初心者向けのセミナーもあり、驚くような新しい情報はなかったのですが、それでもいくつか私が知らない機能などがありました。今回は、メモリ (TM) についてのセミナーから、個人翻訳者として気になったことを紹介したいと思います。
新しい翻訳単位の追加
1 つの原文に対して複数の訳文を登録する機能です。私はこんな機能があるのを知りませんでした!! 何年も Trados を使っているのに気付きませんでした (;。;)
訳文を入力したら、たいていは Ctrl+Enter で確定をして訳文を登録します。この場合、既存の訳文があったらそれを上書きするので、メモリに登録される訳文は常に 1 つです。しかし、ここで Ctrl+Shift+U を使うと、既存の訳文を上書きせず、新しい訳文を追加できます。
エディタ上で訳し分けをしても、それをメモリに登録できないので不便だなぁとずっと思っていました。でも、そのための機能がちゃんとあったんですねぇ。
固定要素は、原則、すべて同じものとして扱われる
upLift テクノロジーについての説明がかなり詳しくありました。このテクノロジーの設定については、以前の記事 (前編、後編) で紹介しましたが、まだなんとなく理解できていません。ただ、今回のセミナーで気になった点は、upLift そのものではなく、「固定要素」の扱いです。
「IP address」という語句から「MAC address」という一致が見つかっています。これは、「IP」が固定要素とみなされているからだそうです。この動作には驚きました! 何も知らずにこんな動作に遭遇したら、かなり悩んでしまいそうです。
上の図では「IP address」の「IP」に青色の下線が引かれています。これが固定要素です。オンライン セミナーでの簡単な説明によると、固定要素とみなされるものは「アルファベットの略語あるいは数字」だそうです。この固定要素は、実際の中身が何であっても、すべて同じものと解釈されるとのことでした。
- IP address ---> [固定要素] address
- MAC address ---> [固定要素] address
Trados は、上のように解釈して「IP address と MAC address は同じ」という結果を出してくるわけです。
これは、もしかしたら便利なんでしょうか。おそらく、この動作はフラグメント一致に限られたものではありません。通常のメモリの検索でも (もしかしたら、料金に関係してくる一致率の計算でも??) この動作になっていると思います。略語 (頭字語) や数字の違いはうっかり見落とす危険があるので、 Trados からの出力は、こうした動作を知ったうえで注意して見ることが必要かと思います。
固定要素については、識別するかどうかの設定や、文字数・ワード数への影響など、私にとってはちょっと不可解なことがいくつかあります。詳しくは、またいつか調べてみたいと思います。(いつか。早めに。なるべく。)
AnyTM はいろいろな言語に使える
AnyTM の存在は一応知ってはいたのですが、翻訳方向の反転のために使うものかと思っていました。たとえば、日英翻訳をするプロジェクトで英日のメモリを使いたいというときに AnyTM を使えます。
でも実は、こうした反転に限らず、まったく違う言語のメモリを使うことができるそうです。確かに、「Any」という名前が付いているくらいなので、考えてみれば当然ですね。違う言語を使うことが必要になるケースとしてよくあるのは、同じ英語でもアメリカ英語とイギリス英語でメモリが分かれている場合などです。
このほかにも、英日のプロジェクトで独英 (英独?) のメモリを使うというようなことができるそうです。これは、ほかの言語から翻訳された英語をさらに日本語に訳すといった場合にもしかしたら役立つかもしれません。このような場合、まれに、翻訳会社から本当の原文まで参照するように指示されることがあります。まあ、私はほかの言語はよくわからないので、参照してもどうしようもないことが多いですが。
個人翻訳者として気になったところはこんな感じです。これ以外にも、翻訳会社のコーディネーターさんに役立ちそうな情報はいくつかありました。
・メモリ エディタには、「原文分節の長さ」などのフィールドが用意されている。
・バイリンガル ファイルではなく、生成後の訳文からレビュー結果を取り込める。
・アプリなどを使ってメモリを xliff に変換できる。これにより、QA Check やスペルチェックを実行できる。
最後の、メモリに QA Check を実行したいというケースは個人翻訳者でもあるかもしれないので、また次回の機会に紹介したいと思います。
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