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昔は「Trados さん、頑張って!」とお祈りしながら訳文生成していませんでしたか? 今も、たまにそんな気分になるときがあります。Trados って本当にわからないことばかりです。特に、日本語の情報は少ないですよね。いくら翻訳者とはいえ、日本語の情報が欲しいのです。Trados ユーザーの方々といろいろ情報交換できたらと思っています。




2022年06月30日

翻訳会社によってこんなに違う

先日、Trados の最新バージョン 2022 を紹介するオンライン セミナーに参加しました。 私はまだアップグレードをしていないので新バージョンの紹介はまた今度にしますが、そのセミナーの中で、Trados は「ニッチな使い方をしている人にも対応していく」という説明がありました。そんなことを言われても、ホントに?? と思ってしまわなくもないですが、RWS さんからすれば「ニッチ」と思えるような独自の使い方をしている人や会社が少なからず存在することは事実だと思います。Trados は歴史も長いので、昔から使っていた人と、最近使い始めた人とではそもそもの考え方からして違うようにも感じます。

今回は、私が翻訳会社さんと実際にどのような仕事をしているのかを少しだけ紹介したいと思います。私は、主に IT 分野の日英と英日の翻訳をしており、分野も言語の種類も決して多くありませんが、それでも翻訳会社によっていろいろなことが大きく違います。


A 社: 小規模ならではの “適当さ”


 言語方向: 英 -> 日

 ファイルの種類: Word と PowerPoint がほとんど

 ソース クライアント: ほぼ 1 社


まず、小規模ですがなかなか頑張っている A 社を紹介します。私は A 社からほぼ決まったソース クライアント 1 社の仕事を受けています (おそらく、A 社全体でも、このソース クライアントの仕事が大きな割合を占めていると思います)。ソース クライアントが決まっているので、翻訳するファイルも似たようなものが多く、Word と PowerPoint がほとんどで、Trados のプロジェクト設定もほぼ毎回同じです。


巨大なメモリが提供される

A 社は、この決まったソース クライアントの訳文を集めた巨大なメモリを 1 つ持っていて、たいていのプロジェクトにそのメモリを設定してきます。ただ、新規翻訳の案件が多いので、巨大なメモリであってもほとんどマッチはしません。マッチするのは、著作権や免責事項の定型文くらいです。

ほとんどマッチがないので、前処理もされていません。翻訳ファイルを開くと、まっさらな状態で、100% マッチやコンテキスト マッチがあっても事前に訳文が挿入されていることはありません。A 社は、100% マッチなどにも料金を払ってくれる (割り引きはありますが) ので、前処理がされていなくても特に問題はありません。というより、新規翻訳なら、下手に訳文が挿入されているより、何もされていないほうがやりやすく感じます。


適当にいい感じ

巨大なメモリからたまに見当違いな訳文がヒットしてくるとか、発注書の発行が遅いとか、用語ベースを使わないとか、なんとなく問題はありますが、納期はきつくないし、単価も高めだし、変に面倒な指示はないので、全体としては “適当に” いい感じです。



B 社: クライアントの指定で Trados を使う


 言語方向: 英 -> 日

 ファイルの種類: XML ファイル

 ソース クライアント: ほぼ 1 社


次に、A 社よりかなり会社の規模が大きい B 社を紹介します。 B 社からも私はほぼ決まったソース クライアント 1 社の案件しか受けませんが、A 社とは状況がだいぶ違います。B 社は、会社としては Memsource をメインの CAT ツールとして使い、特定のソース クライアントのときのみ Trados を使っているようです。

私が受ける案件のソース クライアントはいわゆる大手 IT 企業で、多言語の翻訳を行っています。Trados を導入しているのは、そのソース クライアント自体か、B 社よりさらに上流の MLV (Multiple-Language Vendor) らしく、プロジェクトやメモリの仕様は基本的にはその上流で決められているようです。
 

プロジェクト用翻訳メモリしか提供されない

B 社から受け取る Trados のプロジェクトには、プロジェクト用翻訳メモリのみ含まれていて、メイン メモリは含まれていません。「プロジェクト用翻訳メモリ」とは、一定のマッチ率 (おそらく、70%) 以上の分節だけを抽出したメモリです (詳しくは、公式ブログ「プロジェクト用翻訳メモリについて」を参照してください)。 メイン メモリが巨大でも各プロジェクトに含めるデータの量を減らせるので翻訳会社には便利なメモリです。

ただ、翻訳者としては、メイン メモリも提供して欲しいと思っています。マッチしてこなくても訳語検索はできますし、最近は「フラグメント一致」という機能で、分節全体としてはマッチしなくても、一部の用語だけがヒットしてくることもあります。B 社は、75% マッチから料金を割り引いてきますが、75% マッチで料金を割り引くほど適切で関連性のあるメモリなら 69% マッチの訳文も参照の必要があるでしょうし、69% マッチが参照不要となる程度の雑多なメモリなら 75% マッチの訳文も割り引きをするほど適切で関連性のあるものではない可能性が高いのではと思います。

以前に、メイン メモリの提供をお願いしたことがありますが、提供できないとの返事でした。おそらく、「巨大なメモリ」と紹介した A 社のメモリとは比にならない巨大さなのだと思います。そのうえ、多言語なので、ソース クライアント側にはその巨大なメモリが言語の数だけ存在しているはずであり、まあ管理が大変そうであることは想像がつきます。


多言語プロジェクトの注意点

多言語が関わる案件では、自分の担当が単一言語だとしても Trados のプロジェクト設定で少し注意が必要になります。

言語ペア
以前に Trados のワナとして紹介しましたが、プロジェクトの設定には「すべての言語ペア」と「特定の言語ペア」の両方があります。


  80_5.png


両方で設定がされている場合、優先されるのは「特定の言語ペア」の方です。メモリの設定などを変える場合は、「すべての言語ペア」ではなく、「Japanese」と表示されている特定の言語ペアの方で変える必要があります。

用語ベース
このソース クライアントの案件では、UI の文言が Excel ファイルと Trados の用語ベースの両方で提供されます。用語ベースの提供は大変嬉しいのですが、以前に用語がうまく認識されないことがあり、確認してみたら言語の設定が間違っていました。

多言語の場合は、そもそものソース言語が English だったり、Source だったり、en-US だったり、またはまったく違う言語だったりします。このソース クライアントから提供される Excel ファイルを見ると、十数言語の列が横にずらっと並んでいて、その中に Source 列と English 列があり、English 列は空になっていることがあります。こうしたファイルから用語ベースを作成するときは、どの列を用語ベースの「英語」とするのかに注意が必要です。


全体としては、きちんと整っている

B 社もソース クライアントも大手だけあって、作業データの内容や手順はかなりきちんと整えられています。翻訳するファイルは XML ファイルですが、完成形に近いプレビューができるように設定がされています。原文や UI のデータも最初に必ず提供されますし、発注書も作業前に発行されます。メイン メモリを提供してくれない点以外は、とても効率的に作業が進められて快適です。



C 社: 細部までの配慮がされている


 言語方向: 日 -> 英

 ファイルの種類: Word、PowerPoint、HTML ファイル

 ソース クライアント: 3、4 社


次に、会社の規模としては A 社より大きく、B 社よりは小さい中程度の C 社を紹介します。C 社は、かなり以前から Trados をメインに使っているようで、技術的な知識も豊富な感じの会社です。作業データの内容などを見ると、細部までいろいろな配慮がされていることがわかります。


参照用メモリと更新用メモリが設定されている

C 社は、Trados のプロジェクトに参照用メモリと更新用メモリを最初から設定してきてくれます。参照用メモリは更新されず、自分が訳したメモリは更新用メモリに登録されていきます。更新するメモリの設定については、以前の記事「提供された訳文と自分の訳文を区別する ー @ メモリを分ける」も参照してください。


17-2.png


翻訳会社から提供されたメモリを自分の訳文で更新してしまうと、後から確認したくなったときに困るので、提供されたメモリは更新しない設定にしておくほうが安全です。ただ、Trados の既定設定では更新されてしまうため、私はたいてい自分で設定を変えています。C 社はこの設定までしてきてくれるので、自分で設定する必要がなく、設定を忘れて更新してしまうこともありません。とても助かります。


英数字のみの分節をロックしてくる

細部までの配慮はすばらしいことですが、翻訳者にとっては少しシビアな点もあります。C 社は、日本語から英語に訳す案件の場合、日本語内の英数字のみの分節をロックして、作業対象外としてきます。「作業対象外」ということは、当然ながら、料金 0 円です。

ロックまでしてくるので 0 円でも構わないですが、「英数字のみ」の抽出は正規表現か何かで機械的に行われています。このため、和製英語や日本語独特の略語など (たとえば、OK/NG の「NG」、Number を略したピリオドなしの「No」) はロックされてきます。また、数字と単位だけの分節もロックされてきます。スタイルガイドに「数字と単位の間には空白を入れる」と書いてあっても、原文の「10cm」はそのままロックされてきます。おそらく、レビュアーさんがロックを解除して対応しているのではないかと思います。



D 社: いろいろな手法を挑戦的に取り入れる


 言語方向: 日 -> 英

 ファイルの種類: Word、PowerPoint、HTML ファイル、その他いろいろ

 ソース クライアント: 不特定


次に、C 社と同程度か、少し規模の大きい D 社を紹介します。D 社も Trados の使用実績は豊富と思われますが、C 社より個人の裁量が大きい社風のようで、コーディネーターさんによって作業データの内容や手順がさまざまに変わります。また、ソース クライアントや翻訳ファイルの種類が多いためか、いろいろな手法を挑戦的に取り入れている感じがします。


コンテキスト マッチが作業対象外のことがある

D 社は、私がお付き合いしている翻訳会社の中で唯一、コンテキスト マッチ (CM) を作業対象外としてくる “ことがある” 会社です。CM や 100% マッチについては公式ブログの「100%一致」と「完全一致」の違いでも説明されていますが、簡単にいうと、CM は 100% マッチより信頼度が高いマッチです。このため、Trados の設定では「100% マッチはロックしないが、CM はロックする」ことが可能です。Trados で「ロックする」ということは、作業対象外として 0 円にするという意味です。

とはいえ、翻訳会社さんも設定で可能だからといってむやみに CM を作業対象外にするわけではありません。品質、予算、納期などいろいろと検討した上でどこを作業対象とするかを決定しているはずです。D 社の場合も、すべての案件で CM が作業対象外となるわけではないので毎回確認が必要です。

作業対象の確認は、指示書、翻訳ファイル、発注書の 3 つで間違いがないか確認します。一番多い間違いは、指示書に「CM も作業してください」とあるのに、発注書で CM が 0 円になっているケースです。

また、もう 1 つ困るケースとして、CM が対象外なのに、翻訳ファイルでロックされていない場合があります。ロックされていないと、うっかり作業してしまう可能性があり、トラブルになりかねないので、私は必ず翻訳会社さんに対象外の部分をロックしてきてくれるようにお願いしています。


更新用メモリはないこともある

CM に加えて、もう 1 つ D 社の特徴的な点は、Trados のプロジェクトに更新用メモリを設定してこないことです。これも、コーディネーターさんによってばらつきはありますが、新規翻訳の場合にメモリが 1 つも設定されていなかったり、参照用メモリが設定されている場合に「更新」のチェックがオフにされていたりすることが多々あります。

「更新」のチェックがオフにされていれば、参照用メモリを間違って更新してしまうことはないので安心です。更新用メモリをあらかじめ設定してくる C 社の場合と異なり、自分で更新用メモリを作成してプロジェクトに追加する必要はありますが、自分で自由に設定したいこともあるので、私としては「更新」のチェックがオフにされているだけで十分です。


翻訳ファイルにいろいろな加工がされている

D 社は、C 社と同様、Trados などに関する知識は豊富なようで、翻訳ファイルに手の込んだ加工がされていることがあります。英数字のみの分節はロックしてきますし、何か別の基準でロックがされていることもあります。また、改訂版の翻訳で改訂部分だけが抜き出されていることもありました。加工されたファイルが翻訳者にとって作業しやすいものかといえば必ずしもそうではないこともあるのですが、いろいろと工夫がされていることは確かです。



E 社: IT 翻訳をメインにしていない会社


 言語方向: 英 -> 日

 ファイルの種類: Word、その他いろいろ

 ソース クライアント: 不特定


上で紹介した C 社と D 社は Trados を積極的に活用しようとする雰囲気が感じられますが、もちろん、世の中そんな会社ばかりではありません。私にたまに依頼をしてくる E 社は IT 翻訳をメインにする会社ではなく、Trados を長年使ってはいますが、積極的に活用しようとする意識はなさそうな感じです。


パッケージを使わない

Trados をあまり使わないためか、E 社はデータの受け渡しにパッケージを使用しません。プロジェクトのフォルダー (sdlproj ファイルと関連の各フォルダー) をそのまま送ってきます。作業後にこちらから納品するのは、sdlxliff ファイルです。

「パッケージを使わないから、とんでもなく不便」ということはありませんが、E 社以外はどの会社もパッケージを使います。パッケージは、Trados の長い歴史から見れば比較的新しい機能といえないこともないので、昔から Trados をほそぼそと使ってきた会社なら、パッケージを使わないという選択も自然かもしれません。



F 社: Trados を使わない会社


 言語方向: 日 -> 英

 ファイルの種類: Word、PowerPoint、Excel

 ソース クライアント: 不特定


さて、ようやく最後です。F 社は Trados をまったく使わない会社です。ほとんどの案件は Office 文書で、原文のファイルがそのまま送られてきます。私は、送られてきたファイルを Trados に取り込み、翻訳をして、訳文生成をして、レイアウトを整えて納品します。レイアウトの料金は追加で支払われますが、これまであまり複雑なものはなく、Trados の訳文生成後にそれほど手間がかかったことはありません。


自分の裁量で Trados を使う

自分の裁量で Trados を使用するので、何か問題が発生したときは自分で対処する必要があります。ただ、どうしても問題が解決できなければ、もちろん Trados を使わないという選択肢もあるので、最初から Trados を指定されるよりいいかもしれません。

Trados で問題が発生しないかを早めに確認するため、私は、原文をもらったらすぐに Trados に取り込み、訳文を少しだけ入力して訳文生成をしてみます。そこで、レイアウトが維持されるか、フォントがうまく変換されるかなどを確認して、大丈夫そうなら Trados で作業します。



今回は以上です。いろいろな会社があるということをお伝えしたくて、いろいろなことを書いていたら、ものすごく長くなってしまいました。プロジェクト用翻訳メモリとか、CM とか、ロックとか、今回はざっとしか説明しませんでしたが、また機会があったら詳しい記事を書きたいと思います。





  




2022年05月23日

デュアル ディスプレイでの作業

私は普段からデュアル ディスプレイで翻訳作業をしています。3 画面、4 画面と増やした方が便利かもしれませんが、物理的な制限から、私は 2 画面です。今回は、この 2 画面で Trados をどのように使って翻訳とチェックの作業をしているのかを紹介します。



92_1.png



2 つのディスプレイは 1 つの机の上に置いています。キーボードをメイン画面寄りに置き、顔を正面に向けたときはほぼメイン画面、少し右を向くとサブ画面という形になるようにしています。

私は、最初に翻訳をするときと、いったん訳し終わってからチェックをするときで各画面に表示する内容を変えます。ひと手間かかりますが、それぞれの作業に合わせて画面表示を調整した方が便利です。また、翻訳する文書の種類によっても表示を調整します。Word ファイルなら通常は縦長ですが、PowerPoint は横長ですし、HTML ファイルや XML ファイルは簡単には表示ができないこともあります。Trados にはもちろんプレビュー機能がありますが、なかなかうまく動作してくれないので多少の工夫も必要です。




翻訳をするとき


メイン画面に Trados

最初に翻訳をするときは、メイン画面に Trados、サブ画面に原文と訳文を表示します。サブ画面には、辞書やブラウザーなどの参考資料も表示します。2 画面の環境では参考資料などが表示しきれず、どうしてもウィンドウの切り替えが多くなるので、ディスプレイの数を増やせるなら増やした方がいいかもしれません。




92_2.png




Trados 内のレイアウト

Trados 内の各ペインなどのレイアウトはかなり自由に変更できます。ペインのタイトル部分をドラッグすると、配置可能な場所を示すガイドが表示されるので、それに合わせて移動します。

各ペインは Trados 本体のウィンドウから外に出して別ウィンドウとして表示することもできます。大きく表示したいプレビュー ペインなどは、本体のウィンドウから切り離して別ウィンドウとして表示した方が見やすくなります。ただ、ウィンドウを切り離しても 1 つのアプリケーションであることに変わりはないので、1 つのウィンドウをクリックすると、Trados のすべてのウィンドウがアクティブになり前面に表示されます。

不要なペインは非表示にできます。ペインの右上端の × アイコンをクリックすれば、そのペインは非表示になります。非表示にしてしまっても、リボンの [表示] タブから選択すれば再度表示できます。また、同じ [表示] タブにある [ウィンドウのレイアウトを元に戻す] をクリックすれば、全体の表示が初期設定に戻ります。変な風に変更しても元に戻せるので、安心していろいろお試しください。

私は、下図のように、自分が使わないペインやアイコンは消し、訳文を入力する部分がなるべく広くなるようにしています。また、用語認識とフラグメント一致は常に表示される場所に移動し、縦長に表示します。用語ベースを使わないプロジェクトのときは、用語認識ペインは非表示にします。




92_4.png




用語認識とフラグメント一致のペインを切り離してサブ画面に表示していたこともありましたが、今は元に戻しました。この 2 つのペインを外に出した方が訳文を入力する部分は広くなりますが、用語を見落とすリスクがどうしても高くなる気がします。




チェックをするとき


メイン画面に原文と訳文

さて、一応最後まで翻訳をしてチェックをしようというときは、メイン画面に原文と訳文を表示し、Trados はサブ画面に移動します。メイン画面に Trados を置いておくと、チェックをしているはずなのに気づくと Trados のウィンドウばかり見ていたという状態になりがちなので、最も目に入りやすいメイン画面に原文と訳文を置きます。

また、訳文だけでなく、必ず原文も目に入りやすいところに置きます。チェックをしているときは、当然ながら訳文に注意が向くので、原文がすぐ目の届くところにないと、これも、気づくと訳文しか読んでいなかったという状態になりがちです。PowerPoint などの横長ページで原文と訳文を 1 画面内に表示するのが難しい場合は、原文をメイン画面に、訳文をサブ画面に表示します。訳文は嫌でも見るので、やや見にくい方に置いておいても大丈夫です。




92_3.png





Trados 内のレイアウト

Trados 内のレイアウトも翻訳時とは少し違うものにします。フラグメント一致は、翻訳時には便利ですが、一度訳文を確定してメモリに登録した後は検索が行われなくなります。この状態でペインを表示していてもスペースの無駄なので、非表示にしてしまいます。

訳文の文字サイズも変更します。これは、改行位置を変えるためです。改行があると、スペースの有無がわかりにくいですし、無意識のうちにそこを区切りと感じてしまうので、読点を入れるかどうかの判断に影響することがあります。私は、チェック時は文字サイズを小さくして、1 行になるべく多くの文字が表示されるようにします。

以前にお話を聞いたことのある翻訳者さんは、チェック時には文字を大きくするとおっしゃっていました。自分の好みや文書の種類によってどちらでもいいと思いますが、とにかく「改行位置が変わる」ようにします。文字サイズを変えにくいときは、ペインの幅を変えるだけでも改行位置が変わります (もちろん、フラグメント一致を非表示にした時点で、エディター部分の幅は変わっています)。




92_5.png






便利なショートカット キー

Trados のエディター内での表示調整として、私は、空白文字の表示/非表示と、タグ表示モードの切り替えをショートカット キーに設定して使用しています。翻訳でも、チェックでも、必要に応じて随時切り替えながら作業します。


空白文字の表示/非表示

ショートカット キーの設定: [ファイル] > [オプション] > [ショートカット キー] > [エディタ] > [空白文字の表示]
リボン: [ホーム] > [書式]
設定画面: [ファイル] > [オプション] > [エディタ] > [空白文字の表示]

「空白文字の表示」という設定で、スペースはもちろん、改行、タブなどの記号も表示されます。ただ、スペースを示すポチっとした黒い点は、英語のピリオドや日本語の中黒との見間違えが起こりやすいです。また、改行が表示されている状態とされていない状態では、訳文を読んだときの印象が少し変わってくるような気がします。常に表示する、または常に非表示にするということではなく、切り替えながら作業するのがよいかと思います。


タグ表示モード

ショートカット キーの設定: [ファイル] > [オプション] > [ショートカット キー] > [エディタ] > [タグ表示モードの変更]
リボン: [表示] > [オプション]
設定画面: おそらく、なし

タグ表示モードも切り替えながら作業するのが便利です。タグの中身まで確認したいときはありますが、普段は邪魔なのであまり目立たない表示にしています。[タグ ID] という表示にすると、タグが番号で表示されます。UI や製品名など、同じタグで中身が違う場合は、タグ ID の表示が便利です。




訳文のプレビュー


最後に、難題を少しだけ取り上げます。ここまで「訳文を表示する」とさらっと書いてきましたが、実は訳文を表示するのはなかなか大変です。Trados には訳文のプレビュー機能がいくつかありますが、どれも一長一短あり、あまり便利ではありません。詳しくは、以前の記事、「訳文の表示」を使ってみる「訳文のみで保存」を使ってみる意外と使える「印刷プレビュー」を参考にしてください。


Office 文書なら「訳文の表示」

Word、PowerPoint、Excel などの Office 文書なら、「訳文の表示」機能を使うことで、Trados とは別に Word、PowerPoint、Excel など元々のアプリケーションで訳文を表示できます。ショートカット キーの Ctrl+Shift+P で簡単に表示できます。


HTML ファイルなら「訳文のみで保存」

HTML ファイルなら、訳文をファイルとして保存し、ブラウザーで表示するのが便利です。スタイルシートや画像が含まれている場合はひと手間かかりますが、それでもブラウザーでの表示はとても手軽です。訳文をファイルとして保存するには、[ファイル] > [別名 (訳文のみ) で保存] と選択するか、ショートカット キーの Shift+F12 を使います。


XML ファイルなら「プレビュー」

XML ファイルなら、Trados 内のプレビュー ペインでの表示が簡単です。リアルタイム プレビューにすれば、現在編集中の分節をハイライトすることもできます。プレビュー ペインは、XML ファイル以外にももちろん使用できますが、私の経験上、XML ファイル以外ではあまりうまく機能しません。私のパソコン環境の問題かもしれませんが、Trados のエディターの動きが遅くなったり、カーソルが消えたりします。XML ファイルのときだけは、こうした不可解な動作もなく、正常に機能します。


最終手段は「印刷プレビュー」

場合によっては、上記のいずれもうまく機能しないことがあります。そんなときは、最終手段として「印刷プレビュー」を使います。エディター上に表示されている原文と訳文をブラウザーで表示することができます。マッチ率による色分けや、タグの表示もできます。ショートカット キーは Ctrl+P です。



今回は以上です。私は、現在のデュアル ディスプレイ環境をとても気に入っていますが、3 画面、4 画面も少し憧れます。でも、自分の今の部屋では難しいし、しばらくは現状のままになりそうです。







  




2022年05月05日

ファイル ビューをカスタマイズする

先日、Trados から変なエラーが表示されるようになってしまったので、Trados のインストール環境をクリーンな状態に戻してくれるアプリ Trados Freshstart を使いました。これでエラーは解決しましたが、いろいろな設定が初期化され、再設定にだいぶ手間を取られました。忘れている設定も多かったので、今回は自分の備忘録も兼ねてファイル ビューの設定をまとめておきたいと思います。


サブフォルダを含める


まずは、左側のメニューで [サブフォルダを含める] チェックボックスをオンにします。これをオンにしないと、フォルダごとにしかファイルを表示できないので不便です。プロジェクトはいくつかのフォルダで階層構造になっていることもあるので、全ファイルを一気に一覧したいときはこのチェックボックスをオンにします。

たとえば、下図のプロジェクトには「Chapter1」と「Chapter2」というサブフォルダがあります。[サブフォルダを含める] チェックボックスがオフのままの場合、これらのサブフォルダ内のファイルはそのフォルダを選択しない限り一覧に表示されてきません。



■ [サブフォルダを含める] をオフにしたまま

91_1.png



■ [サブフォルダを含める] をオンにする

91_2.png


ただし、[サブフォルダを含める] をオンにしてファイルを表示すると、全ファイルが同じレベルで一覧されるのでフォルダの階層構造がわかりにくくなります。これについての対処方法は、後で説明します。



ファイル一覧のレイアウトを選択する


ファイルの一覧に表示される項目などはリボンの [レイアウト] タブから変更できます。状況に応じて既定のレイアウトが自動で選択されますが、自分の目的に合わせて変更することも可能です。私が普段よく使うのは「ファイルの詳細のレイアウト」です。

91_8.png



レイアウトを自分用に変更する


いろいろなレイアウトが既定で用意されていますが、実は、どれもこれもあまり使い勝手がよくありません。でも、大丈夫です。この既定のレイアウトはカスタマイズできます。また、自分でまったく新しいレイアウトを作成することもできます。

カスタマイズする場合は、項目名 (見出し行) のどこかを右クリックしてメニューを表示します。そのメニューから、表示したい項目を選択するか、[カスタマイズ] を選択して細かい設定を行います。また、項目名を直にドラッグ アンド ドロップして表示列を移動することもできます。

新しいレイアウトを作成する場合は、上図に示したレイアウト選択用のドロップダウンで、一番下にある <新しいレイアウト> を選択します。下図のような設定画面が表示されるので、[ビュー名] に新しいレイアウトの名前を入力し、後は、表示したい項目を選択していきます。

91_5.png



以下に、私がよく使用する項目を紹介します。

[全般] > [パス]

まず、ファイル一覧の先頭 (左端) にパスを表示します。[サブフォルダを含める] オプションを有効にしていると全ファイルが同じレベルで一覧されてしまいますが、先頭にパスを表示して、パスの値で並び替えをしておけば、フォルダの階層構造がわかりやすくなります。 さらに、[グループ化条件] に「パス」を選択すると、ファイルがフォルダごとにグループ化されます。フォルダが重要な意味を持つプロジェクトでは、グループ化の表示にしておくと視覚的にわかりやすくなり便利です。


■ 左端にパスを表示し、パスの値で並び替えをしておく

91_3.png


■ さらに、パスでグループ化することもできる

91_4.png
 

[全般] > [ファイルの種類の識別子] と [使用目的]

自分でプロジェクトを作成するのではなく、翻訳会社からパッケージとしてファイルを受け取る場合でも、原文の「ファイルの種類」を知っておくことは大切です。QuickInsert の設定や、生成した訳文ファイルにコメントを含めるかの設定など、「ファイルの種類」にはよく使う設定がいくつか含まれています。また、Trados はファイルの種類によってかなり動作が異なるので、何かを他の人に相談したいときなどは、まずファイルの種類を伝えると話がスムーズに進む可能性が高くなります。

ファイルの種類はアイコンで大体わかりますが、わかりにくいケースもあります。たとえば、Office 文書はバージョンによってファイルの種類が異なりますし、Excel には、訳文を併記するスタイル用に専用の種類が用意されています。正確な「ファイルの種類」を特定するには、ファイルの種類の識別子を確認する必要があります。この識別子をたよりに、[プロジェクトの設定] > [ファイルの種類] で該当するファイルの種類を見つけます。

ファイルの種類とあわせて「使用目的」も念のため表示しておきます。ごくまれにですが、パッケージには使用目的が「翻訳対象」ではなく「リファレンス」となっているファイルが含まれていることがあります。これは、参考資料として使ってください、という意味なので、そのファイルの翻訳は不要です。


[確認] > [進行状況]

これは、ステータスが確定済みになっている分節の文字数 (単語数) の割合です。どれくらい作業が進んでいるかの目安になります。

[確認] という分類の中には他にもいくつか項目がありますが、この分類の項目の値はエディターで作業を進めるにつれてどんどんと更新されていきます。一方、[解析] という分類の中にある「100%」などの項目は、一括タスクの「ファイルの解析」を実行しないと更新されません。エディターで作業を進めても、100% の値は増えないので注意してください。

91_6.png



ウィンドウ下部のタブ


最後に、ファイル一覧の下に表示されるタブについても少しだけ説明しておきます。ここには、リボンの [情報] タブで選択した情報が表示されます。表示した各ペインのレイアウトは、Trados の他の画面と同様、ドラッグ アンド ドロップで自由に変更できます。


91_9.png


[ファイルの詳細] タブ

一覧上で選択したファイルの詳細情報が表示されます。ここで注目するのは「最終変更日」です。各ファイルの最終変更日はここにしか表示されません。上部の一覧の項目としては表示できないので、最終変更日順に並べ替える、といった操作はできません。

最終変更日で並べ替えることができないのは、大量のファイルがあるときなどはとても不便です。一応、Ideas にリクエストは出ているので、もしよければ投票をお願いします。


[ステータス情報] タブと [解析結果] タブ

[ステータス情報] タブは一覧に表示する項目の分類でいえば [確認] に、[解析結果] タブは [解析] に相当します。ですので、[ステータス情報] はエディターで作業を進めるにつれて更新されますが、[解析結果] は解析を行わない限り更新されません。メモリとの一致も含めて作業の進捗を知りたいときは、一括タスクで解析を実行してから [解析結果] タブを確認します。


今回は以上です。ファイル ビューは頻繁に使う画面なので、面倒がらずに自分の使い方に合わせてカスタマイズすることをお勧めします。






  





2022年03月28日

どうしても訳文生成できないとき

ここ最近、100MB 近くある Word ファイルが複数含まれるプロジェクトを作業していてだいぶ困ったことになっていました。突然、訳文生成ができなくなり、プレビューもできなくなりました。作業当初からメモリ不足のエラーが頻発し不安定ではあったのですが、訳文生成やプレビューができないのは致命的です。

訳文生成できないといっても、訳文生成のプロセス自体はエラーもなく完了します。ただ、生成されたファイルを Word で開くと、ファイルが壊れているというエラーが表示され、修復するオプションを選んでも空白のファイルが表示されるだけでした。

タグのエラーはないし、コメントも入れていないし、表示フィルターのハイライトも使っていません。いろいろ考えているうちに、前にも巨大な PowerPoint ファイルで訳文生成できないことがあったのを思い出し、そこで試してみた方法が、



 プロジェクトを新しく作成して、新しいファイルで作業し直す



です。これで、いったんは訳文生成できるようになりました。作業し直すといっても、すべて入力し直すわけではありません。既訳をメモリに保存し、新しいファイルにそのメモリを当て直します。多少の手間はかかりますが、訳文生成できないのであれば仕方ありません。

しかし、これでも「いったん」解決しただけで、しばらく作業を続けているとまた訳文生成ができなくなりました。その後、さらにプロジェクトを作り直してみたり、正常に訳文生成できていたときのバイリンガル ファイルをバックアップから戻してみたり、原文のバイリンガル ファイルも一緒に戻してみたり、といろいろ試しているうちに、1 つの法則に気づきました。



 訳文生成が 1 回失敗すると、もう二度と正常な生成はできない



です。新しいプロジェクトを作成した後、1 回でも訳文生成が失敗すると、その後はバックアップからファイルを戻しても、メモリを当て直しても、何をしても、もう二度と訳文生成はできません。プレビューもできなくなります。しかし、これは裏を返せば、



 「訳文生成」さえしなければ、プレビューはできる



ということでした。プロジェクトを作成した後、一括タスクの「訳文生成」は使わず、「訳文の表示」([ファイル] > [印刷 & 表示] > [表示方法]、Ctrl+Shift+P)のみを使うようにします。「訳文の表示」では Word で訳文ファイルが表示されるので、そこで [名前を付けて保存] をすれば訳文生成と結果的には同じになります。

「訳文の表示」機能は、Trados 画面内のプレビュー画面から表示するプレビューとは別の機能です。詳しくは、こちらの記事「訳文の表示を使ってみる」も参考にしてください。「訳文の表示」と「訳文生成」は別機能なので、細かいところまで見ると作成されるファイルには違いがあるかもしれません。が、今回は次善策として使いました。


今回は以上です。なぜ訳文生成できないのか根本的な原因はわからないままですが、自分の納品ファイルが作成できたところであきらめました。訳文生成できない問題は本当に困ります。ただ、ここに書いた「訳文生成が 1 回失敗すると、その後は二度と成功しない」という現象は、今回のプロジェクトに限った現象です。私の経験からすると、巨大な Office 文書に特有の現象かと思いますが、実際のところはよくわかりません。普通は、訳文生成が失敗しても、エラーを解消して再挑戦すれば、正常に処理できるはずです。(たぶんね。)





  







2022年02月22日

完全一致がメモリに入っていない

少し前に、完全一致 (Perfect Match、略して PM) が含まれるプロジェクトで少し面倒なことがあったので、そのときのことを紹介したいと思います。Trados には、PM、100%、コンテキスト マッチ (CM) などいろいろな一致がありますが、PM はかなり特殊なので少し注意が必要です。

完全一致が含まれていた今回のプロジェクトは、よくある改訂版の翻訳でした。ソフトウエアのマニュアルで、バージョン 1 の既訳をバージョン 2 にアップデートするものです。今回翻訳するバージョン 2 のファイルは、下図のサンプルのように、バージョン 1 との完全一致で既に一部訳文が入っている状態で受け取りました。


89_1.png



完全一致とは?


一致の種類の概要については、公式ブログの「「100% 一致」と「完全一致」の違い」を参考にしてください。この公式ブログでも説明されていますが、完全一致 (PM) の「一致」は、メモリとの一致ではなく、バイリンガル ファイルとの一致を意味しています。完全一致はメモリを介さないので、タグや認識済みトークンの変換が発生せず、複数訳文での訳し分けの影響も受けません。とにかく、実際にバイリンガル ファイルで使われている訳文がそのままコピーされてきます。



既訳を埋め込む一括タスク: 「完全一致の適用」と「一括翻訳」


最初に挙げた図のような PM、CM、100% が交ざったバイリンガル ファイルは、翻訳会社さんが「完全一致の適用」と「一括翻訳」という 2 つの一括タスクを使って既訳を埋め込んで作っています。

89_2.png


まず、「完全一致の適用」タスクで、バージョン 1 のバイリンガル ファイルから既訳をコピーします。このときにコピーされた分節が「PM」となります。その後、「一括翻訳」 タスクで今度はメモリから既訳をコピーします。これが一般的なマッチで「CM」または「100%」となります。



 ■ 完全一致はバイリンガル ファイルからコピー
89_4.png



 ■ CM と 100% はメモリからコピー
89_3.png



ちなみに、私の使っているフリーランス版では「完全一致の適用」タスクは実行できません (上図のようにグレーアウトされています)。このタスクはプロフェッショナル版でのみ使用可能です。個人でも使いたいことはあるので、この制限はぜひぜひ解除して欲しいのですが、無理ですかね、だめですか、Trados さん?



最優先で参考にすべきは完全一致


今回のような改訂版の翻訳では、用語や表現を前版に合わせる必要がありますが、このとき最優先にすべきは、PM の訳文です。CM や 100% より、PM です。

CM や 100% はメモリとの一致なので、それが本当にバージョン 1 に使われていた訳文なのかはわかりません。メモリがバージョン 1 のファイルからのみ作られているのであれば、CM や 100% と PM はほぼ同じ結果になりますが、そんな単純かつきれいにメモリが作られていることはまれです。たいていのメモリは、参考のためにと別マニュアルの訳文が入っていたり、訳し分けなどの理由で複数の訳文が入っていたりします。また、プロジェクトによってはメモリが複数指定されていることもあり、その場合は、CM や 100% と表示されていてもどのメモリとの一致なのかはわかりません。

一方、PM は、メモリではなく、バージョン 1 のファイルから直接コピーされた訳文なので、間違いなくバージョン 1 で使われていた訳文ということになります。このため、バージョン 2 を翻訳するときに最も参考にしなければならないのは PM です。



完全一致はメモリに入っていないこともある


というわけで、PM の訳文を参考にしたかったのですが、今回はこれがメモリに入っていませんでした。普通、バージョン 2 を訳すときはバージョン 1 の訳文をメモリに入れるものですが、「完全一致の適用」タスクではメモリを使わないので「バイリンガル ファイルには適用したけれども、メモリには入れなかった」ということが起こり得ます (起こり得るだけで、意図的にこんな状態を作るとは考えにくいので、おそらくミスです)。

PM としてバイリンガル ファイルにコピーされているだけでは、メモリの一致としてヒットしてきませんし、訳語検索でも使えません。このような状態では、PM の訳文を最優先したくてもできません。



完全一致のメモリを自分で作る


「PM」と表示されている分節の訳文がメモリに入っていないことに気付いた場合は、自分で PM の訳文をメモリに取り込んでメモリとして参照できるようにします。手順は簡単です。


  1.新しいメモリを作成する。
   ・PM であることを区別できるように、フィールドを追加する。

  2.作成したメモリに、バージョン 2 のバイリンガル ファイルをインポートする。
   ・インポートするステータスとして「リリース」を指定する。
   ・フィールドに、「PM」など、わかりやすい値を入力する。



1.新しいメモリを作成
まず、提供されたメモリとは別に新しいメモリを作成します。ここに、PM の訳文だけをインポートします。新しいメモリには、後から PM とわかるようにするためフィールドを追加します。フィールドは新規作成のウィザードに従って操作すれば簡単に追加できますが、作成した後でも [設定] 画面から追加できます。(フィールドについては、以前の記事「提供された訳文と自分の訳文を区別する ー A どのメモリの訳文かを表示する」も参考にしてください。)

2.バイリンガル ファイルをインポート
作成したメモリにバイリンガル ファイルをインポートします。このとき、ステータスが「リリース」の分節のみをインポートするように設定します。PM の分節は、通常、ステータスが「リリース」になっています (もし、なっていない場合は、下記の「ステータスの「リリース」を使用できない場合」を参考にしてください)。


89_5.png


ウィザードに従って進むとフィールドを設定する画面が表示されるので、[編集] ボタンをクリックしてフィールドを設定します。下図では、「Flg」という名前のフィールドに「PM」という値を設定しています。


89_6.png


正常にインポートできたら、そのメモリをプロジェクトに追加して、翻訳作業で参照するようにします。フィールドを設定しておくと、複数の訳文がマッチしてきても、以下のように右端にフィールドが表示されるので、どのメモリからのマッチなのかがわかりやすくなります。下図では、上段の訳文が PM の訳文、下段の訳文は他のメモリからの訳文です。


89_7.png




ステータスの「リリース」を使用できない場合


上記の手順では、インポートするときにステータスが「リリース」であることを条件にしました。これは、インポートするときのオプションとしてはこれしかないので使用しただけです。通常、PM の分節はステータスが「リリース」となってロックされていますが、この状態は絶対ではありません。PM でもステータスが「リリース」でないことはあり得ます。また、PM 以外の分節のステータスが「リリース」になっている場合もあります。

条件として「リリース」を使用できない場合は、高度な表示フィルタを使用します。PM の分節のみを抽出して、バイリンガル ファイルを生成します。


89_8.png


[属性のフィルタ] タブで [元データ] の [完全一致] を選択してフィルタをかけ、その後 [生成] ボタンをクリックします。これで、フィルタで抽出された分節だけをバイリンガル ファイルとしてエクスポートできます。この方法でエクスポートしたファイルをメモリにインポートします。



メモリのフィールドを設定しなかった場合


メモリをインポートするときにフィールドを設定し忘れても大丈夫です。フィールドの値は後から一括で入力できます。翻訳メモリ ビューのリボンから [一括編集] ボタンをクリックすると、メモリ内の訳文やフィールドを一括で編集できます。


89_10.png


[追加] ボタンをクリックすると、[フィールドの値の変更] というオプションが表示されます。それを選択して、入力したいフィールドと値を設定します。



今回は以上です。PM は改訂翻訳などではとても便利な機能です。ただ、作業するときはその意味を理解した上で有効に使う必要があると思います。Trados は、少し複雑になることもありますが、自分で自由に操作できることが最大のメリットです。パッケージを受け取って作業する場合でも、できる範囲で工夫をしてみることが大切かもしれません。





  




2022年01月30日

アップデートは余裕のあるときに

先日、Trados を 2021 SR2 にアップデートしたのですが、少々手こずりました。一応、手持ちの Trados 案件がすべてなくなってから実行しましたが、今は、そう判断した自分を褒めてあげたいと思っています。Trados は更新があるよとオレンジ色のマークを表示させ、すぐにでも更新しないといけないかのように迫ってきますが、そんな戦略に負けてはいけません。アップデートは、マイナーなものであっても、仕掛かりの仕事がなくなって、時間的にも精神的にも余裕のあるときに行いましょう。

今回は、Trados Studio 2021 の SR1 CU6 から SR2 CU9 (Build 16.2.9.9198) にアップデートしました。Trados のビルド番号は以下のように構成されています。


88_1.png


    @ Version: 2021 の場合は 16 です。(ちなみに、2019 は 15 になります。)

    A Service Release (SR): 今回は SR 2 です。

    B Cumulative Update (CU): 今回は CU 9 です。



失敗の原因は WorldServer のコンポーネントだった


今回アップデートをした後、メモリの設定画面が開かなくなりました。原因は WorldServer でした。(詳細は、ナレッジベースのこちらのページを参照してください。) 原因がわかった後の対処方法は簡単でしたが、WorldServer はずいぶん前に使ったきり存在を忘れていたので、この原因にたどりつくまでが大変でした。

Trados の環境をリセットするアプリ Freshstart を試したりしましたが、いっこうに解決せず、かなり悩みました。Freshstart は Trados のブログでも紹介されていますが、私の経験からすると、あまり役立ちません。ショートカット キーなどの設定まで消してしまって面倒なことになった記憶が残っているだけです。アップデートが関係しているだろうなど、原因が少しでも予測されるときは、ナレッジベースで検索をした方が解決策にたどりつける可能性が高いと思います。「とりあえずリセット」ではなく、「まずは検索」してみましょう。


Word のスペル チェックが機能しない


で、まずは検索してみますが、もちろん解決しないこともあります。今回はアップデート後に Word でのスペルチェックができなくなりました。Trados では、スペル チェッカーとして Hunspell と Microsoft Word のどちらかを使用できますが、既定の設定は Hunspell です。私は Word を使うことが多いので、Word に変更しようとしたらエラー メッセージが表示されて変更できませんでした。

検索をしてみると、Word が悪いとか、Microsoft 365 だとだめとか、いやいや 365 でも大丈夫とか、そもそもずっと前から動かないとか、いろいろ見つかりましたが結局よくわかりませんでした。私は、アップデートが原因で失敗するようになったのかと思っていましたが、どうやらそういうわけでもなさそうです。

実は、スペル チェックが失敗していたときは Word ファイルの翻訳をしていたのですが、その後、XML ファイルの翻訳に変わったら、あっさり機能するようになりました。そして、その後、PowerPoint ファイルを作業したらまただめでした。どうも、Office 文書がだめということらしいです。私個人としては、しばらく Trados で Office 文書を扱う予定がないので、すみません、未解決のまま放置です。


ウィンドウのタイトルが変わっていた


SDL が RWS に買収されて以降、いろいろな所から徐々に「SDL」という文字が消えていますが、今回のアップデートで Trados のウィンドウ上部に表示されるタイトルから「SDL」が消えました。


88_2.png


「SDL」の文字が消えて何が問題なのかというと、AutoHotkey のスクリプトです。私は、多数のアプリを開いていても Trados の画面をすぐにアクティブにできるように、AutoHotkey で以下のようなスクリプトを使っていました。

   WinActivate, SDL Trados Studio

ここに「SDL」と書いてしまっていたので、アップデートの後、Trados の画面がアクティブにならなくなりました。AutoHotkey もそれはそれで問題がたまに発生するので、ウィンドウのタイトルが原因だと気付くまでに少し時間がかかりました。


Live Essential はこれから


今回、私が SR2 にアップデートしたのは Live Essential を使ってみたかったからです。これまでは、翻訳会社からもらったパッケージをクラウドに上げることができませんでしたが、SR2 ではこれができるようになっています。

現在、私は 2 台のパソコンに Trados をインストールして使っています。作業中のプロジェクトをクラウドに上げることができれば、2 台のパソコン間でのデータの移動が楽になるのではないかと考えています。ケチケチしてライセンスは Plus にしていないのでアクティベーションは必要ですが、それでも少しは手間が減りそうです。この辺りは、実際に試したら、また記事にしたいと思います。


今回は以上です。Trados さんはアップデートのたびに何かやらかしてくれる気がしますが、仕方がないので、広い心で頑張りましょう。




  



2021年12月27日

ハイパーリンクは書式タグ

徐々に迫ってくるオミクロン株を気に掛けつつ、一応クリスマスは楽しみ、同時にもう仕事納めとしてしまった私ですが、この少し前は訳文生成が正常にできない問題に久々にはまっていました。かなり大きな PowerPoint ファイルで、訳文生成の処理自体は成功するのに、生成されたファイルを開くとファイルが壊れているというメッセージが表示されてスライドが空白になっているという最悪のパターンでした。Trados を使っていて、一番困る問題が訳文生成の問題です。これが、納品直前だったりすると本当に冷や汗ものです。

今回の失敗の原因は、ハイパーリンクのタグでした。訳文上で不要になったハイパーリンク タグが自動で削除され、検証でもエラーとして検出されず、訳文生成が失敗したということです。こうなってしまうそもそもの原因は、Trados が PowerPoint ファイルのハイパーリンク タグを「書式タグ」とみなすことにあるような気がしています。ハイパーリンクは「書式」じゃないと思うんですが、どうなんでしょう。

ただ、今回のハイパーリンク タグが削除されると訳文生成が正常にできないという現象は、必ず発生するわけではなさそうです。実は、この記事を書くために自分でサンプル ファイルを作ってみたら、正常に訳文生成できてしまいました。実際の仕事で使っていたエラーになるファイルと見比べても、結局どこが違うのかわかりませんでした。ですので、以下の説明は「そういう場合もある」程度のものとしてご解釈ください。



空の書式タグは自動で削除される


Trados のエディターは空の書式タグを自動で削除します。翻訳では、訳文で語順が変わるなどすると、タグが不要になることがよくあります。このようなときにタグの中身を空にしておくと、分節を確定したタイミングでそのタグは自動的に削除されます。


87_image3.png


タグが自動的に削除されるこの動作は、太字や文字の色など本当に「書式」の場合は問題ありませんが、ハイパーリンクの場合は困ったことになります。ハイパーリンク タグには属性があり、その属性が翻訳対象であることがあるからです。よくあるのは、リンク先の URL が翻訳対象のケースです。リンク先は、訳文の言語に合わせて変えることが多いので、Trados の既定設定でも翻訳対象となり、該当部分が別の分節に書き出されます。

上図では、1 番上の分節にハイパーリンクが 2 つあり、そのリンク先の URL が下の 2 つの分節に書き出されています。このように URL が独立した分節として存在している状態で本体のハイパーリンク タグを削除してしまうと、URL の行き場がなくなりエラーになるのではないかと私は考えています (実際のところは、エラーにならない場合もあり、よくわかりません)。実際の仕事でエラーになったファイルは、ハイパーリンク タグが空にならないように訳文を調整したら、タグが削除されることがなくなり、無事に訳文生成されるようになりました。


ちなみに、Trados には書式タグを一気に削除するショートカット キー (Ctrl+Alt+Space) がありますが、ハイパーリンク タグはこのショートカット キーでも削除されてしまいます。もう、完全に「書式」とみなされています。



検証機能は既定で書式タグを無視する


実は、ハイパーリンク タグに限らず、タグが原因で訳文生成できないことはよくあります。よくあるというより、私の経験ではタグが原因であることが最も多い気がします。ですので、訳文生成が失敗したら、私は真っ先にタグの検証をします。もちろん、今回も検証はしました。でも、タグのエラーは検出されませんでした。


87_image5.png


エラーにならなかった原因は、上図の設定です。既定で [書式タグを無視する] はオンになっています。検証機能でもハイパーリンクは書式タグとみなされるようで、この設定がオンになっているとハイパーリンクはエラーとして検出されません。

[書式タグを無視する] をオフにすると、ハイパーリンク タグを削除したことがエラーとして検出されます。後から考えれば簡単なことですが、訳文生成ができなくてあせっていた私には、なかなかのトラップでした。


ちなみに、3 つの検証機能 (QA Checker、タグ、用語集) の中で、タグ検証機能だけはロックされた分節を既定で無視しません。おそらく、ロックされた分節でもタグのエラーがあると訳文生成が失敗するので、ロックにかかわらず検証する設定になっているのだと思います。私自身、ロックされた分節内のエラーで訳文生成できないケースにたまに遭遇するので、この設定はありがたい場合もあります。


今回は以上です。この記事では、PowerPoint ファイルのハイパーリンク タグに注目しましたが、この他にもいろいろなケースがあると思います。Office 文書でもタグはいろいろですし、HTML や XML になればもっと種類が増えます。すみません、他のケースはまったく検証していないのですが、<xx> </xx> という形式のタグはすべて書式タグという認識ですかね。どうだろう。





 




2021年11月25日

2021 で新しくなった表示フィルタ

すっかり更新が滞っておりました。未確定案件が立て続けに失注になったり、その反動で今度は案件を多く受け過ぎたり、Trados のサーバー メモリに接続できなくて困ったり、まったく CAT ツールを使わない会社さんから PowerPoint の翻訳を頼まれたり、といろいろしていたら 1 か月以上たってしまいました。

今回は、昔からある表示フィルタについて Trados Studio 2021 での現状を紹介します。表示フィルタは、2019 で便利になったものの、かなり複雑なことになっていました。これが 2021 で少しすっきりしたので、改めて表示フィルタの機能をまとめてみたいと思います。


表示フィルタは 2 つある


2021 には 2 種類の表示フィルタがあります。(2019 では 3 種類でしたが、これが 2 つにまとめられました。)

 ・[レビュー] タブ > 表示フィルタ

 ・[表示] タブ > 高度な表示フィルタ 2.0


「表示フィルタ」は、分節のステータスや特定の語句など、条件を 1 つだけ指定して使う簡易的なフィルタです。これに対して「高度な表示フィルタ 2.0」は、その名前のとおり、高度な機能が満載のかなり複雑なフィルタです。たくさんの機能があるので、この記事では私がよく使うものを少しだけ紹介したいと思います。


「表示フィルタ」は正規表現で指定する


さて、まずは高度ではない「表示フィルタ」です。先ほど簡易的なフィルタと紹介しましたが、実は語句を入力するときに正規表現を使う必要のある、翻訳者にとってはなかなか要求の厳しいフィルタです。

たとえば、半角丸括弧で囲まれた (英語) を検索しようとして (英語) と入力すると、半角丸括弧は正規表現の式と見なされ、英語 がヒットしてきます。


86_image5.png


文字どおりの (英語) を検索するには、丸括弧をエスケープする必要があるので、丸括弧の前に円マーク \ を付けて \(英語\) と入力します。


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私は正規表現はあまり得意ではありませんが、この「円マーク \ を付ける」という操作だけはよく使います。括弧や、ピリオド、アスタリスクなど、正規表現の式っぽい文字の前には \ マークを付けます。(Trados では、なぜか正規表現を使わなければならないことがあり、QA Checker の単語リストもそうです。)

正規表現が面倒な場合は「高度な表示フィルタ 2.0」を使います。こちらでは、正規表現かそうでないかを指定できるので、文字どおりの検索も簡単に行えます。


高度な表示フィルタ 2.0 のショートカット キーを設定する


では、次に「高度な表示フィルタ 2.0」です。高度な表示フィルタはショートカット キーを設定して使うと便利です。右クリックのメニューとして 4 つのコマンドが用意されていますが、これにショートカット キーを割り当てられます。


設定の場所: [ファイル] > [オプション] > [ショートカット キー] > [高度な表示フィルタ 2.0]
86_image7.png


「原文フィルタ」と「訳文フィルタ」は、分節全体が同じものを検索できます。原文または訳文の「繰り返し」を抽出するようなイメージです。「選択フィルタ」は、カーソルで選択した文字列で検索をします。文字列の選択は原文側でも訳文側でも行うことができ、両方で選択すれば、原文と訳文の両方を条件に検索がされます。私は、「選択フィルタ」のショートカット キーとして Ctrl+Shift+F を割り当てています。これで、Memsource とほぼ同じ操作感を得られます。とても便利です!


高度な表示フィルタ 2.0 ― コンテンツ


ここからは、高度な表示フィルタの機能をタブごとに見ていきたいと思います。まず、文字列でフィルタをかけたい場合は [コンテンツ] タブを使います。ショートカット キーに設定した「選択フィルタ」は、選択した文字列をこのタブに設定しているだけです。


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ここに [正規表現] のオプションがあります。高度な表示フィルタでは、このオプションを選択しない限り、設定した文字列が正規表現として扱われることはないので、半角丸括弧なども安心して検索できます。

さらに [タグ コンテンツを検索] オプションを使うと、タグの中の文字を検索できます。たとえば、<bold> タグの中の「bold」という文字でフィルタをかけられます。以前の高度な表示フィルタにはこのオプションがなく、タグの中の文字も含めてすべて一緒に検索することしかできませんでした。このオプションができてから、タグを無視したり、タグの中だけを検索したりすることが可能になりました。


高度な表示フィルタ 2.0 ― 属性のフィルタ


分節のステータスなどでフィルタをかけたいときは [属性のフィルタ] タブを使います。高度ではない「表示フィルタ」にも同様の項目がありますが、「高度な表示フィルタ」の方がかなり高度です。高度過ぎるので、正直なところ細かいことはよくわかりませんが、私は「Interactive」と「固有の出現」が便利だと思っています。


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Interactive ― 自分で編集した分節だけを表示する

「Interactive」は、自分で対話型に編集した分節という意味だと思います (この条件だけ英語のままで、よくわからないのですが、私はそう解釈しています)。つまり、新規に自分で訳文を入力した分節と、メモリからの訳文に何らかの変更を加えた分節です。おそらく、エディターの中央のステータス欄でアイコンが白くなっている分節です。「元データ」と「以前の元データ」の両方にこの条件がありますが、普通は「元データ」の条件を使って大丈夫です。(これも私の解釈ですが、「元データ」が単純に考えて現在のステータスを表していて、「以前の元データ」は、現在の編集を行う前の過去のステータスを表しているようです。)

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ただ、属性の条件では、どのメモリからの一致かは考慮されません。また、いったん訳文を確定してメモリに登録して、それを編集して、また確定して、などと繰り返しているとステータスはよくわからない状態になります。ですので、自分が編集した分節だけを見直ししようというときに 「Interactive」を使うのは便利ですが、これに完全に頼るのは少し危険です。


固有の出現 ― 重複している分節を非表示にする

「固有の出現」は、繰り返しの初回の分節と、繰り返しではない通常の分節を表示してくれます。(以前の記事「■プラグイン■ フィルタで繰り返しを除外する」でも紹介しているので、参考にしてください。) 繰り返しの分節を非表示にできるので、これも見直しを行うときなどに便利です。「固有の出現」でフィルタをかけてから全体をコピーして、それを Word に貼り付けて文章校正を行えば、繰り返しの分節に対してエラーが何回も出てくるようなことを避けられます。ただ、上記の記事でも説明していますが、訳し分けをしているかどうかはこのフィルタでは考慮されないので、やはりフィルタを 100% 信じるのは危険です。


高度な表示フィルタ 2.0 ― 文書構造


高度な機能はまだまだ続きます。[文書構造] タブでは、エディターの右端に表示されている文書構造でフィルタをかけられます。ハイバーリンクのアドレスだけ、Excel のワークシート名だけ、きちんと構造化されている文書だったら見出しの特定のレベルだけなど、けっこう便利な使い方ができます。


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ただ、文書の構造はさまざまですし、場合によってはかなり複雑な設定になっています。たとえば、私が最近苦戦したのは PowerPoint のセクションです。セクション名はプレビューしても見落としやすいので、フィルタをかけて一括でチェックしたいと思っていました。

大きな PowerPoint ファイルでは、スライドがいくつかのセクションに分かれていることがあり、たいていは、このセクション名も翻訳する必要があります。


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Trados のエディターで右端の文書構造欄をクリックすると、文書構造の詳細が表示されます。エディター上には「S」や「TB+」など 1 つの構造しか表示されていませんが、クリックして詳細を表示してみると複数の構造が階層的に設定されていることがわかります。 分節 24 と 25 の両方に「セクション名」があるので、単純に「セクション名」でフィルタをかけてもセクション名の分節だけを抽出することはできません。


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「セクション名」を選択して [フィルタの適用] をしても、セクション名だけを抽出することはできない
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「文書スライド」を選択して [反転] をすると、文書スライドが除外され、結果的にセクション名が抽出される
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文書スライドとセクション名はコードが同じ 「S」であることも私が混乱した原因でした。最初はコードが同じだからフィルタがうまく機能しないのではないかと思っていましたが、それは問題ではないようでした。結局、条件を否定する [反転] を使いましたが、どうもすっきり理解はできません。

ここに挙げた以外にもまだタブはあります。また、複数のタブで条件を指定してフィルタをかけることもできます。複数の条件を指定して [反転] するなど、考えれば考えるほど複雑になっていくので、私は適当なところであきらめています。


高度な表示フィルタは変更履歴をサポートしない


高度な表示フィルタはいろいろ高度ですが、変更履歴には対応していません。変更履歴を残して作業しているときに、変更後の訳文に対してフィルタをかけることができません。高度ではない方の「表示フィルタ」は、変更履歴を残していても、変更後の訳文に対してフィルタをかけることができます。

高度な表示フィルタの場合、変更履歴はタグ内の文字として認識されるらしく、[タグ コンテンツを検索] オプションを使えば変更した文字列を検索することはできます。ただ、追加した文字列も削除した文字列も全部まとめて検索されるので、あまり意味がありません。

これについては、RWS Community の Ideas に要望を投稿しています。レビュー作業でも高度な表示フィルタを使いたいという方、ぜひ賛同の投票をお願い致します。


高度なジャンプ機能も欲しい


前回の表示フィルタ紹介記事でも書きましたが、表示フィルタはどんなに機能を高度にしても、翻訳者にとってはそもそも使いにくい機能です。フィルタをかけて分節を非表示にしてしまうと、作業対象の分節の前後が見えないので、結局、フィルタを解除して前後を表示してから作業することが多くなります。

フィルタをかけて非表示にしてしまおうという考え方は、特定の条件で一括処理を行いたいコーディネーターさんの考え方のように思います。1 つ 1 つの分節を作業していく翻訳者には、ジャンプ機能 (Ctrl+G) の方が便利です。全体を表示したまま、希望の分節にジャンプできる方が、前後の分節を見ながら作業できるので効率的です。ジャンプ機能の高度化も切に願っています。


かなり長くなりました。「高度な表示フィルタ 2.0」には、ここで紹介した以外にもまだまだ機能がたくさんあります。また、何か便利な使い方を見つけたら、紹介したいと思います。






  




2021年10月11日

【後編】Xbench を便利に使う

前回の前編に続いて、後編では Xbench の具体的な使い方を紹介したいと思います。先日から翻訳祭がオンラインで開催されていますが、その中のあるセッションで「万人に使いやすいツールはない」「自分で練習しなければうまく使えるようにはならない」という話がありました。Trados と Xbench はまさにそんな感じのツールです。想定ユーザーが幅広く、機能も設定も数え切れないほどあります。すべてを把握することはとても無理なので、私は自分が使いたい機能を使いたいときだけ使っています。実際に使ってみて便利な機能があれば、それをさらに便利に使うことはできないかと考えて周辺を調べていきます。

上記のセッションでも言われていましたが、ツールは使う目的も使い方も人それぞれです。ある人が「これは便利」と言っていても、それが自分の目的には合わないこともあります。私のこのブログ全体は個人翻訳者を想定していますが、今回の Xbench の観点からもう少し細かく状況を説明するとこんな感じです。


  • Trados と Xbench の組み合わせが多い (= 他の CAT ツールの使用頻度は低い)

  • 言語方向は主に、日本語 -> 英語

  • Xbench は無料版で済ませたい

  • 翻訳会社からパッケージを受け取る (= 原文や設定を勝手には変えられない)

  • メモリや用語集が支給される (= 絶対に見落とせない資料がある)

  • Xbench の主目的は検索 (= QA 機能は補助的にしか使わない)


以下には、こんな状況の私が便利だと思っていることを紹介したいと思います。ぜひぜひ、ご自身でいろいろと試してみてください。



まずは大前提 ― Trados で分節を確定し、Xbench でファイルを更新する


Trados と Xbench を組み合わせて使う場合、まずは、Trados 上で分節を確定する必要があります。Xbench では確定済みの分節しか検索や QA の対象になりません。Trados 上で訳文を入力していても、ステータスが未確定だと Xbench では Untranslated となり、訳文が認識されません。

Trados で分節を確定してファイルを保存したら、その後、Xbench に移動してファイルの更新をします。これで初めて、最新のファイルに対して検索や QA が行えるようになります。更新をするには、[View] > [Refresh] (F5 キー) か、上部に並んでいるボタンの [Reload] ボタン (Shift+F5 キー) を使います。[Refresh] は、Trados で翻訳中のファイル (Ongoing Translation に設定しているファイル) のみを更新する場合に使います。[Reload] は、用語集なども含めてすべて更新したい場合に使います。特定の時間間隔で自動更新を行うオプションもありますが、私は、更新したいときに手動で更新しています。


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要注意! ― 結合した分節の訳文は認識されない


Trados 上で分節を結合することがあると思います。これは、翻訳作業では便利ですが、Xbench を使うときは問題になります。Trados で結合した分節は、Xbench でステータスがうまく認識されないらしく、上記と同じ Untranslated になってしまい検索や QA の対象になりません。数個の結合なら無視してもいいかもしれませんが、大量にあるとその分節は QA がされないことになるので問題です。(これが、有料版の V3 だったら改善されているといったことはないですかね? もしそうなら、購入を検討してもいいかもしれないです。あくまで、検討ですが ...)



検索のための設定 ― 優先度と順序


Trados で分節を確定して Xbench で更新をしたらいよいよ検索です。でも、まだ少し注意したい設定があります。Xbench では大量のデータでも検索結果がすぐに返ってきますが、その仕組みを理解しておかないと検索漏れにつながります。


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Xbench のプロジェクトでは、上図のように Priority として High、Medium、Low の 3 つのレベルを指定できます。さらに、その優先度の各レベルの中で順序 (Order) を指定できます。検索結果は、この Priority と Order の順番で上から順に表示されます。

私は、たいてい、以下のような設定にしています。

  • High: 翻訳会社から提供されたメモリと用語集 (= 絶対に見逃したくない資料)

  • Medium: 翻訳中のファイル (= 自分の現在の訳文)

  • Low: その他 (= 任意で参考にする資料。過去の訳文、類似文書のメモリなど)

Priority を分けておくと、下図のように色も変わるので見落とす心配がありません。既定で、緑色が High です。


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検索結果の画面では、上図のように、右下隅に [Click here to show all matches] というメッセージが表示されていないかに注意する必要があります。



検索のための設定 ― レベルごとの表示数


実際に検索を行うと、右下隅に [Click here to show all matches] と表示されることがあります。このメッセージは、この検索結果に表示されていないマッチがあることを意味しています。

大量のデータを検索すると、当然ながら検索結果も大量になりがちです。Xbench では、それを避けるために Priority のレベルごとに検索結果の表示数を設定できます。既定では (おそらく) 25 行です。High がもちろん優先ですが、High の結果を 25 行表示したら、それ以上マッチがあってもそれは表示せず、Medium を表示します。Medium も 25 行まで表示して、その後は Low を表示します。こうすることによって、どんなに大量のマッチがあっても、検索結果の最初の画面で High から Low まですべてのレベルのマッチを一覧できるようにしています。

レベルごとの表示数の設定は、[Tools] > [Settings] と選択して [Layout & Hotkeys] タブで行います。


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検索結果ですべてのマッチを表示したいときは、一覧の右下隅に表示されている [Click here to show all matches] をクリックするか、下図のように一覧上で右クリックして [Zoom to 〜] を選択します。


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Zoom を使うと、特定の優先度レベルやファイルに絞ってすべてのマッチを表示できます。



検索のための設定 ― 検索結果に表示する列数


用語集などでは、原語と訳語のほかにコメントが含まれていて、検索結果でコメントまで参照したいときがあります。たまに「使用禁止」なんてコメントが入っていることもあるので注意が必要です。そうしたコメントなどのために、検索結果の画面に [Source] と [Target] 以外の列を追加で表示できます。


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あまり見やすい表示にはなりませんが、表示する列数を増やすことで追加情報を表示できます。設定は、[Project] > [Properties] と選択して [Settings] タブで行います。[Columns in list] に、[Source] と [Target] を含めて何列表示するかを設定します。私は、たいてい 4 列くらいにしています。


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列数を増やせばいろいろ表示できますが、すべてを表示できるわけではありません。用語集の構造によっては、コメントを表示できないことや、表示できても読みにくいことがあります。必要であれば、右端に検索元のファイル名が表示されているので、それを頼りにオリジナルのファイルを参照します。



自動置換 (Automatic Substitution)


私が Xbench で便利だと思っている機能のひとつに自動置換 (Automatic Substitution) があります。これは、検索結果が 1 つしかないときに Xbench の画面を表示せず、エディター上で用語を直接置き換えてくれる機能です。たとえば、「このサービスは、以下の言語でご利用いただけます」という文の後ろに言語名がずらずらと並んでいることがあったりしませんか。そうした場合は、言語名の用語集を Xbench に登録し、Automatic Substitution を使ってひたすら置換していきます。訳語が決まっている UI も Automatic Substitution がとても便利です。UI が用語集としてちゃんと提供されているときは、もう Xbench 様々です。対象の用語を選択して、Automatic Substitution のホットキーである Ctrl+Alt+PageDown を押せば一発で入力完了です。


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Automatic Substitution のホットキーは、レベルごとの表示数の設定と同じ、[Tools] > [Settings] の [Layout & Hotkeys] タブで行います。このタブでは、Automatic Substitution 以外にも、原語検索と訳語検索のホットキーやそのアクションの詳細を設定できます。(すみません、[Transfer Method] の詳細はよくわからないのですが、私は以下のような設定にしています。)


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QA 機能 ― 実行前の確認


さて、最後に QA 機能も少しだけ紹介します。前編にも書いていますが、私は翻訳チェックの用途には Trados の検証機能を主に使い、Xbench は補完として使っています。Trados の検証機能では不便なところを Xbench で補う形です。

QA 機能を使う前に、まずは、チェック対象のファイルを Ongoing Translation に設定していることを確認します。QA 機能は Ongoing Translation のファイルのみ対象とします。また、この記事の最初に説明しましたが、Trados 上で分節を確定済みにしていること、そして、Xbench で最新のファイルに更新していることも確認してください。



QA 機能 ― 訳揺れのチェック


まず、私がよく使うチェックは [Basic] の [Inconsistency in Source]と [Inconsistency in Target] です。(ちなみに、オプションの [Exclude ICE Segments] を選択すると、Trados 上でロックされているセグメントを除外できます。)


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Trados でも同様のチェックはできますが、結果の表示は Xbench の方が断然わかりやすいので、私は Xbench を使っています。



QA 機能 ― 数字のチェック


[Content] の [Numeric Mismatch] もよく使います。これも、Trados でできないわけではありませんが、Xbench では原文と訳文が上下に表示されるので数字の比較がしやすいです。


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数字のチェックは、Trados や他の CAT ツールと同様、10月と October はエラーになりますし、全角の数字にも対応していません。なので誤検出も多く発生しますが、数字のミスは致命的になるので、安全のために私は Trados と Xbench の両方でチェックすることが多いです。


今回は以上です。Xbench には、ここで紹介した以外にもまだまだたくさんの機能があります。検索の Power Search は便利ですし、TMX 形式への変換もできますし、ブラウザーの代わりにもなります。自分なりに便利な使い方を見つけられると楽しいと思います。





  




2021年09月13日

【前編】Xbench を便利に使う

今回は、このブログでも何回か登場している Xbench を取り上げたいと思います。このツールはとても便利ですが、私は設定に毎回かなりの手間をかけて使っています。なんとかスムーズに使える方法はないかと考えてはいるのですが、あまり良い方法が思いつきません。ここでは、Trados と Xbench で私がどんな面倒なことをしているかを披露しますので、何かアドバイスがありましたら、ぜひぜひお知らせください。

Xbench とは?


Xbench は、さまざまな翻訳ファイルの検索とチェックを便利に行えるツールです。バージョン 2.9 が無料で提供され、バージョン 3.0 からは有料 (年間 99 ユーロのサブスクリプション) です。このツールは既にいろいろなところで取り上げられているので、概要などについては以下のサイトを参考にしてください。


翻訳を効率的に行う秘訣〜Xbench編〜 | 翻訳会社川村インターナショナル

Xbench の概要がまとめられています。Xbench ってなに? という方は、まずこちらを参照してください。


※※※※※ 最近の参考サイトを追加しておきます 2022/05/10 ※※※※※※※※※※※※※※※
Xbench の基本的な説明については、以下のサイトなども参考にしてください。

Xbench という翻訳作業を効率化するソフトウェアについて | 翻訳メシ
Xbench の概要がとてもわかりやすくまとめられています。

プロ翻訳者必携!Xbenchの活用方法について | ストラテ

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フクログ フリーランスで翻訳&ライティング

Xbench の購入方法から詳しく説明されています。主に、有料版 (V3.0) についての説明です。


Xbenchのつぼの記事一覧 | つぼログ。 | 横浜で翻訳業務を行うシーブレインスタッフによる技術情報ブログ

初期設定から各種機能までいろいろ紹介されています。ただ、少し日付が古いので無料版 (V2.9) に該当する内容も含まれています。


無料版 (V2.9) と有料版 (V3.0)


Xbench は以前は無料で使えるツールでした。その無料で使えていたバージョンが 2.9 で、その後の新しいバージョンは有料になっています。私は、無料のバージョン (V2.9) を使い続けています。この V2.9 を使用していることが、手間が増える原因のひとつだとわかってはいるのですが、私は数か月単位でオンサイト勤務になることもあり、なかなか購入には踏み切れません。私が感じている V2.9 の問題点としては、以下のようなものがあります。

 ・正規表現が日本語に対して機能しない
 ・QA の CamelCase Mismatch と ALLUPPERCASE Mismatch を有効にできない
 ・Memsource や memoQ のファイルに対応していない
 ・Xbench の QA 結果から Trados の該当箇所に直接飛ぶことができない

Memsource や memoQ については、xliff ファイルとして読み込むことはできるのですが、私が試した限り、あまりうまく機能しません。

また、V2.9 は Trados のプラグインにも制限があります。Trados では Xbench 向けに ApSIC Xbench PluginXbench 2.9 Plugin という 2 つのプラグインが提供されていますが、前者は V3.0 以上でないと使えません。後者はその名前のとおり V2.9 で使用できますが、機能は前者に比べると限られているように見えます。(私は後者のプラグインを使用しているので、これについては後で説明します。)


Xbench を使う目的 ― 主に検索に使う


Xbench を使用する目的は、上記に挙げたサイトでも説明されているとおり、主に検索とチェックです。私は、どちらかといえば、検索に使用することの方が多いです。Trados はメモリや用語ベースの検索機能が貧弱ですが、Xbench を使えば、翻訳中のファイル、メモリ、用語ベースを一気に検索できます。

チェック機能も便利ですが、私は Trados の検証機能をメインに使い、Xbench は補助的に使っています。Trados も Xbench も自作の検証ルールを登録できますが、ルールが 2 つのツールに分散してしまうと不便なので、私はルールの登録は Trados だけにしています。

検索とチェックの具体的な方法は後編で説明することとして、まずは、そのための準備の方法を説明したいと思います。この準備がなかなか面倒です。


Xbench の設定方法 ― 使うまでの準備


Xbench を使うには、まず「プロジェクト」を作成し、使用するファイルをそこに登録する必要があります。今回の前編では、このプロジェクトの設定を完了するところまでを説明します。


前提条件

・Xbench 2.9 (無料版)
・Trados Studio 2021 SR1


使用するプラグインとアプリ

Xbench 2.9 Plugin (プロジェクトの作成と、翻訳ファイルの登録に使用)
SDLTMExport (メモリの変換に使用)
Glossary Converter (用語ベースの変換に使用)

上記の 3 つを事前にインストールします。Trados 2021 の場合は、[ようこそ] > [RWS AppStore] から簡単にインストールできます。Xbench 2.9 Plugin はプラグインなので、Trados 内に組み込まれます。SDLTMExport と Glossary Converter はアプリなので、Trados とは別の独立したアプリケーションとしてインストールされます。

Glossary Converter については、RWS 公式のブログ「Glossary Converter – Excelから用語ベースおよびTMXへの変換」も参照してください。インストール方法などから説明されています。また、私の以前の記事「マイクロソフトの用語集を使いたい 【前編】【後編】」でも説明しています。


準備の手順

準備の主な手順は、以下のようになります。プロジェクトを作成してから、翻訳ファイル、メモリ、用語ベースの 3 つを準備します。

 1. プロジェクトを作成して、翻訳ファイルを登録する
 2. メモリをテキスト形式に変換して登録する
 3. 用語ベースをテキスト形式に変換して登録する

では、手順を順番に見ていきましょう。


1. プロジェクトを作成して、翻訳ファイルを登録する


まずは、Xbench のプロジェクトを作成します。この操作に Xbench 2.9 Plugin を使用します。このプラグインはプロジェクトの作成と翻訳ファイル (sdlxliff ファイル) の登録までを自動で行ってくれます。



(1) Trados 上で、作業対象のプロジェクトを選択し、[アドイン] > [Check with Xbench 2.9] をクリックします。


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(2) Xbench のプロジェクトが自動的に作成されます。

プラグインのアイコンをクリックするだけでプロジェクトが自動的に作成されます。もし、ファイルの種類を選択するような画面が表示されたら、[Trados Studio File] を選択します。


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Trados のプロジェクト ファイル (.sdlproj) と同じ場所に、<Trados のプロジェクト名>.xbp というファイルが作成されます。この xbp ファイルが Xbench のプロジェクト ファイルです。ここに、Xbench のさまざまな設定をしていきます。



(3) 翻訳ファイル (sdlxliff) が登録されていることを確認します。

Xbench で、[Project] > [Properties] と選択します。ここに、そのプロジェクトに登録されているファイルが一覧されます。Trados のプロジェクト内の sdlxliff ファイルが登録済みになっているはずです。


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これで、Xbench のプロジェクトの作成と、翻訳ファイルの登録は完了です。



2. メモリをテキスト形式に変換して登録する


次にメモリを登録します。メモリは、sdltm ファイルのままでは登録できないので、テキスト形式の tmx ファイルに変換します。



(1) SDLTMExport を使ってメモリをテキスト形式 (tmx) に変換します。

SDLTMExport を起動すると、下図のような画面が表示されます。ここに sdltm ファイルをドラッグ & ドロップして、[Export] をクリックします。これで、元の sdltm ファイルと同じ場所に tmx ファイルが作成されます。複数のファイルを同時にドラッグ & ドロップすることもできます。


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(2) 変換したメモリを Xbench のプロジェクトに登録します。

Xbench で [Project] > [Properties] と選択して、[Add] をクリックします。下図の画面が表示されるので、[TMX Memory] を選択して [Next] をクリックします。


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下図の画面が表示されたら、変換した tmx ファイルを指定します。 [Add File] は、ファイルを 1 つずつ登録します。[Add Folder] は、複数のファイルをフォルダー単位で一括登録します。


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[Add Folder] を使って登録すると、優先度などをそのフォルダー単位でしか設定できなくなります。ファイルごとに優先度などを変えたいときは、[Add File] を使って 1 つ 1 つ指定してください。参照したいメモリをすべて登録したら、完了です。



3. 用語ベースをテキスト形式に変換して登録する


最後に用語ベースを登録します。用語ベースも sdltb ファイルのままでは登録できないので、まずテキスト形式に変換します。用語集のテキスト形式として使用できるものはいくつかあり、カンマ区切りやタブ区切り、MultiTerm の XML 形式、TBX 形式などがあります。

Excel ファイルとして用語集が提供されているときは、カンマ区切りかタブ区切りに変換するのが便利です。ただ、この場合は、「英語」や「日本語」といった言語の属性がなくなり、単純に 1 列目が原語、2 列目が訳語となります。

Trados の用語ベース (sdltb) は、言語などの属性がせっかくあるので、MultiTerm の XML 形式か、TBX 形式に変換します。どちらでも大差ないですが、私は TBX 形式をよく使います。なぜなら、私の経験上、Glossary Converter で作成される XML ファイルは Xbench でうまく処理されないことが多いからです (理由はよくわかりません)。

XML 形式に変換するときは、Glossary Converter ではなく、Trados に付属の Multiterm Convert を使います。Multiterm Convert で作成した XML ファイルは Xbench で正常に処理できます。ただ、Multiterm Convert ではドラッグ & ドロップで一括変換といったことはできないので、Glossary Converter に比べると手間がかかります。


※※※※※ 追記 2023/07/03 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
すみません、実は、原語の訳語の組み合わせが 1 対 1 になっていない用語ベースの場合、Glossary Converter で変換した TBX ファイルは Xbench (無料版) で正常に検索できないことに、今さらですが気付きました。詳しくは、こちらの記事「Xbench と TBX ファイル」を参照してください。ホント今さらで、すみません。
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では、具体的な手順を見ていきます。メモリと同様、変換して、登録しますが、用語ベースの場合は、その後で少し設定が必要です。



(1) Glossary Converter を使って用語ベースをテキスト形式 (tbx) に変換します。

Glossary Converter を起動したら [settings] をクリックして、[General] タブの [TBX (Term Base eXchange)] を選択します。([TBX (Term Base eXchange V3)] というオプションもありますが、すみません、これは新しいオプションのようで、私は使ったことがありません。)


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上記の設定をしたら、変換したい用語ベース (sdltb) ファイルをドラッグ & ドロップします。複数のファイルをまとめてドラッグ & ドロップしても大丈夫です。



(2) 変換した用語ベースを Xbench のプロジェクトに登録します。

Xbench で [Project] > [Properties] と選択して、[Add] をクリックします。下図の画面が表示されるので、今度は [TBX/MSRTIF Glossary] を選択して [Next] をクリックします。


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用語ベースの場合は、[Add File] のみ有効で、[Add Folder] は使用できません。フォルダー単位ではなく、ファイル単位で 1 つ 1 つ追加する必要があります。(ただ、メモリの場合も同様ですが、[Add File] のファイル選択画面で複数のファイルを一気に選択することはできます。)



(3) 原語と訳語の設定をします。

ファイルを追加して、画面の指示に従って操作していくと、Special Settings についてのプロンプトが表示されるので、そこで言語の設定をします。以下のような画面です。


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[Source] と [Target] に表示される言語の名前は、各用語ベースで設定されているものです。上図に表示されている「en-US」に限らず、「English」や「英語」だったり、「Source」や「原語」だったりと、用語ベースによってさまざまです。Xbench の検索で用語ベースがヒットしてこないときは、この言語の設定が間違っていることがよくあります。



(4) Key Terms に指定します。

用語集は、検索結果でメモリや翻訳ファイルと区別したいことが多いので「Key Terms」として指定します。


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Key Terms として設定しておくと、星マークが付き、検索結果でも他と区別されるので便利です。ちなみに、この画面の [Properties] ボタンをクリックすると、上記の言語の設定画面を再表示できます。

これで、プロジェクトの設定はひとまず完了です。最後に保存ボタンをクリックしてプロジェクトを保存します。細かい設定はまだありますが、それは後編で触れたいと思います。


今回は以上です。ずいぶん長い記事になってしまいました。新しい仕事が始まるたびにこの設定をするのは相当な手間ですが、それでも Xbench は便利です。後編は、もう少しお待ちくださいませ。