『安全地帯V Friend』六曲目、「Friend」です。
シングル曲でもあり、この『安全地帯V Friend』タイトルナンバーでもあるこの曲、即死級の破壊力をもつ超名バラードになっています。
「HEY HEY HEY」に玉置さんが出演なさったときに、かつて番組ではじめて共演した薬師丸さんにカラオケに誘われ、この曲を歌ってほしいと言われた、とお話しになっていました。なんとロマンチックな!でもなんと現実とリンクしていて寂しいエピソードなんでしょう。これで薬師丸さんが「Wの悲劇」でもお歌いになっていればバッチリすぎます(笑)。
その番組ではゲストでまだ新人に近かったMr.Childrenが「Tomorrow never knows」を歌い、そこに鈴木杏樹が花束を渡しに行っていたんですけど、「ちょうどあんな感じだった」と、自分と薬師丸さんとの出会いを語ってらっしゃいました。いやー玉置さん、桜井さんとじゃ役者が違いますよ。ドゥービーのトム・ジョンストンとマイケル・マクドナルドくらい違いますって。よくわからないたとえです(笑)。
【追記】どうもわたくし、「HEY! HEY! HEY!」と「ミュージックフェア」がごっちゃになっているようで、このエピソードがどちらの番組のものか、自信がもてなくなってきました。鈴木杏樹さんがいるからには「ミュージックフェア」なんだと思えるんですが、記録をみると「HEY!HEY!HEY!」で玉置さんがチャンプだったときのゲストはたしかにMr.Childrenのようです。
さてこの曲、ピアノでよく知られたフレーズを奏でるところから始まります。この音……ふつうのピアノの音じゃないですよね。おそらくエレピなんですけど、アルペジオのほうは「パーティー」と同じエレピで間違いなさそうなんですが、アコースティック・ピアノの音も混じって聴こえます。そして、メインフレーズのほうは、音色が違いますよね。ふつうに考えればシンセですけど、もしかしてアコースティックピアノの……ハンマー近くにマイク・オンで録ったのでしょうか……それで本当にこの音になるかはわからないんですが、とにかく響きが凄いです。まあ、ライブでもほぼ同じ音が聴こえますから、おそらくはシンセなのでしょう。
で、歌に入ったあとのピアノは、エレピじゃなくてアコースティック・ピアノの音色のように聴こえます。わたくしの耳がポンコツだという可能性が最も高いのはいつものことなんですが(笑)、もしわたしの耳がある程度正しいとすれば、これはものすごい執念であらゆる音色の組み合わせを試してこのようにした、ということになります。
そして前奏では、田中さんのバスドラムが「ドッドッ……ドッドッ……」とリズムを刻んでいます。それが、バスドラだけなんです。おそらくは、デモをヘッドホンに流しながらそれを聴いて叩いたのでしょう。レコーディングというものは、みんなセーノで演奏しながらレコーディングするのではなく、一人ずつレコーディングしてあとからミックスするんですが、ドラムが最初なんですよ、通常は。だから、いちばん音の手がかりがない状態で始めなくちゃいけないんですね、ドラマーは。それだとこのバスドラだけというのは手がかりがなさ過ぎて叩きづらいですから、おそらくはかなり完成品に近いレベルまで作ったデモを聴きながら叩いたものと思われます。そうでないのなら、いくら田中さんでもこれは神業すぎますが、「え?メトロノームだけしか使ってないけど?」とかサラッと言いそうで怖いです(笑)。
さて、ピアノとドラム(バスドラだけ)に乗せて、玉置さんの歌が始まります。始まりなのに「さよなら」から始まるのがもの凄いですね。基本的にはアコースティック・ピアノで、「言えないまま」の「いえ」「ない」にかぶせているフレーズがエレピの音に聴こえます(しつこい)。そして六土さんのベースが始まり……
と、ここまではいいのですが、ギターの音がわたくしにはほとんど聴こえません。しいて言えば、サビの裏でアルペジオを、そしてコードストロークを八分で弾いているように聴こえますが、とにかくわかりづらいです。2010バージョンを聴いて、ようやくああ、これはギターの音だろうな、となんとか推定して、また1987版に戻って「やっぱり聴こえるよホラホラ」とか非常にむなしいことを思ったりするわけです(笑)。アルペジオはピアノと、そしてコードストロークはハイハットとほぼ同じタイミングですし、とにかくストリングスとコーラスが大きめにミックスされていますので、もともと聴き取りづらいのかもしれませんが、これではとても武沢さんと矢萩さんの音を聴き分けるどころではありません。
ライブ映像で、間奏の終わりに武沢さんがボリュームを下げているような仕草をするシーンが一瞬映りますので、間奏で聴こえる音が武沢さんのはずだ!とか思ってよく聴いてみたのですが、まるでギターの音が聴こえません。ここまで聴こえないと、鳴っていないと言ってもいいでしょう。武沢さん、あのとき、何をしたんですか?単に「シールドが緩んでないか確認しただけだよ」とか言ってほしいです……。
そんなこんなでわたくし、この曲のアレンジ聴き取りはほとんど惨敗と言っていいでしょう(笑)。ライブでの間奏及び後奏でのオーボエ・ソロを吹いた方が、おそらく平原智さんで、平原綾香さんのお父上だろうということだけは、書いておきたいと思います(スタジオ版では、坂宏之さんがオーボエ奏者としてクレジットされています)。
惨敗の大きな原因となったストリングスとコーラスの大きさですが、「ギターが聴こえないんだよチクショウ、もっと音量下げやがれ」とかいうのは完全に本末転倒ですよね。このくらい大きくしないと、玉置さんの歌に負けて、盛り上がりに欠けます。とくにこのストリングスの美しさといったら!この怒涛の失恋ソングを究極にまで悲しく切なく彩ります。失恋の真っただ中でうっかり聴いたら立ち直れないほどの切なさです。それくらい、この曲にはピッタリのアレンジだといえるでしょう。コーラスも低音で、卑怯なくらい心の切なくなるスイッチをグリグリと押しまくってきます。これは、玉置さんの歌との合わせ技をくらうと、悶絶ものの大技です。ダメージゼロのルンルン気分からでも、一気に瀕死寸前まで追いやられること間違いありません。
そこへ、松井さんの確信犯的な歌詞が追い打ちをかけます。これはひどい!まさにジェットストリームアタックです(想定する対象読者を激しく間違えているたとえ)。
そう、石原真理子さんとの物語が、終わったんだ……と、誰でも容易に想像することのできる歌詞なんです。
よりによって「友達」なんてことばを選び、玉置さんにそれを歌わせるなんて……残酷すぎます。でも、それはおそらく、玉置さんの気持ちでもあったのでしょう。何しろ、松井さんと玉置さんは、一体化しているのですから……
みつめても、もう、せいぜい友達でしかない、そういつまでも、友達であってくれれば……
きれいだよ、ともう気安くいえない友達、そう、もうせいぜい友達、友達であってくれたらそれで……
グチャグチャになった心は、なんとか整理をつけよう、バランスを取ろうともがきます。その途中で考えたことや、うっかり友人にしゃべってしまったりした内容は(笑)、およそメチャクチャとしか言いようのないものでしょう。こういうときはしばらく誰とも話さずに黙っているのがしばしば得策なのですが、松井・玉置コンビは、なんと、信じられないくらい美しいバラードに乗せて全国に発信するという荒業に打って出ました。これは暴挙ですが、あとから見れば必然性のある暴挙といえるでしょう。安全地帯のつくってきた物語が、ここでいったん章を改めたんだということが、はっきりしたのですから。
シングル「Friend」のわずか二か月後にリリースされたシングル「好きさ」が、アニメ『めぞん一刻』のテーマソングになり、その実写版で音無響子さんを石原さんが演じたのは、もちろん単なる偶然でしょう。偶然でないとしたら、これはおそるべき悪趣味といわなくてはなりません(笑)。
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