等でもう会うこともないのに、今生の別れの意味も知らず、また会えるよねと手を振った……
こんななつかしい、悲しい、寂しい思い出は誰の胸にも一つや二つあることでしょう。だからこそ、夜とかカクテルとかネオンとか男女とかそういうものでないこの曲が、多くの人の胸に迫る魅力をもつのではないか……などと、評論家ぶって話してみたくてしかたないわたくしですが、まだまだズバリ少年だった高校生くらいのわたくし、部屋のステレオの前でこの曲に涙していたことなどはすっかり忘れているのです(笑)。そういや幼少のころにまさにそういう別れをしたんでした。いまのいままで忘れていましたけども、当時は痛みを覚えていたんですね。
ですがわたくし、最近すっかり根性がねじ曲がってきましたもので、素直でない歌詞の読み方をしたくなります。この「ともだち」は安全地帯と松井さんのことではないのか……という、まあ、いつもの話なんですけど。
「I Love Youからはじめよう」で「こころをひらいて」と崩壊しつつある安全地帯に愛の結束を呼び掛けた松井さん、
「このゆびとまれ」で玉置さんに「ともだちになりたい」というメッセージを送った松井さん、
「情熱」で安全地帯に「夢ははじまったばかり」とエールを送った松井さん、
そしてまた再開した安全地帯に、「あのときは寂しかったよ!悲しかったよ!またこうして会えてよかった!」と別れの痛みもまだ生々しい胸をなでおろしつつ、まだまだ一抹の不安をぬぐえない複雑な心情を歌詞に託してメンバーに届ける松井さん……
おお!一歩の糸につながりましたよ!つながっただけで確証は何にもありませんけど!(笑)ふつうに少年時代の別れの曲として楽しんだほうがいいような気がしてきました。どうもひねくれてていけません。いや、あれですよ、落語「千早ふる」にでてくる先生みたいなメチャクチャで人を笑わせようとか、そういう芸風にシフトチェンジすることを目論んでいるわけでは決してございません。いたって真面目なんです。まあ、あの先生だって、ものを知らないだけで、一生懸命に辻褄を合わせようとしてたわけですから、あまり違いはないんですけども。
さて曲ですが……シャーン!というアコギの澄んだストローク音に、なにやらホーン的な音色のメロディーライン、ストリングスで始まります。
玉置さんの歌が入っていったんストリングスがやみ、ギターはそのまま、かわって鍵盤の伴奏が入り、大きくミックスされたベース、スネアのやや強調されたドラムを基調にAメロBメロと進みます。シンプルです。かなり思い切って音を削っています。とくにこのアコギは非常に生々しい音で、のちの「安全地帯IX」に近い音で、ということは矢萩さんが弾いたのかな?と思わせます(ケガで武沢さんは『IX』では一部しか弾いていないのです)。また、このアルバムでは玉置さんもアコギでクレジットされていますから、玉置さんが自ら弾いたという可能性も割と高めではあります。
曲はサビに入り、ふたたびストリングスが入ります。そして、「駈けていく約束に」のアオリになにやら笛が入りますよね、オカリナの音みたいなやつ。これが本気で泣かせにきているとしか思えない音でして、いまだ果たされない「約束」を思いだした心に吹いてくる一陣の寒風のように、猛烈な寂しさを演出します。
「どこまでも どこまでも」「悲しくて 悲しくて」と、同じ言葉を繰り返すことで、夢半ばで崩壊したバンドを見続けることがどれほど無念だったのか、どれほどの悲しみだったのか、松井さんの心情を察するだけで胸が苦しくなります。「え?ふつうに幼少時の別れの歌だったんだけど?」ですべてムダになる苦しみですけども。
そして間奏、おそらく玉置さんの、口笛が入りますね、もういいよヤメて!泣いてる!もう泣いてるから!幼少の別れでもバンド崩壊でも、どっちでも涙腺爆発だよもう!
歌は二番に入りまして、あたたかいさよならを言えなかったあの日、別れたあとに名残惜しくなって振りかえったら相手もこちらを見ていたから、素直になれなくてごめん!また会おうね!と一生懸命手を振ったあのとき、これは子どもでも大人でもありますね。子どもはホントに振り返って手を振りますけど、大人はついついスーパーのギフトコーナーとかに足を運び、しばらく悩んだらちょっと気が済んで結局何も買わないとかになりがちです。心に引っかかっているモノの種類は同じなんですが、実際に行う行動はこの場合子どものほうがいいですよね。
そして会えない日々が続き、思い出は遠い日のことになっていきます。あのころの心もいつのまにか忘れていくんですけども、ふとした拍子に生々しく読みがえり(だから、思い出したように、ではなく「忘れたように」とよぶのがふさわしい状態)、思い出になってしまったものを思って悲しくなるわけです。ああ、わたくしも、そんな大したバンドじゃないんですけど、むかしのバンドのことを思ってすこし涙が出てきました(笑)。
安全地帯のメンバーはみんな東京近辺にいます。いますけど、当時ですら都内だけで一千万人の暮らす巨大都市、東京では、それぞれの生活事情で勝手に動いていては偶然会うことすら考えにくいのです。わたしみたいな地方都市育ちの人間だと、そうはいっても札幌駅とか大通駅から地下街の間を毎日張っていればそのうち会うでしょ的なお気楽さがあるんですが、東京では崩壊した人間関係はそれこそ「どこまでも広がる空のどこか」にいる、という表現がふさわしいほど遠い関係となります。
余談ですが、わたしの「まちかど」である札幌市内某駅では、JR駅と地下鉄駅の間に大きめの商業地があるのですが、そこを歩いていれば高確率で知り合いに会います。会いたくなくても会います(笑)。ですから、世を忍ぶ必要のある時はわざと大きい通りを避けて進む、あるいは大きめの商業施設の出入り口を利用して時間差で動く等の工夫が必要になります。東京や大阪の人だと、こういうのは感覚的にわかりにくいかもしれませんね。むりやりたとえると、中野区内だけですべての生活を営むくらいの感覚です。
そして、寄せては返す波状フレーズが切ない思い出をたたみかけた後、最後にサビを繰り返して曲は終わります。「風の歌」はひとり街角できく風の音でもあり、なつかしい思い出の、安全地帯の演奏でもあるのでしょう。音楽は風と同じく、目に見えるものではありません。直接手に触れるものでもありません。ただそこにあり、そして消えてゆくものです。それなのに風とは違って、「記憶・思い出」にはいつまでも感じられる強烈な印象として残るのです。幼少の頃の別れやバンド崩壊の痛みと同じく。だからこそ、悲しくて涙が止まらないのでしょう。
価格:1,533円 |
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宮下さんのお店ですね、もと合宿所。永山のほうですよね。あれは玉置さんや武沢さんのいらした神居からみても反対側で、すげえ行動力だなあと思います。関東でいうと、津田沼とか船橋とかに住んでいる人が龍ヶ崎あたりにスタジオ作るようなもので(ちょっと縮尺おかしいですが、感覚的にそんな感じなんですよ)、もう向いている方向やスケール感が違う!(そこからなぜ千葉市内や都内に向かわない?)と感じさせられます。
「とまらない」の「な」、いいですよね。ちょっと鼻の奥からふうって歌ってる感じです。
ラーメン屋は天金でしたね。御免なさい。
いま札幌でスキージャンプのワールドカップをやっていますね!あれは凄いですね〜かっこいいですけど、皆さんプロのジャンパーだから滅多に失敗しないから安心して観てられます。素人がやったらあっちこっち飛んで危ないです。ちなみに私は関東在住なのですが生涯スキーは3回程滑ったきりです。高校の部活にスキー部はありましたが、夏はどうしていたか謎です(笑)トバさんは雪国育ちなのでウィンタースポーツ上手なのでしょうね。
「ともだち」出だし確かに低いですし、僕が一番好きなのが、ラストの「とまらない」の、「な」が
好きです。
「ともだち」に関しては、玉置さんも1994にホテルで行ったディナーコンサートをWOWWOWで放送し、その番組内のインタビュー映像でもこういうのをやりたかった、と安全地帯がかつて合宿して後にフランス料理店になった場所で話してました。あの辺からカリントやジャンクランドに向かっていたようです。
私は血筋は九州や北陸地方になり、北海道を初めて訪れてその風景のスケールのデカさに驚きました。そして、安全地帯のルーツはやはり北海道の夢の都から産まれたんだ、と感激し納得しました。ありがとうございました。
旭川のラーメンは……平成になってからはたぶん行ってないんで現代ラーメンはわからないんですよ。知っているのは子どもの頃父に連れて行ってもらったような、四条とか五条に昔からやってるラーメン屋さんをいくつかですね。ハチヤとか天金とかそんな名前だった気がします。味が濃くてうまいんですよね。全国的には山頭火が有名だと思います。野澤さん存じ上げませんが……安全地帯界隈の重要人物っぽいので存じ上げなくてなんだかくやしい(笑)。
この「ともだち」の頃は、やっぱりわたしも高校生でした。懐かしいですね。幼少の頃、いきなり引っ越しで別れた友人のことを思い出しました。当時は子どもが多すぎて幼稚園とか入れませんでしたから、近くの家の数少ない子どもが世界の全てなんですよ。当時高校生でこれを聴いて懐かしがっている少年は珍しかったと思いますけども……
ギターもおやりになるんですね。弾き語りすると最初の「なつー」が音程の変化大きくて難しい!アコギの弦の響きがすごくいいですよね。
僕は北海道には今まで2回行きました。旭川で安全地帯も見ましたし、あのラーメン🍥も食べました!天心でしたか。もうひとつ本当は美味しいラーメン🍜が昔あった?とご当地の方から聴いた覚えがあります。あと、アーリタイムスも行き野澤さんから安全地帯のアマチュア時代のテープを聴かせて頂きながら飲んだビールは忘れられません。天井だか壁にサングラスをした玉置サンの写真もありました。Vの頃の。
さて、「ともだち」です。
これは、かの松井五郎さんもたまにツイッターで挙げるくらい今となって尚心に染みてくる名曲だと思いました。
初聴は高校2年の夏休み、部活の校内夏合宿が丁度確か終わった日にイトーヨーカドーの新星堂で予約してあったCD💿をポスター付きで買って、家で聴いたのを記憶をたぐると出てきました。確か二位まで行ったような。
まさに、北海道を舞台に原点回帰したロックアルバムで、そんな中の5曲目が「ともだち」
ドラムと平行してギター🎸も我流で丁度弾きはじめていて、この曲にDや、Bmのコードがかぶさって「同じだ!」と感動しました(笑)。
今日は、車を運転しながら久しぶりにこの歌を聴いて涙が溢れてしかたがありませんでした。
是非また安全地帯のコンサートがあった時に聴いてみたい1曲です。