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2017年06月10日
想い出につつまれて
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『安全地帯V Friend』十二曲目、「想い出につつまれて」です。シングル「好きさ」のB面、いまでいうカップリングの曲になります。
B面だし、かるーく作った曲だったかなー、なんて思いながら聴きなおしてみましたが、これがどうしてどうして、「夢のつづき」を彷彿とさせる力作ではありませんか。
冒頭に、ジミ・ヘンドリクスかいって思うくらい変なコード、いやGなんですけど、不協和音なんじゃないのって思うくらいへんなGが使われていて、ギターの弾き語りではわたくしいきなりお手上げです。しょうがないのでGでゴマかします(笑)。
これも有名な話だとは思うのですが、玉置さんはコードとかあんまり知らないとおっしゃるんですね。ギターもどんどん変則チューニングしてしまって、次に弾くときに自分で押さえ方が分からなくなってしまい、自分でコピーする羽目になるそうなんです。どれくらい天才なんですか玉置さん……。
ほとんどのギター弾きがそうなんだと思うんですが、まずコードありきで、いくつかのコードの押さえ方を覚えて、コード譜を見ながらジャカジャカかき鳴らしているうちに大体のコードを押さえられるようになり、おれってギター弾けるなあ、と思ったあたりで、車の教習でいう第一段階になります。まだまだ先は長いわけです。
そのうち流れている曲を聴いて、ああ、この曲はこのパターンだなあ、とコード譜なしでだいたい追って弾けるようになったあたりで第二段階なんですが、これだってコードとコード進行の知識や慣れをもとにしているわけで、コードありきには違いないのです。
ところが玉置さんはこの手のことを、どうも全てすっ飛ばし、いきなり「こういうふうに押さえたらギターはこういう音で鳴る」ということを体で覚えてしまったようなのです。これは英語の文法事項はさっぱり知らないのにパーフェクトな英語を話せて書けてしまう、に近いものがありますね。ああこれは過去完了だとかこれは仮定法だとかいちいち思い出しながら話したり書いたりしている人とは次元が違うのです。
やや、曲の解説もせずに、冒頭の変なコードだけにこだわりすぎてしまいました。まだぜんぜん曲は進んでいません。
冒頭からいきなりサビ……いや、この曲、大きく二部に分けられるんですが(間奏はそのうち一部とほぼ同じです)、どっちがサビとか、そんな歌謡曲的な分解や格付けを拒む曲のように思われます。曲作りの段階から、じゃあAメロから作ろうか、次はこういうBメロで、サビはこんな感じかな?みたいな、曲の構成ありきでそれにあてはめて曲を作るような、そんな曲作りをしていないんじゃないでしょうか。それはギターのコードなりコード進行なりを先に覚えなかった玉置さんの天衣無縫さとおそるべき才能の高さを示すことでもあります。
そんな話ばかりだと一向に曲が先に進まないので(笑)、じゃあ冒頭のメロディーをAパート、展開後のメロディーをBパートと便宜上呼ぶことにして、Aパートですが……
最初だけジャーン!とドラム・ベースがなり、しばらくはギターの伴奏……これも贅沢なツインギターによるものと思われますが……これも、聴けば聴くほどあの二人が弾いているギターじゃないのか?と思えてきただけで、当初はシンセだと思っていた音色です。ただ、和音がギターのそれに聴こえますし、クリーントーンの達人たる矢萩さん・武沢さんなら、これくらいのことはやりかねない!とわたくし常日頃から思っておりますもので、ギターにしか聞こえなくなってきたんですが、こういう伴奏がほしいときはシンセを第一に考えるでしょうし、シンセで済ますでしょう……安全地帯はギター・バンドなんだ!ということを、こういう曲でこそ感じられるようになってきました。『リメンバー・トゥ・リメンバー』の頃の、バリバリエレキで喜んでいた当ブログも、思えば遠くに来たものです(笑)。
そして繰り返しの冒頭から、田中さん六土さんが本格参入します。タメてタメて……落合の流し打ちのような老獪さで曲を展開させます。さらに重ねられる、ストリングスの音と、そして鳥の鳴き声のようなホーンの音、さすがにこれはギターではないでしょう(笑)によって、曲は一気にゴージャスになります。そのまま、曲は短いBパートに突入します。キーはGですから、展開後、C→D→Gのスリーコードを基本とするのがわたくしのような凡人ですが(笑)、玉置さんはCmをいきなり使います。これが、「こんなに好きでいたと」の箇所で感じる「うお!大きく展開したな!」感の正体でしょう。だいたいのコード進行はC→D→Gに沿っていますから、おおむねセオリー通りなんですけど、それは玉置さんが狙ってそうしたものではないわけです。
それにしてもこのBパート、玉置さんのファルセットによる高音ボーカルの、何と美しいことか!そこで歌われる歌詞の、なんとせつないことか!口笛によって奏でられる間奏をはさんで、このBパートは繰り返されます。季節が変わり人の心もうつろいゆくのは古今東西きっと同じなのですが、その理に身を委ねることにためらいを覚えるという歌詞も、古くから洋の東西を問わずにあったものです。しかし、このときの玉置さんにこれを歌わせるという選択は、松井さんの超ファインプレーといえるでしょう。陳腐さや使い古された感の皆無な、信じられないほどのリアリティの高さがそこにはあります。
シングル「好きさ」は「Friend」のわずか二か月後にリリースされ、安全地帯の物語が早くも第二章に入ったことを印象付けるのだったといえるでしょう。そこにこのカップリング「想い出につつまれて」は、「好きさ」の「動」に対して「静」の役割を負わされたものです。そしてアルバム『安全地帯V Friend』においては、「Friend」で終わった第一章を、第二章へと誘う静かな導入の任を与えられていたように思えるのです。
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2017年06月04日
約束
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『安全地帯V Friend』十一曲目、「約束」です。
「Friend」後の、やや攻めすぎな感のある曲三連発とうって変わって、聴きやすいことこのうえないギターポップになっています。
ああ、ホーンの音が目立ちますんで、ブラスロックとかいったほうが世間のジャンル分けに近くなるとは思うんですが、当ブログ的には安全地帯の曲は九割がたギターロック、ギターポップということになります(笑)。この曲でも、武沢さんのものと思われるクリーントーンばっかり聴こえてしまうのだから、半ば病気かもしれません。すこし注意して聴けば、サビの箇所における、矢萩さんのものと思われるアルペジオや刻みも聴こえてきますし、それが効果的に鳴らされていることにも気づきます。これがまた抑制の効いた素晴らしい音で……とか、いつもの話になるのでこの辺にしておいて(笑)。
イントロとAメロBメロは、六土さんのベースがホーンとリズムを合わせ(逆か?)、田中さんがリムの音(カツ!カツ!という音)で全体のリズムを取りバスドラで六土さんのベースにおおむね歩調を合わせる、というリズム隊の基盤に乗せ、武沢さんがシャリシャリシャリーン!シャリシャリシャリーン!とクリーントーンで思う存分リズムギターを響かせる、そしてアオリはシンセとホーンに任せるという作戦ですね。この三人が奏でる軽やかなリズムの、なんと心地よいことか!
そしてサビでは、田中さんはこれまで我慢してたかのようにスネアをバシ!バシ!と叩きながらも、これまでのリムの音もコンビネーションに組み込んでリズムを豊かなものにします。そしてここが肝心なのですが、ハイハットをシャンシャン派手に鳴らします。しかしけっして目立つほどの音量では収録されていないという……これは実に渋いです。田中さんはきっと、ドラマーなら誰でも簡単に思いつくフレーズだけど……とか呆れ顔で言いそうですけど、わたくしのような勢いばっかりのロック馬鹿は、その細かい配慮が当たり前に行き届いた職人技にしびれるわけです。
さらにサビでは、そう、矢萩さんのものと思われるギターが、甘い音色で刻みと単音リフで玉置さんの歌に対するオブリガート兼アオリ的な役割を果たします。これがまた効いています。「トゥクトゥクトゥクトゥク……ウィウォーーン!」と、擬音で書くと滑稽になりかねませんが、こうとしか書きようのないこのフレーズ、ぜひ耳を澄ませて浸ってください!なんとカッコいいんでしょう。わたくし、自分のオリジナル曲でずいぶんマネしたものです。あ、それはパクったというのか(笑)。
さて、歌詞と歌ですが……
曲調はこんなにも爽やかなのが、なんと切ないことか!これは、失われた恋にとらわれ続けている心情を歌ったものです。なんでまた、こんな時期に!ああ、もちろんわざとなのでしょう(笑)。玉置さん、何もご自分の失恋をネタになさることはないでしょう、聴いているこちらは胸が詰まってしまうじゃないですか。ああ、もちろんそれを求めて聴いてるんですけども(笑)……とまあ、なんとも、玉置浩二という歌手がいかなる生き様を見せているかを、まざまざと見せつける曲であるといえるでしょう。
80年代中盤にはすでに、太田祐美さんがほんとうに木綿のハンカチーフをくださいと、故郷を離れた恋人に言ったとは誰も思えないような時代になってきていました。歌の世界は完全に作り事なんだということを中学生ですら理解してきたのです。そのご時勢で、玉置浩二は本当に自分のことを歌っているんだ!と大の大人にさえ思わせたこの迫力たるや、そんじょそこらの歌手にできることではありません。中森明菜さんが「難破船」を歌ったのがそれに近い迫力を感じさせましたけど、同時にあれは加藤登紀子さんの曲だということもみんな理解してましたから中森明菜さんの恋愛沙汰に関するリアリティはあんまり感じませんでしたし、いっぽう加藤登紀子さんの「難破船」はどう見てもマジでしたから(笑)、ロマンチックを通り越して恐怖に似た感覚さえあったものです。安全地帯の楽曲は、圧倒的な技量を駆使して、まさに絶妙のさじ加減で、ちょっと痛いくらいのロマンチックな恋物語を私たちに与えてくれたといえるでしょう。
歌詞中に織り込まれた、去った恋人あての手紙が届くとか戻ってくるとかのパターンはのちの「ひとりぼっちの虹」でも使われたものですね。恋と生活とが密接に関連したものであることを、恋愛のさなかにある人にふと思い出させる効果を抜群に発揮しています。そうなんです。恋はなんだか、二人だけのプラネタリウムみたいに非現時的な時間を私たちに与えてくれますが、実は、それは全部社会とか生活とかの一シーンの連続であって、間違いなく現実の出来事であるわけです。「ふたりの消息」を知らない差出人にとって、ふたりが別れたことなど、あずかりしらないことですので、あっさりと手紙を投函するでしょう。郵便局にとっては、それがだれそれの恋人あての手紙であるのか、税金督促状であるのかはまったくもってどうでもいいことですので、恋人に去られて傷心のさなかにある人にも、あっさりと手紙を配達してくれます。失恋の二次被害とでも呼ぶべきこれらの出来事は、じわじわと効くんです。
あなたと一緒に「夢」みたものを一人になってもまだ追いかけていて、まだ終わったと認めたくないけど終わってしまった「夏」を思い出し、そしてあなたと暮らしてきた生活の痕跡に囲まれて暮らす……ああ、恐ろしい(笑)。
つい先日、玉置さんがNHKのSONGSに出ていまして、どんなにつらいことがあっても、歌をやめたいと思っても、自分は「これも歌にしよう」とする歌手なんだ、といった旨のことをお話になってました。それで、わたくしの中でこの「約束」のリアリティがまた少し上がってしまいました(笑)。30年もたっているのに!しかもぜんぜん別のことを話していたのに!どうなっているんですか玉置さん!(完全に筋違いな賞賛)
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2017年05月28日
不思議な夜
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『安全地帯V Friend』十曲目、「不思議な夜」です。
タイトルが示す以上に、不思議な曲です。まず、コード進行がさっぱりわかりません。おおざっぱにいうとD♭とCmの繰り返しなんだと思うんですが、キーに合わない音がバンバン出てきて、ほんとにこれでいいのか?と悩んでいるうちにサビらしきキメで一番終わり、「ヒイ~イ~イイ~」と玉置さんが歌う背景にポクポクとD♭とCmの繰り返し……という、川面を流れる枯葉のように非常に無常観の漂う曲です。
間奏に派手なストリングスパートがありますが、ここはここで半音ズレのコード進行を多用した信じられない曲になっています。しかもそれが流麗なストリングスの音色に彩られ、かなりカオス感が高いものになっているのです。のちの、玉置さんソロの『All I Do』の「1/2 la moitie」を先取りしたかのような、かなり風変わりな曲といえるでしょう。
あまりにも風変わりで受け入れられにくそうなのに堂々と一曲として存在しているため、もしかしてこれはこういうジャンルがこの世にあるのではないか?と思っているのですが、今日の今日までこの手の曲には他で出会ったことがありません。どなたか、この手の曲をヨソで聴いたことがあったら、ぜひ教えてください。
そして、これはそんなに珍しくもない手法なんですが、コードの切り変わり目が八拍目(四拍目のウラ)なんです。エクストリームの「More Than Words」すら満足に弾けないワタクシには、かなり難易度の高い曲となっています。や、これはわたくしがリズム音痴だというだけなんですけども、この曲ではそのリズムが不思議感・カオス感を一層高める効果を持っています。
しかも、アレンジまでもが不思議です。ひたすらン・チャーン・チャーチャーテレレレレレ~と繰り返されるクリーントーンのギター、あまりなじみのない音のドラム、ブヨンブヨンとうなるベース(フレットレスか?と思いきや、たまにズシーンとエレキベースとしか思えない音が聴こえてくるから油断できません)、バストロンボーン?フルート?によるアオリ、グラスを叩いたような音……と、ロックバンドの標準装備をほぼ無視した編成になっています。わたくし、たとえ安全地帯のレコーディングに参加させてくださるという千載一遇のチャンスを与えられても(ありえないですが、もののたとえで)、この曲と前曲の「こわれるしかない」だけはお断りしたいです(笑)。リズムが難しすぎて、脱走してしまうに違いありません。
さて、歌詞ですが……
わからん!
曲があまりに不思議すぎて、それに幻惑されているのでしょうか、歌詞のほうまでさっぱりわかりません。
TVショーを騒がすカップルが、夏の夜に二人でTVの付いた部屋にいる……「新しい恋人発覚!」とかなんとか、ワイドショーの憶測があまりに的外れすぎて、「あっはっは、君があんなこというからだよ」という気分になる……「あー、あれは誤解を招いたかもなあ、まずかったなあ、あ、これはばれていない、よかった助かった」とかなんとか、TVをみながらちょっとハラハラしながら、新しい恋を楽しんでいる、もしくは旧交を温めている(笑)情景であろう……と、なんとか想像力の限りを尽くして推理してみましたが、あてずっぽう感がとても高いなあ、と我ながら思います。
しかし、自分とその周辺が恋愛沙汰でワイドショーや週刊誌を騒がせている最中に、自分でそのワイドショーを見るってどんな気分でしょうかね。いかりや長介さんが「自分が今出ているTVを見て笑っている光景を見られてうれしかった」的なことを『だめだこりゃ』で語ってましたけど、この曲の場合はそんなうれしいものじゃなさそうです。でも、耳のそばを飛び回っている蚊のような、うざったいマスコミをかわしたり遠ざけたりする作業にはうんざりしながらも、いま進行中の新しい恋にせよ復活した恋にせよ、それで多少心が浮き立っているのは確かなわけです。ああ、それはもう不思議な気分であり、不思議な夜であるに違いありません。
これは安全地帯初心者には「いまのところはまだ楽しめないかもしれませんよ」と教えてあげたい曲です。しかし、これはたまに出てくる玉置節のひとつであって、安全地帯・玉置浩二の音楽を楽しむ人生の回廊で、ひとつのカギになる曲であるのは間違いありません。ですから、「Friend」を聴いた後に次の「約束」まですっ飛ばされがちではあるでしょうけど、それはとても惜しいことであるとも付言しておきたいです。
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2017年05月21日
こわれるしかない
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『安全地帯V Friend』八曲目、「こわれるしかない」です。
リズムが結構複雑怪奇な曲で、曲をパーフェクトに覚えていないと、これは演奏できそうもありません。最初のうちはベースとドラムにちょっと惑わされながらもなんとか「イチニサンシー」と口ずさんで、なんだただの四拍子じゃん驚かせやがって、とか余裕こいているんですが、サビの近辺から、あり?ああ、「Lazy Daisy」と同じ一瞬の二拍子か、あ?あれ?あれれれ?と、わけがわからなくなります。
「もう」「こわ」「れ」「る」で四分音符四つ分ですから、その前の一拍が加わって五拍子、「あな」「たは」「こわ」「れ」「る」で同じく五拍子かと思いきやその前にも一拍ありますので六拍子……と、サビはコロコロと拍子が変わります。これは三拍子と四拍子しか体の中にないワタクシのような単純リズム派にはかなり厳しい!
何が凄いって、ただ聴く分にはたいして違和感がないところなんですね。なんでって、そりゃ曲をこういうふうに思いついたからでしょう。この変則リズムしか、この曲には当てはまらないのです。
またまた私事ですが、わたくし学生バンドの頃はどうにかして変なリズムの曲を作ってやろうと頑張っていたのです。別に必要もないのに五拍子にしたり二拍子にしたりして、インテレクチュアルな編曲をすることに情熱を燃やしていたんですね、必要もないのに。初めから変拍子の曲を作ろうと意気込んでいるから、当然変拍子になるんですが、無理やり突っ込んだ変拍子というのは不自然極まりないことになります。これは恥ずかしい!恥ずかしいんですが本人たちは「フフン、ワレワレの知性についてこれるかな?ヘビメタは馬鹿にはできない音楽なのだよ?」とか悦に入っているのですから始末に負えません。
この「こわれるしかない」を、ちゃんと聴いていなかったんですね。聴いていればあんな恥ずかしいことをするわけがありません。こんなにも自然なリズムは、人工の変拍子ソングとはわけが違います。玉置さんの精神・肉体の中から生み出されたものそのままがこれで、メンバーがそれに形を与えた、としか思えません。例によって「アレ?これヘンだよ?ここが合わないからちょっと削らないと」とか、そんなことは一切言わずに、心の中で全員が「ああこうなのね、じゃあこうだね」とか思いながら当たり前に編曲・演奏したに違いないのです。なんという怪物バンド!
武沢さんのものと思われるあの「シャリーン」とした音でのストローク、カッティング、矢萩さんらしき、ごくごく控えめに刻まれるカッティングとアルペジオ、そしておそらくは武沢さんの、サビの裏に織り込まれるリフ、厳密にはリフレインしてないんですけどリフとしかいいようのない複雑なリズムで刻まれたフレーズと、それに絡めた矢萩さんのオブリ、甘いトーンによるソロと、物凄いリズムに乗せて織りなされる凄まじいギターバトル!思わずため息が出ます。学生の頃にこの凄さに気が付くべきだった……あの恥ずかしいデモテープたちは引っ越しのドサクサで失ってしまいましたが、とっくに焼却されたか埋め立て地で朽ちていることを切に願います(笑)。
そしてそして、おそらく「おっ!けっこう大変だな!」とか思いながら、きっとニコニコしながらレコーディングしたであろう田中さんと六土さんに、わたくし最大限の敬意を表したいと思います。わたくしがベーシストだったらきっと文句を言います。ドラマーだったら逃げます(笑)。このお二人が信じくれないくらいの完璧なリズムキープをしたからこそ、ギタリスト二人の、この競演が実現したのです。きっと全体で合わせて曲をある程度覚える時間なんてなかったでしょうに……。
さて歌詞ですが……ああ……「求めすぎれば」にすべてが集約されているようにわたくしには思われます。どうしても、どうしてもそうしたい、そうしてほしい、我を通させてほしいというよりも、相手に「我」になってほしい、同じことを感じてほしい、一体化したい、でもそんなことできっこないんだ……だからもう「こわれるしかない」「おぼれるしかない」、でもそれもできないんだ……という、あの、何というんでしょうかね、人生の中で四~五年しかない、回数でいうと一、二回でもうお腹いっぱいです、の、分別もそれなりなんだけどワガママさが先に出てしまって失敗しがちな、あの切実だけど甘美な想い出となる時期の気持ちを、よーくぞここまで描き出してくれたものです。わたくしこんな感情をもったことが人生で果たしてあったのか自信と記憶があやふやになるくらいに、鋭く切り取られ描かれています。「怖くなる」だけの「愛のこわさ」は、体験してみたいような体験せずに済むなら済ませてしまいたくなるような……熱い思いに身も心も焦がせてみたい!という若い方には、「けっこうキツイですけど、あなた次第できっと身になります、グッドラック!」と送り出したいです。自分はもういいです(笑)。
「アスファルトにおちてゆく」「あの指輪」は、「あの」と言っている以上、きっと特別な指輪なのですが、そこで「おっと!」と手を伸ばしてしまうにちがいない野暮さを備えてしまった自分を、歳をとったなあ~でも別に若くなりたいわけでもないなあ~順番だからね、という気分にさせてくれる曲です。
しかし、玉置さん、こういう歌詞がおそろしく似合いますね……俳優業にも手を染めていったこの時期の玉置さんですが(多忙すぎる!)、歌唱力が物凄いのは当然として、ビジュアル的に、そしてサウンド的に、こういう歌詞の世界の主人公であるとしか思えません。歩くミックスメディアです。それはいくぶんかは演じてもいたのでしょうが、真実の姿の、一側面であったにも違いありません。これだけ真に迫る、鬼気迫る歌というものは、そうそうあるもんじゃありません。ジョン・レノンの「インスタント・カーマ」よりも凄いんじゃないでしょうか……もしかしてこの時期の安全地帯は、ビートルズを超えていたんじゃないのかと思わせる一曲です。
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2017年05月06日
チギルナイト
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『安全地帯V Friend』八曲目、「チギルナイト」です。
ソースの確認できない話ばかりで申し訳ありません。この曲は、シングル候補だったそうなのです。もしシングルで発売されていたら、安全地帯にこういう音楽世界があると知らなかった人たちは、さぞたまげたことでしょう。ああ、わたくしもアルバムでこの曲を聴くまでは知りませんでした。先輩風を吹かせて申し訳ありませんでした(笑)。でも、かなり聴き込んでいた人でも、『安全地帯V』を聴く前なら誰でも同じような状況だったんじゃないでしょうか。ぜんぜん歌謡曲然としていないので、評価がだいぶ分かれたことでしょう。そしてそれはセールス的には危険信号を自ら灯すことでもあります。安全地帯はそんなこと全然気にしないでしょうけど。ロックなんですね、いかにも。サウンド自体は『安全地帯IV』の延長上にあるような感じですけど、曲全体の攻め方は『安全地帯VIII 太陽』くらいに入っていてもおかしくないくらい進んだものでした。
歌詞もかなり攻めてます。「チギルナイト」って、何ですか。わたくしがそんな単語を知らないだけかもしれませんが、まあ造語でしょう。「千切る」「契る」「ナイト(夜)」「ナイト(騎士)」「無いと」といったところでしょうか、パッと思いつくのは。これらの意味をいろいろ組み合わせて様々な物語の解釈が可能になるように作られていると考えるべきでしょう。
ピアスをシリアスに千切る夜(怖い!)
邪魔なバランスを捨てる夜
飾りたてたマスカラを千切る夜
男を誘っているようなマニキュアの女性と契る夜
……等々、当たり前に思いつく情景以外にも、さまざまな解釈が可能になっております。これはかなり盛りだくさんの思わせぶりソングですね。
瞳にkissをせびるルージュって、どんなんでしょう……目を見てるんだか唇を見てるんだか……唇を見て「うっ!これはとても唇にはkissできない!そんな完璧なルージュだ!これは瞳にkissしてって言ってるんだな?よーし!」とか思うわけはないので(笑)、正直よくわかりませんが、雰囲気はバッチリです。「愛はブラインド」ですから、本当に瞳にkissしてその間見えなくなっちゃったのかもしれません(野暮すぎ)。
「光線(ひかり)の中を泳ぎながら」の箇所は、初聴の頃に「うっ!」と感激した記憶があります。初聴の頃ですから、まだその表現がわりとよくあるものだとは知りませんでしたが、松井さんが書くと斬新で雰囲気を最高に盛り上げるから不思議です。積み上げてきたものが違うのですね。
さて、アレンジですが、シンセで主旋律を奏でながら、特徴的な16ビートをリズム隊が刻み、そしていかにもな武沢サウンドが空間を丹念に埋めます。リズムが主役といえるくらい、リズムで曲のイメージのかなりの部分を形成しています。
そして、なにか特徴的な、ガガガン!とした音が左チャンネル、グググッ!という鈍い音が右チャンネルにに聴こえますね。何かの打楽器……一斗缶を弱く叩いたような……?シンセで出せる音だとは思うので、川島さんが入れたのかもしれませんね。これらの音がなければ、曲の印象はだいぶ違った、寂しいものになったことでしょう。
そしてBメロの終わりからサビにかけて、ギターのサウンドが変化します。クリーントーンから、やや歪んだ、いわゆるクランチサウンドになります。おそらくここも武沢さんが弾いているんだと思うんですが、このクランチサウンド、透き通った低音がもう!惚れ惚れします。どうしてこんな音作りができるんですか!わたくしだったら歪みちょっと、ボリュームフルの、いわゆるチューブスクリーマーでブーストすることでこういう音を作るんですが、よほどジャストにセッティングしないと低音がけば立ち気味になって、こんな透明感のある音にはならないんです。イコライザーを使ったとか、そういう小手先の機材的なことでなくて、おそらくピッキングとかボリュームコントロールとか、そういう「腕」的なことなのでしょう。うーん、とてもマネできない……。みなさんも耳を澄ませて、サビの右チャンネルに流れるギターをお聴きになってみてください!
そしてAメロからもう一度繰り返して、曲は間奏のツインギター競演へと続きます。これは矢萩さんと武沢さんが一緒に弾いているものと思われます。まずはハモリですね。ドンピシャです。細かい指の動きさえもシンクロさせたかのような、見事なハモリです。そして武沢さん、矢萩さんと掛け合いをして、それぞれのフレーズを弾いて別れます。短いソロですけど、絶品ですね。むしろ長く弾く必要がないです。
さて最後になりましたが、玉置さんのボーカル、サビなんか叫んでいるかのような凄まじさですよね。車でいうとトップギアに入れているかのような声です。「遠くへ」のサビもそうでしたけど、従来の安全地帯では隠していたんじゃないのか?と思えるほどに、このアルバムでは思う存分に歌っているように思えます。安全地帯のパブリックイメージ、というものを本人がどのくらい気にしていたのかはわかりませんが、それを打ち破るかのような弾けっぷりです。
……こういうとき、「昔のほうがよかった」という声が出てくるのは、どのミュージシャンでも同じなんですが、ミュージシャン自身は進化してるんですね。聴衆がそれについていけない、あるいはついていく気がないというだけで。わたくしも、安全地帯を含むごく一部のミュージシャン以外であれば、好みに合わなくなったときに聴かなくなっています。さみしいことですが、仕方ありません。ミュージシャンも聴衆もみんなそれぞれ違う人間ですから、同じ道をずっと辿るはずがないのです。ミュージシャンは聴衆を教育する立場ではないですし、聴衆だってミュージシャンに付き合う義理はありません。安全地帯は、なぜかわたくしの心をずっととらえっぱなしで離してくれそうもありませんけども(笑)。それは小さな小さなことではありますが、きっと一種の奇跡なのでしょう。願わくば、そんな奇跡が皆様にも起こりますように(やけに湿っぽい終わり方)。
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2017年05月04日
Friend(reprise)
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『安全地帯V Friend』七曲目、「Friend(reprise)」です。アナログ盤では、ここからB面になります。
わたくしは、前にも申し上げた通り針を落とすのがもったいなくて、アナログ盤を死蔵しているうちに失ってしまった大バカ者ですので、この曲を聴くためにはレコードをひっくり返してもう一度針を落とさなければならない、という経験をしたことがありません。前曲「Friend」が終わるとすぐにこの「Friend(reprise)」がはじまるという、あんまりrepriseの意味がないような聴き方ばかりしておりました。カセットだって、A面が終わってからオートリバースでこの曲が始まるまでに、「Friend」の余韻を楽しむ暇があったはずですよね。
いま不思議に思ったのですが、わたくしはKENWOODのウォーキングステレオを持って歩いていましたので、当然それで持ち歩いて聴きたいときはカセットに録音していたんですが、この「安全地帯V」は録音したことがなかったのです。ほかのアルバムはほとんど録音したカセットがあったんですが……まあ、メタルの110分テープを買う金を捻出できなかったとか、おそらくそんな理由でしょう。それ以上に、このCDは他のアルバムに比べてもかなり高頻度に家で聴きまくっていましたから、持ち歩いてまで聴こうと思わなかったのかもしれません。
さて、この曲、アレンジのことを語るような曲でないことは明らかなのですが、わたくし全曲解説するという執念をもって書いておりますもので(笑)、思いつくことを書いてみたいともいます。
この曲は、オルゴール風の音色で、「Friend」のサビだけを二回繰り返します。AメロもBメロもありません。そこがまたオルゴール風ですね。ただ、オルゴール風でないところは、けっしてエンドレスに繰り返しできないような終わり方をしているところです。最後が、「キューウーワアアアア~」と、まるでギターのワウペダルを踏んだかのような壊れ方をするのです。シンセの、あの横についているぐりぐり回すダイヤルを使ったか、もしくはミックスの段階で回転数をいじったかしたのでしょう。美しいメロディーに穏やかな音色だった曲で、これは衝撃的と言っていいでしょう。そして曲はそのままポーズなしで「チギルナイト」へと続いていきます。
さてこの曲も、おそらく安全地帯のオリジナルメンバーは演奏していないのではないでしょうか。バンドサウンドはまったく要求していませんし、したがってリハーサルする必要もありません。玉置さんが「ここにFriendの、オルゴールみたいなのあったらいいんじゃないかなあ?」とか言って川島さんと二人で「こんなかな?」とか言いながら作られたのではないでしょうか。「あっ、これ、最後クワ~ってできる?そのままチギルナイトに続けちゃおう!」……もちろんすべてわたくしの妄想ですが、非常にありそうじゃないでしょうか?(笑)
この曲は一分にも満たない小品中の小品ですが、位置づけ的には大きいものがあると言えそうです。一つには、「Friend」の余韻を膨らませつつ「終える」こと。すなわち、大曲である「Friend」でA面を終えて、少し間をおいて始まるB面の冒頭において、「Friend」の感動を膨らませつつ、聴く者の興奮をいったんリセットするためにクールダウンの間を取ることです。もう一つには、「チギルナイト」以降の新しい物語に、聴く者を円滑に誘うこと。すなわち、「Friend」で終えた、これまでの安全地帯のつくりあげてきた物語を、新章へ突入させるんだということを、聴く者にはっきりと印象付けることです。
ただ、アルバム名は依然として「Friend」ですし、この曲以降のB面にも、「約束」「想い出につつまれて」「記憶の森」と、なんだか過去を引きずっている感じの曲が並びます。「チギルナイト」「こわれるしかない」で勢いをつけた新しい物語の序盤には、まだ前章の余韻が垣間見える描写があるんですね。キッパリせんかい!とか思いつつも、その演出がまたニクいニクい。もちろん、全部わたくしが勝手に考えて面白がってるだけです(笑)。
この「Friend(reprise)」には、きっと「Friend」の余韻を楽しむだけ以上の意味があって、それはおそらく、アナログ盤で意図されていた「間」をとることによってこそ、真意の理解できるものであろう、とわたくしは考えております。
110分テープなんかに録音しなくてよかった。もし録音するなら40分テープ三本でよかったんですね。TDKのメタルだと確か42分でしたけど(いつものパナソニックには46分、60分、90分という当たり前のラインナップしかなかったのです)。あー、やっぱりCD-R六枚に焼こうかな(笑)。
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2017年05月03日
Friend
『安全地帯V Friend』六曲目、「Friend」です。
シングル曲でもあり、この『安全地帯V Friend』タイトルナンバーでもあるこの曲、即死級の破壊力をもつ超名バラードになっています。
「HEY HEY HEY」に玉置さんが出演なさったときに、かつて番組ではじめて共演した薬師丸さんにカラオケに誘われ、この曲を歌ってほしいと言われた、とお話しになっていました。なんとロマンチックな!でもなんと現実とリンクしていて寂しいエピソードなんでしょう。これで薬師丸さんが「Wの悲劇」でもお歌いになっていればバッチリすぎます(笑)。
その番組ではゲストでまだ新人に近かったMr.Childrenが「Tomorrow never knows」を歌い、そこに鈴木杏樹が花束を渡しに行っていたんですけど、「ちょうどあんな感じだった」と、自分と薬師丸さんとの出会いを語ってらっしゃいました。いやー玉置さん、桜井さんとじゃ役者が違いますよ。ドゥービーのトム・ジョンストンとマイケル・マクドナルドくらい違いますって。よくわからないたとえです(笑)。
【追記】どうもわたくし、「HEY! HEY! HEY!」と「ミュージックフェア」がごっちゃになっているようで、このエピソードがどちらの番組のものか、自信がもてなくなってきました。鈴木杏樹さんがいるからには「ミュージックフェア」なんだと思えるんですが、記録をみると「HEY!HEY!HEY!」で玉置さんがチャンプだったときのゲストはたしかにMr.Childrenのようです。
さてこの曲、ピアノでよく知られたフレーズを奏でるところから始まります。この音……ふつうのピアノの音じゃないですよね。おそらくエレピなんですけど、アルペジオのほうは「パーティー」と同じエレピで間違いなさそうなんですが、アコースティック・ピアノの音も混じって聴こえます。そして、メインフレーズのほうは、音色が違いますよね。ふつうに考えればシンセですけど、もしかしてアコースティックピアノの……ハンマー近くにマイク・オンで録ったのでしょうか……それで本当にこの音になるかはわからないんですが、とにかく響きが凄いです。まあ、ライブでもほぼ同じ音が聴こえますから、おそらくはシンセなのでしょう。
で、歌に入ったあとのピアノは、エレピじゃなくてアコースティック・ピアノの音色のように聴こえます。わたくしの耳がポンコツだという可能性が最も高いのはいつものことなんですが(笑)、もしわたしの耳がある程度正しいとすれば、これはものすごい執念であらゆる音色の組み合わせを試してこのようにした、ということになります。
そして前奏では、田中さんのバスドラムが「ドッドッ……ドッドッ……」とリズムを刻んでいます。それが、バスドラだけなんです。おそらくは、デモをヘッドホンに流しながらそれを聴いて叩いたのでしょう。レコーディングというものは、みんなセーノで演奏しながらレコーディングするのではなく、一人ずつレコーディングしてあとからミックスするんですが、ドラムが最初なんですよ、通常は。だから、いちばん音の手がかりがない状態で始めなくちゃいけないんですね、ドラマーは。それだとこのバスドラだけというのは手がかりがなさ過ぎて叩きづらいですから、おそらくはかなり完成品に近いレベルまで作ったデモを聴きながら叩いたものと思われます。そうでないのなら、いくら田中さんでもこれは神業すぎますが、「え?メトロノームだけしか使ってないけど?」とかサラッと言いそうで怖いです(笑)。
さて、ピアノとドラム(バスドラだけ)に乗せて、玉置さんの歌が始まります。始まりなのに「さよなら」から始まるのがもの凄いですね。基本的にはアコースティック・ピアノで、「言えないまま」の「いえ」「ない」にかぶせているフレーズがエレピの音に聴こえます(しつこい)。そして六土さんのベースが始まり……
と、ここまではいいのですが、ギターの音がわたくしにはほとんど聴こえません。しいて言えば、サビの裏でアルペジオを、そしてコードストロークを八分で弾いているように聴こえますが、とにかくわかりづらいです。2010バージョンを聴いて、ようやくああ、これはギターの音だろうな、となんとか推定して、また1987版に戻って「やっぱり聴こえるよホラホラ」とか非常にむなしいことを思ったりするわけです(笑)。アルペジオはピアノと、そしてコードストロークはハイハットとほぼ同じタイミングですし、とにかくストリングスとコーラスが大きめにミックスされていますので、もともと聴き取りづらいのかもしれませんが、これではとても武沢さんと矢萩さんの音を聴き分けるどころではありません。
ライブ映像で、間奏の終わりに武沢さんがボリュームを下げているような仕草をするシーンが一瞬映りますので、間奏で聴こえる音が武沢さんのはずだ!とか思ってよく聴いてみたのですが、まるでギターの音が聴こえません。ここまで聴こえないと、鳴っていないと言ってもいいでしょう。武沢さん、あのとき、何をしたんですか?単に「シールドが緩んでないか確認しただけだよ」とか言ってほしいです……。
そんなこんなでわたくし、この曲のアレンジ聴き取りはほとんど惨敗と言っていいでしょう(笑)。ライブでの間奏及び後奏でのオーボエ・ソロを吹いた方が、おそらく平原智さんで、平原綾香さんのお父上だろうということだけは、書いておきたいと思います(スタジオ版では、坂宏之さんがオーボエ奏者としてクレジットされています)。
惨敗の大きな原因となったストリングスとコーラスの大きさですが、「ギターが聴こえないんだよチクショウ、もっと音量下げやがれ」とかいうのは完全に本末転倒ですよね。このくらい大きくしないと、玉置さんの歌に負けて、盛り上がりに欠けます。とくにこのストリングスの美しさといったら!この怒涛の失恋ソングを究極にまで悲しく切なく彩ります。失恋の真っただ中でうっかり聴いたら立ち直れないほどの切なさです。それくらい、この曲にはピッタリのアレンジだといえるでしょう。コーラスも低音で、卑怯なくらい心の切なくなるスイッチをグリグリと押しまくってきます。これは、玉置さんの歌との合わせ技をくらうと、悶絶ものの大技です。ダメージゼロのルンルン気分からでも、一気に瀕死寸前まで追いやられること間違いありません。
そこへ、松井さんの確信犯的な歌詞が追い打ちをかけます。これはひどい!まさにジェットストリームアタックです(想定する対象読者を激しく間違えているたとえ)。
そう、石原真理子さんとの物語が、終わったんだ……と、誰でも容易に想像することのできる歌詞なんです。
よりによって「友達」なんてことばを選び、玉置さんにそれを歌わせるなんて……残酷すぎます。でも、それはおそらく、玉置さんの気持ちでもあったのでしょう。何しろ、松井さんと玉置さんは、一体化しているのですから……
みつめても、もう、せいぜい友達でしかない、そういつまでも、友達であってくれれば……
きれいだよ、ともう気安くいえない友達、そう、もうせいぜい友達、友達であってくれたらそれで……
グチャグチャになった心は、なんとか整理をつけよう、バランスを取ろうともがきます。その途中で考えたことや、うっかり友人にしゃべってしまったりした内容は(笑)、およそメチャクチャとしか言いようのないものでしょう。こういうときはしばらく誰とも話さずに黙っているのがしばしば得策なのですが、松井・玉置コンビは、なんと、信じられないくらい美しいバラードに乗せて全国に発信するという荒業に打って出ました。これは暴挙ですが、あとから見れば必然性のある暴挙といえるでしょう。安全地帯のつくってきた物語が、ここでいったん章を改めたんだということが、はっきりしたのですから。
シングル「Friend」のわずか二か月後にリリースされたシングル「好きさ」が、アニメ『めぞん一刻』のテーマソングになり、その実写版で音無響子さんを石原さんが演じたのは、もちろん単なる偶然でしょう。偶然でないとしたら、これはおそるべき悪趣味といわなくてはなりません(笑)。
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2017年04月30日
シルエット
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『安全地帯V Friend』五曲目、「シルエット」です。
これも二分足らずの小品です。しっとり、という言葉がピッタリのバラードですね。
リムを中心に叩いて雰囲気盛り上げに徹する田中さん、一番忙しそうな六土さん、シャリーン!カローン!と極上サウンドを奏でる矢萩さん、武沢さん、そしてささやき歌唱の極致を極めたかのような玉置さん、安全地帯メンバーはこんな小品にも、相も変わらず全力投球です。
とかなんとか書いておきながら、矢萩さんと武沢さんの音の区別をつけにくい曲なので、さらっと流してお茶を濁してしまおうかという誘惑にかられたのですが(笑)、頑張って聴ける限り書いてみたいと思います。
こういうとき、わたくしはよくライブ音源で耳を澄ますことから始めるのですが、『To me 安全地帯LIVE』では、ギターの位置が二本ともかなり真ん中よりにミックスされているように思われるのです。しいて言えば右、やや手前に聴こえる音が武沢さん、そしてやはりしいて言えばですが左、奥から聞こえる音(ヘッドホンだと頭の裏に聴こえてくるような感覚です)が矢萩さんでしょう。立体的でカッコいいです。
……で、どの曲でも同じ位置だと仮定してですが、この「シルエット」では、ほとんど武沢さんの位置からしか音が聴こえてきません。この「シャリーン!」「カローン!」も、武沢サウンドに聴こえます。そして、矢萩さんの位置からは、ごくたまに「アレ?」と思うくらいにしか音が聴こえてこないのです。それも幻かもしれません(笑)。もしかして、この曲はほとんど武沢さんしかギターを弾いてないのではないでしょうか。この曲は映像もないので、確かめようがありません。うー、この日の武道館、行きたかったです。これを確かめるためだけにでも(笑)。ほかの可能性としては、ふたりともほとんど同じフレーズを弾いていて、ミックスの時にだいたい同じ位置に聴こえるようにしたか、このときだけ矢萩さんのアンプ前マイクかレコーダーか、どっちかに不具合が発生したか、なんですが、どっちもありそうにありません。一番可能性が高いのは、わたくしの耳が悪いということです(笑)。
五人(四人?)のほかには、冒頭から、おそらく川島さんのシンセ、そして途中からホーンが入ってますよね。相変わらず管楽器は何の音かさっぱり聞き分けられないのがとても悔しいのですが(笑)。何の音かはわかりませんが、効いてますね。玉置さんはサポートメンバーが多すぎることに、のちのち嫌気がさしていくのですが、多くの人が力を合わせて作ったものにはそれだけの凄さがあるのも確かでしょう。絶品と言っていいんじゃないでしょうか。むしろ、YOSHIKIさんやイングウェイさんがオーケストラとかと共演することも厭わないのと比べれば、よくぞこれだけのメンバーでやり遂げたといえるでしょう。
さて、歌詞品評会のお時間です(笑)!
まず、「青い星座が」の時点ですでに現実感は吹っ飛び、イメージの世界へ聴くものを誘います。どうやったらこんな言葉を思いつくんでしょう!「黒い電話が」とか「赤い林檎が」みたいに、現実に存在する、もしくはしうるものじゃダメなんです。星座に青いも赤いもあるもんかい!とツッコミを入れることなど思いもよらずに、人は宇宙空間に恋人と二人きりで浮かぶのです。まるでZガンダムのコクピット内のように現実感のない空間を、いともたやすくイメージできるのです。
そこで二人は、愛を確かめ合う以外には、何もすることがありませんし、それで退屈ということもない、恍惚の時間を過ごすのです。
わたくしの、かつて組んでいたバンドでは「優先順位がおかしい」という理由で恋人にフラれてしまったメンバーがいるのですが、それは多分にわたくしのせいでして(笑)、わたくしが色々面白おかしいことに年から年中連れ回すせいで、恋人のほうはすっかり置いてけぼりをくった格好になってしまったのです。
人は、現実には恋人だけに夢中になれる時間はあまり設けられないものなのです(自分の責任はすっかり棚に上げて)。しかしそれでも恋人たちは、互いのことをしっかり見つめる時間を切望します。両者のタイミングが合致した時をどれだけ実感できるかは、恋愛の満足度を大きく左右するに違いありません。この歌詞は、そんな忙しい恋人たちの、「合致した」タイミングの一コマを切り取ったものであるように思えるのです。そんなとき、恋人たちは「夢を占う」ような些細なたわむれさえも、それがうれしくてたまらないわけです。「たったいま」は貴重なタイミングであって、それは「いま」でしかないことはわかっているのに、消えてほしくない。永遠に続いたら困るのは重々承知しているんですが、それでも消えてほしくないのです。心に「ふれていたい」、もちろんそれは物理的に不可能で、実際には「抱いていたい」という形をとるのですが、その差に傷つく暇すらなく「(心に)ふれていたい」「抱いていたい」が交互に起こるひとときに……また、何を書いているのかわからなくなってきました(笑)。いや、ですから、中高生お断りレベルの歌詞なんですね。大学生でも、この感覚はわかりにくいんじゃないでしょうか。社会や生活というものにある程度翻弄されていないと、こんな切実さは出ないものです。
あくまでオトナで、恋人と会う場所と時間にやや不自由しているお年頃の、恋愛におけるかなり幸せなワンシーンのみを切り取った歌だといえるでしょう。最後に気づきましたが、この切り取り方はすごい!前後の物語が少しもわかりませんが、それでいいのです。完璧です。
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2017年04月22日
ふたりで踊ろう
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『安全地帯V Friend』四曲目、「ふたりで踊ろう」です。
いや、やっとですね。前曲のフリとして使われてから、この曲もっと聴きたいんだけど、と思っていたのに別の曲(「パーティー」)が始まっちゃったから、どうなっちゃったのと思っているうちに、バーンと始まるわけです。この、やっと来た!感が味わえることで、一種独特の痛快さがあります。間に挟まった格好になった小品「パーティー」の魅力に気づいてからも、それは変わりません。
この曲のすごいところはですね、コード進行がずーっと同じだということです。最初から最後まで。BOOWYのON MY BEATなみに同じです。ああ、そりゃラクだからぜひコピーしよう、なんて気には全然なれないところもすごいです。
田中さんと六土さんは、シンプルに徹したものと思われます。六土さんなんて、ほとんど一小節に二回しか音出してないです。八分で刻みたい病にかかっているわたくしには、かなりの苦行です(笑)。でも、ガマンにガマンを重ねて……ってわけでもなさそうなんですね。この曲には、そうする必然性があるからそうしてるだけ、という、いつもの安全地帯リズム隊イズムが発揮されているように思われます。
『To me 安全地帯LIVE』の映像を見て実感がわくことなのですが、とにかくこの曲はホーンセクションのアオリがものすごいです。え?スタジオ版でもこんなに入っていたっけ?と思ってスタジオ版を聴きなおすと、うーん、やっぱり入ってるんですね。ライブ版はスタジオ版よりギターの音がかなり聴きづらくなっていまして(これはホールである以上、ある程度仕方ありません)、相対的にホーンセクションの音がかなり目立つようになっているわけです。
その合間を縫ってというべきか、ギターはギターらしいフレーズに特化しているように思われます。矢萩さんが歪んだ音でハーモニクスを入れたり、武沢さんが短音リフを入れたりと、まるでイーグルスのように渋い二人がそのまま渋いことを思う存分やっているように思われます。
そうなんですね、安全地帯っていうのはいつでも楽曲の完成度優先で、俺の音を目立たせようとかあんまり考えてないように思えるんです。この曲も、ホーンセクションがこういうアオリをするほうが曲が引き立つからそういうアレンジにした、だからリズム隊はごくシンプルにリズムを刻んで、ホーンセクションの効果を最大限に活かそうとした、だからギターはその隙間を埋めるために印象的なフレーズを入れることに徹した……と、このように、自分が目立たなくていいどころか、オリジナルメンバーが目立つ必要すらない、とまで考えたかのような、おそろしく自制の効いたアレンジになっています。
コード進行がずっと変わらず、言ってみればワンパターンなのに、飽きずにあっというまに聴ききってしまいますね。まあ実際二分にも満たない曲なんですが、それにしてもアレンジが見事なために、ワンパターンを感じさせないつくりになっています。わたくしなど、ひとつひとつの楽器の旋律を追いかけながらじっくり何度も聴く習慣がございますもので、飽きるなんてとてもとても(笑)。
ホーンセクションの音は分解しながら聴くことはできませんので、それがこのアルバムを聴くことの妨げになっているのが、とても悔しいです。中学校や高校で吹奏楽とかやってたらそういう耳に育ったんでしょうかね……まあ、いまさら後悔しても遅いですし、中学や高校のときのわたくしが吹奏楽に興味を示すことは、何度生まれ変わってもなさそうですから(嫌いなんじゃなくて、縁が遠いんです)、仕方ないんですけども。
玉置さんの歌と松井さんの歌詞は、もはや完全に一体化しており、松井さんが玉置さんに歌わせている、という雰囲気は微塵も感じることができません。玉置さんの歌いたいものを松井さんが書き、松井さんの書きたいものを玉置さんも求めていて歌う、という次元に達しているように思われます。そう思われるだけで、実際は全然違うのかもしれませんけれども。松井さんの詩の世界が先にあって、玉置さんが後からその詩に命を吹き込む……って感じじゃないんですね。この『安全地帯V』と比べてしまうと、『安全地帯II』や『安全地帯III 抱きしめたい』は、まだそういう雰囲気を残していたように聴こえます。
「Honey」とか「恋のみせしめにDance」とか、ほんとうに玉置さんが言ってそうじゃないですか(笑)。いや、言ってるんですけど、歌詞としてじゃなくて、自分の中から発した言葉として言ってそうなんです。「一番嬉しいんのは、松井五郎が見えなくなること」と松井さんはおっしゃってましたが(『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)、いやいやいや松井さん、わたくしには見えます!もちろん見えているのは玉置さんの歌う姿ですが、それと完全に一体化した松井さんの姿が、いや、現象が、玉置さんの歌にのっているのが、わたくしには見えます!もう、何を書いているのかわからなくなってきました(笑)。
さて、曲全体の雰囲気としては、「眠れない隣人」「Happiness」「こしゃくなTEL」路線、ここに完成!というべきでしょうか。勢いも言葉遊びも、ノリにノっています。これ以降、この路線を継承した曲がパッと思いつきませんので、これでこの路線はひとまず完成したとみるべきかもしれません。考察を続けるうちに、また「実はこの曲が後継だ!」とか言い出すかもしれませんけども、その際はご容赦ください。
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2017年04月16日
パーティー
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『安全地帯V Friend』三曲目、「パーティー」です。
最初に、受信状態の悪いラジオみたいなローファイサウンドで、「ふたりで踊ろう」が流れるんですが、これは演出です。当時は、不良品じゃないのか?と思われた方もいたそうです。そりゃ、ねえ、歌詞カードに「これは演出であって不良品ではありませんのでご安心ください」とか書かれていたら、興ざめです。聴いてりゃわかるんですから、余計なことは一切書かないのが当然です。
これは「ふたりで踊ろう」が流れている会場で、あるいはそれを受信しているラジオ(実況中継?)が流れている部屋で、壁の花になっている不慣れな感じの女の子に注目した、という話です。
パーティーの様子が実況中継されているって、どんな状況でしょう。ミニFMとかですかね。あんまりラジオにこだわらないで、パーティー会場そのもので、どこか一歩引いちゃって積極的に参加できない様子を表現していると考えるほうが自然かもしれません。実際、次の曲で、男に手を引かれて少女が一気に「はじける」様子が表現されているわけですから。
可愛らしい、モジモジした壁の花の女の子、それに目をつけ「誰よりもきれい」と元気づけてダンスに誘う男、なんてシチュエーションは、さすがに80年代の好景気のさなかでも、そうそう見られるものではなかったことでしょう。70年代の少女マンガとかで描かれた社交界じゃないんですから。ここに松井さんのおそろしさがあります。70年代の少女漫画で育った女の子たちが、ありもしないパーティーデビューを飾るような年頃になった80年代中盤に、こういう物語をよりによって玉置さんに唄わせるのです。うっかりこんな世界が日本のどこかにはあるんじゃないかと思っちゃうじゃないですか!そして80年代後半に東京圏の大学へ進学し、ダンパコンパに明け暮れるという……おお!まさに!(笑)。
冗談は置いとくとしても、松井さんの世界構築力、玉置さんの表現力にしっかり酔える曲です。アレンジは、エレクトリックピアノ、サックス、シンセサイザーと……田中さんもバス・ドラの16ビートだけは参加したのでしょうか?ちょっと疑わしいですね。ともかく、かなりシンプルなもので、バンド編成を必要としない曲です。これは、案外サポートメンバーだけで録音したのではないでしょうか。安全地帯のメンバーが録音する必然性がちょっと見当たりません。ライブ盤でも、SEで「ふたりで踊ろう」の導入として使われているだけですしね。
これは、玉置さんが作り上げた音楽を余すことなく収録するために(とはいえ、このとき用意されたデモ音源は100を超えていると読んだ記憶がありますから、厳密には「余すことなく」とは言えないんですけども)、松井さんが世界を作り、メンバー以外のミュージシャンで録音したと、わたくしは考えております。
というのは、レコーディングに臨むためには、キッチリ個人練習をしなければならないでしょうから、安全地帯のメンバーだけで仕上げることのできる曲数というのは、おのずと限りがあると考えられるからです。この、全36曲という数は、おそらく多忙を極めるメンバーにとっては、仕上げる限界を超えているでしょう。しかも、玉置さんによれば「一日三曲録ったりしてた」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)そうですから、想像を絶するペースです。おそらくバンドアンサンブルを明確に要求する曲以外は、サポートメンバーでどんどん録音していったものと思われます。この「パーティー」も、そんな曲の一つだと考えられます。
しかし……このかわいらしさは、どうでしょう!玉置さんのこの声!やや無機質なエレクトリック・ピアノが奏でる高音のリフ!小さな靴で逡巡するような、細かく刻まれたバス・ドラ!そして、最後に流れる、不穏なストリングス、キーのCで終わらず不協和音的なGから、一気にAの「ふたりで踊ろう」に流れるという終わり方!これは、破壊力抜群です。見事に高校出たての、不慣れな女の子です。おお、現代なら未成年に「ワイングラス」はヤバいとか言われちゃいますね(笑)。それにしても、表現されている年ごろは同じくらいでしょうに、太田裕美の「赤いハイヒール」みたいな悲壮感がないところが、80年代の明るさなのでしょう。
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