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2017年04月14日
Miss Miss Kiss
『安全地帯V Friend』二曲目、「Miss Miss Kiss」です。
世紀末風の「遠くへ」から一転、悪女志願の女性と戯れるスケコマシダンディの歌です。一曲目ですっかりシリアスな気分に浸っていた気分を一気に現実世界に戻すかのような、いささか乱暴な曲順だといえなくもありません。
ただ、前記事で書いたことなんですが、80年代中盤は、核ミサイルの恐怖を抱えつつ、バブル経済の予兆のなか享楽的に過ごす時代でもありました。だからどっちが現実でどっちが夢想というわけでもなく、どちらもリアルな感触を持って聞くことがのできた時代でもあったわけです。
まあ、わたくしその頃はまだ核ミサイルの恐怖に肝を冷やして『北斗の拳』を読んでいるようなお年頃でしたから、悪女と戯れるダンディなんて文化は体験してないわけですが。そんなこと言ったら核ミサイルだって飛んでこなかったですねえ。なんだ、どっちもマンガとか映画とかビデオとかの世界じゃないですか(笑)。
さて、この曲、軽快なリズムでギター、ベース、ドラムがメインフレーズを奏で、ホーンセクションがキメで曲を盛り上げるという80年代後期安全地帯の豪華さを象徴するラインナップで始まります。そしてそして、リズムが印象的ですねえ。『惑星』ツアーで演奏されているバージョンを聴くと、リズムが先、メロディーは後、で作られた曲なのではないか?という思いが強くなります。それくらい、リズムの印象が強いのです。
志田歩さんは、「ロマンティックなメロディとアフリカ的なリズムを滑らかに融合させた」と、このころの安全地帯の曲を評しています。玉置さんもそれにこたえて「もともとはリズムから先に曲を作って、メロディはそれにのせてホニョホニョフニャフニャ歌いながら作っていくほうが性に合っている」とおっしゃっています(『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)。「アフリカ的」かどうかは、わたくしの見聞ではわかりかねますが、欧米、日本のロック界・歌謡界ではあまり聴かれないものだということは、言えるかもしれません。
そう、リズムが心地よい、という感覚は、これまでの安全地帯の音楽ではあまりなかったように思われます。「カッコいい!」という感覚は存分に味わっていますが、それは「ロック的」にカッコよかっただけなのかもしれません。
私事ですが、わたくしバンドで作曲を担当しておりましたが、リズムのことでドラマーともめることがありました。ドラマーなんですからリズムに造詣が深いのは当たり前なんですが、わたくしはシンプルで「ロック的」なもの以上のものは求めようとしなかったんです。ドラマー的には、もっと工夫したい、もっと心地よくしたい、それが「カッコいい」んだ、と思っていたわけですから、話が合わないのは当然です。ドラマーはわたくしのコンポで多くの変わったリズムをもつ音楽を鳴らし、わたくしのリズム感覚を鍛えようとしました(笑)。変なリズムに一日中さらされたわたくしはすっかり頭にきて、13分の11拍子とかのわけのわからないリズムを織り交ぜた変態的な曲を作り、デモテープのためにリズムマシンをプログラムするドラマーを悩ませるという報復策に打って出たのです。で、いざリズムトラックを完成させられてしまったら、今度はわたくしがギターが弾けなくて悩むという窮地に陥るわけです。アホですね。それでできた曲がよければいいんですが、そうでもなく。不毛とはまさにこのことです。
だから、リズムのことはある意味過去の心の傷になっているんですね。実際、志田さんの、このくだりを読んだとき、ああー、そうかー、なんだかイヤだなあ、とわたくしは拒絶反応を示したのです。ですが、何十年も聴いて骨や肉になっていた安全地帯の曲が、こんなにリズムにこだわったものであると気づかされ、ハッとしたのも事実です。それまでに気づかなかったくらいにわたくしはボンクラでもあるのですが、メロディとリズムの融合が「滑らか」すぎて自然だったということもいえるでしょう。
さて、曲はイントロのアレンジパターンのまま、Aメロに突入します。Aメロ、といってしまって気づくのですが、この曲、明確なBメロがないままサビに入りますね。言ってみれば「ブリッジ」「ヴァース」の関係になっているんです。「罠のしかけ場所 教えて」から直接サビに行かずにもういちどその前の部分を繰り返し、「罠のしかけ場所 教えて」に相当する箇所のないままサビに行きます。だから「キャンドルみたいなBODY~教えて」がブリッジで、「浮かれた悪女~だしぬきなさい」がヴァースということになるのでしょう。こんなパターン、ほかに思い出せるでしょうか? パッとは思いつきませんね。曲の構成マニアでないかぎり、パターン別に曲を分類して記憶しているなんてことはないでしょうから、すぐに思いつくことなんてもともとまれなんだとは思うのですが、それにしても珍しい構成の曲だといえそうです。玉置さんはリズムだけでなく、曲の構成でも新しい試みをした、正確には自分のなかにあるものを、リズムにせよ構成にせよ、型にとらわれず形にし始めた、のかもしれませんね。
さてサビなんですが、八分の通常のドラムに、なにかにぎやかなシンバルっぽい音が「シャシャシャシャ……」と入っていますね。これはハイハットの音じゃないでしょう。いってみればタンバリンを膝でたたいたような音なんですが(「冬花」でも同じようなことを書きましたね)……パーカッションでクレジットされているどなたかが叩かれたのでしょうか。何と効果的な!通常のドラムセットの音にこだわらず、効果的な音を躊躇なく入れた、という感じがします。玉置さんか、ほかのメンバーか、川島さんか、星さんか……どなたかが思いついたことを、すぐに試せるだけのスタジオミュージシャンをそろえて実現できるだけの力量を、この当時の安全地帯は備えていたのです。現代だったらパソコンのDAWソフトで一発なんですが、当時は人力ですからね。豪華なもんです。
間奏では、おそらく武沢さんによる、スパニッシュギターっぽい音色のソロが入ります。そのバックには、おそらく川島さんによる不思議シンセが響きます。このアレンジパターン、『オリジナルサウンドトラック プルシアンブルーの肖像』に似ていますね。ほとんど映画本編に使われなかった曲たちですが、この『安全地帯V』で炸裂することになる素地を作ったという意味で、もっと評価されてもよいアルバムでしょう(いまさら感たっぷり)。
歌詞も「みすみすキス」なんて、「恋の呪文はスキトキメキトキス」みたいで面白いですね。Missという若い女性を思わせる当て字も見事です。松井さんの言葉遊びも、語感の似た言葉を並べてその妙を楽しむという枠をはるかに超え、新しい次元に突入したのではないかと思わせる絶好調さです。そして「うかれた悪女のセンスで 心をだしぬきなさい」なんて、さらっと書くあたりも、なんて魅惑的なんでしょうか。完全に誘っています(笑)。
この曲は、『安全地帯IV』までのストイックな音楽制作の経験による蓄積を、怪作『プルシアンブルーの肖像』(映画のことですよ)を経て開花させ、そしてたどり着いた境地「リズム」「メロディー」「アレンジ」そして「歌詞」の新次元での融合を、二曲目という早い段階で知らしめた曲であるといえるでしょう。
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2017年04月09日
遠くへ
『安全地帯V Friend』一曲目、「遠くへ」です。
イントロの時点でもう、このアルバムの名盤であることが確信できる象徴的な曲です。この三枚組アルバムにはシングル曲「Friend」「好きさ」「夏の終りのハーモニー」をはじめ、有名な曲がいくつも含まれているのですが、この「遠くへ」こそが『安全地帯V』のイメージ全体を象徴する曲として、見事に役割を果たしているのです。
そういう曲がラブソングでなかった!ということは、安全地帯の物語的な意味での路線が変更された、あるいは新しい色が加わったことを意味します。『安全地帯VII 夢の都』の「きみは眠る」、『安全地帯VIII 太陽』の「1991年からの警告」、といったように、深刻なテーマを唄うものがアルバムの先頭に来ることで、安全地帯の音楽、そしてそれが表現する愛の物語に、ぐっと深み、渋み、奥行き……といったものを与えているようです。最近はすっかりそんな手法は見られなくなりましたが。ああ、『安全地帯XII 清く 正しく 美しく』の歌詞カード冒頭に書いてあった玉置さんの文章が、これに似た役割を果たしていたといえるかもしれませんね。
短音でクリーントーンのリードを響かせるギター、ドーンと老獪に伸ばしたベース、リムでリズムをとるドラム、これだけで、もうテーマは色恋などでなく、なにかもっと深刻なものだということがわかります(笑)。そして不穏に短音リフを刻むギター(「エイジ」に似ています)、響き渡るサックス、短い短音フレーズを繰り返すピアノ……歌詞が表現する荒廃した世界に立ち、途方に暮れている情景でしょうか、武装モヒカンが「ヒャッハー」とか言っていないだけで、『北斗の拳』に近い光景を思い浮かべてしまいます(正確には、わたくしが『北斗の拳』を好きすぎて、それしか連想できないだけです)。
そして、リムのリズムはそのままに、バスドラがドド!ドド!と大地を踏みしめるようになり始め、玉置さんの歌が始まります。「太陽の塔」が落ちてくるって、よくわかりませんが、ただ事ではありません。大阪万博のあれではないでしょうから、おそらく核爆発によって生じた何らかの現象をさしているのでしょう。
核爆発ってなんだよいきなり、とか思わないでください。80年代中盤は、ほんとうに核ミサイルの恐怖を、みんなが少しずつは抱えていたんですよ。まだ冷戦まっただなかでしたし、ソ連の核ミサイルが発射されてから着弾するまでに十数分しかかからないから、核シェルターをいずれは用意しなければならないとか、核シェルターがない人は『風が吹くとき』みたいに自宅を改造したほうがいいんじゃないかとか、助かっても最低二週間は外に出ちゃいけないとか、そういう話がそこかしこにあったんですよ。ですから、この曲を聴いて、核戦争を連想するのは、至極まっとうとまで言ってはおかしいかもしれませんが、少なくとも突飛なことではありませんでした。いま思うと、よくあんなコワい状況で暮らしていたもんだなあ、と思います。
そして短いBメロ……「声が聴こえる」の箇所ですが、ここでようやくバスドラ、スネアの組み合わせによるドラミングが響き、それによって曲が速くなったような感覚を与えます。これが、歌詞世界の切迫感とリンクするという……信じがたいほど見事な曲なのです。そう、この曲は、すべてのアレンジに、確実に歌詞世界とリンクした意味・役割がある、という、ちょっとやそっとの素養や技術じゃ到底できない作品なんです。空間を切り裂くような「ジャイーン!」というギターも、ごく単純なフレーズが、どこか無機的に繰り返されるピアノも、なんとマッチしていることか!
そして間奏、これは、ギターソロもなく、せっかくのサックスも目立つソロを奏でるでなく、リズムの変化をこそメインにした、珍しい間奏です。のちのドリーム・シアターにちょっと似てますね。というより、こんなことは安全地帯とかドリーム・シアターくらい技量のあるバンドでないとできないかもしれません。怖いですよ、何かで埋めないと。経験の足りない教師が授業開始から終わりまでずーっとしゃべっているのに近いですね。沈黙が怖いんでしょう。沈黙を作ることで生徒がそこで何かをじっくり考えて、何かを得るかもしれないという発想ができないんですね。いっぱいいっぱいで自分と今しか見えてないですから。そんなわけで、ここの安全地帯は、ベテラン教師の授業のように、あえて目立つソロを使わずに、隙間をつくっているように思われます。
圧巻のサビ、「People Walking」の箇所も、玉置さんの悲痛な叫びが、もう他の歌手はこのテーマで歌わないでくれと思うほどに、避難民の悲しき旅路を唄います。……そして武沢さんのカッティング!極上トーンでのカッティング!これが、ゆくあてもなく走る避難民の焦る気持ち・息遣いを表現しているように思えてなりません……そして曲はイントロと似たフレーズから玉置さんの短い歌へと聴く者を導き、曲を終えます。
なんて悲愴な!何も「悲しみにさよなら」を大ヒットさせた余韻がまだありそうなうちに、こんなぎりぎりの世界をいきなり表現しなくても!……わたくし、当時はあまりそんなことは考えず、ただただ圧倒されていました。今だから、このときの安全地帯がいかに進化していったか、ある程度冷静にみられるようになっているような気がします。
二人称のラブソングでないものもやりたいね、できるさ、という会話が、松井さんと玉置さんの間であったそうです(松井五郎『Friend』より)。
……二人の天才が、しかもこんなに相性よく作品を生み続けてきた二人が、何もかもうまくいっていたこれまでの方法から、天才であるがゆえにあえて一歩を踏み出した、記念碑的な曲だといえるでしょう。
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2017年03月28日
『安全地帯V』
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安全地帯五枚目のアルバム、『安全地帯V』の紹介です。
みなさんご存知の通り、このアルバムは曲数36と、とんでもない大型アルバムです。アナログで三枚組(一枚目『Friend』、二枚目『好きさ』、三枚目『Harmony』)、CDで二枚組と、レコードがまだ高かった時代に、中高生泣かせの値段でした。6000円とかでしたね。アナログなら一枚ずつ買うこともできたそうですが、買う人がどれくらいいたんでしょうか。だって、あるならぜんぶ聴きたいじゃないですか……。
「三枚組のアルバムを作ろう!」と玉置さんはおっしゃったそうです(松井さんの『Friend』より)。
「二枚組っていうのはあっても、三枚組を出す人はいないだろうと思って」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)
わたくしの手元にあるものですと、ビートルズのホワイトアルバムが二枚組30曲収録で、これが『安全地帯V』に次ぐボリュームです。世の中には三枚組以上のアルバムもあるのかもしれませんが、少なくとも1986年当時にはなかったことでしょう。
さてさて、この『安全地帯V』、三枚組のものとして鑑賞するのが「正しい」という主張をなさる方がいらっしゃいます。カセットやMDにわざわざ三枚組に録音しなおしてお聴きになり、非常に腑に落ちる感触を得られたと聞きます。おお……それは確かにその通りでしょう。なんせ安全地帯は三枚組として出したのですから。CDは録音時間を長くすることができるので(節約のために?ケースが存在しなかったために?)渡りに船とばかりに、あるいはやむを得ず、二枚組にしたのであれば、二枚組として聴くのは安全地帯の意図する聴き方ではないということになります。
しかし、皆さんご存知の通り、一枚目最後の「ほゝえみ」、そして二枚目最後の「To me」、いずれもアルバムの締めくくり感がとても高い名バラードですし、そこに至るまでの曲の組み立てがクライマックス感の高いもので、二枚組として聴き上げる聴き方が本来の聴き方でないようにはとても思われないのです。「ほゝえみ」は、アナログ盤でいえばA面ラストの曲でしかないなんてちょっと信じにくいです。そしてB面が「今夜はYES」で始まると……。まあー、アナログ盤ではひっくり返す作業が必要になるところで、CDを入れ替えるだけなんですが。ちょっと不思議です。これはアナログ盤で聴きこめば当然に体験できることなんですが、針を一度も落とさずにジャケットをために眺めてニヤニヤしているだけでしたので、なかなか想像のつかない感触です。ああ、本気で当時の気分を再現するなら、CD-R六枚に分けて録音すればいいことなんですが(笑)。
では、せっかくですから、三枚組として語ってみたいと思います。
『Friend』
1. 遠くへ:核戦争後の地球、という80年代中盤によくあった世界描写(『北斗の拳』など)なんですが、わざとらしさのない歌・詞のシリアスさが心に沁みます。
2. Miss Miss Kiss:ミディアムテンポの軽快な曲です。「みすみすkiss」という言葉遊びがうれしい安全地帯節です。
3. パーティー:「ふたりで踊ろう」がラジオから流れてくるようなローファイで流れ、続けて歌本編が始まります。バラードと呼ぶべきか悩みますね。ジャンルレスな独特の玉置リズムが前面に出た可愛らしい曲です。
4. ふたりで踊ろう:アップテンポのオシャレなポップスです。これまでのアルバムにはみられない「楽しさ」「ノリ」を前面に出しています。
5. シルエット:これもジャンルレスなバラードライクのささやきソングです。こういう、力一杯歌う感じでない、新しいタイプの表現が魅力です。
6. Friend:シングル曲の、切なさ全開バラードです。玉置さんのプライベートな心情をそのまま表現したとしか思えない、壮大な失恋ソングです。
7. Friend (reprise):ここからB面になります。リプライズ、という言葉どおりの、オルゴールのような音色で前曲の思い出をフラッシュバックさせるインストゥルメンタルです。
8. チギルナイト:「Friend」の物悲しく美しいメロディーが「壊れ」て、カッコいいクリーントーンギターがリズムを刻みます。言葉遊びも絶好調なミディアムテンポのロックナンバーです。
9. こわれるしかない:ズシ、ズシ、ズシーンと重いリズムに載せて玉置さんの悲壮な叫びが効果的に染みる、これもミディアムテンポのロックナンバーです。油断してると前曲とのつなぎ目を聴き逃して「アレ?」となります。
10. 不思議な夜:タイトルが示すかのように、歌詞もアレンジも不思議な曲です。これはすごいですよ。のちに『All I Do』で炸裂する不思議ソングの先駆けと言えるでしょう。
11. 約束:もう、わざととしか思えない歌詞の(笑)、さわやかなミディアムテンポのポップスですね。
12. 想い出につつまれて:一転、スローテンポのバラードです。「シルエット」に似た恍惚系の歌詞が、超高音のボーカルで語られます。
13. 記憶の森:美しいピアノに彩られるバラードです。これだけピアノが前面に出た曲は安全地帯史上例がほとんどありません。
『好きさ』
1. どーだい:アルバムのトップにふさわしい、爽快なギターロックナンバーです。シングル化されていないのにライブを一気に盛り上げるという不思議な曲です。
2. パレードがやってくる:春が待ち遠しくなる曲なんですが、あの春は二度と来ないとわかってしまう寂しい曲でもあります。メロディーの美しさとリズムの軽快さがなんと悲しいことか!
3. 海と少年:サックスがもの悲しげに響くバラードです。個人的には鈴木康博さんの「遥かなる願い」を思い出させるんですが、よく考えたら「海と少年」のほうが発表が先な気がします(笑)。
4. 月の雫:これも「不思議な夜」なみの不思議ソングなんですが、陰鬱な夜の雰囲気の中、サビで一瞬目が覚めるような感覚があります。「隠された孤独」という言葉の鮮烈さにはいまだハッとさせられます。
5. 乱反射:アルバムの中盤でドカッと気分を盛り上げるようなリズムの強い曲です。二枚組でいえば、一枚目のラストに向かって真っ逆さま、という役割を見事に果たす「ガラスのささやき」的な曲でもあります。
6. ほゝえみ:これもわざととしか思えない失恋ソングです。美しすぎるメロディーと歌詞、アレンジが失恋気分をパーフェクトに演出する屈指の名バラードといえるでしょう。
7. 今夜はYES:ホーンセクションによる目の覚めるようなオープニングのキメがカッコいい賑やかな曲です。
8. あのとき…:一転、美しいバラードです。終わった恋を懐かしみつつ、細かいことを悔やむという、いかにも男らしい心情を歌い上げます。
9. まちかど:武沢さんのお兄さんが原曲をお作りになったのでしょうか。どこか原始安全地帯を思わせる美しいバラードです。
10. 好きさ:アニメ『めぞん一刻』に使われた、シングル曲です。切々と、好きさ、好きさと訴える、胸に迫る名曲です。
11. 声にならない:童謡のような可愛らしい曲なのに歌詞は切実という、なんとも切ない曲です。
12. 夕暮れ (Instrumental):武沢さん作曲の、美しい、牧歌的な、ギター曲です。アルバムの最後として考えると、ここまでのB面をしめくくるに似合ったインストゥルメンタルだと思います。「声にならない」の後ろというポジションは渋すぎです。V9巨人でいうと末次の次の黒江です。
『Harmony』
1. 銀色のピストル:長年ライブで演奏され続ける名曲です。女性がこんなこと言われたらキレると思うんですが、玉置さんだと許せちゃうかも(笑)。男の本音に迫る際どい歌です。
2. 涙をとめたまま:スタンダード・ナンバーを思わせるジャズ調のピアノが美しく玉置さんのボーカルをしっとりと聴かせます。夜の酒場で聴きたいですね。「ジャンゴ」とかそういう名前の店で。
3. 今夜ふたりで:「Night, Tonight」とノリのいいサビが、実は曲全体のリフになっていて、忘れられない一曲になっています。ドリフの「ニンニキニキニキ」なみに印象が強いですが、当然ドリフとは違ってかなりロマンチックです。
4. いますぐに恋:ハロー、マイガールと女性の心をやさしく包みますが、いますぐに恋に落ち、そしてすぐに失われそうな刹那の情を楽しむふうの、「ちょっと寄り道」感が、不吉なリズムとギターの音色で表現されています。
5. あのMusicから:かつての音楽仲間たちを偲ぶ曲なのでしょう。安全地帯の歴史と成功、そして失ったものを歌い上げます。
6. Jのブルース:サックスが渋すぎ!玉置さんの切々としたボーカル、巧すぎなブルースギター、安全地帯ってブルースもピカイチですね。
7. 夏の終りのハーモニー:井上陽水さんとのジョイントコンサートのために作られた曲です。シングルとして発売され、ベストにも収められました。
8. 天使のあくび:ガットギターで弾き語りされたかのような、可愛らしい曲です。しかしジャンルが全くわかりません。
9. 燃えつきるまで:一転、不穏なメロディー、リズムのミディアムテンポなロックナンバーです。ここからは一気にアルバム最後まで突っ走ります。
10. 夢になれ:クライマックス感タップリ!なミディアムテンポのロックナンバーです。シングル的でないのは明らかなのに、こんないい曲があるのが安全地帯の底知れなさですね。リズムがクセになります。
11. To me:この大作のラストをしめくくる、圧巻!の大バラードです。「あなたに」と対になったタイトルがいかにもふさわしい名曲ですね。
うーん、こうしてあらためてみると、とてつもないアルバムですね……よくぞこんなアルバムを出せたものです。いくら安全地帯が出したいと思っても、レコード会社がOKを出さないと出せませんが、安全地帯なら売れる!と判断してのことでしょう。当然に売れたわけですが。いかに安全地帯が人気絶頂にあったかがよくわかりますね。
レコード会社の契約は、おそらくですが、何年間に何枚のアルバムを出す、という形になっているものと思われますが、安全地帯はこれで三枚分の契約を履行したということになったのでしょうか。それはなんだかもったいないですので、ぜひ一枚分ということにしていただきたいものです(超絶に遅い期待)。
Amazon.co.jpのカスタマーレビューには、この超弩級アルバムを称えるものが見られるほか、いくらかは捨て曲があるという評価も見られます。うーん、安全地帯に捨て曲ナシ、の路線を貫く当サイトとしては、その評価を覆す使命があります。
松井さんが「それを壊さないと歌詞が作れなくなった」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)とおっしゃったように、『安全地帯IV』で完成されたスタイルを期待したリスナーにとっては、期待したものと違う!と感じるところが多かったことでしょう。何しろ、歌詞だけでなく、曲も一度「壊した」と思われるくらいにバラエティ豊かに、しかもジャンルの枠をはるかに超えたものになっているからです。一聴して「いい曲!」と誰もが思えるものは、これまでに聴いたことのある「いい曲」のパターンにどこか近いものになっている可能性があります。安全地帯がこのアルバムにあらん限りの力で詰め込んだ曲たちは、少なくとも日本のロック・ポップス界では前代未聞のものが多く含まれていたでしょうから、少なからぬ数の人にとって「いい曲」パターンにハマらなかったものが含まれていた可能性は大いにあるでしょう。その一方で、「いい曲」と一聴して思えることが多いであろうと思われる曲もまた、数多く含まれていたことも想像に難くありません。そのギャップが、「いい曲」と「捨て曲」の感覚を生み出すのではないでしょうか。
当時まだかなり若かったわたくしは、持っているCDも少なく、ロックやポップスの世界を全然知りませんでした。「いい曲」も「捨て曲」もなく、そういうものとして聴き込み、すべて「いい曲」と感じるに至りました。ですから、「いい曲」のパターンがほとんど自分のなかになかったころに、このアルバムは数多くの「いい曲」パターンを形成してくれたのです。そうした事情で、アーティストたるもの、安全地帯くらいやれて当たり前なのだと思っていました。それは大きな間違いでした。その後90年代に、つまり安全地帯がほとんど休止していた時代の「J-POP」とやらに、心の底から失望したのです。「ベタすぎる」「バタ臭すぎる」わけです。壁にポエム貼った店で頭にタオル巻いたおじさんが偉そうに作っているドロドロヌルヌルのラーメンのような感覚です(笑)。当時ティーンだった人には、こういう感覚を分かってくださる方がいらっしゃるのではないでしょうか。わたくしはヘビメタに心の安らぎを見いだすようになります。言ってみれば、「安全地帯ロス」をヘビメタで癒していたんですね。今わかりました(笑)。
さて次回以降、このアルバムを三つに分けて、いつも通り一曲ずつ語っていきたいと思います。これは頑張らなくては!……とはいえ、何しろ36曲ですから、当サイトの更新ペースでは半年以上はかかると見込まれます。重大な使命ではありますが、のんびり果たしてゆきたいものです。
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2017年03月15日
Bye Byeマーチからエンディング
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『プルシアンブルーの肖像』九曲目、「Bye Byeマーチからエンディング」です。
「ゆびきり」をマーチ風にしたものが「Bye Byeマーチ」(歌入り)、その後のストリングスによるインストゥルメンタル部分が「エンディング」なのでしょう。歌詞カードにはインストゥルメンタルと書かれていますが、「Bye Byeマーチ」は歌モノといっていいと思います。
「Bye Byeマーチ」は、玉置さんと森の木合唱団が歌ったもので、玉置さんはかなり抑えて低音(子どもに比べて)を担当しています。さらに低音部として、バストロンボーン……だと思うんですが、の音が「ブン!バン!ブン!バン!」と響き、マーチ風味を演出しています。トランペット(クレジットには兼崎順一さん、白山文男さん、横山ヒトシさんの三人が挙げられています。豪華なメンバーですね)少年合唱、玉置さん、バストロンボーンと、見事な高音~低音の層を成しています。
映画では、この箇所が序盤にあっさり流れてしまい、「エンディング」としての役割はありませんでした。しかもこの曲が流れたのは怪奇現象として流れたのです。歌詞カードにも、眼鏡をかけた女性教師(原田美枝子さん)がレコードを眺めている写真が掲載されていますね。これは怪奇現象を見てびっくりしているところなんですが、上がヘッドホンをかけてスティックを振るう田中さん、右が星さんを中心にミキサーの前に集まっているメンバーの写真ですので、このレコードの写真もうっかりスタジオの風景かと思ってしまいます(笑)。
さて、ストリングスによる「エンディング」ですが、玉置さん作曲のストリングス曲は、この「エンディング」と、のちの「あこがれ」「大切な時間」など数少ないわけです。これが、どれもこれも絶品ですよね。編曲は星さんなのかもしれませんが、なんだかクラシック作曲家による名曲を聴いているような錯覚に陥り、自分がポップスを聴いているということを忘れてしまいそうになります。
……と、このように、このアルバムに収められているインストゥルメンタルは、どれもこれも力作でいい曲ばかりなのですが、映画では「冬花」以外、ほぼ使われていないところが惜しいところです。とても残念です。映画に合わなくてボツになったか、あるいは映画に間に合わなかったかなのでしょう。殺人的スケジュールのなかで、よくぞこのようなアルバムをお作りになったものだと、本当に頭が下がります。ステキな音楽を残していただいて、そしてリリースしていただいて、ほんとうにアリガトウございますと。
そんなこんなで、安全地帯・玉置浩二の歴史のなかで、もっとも忘れられてゆきそうな位置にあるアルバムなのですが、この「Bye Byeマーチ」は玉置さんと少年合唱団の出会いの時期につくられた曲であり、「エンディング」は玉置さん初のオーケストレーション曲であるという、きわめて重大な(笑)節目の曲を合体させた曲なのです。
20年くらい前までは中古CD屋にひっそりと1000円くらいでこのアルバムが売られているのをよく見ましたので、数はそれなりに出たのでしょう。つまり、おそらくそれなりに多くの人がこの曲を聴いたはずですので、この曲のよさがもっと話題に上るべきではないか……と思っております。思っておりますので、せめてここに微力ながらこの文章を記しておきたいと思う次第であります。
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2017年03月11日
カズミ
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『プルシアンブルーの肖像』八曲目、「カズミ」です。
六土さん作曲の、インストゥルメンタルです。このアルバムはつくづく、玉置さん以外のメンバーもタダものではないということがよくわかるアルバムなんですが、この曲もかなりカッコいいです。
ただ、怖いです(笑)。矢萩さんといい星さんといい……六土さんも、カズミちゃんを悪霊か何かだと勘違いしていないでしょうか。いやまて?もしかしてカズミちゃんを悪霊だと思っていないのは、もしかしてわたくしだけなのでしょうか?逆に心配になります。この怖さは、「カズミ」というより「六条の御息所」というほうがあたっているのではないか、と思われるほどのものです。
では、その怖い曲を勝手に四部に分けて語ってゆきたいと思います。メインテーマの第一部、ギターリフから始まる激しい第二部、ストリングスの第三部、再びメインテーマの第四部です。おお、こうして四つに分けると、なんだか交響曲みたいですね。
さて、ひとつひとつ語ってゆく前に、なんですが、第一部と第四部のベースの音のことを記しておこうと思います。このベースの音、「ズ!ズ!ズ!ズム!と、なんだか音色が、通常の四弦ベースじゃないように聴こえるのです。もっというと、シンセベースではないか?と思われます。どういう意図があったのかわかりかねますが、ベーシストの六土さんがご自分でベースを弾かない……いや、シンセベースですからご自分で鍵盤をお弾きになったのかもわかりませんが、ともかく通常の手法ではないことは確かでしょう。うーん、もしかしたら弾いてみたけど、他の音とミックスしたらいまいち合わなかった、そこでシンセベースで替えてみたらしっくりきた、といった事情だったのでしょうか……いやこれは普通のベースだよ、ちょっとあとからエフェクトかけて加工してあるけど、とかかもしれないですし、もしかしたら六土さんほどの凄腕ならピッキングの強弱などでシンセベースっぽい音を出すことができる、ということなのかもしれません。最新鋭の機材を使いこなす80年代のナウいミュージシャンなら、それらしく演奏技術のほうはもっとヘッポコであってほしいのですが(大偏見)、ニクいことに安全地帯は揃いもそろって腕も天下一品なのです。これほど音の正体をつかみにくいミュージシャンもなかなかいません。
さてさて第一部です。「シャッ!シャシャシャッ!シャ! シャッ!シャシャシャッ!シャ!」と、ざわめく風のような音が遠くから聴こえてきて、そこにピン!と張り詰めたピアノの音が、単音でメインテーマの旋律を繰り返し重ねてゆきます。そしてメインテーマが若干変化するタイミングでベース(シンセベース?)とドラム(これもシンセドラム?)が「ズ!ズズッズッズッ!(シュコーン!)ズ!ズズッズッズッ!(シュコーン!)」と加わり、だいぶ不穏な迫力あるアンサンブルになるのです。この箇所、ピアノがメイン旋律であるということはすっかり忘れて、リズムに心を奪われてしまい、もはやどちらが主役なのかわからなくなります。メタリカの「オライオン」に近い感覚ですね。ああ、そういや「オライオン」もベーシストのクリフが作った曲でした。たった二曲で語るのは噴飯ものであるのは承知しているのですが、もしかしたらベーシストの中にはこういう音楽観・アレンジ志向を持っている人がいるということなのかもしれませんね。
気を取り直して第二部です。ギターのやたらかっこいいリフ(武沢さんかしらん?)をリードに、ベース、ティンパニ、笑い声(後述)、ストリングス、を重ねて曲は一気に大音量、もっとも激しい箇所に突入します。ここは……カッコいいですよ!わたくしのようなハードロック好きにはたまらないです。ストリングスが神経を逆撫でするかのように高音域を鋭く切り取り、ベースとドラムが老獪なリズムを刻む、その隙間に、低音部の鍵盤を用いたピアノが主旋律と思われるメロディーを奏でます。おお……これは、そんじょそこらのロック馬鹿(わたくし等)には到底作り出せないカッコよさです。安全地帯のメンバーはみんなそうといえばそうなんですが、六土さんは、到底ベストテンとかトップテンなどにしょっちゅう顔を出している世界の住人じゃないように思えます。今剛さんが宇多田ヒカルのバックでテレビに出ていてビックリ!レベルの職人的なミュージシャンじゃないのか、と思えてなりません。
ところで第ニ部の終わりに、「キャキャキャキャ~」と不気味な女の笑い声みたいな音が入っており、これはこれまでも曲調の変わり目でも用いられているのですが、なんでしょうこれ?怖いんですけど(笑)。まさかカズミちゃんの声をイメージして……いてほしくないです。うーん、おそらく、サンプリングして鍵盤にアサインしておき、ここぞというタイミングで川島さんが鍵盤を叩きまくった、ということなのでしょうか。とにかく怖いです。頼むからカズミちゃんを悪霊扱いしないでください(笑)。
第三部では、ストリングスがメインで、はじめは穏やかでやさしい、しかしどこか悲しげな旋律を奏でます。ホッとしたのもつかの間、いきなり恐ろしげなコーラスとともに大音量で驚かしてきます(笑)。ここがこの曲で一番迫力があって怖いところでしょうか。いかにもクライマックス感が爆発です。むりやり物語に当てはめるなら、カズミちゃんが落下するところでしょうか。そう考えると、第一部は雪の校庭、人気がなく、カズミと秋人だけの約束の場であり、第二部は旧校舎の中、「タダシ」君に会える会えないで緊迫する音楽室、駈けぬける廊下、そしてこの第三部が行き着いた時計塔、ということになるでしょうか。第四部は全てが終わった後、雪の降り続ける校庭に場面が戻ってくる……ああ!書きながら腑に落ちてしまいました。スミマセン悪霊扱いしたとか何とか生意気なことを申しまして(笑)。でもあの「笑い声」だけはご勘弁くださるとうれしいのですが……(諦めが悪い)。
さて第四部は、ピアノによるメインテーマ、(シンセ)ベース、(シンセ)ドラムで、第一部の繰り返しのようになっています。ただ、メインテーマが変化する前に、足音のような音が響き始め、足音だけを残して他の音はフェードアウトしてゆき、足音もやがては去ってゆきます。これはカズミちゃんの足音ではなく、時計塔の旧校舎を後にする秋人の足音である、と考えれば、辻褄が合います。ああ、わたくし、この記事を書くまで、この足音は、誰かを怪奇現象で驚かして(しかも笑い声をあげながら)去ってゆくカズミちゃんの足音だと思っておりました。それはいくらなんでも原作のイメージから逸脱しすぎだろう、と勝手に不満を感じていたのですが、この記事を書いて勝手に解決してしまいました。いやーよかったよかった。
例によって、わたくしが勝手に一人合点しているだけで、ぜんぜん解決などしていない可能性のほうが高いです(笑)。あれですね、完全に差別されたり抑圧されたりしている被害者が、加害者のことをなぜか好意的に解釈して勝手に有難がっているような感じかもしれません。そういう気の毒な人もいて、それを最大限利用する卑劣な人もいるのが人間の世の中なのでしょう。それはいつかなくすべき悲しい構図なのですが、音楽の世界でなら、今回のわたくしみたいに、勝手に解釈して勝手に満足するといういうことがあってもいいんじゃないのか……とちょっと思ってしまいました。
ああ、いかんいかん、このブログはマゾヒストのブログなどでは断じてございません(笑)。今後も頑張ってどこまでも自由に妄想してまいりたいと思います。
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2017年03月01日
冬花
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『プルシアンブルーの肖像』七曲目、「冬花」です。
「夢」の記事で散々書いたことですが、これは「夢」のインストゥルメンタル版です。そして、玉置さんの歌がないぶん、とでもいうべきでしょうか、ごくわずかなシンバルの音が加えられ、リズムを刻んでいます。さらに、間奏が、ハーモニカ……と「夢」では書きましたが、わたくしあまり楽器に詳しくないもので(ダメじゃん)、ほんとうにハーモニカなのかは判じかねるのですが、ともかく郷愁をかきたてるような音色で奏でられています。
……と、「夢」の記事ですっかり調子に乗っていろいろ書いてしまったためにネタ切れを起こしているのがバレバレな記事なのですが、「夢」が「冬花」に対する「秋人」なんだ、と書いたのですから、その逆も書いてみたいと思います。
劇中では、この曲は冬花ちゃんと秋人が屋上で踊る曲として使われています。なに呑気なことしてるんだ人(仮面ライダーの役者さん)が死んでるのに!という野暮なツッコミをなしにすれば、緊迫感を増してゆく物語後半のなかで束の間訪れた平和なひと時といえるでしょう。
なぜ平和か……?それは、冬花ちゃんの「夢」の世界だからなのではないでしょうか。
冬花ちゃんにとって、屋上は逃避の場所です。そこはクラスメートからの理不尽な圧力から避難するための場所でもありますが、同時に、多分にメルヘン趣味な自らの想像力を発揮する場所でもあるのです。
わたくし他人になったことはございませんので(当たり前)、他人の心のなかがどうなっているのか、とんと知りませんから、冬花ちゃんのメルヘン趣味が他者に比して幼すぎるものなのか、その想像力は逞しすぎるものなのか、ほんとうのところはわかりません。
「えー、小六にもなって王子様とかいってるなんて信じられなーい!」
「『りぼん』とか『なかよし』はさすがに卒業してる時期でしょ、その頃なら『別冊マーガレット』くらいでないとバカバカしくて読んでられなくない?」
……うーん、これらの発言が、本当であるのか、それとも少女たちの目いっぱいの背伸びであるのか、他人には、本当にはわかりません。ですが、まあ、大勢は上の発言のような態度であるらしいです(笑)。それはそれは、冬花ちゃんには生きづらい学級環境であったことでしょう。
いっぽう、秋人は言葉を失っていますから、けっして冬花のことを傷つけることを言いません(言えません)。そして内心でも、冬花をバカにした様子は一切見せません。まあー、大のオトナからすれば、『りぼん』の世界も『別冊マーガレット』の世界も大差はありませんし、どうでもいいことですから、バカにする理由もないでしょう。何より、(原作では)冬花にはカズミの面影があって、秋人はそれに魅かれていますから、冬花にはひたすらやさしいです。これは、裏事情を知らない冬花にとっては王子様的に感じられる……ようになる要素がある……かもしれません。秋人が当初は変質者然としていたのでやや苦しいですが(笑)、秋人と、屋上で踊るというのは、冬花が自分の「夢」の世界を広げ、そこで遊ぶということだったのです。
そんなこんなで、この「冬花」と「夢」は、ただの同一曲に歌をのせたかインスト版にしたかだけの違いしかないのではなく、もしかして意図的につくりあげられた、対をなす曲なのではないか……と、妄想をたくましくすることで、以前とはすっかり違うことを考えるようになってしまいました(笑)。いや、きっかけは、ほんとうにわたくしが以前考えたように、「冬花」が先にあって、玉置さんが「歌を入れてみようか」と思っただけなのかもしれません。しかし、そこに松井さんの詞が加わって「夢」ができ、その詞があまりに秋人の心情を示唆するものであったがために、松井さんが意図的にこのような二曲の構図をつくろうとしたのではないか……と思えてきたわけです。
いつものごとく、松井さん本人が「え?全然そんなことないんだけど?」とおっしゃればそれで終了のお話です(笑)。まるで80年代に流行ったノストラダムス本のようです。どれもこれもノストラダムス本人が「それはただの詩だよ、何だよ預言って、そんなの知らないよ」と言えば終わる話ばかりでしたね。1999年7の月、外れたのはノストラダムスの「詩」ではなく、その「詩」をもとに好き勝手な解釈をして作り上げられた「預言」のほうだったのではないでしょうか。まあーいいかー面白かったし。
本ブログに書かれていることは、基本的に妄想ばかりです。本ブログの内部でしか通用しないことばかりですので、ご注意ください。信頼すべき情報である場合には、可能な限り第三者がチェック可能な方法でことわりを入れさせていただきます。いきなり何をとお思いになるかもしれませんが、わたくしいま、自分でノストラダムス本の話題を書いておきながら、一緒にされたくない気持ちでいっぱいなのです(笑)。
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2017年02月20日
プルシアンブルーの肖像
『プルシアンブルーの肖像』六曲目、「プルシアンブルーの肖像」です。
安全地帯の十一枚目のシングルであり、この映画のテーマ曲でもあります。
この曲はなんといっても「はなさない」「はなせない」の連呼が印象的です。印象が強すぎてあまり他の部分を一聴して覚えられないくらいです(笑)。歌詞がひらがなであるのには、もちろん意味があるでしょう。
普通に考えれば「離さない」ですよね。「話さない」ではないでしょう。秋人が言葉を失ったから「話さない」では、「悲しいあなたがきれいで」の意味がなくなります。しかし、「話せない」のほうは意味が通ります。「願いはもう捨てて」ほしいのは、もうそろそろ自分の口から想いを伝えてほしいという願いには(臆病で)応えられないからだ、でも、信じて、「そのままで」待っていてほしい「迷い」なんて不要なんだ……(何と自分勝手な!)と読むことができます。こう読むと、「離せない」ではいまいち意味が通りにくいことにも気づいてしまいます。もちろん、抱きしめた腕を解くことができない、どうかこのまま時よ止まっておくれ的な意味であるという可能性もあるのですが、映画の秋人のおそろしく自分勝手な臆病さを表現していてほしいというわたくしの願いで、「話せない」であってほしいと思えるのです。
実は、この「はな」すが「離」す「話」すの掛詞であるというアイデア自体は、わたくしが思いついたものではありません。ネットのどこかで読んだものです。ソースを確認してリンクさせて頂こうと思ったのですが、わたくしの検索スキルではもう確認できなくなってしまっていました……申し訳ありません。ちなみに解釈のほうは、例によってわたくしのオリジナル妄想です(笑)。
さらに、恋物語やその一シーンを描くのでなく、いま、この瞬間の、「離したくない」「話せない」気持ちだけを描く、という方針に切り替えた、もしくはこういう方針の詞もラインナップに加えられるようになった、ということが、この曲ではっきりします。「好きさ」「じれったい」の生まれる土壌が、ここで醸成されたということができるでしょう。
さて、アレンジにも言及しておきたいです。玉置さん風にいえば「エレキギターバリバリ」の曲なんですが、ギターの音がとても抑えて収録されているので、あんまりバリバリには聴こえません。これは武沢さんによるものだと思うのですが、当時としてはかなり激しいディストーションサウンドなんです。しかし、抑えられたミックスのおかげで、90年代の高校生ギタリストが買ったばかりのマルチエフェクターでHIDEさんを目指して作った、歪みすぎの抜けが悪いドンシャリサウンドのように聴こえてします(ズバリ、当時のアチキの音です笑)。ひらたくいえば、現代的なギターサウンドではありません。この曲以外ではとても独特なサウンドを駆使していますので、時代を超越しており少しも古臭く聴こえないのですが、この曲ではオーソドックスなディストーションサウンドを作ったがために、古く聴こえてしまうわけです。武沢さんのサウンドメイキングがいかにものすごいレベルにあったかを、逆に示す曲になっているといえるかもしれません。
2010年のツアーでは、目の前で大型キャビネットをガッツリ鳴らされたので、かなり驚きました。こ!これは!オールドのチューブアンプ直の音だ!と思ったのですが、武沢さんの足元には今も昔もペダルがあって、Bメロからサビに移る瞬間にブーストをするのも変わりません。ネットで拾った情報ではVOXの、誰でも買えるようなマルチエフェクターをツアーでは使っているそうですが、とても信じられません。現代的ディストーションサウンドに生まれ変わった「プルシアンブルーの肖像」は、現代ロックファンの心を震わせるに十分のド迫力ギター・チューンになっていました。『安全地帯HITS』に収録されているバージョンが一番近かったでしょうか。ライブアルバムだと、どうしてもホール全体での鳴りになってしまっていて、あのガッツリ感が感じられにくいように思われます。
ディストーションギターのことにばかり言及してしまいましたが、クリーントーンのギターもけっこう存在感を発揮しています。Bメロで「こわくないよ(オーン、オーン、オーン)」と鳴っている音は、シンセではなくギターでしょう。安全地帯の曲を聴き込んできた人でないと、シンセだと判断するかもしれません。ふふふ、このわたしは騙されないぞ~(バカ)。これが矢萩さんででしょう。そして、「こわくないよ(ツクツクツクツクツクツクツクツク~)」と鳴っている音が武沢さんだと思われます。どっちもいい音ですねえ。かなり大音量のアレンジにもかかわらず、ハッキリ聴こえます。80年代歌謡曲のバックで弾いていたスタジオミュージシャンにはごく当然のスキルだったようですけれども、のちのバンドブーム以降では、こういうキレイなクリーントーンはあまり聴けなくなった気がします。バンドブームギタリストさんにとっては、クリーントーンとは、単に歪みエフェクトを使わない、というだけのことだったのでしょう(スバリ、アチキです笑)。
ギターを抑えることを含む、なんらかのミックス思想にもとづいているのでしょうけども、ベースはかなり大きく聴こえますね。Aメロではとりわけ大きく聴こえます。Bメロ以降は単に八分で刻んでいて、かつ他の楽器もかなり音量が大きいですからね。玉置さんもかなり叫びぎみですし。
ドラムは、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、すべてパターンを変えています。Aメロはベースとほぼリズムを合わせて、かなり重厚感を出しています。Bメロはとくに言及することもない八分(ベースと合わせるので当たり前です)、サビと間奏は驚異の八分バスドラ踏みっぱなし!ベースと揃うだけでなく、ボーカルと合わせているのです。そう、「はなせない」は何のひねりもない八分刻みのリズムなのです。「は」「な」「せ」「ない」にすべてドラム、ベースが同時に鳴っている、ということです。これが単調に聴こえないのがまた凄いですね。これは……と思ったのですが、この曲に似たアレンジパターンのハードロックの曲を、思いつかないということに気がつきました。う、うお?
そんなバカな?わたくしハードロック馬鹿にはわりと自信があるのですが、こういう曲が好きだったらあのバンドも聴いてみるといいかもよ?といえるバンドがまるきり思いつかない曲なのです。もしや、この曲は新しいパターンのハードロックなのでは?うーむ……自信があるだけで、実は全然ハードロックに詳しくないだけであるのかもしれません。もし、この曲に似たアレンジパターンのハードロック楽曲をご存知の方がいたら、わたくしにぜひ教えてください。
残念ながら、当の安全地帯にも類似の曲はないように思われます。つまり「I Love Youからはじめよう」からみた「情熱」のような、もうひとつの「プルシアンブルーの肖像」が思い当たらないのです。これは何を意味しているのでしょうか……。飽きた?(笑)そうではないとしたら?メンバーがこの曲を気に入らず、もう二度とこういうアレンジでは曲を作りたくない?そのわりにはライブでも積極的に演奏しているように思われます。そうであるならば……この曲を嫌いではなく、こういうアレンジをするにもやぶさかでない、とすれば、こういうアレンジにふさわしい曲が再び現れなかった、ということなのでしょう。
ハードロック的な意味でのこれほどヘヴィな楽曲は、これ以降の安全地帯には見当たらないのです。安全地帯はハードロックバンドだ、と言い続けてきた当ブログの方針も、ここに転換点をはっきり見いださなくてはならないでしょう。正確には、安全地帯のロックが進化していき、他のハードロック勢とは分離していった、ということだとわたくしは考えています。他のハードロック勢の音楽がハードロックと呼ばれ続けていたのは、単に当時は大勢を占めていたというだけのことなのでしょう。事実、この曲当時から約20年が経過した現在、当時のハードロックと呼ばれた音楽を演奏するバンドはもうほとんどいません。いたとしても、懐古的な指向でわざとそうしているだけでしょうから、ある意味伝統芸能集団に近いといえるでしょう。
安全地帯はそうした伝統芸能集団ではなく、進化し続けるトップミュージシャンであることを選んだのでしょう。そのことは、わたくしのような、懐古ハードロックマニアにとっては、この「プルシアンブルーの肖像」を望み続ける気持ちを諦めなくてはならないということを意味します。そんな切なくも激しく美しい「肖像」を、20年も前からわたくしは壁の特別な位置に飾り、ときおり見上げてはうっとりと見続けているのです。
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2017年02月17日
ゆびきり
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『プルシアンブルーの肖像』五曲目、「ゆびきり」です。
童謡のような、やさしい曲です。この曲が一番好きという声をよく耳にする名曲です。
いきなり余談ですが、わたくしこのアルバムを録音したテープを、同級生に貸したことがございます。パナソニックのいまはなきハイポジションテープで、ご丁寧にインスタント・レタリングまでしておいたやつです。時代ですねえ。余談のなかにさらに余談ですが、そのテープはナショナルの電器屋さんでしか手に入りませんでしたが、値段の割にやたらと音がよかったので、TSUTAYAとかで売っているTDKとかマクセルとかには見向きもせずに愛用していたのです。で、その珍しいテープを返してもらうときなんですが、
「ゆびきりが一番好き」「そう、いい歌だよね」「でもこれって、ロリコンの歌だよね」「え?」「だって赤い服とか小さな靴とか」「ああー……」
なんという暴言!わたくしが少なからぬ財産や時間や労力を投入した安全地帯の精神世界を「ロリコン」よばわりするとは!いやー、まあー、財産とはパナソニックのテープ代金280円とかですし、時間や労力といってもCDからテープに録音する時間とかその間レタリングにいそしんでいたこととかですが、それにしてもロリコンはないだろうロリコンは(笑)。
歌詞をただ虚心にみつめれば、晴れた日に、麦わら帽子かなにかを被った小さな女の子が広い野原で夕暮れ以降まで遊んでいるのを、青年~オジサン~もしかしたらおじいさんが、目を細めてみている、そして家に帰る前にまた会おうねと言ってゆびきりをする、という内容なんです。問題は、その青年~オジサン~もしかしたらおじいさん、の性癖がロリコンに該当するか否かです。いやー、この歌詞だけで特定・認定するのはきわめて困難と言わざるをえません。よって無罪!さきの暴言を吐いた者への処分は追って通知があります(笑)。
うーん、「中年男性が女子中学生に道を尋ねる事案が発生しました」などと警察がネットで発表するようなご時世では、無事ではすまない情景を描いた歌である疑いもないではありません。しかし、これはこの歌の世界よりも、どちらかといえばこのご時世のほうがクレイジーなのではないかと検討してみたくなります。みんなが快適な世の中を目指しているはずなのに、じつに不思議なことです。松井さんも、自分の書いた詞がよもやロリコン呼ばわりされることがあろうとは、1980年代中盤には思いもよらなかったことでしょう。
ひさしぶりに『Friend』を紐解いてみますと、「はじめて詩を書いたときのことを思い出して」お書きになったそうです。ああ、なんという純粋さ……そしてなんというロマンチストっぷり!うっとりです。それなのに、わたくしが真似をすると、事案発生などと報じられかねません。なんだか不公平な話です(笑)。
さて、肝心の曲ですがエレクトリック・ピアノによるアルペジオの伴奏に、ベース、ハーモニカが絡んでゆき、途中でストリングスがエレクトリック・ピアノと交代する、という基本構成になっています。ベースは……ちょっとわたくしの耳では判じかねますが、普通のベースの音ではないように聴こえます。六土さんがフレットレス・ベースをお使いになったか、もしくはストリングス担当の加藤グループさんに所属するベーシストさんがコントラバスをお弾きになったかだと思います。そして、これはおそらく初の試みでしょうけども、少年合唱団のコーラスが入ります。クレジットを見ると「森の木児童合唱団」とありますね。これはかなりの数のレコードを出している超有力合唱団です。現在は「ことのみ児童合唱団」になっているようです。この曲を聴いていても「巧い!」と思いますものね。玉置さんも、おそらくこの曲をきっかけにして、その後「夢のポケット」「このゆびとまれ」等の少年合唱団をコーラスに用いる曲をお作りになるようになったのではないでしょうか。
何とこの曲、ライブバージョンがありますよね。『安全地帯LIVE』のラスト、「ありがとう!また会おうね!」というセリフが入る箇所は明らかにレコードをかけてますが、その前の箇所は、中西さんがお弾きになったのでしょうか、エレクトリックピアノの伴奏で、コーラスもメンバーが担当して演奏しています。これは目の前で聴きたかったですね……今となっては仕方がないのでDVDをみて、ヘッドホンの大音量で浸るしかありません(笑)。DVDでは、お客さんが武道館から出てゆく映像が重ねられているんですが、これがまたいいんですね。みんな、心から満足した感じがよくわかります。ライブの終わりに、この曲を背中に武道館を去るなどという贅沢をしてみたい気もしますが、おそらく、もったいなくて演奏終了まで居座りたい気持ちが勝るでしょう。ああ、もちろん、実際のライブでも演奏が終わってから客電が点灯して、安全に順番にみなさんお帰りになったことと思います。ビデオの編集でこの曲が流れているうちに観客が退場してゆくという演出にしただけのことなのでしょう。
「さよなら さよなら また逢える」
わたくしはいつでも、きっとこれが今生の別れとなるだろうと思われるときにはなおさら、「また会える」といってお別れします。それは紛れもなく、この曲の影響なのです。
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2017年02月15日
時計塔のテーマ
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『プルシアンブルーの肖像』四曲目、「時計塔のテーマ」です。安全地帯のプロデューサーである星勝さんの曲ですね。
もともと星さんは、編曲を担当することになったら、すべての音を書き込まないと気が済まない性格の人のようです。ほとんど星さんの作曲といったほうがいいんじゃないかというくらいの曲でさえ、クレジットは「編曲」であるようで、なんだかソンしているような気がしなくもありません。でも「編曲」というクレジットが存在するからにはそれくらいして当たり前だよね~というアレンジャーやプロデューサーの誇りみたいなものが感じられて、わたくしはそんな星さんに憧れる次第であります。小椋さんとか来生さんとかの曲を聴いていても、ああ、これ星さんの編曲だなってわかるじゃないですか。そこがたまらないですね。
さて、肝心の曲のほうですが、
これは、怖い曲です。時計塔が因縁の場所なのですから、怖い曲になるのは当たり前なんですけども、それにしてもかなり怖いです。
冒頭、メインテーマ……といってもいでしょう、のフレーズが、ボワボワした音色で奏でられ、その後ストリングス系の音色に引き継がれるのですが、ずっと「キュイイイイ…キュイイイイ…」という冷たい風のような音と、水が流れるような音が背景に流れているのです。なんで時計塔に水が流れているんだよ!と突っ込みたくなるんですが、それはアレです、「激しい雨」(「プルシアンブルーの肖像」より)が降っているわけですから。映画本編では、「激しい雨」では説明がつかないくらいの量で水が使われているのですが、あの時計塔にはかなりの量の水が備蓄されており、さまざまな用途(おもに怪奇現象演出)に用いられていたと考えるべきでしょう。あ、ふざけているんじゃないんですよ。ほんとうに怪奇現象を演出していたのです。詳しくはノベライズ本で。
そして「ジャン!ジャジャジャジャン!」とかなり強い音で驚かす箇所があります。これは、だいぶ昔のMIDIシーケンサーの知識になりますが「オーケストラ・ヒット」という音色でしょうね。わたくしがMIDIをいじくり回していたのは90年代以降ですが、すでに小さなシーケンサーにもこの音色は存在していたので、おそらく80年代にもあったのでしょう。TMネットワークとかで小室さんもこういう音を出していましたね。そうした最新鋭の機材を、川島さんはいち早く使いこなしていた、ということなのでしょう。川島さんや小室さんがこういうふうに使っていてくれなければ、90年代にわたくしがこういう音を使おうという発想を持てたはずがないのです。安全地帯の「最新鋭」(玉置さん談)は、こういう箇所にわざとらしくなく、違和感なく使われているので、安全地帯の音ってナウいね~!とかいう人は私の周囲では皆無でしたが、実は最もナウい(そろそろ体がかゆくなってきました)音だったのです。
さて、時計塔が鳴るかのような激しくも短いピアノによるリード部を終えた後、また冒頭のメインテーマに戻ります。こういうところ、なんとなく歌謡曲やロックの感じで、星さんのこだわりが感じられるようでうれしいすよね。そして、風の音、水が流れる音を残して、時計塔が遠ざかるカメラワークのようなイメージで、曲は終わります。
怖い場所のテーマなのだから、怖い曲にするのは当たり前です。星さんは見事に怖い曲をお作りになったわけです。安全地帯のアルバム、という位置づけでなかったからこそ、遊び的な感覚で星さんの曲でも入れてみようかということになった……?うーん、そういう側面もあるのかもしれませんね。でも、わたくしには安全地帯が星さんを頼った、もしくは星さんを中心とした作曲チームだと自分たちを見なしていた、だから、星さんにお願いした、とみるほうが自然であるように思われます。矢萩さんが一曲で、六土さんが一曲で(これはかなり珍しいことです。当時は、矢萩さんによる「一秒一夜」以外は、すべて玉置さんの作曲だったからです)、じゃあもう一曲だね、豊も一曲書く?いやーちょっと忙しいかな~じゃあ、星さん書いてよ!ええー僕かい?うん、それもいいかもね、いいよー!とか、そんな感じで決まったのではないでしょうか。あ、いつもの妄想で恐縮ですが(笑)。
ともあれ、この「時計塔のテーマ」は、星さんの作曲クレジットが記されているとても珍しい曲(安全地帯では唯一ですね)とあいなったわけです。うーん、なんて違和感がないんだ。安全地帯とほぼ一体化したかのような曲です。さすがです。というよりも、普段から安全地帯の曲にどれだけ星さんが貢献しているのかがわかるかのような、凄まじいアレンジャー魂、プロデューサー魂を感じることのできる曲といえるでしょう。
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2017年02月09日
夢
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『プルシアンブルーの肖像』三曲目、「夢」です。
これは珍しい三拍子のバラードです。玉置さんの曲で三拍子って……「夢のポケット」「氷点」「瞳の中の虹」くらいしかパッと思いつかないんですが……八分の六拍子だろそれは、約分するなというものも混じっていそうですが、それはご勘弁ください(笑)。
安全地帯の曲としてリリースされたもので、もしかして初の三拍子なのではないでしょうか。間違っていたら赤っ恥ですが(笑)。わたくしが言いたいのは、冬花ちゃんが踊るためのワルツ曲を作った、それがインストゥルメンタルの「冬花」だった、その曲を思いのほかメンバーやスタッフが気に入り、「冬花」に歌詞をつけて玉置さんが歌ったのがこの「夢」なのではないか……と、制作秘話みたいなものが妄想できる、ということなんです。
そして、この曲によって、三拍子の曲もいいなあ、たまには作ろうかね、と玉置さんが思って、のちに「夢のポケット」や「氷点」などが生まれたのではないか……と、妄想に妄想を重ねて、もはや遊んでいます(笑)。
さて、この「夢」、「冬花」の歌入り版なんですが、よく聴いてみると、若干の違いがあるように思われます。
すぐに気づくことですが、間奏の……あれはハーモニカでしょうかね、「冬花」にはあったソロがありません。あのハーモニカによってだいぶ牧歌的な感じになっており、少女が踊っていても不思議はない感じになっていたのですが、それに対し「夢」は、物静かな青年がひとり物思いにふけっている感じです。
ハーモニカだけの効用ではないでしょう。「冬花」にあったシンバル……タンバリンを太ももで叩いているときのような音ですが……によるリズムが、この「夢」には入っていません。少なくとも、玉置さんの歌が入る以上、これらの音は不要と判断なさったのでしょう。わたくしも不要だと思います。もちろん、レコーディングのときに仮にわたくしがスタッフだったとしても、自分からそんなこと進言できるはずがありませんけども。レコーディングされたものをあとから聴くからわかるのであって、レコーディングの時点でそんなことわかるはずがありません。これはほんとうにプロとアマの差でしょう。
玉置さんの歌だけに集中させるかのごとく、クリーントーンのギター、ベース、ストリングスの音だけで伴奏が行われているように思われます。なんとドラムもないのです。田中さんはヒマだったことでしょう(笑)。このギターのクリーントーンは、矢萩さんじゃないかな、とわたくしは思っているんですが、あまり自信はありません。前奏に、アコースティックギターもかすかに聴こえますので、これが武沢さんなんじゃないかな……。ハーモニカのなくなった間奏でよく聴こえますね、アコースティックギター。前奏のアコースティックギターと、音の違いはわたくしにはほとんどわかりませんが、前奏だけやけに弦をこする音が聴こえますね。なぜでしょう……ここだけ本当の生アコギで弾いてホール前でマイク・オンにした……?ちょっと謎です。
歌詞なんですが、これがまた映画のイメージそのままですよ。この映画の原案が松井さんですから、松井さんがこの映画にどのようなイメージをもっていたのか、歌詞のほうでドンピシャに表現されているとわたくしは思っております。
歌うのが玉置さんですから余計にそう感じるんですが、この曲はインスト曲「冬花」に対する「秋人」なんだと思います。そう、タイトルは「夢」なんですが、わたくしはこの曲の本来のタイトルは「秋人」だと思っております。
磯崎亜希子ちゃんと高橋かおりちゃんは、ちっとも似ていないのですが、原作では、カズミと冬花は似ていることになっています。このキャスティングが映画を分かりづらいものにし、秋人を単なる変質者的に描いてしまうことになったわけです。磯崎亜希子ちゃんと高橋かおりちゃんというスター少女を二人も迎えることができたので、「面影」なんて構想は吹っ飛んだのでしょう(笑)。違うんだ!秋人が冬花に近づいたのは、カズミの面影があったからなんだ!美少女だからとかじゃないんだ!ましてやいじめられて心が弱ったところを狙ったわけでもないんだ!わかってくれ!……いや、わたくし秋人の身内でも何でもないですけど(笑)、これじゃ秋人(と原作者)があんまりかわいそうです。この意図をはっきりさせるためには、多少無理があったとしても一人二役にするべきでした。磯崎亜希子ちゃんがいいか高橋かおりちゃんがいいかは、好みの問題でしょう。
カズミと冬花がよく似ているからこそ、「今日までのさみしさ」は、あの惨劇のあと心を閉ざしてきた十五年間のさみしさであり、「夢なんだと思って」は、カズミの生まれ変わりかと見まごう少女に出会った喜びであり、「あなたの名をいいかけ」は、カズミ、といいそうになって、いやあれはカズミじゃないんだ、と気がつき泣けてくる……そんな秋人の心情を表現していると、読み取れるわけです。
こんな構想が、スター少女二人の豪華キャスティングによって吹っ飛びましたよ!多賀さん!どうしてくれるんですか!(笑)
実際には、多賀さんのせいじゃないかもしれません。現場にはイロイロな力学が働いているものでしょう。監督という立場は大変ですねえ(無責任きわまりないヤジウマ)。
そんなこんなで、この詞が、映像によってわかりにくくなってしまった原作の世界をよく表現しているようにわたくしには思われるのです。
え?そんな気は全然なかったんだけど……浩二がこの曲を歌ってみたくなったから詞を書いてくれって突然言い出したから、映画のこととかあんまり考える余裕もなくサラサラ書いたたけなんだけど……とかだったら、いつものことながらすべて崩壊する妄想です。多賀さん、申し訳ありませんでしたああああ!(アホ)
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