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アンクル・サンボズ・キャビン

 本盤は、貴重なCDだと思います。
 メインのIvory Joe Hunterは、キャリアの後期に当たる録音ですが、なかなかに楽しめます。
 この人は、あまりテキサスらしい雰囲気のない人で、エグさのないバラーディアーです。
 ここでの60年代の録音は、ヴィンテージ期よりも聴きやすいかも知れません。
 

Gray Light Of Port Arthur
Ivory Joe Hunter
Big Sambo & House Wreckers

Ivory Joe Hunter
1. I'll Give You All Night To Stop (Hunter)
2. Medley : I Almost Lost My Mind 〜 Empty Arms (Hunter)
3. I'm Coming Down With The Blues (Hunter)
4. Working On Me (Hunter)
5. Looking For The Girl Who's Lopoking For The Guy To Love (Hunter)
6. Can I Help (Hunter)
7. Stolen Moments (Hunter)
8. The Cold Gray Light Of Down (Hunter)
9. Brenda Browwn (demo, 1st version) (Hunter)
10. Brenda Browwn (demo, 2nd version) (Hunter)
11. Brenda Browwn (demo, 3rd version) (Hunter)
12. The Masquerade Is Over (Hunter)
13. Empty Arms (alternate version) (Hunter)
14. The Angeles Sent You (Hunter)
15. Adios Senorita (Hunter)
Big Sambo & House Wreckers
16. The Rains Came (Huey P. Meaux)
17. At The Party (Huey P. Meaux)
18. Anymore (D. Robey, Fats Washington)  
19. All About Love (Roy Ames)
20. I Had To Cry (Jim Scott, Al Matthias, Roy Ames)
21. Long Gone (Huey P. Meaux)

 Ivory Joe Hunterが面倒なのは、複数のレーベルで、それぞれワン・ヒット・ワンダー的なヒット曲があり、レーベルを横断するようなコンピでないと、全容が把握しにくいことです。
 有名どころでは、以下のような曲があります。

Guess Who (King)49'
I Almost Lost My Mind (King)50'
I Need You So (MGM)50'
Since I Met You Baby (Atlantic)56'

 ブルース・ファンにとって、"I Almost Lost My Mind"は、Albert KingのStax盤でしょう。
 (好き嫌いは別にして…)

 "Since I Met You Baby"は、Freddy FenderのABC-Dot盤ですね。
 この曲は、Freddy Fenderの愛唱歌で、ABC以前のキャリア初期にも録音があります。

 本盤の頃のIvory Joe Hunterは、曲のスタイルは、ほとんどカントリー・ソングといってよく、またそのジェントルな歌いくちは、スタンダードを歌うポピュラー・シンガーのようです。

 3テイク入っている"Brenda Brown"を始め、"Empty Arms"など、味わい深いバラードに酔いましょう。 

 
 さて、あっさり話は変わります。
 実は、本盤の注目は、Ivory Joe Hunterではありません。
 おまけのように入っている、Big Samboさんです。

 この人は、本名をJames Samuel Youngという黒人のシンガー、サックス・プレイヤーで、James "Big Sambo" Youngと名乗っていました。
 Big Samboというのは、子供のころのニックネームからきているようです。

 この人になぜ注目するかと言いますと、"The Rains Came"のオリジネイターだからです。

 ライナーによりますと、Huey Meauxが制作したこの曲は、テキサスでヒットしたことから、全国へと配給しようとした矢先、Big Samboという名前が黒人蔑視であるとして、ラジオ局からボイコットされてしまったとのことです。
 James "Big Sambo" Youngは、その後目立った活躍をすることはなかったようです。
 
 しかし、一人の黒人アーティストの運命とは関係のないところで、時代は進んでいきます。
 "The Rains Came"は、その後のHeuy Meauxにとって、使い勝手の良い手札の1枚となり、様々なアーティストにこぞって吹き込ませることになります。

 もちろん、Freddy Fenderや、Doug Sahmは当然やっています。
 Crazy Cajunに所属したアーティストの多くは、この曲をやっているのではないでしょうか。
 レアなところでは、Joey Long盤もあります。

 本盤には、Big Samboの3枚のシングルの両面が収録されています。
 今後、仮に未発表曲の発掘がなされたとしても、とても単独アルバムを組むほど発見されることはないでしょう。
 そういう意味で、貴重なCDだと思います。

 "The Rains Came"以外では、裏面の"At The Party"が、ワイルドにがなりたてる黒いロックンロールで聴きものです。
 そして、Johnny Aceの隠れた名作バラード、"Anymore"が、Big Samboにあった曲でやはり良いです。

 クレジットによれば、これらの録音は、63年と64年にニューオリンズで行われ、ギターにはJoey Longが、そしてキーボードには、Dr. Johnが参加しているそうです。
 Doug Sahmファン、ニューオリンズR&Bファンなら、ぜひ押さえておきたい録音でしょう。

 今回思ったのは、この時代のJohnny Aceの影響力の強さです。
 バラード曲でのBig Samboのボーカルは、明らかにAceを意識しています。
 また、クレジットにあるように、本当にDr. Johnがピアノを弾いたのなら、それはまるでJohnny Ace風のタッチそのものです。

 あるいは、デューク・サウンドの影響力こそが、大きいと言えるのかも知れません。



The Rains Came by Big Sambo






ビーバー・ダム・スワンプ

 今日気付いたのですが、まもなくこのブログを始めて1年を迎えます。
 いやあ、驚きです。
 何が驚いたと言って、まだ1年経っていなかったことに驚きました。

 おじさんになると、記憶容量というものが圧縮されるようです。
 若いころよりも狭小化した海馬の中で、短期記憶と長期記憶の配分が、ほぼ均等になったような気がします。  
 
 意味不明ですか?
 つまりこういうことです。
 ブログを始めてからの1年の出来事が、それ以前のすべての人生と、あたかも同程度の長さに感じられると言うことです。

 
You Better Run
Billy C. Farlow

1. Drive Me Like A Mule (Billy C. Farlow)
2. You Better Run (Billy C. Farlow)
3. Don't You Wanna' Rock ? (John Lee Hooker)
4. Good Rockin' Mama (Billy C. Farlow)
5. Don't It Get Lonely (Billy C. Farlow)
6. Hey, Nannie May (Billy C. Farlow)
7. Whiskey and Beer, Gin and Wine (Billy C. Farlow)
8. Waitin' For The Sun To Go Down (Billy C. Farlow)
9. Good Whiskey, Bad Women (Billy C. Farlow)
10. Drunk On Love (Billy C. Farlow)
11. Juke House Woman (Billy C. Farlow)
12. Roll, Mississippi, Roll (Billy C. Farlow)

 さて、今回の主人公、Billy C. Farlowは、Commander Cody and his Lost Planet of Airmenのリード・ボーカルだった人です。
 今作は、リリースされたばかりの最新作になります。

 私は、初めてCommander Codyを聴いたときから、なぜこの人がリード・ボーカルなのかと不思議に思っていました。
 なぜなら、Lost Planet of Airmenでは、複数のシンガーがボーカルをとっており、この人よりはるかにうまいシンガーがいたからです。

 私は、当初それがリーダーのCopmmander Cody(George Frayne)だと勘違いしていました。
 だって、リーダーなんですから、まさかほとんどピアノを弾いてるだけの人だなんて思いませんよね。

 ジェントルなバリトンの持ち主が、ギターのBill Kirchenだということにやがて気付きました。

 一方、Billy Farlowは、当時ひょろっとしたメガネ青年で、楽器はハーモニカだけやっていたはずです。
 私は、今回、彼のソロ作を始めて聴きましたが、音よりも先に、風貌がかなり変わっていることに驚きました。
 歳月は人の姿を変えますね。

 ジャケには、グレッチらしきギターを構えるむさ苦しい男が写っています。
 このギターは、ロカビリアンに人気のグレッチ6120かと思いましたが、グレッチ・シンクロマチックという機種(?)らしいです。
 (クレジットではそうなっていました。)

 今作ですが、ギターから連想するロカビリーではなく、サザン・ロックに近いサウンドです。
 引き摺るようなブギ基調の曲がメインで、Georgia Satellitesを連想させるところがあります。
 1曲目から、まさにそんな曲調で、ルーズなブギ・リフでスタートし、ブルース・ハープが被さってきます。

 ただ、曲調は似ていますが、一方でSatellitesとは、どことなく違う印象も受けます。
 どこがそう感じさせるのだろうと考えましたが、これはおそらく、スライド・プレイがあまりなく、またバッキングの音の厚みがシンプルなせいでしょう。

 私は、サザン・ロックのバックには、あるイメージを持っています。
 それは、しばしばハード・ロックに接近しながらも、一線を超えることなく、かろうじて堪えているという印象で、そこに美しさを感じます。

 レーナードが、フリーをお手本にスタートしたという話はよく知られています。
 英国ブルース・ロックからインスパイアされたからこそ、ハード・ロックとは一線を画しているのだと思います。

 今作でのサウンドは、一見サザン・ロック風の顔をしてはいますが、突き詰めれば、広義にはやはりブルース・ロックに集約されるのかも知れません。



 やっている曲は、1曲を除いてすべて本人の自作です。
 3曲目の"Don't You Wanna' Rock ?"が、クレジットではJohn Leeになっています。

 実は、私はJohn Leeはほとんどベーシックなところしか聴いていず、またそれらもあまりよく覚えていません。

 この曲は、他の曲と何の違和感もなく「すっと」耳に入ってくる曲で、クレジットを見なければ気付くこともなかったでしょう。
 (ちなみに、私が聴いてきたJohn Leeは、ヴィンテージ期では、モダン、キング、ヴィージェイの代表作程度です。)

 ロックンロール調の曲も中にはありますが、ギンギンに飛ばすといった感じではなく、また、ほとんどノイジー感のないサウンドに仕上がっています。
 うるささもなく、そういう意味では、実は聴きやすい、いいアルバムかも、と思い出してきました。

 収録曲の補足をしますと、"Don't It Get Lonely"は、Ray Charlesの"Lonely Avenue"を思わせる曲です。
 また、"Drunk On Love"は、ボ・ディドリー・スタイルの曲です。
 何度か聞き返して、彼のボーカルは、思いのほか歌えている気がしました。
 私は、予断を持ちすぎかもと思いだしています。

 この人は、バイオなどによれば、アラバマ、インディアナ、テキサスなどで成長したとのことで、確たることはよく分かりませんが、南部ルーツの音楽志向を持つ人であるのは間違いないと思います。

 私は、今作のサウンドを、レイドバックしていないスワンプだと、とりあえず言っておきます。

 ちなみに、なぜか来月にも新作のリリースが予定されています。
 そして、これまたなぜか、本作の収録曲のうち、次の2曲が再度収録されるようです。

 "Drive Me Like A Mule"
 "Good Rockin' Mama"

 ジャケは、次作のほうがよいので、検索してみてください。






強く叩き続けろ

 暑い日が続きます。
 昼過ぎに、お目当てのCDを取りに2階へ上がったら、蒸し風呂状態でした。
 早々に空調を効かせた部屋へ逃げ帰ってきました。

 皆さんは、節電でクーラーを控えられてますか?
 私は、正直いって無理です。
 一応、28度の設定にはしていますが、強めの送風にしています。
 近所のおばさんが、「今年はまだ一度もクーラーをつけていない」と誇らしげに宣言しているのを聞いて、信じられない思いがしました。


Still Going Strong !
Wayne Foret

1. I'm Sorry I Met You (Huey P.Meaux)
2. That Is Why I Love You So
3. I Pray Every Night (Wayne Foret)
4. Drip Drop  (Jerry Leiber, Mike Stoller)
5. Treasure of Love (Shapiro, Stallman)
6. Nobody But You
7. God Gave Me You
8. That's What I'll Do (Leonard Lee)
9. Don't Leave Me Now (Schroeder, Weisman)
10. Lonely Blue Boy (Conway Twitty)
11. Lavender Blue
12. Don't You Know That I Love You
13. Just My Baby and Me  (Robert Guidry)
14. Doin' the Swamp Pop (Wayne Foret)
15. All I Want for Christmas Is You

 暑いときには、カレーですね。
 冷やし中華も冷たいそうめんもいいですが、熱くて辛いカレーも良いです。

 そういうわけで(?)、今回は、初物Swamp Pop Singerです。
 
 ジャケに写っている、非常にガタイのいい老人(?)の名は、Wayne Foretさん。
 少し前に取り上げた、Rayan Foretという、やはりSwamp Pop Singerがいましたが、縁者かどうかは不明です。
 キャリアは長そうです。

 このForetという姓は、フランス系なのでしょうか?
 ルイジアナで、Swamp Popというと、そんなことを考えてしまいます。
 英語圏では、良く似たForestという姓なら、比較的ありそうですね。
 「森」という意味の姓です。

 英国の作家に、ケン・フォレットという人がいました。
 スパイ冒険小説の書き手で、主人公がしばしば女性であるという点に特徴がある人でした。
 初期の作品「針の眼」は、なかなか面白く読んだ記憶があります。
 この人の名前の綴りは、Ken Forettで、語尾に「t」が重なります。

 試しに英辞書で「Foret」を調べてみましたが、該当はないようです。
 ついで、仏辞書で調べたところ、意味が載っていました。
 「ドリル」という意味でした。
 この場合、意味の内容がどうとかは関係ありません。
 意味のある単語が、姓になっているということに意味があります。

 Foretは、何と発音するのでしょう? 
 フランス系であっても、普通に米国人ですから、やはり英語読みで「フォレット」なのでしょうか。
 そういう気はします。
 でも、フランス風に、「フォレー」とか「フォーレ」であってほしい、と極東の人間としては無責任に思うのでした。


 さて、中身を聴いてみましょう。
 内容は、看板に偽りなしのSwamp Popですので、ご安心ください。
 今回も、数曲をピックアップしたいと思います。
 注目曲は、次のとおりです。

1. I'm Sorry I Met You
4. Drip Drop  
5. Treasure of Love
8. That's What I'll Do 
9. Don't Leave Me Now 
10. Lonely Blue Boy
13. Just My Baby and Me
15. All I Want for Christmas Is You

 冒頭の"I'm Sorry I Met You"は、ほとんど無名の曲だと思いますが、初期のBarbara Lynnがやっている曲です。
 オリジナルが誰かは、私は知りません。

 ゆるーく迫ってくる三連バラードで、本盤のスタイルのパイロット・ナンバーといったところです。
 とりあえず、名刺がわりの一発という感じでしょうか。

 続いて、調子のよい能天気ソング風の曲へとバトンタッチします。
 能天気ものは、ニューオリンズR&Bの特徴のひとつですね。
 
 4曲目の"Drip Drop"は、R&Bファンには忘れられない曲です。
 Clyde Mcphatterが兵役のため脱退した後の、Original Driftersの貴重な名演のひとつです。

 原曲は、Bobby Hendricksという人が、Clyde Mcphatterそっくりのハイテナーで歌っていました。
 この曲は、古いR&Bファンなら、「よくぞカバーしてくれました!」と、その選曲に拍手したい人も多いはず。
 Wayneのボーカルはアベレージですが、とにかくやってくれただけでプラス100点です。

 続く"Treasure of Love"が、これまた泣かせてくれます。
 原曲はもちろん、ソロ時代のClyde Mcphatterです。
 この続けての選曲は、Wayne ForetのClyde Macphatter好きを表わしているのでしょうか。

 "Drip Drop"は、厳密にはClydeではありませんが、Clydeスタイルの名作です。
 2曲とも、ほぼ原曲そのままにやっています。
 Wayneが、嬉々としてカバーしている気がしてなりません。

 "That's What I'll Do"は、これまたレアな選曲で、Shirly & Leeの曲のカバーです。
 Shirley & Leeは、もちろん、「かもーん べいび れっざ ぐったーい ろーる ♪」のデュオです。
 当然、ご存じですよね。
 ただ、この曲は、見逃すところでした。
 この曲には特段の思い入れはないですが、やはり渋すぎる選曲に1票入れたいところです。

 "Don't Leave Me Now"は、言うまでもなく、Elvisです。
 この曲と、次の"Lonely Blue Boy"こそ、驚いたことに、本作で最もWayne Foretにあった曲だと感じました。
 いわゆるロッカ・バラードの2連発です。

 "Don't Leave Me Now"は、私の大好きなElvisのアルバム"Loving You"、邦題「さまよう青春」の収録曲です。
 それでも思い出せない方には、この情報はどうでしょう。
 "Teddy Bear"が入っているアルバムです。
 そうです、もう思い出しましたね。
 名作"Got A Lot O' Livin' To Do!"も入っていました。

 ちなみに、私が一番好きなElvisのアルバムは、RCAの2ndの"Elvis"ですが、「闇に響く声」、「さまよう青春」、「GIブルース」といった、初期のサントラも大好きなのでした。

 "Lonely Blue Boy"は、Conway Twittyの初期の代表曲です。
 ロッカ・バラードと言えば、Elvisよりも、むしろこの曲と、同じConwayの、"It's Only Make Believe"でしょう。

 ここでのWayneのサウンドづくりは、ロカビリーそのもので、まるでShakin Stevensのように聴こえます。
 リヴァーブのかかったギターの三連バッキングが雰囲気満点で、Wayneのもったいぶった歌い方もそれ風で見事にはまっています。
 
 "Just My Baby and Me"は、またまた地味な曲で、Clarence 蛙男 Henrryのレパートリーです。
 作者のBobby Charlesは吹き込んでいましたっけ?
 私は、こういったニューオリンズR&Bのテイストがたまらなく好きです。

 オーラスの"All I Want for Christmas Is You"は、しみじみと胸に迫るいい曲です。
 マライア・キャリーに有名な同名曲がありますが、もちろん別の曲です。
 「クリスマスには 君さえいれば何もいらない」
 オリジネイターは誰でしょう。

 今作は、主としてピアノの左手の様々な連打のバリエーションが聴けた楽しい1枚でした。
 私好みの曲が多数入った嬉しいアルバムです。


Just to Hold My Hand by Wayne Foret


なんとこの曲もClydeです。




彼らに会ったらよろしく

 皆さんは、新生NRBQの新作、"Keep This Love Goin'は、お聴きになられたでしょうか?
 私は、最初の1音が出た瞬間、思わず「あー、NRBQだ」と感じました。
 The Terry Adams Rock & Roll Quartetが、正式に(?)名前を襲名したわけですが、素直には納得しがたい方も多いかと思います。

 私もそんな一人でしたが、アタマの数曲を聴いて、「NRBQとは、Terry Adamsのことである。」という言葉が浮かんできました。
 あのキーボードの響き、Terryの声こそ、NRBQだったのだと…。

 どちらかと言えば、Joey派の私としては、複雑な気持ちですが、一聴後の率直な感想です。
 私が、かねがねNRBQの大きな特質と感じていた「混沌と狂気」は、そのまま新生NRBQに引き継がれていると感じました。

 でも、仮にNRBQに、混沌に対する秩序があったとすれば、それはBig Alであり、Joey Spampinatoであったに違いありません。


Pie In The Sky
The Spampinato Brothers

1. Let Him Think on That
2. You Wanna Be Free
3. Baby oh Baby
4. Refined Man
5. My Mother's Mother's Day Card
6. Girl in My Dream
7. I Say Good Day Goodnight
8. Boo-Da-Ba
9. A Bear Is a Bear Is a Bear
10. Come On, Come On
11. Let's Run Away

 昨年ひっそりとプレスされ、ライヴ会場のみで販売されていた(らしい)、Spampinato Brothersのアルバムが、ついに正式リリースされるようです。

 ディスクユニオンで予約受付が開始されました。
 また、日本盤には、"Japan"と"Don't Loose It"いうボートラが2曲追加されるようです。

 さらに、日本公演が行われるとのことで、併せてインフォされています。
 
9月17日(土) 渋谷 Cliub Crawl
9月18日(日) 吉祥寺 Rock Joint GB (ゲスト有り)

 関東圏の方は行くほかないですね。
 私は、関西圏で、しかも出不精のおじさんなので辛いです。
 呼び屋さんにがんばれと言いたいです。

 なお、現時点で、ディスクユニオンの発表には含まれていませんが、横浜公演も計画されています。
 
9月19日(月) 横浜 黄金町 試聴室

 YouTubeの動画で、Spampinato Brosを聴いた限りでは、NRBQの中で、日本人の心の琴線に触れる要素は、Joey Spampinatoが担っていたのだと、強く感じるところがありました。

 ベタなポップス好きとアバンギャルドな音楽性が同居していたのが、Terry Adamsだったのではないでしょうか。
 彼の場合、音楽そのものだけでなく、行動にも奇行が表れていた気がします。

 その点、JoeyやBig Alには、素直にルーツ・ミュージック好きの顔が見えていた気がします。
 異論は当然あるでしようが、Terry → Joey → Alの順に、分かりやさが増すような気がします。
 その個性が交わった化学反応が、NRBQだったわけです。

 New Rhythm and Blues Quartetと名乗りながら、ときにR&Bの匂いが散漫な場合があるなあ、と思っていたのは私だけでしょうか。
 Terry抜きのの編成なら、もっと分かりやすく、古いR&Bのカバーを交えたバンドをやっていたのかも知れません。
 古いジャズ小唄のレパートリーが、主として誰の趣味なのか知りたいです。

 ちなみに、私は、近年のTerryの仕事では、Steve Fergusonとやった、06年の"Louisville Sluggers"が気に入っています。

 私は、NRBQのファンではありますが、実は、彼らが解散していたことに長く気付かなかった人です。
 こうして、派生バンドのアルバムが揃うことによって、そもそもNRBQとは何だったのか、ということが、改めて明らかになるかも知れないな、と私は考えています。

 リリースを楽しみに待ちたいです。


Be Here Now by The Spampinato Brothers



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テネシーにノッアウト!
やっかいごとはごめんだよ


カリブのソンブレラ

 これは珍品というべきでしょうか。
 Starflite Recordsという会社から出ていますが、リリース年は不明です。
 そのイナたいジャケ・デザインから、かなり古い時期のものかと思いましたが、ある理由から、70年代後半以降であろうと考えます。


Fuera de Alcance
Out Of Reach
Freddy Fender

Side One
1. Fuera De Alcance (Just Out Of Reach) (P. Stewart)
2. Wasted Days & Wasted Nights (Freddy Fender, Wayne Duncan)
3. Tuyas (Yours) (Trad.)
4. Crazy Crazy Baby (Buck Rogers)
5. Just Bidin' My Time (Gene MacLellan)
6. Junko Partner (Bob Shad)
Side Two
1. Alguna Vez (Sometimes) (Gene Thomas)
2. A Man Can Cry (Freddy Fender)
3. Oh Holy One (Freddy Fender)
4. Jamaica Farewell (Freddy Fender)
5. Cold, Cold Heart (Hank Williams)
6. Waiting For Your Love (Freddy Fender)

 Freddy Fenderには、いろいろと怪しいアルバムがあり、しかも出されては消えているので、しばしば困惑させられます。
 しかも、その多くは、同じ録音の使い回しだったりする場合がほとんどで、苦労して入手しても、大した価値がないことに気付かされ、がっかりすることも多いです。

 ただ、このアルバムは、そういったものとは違います。
 これは、言葉本来の意味で怪しいアイテムだと言えるでしょう。

 本作は、お馴染みのHuey Meauxが制作しており、録音もシュガーヒル・スタジオです。
 つまり、70年代半ば以降に出された、ABC-Dotからの一連のベストセラーと同じ体制で作られています。
 (ただし、ミュージシャンが同じかどうかは不明です。)

 それらのメジャーの成功作と、おそらくは同じころに出されたのだと推測しますが、このアングラな1枚の仕掛け人が、同一人物であるということが、何とも怪しすぎます。

 ジャケットを再度ご覧ください。 
 ポスターカラーでの手書きか、と突っ込みたくなるタイトル文字など、手作り感一杯のつくりに見えます。
 繰り返しますが、ジャケだけを見ていると、50年代のものかと思います。
 しかし、音を聴くと、そうではないことは明らかです。

 冒頭の1曲目、"Fuera De Alcance (Just Out Of Reach)"で、軽い衝撃を受けます。
 カッコ書きで、英語題名が補足されていますが、Solomon Burkeもやっている、あの曲と同じものなのでしょうか。
 補足がなければ、考えることもしなかったでしょう。

 これは、スペイン語で歌われています。
 しかし、重要なのは、そんなことではありません。

 これは、「ンチャッ、ンチャッ」のリズムにのせ、チープ感満点の伴奏で進行する、のどかなレゲエ・バージョンになっているのでした。
 リズム・ギターに寄りそう、もう1本のギターのオブリが可愛いです。
 そして、メキシカン風味たっぷりのブラス陣が元気です。

 レゲエがカリブを飛び出して、広く録音されるようになったのは、いつごろからでしょう。
 私にはよく分かりません。

 ボブ・マーリーのアイランドの1作目が72年です。
 でも、より大きなきかっけは、クラプトンの"I Shot The Sheliff"がNo.1ヒットになったことでしょう。
 74年のことです。

 Freddy FenderのNo.1カントリー・アルバム、"Before The Next Teardrop Falls"のリリースは、同じ74年のことでした。

 本作には、Freddyの代表作、"Wasted Days & Wasted Nights"が収録されています。
 また、初期の名作、"A Man Can Cry"、そして"Oh Holy One"の表記で、"Holy One"("Only One"の表記もあり)が収録されています。

 名作カバー、"Crazy Crazy Baby"もあります。
 これらは、すべてABC-Dot盤でのバージョンとは、明らかに別のものです。
 そのイナたく、温かみのある演奏は、ヒット・バージョンとは違う魅力が溢れています。
 ファンにとって、何と嬉しい贈り物でしょう。

 カラフルでおしゃれな雰囲気もあるABC-Dot盤とは違い、ここでの演奏は、チープな空気感が漂う、一種独特なものです。
 しかし、何とも言えない奇妙な魅力を醸し出しているのでした。

 ポップでキャッチーなフックを持つABC盤を、華やかな高級クラブに例えてみましょう。
 さほど変わらない時期に、同じプロデューサーの手で、路地裏のスナックのような、もうひとつの顔を持つアルバムが創られていたのでした。
 何とも興味深いです。
 

 B面の1曲目が、またまた嬉しくなる曲です。
 スペイン語で歌われますが、カッコ書きにあるように、Gene Thomasの"Sometimes"です。
 ここでは、"Just Out Of Reach"同様、レゲエ・バージョンに仕上げています。
 ただ、メロディの名残りが明瞭で、比較的わかりやすいです。
 これぞ珍品でしょう。

 収録曲に、興味深い選曲が多いだけでなく、噛めば噛むほど味が出る、長く楽しめる1枚だと思います。
 私は、一度通して聴いたあと、再度聴き返したとき、さらにその面白みに気が付きました。 

 今回は、突っ込みどころ満載のアイテムでした。



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ヴァンとグレース再び

 先だって、私は、Van Broussardの初期音源集、"The Early Years"を取り上げたとき、次のような趣旨のことを書きました。
 Van and GraceのGrace Broussardは、その後Dale HoustonとDale and Graceを組んで、"I'm Leavin' It All Up To You"をヒットさせた。

 ……。
 前言を訂正します。
 どうやら、時系列が逆のようです。
 Dale and Graceの活動が先だったようです。
 ただ、活動時期には重複があるようにも思います。

 
Louisiana Music Legends
The Original 1960's Recordings
Van and Grace

1. I Can't Complain : Van Broussard (61')
2. Winter Wind : Van Broussard (61')
3. Mojo : Van Broussard (63')
4. Crazy Baby : Van Broussard (63')
5. Feel So Good : Van and Grace (63') *
6. Young Girls : Grace Broussard (63') *
7. In Real Life : Van Broussard (63')
8. When It Rains It Pours : Van Broussard (63') *
9. Kidnapper : Van Broussard (64')
10. Winter Winds : Van Broussard (64')
11. I Miss You So : Grace Broussard (64')
12. By The Light Of The Silvery Moon : Grace Broussard (64') *
13. Gee Whiz : Van and Grace (65')
14. Yea Yea : Van and Grace (65')
15. Tell Me The Truth : Van Broussard (65')
16. She's Just Teasing You : Van Broussard (65')
17. Cold Shoulder : Van Broussard (65')
18. Someday : Van Broussard (65')
19. Go On And Yak Yak : Van Broussard (65')
20. Blues Stay Away From Me : Van and Grace (65')
21. Feed The Flame : Van Broussard (68')
22. Nothing Sweet As You : Van Broussard (68')
23. Crossroads Of Love : Van and Grace (69')
24. Set Me Free : Van and Grace (69')

 聴く前には、かなり"The Early Years"とダブリがあるのではないかと思っていましたが、なんとトラック5、6、8、12の4曲(*)以外は、全て本CDのみの収録曲でした。
 素直に嬉しいです。

 前回、"The Early Years"で、その作風を気に入っていましたので、とても安心して聴くことが出来ました。
 本盤でも、ポップでありながら、R&Bテイストがさく裂していて楽しいです。
 今回は、次の曲に注目してみたいと思います。

2. Winter Wind 
3. Mojo  
4. Crazy Baby 
10. Winter Winds 
13. Gee Whiz 
20. Blues Stay Away From Me

 まず、2曲目の"Winter Wind"と、10曲目の"Winter Winds"に注目です。
 これは、"Wind"と"Winds"という微妙な表記の違いこそありますが、同じ曲です。
 アーリー・ソウル風の三連バラードで、61年盤のほうが、シンプルな楽器編成で、R&Bテイストが勝っているように感じます。

 対して、64年盤では、メロウなサックス・ソロのイントロで始まり、61年盤と比較してソフィスティケイトされた印象を受けます。
 また、ボーカルが、61年盤のほうが老成して聴こえるのが不思議でしした。

 "Mojo"は、ドラムのジャングル・ビートでスタートする、ワイルドなロックンロールですが、聴けばすぐわかるように、これは、Muddy Watersの"Got My Mojo Walkin"です。
 バンド全体が、「せーのっ」で突っ走る感じが、アットホームで良いです。

 "Crazy Baby"は、もちろんBuck Rogersの名曲のカバーです。
 これは、やはりテキサス、ルイジアナでは鉄板の1曲ですね。
 Freddy Fenderも、Doug Sahmも大好きな名作です。

 ここでは、原曲どおりのアレンジで、丁寧に歌っています。
 出だしのところ、2回目の"Crazy Crazy Crazy Baby"のリフレインを、"Baby Baby Baby Baby"と歌っています。

 "Gee Whiz"は、男女デュオで歌うティーン・ポップ・バラードです。
 三連のアクースティック・リズム・ギターのストロークにのせて、センチメントに歌われるスイートな曲です。
 Carla Thomasの同名曲のカバーかと思いましたが、別の曲のようです。

 "Blues Stay Away From Me"は、Delmore Brothersの代表曲ですね。
 Doug Sahmも名盤、"Doug Sahm and band"でやっていました。

 デルモア・ブラザーズは、ヒルビリー・デュオを代表する存在で、カントリー・ブギの名作をたくさん吹き込んでいる人たちです。
 ギターのZeke Turnerや、ハーモニカのWayne Raneyなど、バックに名手を配した録音が多数あり、ロカビリーのルーツの話では、しばしば登場する人たちでもあります。


 今回も、期待を裏切らない素晴らしい楽曲たちでした。
 明らかに、いなたいR&Bテイストが魅力の人で、本人も自身の音楽的嗜好を隠していませんが、ポップなアイドル路線もいけたに違いない、不思議な立ち位置の人だと思います。

 本人さえその気なら、"You're Sixteen"のJohnny Burnetteのように、路線変更でポップ・スターになれた人かも知れません。



Crossroads Of Love by Van and Grace




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こだまでしょうか、いいえだれでも

 先だって、私はSunny Ozunaの"Cry"というアルバムを取り上げたとき、こんな風に書きました。
 これは、おそらく"Sunny"名義でリリースされた唯一のアルバムでしょう。
 ……。
 前言を撤回します。
 ここにも1枚、ファースト・ネームのみの名義で出されたアルバムありました。


Country Echoes
Sunny
  
1. Five Years Old Again (Sunny Ozuna)
2. Gift of Music (Freddie Martinez, Sunny Ozuna, Joe Revelez)
3. Back in Love Again (Sunny Ozuna)
4. In This Little Town (Freddie Martinez)
5. Thank You for Love (Sunny Ozuna)
6. When You Were Mine (Luis Silva)
7. Like a Good Ole Friend of Mine (Sunny Ozuna)
8. Ole Memory (Sunny Ozuna)
9. White Picket Fences (Freddie Martinez)
10. Thru the Eyes of Jesus (Sunny Ozuna)
11. Who Was That? (Sunny Ozuna)
12. You Give Cheating a Bad Name (Sunny Ozuna)

 結論から言います。
 これは良いです。

 これは、Freddie Recordsという、テキサスの会社から出されたものですが、同じテキサスでも、"Cry"を出したGolden Eagle Recordsのものとは、明らかにつくりが違います。

 プロデュースにためらいがなく、しっかりしたバンマスのもと、練りこまれたスコアで演奏されているという印象を受けます。

 そして、素晴らしい伴奏に気をよくしたのか、Sunnyのボーカルが生き生きとしています。
 いかにも楽しそうに歌うSunnyに、聴いているこちらまで嬉しくなってしまうのでした。

 本作には、おそらくこのアルバム用に、Sunnyが新たに書いたと思われる新曲が多数入っています。

 しばしば過去作のリメイクを織り交ぜるのがSunnyの常道ですが、今作では頑張って良い曲をたくさん書き、その他の曲も伴奏のメンバーが書いた曲を中心にした構成になっています。
 純粋なオリジナル・アルバムと言えるでしょう。

 ちなみに、数曲を書いているFreddie Martinezは、本作のプロデューサーで、トランペットとボーカルで演奏にも参加しています。
 あるいは、Freddie Recordsのオーナーかも知れません。

 収録曲は、全編英語曲で、タイトルどおりカントリーをやっています。
 既存の有名曲に頼らずやっているにもかかわらず、何とも自信に満ちた演奏とボーカルです。
 とにかく、曲が良いです。

 冒頭のSunnyの作品"Five Years Old Again"から、最高の歌声を聴かせています。
 幸福感一杯の弾むようなリズムにのせて、Sunnyのボーカルが、草原をスキップするように、楽しげにメロディを紡いでいきます。

 こういった雰囲気は、アルバム全体を通して、少なからず感じられ、しばしばSunnyのボーカルからは、おどけたような、ウキウキ感がこぼれてくるようです。
 ユーモラスな歌いくちから、ハッピーな気分が伝染してくるようで、楽しい気分になります。

 一方で、しっとりと歌うバラードでは、お得意のドリーミーでマーベラスなSunnyワールド全開という感じになります。

 バラード曲、"In This Little Town"では、バック・コーラスが最高のハーモニーを付けていて、素晴らしいです。
 コーラスの一人が、Sunnyの耳元でささやく「アイ・ラヴ・ユー、サニー」の演出も、短い口笛のソロも見事にはまっていて、夢の中を浮遊するような、優しいバラードの完成度を更に高めています。 
 
 美しいワルツ曲、"When You Were Mine"は、ドリーミーなドゥワップの要素と、どこかクリストファースンの"For The Good Time"を連想させるメロを併せ持つ、落ち着いたカントリー・バラードで、思わず聴きほれてしまいます。

 収録曲の中に、1曲のみ教会風の曲が入っています。
 "Thru the Eyes of Jesus"がそれで、Sunnyの自作です。
 ここでは、Sunnyによるカントリー・ゴスペルを厳かに聴きましょう。

 ところで、楽器のクレジットに、Bajoという記載があり、ラテンでは、通常はBajo Sextoを指すのでしょうが、数曲のバックで、明らかにペケペケと可愛いリズムを刻んでいるバンジョーのような音が聴こえます。
 むしろ、バホ・セスト風のストロークは聴こえないので、あるいはBanjoの誤記かも知れません。
 (そもそもメキシコ風の曲をやっていません。)
 
 クオリティが高い曲に、素晴らしい演奏と歌声が重なる瞬間を捕えた、最高のアルバムだと感じました。



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15年目の再会

 このアルバムを入手したのは、それほど前のことではありません。
 75年リリースということで、私はてっきり、同年にABC-Dotから出されたオリジナル・アルバム、"Are You Ready For Freddy ?"の次作に当たるものだと思っていました。

 ところが、現物を手にしてみますと、これは、60年代初期にWayne Duncanによって吹き込まれた音源だということが分かりました。
 明らかに、Huey P. Meaux制作の74年のNo.1アルバム、"Before The Next Teardrop Fall"の成功にあやかろうと、過去の作品をアルバム化したものなのでした。


Since I Met You Baby
Freddy Fender

Side One
1. Since I Met You Baby (Hunter)
2. A Man Can Cry (Duncan, Fender)
3. Louisuana Blues (Duncan, Fender)
4. Crazy Baby (G.Maltais)
5. I'm Gonna Leave (Duncan, Fender)
6. Little Mama (Duncan, Fender)
Side Two
1. You're Something Else For Me (Duncan, Fender)
2. Too Late To Ramedy (Duncan, Fender)
3. Find Someday New (Duncan, Fender)
4. Go On Baby (I Can Do Without You) (Duncan, Fender)
5. Wild Side Of Life (Warren, Carter) 

 本盤収録曲のいくつかは、Ray Topping編纂の英Krazy Kat盤(86年)、"The Eary Years 1959-1963"と重複しています。
 もちろん、こちらが先であるのは言うまでもありません。
 86年のKrazy Kat盤は、おそらく当時入手困難であったろう、本盤に替わるものかつ、補完するものとして出されたのでしょう。

 制作者のWayne Duncanによれば、Freddy Fenderとは58年に初めて出会ったそうです。
 南テキサスのナイトクラブで歌っているところをスカウトし、当時、本名のBaldemar Huerta、又はEl Bebop Kidと名乗っていたチカーノ青年に、Freddy Fenderという名前を与えたのだと言っています。

 このあたりは、Freddyが成功した後のことですので、話が膨らんでいる可能性は十分にあります。
 Duncanは、Freddyと自分が成功するのに、15年もかかったと、しみじみ語っています。

 Freddyの70年代の成功と、Wayne Duncanに何の関わりがあるのか、と言いたいところですが、Freddyのヒット曲は、この時代の作品を新たに録音したものがいくつかあり、その作者には、Wayne Duncanのクレジットが輝いているのでした。

 Duncan Labelでの最初のレコードは、"Holy One"で、これはバトン・ルージュ周辺でローカル・ヒットしたとのことです。
 まずは、ルイジアナから始まったわけです。

 Duncanは、これをナショナル・ヒットにするため、Imperial Recordsにリースしますが、期待ほどの成績は収められませんでした。
 中程度の成功を得たのは、次の"Wasted Days and Wasted Nights"で、この曲こそ、彼が言う15年後(75年No.1カントリー・ヒット、ポップ8位)の成功作のオリジナル録音なのでした。
 
 成功への光が見えてきた矢先、事件が起こります。
 Freddyとバンドが、麻薬不法所持で収監されたのです。
 Wayne Duncanによれば、本盤には、アンゴラ監獄への収監前、2万ドルの保釈金を払い、保釈中に録音した音源が含まれているとのことです。
 (これらの音源は、ImperialやChess、Talent Scoutなどからリリースされたようです。)

 3年間服役したとのことですから、Freddyにとって、60年代前半は暗い時代だったのだと思います。
 英Krazy Kat盤のタイトルは、"The Eary Years 1959-1963"でしたが、大半を塀の中にいたことになります。
 あるいは、本盤収録曲は、保釈中の録音が多くを占めているのかも知れません。

 さて、本盤を改めてじっくり聴いてみましょう。
 素晴らしいです。
 70年代に、Huey Meauxによって、テキサスで制作されたサウンドは素晴らしいですが、この時代も負けていません。
 70年代の音は、ポップでキャッチーでありながらも、甘くなりすぎず、爽やかなキレのあるサウンドでした。
 (私は、75〜77年ころまでが頂点だと思います。)

 一方、こちらの50年代終わりから60年代初期の音は、ナッシュビルのエースたちによって録音された可能性が高いです。
 コマーシャル・カントリーを多数吹き込んだメンツがやった仕事でしょうが、ここでの音は、コンパクトなポップさがありながらも、Freddyの持ついなたさを打ち消すことなく表現しています。

 おそらく、チャーリー・マッコイだと思われる哀愁のハーモニカ、フロイド・クレイマーだと思われる、よく弾むピアノが、とりわけ印象に残ります。
 数曲で聴ける、スチール・ギターのソロも素晴らしいです。

 唯一、惜しいのは、"Since I Met You Baby"での、Freddyのボーカルに硬さが感じられることです。
 丁寧に歌おうとするあまり、ガチガチになっているように感じます。
 他の曲ではほとんど感じませんが、あえて言えば、スローの曲に若干その傾向があるように思います。
 その点、ミディアム〜アップの曲では、伸びやかにやっているので、70年代の録音と比べても遜色ありません。


 さて、本盤のクレジットを見て気付いたことがあります。
 Buck Rogersの名作、"Crazy Baby"の作者クレジットが誤って記載されていることです。
 ここには、G.Maltaisとありますが、作者はBuck Rogers本人で、通常のクレジットでは、Buck Rogersないしは、L.M.Rodriguez(これが正解)と表記されています。
 実は、Maltaisには同名のロカビリー曲があり、そこからの誤記だと思います。

 私は思いました。
 その後、"Crazy Baby"の作者クレジットが、ときたま誤記される原因を作ったのは、実はこのアルバム発だったのではないか、ということです。

 何しろ、Buck Rogersの原曲より、Freddy盤の方が有名になりました。
 Freddyのアルバムのクレジットが、伝聞により独り歩きした可能性が高いのではないでしょうか。
 (G.Maitaisの誤記の件については、「メヒコ・アメリカーナ」の記事をご覧ください。)


 などと、想像の翼を広げてしまいますが、改めて本盤は、珠玉の作品集だと感じました。
 ヴィンテージ期の希少性だけでなく、楽曲、演奏としての完成度が高く素晴らしいです。
 この時代は、リード・ギターを自身で弾いた可能性も高く、興味は尽きません。


Crazy Baby by Freddy Fender




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