『プルシアンブルーの肖像』六曲目、「プルシアンブルーの肖像」です。
安全地帯の十一枚目のシングルであり、この映画のテーマ曲でもあります。
この曲はなんといっても「はなさない」「はなせない」の連呼が印象的です。印象が強すぎてあまり他の部分を一聴して覚えられないくらいです(笑)。歌詞がひらがなであるのには、もちろん意味があるでしょう。
普通に考えれば「離さない」ですよね。「話さない」ではないでしょう。秋人が言葉を失ったから「話さない」では、「悲しいあなたがきれいで」の意味がなくなります。しかし、「話せない」のほうは意味が通ります。「願いはもう捨てて」ほしいのは、もうそろそろ自分の口から想いを伝えてほしいという願いには(臆病で)応えられないからだ、でも、信じて、「そのままで」待っていてほしい「迷い」なんて不要なんだ……(何と自分勝手な!)と読むことができます。こう読むと、「離せない」ではいまいち意味が通りにくいことにも気づいてしまいます。もちろん、抱きしめた腕を解くことができない、どうかこのまま時よ止まっておくれ的な意味であるという可能性もあるのですが、映画の秋人のおそろしく自分勝手な臆病さを表現していてほしいというわたくしの願いで、「話せない」であってほしいと思えるのです。
実は、この「はな」すが「離」す「話」すの掛詞であるというアイデア自体は、わたくしが思いついたものではありません。ネットのどこかで読んだものです。ソースを確認してリンクさせて頂こうと思ったのですが、わたくしの検索スキルではもう確認できなくなってしまっていました……申し訳ありません。ちなみに解釈のほうは、例によってわたくしのオリジナル妄想です(笑)。
さらに、恋物語やその一シーンを描くのでなく、いま、この瞬間の、「離したくない」「話せない」気持ちだけを描く、という方針に切り替えた、もしくはこういう方針の詞もラインナップに加えられるようになった、ということが、この曲ではっきりします。「好きさ」「じれったい」の生まれる土壌が、ここで醸成されたということができるでしょう。
さて、アレンジにも言及しておきたいです。玉置さん風にいえば「エレキギターバリバリ」の曲なんですが、ギターの音がとても抑えて収録されているので、あんまりバリバリには聴こえません。これは武沢さんによるものだと思うのですが、当時としてはかなり激しいディストーションサウンドなんです。しかし、抑えられたミックスのおかげで、90年代の高校生ギタリストが買ったばかりのマルチエフェクターでHIDEさんを目指して作った、歪みすぎの抜けが悪いドンシャリサウンドのように聴こえてします(ズバリ、当時のアチキの音です笑)。ひらたくいえば、現代的なギターサウンドではありません。この曲以外ではとても独特なサウンドを駆使していますので、時代を超越しており少しも古臭く聴こえないのですが、この曲ではオーソドックスなディストーションサウンドを作ったがために、古く聴こえてしまうわけです。武沢さんのサウンドメイキングがいかにものすごいレベルにあったかを、逆に示す曲になっているといえるかもしれません。
2010年のツアーでは、目の前で大型キャビネットをガッツリ鳴らされたので、かなり驚きました。こ!これは!オールドのチューブアンプ直の音だ!と思ったのですが、武沢さんの足元には今も昔もペダルがあって、Bメロからサビに移る瞬間にブーストをするのも変わりません。ネットで拾った情報ではVOXの、誰でも買えるようなマルチエフェクターをツアーでは使っているそうですが、とても信じられません。現代的ディストーションサウンドに生まれ変わった「プルシアンブルーの肖像」は、現代ロックファンの心を震わせるに十分のド迫力ギター・チューンになっていました。『安全地帯HITS』に収録されているバージョンが一番近かったでしょうか。ライブアルバムだと、どうしてもホール全体での鳴りになってしまっていて、あのガッツリ感が感じられにくいように思われます。
ディストーションギターのことにばかり言及してしまいましたが、クリーントーンのギターもけっこう存在感を発揮しています。Bメロで「こわくないよ(オーン、オーン、オーン)」と鳴っている音は、シンセではなくギターでしょう。安全地帯の曲を聴き込んできた人でないと、シンセだと判断するかもしれません。ふふふ、このわたしは騙されないぞ〜(バカ)。これが矢萩さんででしょう。そして、「こわくないよ(ツクツクツクツクツクツクツクツク〜)」と鳴っている音が武沢さんだと思われます。どっちもいい音ですねえ。かなり大音量のアレンジにもかかわらず、ハッキリ聴こえます。80年代歌謡曲のバックで弾いていたスタジオミュージシャンにはごく当然のスキルだったようですけれども、のちのバンドブーム以降では、こういうキレイなクリーントーンはあまり聴けなくなった気がします。バンドブームギタリストさんにとっては、クリーントーンとは、単に歪みエフェクトを使わない、というだけのことだったのでしょう(スバリ、アチキです笑)。
ギターを抑えることを含む、なんらかのミックス思想にもとづいているのでしょうけども、ベースはかなり大きく聴こえますね。Aメロではとりわけ大きく聴こえます。Bメロ以降は単に八分で刻んでいて、かつ他の楽器もかなり音量が大きいですからね。玉置さんもかなり叫びぎみですし。
ドラムは、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、すべてパターンを変えています。Aメロはベースとほぼリズムを合わせて、かなり重厚感を出しています。Bメロはとくに言及することもない八分(ベースと合わせるので当たり前です)、サビと間奏は驚異の八分バスドラ踏みっぱなし!ベースと揃うだけでなく、ボーカルと合わせているのです。そう、「はなせない」は何のひねりもない八分刻みのリズムなのです。「は」「な」「せ」「ない」にすべてドラム、ベースが同時に鳴っている、ということです。これが単調に聴こえないのがまた凄いですね。これは……と思ったのですが、この曲に似たアレンジパターンのハードロックの曲を、思いつかないということに気がつきました。う、うお?
そんなバカな?わたくしハードロック馬鹿にはわりと自信があるのですが、こういう曲が好きだったらあのバンドも聴いてみるといいかもよ?といえるバンドがまるきり思いつかない曲なのです。もしや、この曲は新しいパターンのハードロックなのでは?うーむ……自信があるだけで、実は全然ハードロックに詳しくないだけであるのかもしれません。もし、この曲に似たアレンジパターンのハードロック楽曲をご存知の方がいたら、わたくしにぜひ教えてください。
残念ながら、当の安全地帯にも類似の曲はないように思われます。つまり「I Love Youからはじめよう」からみた「情熱」のような、もうひとつの「プルシアンブルーの肖像」が思い当たらないのです。これは何を意味しているのでしょうか……。飽きた?(笑)そうではないとしたら?メンバーがこの曲を気に入らず、もう二度とこういうアレンジでは曲を作りたくない?そのわりにはライブでも積極的に演奏しているように思われます。そうであるならば……この曲を嫌いではなく、こういうアレンジをするにもやぶさかでない、とすれば、こういうアレンジにふさわしい曲が再び現れなかった、ということなのでしょう。
ハードロック的な意味でのこれほどヘヴィな楽曲は、これ以降の安全地帯には見当たらないのです。安全地帯はハードロックバンドだ、と言い続けてきた当ブログの方針も、ここに転換点をはっきり見いださなくてはならないでしょう。正確には、安全地帯のロックが進化していき、他のハードロック勢とは分離していった、ということだとわたくしは考えています。他のハードロック勢の音楽がハードロックと呼ばれ続けていたのは、単に当時は大勢を占めていたというだけのことなのでしょう。事実、この曲当時から約20年が経過した現在、当時のハードロックと呼ばれた音楽を演奏するバンドはもうほとんどいません。いたとしても、懐古的な指向でわざとそうしているだけでしょうから、ある意味伝統芸能集団に近いといえるでしょう。
安全地帯はそうした伝統芸能集団ではなく、進化し続けるトップミュージシャンであることを選んだのでしょう。そのことは、わたくしのような、懐古ハードロックマニアにとっては、この「プルシアンブルーの肖像」を望み続ける気持ちを諦めなくてはならないということを意味します。そんな切なくも激しく美しい「肖像」を、20年も前からわたくしは壁の特別な位置に飾り、ときおり見上げてはうっとりと見続けているのです。
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