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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2017年05月03日

Friend


安全地帯V Friend』六曲目、「Friend」です。

シングル曲でもあり、この『安全地帯V Friend』タイトルナンバーでもあるこの曲、即死級の破壊力をもつ超名バラードになっています。

「HEY HEY HEY」に玉置さんが出演なさったときに、かつて番組ではじめて共演した薬師丸さんにカラオケに誘われ、この曲を歌ってほしいと言われた、とお話しになっていました。なんとロマンチックな!でもなんと現実とリンクしていて寂しいエピソードなんでしょう。これで薬師丸さんが「Wの悲劇」でもお歌いになっていればバッチリすぎます(笑)。

その番組ではゲストでまだ新人に近かったMr.Childrenが「Tomorrow never knows」を歌い、そこに鈴木杏樹が花束を渡しに行っていたんですけど、「ちょうどあんな感じだった」と、自分と薬師丸さんとの出会いを語ってらっしゃいました。いやー玉置さん、桜井さんとじゃ役者が違いますよ。ドゥービーのトム・ジョンストンとマイケル・マクドナルドくらい違いますって。よくわからないたとえです(笑)。

【追記】どうもわたくし、「HEY! HEY! HEY!」と「ミュージックフェア」がごっちゃになっているようで、このエピソードがどちらの番組のものか、自信がもてなくなってきました。鈴木杏樹さんがいるからには「ミュージックフェア」なんだと思えるんですが、記録をみると「HEY!HEY!HEY!」で玉置さんがチャンプだったときのゲストはたしかにMr.Childrenのようです。

さてこの曲、ピアノでよく知られたフレーズを奏でるところから始まります。この音……ふつうのピアノの音じゃないですよね。おそらくエレピなんですけど、アルペジオのほうは「パーティー」と同じエレピで間違いなさそうなんですが、アコースティック・ピアノの音も混じって聴こえます。そして、メインフレーズのほうは、音色が違いますよね。ふつうに考えればシンセですけど、もしかしてアコースティックピアノの……ハンマー近くにマイク・オンで録ったのでしょうか……それで本当にこの音になるかはわからないんですが、とにかく響きが凄いです。まあ、ライブでもほぼ同じ音が聴こえますから、おそらくはシンセなのでしょう。

で、歌に入ったあとのピアノは、エレピじゃなくてアコースティック・ピアノの音色のように聴こえます。わたくしの耳がポンコツだという可能性が最も高いのはいつものことなんですが(笑)、もしわたしの耳がある程度正しいとすれば、これはものすごい執念であらゆる音色の組み合わせを試してこのようにした、ということになります。

そして前奏では、田中さんのバスドラムが「ドッドッ……ドッドッ……」とリズムを刻んでいます。それが、バスドラだけなんです。おそらくは、デモをヘッドホンに流しながらそれを聴いて叩いたのでしょう。レコーディングというものは、みんなセーノで演奏しながらレコーディングするのではなく、一人ずつレコーディングしてあとからミックスするんですが、ドラムが最初なんですよ、通常は。だから、いちばん音の手がかりがない状態で始めなくちゃいけないんですね、ドラマーは。それだとこのバスドラだけというのは手がかりがなさ過ぎて叩きづらいですから、おそらくはかなり完成品に近いレベルまで作ったデモを聴きながら叩いたものと思われます。そうでないのなら、いくら田中さんでもこれは神業すぎますが、「え?メトロノームだけしか使ってないけど?」とかサラッと言いそうで怖いです(笑)。

さて、ピアノとドラム(バスドラだけ)に乗せて、玉置さんの歌が始まります。始まりなのに「さよなら」から始まるのがもの凄いですね。基本的にはアコースティック・ピアノで、「言えないまま」の「いえ」「ない」にかぶせているフレーズがエレピの音に聴こえます(しつこい)。そして六土さんのベースが始まり……

と、ここまではいいのですが、ギターの音がわたくしにはほとんど聴こえません。しいて言えば、サビの裏でアルペジオを、そしてコードストロークを八分で弾いているように聴こえますが、とにかくわかりづらいです。2010バージョンを聴いて、ようやくああ、これはギターの音だろうな、となんとか推定して、また1987版に戻って「やっぱり聴こえるよホラホラ」とか非常にむなしいことを思ったりするわけです(笑)。アルペジオはピアノと、そしてコードストロークはハイハットとほぼ同じタイミングですし、とにかくストリングスとコーラスが大きめにミックスされていますので、もともと聴き取りづらいのかもしれませんが、これではとても武沢さんと矢萩さんの音を聴き分けるどころではありません。

ライブ映像で、間奏の終わりに武沢さんがボリュームを下げているような仕草をするシーンが一瞬映りますので、間奏で聴こえる音が武沢さんのはずだ!とか思ってよく聴いてみたのですが、まるでギターの音が聴こえません。ここまで聴こえないと、鳴っていないと言ってもいいでしょう。武沢さん、あのとき、何をしたんですか?単に「シールドが緩んでないか確認しただけだよ」とか言ってほしいです……。

そんなこんなでわたくし、この曲のアレンジ聴き取りはほとんど惨敗と言っていいでしょう(笑)。ライブでの間奏及び後奏でのオーボエ・ソロを吹いた方が、おそらく平原智さんで、平原綾香さんのお父上だろうということだけは、書いておきたいと思います(スタジオ版では、坂宏之さんがオーボエ奏者としてクレジットされています)。

惨敗の大きな原因となったストリングスとコーラスの大きさですが、「ギターが聴こえないんだよチクショウ、もっと音量下げやがれ」とかいうのは完全に本末転倒ですよね。このくらい大きくしないと、玉置さんの歌に負けて、盛り上がりに欠けます。とくにこのストリングスの美しさといったら!この怒涛の失恋ソングを究極にまで悲しく切なく彩ります。失恋の真っただ中でうっかり聴いたら立ち直れないほどの切なさです。それくらい、この曲にはピッタリのアレンジだといえるでしょう。コーラスも低音で、卑怯なくらい心の切なくなるスイッチをグリグリと押しまくってきます。これは、玉置さんの歌との合わせ技をくらうと、悶絶ものの大技です。ダメージゼロのルンルン気分からでも、一気に瀕死寸前まで追いやられること間違いありません。

そこへ、松井さんの確信犯的な歌詞が追い打ちをかけます。これはひどい!まさにジェットストリームアタックです(想定する対象読者を激しく間違えているたとえ)。

そう、石原真理子さんとの物語が、終わったんだ……と、誰でも容易に想像することのできる歌詞なんです。

よりによって「友達」なんてことばを選び、玉置さんにそれを歌わせるなんて……残酷すぎます。でも、それはおそらく、玉置さんの気持ちでもあったのでしょう。何しろ、松井さんと玉置さんは、一体化しているのですから……

みつめても、もう、せいぜい友達でしかない、そういつまでも、友達であってくれれば……

きれいだよ、ともう気安くいえない友達、そう、もうせいぜい友達、友達であってくれたらそれで……

グチャグチャになった心は、なんとか整理をつけよう、バランスを取ろうともがきます。その途中で考えたことや、うっかり友人にしゃべってしまったりした内容は(笑)、およそメチャクチャとしか言いようのないものでしょう。こういうときはしばらく誰とも話さずに黙っているのがしばしば得策なのですが、松井・玉置コンビは、なんと、信じられないくらい美しいバラードに乗せて全国に発信するという荒業に打って出ました。これは暴挙ですが、あとから見れば必然性のある暴挙といえるでしょう。安全地帯のつくってきた物語が、ここでいったん章を改めたんだということが、はっきりしたのですから。

シングル「Friend」のわずか二か月後にリリースされたシングル「好きさ」が、アニメ『めぞん一刻』のテーマソングになり、その実写版で音無響子さんを石原さんが演じたのは、もちろん単なる偶然でしょう。偶然でないとしたら、これはおそるべき悪趣味といわなくてはなりません(笑)。

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2017年04月30日

シルエット

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安全地帯V Friend』五曲目、「シルエット」です。

これも二分足らずの小品です。しっとり、という言葉がピッタリのバラードですね。

リムを中心に叩いて雰囲気盛り上げに徹する田中さん、一番忙しそうな六土さん、シャリーン!カローン!と極上サウンドを奏でる矢萩さん、武沢さん、そしてささやき歌唱の極致を極めたかのような玉置さん、安全地帯メンバーはこんな小品にも、相も変わらず全力投球です。

とかなんとか書いておきながら、矢萩さんと武沢さんの音の区別をつけにくい曲なので、さらっと流してお茶を濁してしまおうかという誘惑にかられたのですが(笑)、頑張って聴ける限り書いてみたいと思います。

こういうとき、わたくしはよくライブ音源で耳を澄ますことから始めるのですが、『To me 安全地帯LIVE』では、ギターの位置が二本ともかなり真ん中よりにミックスされているように思われるのです。しいて言えば右、やや手前に聴こえる音が武沢さん、そしてやはりしいて言えばですが左、奥から聞こえる音(ヘッドホンだと頭の裏に聴こえてくるような感覚です)が矢萩さんでしょう。立体的でカッコいいです。

……で、どの曲でも同じ位置だと仮定してですが、この「シルエット」では、ほとんど武沢さんの位置からしか音が聴こえてきません。この「シャリーン!」「カローン!」も、武沢サウンドに聴こえます。そして、矢萩さんの位置からは、ごくたまに「アレ?」と思うくらいにしか音が聴こえてこないのです。それも幻かもしれません(笑)。もしかして、この曲はほとんど武沢さんしかギターを弾いてないのではないでしょうか。この曲は映像もないので、確かめようがありません。うー、この日の武道館、行きたかったです。これを確かめるためだけにでも(笑)。ほかの可能性としては、ふたりともほとんど同じフレーズを弾いていて、ミックスの時にだいたい同じ位置に聴こえるようにしたか、このときだけ矢萩さんのアンプ前マイクかレコーダーか、どっちかに不具合が発生したか、なんですが、どっちもありそうにありません。一番可能性が高いのは、わたくしの耳が悪いということです(笑)。

五人(四人?)のほかには、冒頭から、おそらく川島さんのシンセ、そして途中からホーンが入ってますよね。相変わらず管楽器は何の音かさっぱり聞き分けられないのがとても悔しいのですが(笑)。何の音かはわかりませんが、効いてますね。玉置さんはサポートメンバーが多すぎることに、のちのち嫌気がさしていくのですが、多くの人が力を合わせて作ったものにはそれだけの凄さがあるのも確かでしょう。絶品と言っていいんじゃないでしょうか。むしろ、YOSHIKIさんやイングウェイさんがオーケストラとかと共演することも厭わないのと比べれば、よくぞこれだけのメンバーでやり遂げたといえるでしょう。

さて、歌詞品評会のお時間です(笑)!

まず、「青い星座が」の時点ですでに現実感は吹っ飛び、イメージの世界へ聴くものを誘います。どうやったらこんな言葉を思いつくんでしょう!「黒い電話が」とか「赤い林檎が」みたいに、現実に存在する、もしくはしうるものじゃダメなんです。星座に青いも赤いもあるもんかい!とツッコミを入れることなど思いもよらずに、人は宇宙空間に恋人と二人きりで浮かぶのです。まるでZガンダムのコクピット内のように現実感のない空間を、いともたやすくイメージできるのです。

そこで二人は、愛を確かめ合う以外には、何もすることがありませんし、それで退屈ということもない、恍惚の時間を過ごすのです。

わたくしの、かつて組んでいたバンドでは「優先順位がおかしい」という理由で恋人にフラれてしまったメンバーがいるのですが、それは多分にわたくしのせいでして(笑)、わたくしが色々面白おかしいことに年から年中連れ回すせいで、恋人のほうはすっかり置いてけぼりをくった格好になってしまったのです。

人は、現実には恋人だけに夢中になれる時間はあまり設けられないものなのです(自分の責任はすっかり棚に上げて)。しかしそれでも恋人たちは、互いのことをしっかり見つめる時間を切望します。両者のタイミングが合致した時をどれだけ実感できるかは、恋愛の満足度を大きく左右するに違いありません。この歌詞は、そんな忙しい恋人たちの、「合致した」タイミングの一コマを切り取ったものであるように思えるのです。そんなとき、恋人たちは「夢を占う」ような些細なたわむれさえも、それがうれしくてたまらないわけです。「たったいま」は貴重なタイミングであって、それは「いま」でしかないことはわかっているのに、消えてほしくない。永遠に続いたら困るのは重々承知しているんですが、それでも消えてほしくないのです。心に「ふれていたい」、もちろんそれは物理的に不可能で、実際には「抱いていたい」という形をとるのですが、その差に傷つく暇すらなく「(心に)ふれていたい」「抱いていたい」が交互に起こるひとときに……また、何を書いているのかわからなくなってきました(笑)。いや、ですから、中高生お断りレベルの歌詞なんですね。大学生でも、この感覚はわかりにくいんじゃないでしょうか。社会や生活というものにある程度翻弄されていないと、こんな切実さは出ないものです。

あくまでオトナで、恋人と会う場所と時間にやや不自由しているお年頃の、恋愛におけるかなり幸せなワンシーンのみを切り取った歌だといえるでしょう。最後に気づきましたが、この切り取り方はすごい!前後の物語が少しもわかりませんが、それでいいのです。完璧です。

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2017年04月22日

ふたりで踊ろう

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安全地帯V Friend』四曲目、「ふたりで踊ろう」です。

いや、やっとですね。前曲のフリとして使われてから、この曲もっと聴きたいんだけど、と思っていたのに別の曲(「パーティー」)が始まっちゃったから、どうなっちゃったのと思っているうちに、バーンと始まるわけです。この、やっと来た!感が味わえることで、一種独特の痛快さがあります。間に挟まった格好になった小品「パーティー」の魅力に気づいてからも、それは変わりません。

この曲のすごいところはですね、コード進行がずーっと同じだということです。最初から最後まで。BOOWYのON MY BEATなみに同じです。ああ、そりゃラクだからぜひコピーしよう、なんて気には全然なれないところもすごいです。

田中さんと六土さんは、シンプルに徹したものと思われます。六土さんなんて、ほとんど一小節に二回しか音出してないです。八分で刻みたい病にかかっているわたくしには、かなりの苦行です(笑)。でも、ガマンにガマンを重ねて……ってわけでもなさそうなんですね。この曲には、そうする必然性があるからそうしてるだけ、という、いつもの安全地帯リズム隊イズムが発揮されているように思われます。

『To me 安全地帯LIVE』の映像を見て実感がわくことなのですが、とにかくこの曲はホーンセクションのアオリがものすごいです。え?スタジオ版でもこんなに入っていたっけ?と思ってスタジオ版を聴きなおすと、うーん、やっぱり入ってるんですね。ライブ版はスタジオ版よりギターの音がかなり聴きづらくなっていまして(これはホールである以上、ある程度仕方ありません)、相対的にホーンセクションの音がかなり目立つようになっているわけです。

その合間を縫ってというべきか、ギターはギターらしいフレーズに特化しているように思われます。矢萩さんが歪んだ音でハーモニクスを入れたり、武沢さんが短音リフを入れたりと、まるでイーグルスのように渋い二人がそのまま渋いことを思う存分やっているように思われます。

そうなんですね、安全地帯っていうのはいつでも楽曲の完成度優先で、俺の音を目立たせようとかあんまり考えてないように思えるんです。この曲も、ホーンセクションがこういうアオリをするほうが曲が引き立つからそういうアレンジにした、だからリズム隊はごくシンプルにリズムを刻んで、ホーンセクションの効果を最大限に活かそうとした、だからギターはその隙間を埋めるために印象的なフレーズを入れることに徹した……と、このように、自分が目立たなくていいどころか、オリジナルメンバーが目立つ必要すらない、とまで考えたかのような、おそろしく自制の効いたアレンジになっています。

コード進行がずっと変わらず、言ってみればワンパターンなのに、飽きずにあっというまに聴ききってしまいますね。まあ実際二分にも満たない曲なんですが、それにしてもアレンジが見事なために、ワンパターンを感じさせないつくりになっています。わたくしなど、ひとつひとつの楽器の旋律を追いかけながらじっくり何度も聴く習慣がございますもので、飽きるなんてとてもとても(笑)。

ホーンセクションの音は分解しながら聴くことはできませんので、それがこのアルバムを聴くことの妨げになっているのが、とても悔しいです。中学校や高校で吹奏楽とかやってたらそういう耳に育ったんでしょうかね……まあ、いまさら後悔しても遅いですし、中学や高校のときのわたくしが吹奏楽に興味を示すことは、何度生まれ変わってもなさそうですから(嫌いなんじゃなくて、縁が遠いんです)、仕方ないんですけども。

玉置さんの歌と松井さんの歌詞は、もはや完全に一体化しており、松井さんが玉置さんに歌わせている、という雰囲気は微塵も感じることができません。玉置さんの歌いたいものを松井さんが書き、松井さんの書きたいものを玉置さんも求めていて歌う、という次元に達しているように思われます。そう思われるだけで、実際は全然違うのかもしれませんけれども。松井さんの詩の世界が先にあって、玉置さんが後からその詩に命を吹き込む……って感じじゃないんですね。この『安全地帯V』と比べてしまうと、『安全地帯II』や『安全地帯III 抱きしめたい』は、まだそういう雰囲気を残していたように聴こえます。

「Honey」とか「恋のみせしめにDance」とか、ほんとうに玉置さんが言ってそうじゃないですか(笑)。いや、言ってるんですけど、歌詞としてじゃなくて、自分の中から発した言葉として言ってそうなんです。「一番嬉しいんのは、松井五郎が見えなくなること」と松井さんはおっしゃってましたが(『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)、いやいやいや松井さん、わたくしには見えます!もちろん見えているのは玉置さんの歌う姿ですが、それと完全に一体化した松井さんの姿が、いや、現象が、玉置さんの歌にのっているのが、わたくしには見えます!もう、何を書いているのかわからなくなってきました(笑)。

さて、曲全体の雰囲気としては、「眠れない隣人」「Happiness」「こしゃくなTEL」路線、ここに完成!というべきでしょうか。勢いも言葉遊びも、ノリにノっています。これ以降、この路線を継承した曲がパッと思いつきませんので、これでこの路線はひとまず完成したとみるべきかもしれません。考察を続けるうちに、また「実はこの曲が後継だ!」とか言い出すかもしれませんけども、その際はご容赦ください。

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2017年04月16日

パーティー

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安全地帯V Friend』三曲目、「パーティー」です。

最初に、受信状態の悪いラジオみたいなローファイサウンドで、「ふたりで踊ろう」が流れるんですが、これは演出です。当時は、不良品じゃないのか?と思われた方もいたそうです。そりゃ、ねえ、歌詞カードに「これは演出であって不良品ではありませんのでご安心ください」とか書かれていたら、興ざめです。聴いてりゃわかるんですから、余計なことは一切書かないのが当然です。

これは「ふたりで踊ろう」が流れている会場で、あるいはそれを受信しているラジオ(実況中継?)が流れている部屋で、壁の花になっている不慣れな感じの女の子に注目した、という話です。

パーティーの様子が実況中継されているって、どんな状況でしょう。ミニFMとかですかね。あんまりラジオにこだわらないで、パーティー会場そのもので、どこか一歩引いちゃって積極的に参加できない様子を表現していると考えるほうが自然かもしれません。実際、次の曲で、男に手を引かれて少女が一気に「はじける」様子が表現されているわけですから。

可愛らしい、モジモジした壁の花の女の子、それに目をつけ「誰よりもきれい」と元気づけてダンスに誘う男、なんてシチュエーションは、さすがに80年代の好景気のさなかでも、そうそう見られるものではなかったことでしょう。70年代の少女マンガとかで描かれた社交界じゃないんですから。ここに松井さんのおそろしさがあります。70年代の少女漫画で育った女の子たちが、ありもしないパーティーデビューを飾るような年頃になった80年代中盤に、こういう物語をよりによって玉置さんに唄わせるのです。うっかりこんな世界が日本のどこかにはあるんじゃないかと思っちゃうじゃないですか!そして80年代後半に東京圏の大学へ進学し、ダンパコンパに明け暮れるという……おお!まさに!(笑)。

冗談は置いとくとしても、松井さんの世界構築力、玉置さんの表現力にしっかり酔える曲です。アレンジは、エレクトリックピアノ、サックス、シンセサイザーと……田中さんもバス・ドラの16ビートだけは参加したのでしょうか?ちょっと疑わしいですね。ともかく、かなりシンプルなもので、バンド編成を必要としない曲です。これは、案外サポートメンバーだけで録音したのではないでしょうか。安全地帯のメンバーが録音する必然性がちょっと見当たりません。ライブ盤でも、SEで「ふたりで踊ろう」の導入として使われているだけですしね。

これは、玉置さんが作り上げた音楽を余すことなく収録するために(とはいえ、このとき用意されたデモ音源は100を超えていると読んだ記憶がありますから、厳密には「余すことなく」とは言えないんですけども)、松井さんが世界を作り、メンバー以外のミュージシャンで録音したと、わたくしは考えております。

というのは、レコーディングに臨むためには、キッチリ個人練習をしなければならないでしょうから、安全地帯のメンバーだけで仕上げることのできる曲数というのは、おのずと限りがあると考えられるからです。この、全36曲という数は、おそらく多忙を極めるメンバーにとっては、仕上げる限界を超えているでしょう。しかも、玉置さんによれば「一日三曲録ったりしてた」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)そうですから、想像を絶するペースです。おそらくバンドアンサンブルを明確に要求する曲以外は、サポートメンバーでどんどん録音していったものと思われます。この「パーティー」も、そんな曲の一つだと考えられます。

しかし……このかわいらしさは、どうでしょう!玉置さんのこの声!やや無機質なエレクトリック・ピアノが奏でる高音のリフ!小さな靴で逡巡するような、細かく刻まれたバス・ドラ!そして、最後に流れる、不穏なストリングス、キーのCで終わらず不協和音的なGから、一気にAの「ふたりで踊ろう」に流れるという終わり方!これは、破壊力抜群です。見事に高校出たての、不慣れな女の子です。おお、現代なら未成年に「ワイングラス」はヤバいとか言われちゃいますね(笑)。それにしても、表現されている年ごろは同じくらいでしょうに、太田裕美の「赤いハイヒール」みたいな悲壮感がないところが、80年代の明るさなのでしょう。

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2017年04月14日

Miss Miss Kiss


安全地帯V Friend』二曲目、「Miss Miss Kiss」です。

世紀末風の「遠くへ」から一転、悪女志願の女性と戯れるスケコマシダンディの歌です。一曲目ですっかりシリアスな気分に浸っていた気分を一気に現実世界に戻すかのような、いささか乱暴な曲順だといえなくもありません。

ただ、前記事で書いたことなんですが、80年代中盤は、核ミサイルの恐怖を抱えつつ、バブル経済の予兆のなか享楽的に過ごす時代でもありました。だからどっちが現実でどっちが夢想というわけでもなく、どちらもリアルな感触を持って聞くことがのできた時代でもあったわけです。

まあ、わたくしその頃はまだ核ミサイルの恐怖に肝を冷やして『北斗の拳』を読んでいるようなお年頃でしたから、悪女と戯れるダンディなんて文化は体験してないわけですが。そんなこと言ったら核ミサイルだって飛んでこなかったですねえ。なんだ、どっちもマンガとか映画とかビデオとかの世界じゃないですか(笑)。

さて、この曲、軽快なリズムでギター、ベース、ドラムがメインフレーズを奏で、ホーンセクションがキメで曲を盛り上げるという80年代後期安全地帯の豪華さを象徴するラインナップで始まります。そしてそして、リズムが印象的ですねえ。『惑星』ツアーで演奏されているバージョンを聴くと、リズムが先、メロディーは後、で作られた曲なのではないか?という思いが強くなります。それくらい、リズムの印象が強いのです。

志田歩さんは、「ロマンティックなメロディとアフリカ的なリズムを滑らかに融合させた」と、このころの安全地帯の曲を評しています。玉置さんもそれにこたえて「もともとはリズムから先に曲を作って、メロディはそれにのせてホニョホニョフニャフニャ歌いながら作っていくほうが性に合っている」とおっしゃっています(『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)。「アフリカ的」かどうかは、わたくしの見聞ではわかりかねますが、欧米、日本のロック界・歌謡界ではあまり聴かれないものだということは、言えるかもしれません。

そう、リズムが心地よい、という感覚は、これまでの安全地帯の音楽ではあまりなかったように思われます。「カッコいい!」という感覚は存分に味わっていますが、それは「ロック的」にカッコよかっただけなのかもしれません。

私事ですが、わたくしバンドで作曲を担当しておりましたが、リズムのことでドラマーともめることがありました。ドラマーなんですからリズムに造詣が深いのは当たり前なんですが、わたくしはシンプルで「ロック的」なもの以上のものは求めようとしなかったんです。ドラマー的には、もっと工夫したい、もっと心地よくしたい、それが「カッコいい」んだ、と思っていたわけですから、話が合わないのは当然です。ドラマーはわたくしのコンポで多くの変わったリズムをもつ音楽を鳴らし、わたくしのリズム感覚を鍛えようとしました(笑)。変なリズムに一日中さらされたわたくしはすっかり頭にきて、13分の11拍子とかのわけのわからないリズムを織り交ぜた変態的な曲を作り、デモテープのためにリズムマシンをプログラムするドラマーを悩ませるという報復策に打って出たのです。で、いざリズムトラックを完成させられてしまったら、今度はわたくしがギターが弾けなくて悩むという窮地に陥るわけです。アホですね。それでできた曲がよければいいんですが、そうでもなく。不毛とはまさにこのことです。

だから、リズムのことはある意味過去の心の傷になっているんですね。実際、志田さんの、このくだりを読んだとき、ああー、そうかー、なんだかイヤだなあ、とわたくしは拒絶反応を示したのです。ですが、何十年も聴いて骨や肉になっていた安全地帯の曲が、こんなにリズムにこだわったものであると気づかされ、ハッとしたのも事実です。それまでに気づかなかったくらいにわたくしはボンクラでもあるのですが、メロディとリズムの融合が「滑らか」すぎて自然だったということもいえるでしょう。

さて、曲はイントロのアレンジパターンのまま、Aメロに突入します。Aメロ、といってしまって気づくのですが、この曲、明確なBメロがないままサビに入りますね。言ってみれば「ブリッジ」「ヴァース」の関係になっているんです。「罠のしかけ場所 教えて」から直接サビに行かずにもういちどその前の部分を繰り返し、「罠のしかけ場所 教えて」に相当する箇所のないままサビに行きます。だから「キャンドルみたいなBODY〜教えて」がブリッジで、「浮かれた悪女〜だしぬきなさい」がヴァースということになるのでしょう。こんなパターン、ほかに思い出せるでしょうか? パッとは思いつきませんね。曲の構成マニアでないかぎり、パターン別に曲を分類して記憶しているなんてことはないでしょうから、すぐに思いつくことなんてもともとまれなんだとは思うのですが、それにしても珍しい構成の曲だといえそうです。玉置さんはリズムだけでなく、曲の構成でも新しい試みをした、正確には自分のなかにあるものを、リズムにせよ構成にせよ、型にとらわれず形にし始めた、のかもしれませんね。

さてサビなんですが、八分の通常のドラムに、なにかにぎやかなシンバルっぽい音が「シャシャシャシャ……」と入っていますね。これはハイハットの音じゃないでしょう。いってみればタンバリンを膝でたたいたような音なんですが(「冬花」でも同じようなことを書きましたね)……パーカッションでクレジットされているどなたかが叩かれたのでしょうか。何と効果的な!通常のドラムセットの音にこだわらず、効果的な音を躊躇なく入れた、という感じがします。玉置さんか、ほかのメンバーか、川島さんか、星さんか……どなたかが思いついたことを、すぐに試せるだけのスタジオミュージシャンをそろえて実現できるだけの力量を、この当時の安全地帯は備えていたのです。現代だったらパソコンのDAWソフトで一発なんですが、当時は人力ですからね。豪華なもんです。

間奏では、おそらく武沢さんによる、スパニッシュギターっぽい音色のソロが入ります。そのバックには、おそらく川島さんによる不思議シンセが響きます。このアレンジパターン、『オリジナルサウンドトラック プルシアンブルーの肖像』に似ていますね。ほとんど映画本編に使われなかった曲たちですが、この『安全地帯V』で炸裂することになる素地を作ったという意味で、もっと評価されてもよいアルバムでしょう(いまさら感たっぷり)。

歌詞も「みすみすキス」なんて、「恋の呪文はスキトキメキトキス」みたいで面白いですね。Missという若い女性を思わせる当て字も見事です。松井さんの言葉遊びも、語感の似た言葉を並べてその妙を楽しむという枠をはるかに超え、新しい次元に突入したのではないかと思わせる絶好調さです。そして「うかれた悪女のセンスで 心をだしぬきなさい」なんて、さらっと書くあたりも、なんて魅惑的なんでしょうか。完全に誘っています(笑)。

この曲は、『安全地帯IV』までのストイックな音楽制作の経験による蓄積を、怪作『プルシアンブルーの肖像』(映画のことですよ)を経て開花させ、そしてたどり着いた境地「リズム」「メロディー」「アレンジ」そして「歌詞」の新次元での融合を、二曲目という早い段階で知らしめた曲であるといえるでしょう。

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2017年04月09日

遠くへ


安全地帯V Friend』一曲目、「遠くへ」です。

イントロの時点でもう、このアルバムの名盤であることが確信できる象徴的な曲です。この三枚組アルバムにはシングル曲「Friend」「好きさ」「夏の終りのハーモニー」をはじめ、有名な曲がいくつも含まれているのですが、この「遠くへ」こそが『安全地帯V』のイメージ全体を象徴する曲として、見事に役割を果たしているのです。

そういう曲がラブソングでなかった!ということは、安全地帯の物語的な意味での路線が変更された、あるいは新しい色が加わったことを意味します。『安全地帯VII 夢の都』の「きみは眠る」、『安全地帯VIII 太陽』の「1991年からの警告」、といったように、深刻なテーマを唄うものがアルバムの先頭に来ることで、安全地帯の音楽、そしてそれが表現する愛の物語に、ぐっと深み、渋み、奥行き……といったものを与えているようです。最近はすっかりそんな手法は見られなくなりましたが。ああ、『安全地帯XII 清く 正しく 美しく』の歌詞カード冒頭に書いてあった玉置さんの文章が、これに似た役割を果たしていたといえるかもしれませんね。

短音でクリーントーンのリードを響かせるギター、ドーンと老獪に伸ばしたベース、リムでリズムをとるドラム、これだけで、もうテーマは色恋などでなく、なにかもっと深刻なものだということがわかります(笑)。そして不穏に短音リフを刻むギター(「エイジ」に似ています)、響き渡るサックス、短い短音フレーズを繰り返すピアノ……歌詞が表現する荒廃した世界に立ち、途方に暮れている情景でしょうか、武装モヒカンが「ヒャッハー」とか言っていないだけで、『北斗の拳』に近い光景を思い浮かべてしまいます(正確には、わたくしが『北斗の拳』を好きすぎて、それしか連想できないだけです)。

そして、リムのリズムはそのままに、バスドラがドド!ドド!と大地を踏みしめるようになり始め、玉置さんの歌が始まります。「太陽の塔」が落ちてくるって、よくわかりませんが、ただ事ではありません。大阪万博のあれではないでしょうから、おそらく核爆発によって生じた何らかの現象をさしているのでしょう。

核爆発ってなんだよいきなり、とか思わないでください。80年代中盤は、ほんとうに核ミサイルの恐怖を、みんなが少しずつは抱えていたんですよ。まだ冷戦まっただなかでしたし、ソ連の核ミサイルが発射されてから着弾するまでに十数分しかかからないから、核シェルターをいずれは用意しなければならないとか、核シェルターがない人は『風が吹くとき』みたいに自宅を改造したほうがいいんじゃないかとか、助かっても最低二週間は外に出ちゃいけないとか、そういう話がそこかしこにあったんですよ。ですから、この曲を聴いて、核戦争を連想するのは、至極まっとうとまで言ってはおかしいかもしれませんが、少なくとも突飛なことではありませんでした。いま思うと、よくあんなコワい状況で暮らしていたもんだなあ、と思います。

そして短いBメロ……「声が聴こえる」の箇所ですが、ここでようやくバスドラ、スネアの組み合わせによるドラミングが響き、それによって曲が速くなったような感覚を与えます。これが、歌詞世界の切迫感とリンクするという……信じがたいほど見事な曲なのです。そう、この曲は、すべてのアレンジに、確実に歌詞世界とリンクした意味・役割がある、という、ちょっとやそっとの素養や技術じゃ到底できない作品なんです。空間を切り裂くような「ジャイーン!」というギターも、ごく単純なフレーズが、どこか無機的に繰り返されるピアノも、なんとマッチしていることか!

そして間奏、これは、ギターソロもなく、せっかくのサックスも目立つソロを奏でるでなく、リズムの変化をこそメインにした、珍しい間奏です。のちのドリーム・シアターにちょっと似てますね。というより、こんなことは安全地帯とかドリーム・シアターくらい技量のあるバンドでないとできないかもしれません。怖いですよ、何かで埋めないと。経験の足りない教師が授業開始から終わりまでずーっとしゃべっているのに近いですね。沈黙が怖いんでしょう。沈黙を作ることで生徒がそこで何かをじっくり考えて、何かを得るかもしれないという発想ができないんですね。いっぱいいっぱいで自分と今しか見えてないですから。そんなわけで、ここの安全地帯は、ベテラン教師の授業のように、あえて目立つソロを使わずに、隙間をつくっているように思われます。

圧巻のサビ、「People Walking」の箇所も、玉置さんの悲痛な叫びが、もう他の歌手はこのテーマで歌わないでくれと思うほどに、避難民の悲しき旅路を唄います。……そして武沢さんのカッティング!極上トーンでのカッティング!これが、ゆくあてもなく走る避難民の焦る気持ち・息遣いを表現しているように思えてなりません……そして曲はイントロと似たフレーズから玉置さんの短い歌へと聴く者を導き、曲を終えます。

なんて悲愴な!何も「悲しみにさよなら」を大ヒットさせた余韻がまだありそうなうちに、こんなぎりぎりの世界をいきなり表現しなくても!……わたくし、当時はあまりそんなことは考えず、ただただ圧倒されていました。今だから、このときの安全地帯がいかに進化していったか、ある程度冷静にみられるようになっているような気がします。

二人称のラブソングでないものもやりたいね、できるさ、という会話が、松井さんと玉置さんの間であったそうです(松井五郎『Friend』より)。

……二人の天才が、しかもこんなに相性よく作品を生み続けてきた二人が、何もかもうまくいっていたこれまでの方法から、天才であるがゆえにあえて一歩を踏み出した、記念碑的な曲だといえるでしょう。

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2017年03月28日

『安全地帯V』

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安全地帯五枚目のアルバム、『安全地帯V』の紹介です。

みなさんご存知の通り、このアルバムは曲数36と、とんでもない大型アルバムです。アナログで三枚組(一枚目『Friend』、二枚目『好きさ』、三枚目『Harmony』)、CDで二枚組と、レコードがまだ高かった時代に、中高生泣かせの値段でした。6000円とかでしたね。アナログなら一枚ずつ買うこともできたそうですが、買う人がどれくらいいたんでしょうか。だって、あるならぜんぶ聴きたいじゃないですか……。

「三枚組のアルバムを作ろう!」と玉置さんはおっしゃったそうです(松井さんの『Friend』より)。

「二枚組っていうのはあっても、三枚組を出す人はいないだろうと思って」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)

わたくしの手元にあるものですと、ビートルズのホワイトアルバムが二枚組30曲収録で、これが『安全地帯V』に次ぐボリュームです。世の中には三枚組以上のアルバムもあるのかもしれませんが、少なくとも1986年当時にはなかったことでしょう。

さてさて、この『安全地帯V』、三枚組のものとして鑑賞するのが「正しい」という主張をなさる方がいらっしゃいます。カセットやMDにわざわざ三枚組に録音しなおしてお聴きになり、非常に腑に落ちる感触を得られたと聞きます。おお……それは確かにその通りでしょう。なんせ安全地帯は三枚組として出したのですから。CDは録音時間を長くすることができるので(節約のために?ケースが存在しなかったために?)渡りに船とばかりに、あるいはやむを得ず、二枚組にしたのであれば、二枚組として聴くのは安全地帯の意図する聴き方ではないということになります。

しかし、皆さんご存知の通り、一枚目最後の「ほゝえみ」、そして二枚目最後の「To me」、いずれもアルバムの締めくくり感がとても高い名バラードですし、そこに至るまでの曲の組み立てがクライマックス感の高いもので、二枚組として聴き上げる聴き方が本来の聴き方でないようにはとても思われないのです。「ほゝえみ」は、アナログ盤でいえばA面ラストの曲でしかないなんてちょっと信じにくいです。そしてB面が「今夜はYES」で始まると……。まあー、アナログ盤ではひっくり返す作業が必要になるところで、CDを入れ替えるだけなんですが。ちょっと不思議です。これはアナログ盤で聴きこめば当然に体験できることなんですが、針を一度も落とさずにジャケットをために眺めてニヤニヤしているだけでしたので、なかなか想像のつかない感触です。ああ、本気で当時の気分を再現するなら、CD-R六枚に分けて録音すればいいことなんですが(笑)。

では、せっかくですから、三枚組として語ってみたいと思います。

『Friend』
1. 遠くへ:核戦争後の地球、という80年代中盤によくあった世界描写(『北斗の拳』など)なんですが、わざとらしさのない歌・詞のシリアスさが心に沁みます。
2. Miss Miss Kiss:ミディアムテンポの軽快な曲です。「みすみすkiss」という言葉遊びがうれしい安全地帯節です。
3. パーティー:「ふたりで踊ろう」がラジオから流れてくるようなローファイで流れ、続けて歌本編が始まります。バラードと呼ぶべきか悩みますね。ジャンルレスな独特の玉置リズムが前面に出た可愛らしい曲です。
4. ふたりで踊ろう:アップテンポのオシャレなポップスです。これまでのアルバムにはみられない「楽しさ」「ノリ」を前面に出しています。
5. シルエット:これもジャンルレスなバラードライクのささやきソングです。こういう、力一杯歌う感じでない、新しいタイプの表現が魅力です。
6. Friend:シングル曲の、切なさ全開バラードです。玉置さんのプライベートな心情をそのまま表現したとしか思えない、壮大な失恋ソングです。

7. Friend (reprise):ここからB面になります。リプライズ、という言葉どおりの、オルゴールのような音色で前曲の思い出をフラッシュバックさせるインストゥルメンタルです。
8. チギルナイト:「Friend」の物悲しく美しいメロディーが「壊れ」て、カッコいいクリーントーンギターがリズムを刻みます。言葉遊びも絶好調なミディアムテンポのロックナンバーです。
9. こわれるしかない:ズシ、ズシ、ズシーンと重いリズムに載せて玉置さんの悲壮な叫びが効果的に染みる、これもミディアムテンポのロックナンバーです。油断してると前曲とのつなぎ目を聴き逃して「アレ?」となります。
10. 不思議な夜:タイトルが示すかのように、歌詞もアレンジも不思議な曲です。これはすごいですよ。のちに『All I Do』で炸裂する不思議ソングの先駆けと言えるでしょう。
11. 約束:もう、わざととしか思えない歌詞の(笑)、さわやかなミディアムテンポのポップスですね。
12. 想い出につつまれて:一転、スローテンポのバラードです。「シルエット」に似た恍惚系の歌詞が、超高音のボーカルで語られます。
13. 記憶の森:美しいピアノに彩られるバラードです。これだけピアノが前面に出た曲は安全地帯史上例がほとんどありません。

『好きさ』
1. どーだい:アルバムのトップにふさわしい、爽快なギターロックナンバーです。シングル化されていないのにライブを一気に盛り上げるという不思議な曲です。
2. パレードがやってくる:春が待ち遠しくなる曲なんですが、あの春は二度と来ないとわかってしまう寂しい曲でもあります。メロディーの美しさとリズムの軽快さがなんと悲しいことか!
3. 海と少年:サックスがもの悲しげに響くバラードです。個人的には鈴木康博さんの「遥かなる願い」を思い出させるんですが、よく考えたら「海と少年」のほうが発表が先な気がします(笑)。
4. 月の雫:これも「不思議な夜」なみの不思議ソングなんですが、陰鬱な夜の雰囲気の中、サビで一瞬目が覚めるような感覚があります。「隠された孤独」という言葉の鮮烈さにはいまだハッとさせられます。
5. 乱反射:アルバムの中盤でドカッと気分を盛り上げるようなリズムの強い曲です。二枚組でいえば、一枚目のラストに向かって真っ逆さま、という役割を見事に果たす「ガラスのささやき」的な曲でもあります。
6. ほゝえみ:これもわざととしか思えない失恋ソングです。美しすぎるメロディーと歌詞、アレンジが失恋気分をパーフェクトに演出する屈指の名バラードといえるでしょう。

7. 今夜はYES:ホーンセクションによる目の覚めるようなオープニングのキメがカッコいい賑やかな曲です。
8. あのとき…:一転、美しいバラードです。終わった恋を懐かしみつつ、細かいことを悔やむという、いかにも男らしい心情を歌い上げます。
9. まちかど:武沢さんのお兄さんが原曲をお作りになったのでしょうか。どこか原始安全地帯を思わせる美しいバラードです。
10. 好きさ:アニメ『めぞん一刻』に使われた、シングル曲です。切々と、好きさ、好きさと訴える、胸に迫る名曲です。
11. 声にならない:童謡のような可愛らしい曲なのに歌詞は切実という、なんとも切ない曲です。
12. 夕暮れ (Instrumental):武沢さん作曲の、美しい、牧歌的な、ギター曲です。アルバムの最後として考えると、ここまでのB面をしめくくるに似合ったインストゥルメンタルだと思います。「声にならない」の後ろというポジションは渋すぎです。V9巨人でいうと末次の次の黒江です。

『Harmony』
1. 銀色のピストル:長年ライブで演奏され続ける名曲です。女性がこんなこと言われたらキレると思うんですが、玉置さんだと許せちゃうかも(笑)。男の本音に迫る際どい歌です。
2. 涙をとめたまま:スタンダード・ナンバーを思わせるジャズ調のピアノが美しく玉置さんのボーカルをしっとりと聴かせます。夜の酒場で聴きたいですね。「ジャンゴ」とかそういう名前の店で。
3. 今夜ふたりで:「Night, Tonight」とノリのいいサビが、実は曲全体のリフになっていて、忘れられない一曲になっています。ドリフの「ニンニキニキニキ」なみに印象が強いですが、当然ドリフとは違ってかなりロマンチックです。
4. いますぐに恋:ハロー、マイガールと女性の心をやさしく包みますが、いますぐに恋に落ち、そしてすぐに失われそうな刹那の情を楽しむふうの、「ちょっと寄り道」感が、不吉なリズムとギターの音色で表現されています。
5. あのMusicから:かつての音楽仲間たちを偲ぶ曲なのでしょう。安全地帯の歴史と成功、そして失ったものを歌い上げます。
6. Jのブルース:サックスが渋すぎ!玉置さんの切々としたボーカル、巧すぎなブルースギター、安全地帯ってブルースもピカイチですね。

7. 夏の終りのハーモニー:井上陽水さんとのジョイントコンサートのために作られた曲です。シングルとして発売され、ベストにも収められました。
8. 天使のあくび:ガットギターで弾き語りされたかのような、可愛らしい曲です。しかしジャンルが全くわかりません。
9. 燃えつきるまで:一転、不穏なメロディー、リズムのミディアムテンポなロックナンバーです。ここからは一気にアルバム最後まで突っ走ります。
10. 夢になれ:クライマックス感タップリ!なミディアムテンポのロックナンバーです。シングル的でないのは明らかなのに、こんないい曲があるのが安全地帯の底知れなさですね。リズムがクセになります。
11. To me:この大作のラストをしめくくる、圧巻!の大バラードです。「あなたに」と対になったタイトルがいかにもふさわしい名曲ですね。

うーん、こうしてあらためてみると、とてつもないアルバムですね……よくぞこんなアルバムを出せたものです。いくら安全地帯が出したいと思っても、レコード会社がOKを出さないと出せませんが、安全地帯なら売れる!と判断してのことでしょう。当然に売れたわけですが。いかに安全地帯が人気絶頂にあったかがよくわかりますね。

レコード会社の契約は、おそらくですが、何年間に何枚のアルバムを出す、という形になっているものと思われますが、安全地帯はこれで三枚分の契約を履行したということになったのでしょうか。それはなんだかもったいないですので、ぜひ一枚分ということにしていただきたいものです(超絶に遅い期待)。

Amazon.co.jpのカスタマーレビューには、この超弩級アルバムを称えるものが見られるほか、いくらかは捨て曲があるという評価も見られます。うーん、安全地帯に捨て曲ナシ、の路線を貫く当サイトとしては、その評価を覆す使命があります。

松井さんが「それを壊さないと歌詞が作れなくなった」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)とおっしゃったように、『安全地帯IV』で完成されたスタイルを期待したリスナーにとっては、期待したものと違う!と感じるところが多かったことでしょう。何しろ、歌詞だけでなく、曲も一度「壊した」と思われるくらいにバラエティ豊かに、しかもジャンルの枠をはるかに超えたものになっているからです。一聴して「いい曲!」と誰もが思えるものは、これまでに聴いたことのある「いい曲」のパターンにどこか近いものになっている可能性があります。安全地帯がこのアルバムにあらん限りの力で詰め込んだ曲たちは、少なくとも日本のロック・ポップス界では前代未聞のものが多く含まれていたでしょうから、少なからぬ数の人にとって「いい曲」パターンにハマらなかったものが含まれていた可能性は大いにあるでしょう。その一方で、「いい曲」と一聴して思えることが多いであろうと思われる曲もまた、数多く含まれていたことも想像に難くありません。そのギャップが、「いい曲」と「捨て曲」の感覚を生み出すのではないでしょうか。

当時まだかなり若かったわたくしは、持っているCDも少なく、ロックやポップスの世界を全然知りませんでした。「いい曲」も「捨て曲」もなく、そういうものとして聴き込み、すべて「いい曲」と感じるに至りました。ですから、「いい曲」のパターンがほとんど自分のなかになかったころに、このアルバムは数多くの「いい曲」パターンを形成してくれたのです。そうした事情で、アーティストたるもの、安全地帯くらいやれて当たり前なのだと思っていました。それは大きな間違いでした。その後90年代に、つまり安全地帯がほとんど休止していた時代の「J-POP」とやらに、心の底から失望したのです。「ベタすぎる」「バタ臭すぎる」わけです。壁にポエム貼った店で頭にタオル巻いたおじさんが偉そうに作っているドロドロヌルヌルのラーメンのような感覚です(笑)。当時ティーンだった人には、こういう感覚を分かってくださる方がいらっしゃるのではないでしょうか。わたくしはヘビメタに心の安らぎを見いだすようになります。言ってみれば、「安全地帯ロス」をヘビメタで癒していたんですね。今わかりました(笑)。

さて次回以降、このアルバムを三つに分けて、いつも通り一曲ずつ語っていきたいと思います。これは頑張らなくては!……とはいえ、何しろ36曲ですから、当サイトの更新ペースでは半年以上はかかると見込まれます。重大な使命ではありますが、のんびり果たしてゆきたいものです。

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2017年03月15日

Bye Byeマーチからエンディング

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プルシアンブルーの肖像』九曲目、「Bye Byeマーチからエンディング」です。

「ゆびきり」をマーチ風にしたものが「Bye Byeマーチ」(歌入り)、その後のストリングスによるインストゥルメンタル部分が「エンディング」なのでしょう。歌詞カードにはインストゥルメンタルと書かれていますが、「Bye Byeマーチ」は歌モノといっていいと思います。

「Bye Byeマーチ」は、玉置さんと森の木合唱団が歌ったもので、玉置さんはかなり抑えて低音(子どもに比べて)を担当しています。さらに低音部として、バストロンボーン……だと思うんですが、の音が「ブン!バン!ブン!バン!」と響き、マーチ風味を演出しています。トランペット(クレジットには兼崎順一さん、白山文男さん、横山ヒトシさんの三人が挙げられています。豪華なメンバーですね)少年合唱、玉置さん、バストロンボーンと、見事な高音〜低音の層を成しています。

映画では、この箇所が序盤にあっさり流れてしまい、「エンディング」としての役割はありませんでした。しかもこの曲が流れたのは怪奇現象として流れたのです。歌詞カードにも、眼鏡をかけた女性教師(原田美枝子さん)がレコードを眺めている写真が掲載されていますね。これは怪奇現象を見てびっくりしているところなんですが、上がヘッドホンをかけてスティックを振るう田中さん、右が星さんを中心にミキサーの前に集まっているメンバーの写真ですので、このレコードの写真もうっかりスタジオの風景かと思ってしまいます(笑)。

さて、ストリングスによる「エンディング」ですが、玉置さん作曲のストリングス曲は、この「エンディング」と、のちの「あこがれ」「大切な時間」など数少ないわけです。これが、どれもこれも絶品ですよね。編曲は星さんなのかもしれませんが、なんだかクラシック作曲家による名曲を聴いているような錯覚に陥り、自分がポップスを聴いているということを忘れてしまいそうになります。

……と、このように、このアルバムに収められているインストゥルメンタルは、どれもこれも力作でいい曲ばかりなのですが、映画では「冬花」以外、ほぼ使われていないところが惜しいところです。とても残念です。映画に合わなくてボツになったか、あるいは映画に間に合わなかったかなのでしょう。殺人的スケジュールのなかで、よくぞこのようなアルバムをお作りになったものだと、本当に頭が下がります。ステキな音楽を残していただいて、そしてリリースしていただいて、ほんとうにアリガトウございますと。

そんなこんなで、安全地帯・玉置浩二の歴史のなかで、もっとも忘れられてゆきそうな位置にあるアルバムなのですが、この「Bye Byeマーチ」は玉置さんと少年合唱団の出会いの時期につくられた曲であり、「エンディング」は玉置さん初のオーケストレーション曲であるという、きわめて重大な(笑)節目の曲を合体させた曲なのです。

20年くらい前までは中古CD屋にひっそりと1000円くらいでこのアルバムが売られているのをよく見ましたので、数はそれなりに出たのでしょう。つまり、おそらくそれなりに多くの人がこの曲を聴いたはずですので、この曲のよさがもっと話題に上るべきではないか……と思っております。思っておりますので、せめてここに微力ながらこの文章を記しておきたいと思う次第であります。

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2017年03月11日

カズミ

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プルシアンブルーの肖像』八曲目、「カズミ」です。

六土さん作曲の、インストゥルメンタルです。このアルバムはつくづく、玉置さん以外のメンバーもタダものではないということがよくわかるアルバムなんですが、この曲もかなりカッコいいです。

ただ、怖いです(笑)。矢萩さんといい星さんといい……六土さんも、カズミちゃんを悪霊か何かだと勘違いしていないでしょうか。いやまて?もしかしてカズミちゃんを悪霊だと思っていないのは、もしかしてわたくしだけなのでしょうか?逆に心配になります。この怖さは、「カズミ」というより「六条の御息所」というほうがあたっているのではないか、と思われるほどのものです。

では、その怖い曲を勝手に四部に分けて語ってゆきたいと思います。メインテーマの第一部、ギターリフから始まる激しい第二部、ストリングスの第三部、再びメインテーマの第四部です。おお、こうして四つに分けると、なんだか交響曲みたいですね。

さて、ひとつひとつ語ってゆく前に、なんですが、第一部と第四部のベースの音のことを記しておこうと思います。このベースの音、「ズ!ズ!ズ!ズム!と、なんだか音色が、通常の四弦ベースじゃないように聴こえるのです。もっというと、シンセベースではないか?と思われます。どういう意図があったのかわかりかねますが、ベーシストの六土さんがご自分でベースを弾かない……いや、シンセベースですからご自分で鍵盤をお弾きになったのかもわかりませんが、ともかく通常の手法ではないことは確かでしょう。うーん、もしかしたら弾いてみたけど、他の音とミックスしたらいまいち合わなかった、そこでシンセベースで替えてみたらしっくりきた、といった事情だったのでしょうか……いやこれは普通のベースだよ、ちょっとあとからエフェクトかけて加工してあるけど、とかかもしれないですし、もしかしたら六土さんほどの凄腕ならピッキングの強弱などでシンセベースっぽい音を出すことができる、ということなのかもしれません。最新鋭の機材を使いこなす80年代のナウいミュージシャンなら、それらしく演奏技術のほうはもっとヘッポコであってほしいのですが(大偏見)、ニクいことに安全地帯は揃いもそろって腕も天下一品なのです。これほど音の正体をつかみにくいミュージシャンもなかなかいません。

さてさて第一部です。「シャッ!シャシャシャッ!シャ! シャッ!シャシャシャッ!シャ!」と、ざわめく風のような音が遠くから聴こえてきて、そこにピン!と張り詰めたピアノの音が、単音でメインテーマの旋律を繰り返し重ねてゆきます。そしてメインテーマが若干変化するタイミングでベース(シンセベース?)とドラム(これもシンセドラム?)が「ズ!ズズッズッズッ!(シュコーン!)ズ!ズズッズッズッ!(シュコーン!)」と加わり、だいぶ不穏な迫力あるアンサンブルになるのです。この箇所、ピアノがメイン旋律であるということはすっかり忘れて、リズムに心を奪われてしまい、もはやどちらが主役なのかわからなくなります。メタリカの「オライオン」に近い感覚ですね。ああ、そういや「オライオン」もベーシストのクリフが作った曲でした。たった二曲で語るのは噴飯ものであるのは承知しているのですが、もしかしたらベーシストの中にはこういう音楽観・アレンジ志向を持っている人がいるということなのかもしれませんね。

気を取り直して第二部です。ギターのやたらかっこいいリフ(武沢さんかしらん?)をリードに、ベース、ティンパニ、笑い声(後述)、ストリングス、を重ねて曲は一気に大音量、もっとも激しい箇所に突入します。ここは……カッコいいですよ!わたくしのようなハードロック好きにはたまらないです。ストリングスが神経を逆撫でするかのように高音域を鋭く切り取り、ベースとドラムが老獪なリズムを刻む、その隙間に、低音部の鍵盤を用いたピアノが主旋律と思われるメロディーを奏でます。おお……これは、そんじょそこらのロック馬鹿(わたくし等)には到底作り出せないカッコよさです。安全地帯のメンバーはみんなそうといえばそうなんですが、六土さんは、到底ベストテンとかトップテンなどにしょっちゅう顔を出している世界の住人じゃないように思えます。今剛さんが宇多田ヒカルのバックでテレビに出ていてビックリ!レベルの職人的なミュージシャンじゃないのか、と思えてなりません。

ところで第ニ部の終わりに、「キャキャキャキャ〜」と不気味な女の笑い声みたいな音が入っており、これはこれまでも曲調の変わり目でも用いられているのですが、なんでしょうこれ?怖いんですけど(笑)。まさかカズミちゃんの声をイメージして……いてほしくないです。うーん、おそらく、サンプリングして鍵盤にアサインしておき、ここぞというタイミングで川島さんが鍵盤を叩きまくった、ということなのでしょうか。とにかく怖いです。頼むからカズミちゃんを悪霊扱いしないでください(笑)。

第三部では、ストリングスがメインで、はじめは穏やかでやさしい、しかしどこか悲しげな旋律を奏でます。ホッとしたのもつかの間、いきなり恐ろしげなコーラスとともに大音量で驚かしてきます(笑)。ここがこの曲で一番迫力があって怖いところでしょうか。いかにもクライマックス感が爆発です。むりやり物語に当てはめるなら、カズミちゃんが落下するところでしょうか。そう考えると、第一部は雪の校庭、人気がなく、カズミと秋人だけの約束の場であり、第二部は旧校舎の中、「タダシ」君に会える会えないで緊迫する音楽室、駈けぬける廊下、そしてこの第三部が行き着いた時計塔、ということになるでしょうか。第四部は全てが終わった後、雪の降り続ける校庭に場面が戻ってくる……ああ!書きながら腑に落ちてしまいました。スミマセン悪霊扱いしたとか何とか生意気なことを申しまして(笑)。でもあの「笑い声」だけはご勘弁くださるとうれしいのですが……(諦めが悪い)。

さて第四部は、ピアノによるメインテーマ、(シンセ)ベース、(シンセ)ドラムで、第一部の繰り返しのようになっています。ただ、メインテーマが変化する前に、足音のような音が響き始め、足音だけを残して他の音はフェードアウトしてゆき、足音もやがては去ってゆきます。これはカズミちゃんの足音ではなく、時計塔の旧校舎を後にする秋人の足音である、と考えれば、辻褄が合います。ああ、わたくし、この記事を書くまで、この足音は、誰かを怪奇現象で驚かして(しかも笑い声をあげながら)去ってゆくカズミちゃんの足音だと思っておりました。それはいくらなんでも原作のイメージから逸脱しすぎだろう、と勝手に不満を感じていたのですが、この記事を書いて勝手に解決してしまいました。いやーよかったよかった。

例によって、わたくしが勝手に一人合点しているだけで、ぜんぜん解決などしていない可能性のほうが高いです(笑)。あれですね、完全に差別されたり抑圧されたりしている被害者が、加害者のことをなぜか好意的に解釈して勝手に有難がっているような感じかもしれません。そういう気の毒な人もいて、それを最大限利用する卑劣な人もいるのが人間の世の中なのでしょう。それはいつかなくすべき悲しい構図なのですが、音楽の世界でなら、今回のわたくしみたいに、勝手に解釈して勝手に満足するといういうことがあってもいいんじゃないのか……とちょっと思ってしまいました。

ああ、いかんいかん、このブログはマゾヒストのブログなどでは断じてございません(笑)。今後も頑張ってどこまでも自由に妄想してまいりたいと思います。

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2017年03月01日

冬花

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プルシアンブルーの肖像』七曲目、「冬花」です。

「夢」の記事で散々書いたことですが、これは「夢」のインストゥルメンタル版です。そして、玉置さんの歌がないぶん、とでもいうべきでしょうか、ごくわずかなシンバルの音が加えられ、リズムを刻んでいます。さらに、間奏が、ハーモニカ……と「夢」では書きましたが、わたくしあまり楽器に詳しくないもので(ダメじゃん)、ほんとうにハーモニカなのかは判じかねるのですが、ともかく郷愁をかきたてるような音色で奏でられています。

……と、「夢」の記事ですっかり調子に乗っていろいろ書いてしまったためにネタ切れを起こしているのがバレバレな記事なのですが、「夢」が「冬花」に対する「秋人」なんだ、と書いたのですから、その逆も書いてみたいと思います。

劇中では、この曲は冬花ちゃんと秋人が屋上で踊る曲として使われています。なに呑気なことしてるんだ人(仮面ライダーの役者さん)が死んでるのに!という野暮なツッコミをなしにすれば、緊迫感を増してゆく物語後半のなかで束の間訪れた平和なひと時といえるでしょう。

なぜ平和か……?それは、冬花ちゃんの「夢」の世界だからなのではないでしょうか。

冬花ちゃんにとって、屋上は逃避の場所です。そこはクラスメートからの理不尽な圧力から避難するための場所でもありますが、同時に、多分にメルヘン趣味な自らの想像力を発揮する場所でもあるのです。

わたくし他人になったことはございませんので(当たり前)、他人の心のなかがどうなっているのか、とんと知りませんから、冬花ちゃんのメルヘン趣味が他者に比して幼すぎるものなのか、その想像力は逞しすぎるものなのか、ほんとうのところはわかりません。

「えー、小六にもなって王子様とかいってるなんて信じられなーい!」

「『りぼん』とか『なかよし』はさすがに卒業してる時期でしょ、その頃なら『別冊マーガレット』くらいでないとバカバカしくて読んでられなくない?」

……うーん、これらの発言が、本当であるのか、それとも少女たちの目いっぱいの背伸びであるのか、他人には、本当にはわかりません。ですが、まあ、大勢は上の発言のような態度であるらしいです(笑)。それはそれは、冬花ちゃんには生きづらい学級環境であったことでしょう。

いっぽう、秋人は言葉を失っていますから、けっして冬花のことを傷つけることを言いません(言えません)。そして内心でも、冬花をバカにした様子は一切見せません。まあー、大のオトナからすれば、『りぼん』の世界も『別冊マーガレット』の世界も大差はありませんし、どうでもいいことですから、バカにする理由もないでしょう。何より、(原作では)冬花にはカズミの面影があって、秋人はそれに魅かれていますから、冬花にはひたすらやさしいです。これは、裏事情を知らない冬花にとっては王子様的に感じられる……ようになる要素がある……かもしれません。秋人が当初は変質者然としていたのでやや苦しいですが(笑)、秋人と、屋上で踊るというのは、冬花が自分の「夢」の世界を広げ、そこで遊ぶということだったのです。

そんなこんなで、この「冬花」と「夢」は、ただの同一曲に歌をのせたかインスト版にしたかだけの違いしかないのではなく、もしかして意図的につくりあげられた、対をなす曲なのではないか……と、妄想をたくましくすることで、以前とはすっかり違うことを考えるようになってしまいました(笑)。いや、きっかけは、ほんとうにわたくしが以前考えたように、「冬花」が先にあって、玉置さんが「歌を入れてみようか」と思っただけなのかもしれません。しかし、そこに松井さんの詞が加わって「夢」ができ、その詞があまりに秋人の心情を示唆するものであったがために、松井さんが意図的にこのような二曲の構図をつくろうとしたのではないか……と思えてきたわけです。

いつものごとく、松井さん本人が「え?全然そんなことないんだけど?」とおっしゃればそれで終了のお話です(笑)。まるで80年代に流行ったノストラダムス本のようです。どれもこれもノストラダムス本人が「それはただの詩だよ、何だよ預言って、そんなの知らないよ」と言えば終わる話ばかりでしたね。1999年7の月、外れたのはノストラダムスの「詩」ではなく、その「詩」をもとに好き勝手な解釈をして作り上げられた「預言」のほうだったのではないでしょうか。まあーいいかー面白かったし。

本ブログに書かれていることは、基本的に妄想ばかりです。本ブログの内部でしか通用しないことばかりですので、ご注意ください。信頼すべき情報である場合には、可能な限り第三者がチェック可能な方法でことわりを入れさせていただきます。いきなり何をとお思いになるかもしれませんが、わたくしいま、自分でノストラダムス本の話題を書いておきながら、一緒にされたくない気持ちでいっぱいなのです(笑)。

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