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2024年06月25日
最近のトラブルシューティング (解決していない件)
最近 (といっても数か月前) に Trados 2022 にアップグレードしたのですが、いくつか不可解な現象に遭遇しているので、自分のメモも兼ねてまとめておきたいと思います。
バージョン 2022 が悪いのか、その後の CU でのアップデートがだめなのか、もしくは以前からのバグに自分が気付いていなかっただけなのか、正確な原因はわからないものばかりです。作業がまったくできなくなる程の大問題ではありませんが、微妙にイラっとするので、ブログのネタにさせてもらいます。
これまで、エディター上で F6 キーを押すと、原文エリアと訳文エリアを行き来できたのですが、これができなくなってしまいました。F6 キーを押すと、[翻訳結果] ビューにカーソルが移動します。
ショートカット キーの設定 ([ファイル] > [オプション] > [ショートカット キー]) を確認してみると、以下のように、3 つのアクションに F6 キーが割り当てられていました。以前からこの設定だったのか、どこかの時点でこの設定に変わったのか、それはよくわかりませんが、現状として、この設定ではエディター上で F6 キーを押しても原文と訳文を切り替えられません。
仕方がないので、ショートカット キーの設定を変えることにしました。実は、F6 キーで [翻訳結果] ビューや [訳語検索] ビューに移動できるのは、使ってみるとわりと便利だったので、この設定はそのまま残し、「訳文と原文の切り替え」の方を変えることにしました。
私は、現在、原文と訳文の切り替えには Ctrl+キャレット (^) を設定しています (ショートカット キーの設定画面では、Ctrl+Oem7 と表示されます)。キャレットは、キーボード上で数字のゼロ (0) の隣の隣にあるキーです。このキーを選んだ理由は、Ctrl+0 というショートカット キーをよく使うからです。本当は、ゼロ (0) の隣のハイフン (-) を使いたかったのですが、Ctrl+ハイフン (-) は既に他の機能で使っているため、その隣のキャレットにしました。
Ctrl+0 は、下図のように「[Focus Editor] ウィンドウ」というアクションに割り当てられています。意味不明なアクション名ですが、これは、おそらく「エディター ウィンドウにフォーカスする」という意味です。Trados 内のどのウィンドウやビューにいても、このショートカット キーでエディター部分に移動できます。この「エディター部分に移動する」動作と、「原文と訳文を切り替える」動作は、何となく用途が似ていますし、連続して使うことも多いので、近くにあるキーで実行できると便利です。
たとえば、以下のような一連の操作ができます。
1. 原文で単語を選択して Ctrl+F3 キーで訳語検索をし、
2. F6 キーで [訳語検索] ビューに移動して訳語をコピーし、
3. Ctrl+0 キーでエディター部分に戻り (このとき、もともと原文側にいたので、戻り先は原文側)、
4. Ctrl+キャレット キーで訳文側に移動して、コピーした訳語を貼り付ける
このように文字で書くと面倒そうな感じですが、実際やってみるとなかなか便利です (少なくとも、私にとっては便利です)。
というわけで、問題が根本的に解決したわけではありませんが、「訳文と原文の切り替え」のショートカット キーに Ctrl+キャレット (^) を割り当てる、という対応でよしとしています。
参考までに、今回の記事を書くにあたりコミュニティを調べたら「'Toggle between Source and Target' shortcut issue」という投稿が既に2020年の時点でありました。こちらの投稿でも、「F6 キーが 3 つのアクションに割り当てられていて、それが機能しない」というそもそもの問題は解決されていないようでした。Trados 上のショートカット キーの設定画面でうまく設定できない場合は、以下の設定ファイルを手動で編集せよ、とのことでした。
(ただし、「Studio16」はおそらくバージョン 2021 を表しているので、バージョン 2022 の設定ファイルがどこにあるのかは、ちょっと不明です。)
半角スペースの検索が正常に機能しません。ヒットするときと、ヒットしないときがあるので、いろいろ試してみると、どうやら「1 つの文書構造の中で 2 番目以降の分節は検索されない」ようでした。
上図は、Word 文書の翻訳画面です (わかりやすくするため、半角スペースを表示する設定にしています。中黒のように見える小さい点がスペースです)。右端の列が「文書構造」を表しています。FN は脚注、H は見出し、P は段落です。赤枠で囲った部分は、P という 1 つの文書構造の中に 3 つの分節が存在する形になっています。
検索できないのは、この赤枠内の 2 番目以降の分節にあるスペースです。赤枠で囲んでいない分節は、それぞれ、1 つの文書構造の中に 1 つの分節しかないので、これらの分節内のスペースは正常に検索されます。
検索が正常に機能しないなんて、エディターとして致命的じゃない?? という気もしますが、その感情は脇に置いて、対応策を考えましょう。
ダメもとで、正規表現での検索を試しましたが、ダメでした。同じ結果になるか、さらに不可解な結果になります。不可解すぎるので、ここでは詳細は省略します。現在のところ、私が思い付く対応策はアプリの使用と検証機能の使用です。
アプリ「SegmentSearcher」を使う
アプリ「SegmentSearcher」は、現在エディターに開いているファイルを検索し、下図のように検索結果を別画面で一覧してくれるアプリです。このアプリでは半角スペースが正常に検索されます。
このアプリでは、正規表現での検索や、ステータスでのフィルターなど、細かい検索条件も使用できます。また、普通の検索機能では検索でヒットしたところにカーソルが動きますが、このアプリは検索結果を別画面に一覧してくれるので、現在作業している分節から移動せずに結果を見ることができます。検索した語に色が付く点もわかりやすくて便利です。
普通の検索機能とはまったく動きが違うので完全な代用にはなりませんが、どうしても検索したい場合には使用できます。
検証機能を使う
私の場合、半角スペースを検索したい理由は、主に余分なスペースが入っていないかのチェックです。括弧の前後、タグの前後、読点の後ろなどには余分なスペースが入りやすいので、翻訳後にチェックするようにしています。この目的でスペースを検索するのであれば、ある程度は検証機能で対応できます。検証機能については、以前の記事「正規表現なしで、検証機能を使う」と「検証機能の設定を調整する」も参考にしてください。
[分節の検証] > [訳文分節のチェック] > [禁止文字がないかチェックする]
上図の入力欄に、禁止したい文字を単純にずらずらと並べて入力しておくと、自動でチェックしてくれます。通常は、全角スペースや全角英数字が混入していないかのチェックに使用します。ここに半角スペースも指定できますが、半角スペースは、英単語の区切りなど、正常なケースで使われることが多いので false positive が多くなり過ぎます。私は、念のために指定していますが、他の手段でのチェックと組み合わせる方が安全です。
[句読点] > [句読点] > [次の文字の前に余分なスペースがないかチェックする]
[余分なピリオドとスペース] > [連続するスペースがないかチェックする]
[訳文分節の末尾に余分なスペースがないかチェックする]
余分なスペースのチェックについては、ある程度の設定が用意されています。[次の文字の前に余分なスペースがないかチェックする] は、この文言のとおり、「文字の前」にあるスペースをチェックしてくれるので、閉じ括弧や閉じ引用符、コロンなどを設定しておくと便利です。
最終手段は正規表現
上記以外のチェックは正規表現でなんとか頑張ってください。簡単なところでは、
私の対応策は以上です。最後はかなり投げやりですみません。参考までに、この問題についてもコミュニティに投稿がありました (Error when searching for double spaces in Studio 2022)。この投稿では、ダブルスペースが検索できない、ということですが、シングルスペースでも同じ現象が起きていると思われます。
QuickPlace 機能 (Ctrl+Alt+下矢印キーまたは Ctrl+カンマ キー) で MB (メガバイト) などの単位が勝手に翻訳されます。たとえば、英日翻訳で原文に「10 MB」とあった場合、入力候補として「10 MB」ではなく、「10 メガバイト」が表示されてきます。
これは非常に面倒なので、ブログのネタにしようと画策していたのですが、実はこの記事を書き始めてから改めて試したところ、問題が再現されませんでした。プロジェクトの設定の問題なのか、メモリの設定の問題なのか、原因はよくわかりませんが、いつの間にか正常に「10 MB」と表示されるようになっていました。
問題は再現されないのですが、一応、私が取った対応策を紹介しておきます。QuickPlace 機能は、メモリの設定で「認識」を有効にし、プロジェクトの設定で「置換」を有効にすることで、便利に機能します。詳細については、以前の記事「【前編】タイピングを減らそう」を参照してください。
今回は、プロジェクトの設定で「置換」を無効にしました。この設定は、下図のように、[プロジェクトの設定] > [言語ペア] > [(特定の言語ペア)] > [翻訳メモリと自動翻訳] > [自動置換] で行います。この画面で、[単位] チェックボックスのみオフにします。これで置換が行われなくなるので、「10 MB」はそのまま「10 MB」と表示されます。
ただ、これにはひとつ問題があります。それは、数字と単位の間のスペースです。一般的な表記ルールとして、英語では数字と単位の間にスペースを入れますが、日本語ではスペースを入れません。つまり、英日翻訳で英語の原文に「10 MB」とあったら、日本語の訳文は「10MB」とする必要があります。この調整を自動で行うための設定が [自動置換] > [単位] にあります。
ここで、スペースの表記ルールに合わせて、原文と同じにする、スペースを挿入する、挿入しない、などを設定できます。ただし、この調整が機能するのは、あくまで自動置換が有効になっているときのみです。自動置換を無効にすると、この調整も実行されなくなります。
今回は、以上です。書いていたら、だいぶ長くなってしまいました。結局、今回取り上げた 3 つの問題はいずれも根本的には解決されていません (最後の問題も、今のところ発生はしていませんが、発生する理由も、発生しない理由もわからないので、再発の恐れはあります)。
特に、スペースが検索できない問題はかなり致命的じゃないかと思うのですが、なんとかならないでしょうかね、Trados さん!!
Tweet
バージョン 2022 が悪いのか、その後の CU でのアップデートがだめなのか、もしくは以前からのバグに自分が気付いていなかっただけなのか、正確な原因はわからないものばかりです。作業がまったくできなくなる程の大問題ではありませんが、微妙にイラっとするので、ブログのネタにさせてもらいます。
ショートカット キー (F6) で原文と訳文を切り替えられない
現象
これまで、エディター上で F6 キーを押すと、原文エリアと訳文エリアを行き来できたのですが、これができなくなってしまいました。F6 キーを押すと、[翻訳結果] ビューにカーソルが移動します。
ショートカット キーの設定 ([ファイル] > [オプション] > [ショートカット キー]) を確認してみると、以下のように、3 つのアクションに F6 キーが割り当てられていました。以前からこの設定だったのか、どこかの時点でこの設定に変わったのか、それはよくわかりませんが、現状として、この設定ではエディター上で F6 キーを押しても原文と訳文を切り替えられません。
対応策
仕方がないので、ショートカット キーの設定を変えることにしました。実は、F6 キーで [翻訳結果] ビューや [訳語検索] ビューに移動できるのは、使ってみるとわりと便利だったので、この設定はそのまま残し、「訳文と原文の切り替え」の方を変えることにしました。
私は、現在、原文と訳文の切り替えには Ctrl+キャレット (^) を設定しています (ショートカット キーの設定画面では、Ctrl+Oem7 と表示されます)。キャレットは、キーボード上で数字のゼロ (0) の隣の隣にあるキーです。このキーを選んだ理由は、Ctrl+0 というショートカット キーをよく使うからです。本当は、ゼロ (0) の隣のハイフン (-) を使いたかったのですが、Ctrl+ハイフン (-) は既に他の機能で使っているため、その隣のキャレットにしました。
Ctrl+0 は、下図のように「[Focus Editor] ウィンドウ」というアクションに割り当てられています。意味不明なアクション名ですが、これは、おそらく「エディター ウィンドウにフォーカスする」という意味です。Trados 内のどのウィンドウやビューにいても、このショートカット キーでエディター部分に移動できます。この「エディター部分に移動する」動作と、「原文と訳文を切り替える」動作は、何となく用途が似ていますし、連続して使うことも多いので、近くにあるキーで実行できると便利です。
たとえば、以下のような一連の操作ができます。
1. 原文で単語を選択して Ctrl+F3 キーで訳語検索をし、
2. F6 キーで [訳語検索] ビューに移動して訳語をコピーし、
3. Ctrl+0 キーでエディター部分に戻り (このとき、もともと原文側にいたので、戻り先は原文側)、
4. Ctrl+キャレット キーで訳文側に移動して、コピーした訳語を貼り付ける
このように文字で書くと面倒そうな感じですが、実際やってみるとなかなか便利です (少なくとも、私にとっては便利です)。
というわけで、問題が根本的に解決したわけではありませんが、「訳文と原文の切り替え」のショートカット キーに Ctrl+キャレット (^) を割り当てる、という対応でよしとしています。
参考までに、今回の記事を書くにあたりコミュニティを調べたら「'Toggle between Source and Target' shortcut issue」という投稿が既に2020年の時点でありました。こちらの投稿でも、「F6 キーが 3 つのアクションに割り当てられていて、それが機能しない」というそもそもの問題は解決されていないようでした。Trados 上のショートカット キーの設定画面でうまく設定できない場合は、以下の設定ファイルを手動で編集せよ、とのことでした。
c:\Users\[USERNAME]\AppData\Roaming\SDL\SDL Trados Studio\Studio16\UserSettings.xml
(ただし、「Studio16」はおそらくバージョン 2021 を表しているので、バージョン 2022 の設定ファイルがどこにあるのかは、ちょっと不明です。)
半角スペースの検索が機能しないことがある
現象
半角スペースの検索が正常に機能しません。ヒットするときと、ヒットしないときがあるので、いろいろ試してみると、どうやら「1 つの文書構造の中で 2 番目以降の分節は検索されない」ようでした。
上図は、Word 文書の翻訳画面です (わかりやすくするため、半角スペースを表示する設定にしています。中黒のように見える小さい点がスペースです)。右端の列が「文書構造」を表しています。FN は脚注、H は見出し、P は段落です。赤枠で囲った部分は、P という 1 つの文書構造の中に 3 つの分節が存在する形になっています。
検索できないのは、この赤枠内の 2 番目以降の分節にあるスペースです。赤枠で囲んでいない分節は、それぞれ、1 つの文書構造の中に 1 つの分節しかないので、これらの分節内のスペースは正常に検索されます。
対応策
検索が正常に機能しないなんて、エディターとして致命的じゃない?? という気もしますが、その感情は脇に置いて、対応策を考えましょう。
ダメもとで、正規表現での検索を試しましたが、ダメでした。同じ結果になるか、さらに不可解な結果になります。不可解すぎるので、ここでは詳細は省略します。現在のところ、私が思い付く対応策はアプリの使用と検証機能の使用です。
アプリ「SegmentSearcher」を使う
アプリ「SegmentSearcher」は、現在エディターに開いているファイルを検索し、下図のように検索結果を別画面で一覧してくれるアプリです。このアプリでは半角スペースが正常に検索されます。
このアプリでは、正規表現での検索や、ステータスでのフィルターなど、細かい検索条件も使用できます。また、普通の検索機能では検索でヒットしたところにカーソルが動きますが、このアプリは検索結果を別画面に一覧してくれるので、現在作業している分節から移動せずに結果を見ることができます。検索した語に色が付く点もわかりやすくて便利です。
普通の検索機能とはまったく動きが違うので完全な代用にはなりませんが、どうしても検索したい場合には使用できます。
検証機能を使う
私の場合、半角スペースを検索したい理由は、主に余分なスペースが入っていないかのチェックです。括弧の前後、タグの前後、読点の後ろなどには余分なスペースが入りやすいので、翻訳後にチェックするようにしています。この目的でスペースを検索するのであれば、ある程度は検証機能で対応できます。検証機能については、以前の記事「正規表現なしで、検証機能を使う」と「検証機能の設定を調整する」も参考にしてください。
[分節の検証] > [訳文分節のチェック] > [禁止文字がないかチェックする]
上図の入力欄に、禁止したい文字を単純にずらずらと並べて入力しておくと、自動でチェックしてくれます。通常は、全角スペースや全角英数字が混入していないかのチェックに使用します。ここに半角スペースも指定できますが、半角スペースは、英単語の区切りなど、正常なケースで使われることが多いので false positive が多くなり過ぎます。私は、念のために指定していますが、他の手段でのチェックと組み合わせる方が安全です。
[句読点] > [句読点] > [次の文字の前に余分なスペースがないかチェックする]
[余分なピリオドとスペース] > [連続するスペースがないかチェックする]
[訳文分節の末尾に余分なスペースがないかチェックする]
余分なスペースのチェックについては、ある程度の設定が用意されています。[次の文字の前に余分なスペースがないかチェックする] は、この文言のとおり、「文字の前」にあるスペースをチェックしてくれるので、閉じ括弧や閉じ引用符、コロンなどを設定しておくと便利です。
最終手段は正規表現
上記以外のチェックは正規表現でなんとか頑張ってください。簡単なところでは、
、\s
で読点の後ろのスペースを検索できます。その他、全角文字間のスペースとか、半角文字と全角文字の間のスペースとか、単位の前のスペースとか、頑張って設定してみましょう! (正規表現については、詳しい解説がいろいろなところにあると思うので、そちらを参考にしてください。)私の対応策は以上です。最後はかなり投げやりですみません。参考までに、この問題についてもコミュニティに投稿がありました (Error when searching for double spaces in Studio 2022)。この投稿では、ダブルスペースが検索できない、ということですが、シングルスペースでも同じ現象が起きていると思われます。
単位が勝手に翻訳される
現象
QuickPlace 機能 (Ctrl+Alt+下矢印キーまたは Ctrl+カンマ キー) で MB (メガバイト) などの単位が勝手に翻訳されます。たとえば、英日翻訳で原文に「10 MB」とあった場合、入力候補として「10 MB」ではなく、「10 メガバイト」が表示されてきます。
これは非常に面倒なので、ブログのネタにしようと画策していたのですが、実はこの記事を書き始めてから改めて試したところ、問題が再現されませんでした。プロジェクトの設定の問題なのか、メモリの設定の問題なのか、原因はよくわかりませんが、いつの間にか正常に「10 MB」と表示されるようになっていました。
対応策
問題は再現されないのですが、一応、私が取った対応策を紹介しておきます。QuickPlace 機能は、メモリの設定で「認識」を有効にし、プロジェクトの設定で「置換」を有効にすることで、便利に機能します。詳細については、以前の記事「【前編】タイピングを減らそう」を参照してください。
今回は、プロジェクトの設定で「置換」を無効にしました。この設定は、下図のように、[プロジェクトの設定] > [言語ペア] > [(特定の言語ペア)] > [翻訳メモリと自動翻訳] > [自動置換] で行います。この画面で、[単位] チェックボックスのみオフにします。これで置換が行われなくなるので、「10 MB」はそのまま「10 MB」と表示されます。
ただ、これにはひとつ問題があります。それは、数字と単位の間のスペースです。一般的な表記ルールとして、英語では数字と単位の間にスペースを入れますが、日本語ではスペースを入れません。つまり、英日翻訳で英語の原文に「10 MB」とあったら、日本語の訳文は「10MB」とする必要があります。この調整を自動で行うための設定が [自動置換] > [単位] にあります。
ここで、スペースの表記ルールに合わせて、原文と同じにする、スペースを挿入する、挿入しない、などを設定できます。ただし、この調整が機能するのは、あくまで自動置換が有効になっているときのみです。自動置換を無効にすると、この調整も実行されなくなります。
今回は、以上です。書いていたら、だいぶ長くなってしまいました。結局、今回取り上げた 3 つの問題はいずれも根本的には解決されていません (最後の問題も、今のところ発生はしていませんが、発生する理由も、発生しない理由もわからないので、再発の恐れはあります)。
特に、スペースが検索できない問題はかなり致命的じゃないかと思うのですが、なんとかならないでしょうかね、Trados さん!!
Tweet
2024年04月21日
IR 文書の前期上書き翻訳を Trados で頑張る
しばらくブログの更新をさぼっている間に IR (Investor Relations) 業界の繁忙期が迫る時期になってしまいました。私は数年前にこの分野に足を踏み入れたのですが、この業界の「繁忙期」といわれる 5 月頃の忙しさは、本当にものすごく、最初の年は衝撃を受けました。
IR (Investor Relations) とは、投資家への広報活動を意味し、投資家たちへのアピールのためにさまざまな文書の翻訳が必要とされます。ただ、「繁忙期」が生じる主な原因は株主総会の招集通知や決算報告書です。こうした文書は、毎年必要とされ、定型的な文も多いので、CAT ツールが活躍しそうに思うのですが、なぜかこの分野ではあまり CAT ツールの使用が広まっていません。
最近は Phrase を使う案件も多少ありますが、ほとんどは Word ファイルでの「前期上書き」翻訳です。前期の原文、今期の原文、前期の訳文、という 3 つのファイルが提供され、前期の訳文に今期の更新箇所を上書きして、今期の訳文を完成させます。
今回は、前回の記事からの Trados をエディターとして (無理にでも) 使おう企画の第 2 弾として、IR 分野の「前期上書き」翻訳を Trados を使って行う方法を紹介します。紹介といっても、これは私が試行錯誤している途中のものです。今年の繁忙期を前に、自分の中での整理として手順をまとめておきたかっただけです。何か効率的な方法がありましたら、ぜひ、ぜひ、ぜひ、ぜひ、ご教示いただきたいです。
ざっくりとした手順は、以下のとおりです。
1. 今期訳文のベースを Word で作る
2. 参考訳をメモリに入れる
3. 作成した今期訳文ファイルを Trados に取り込む
4. 翻訳が終わったら、訳文生成して Word に戻す
では、詳しく見ていきましょう。
原文を比較し、更新箇所を訳文に反映する
まず、前期と今期の原文を比較し、どこが更新されたのかを特定します。そして、更新された箇所を今期訳文上に日本語のまま反映していきます。
目検ではどこが更新されたのかわかりにくいので、私は WinMerge というテキスト比較ツールを使用して更新箇所を特定しています。 (私は WinMerge の操作に AutoHotkey を使用していますが、これについては、以前の記事「文字列を比較する ― AutoHotKey と WinMerge と Trados とレビュー」を参照してください。)
この比較結果を基に手動で今期の訳文を変更します。数字だけの変更はこの段階で済ませますが、文字の変更がある場合は、この段階では翻訳せず、原文の日本語をそのままコピーします。
今回は、わかりやすくするため変更箇所に赤色を付けていますが、これは特にそのような指示がなければ不要です。ただ、もしそのような指示があった場合は、Trados 上で編集しているときに色を付けられた方が便利なので、訳文上に、1) 全体が黒で、一部を赤くする、2) 全体が赤で、一部を黒くする、という 2 パターンの書式を組み込んでおきます。これで、Trados に取り込んだときに、両パターンのタグが生成されます。
上記の例の場合は、数字の変更箇所が「1) 全体が黒で、一部を赤くする」にあたるので、「2) 全体が赤で、一部を黒くする」のパターン用に以下のようなダミーのテキストを入れておきます。
なお、本議案につきましては、監査等委員会の検討がされましたが、意見はありませんでした。
レイアウトを整える
レイアウトはできるだけ事前に完成させます。訳した後に訳文生成してから修正する方法もありますが、私は事前に整えておくようにしています。事前に整えておけば、翻訳中にプレビューをしたときも適切なレイアウトで訳文を確認できます。
・フォントの種類と大きさ
日本語が表示されている部分も、ローマ字を少しだけ入力してみて、英数字用フォントが正しく設定されていることを確認する。
・行間
いろいろな文書からコピーしてくるので、行間が狭かったり、広かったりすることがある。ページ全体を見て整える。
・左寄せ or 両端揃え
これも、コピー元の書式が残り、左寄せと両端揃えが混在することがよくある。
・インデント
「1 行目だけ字下げする」というルールの場合は、訳文が長くなって 2 行になった場合も考慮して、2 行目以降の設定もしておく。
機械的な置換はしない
Word 上では機械的な置換はしません。一括置換などの機械的にできる操作は、メモリやフィルターが使える Trados で行う方が効率的です。人名や「執行役員」といった役職名など、繰り返し登場する表現はつい置換したくなりますが、その衝動はここではぐっとおさえます。
日本語のまま残して Trados に取り込んでおけば、後で QA チェックを行うことも可能になるので、Word 上で置換してしまうより安全です。この段階では、あくまで、チマチマと手動で行わなければならない作業に専念します。
作業中に見つけた既訳や用語は、メモリとして Trados に取り込みます。私は、Excel で対訳形式のファイルを作り、それを「バイリンガル Excel」として Trados に取り込み、メモリに変換します。(この辺りの詳細については、公式ブログ「Excelを翻訳メモリに変換」、または私の以前の記事「安易にバイリンガル Excel を使っていませんか」を参照してください。)
対訳ファイルの作成には WildLight やテキスト エディターも使う
対訳ファイルの作成はなかなか面倒ですが、過去訳の踏襲は必須ですし、参考となる訳はできるだけたくさん欲しいので、ツールなども使いながら頑張ります。ページまるごとなど、ある程度の量がある場合は WildLight が便利です。そこまで量がない場合は、いったんテキスト エディターに貼り付け、改行の追加や削除をしてから Excel に貼り付けます。(この改行の処理などのために、私は秀丸エディターとそのマクロを使っていますが、その詳細については、別の機会に紹介できればと思います。)
用語ベースは使わず、すべてメモリに登録
私は、人名や役職名などの短いフレーズも、面倒なので用語ベースは使わずメモリに登録してしまいます。本当は、用語ベースを作成して用語認識を有効にするのがベストですが、用語認識はメモリのフラグメント一致でもある程度代用が利きます。また、対訳形式にさえなっていれば、Xbench の検索機能も使えるので、用語ベースの作成は省略しています。
参考訳のメモリを作成し、今期の訳文のベースが完成したらそのファイルを Trados に取り込みますが、取り込みの前に分節規則の設定を少しだけ変更します。
かっこ内の句点で分節を区切らない
IR の文書では、丸かっこの中に句点 (。) が含まれていることがよくあります。Trados の既定の設定では、かっこの中でも句点があると分節が区切られてしまうので、これを区切られないようにします。
たとえば、以下のような原文があるとします。丸かっこの中に句点があります。しかも、1 つ目の文ではかっこが二重になっています。
これを、既定設定のまま取り込むと以下のようになります。句点で分節が区切られてしまいます。
分節規則の設定を変えることで、以下のように、句点があっても 1 つの分節として取り込めます。かっこが二重になっていても大丈夫です。
分節規則の設定は、メモリの言語リソースから行います。設定の詳細については、公式ブログ「翻訳メモリの分節規則をカスタマイズする」を参照してください。すみません、今回は以下に図だけ示し、詳しい説明は省略しますが、公式ブログに書いてあるとおりに進めれば大丈夫です。
英語になっている部分をロックする
分節規則を設定して原文を取り込んだら、翻訳を開始する前に、既に英語になっている部分をロックします。うっかり触って訳文を変更してしまうと困るので、私は必ずロックしています。
「既に英語になっている部分」の抽出には、高度な表示フィルターを使います。[コンテンツ] タブの [原文:] に英数字、カーリー引用符、円記号を示す正規表現
この設定は、右上の [保存] をクリックするとファイルとして保存できます。保存したファイルは、その隣の [インポート] から読み込めます。何回も使う条件はファイルとして保存しておくと便利です。
これで抽出した分節を、すべて選択してロックすれば完成です。下図のように、日本語が残っている部分のみ編集可能な状態になっているはずです。ロックはショートカット キー (Ctrl+L) で簡単にオン/オフができるので、もし過不足があれば手動で調整します。
これで翻訳の準備は完了です。既訳部分も含めて全文を Trados に取り込むと、既訳部分の分節は英英のペアになってしまいますが、それでも英語での検索は可能になるのでわりと便利です。
ちなみに、今回のサンプル文書を作っていて初めて気付いたのですが、ピリオドで分節が区切られないようです。これは、原文を日本語としているので日本語の分節規則が適用されているから、と思われますが、すみません、未検証です。ピリオドで区切られた方がフィルターなどを使うときに便利なので、この点は要改善です。
翻訳が完了したら訳文生成をしますが、このとき注意するのがコメントです。IR の文書のときは、申し送り事項を細かく記入することが求められるので、コメントがかなり重要になります。
コメントのユーザー名を変更する
Trados で入力したコメントは、訳文生成した Word ファイルのコメントとして出力できます。ここで気を付けたいのがコメントの作成者として設定されるユーザー名です。Trados 上では、このユーザー名に Windows のログイン名が勝手に使われてしまいます。Trados の本体にはこれを変更する設定がないので、私は Trados Batch Anonymizer というアプリを使ってユーザー名を変更しています。このアプリについては、以前の記事「コメントに表示される名前の変更」を参照してください。
訳文を完成させ、コメントの名前も変更したら、訳文生成を行います。これで、Trados での作業は完了です。後は、生成したファイル上で最終的な確認をします。
今回は以上です。Trados を使うことで効率が良くなっているかどうかは微妙かもしれませんが、私は翻訳そのものの作業とそれ以外の作業を切り分けるという意味でも Trados を使った方がよいと思っています。更新箇所を見つけながら、翻訳をして、レイアウトも整えて、とすべてを一緒にやっていくのはなかなか大変です。それよりも、更新箇所を見つけるときはそれだけに集中し、Trados 上ではひたすら翻訳をしていく、というように作業を分けた方が進めやすいかなと思っています。
今年も繁忙期がやってきますが、少しでも効率的に進められるよう、努めていきたいと思います。
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IR (Investor Relations) とは、投資家への広報活動を意味し、投資家たちへのアピールのためにさまざまな文書の翻訳が必要とされます。ただ、「繁忙期」が生じる主な原因は株主総会の招集通知や決算報告書です。こうした文書は、毎年必要とされ、定型的な文も多いので、CAT ツールが活躍しそうに思うのですが、なぜかこの分野ではあまり CAT ツールの使用が広まっていません。
最近は Phrase を使う案件も多少ありますが、ほとんどは Word ファイルでの「前期上書き」翻訳です。前期の原文、今期の原文、前期の訳文、という 3 つのファイルが提供され、前期の訳文に今期の更新箇所を上書きして、今期の訳文を完成させます。
今回は、前回の記事からの Trados をエディターとして (無理にでも) 使おう企画の第 2 弾として、IR 分野の「前期上書き」翻訳を Trados を使って行う方法を紹介します。紹介といっても、これは私が試行錯誤している途中のものです。今年の繁忙期を前に、自分の中での整理として手順をまとめておきたかっただけです。何か効率的な方法がありましたら、ぜひ、ぜひ、ぜひ、ぜひ、ご教示いただきたいです。
ざっくりとした手順は、以下のとおりです。
1. 今期訳文のベースを Word で作る
2. 参考訳をメモリに入れる
3. 作成した今期訳文ファイルを Trados に取り込む
4. 翻訳が終わったら、訳文生成して Word に戻す
では、詳しく見ていきましょう。
1. 今期訳文のベースを Word で作る
原文を比較し、更新箇所を訳文に反映する
まず、前期と今期の原文を比較し、どこが更新されたのかを特定します。そして、更新された箇所を今期訳文上に日本語のまま反映していきます。
目検ではどこが更新されたのかわかりにくいので、私は WinMerge というテキスト比較ツールを使用して更新箇所を特定しています。 (私は WinMerge の操作に AutoHotkey を使用していますが、これについては、以前の記事「文字列を比較する ― AutoHotKey と WinMerge と Trados とレビュー」を参照してください。)
この比較結果を基に手動で今期の訳文を変更します。数字だけの変更はこの段階で済ませますが、文字の変更がある場合は、この段階では翻訳せず、原文の日本語をそのままコピーします。
今回は、わかりやすくするため変更箇所に赤色を付けていますが、これは特にそのような指示がなければ不要です。ただ、もしそのような指示があった場合は、Trados 上で編集しているときに色を付けられた方が便利なので、訳文上に、1) 全体が黒で、一部を赤くする、2) 全体が赤で、一部を黒くする、という 2 パターンの書式を組み込んでおきます。これで、Trados に取り込んだときに、両パターンのタグが生成されます。
上記の例の場合は、数字の変更箇所が「1) 全体が黒で、一部を赤くする」にあたるので、「2) 全体が赤で、一部を黒くする」のパターン用に以下のようなダミーのテキストを入れておきます。
なお、本議案につきましては、監査等委員会の検討がされましたが、意見はありませんでした。
レイアウトを整える
レイアウトはできるだけ事前に完成させます。訳した後に訳文生成してから修正する方法もありますが、私は事前に整えておくようにしています。事前に整えておけば、翻訳中にプレビューをしたときも適切なレイアウトで訳文を確認できます。
・フォントの種類と大きさ
日本語が表示されている部分も、ローマ字を少しだけ入力してみて、英数字用フォントが正しく設定されていることを確認する。
・行間
いろいろな文書からコピーしてくるので、行間が狭かったり、広かったりすることがある。ページ全体を見て整える。
・左寄せ or 両端揃え
これも、コピー元の書式が残り、左寄せと両端揃えが混在することがよくある。
・インデント
「1 行目だけ字下げする」というルールの場合は、訳文が長くなって 2 行になった場合も考慮して、2 行目以降の設定もしておく。
機械的な置換はしない
Word 上では機械的な置換はしません。一括置換などの機械的にできる操作は、メモリやフィルターが使える Trados で行う方が効率的です。人名や「執行役員」といった役職名など、繰り返し登場する表現はつい置換したくなりますが、その衝動はここではぐっとおさえます。
日本語のまま残して Trados に取り込んでおけば、後で QA チェックを行うことも可能になるので、Word 上で置換してしまうより安全です。この段階では、あくまで、チマチマと手動で行わなければならない作業に専念します。
2. 参考訳をメモリに入れる
作業中に見つけた既訳や用語は、メモリとして Trados に取り込みます。私は、Excel で対訳形式のファイルを作り、それを「バイリンガル Excel」として Trados に取り込み、メモリに変換します。(この辺りの詳細については、公式ブログ「Excelを翻訳メモリに変換」、または私の以前の記事「安易にバイリンガル Excel を使っていませんか」を参照してください。)
対訳ファイルの作成には WildLight やテキスト エディターも使う
対訳ファイルの作成はなかなか面倒ですが、過去訳の踏襲は必須ですし、参考となる訳はできるだけたくさん欲しいので、ツールなども使いながら頑張ります。ページまるごとなど、ある程度の量がある場合は WildLight が便利です。そこまで量がない場合は、いったんテキスト エディターに貼り付け、改行の追加や削除をしてから Excel に貼り付けます。(この改行の処理などのために、私は秀丸エディターとそのマクロを使っていますが、その詳細については、別の機会に紹介できればと思います。)
用語ベースは使わず、すべてメモリに登録
私は、人名や役職名などの短いフレーズも、面倒なので用語ベースは使わずメモリに登録してしまいます。本当は、用語ベースを作成して用語認識を有効にするのがベストですが、用語認識はメモリのフラグメント一致でもある程度代用が利きます。また、対訳形式にさえなっていれば、Xbench の検索機能も使えるので、用語ベースの作成は省略しています。
3. 作成した今期訳文ファイルを Trados に取り込む
参考訳のメモリを作成し、今期の訳文のベースが完成したらそのファイルを Trados に取り込みますが、取り込みの前に分節規則の設定を少しだけ変更します。
かっこ内の句点で分節を区切らない
IR の文書では、丸かっこの中に句点 (。) が含まれていることがよくあります。Trados の既定の設定では、かっこの中でも句点があると分節が区切られてしまうので、これを区切られないようにします。
たとえば、以下のような原文があるとします。丸かっこの中に句点があります。しかも、1 つ目の文ではかっこが二重になっています。
- 吸収合併(会社以外の者との合併(当該合併後当該株式会社が存続するものに限る。)を含む。)又は吸収分割による他の法人等の事業に関する権利義務の承継
- 他の会社(外国会社を含む。)の株式その他の持分又は新株予約権等の取得又は処分
これを、既定設定のまま取り込むと以下のようになります。句点で分節が区切られてしまいます。
分節規則の設定を変えることで、以下のように、句点があっても 1 つの分節として取り込めます。かっこが二重になっていても大丈夫です。
分節規則の設定は、メモリの言語リソースから行います。設定の詳細については、公式ブログ「翻訳メモリの分節規則をカスタマイズする」を参照してください。すみません、今回は以下に図だけ示し、詳しい説明は省略しますが、公式ブログに書いてあるとおりに進めれば大丈夫です。
英語になっている部分をロックする
分節規則を設定して原文を取り込んだら、翻訳を開始する前に、既に英語になっている部分をロックします。うっかり触って訳文を変更してしまうと困るので、私は必ずロックしています。
「既に英語になっている部分」の抽出には、高度な表示フィルターを使います。[コンテンツ] タブの [原文:] に英数字、カーリー引用符、円記号を示す正規表現
^[(\p{IsBasicLatin})”“’‘\]+$
を指定し、[正規表現] チェックボックスをオンにします。この設定は、右上の [保存] をクリックするとファイルとして保存できます。保存したファイルは、その隣の [インポート] から読み込めます。何回も使う条件はファイルとして保存しておくと便利です。
これで抽出した分節を、すべて選択してロックすれば完成です。下図のように、日本語が残っている部分のみ編集可能な状態になっているはずです。ロックはショートカット キー (Ctrl+L) で簡単にオン/オフができるので、もし過不足があれば手動で調整します。
これで翻訳の準備は完了です。既訳部分も含めて全文を Trados に取り込むと、既訳部分の分節は英英のペアになってしまいますが、それでも英語での検索は可能になるのでわりと便利です。
ちなみに、今回のサンプル文書を作っていて初めて気付いたのですが、ピリオドで分節が区切られないようです。これは、原文を日本語としているので日本語の分節規則が適用されているから、と思われますが、すみません、未検証です。ピリオドで区切られた方がフィルターなどを使うときに便利なので、この点は要改善です。
4. 訳文生成して Word に戻す
翻訳が完了したら訳文生成をしますが、このとき注意するのがコメントです。IR の文書のときは、申し送り事項を細かく記入することが求められるので、コメントがかなり重要になります。
コメントのユーザー名を変更する
Trados で入力したコメントは、訳文生成した Word ファイルのコメントとして出力できます。ここで気を付けたいのがコメントの作成者として設定されるユーザー名です。Trados 上では、このユーザー名に Windows のログイン名が勝手に使われてしまいます。Trados の本体にはこれを変更する設定がないので、私は Trados Batch Anonymizer というアプリを使ってユーザー名を変更しています。このアプリについては、以前の記事「コメントに表示される名前の変更」を参照してください。
訳文を完成させ、コメントの名前も変更したら、訳文生成を行います。これで、Trados での作業は完了です。後は、生成したファイル上で最終的な確認をします。
今回は以上です。Trados を使うことで効率が良くなっているかどうかは微妙かもしれませんが、私は翻訳そのものの作業とそれ以外の作業を切り分けるという意味でも Trados を使った方がよいと思っています。更新箇所を見つけながら、翻訳をして、レイアウトも整えて、とすべてを一緒にやっていくのはなかなか大変です。それよりも、更新箇所を見つけるときはそれだけに集中し、Trados 上ではひたすら翻訳をしていく、というように作業を分けた方が進めやすいかなと思っています。
今年も繁忙期がやってきますが、少しでも効率的に進められるよう、努めていきたいと思います。
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2023年12月18日
Trados をエディターとして使うために
だいぶ久しぶりの更新となりました。今年は、いろいろと忙しく過ごしているうちにあっという間に時間がたち、あまりブログを更新できませんでした。が、実は、取引先の入れ替わりなどもあり、来年から Trados の使用頻度が増すことになりました! 奥の深い (闇の深い?) Trados にどっぷりとはまっていきそうな感じです。
さて、Trados などの CAT ツールの機能といえば、翻訳メモリ (Translation Memory、略して TM) が代表的ですが、CAT ツールの機能はそれだけではありません。メモリを一切使わない場合でも、さまざまな利用価値があります。私の場合、Trados の主な用途は「エディター」です。そうです。単なるエディターです。Word より、テキスト エディターより、翻訳作業で文字を入力するなら Trados が効率的です。原文と訳文を並列で参照できる、原文と訳文のどちらからでも検索できる、入力補助機能を使用できる、タグを処理できる、など翻訳作業に欠かせない機能が最初から備わっています。
もちろん、Word やテキスト エディターも、マクロなどでカスタマイズすれば相当便利に使えると思います。しかし、翻訳を始めた当初から CAT ツールを使っていた私の場合、他のエディターのマクロなどより、Trados の方が慣れています。まあ、ただ「慣れている」という理由だけで使い続けることが良いとは思っていませんが、今のところわざわざ他のエディターに変えるほどの理由もありません。
というわけで、私は、Word ファイルなどを渡されて「上書き翻訳で」と依頼されても、できるだけ Trados を使うようにしています。ただ、そうした案件は、自分で訳文生成まで行って元のファイル形式で納品する必要があるので、作業前に必ず「簡単に元の状態に戻せるか」を確認します。
この確認のポイントは「簡単に」です。Trados の便利さと、元のファイルに戻すときの手間を比較して、もし元ファイルに戻す手間の方が大きくなるようであれば、素直に「上書き翻訳」をせざるを得ません。そのため、Trados をエディターとして使いたいのなら、元ファイルに戻すときの手間をできるだけ少なくする必要があります。
今回は、Word ファイルで段落ごとの併記を依頼された場合を例に「簡単に」元ファイルに戻すために使えそうな小技を紹介します。あくまで「小技」です。段落ごとの併記という形式を Trados でパッと生成できるわけではありません。基本的には手動での作業になります。
では、以下のような Word ファイルを段落ごとに英日併記で翻訳してくださいと指示されたとします。このファイルは、私が実際に依頼されたファイルを基に作ったサンプルです。着目すべき点は、文章内にリンクがあることと、コメントが付いていることです。
まずは、段落ごとにコピペして併記の形にし、訳文を入力する側にハイライトを付けます。すみません、最も面倒なこの作業は手動で行います。(もし、何十ページもあるような大きなファイルだったら自動化を考えますが、そもそもこんな依頼をしてくるファイルは 1 〜 2 ページ程度のものが多いので、とりあえず、手動でがんばります。)
この例では、訳文となる部分へのマーキングとしてハイライトを使っています。このマーキングは、この後 Trados 上で原文と訳文を区別するために使います。マーキングは最終的に訳文生成をした後で削除する必要があるので、うまく削除できそうなものを使う必要があります。Trados の動作から考えると、ハイライト以外に、文字の色もマーキングとして使用できます。
今回のファイルでマーキングにハイライトを選んだのは、文章内にリンクがあったからです。リンクの文字に異なる色が使われているので、マーキングとして文字の色を使うと、後で戻すときにリンクの部分だけ別に色を変えなければならないことになります。逆に、原文にハイライトが使われていたら、マーキングには文字の色を使います。もし両方が使われていたら、面倒ですが、別の色のハイライトを使う、とかですかね。その都度、原文に合わせて適当に考えます。
Word ファイル上で併記の形を完成させたら Trados に取り込みますが、その前にひとつだけ設定をします。今回の原文にはコメントが付いているので、このコメントも Trados に取り込むようにします。コメントを訳す必要がないとしても、Trados に取り込んでおかないと、訳文生成してできあがるファイルでコメントが消えてしまいます。
コメントを取り込む設定は「ファイルの種類」で行います。プロジェクトを作成する前だったら、[ファイル] > [オプション] > [ファイルの種類] > [Microsoft Word 2007-2019] > [全般設定] です。プロジェクトを作成した後で設定を変える場合は、そのプロジェクトの [プロジェクトの設定] > [ファイルの種類] です。(この 2 つの設定の違いについては、以前の記事「Trados の設定を変えるには − [ファイル] と [プロジェクトの設定]」を参照してください。)
上図のように、[コメント] の [コメントを翻訳対象として抽出する] チェックボックスをオンにすると、原文ファイルにあるコメントを Trados に取り込むことができます。ここで取り込んでおけば、訳文生成したときにそのままコメントが出力されます。
その下の [Studio の訳文コメントを訳文文書に保持する] は、Trados 上で記入したコメントを訳文生成したファイルに出力するかどうかの設定です。チェックボックスをオンにすると、コメントが出力されます。
この設定が完了したら、Trados にファイルを取り込みます。この設定をせずに取り込んでしまった場合は、いったんそのファイルは削除し、設定を変えてから改めて取り込み直します。この設定は、取り込む前に行う必要があります。後から設定を変えても、コメントは取り込まれません。
Trados でファイルを開くと、以下のようになります。下図は、全分節について原文を訳文にコピーした後の状態です。タグとハイライトの色が表示されているのは、[エディタ] の [書式の表示スタイル] で [すべての書式とタグを表示する] を選択しているからです (詳しくは、以前の記事「エディタ上のフォントを変える」を参照してください)。真ん中のステータスの列が薄紫色になっているのは、原文をコピーしたときの色を設定しているからです (詳しくは、以前の記事「本当に原文からコピーしたままか?」を参照してください)。
原文を訳文にコピーしたら、翻訳作業をする以外の分節をロックします。間違って編集してしまうと困るので、必ずロックします。今回ロックする箇所は、併記形式の原文にあたる部分と、元々原文に入っていたコメントです。
ハイライトが付いていない分節をロックする
これには、「高度な表示フィルタ 2.0」を使います。[色] タブでマーキングに使った色を選択し、上部の [反転] ボタンをクリックします。
[色] タブのリストには、ハイライトや文字などの色が自動的に表示されてきます。実際にどの要素の色が表示されてくるのかはよくわかりませんが、ハイライトと文字の色は表示されてきます。ですので、赤字の部分のみ表示する、といった操作も可能です。[反転] ボタンは、選択した色が含まれる分節“以外”を抽出するために使います。つまり、[反転] ボタンを使うことで「ハイライトが付いていない」分節を抽出できます。
ハイライトが付いていない分節を抽出したら、その分節をすべて選択してそのままロックします。これで、余計な部分を誤って編集してしまう心配がなくなります。(下図は、ステータスを [翻訳承認済み] に変更してからロックしています。ステータスの変更は任意ですが、翻訳する部分以外を別のステータスにしておくと何かと便利です。)
コメントをロックする
上図で既にコメント部分もロックされていますが、色を使わずにコメントだけを抽出することもできます。それには、[文書構造] タブを使用します。[文書構造] タブには、エディターの右端に表示されている文書構造の情報が表示されてきます。ここから、適当な文書構造を選択して、その分節だけを抽出できます。
これで、翻訳の準備が整いました。後は、ロックされていない部分を翻訳していきます。ロック箇所が邪魔なら、フィルターでロック箇所を非表示にできます。また、ハイライトが目にうるさいようなら、上記の [書式の表示スタイル] を [書式を表示せずにすべてのタグを表示する] に変更します。これで、ハイライトの色は表示されなくなります。
翻訳を完成させて訳文生成をすると、下図のようなファイルができあがります。原文はそのまま残り、訳文にはハイライトが付いています。元々入っていたコメントもそのまま残っています。2 つ目の「翻訳者」のコメントは、翻訳時に Trados 上で入れたコメントです。最後に、ハイライトを消して完成です。
今回は以上です。ここまでして Trados を使う必要があるのか??という声も聞こえてきそうですが、私はこの程度の手間なら Trados を使った方がよいと思っています。私は Trados 上に入力補助や検証の設定をしているので、Word やテキスト エディターで作業をするとかなり効率が落ちてしまいます。メモリや用語集の提供がないとしても、私の場合は Trados を使った方が効率良く作業を進められます。
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さて、Trados などの CAT ツールの機能といえば、翻訳メモリ (Translation Memory、略して TM) が代表的ですが、CAT ツールの機能はそれだけではありません。メモリを一切使わない場合でも、さまざまな利用価値があります。私の場合、Trados の主な用途は「エディター」です。そうです。単なるエディターです。Word より、テキスト エディターより、翻訳作業で文字を入力するなら Trados が効率的です。原文と訳文を並列で参照できる、原文と訳文のどちらからでも検索できる、入力補助機能を使用できる、タグを処理できる、など翻訳作業に欠かせない機能が最初から備わっています。
もちろん、Word やテキスト エディターも、マクロなどでカスタマイズすれば相当便利に使えると思います。しかし、翻訳を始めた当初から CAT ツールを使っていた私の場合、他のエディターのマクロなどより、Trados の方が慣れています。まあ、ただ「慣れている」という理由だけで使い続けることが良いとは思っていませんが、今のところわざわざ他のエディターに変えるほどの理由もありません。
というわけで、私は、Word ファイルなどを渡されて「上書き翻訳で」と依頼されても、できるだけ Trados を使うようにしています。ただ、そうした案件は、自分で訳文生成まで行って元のファイル形式で納品する必要があるので、作業前に必ず「簡単に元の状態に戻せるか」を確認します。
この確認のポイントは「簡単に」です。Trados の便利さと、元のファイルに戻すときの手間を比較して、もし元ファイルに戻す手間の方が大きくなるようであれば、素直に「上書き翻訳」をせざるを得ません。そのため、Trados をエディターとして使いたいのなら、元ファイルに戻すときの手間をできるだけ少なくする必要があります。
今回は、Word ファイルで段落ごとの併記を依頼された場合を例に「簡単に」元ファイルに戻すために使えそうな小技を紹介します。あくまで「小技」です。段落ごとの併記という形式を Trados でパッと生成できるわけではありません。基本的には手動での作業になります。
では、以下のような Word ファイルを段落ごとに英日併記で翻訳してくださいと指示されたとします。このファイルは、私が実際に依頼されたファイルを基に作ったサンプルです。着目すべき点は、文章内にリンクがあることと、コメントが付いていることです。
1. 段落ごとにコピペし、訳文をハイライトでマーキングする
まずは、段落ごとにコピペして併記の形にし、訳文を入力する側にハイライトを付けます。すみません、最も面倒なこの作業は手動で行います。(もし、何十ページもあるような大きなファイルだったら自動化を考えますが、そもそもこんな依頼をしてくるファイルは 1 〜 2 ページ程度のものが多いので、とりあえず、手動でがんばります。)
この例では、訳文となる部分へのマーキングとしてハイライトを使っています。このマーキングは、この後 Trados 上で原文と訳文を区別するために使います。マーキングは最終的に訳文生成をした後で削除する必要があるので、うまく削除できそうなものを使う必要があります。Trados の動作から考えると、ハイライト以外に、文字の色もマーキングとして使用できます。
今回のファイルでマーキングにハイライトを選んだのは、文章内にリンクがあったからです。リンクの文字に異なる色が使われているので、マーキングとして文字の色を使うと、後で戻すときにリンクの部分だけ別に色を変えなければならないことになります。逆に、原文にハイライトが使われていたら、マーキングには文字の色を使います。もし両方が使われていたら、面倒ですが、別の色のハイライトを使う、とかですかね。その都度、原文に合わせて適当に考えます。
2. コメントも含めて Trados に取り込む
Word ファイル上で併記の形を完成させたら Trados に取り込みますが、その前にひとつだけ設定をします。今回の原文にはコメントが付いているので、このコメントも Trados に取り込むようにします。コメントを訳す必要がないとしても、Trados に取り込んでおかないと、訳文生成してできあがるファイルでコメントが消えてしまいます。
コメントを取り込む設定は「ファイルの種類」で行います。プロジェクトを作成する前だったら、[ファイル] > [オプション] > [ファイルの種類] > [Microsoft Word 2007-2019] > [全般設定] です。プロジェクトを作成した後で設定を変える場合は、そのプロジェクトの [プロジェクトの設定] > [ファイルの種類] です。(この 2 つの設定の違いについては、以前の記事「Trados の設定を変えるには − [ファイル] と [プロジェクトの設定]」を参照してください。)
上図のように、[コメント] の [コメントを翻訳対象として抽出する] チェックボックスをオンにすると、原文ファイルにあるコメントを Trados に取り込むことができます。ここで取り込んでおけば、訳文生成したときにそのままコメントが出力されます。
その下の [Studio の訳文コメントを訳文文書に保持する] は、Trados 上で記入したコメントを訳文生成したファイルに出力するかどうかの設定です。チェックボックスをオンにすると、コメントが出力されます。
この設定が完了したら、Trados にファイルを取り込みます。この設定をせずに取り込んでしまった場合は、いったんそのファイルは削除し、設定を変えてから改めて取り込み直します。この設定は、取り込む前に行う必要があります。後から設定を変えても、コメントは取り込まれません。
3. Trados で翻訳する部分以外をロックする
Trados でファイルを開くと、以下のようになります。下図は、全分節について原文を訳文にコピーした後の状態です。タグとハイライトの色が表示されているのは、[エディタ] の [書式の表示スタイル] で [すべての書式とタグを表示する] を選択しているからです (詳しくは、以前の記事「エディタ上のフォントを変える」を参照してください)。真ん中のステータスの列が薄紫色になっているのは、原文をコピーしたときの色を設定しているからです (詳しくは、以前の記事「本当に原文からコピーしたままか?」を参照してください)。
原文を訳文にコピーしたら、翻訳作業をする以外の分節をロックします。間違って編集してしまうと困るので、必ずロックします。今回ロックする箇所は、併記形式の原文にあたる部分と、元々原文に入っていたコメントです。
ハイライトが付いていない分節をロックする
これには、「高度な表示フィルタ 2.0」を使います。[色] タブでマーキングに使った色を選択し、上部の [反転] ボタンをクリックします。
[色] タブのリストには、ハイライトや文字などの色が自動的に表示されてきます。実際にどの要素の色が表示されてくるのかはよくわかりませんが、ハイライトと文字の色は表示されてきます。ですので、赤字の部分のみ表示する、といった操作も可能です。[反転] ボタンは、選択した色が含まれる分節“以外”を抽出するために使います。つまり、[反転] ボタンを使うことで「ハイライトが付いていない」分節を抽出できます。
ハイライトが付いていない分節を抽出したら、その分節をすべて選択してそのままロックします。これで、余計な部分を誤って編集してしまう心配がなくなります。(下図は、ステータスを [翻訳承認済み] に変更してからロックしています。ステータスの変更は任意ですが、翻訳する部分以外を別のステータスにしておくと何かと便利です。)
コメントをロックする
上図で既にコメント部分もロックされていますが、色を使わずにコメントだけを抽出することもできます。それには、[文書構造] タブを使用します。[文書構造] タブには、エディターの右端に表示されている文書構造の情報が表示されてきます。ここから、適当な文書構造を選択して、その分節だけを抽出できます。
これで、翻訳の準備が整いました。後は、ロックされていない部分を翻訳していきます。ロック箇所が邪魔なら、フィルターでロック箇所を非表示にできます。また、ハイライトが目にうるさいようなら、上記の [書式の表示スタイル] を [書式を表示せずにすべてのタグを表示する] に変更します。これで、ハイライトの色は表示されなくなります。
4. 訳文生成をして、ハイライトを消す
翻訳を完成させて訳文生成をすると、下図のようなファイルができあがります。原文はそのまま残り、訳文にはハイライトが付いています。元々入っていたコメントもそのまま残っています。2 つ目の「翻訳者」のコメントは、翻訳時に Trados 上で入れたコメントです。最後に、ハイライトを消して完成です。
今回は以上です。ここまでして Trados を使う必要があるのか??という声も聞こえてきそうですが、私はこの程度の手間なら Trados を使った方がよいと思っています。私は Trados 上に入力補助や検証の設定をしているので、Word やテキスト エディターで作業をするとかなり効率が落ちてしまいます。メモリや用語集の提供がないとしても、私の場合は Trados を使った方が効率良く作業を進められます。