この公式ブログの記事は、原文ファイルの更新、追加、結合ができます、という内容ですが、今回の私の記事では、更新、追加、結合の 3 つのうち、更新と結合の 2 つについて説明します。すみません、追加についてはあまり改めて書くことがないので省略します。では、「ファイルの更新」から始めていきましょう。
Freelance 版では「ファイルの更新」は機能しない
公式ブログでは、ファイルの更新のことが「差し替え」と表現されています。私は、この「差し替え」という言葉にまずひかれました。翻訳作業においてとにかく面倒なのは、原文の差し替えです。これをうまく処理できる方法があるのなら、ぜひ活用したいと思いました。
公式ブログによると、「ファイルの更新」機能の一番の特長は、原文が少しだけ更新されて v1.0 から v1.1 になったときに、更新後の翻訳ファイルに「原文 v1.0 を翻訳しているときにエディターに表示されていた一致率や分節のステータスをそのまま引き継ぐ」ことができる点です。翻訳作業を始めてしまってから原文が更新された場合、更新後の原文にメモリから訳文を当て直すことはできますが、これをすると既に訳していた分節はすべて 100% 一致になってしまい、元から 100% 一致だったのか、今回訳した分節なのかがわからなくなります。こうなるのを避けて、元々のステータスを引き継いでくれるのが「ファイルの更新」です。これは、原文の更新以外にも、翻訳作業を始めてしまってから、ファイルの種類や分節規則の設定を変えて原文を読み込み直すときにも便利です。
というわけで、公式ブログで紹介されている「ファイルの更新」機能はとても魅力的な機能ですが、これは Professional 版でしか機能しません。Freelance 版にも「ファイルの更新」という機能はありますが、Freelance 版の場合は単純にメモリを当て直すだけです。ステータスを引き継いでくれることはありません。
こうなってしまう原因は、Freelance 版では「完全一致の適用」を利用できないことです。「完全一致の適用」は Professional 版でのみ利用できる機能です。完全一致の詳細については、以前の記事「完全一致がメモリに入っていない」と、公式ブログ「「100%一致」と「完全一致」の違い」も参照してください。
実際に、Freelance 版で「ファイルの更新」を試してみました。以下は、翻訳作業を始めた後に、分節規則を変更して原文を読み込み直すケースの例です。
まずは、通常どおり翻訳を始めます。中央の欄にあるステータスを見れば、機械翻訳そのままなのか、編集を加えたのかがわかります。青色の背景に「NMT」と表示されている分節は機械翻訳そのままです。背景が白色に変わっている分節は手動で編集しています。また、分節 9 と 10 は、訳文は入力しましたが、確定はしていません。
ここまで翻訳した時点で、コロンで分節が区切られない方がよいと思い分節規則を変更しました。分節規則を変更した場合は原文を読み込み直す必要があるので、ここで「ファイルの更新」機能を使用します。
Freelance 版で「ファイルの更新」を実行すると以下のようなメッセージが表示されます。ここに表示されているとおり、Freelance 版では「一括翻訳」が行われるのみです。おそらく、Professional 版では「完全一致の適用」も行われます。
結果は、以下のとおりです。ステータスが引き継がれることはなく、すべて CM か 100% マッチになってしまいます。これでは、機械翻訳を使ったのかどうかがわかりません。また、分節 9 と 10 は確定していなかったために訳文がメモリに入っておらず、入力していた訳文は消えてしまいました。
さて、一応、RWS の公式ブログには「Trados Studio Professional EditionとFreelance Editionの違い」という記事もあります。ここには、確かに Freelance 版では「完全一致 - 使用と作成」がサポートされないことが書かれています。ですが、「ファイルの更新」についての説明は一切ありません。Trados は Freelance 版で使っている人も多いと思うので、もう少し丁寧な説明が欲しいです。無料で使える CAT ツールが増えているなか、個人でわざわざ購入しているのだから、ぜひとも丁寧な対応をお願いしたいところです。なんなら、機能の制限自体をなくすくらいの対応が欲しいです!
「ファイルの結合」はちゃんと機能します
もうひとつの機能の「結合」は、私は今回初めて知りました。いつからあったのでしょう?? Trados では、複数のファイルをまとめてエディターに開くことは以前から可能でした。このため、細々としたファイルがたくさんあっても、それらを一気に開いて作業することはできていました。これに対して「ファイルの結合」が便利なのは、翻訳ファイル自体を結合するので、バイリンガル レビュー用のファイルも結合された状態で出力されることと、高度な表示フィルターでファイルを生成できるようになることです。
今回は、Feature_1.md、Feature_2.md、Feature_3.md の 3 つのファイルを使って実際に試してみました。結合したファイルは、下図のように表示されます。All_123.sdlxliff が結合によって生成されたファイルです。単語数やステータスは、元のファイルごとに表示することが可能です。
All_123.sdlxliff を開くと、下図のようになります。見た目は、結合せずにばらばらのファイルをまとめて開いたときとほとんど変わりません。
バイリンガル レビュー用ファイルを出力する
All_123.sdlxliff をバイリンガル レビュー用に出力すると、3 ファイルをまとめた 1 つの docx ファイルが出力されます。これは、とても便利です。ファイルの結合をしていないと、3 つの docx ファイルが出力されるので、レビューするときはファイルを 1 つ 1 つ開く必要があります。当然、Word 上でスペルチェックをかけるときも、ファイルごとにスペルチェックを実行しなければなりません。これが、1 つのファイルに結合されていれば、まとめて 1 回実行するだけで済みます。
また、変更履歴を残しているときも、この機能は大いに役立ちそうです。変更履歴を残している場合、下図のように複数の分節を一気に選択してコピーすると、変更履歴が認識されず、削除した文字も含めてコピーされてしまいます。このため、細かいファイルを作業していて、かつ変更履歴を残している場合は、Trados 以外のツール (Word や Just Right! など) でチェックをしようと思うととても面倒でした。変更履歴の詳細については、以前の記事「変更履歴は本当に必要?」も参照してください。
バイリンガル レビュー用のファイルは docx 形式になるので、変更履歴が正常に認識され、変更後の文字だけをコピーするのも簡単です。1 つのファイルにまとまって出力されていれば、一気にコピーして外部のツールに貼り付けることができます。
高度な表示フィルターでファイルを生成する
高度な表示フィルターの「生成」機能も、複数のファイルをまとめて開いているときは使えない機能ですが、ファイルが結合されていれば正常に使用できるようになります。高度な表示フィルターの詳細については、以前の記事「2021 で新しくなった表示フィルタ」も参照してください。
高度な表示フィルターの「生成」機能は、フィルターをかけて抽出した分節だけを sdlxliff ファイルとして出力する機能です。たとえば、以下の図は、[属性のフィルタ] で、[元データ] の [Interactive] を選択して、新規に翻訳した分節と、編集を加えた分節のみを表示しています。この状態で上部のメニューにある [生成] をクリックすると、現在画面に表示されている分節だけを含む sdlxliff ファイルを生成できます。
複数のファイルをエディターで開いている場合、その複数ファイルに対して画面上でフィルターをかけることはできますが、そのまま複数ファイルをまとめて sdlxliff ファイルを生成することはできません。これが、ファイルを結合しておけば、フィルターをかけた状態で正常に sdlxliff ファイルを生成できます。
今回は以上です。「ファイルの更新」は Freelance 版では機能しないですし、「ファイルの結合」もプロジェクトの作成時に結合を行う必要があるので、パッケージを受け取って作業をする個人翻訳者は、パッケージを作成する翻訳会社などに結合をお願いするしかありません。RWS 社が提供している情報は、翻訳会社向けなのか、個人向けなのか、どうもはっきりしないことがよくあります。何かよさげな情報を見つけたときは、どのエディションでサポートされるのか (Freelance 版か、Professional 版か) と、誰が使う機能なのか (パッケージの作成者か、パッケージを受け取る翻訳者か)、といった点を確認することをお勧めします。
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