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手風琴の壁

 今回は、こちらのバンドを聴きました。
 デビュー当時、Tex-Mex Beatlesと評された、The Krayolasのアルバムです。
 Krayolasは、サンアントニオを拠点とするChicano R&Rバンドで、Augie Meyers、Doug Sahm、そして彼らの周辺アーティストらと古くから交流があるようです。

 本作は、最初は新作かと思ったのですが、実は過去作からのセレクションに、新曲4曲を加えた編集盤でした。
 また、比較してはいないのですが、もしかすると一部(あるいは全曲?)ミックス違いが含まれているかも知れません。
 しかし、ほとんど初めて聴いたような感覚で聴けました。
 これを喜ぶべきかどうか、心中は複雑です。

krayolas3.jpg

Tormenta
The Krayolas

1. Americano (Hector Saldana)
2. Fruteria (The Fruit Cup Song)(Hector Saldana)
3. Quiero Ser Tu Novio (Spanish)
4. La Inundacion De Piedras Negras (Hector Saldana)
5. Wall of Accordion (Hector Saldana)
6. Under One Roof (Hector Saldana)
7. Little Fox (Augie Meyers)
8. Corrido - Twelve Heads in a Bag (Hector Saldana)
9. Exit / Salida (Hector Saldana)
10. La Conquistadora (Hector Saldana)
11. Tony Tormenta (Hector Saldana)
12. Bird Don't Fly Away (Hector Saldana)
13. Piso Diez (Hector Saldana)
14. I'm Your Dirty Mexican (Hector Saldana)
15. Lala La Lala (Hector Saldana)
16. Lazy Afternoon (Hector Saldana)
17. Epitaph Street (Hector Saldana)
18. Canicas (Hector Saldana)
19. I Wanna Be Your Boyfriend (Bilingual) (Joey Ramone)
20. Home (Hector Saldana)
Bonus Track
21. All I Really Want To Do (Bob Dylan)

 本作は、13年にリリースされたもののようですが、私は最近まで知りませんでした。
 Krayolasは、現在までに、(CD時代になってから)私の知る限り6枚のアルバムと2枚のミニ・アルバム(若しくはマキシ・シングル)があります。
 以下のとおりです。

Best Riffs Only (07年) 過去(77〜88年)のシングル等をコンパイルしたアルバム
Little Fox (07年) 4曲入りマキシ・シングル("La Conquistadora"に2曲収録)
La Conquistadora (08年) 初のオリジナル・アルバム(多分)
Long Leaf Pine (No Smack Gum) (09年)
Americano (10年)
Tipsy Topsy Turvy (11年)
Canicas-Marbles (13年) 8曲入りミニ・アルバム、全曲"Tormenta"に収録
Tormenta (13年) 本作、既発からのセレクトに新曲を加えた編集盤

 私は、このうち、"Little Fox"と"Tipsy Topsy Turvy"の2枚が未入手なのですが、特に"Tipsy Topsy Turvy"が気になっています。
 今回の"Tormenta"とは一切ダブっていないからです。
 編集盤に1曲もチョイスされなかった理由が、むしろ気になります。

 おさらいをしておきましょう。
 バンドの編成は以下のとおりです。

Hector Saldna、リズム・ギター、リード・ホーカル
David Saldana、ドラムス、ハーモニー・ボーカル(曲によりリード・ボーカルも)
Van Baines、リード・ギター、ペダル・スチール、ハーモニー・ポーカル
Abraham Humphrey、ペース

 ギター2本からなるギター・バンドです。
 ここに、しばしば、オルガンやサックスなどがゲスト参加します。
 その代表が、Augie Meyers(key)であり、Louie Bustos(sax)とAl Gomez(tp)らのWest Side Horns勢(旧Doug Sahm人脈)です。

krayolas2.jpg


 さて、本作をざっと聴いたところ、可愛いらしい曲が多いという印象を持ちました。
 可愛いらしいというのは、性急感や反抗心といった、ロックの一部のイメージとは合わない、のどかでほんわかした感じを指しています。
 比較的、ミディアム・テンポの曲が多いうえ、アコーディオンのゆったりした響きがからむ曲などの印象が強いからかも知れません。
 
 そんな中、今作の私の注目曲は、以下のとおりです、

3. Quiero Ser Tu Novio (Spanish)
5. Wall of Accordion (Hector Saldana)
6. Under One Roof (Hector Saldana)
14. I'm Your Dirty Mexican (Hector Saldana)
19. I Wanna Be Your Boyfriend (Bilingual) (Joey Ramone)
21. All I Really Want To Do (Bob Dylan)

 3曲目の"Quiero Ser Tu Novio"は、本盤が初出の4曲のうちの1曲です。
 実は、19曲目のラモーンズのカバー、"I Wanna Be Your Boyfriend"(英語、スペイン語のちゃんぽん版)の完全スペイン語バージョンで、おそらくリズム・トラックは同じものだと思います。
 黒い皮ジャンだとか、不良だとか、バイクだとか、全く連想できない、ポップ・ソングに仕上がっています。

 5曲目の"Wall of Accordion"は、出落ち的なネタが(初めて気づいた時には)面白かった曲です。
 フィル・スペクター風のドラム・イントロから始まる曲で、音の壁ならぬ、手風琴の壁ということでしょうか。
 全体的に、アンダー・プロデュース風な曲が多く感じる中、色々と工夫を凝らしたアレンジになっています。
 "Americano"(10年)初出の曲です。

 6曲目の"Under One Roof"は、本盤初出の曲です。
 アコーディオンがアレンジの柱になる曲で、フォーキーな雰囲気で進行する、ゆったりしたアクースティック・ナンバーです。

 14曲目の"I'm Your Dirty Mexican"は、やはり本盤初出の曲です。
 オルガン伴奏がメインの曲で、歌詞はなく、時折り「ラーララ」というコーラスが入る、聴き方によってはアシッド、またはノベルティック(?)な、グルーヴィー・ナンバーです。
 タイトルの意味は、うかがい知れません。

 最後はボートラで、ディランのカバー、"All I Really Want To Do"です。
 本盤が初出の曲です。
 あっという間に終わる短い構成の曲ですが、タイトな伴奏、厚みのあるコーラスなど、初期のコレクション・アルバム、"Best Riffs Only"に入っていても違和感のない、若さを感じさせる、力強いフォーク・ロックに仕上がっています。

 そろそろ、完全新作のリリースを期待します。



La Conquistadora
by The Krayolas




関係記事はこちら

The Krayolas
マージーでフォーキー、そしてテキサス
テックス・メックス・ビートルズ



チカーノ・ソウル・パーティ

 今回は、こちらを聴きました。
 チカーノ・ウエストサイド・ソウルのなかなかの逸品ではないかと思う1枚です。
 Rocky Gil & The Bishops、ほとんど経歴を知らないのですが、ソフトは、テキサスのぽんこつレーベル、Golden Eagle発のCDで、03年リリースとクレジットされています。


Soul Party
Rocky Gil & The Bishops
 
1. Soul Party
2. Goodnight My Love
3. Me & You
4. Oh Dragon
5. Ob-La-Di,Ob-La-Da
6. After Party
7. Oily
8. Looking For A Lover
9. I'm Sorry   
10. Love At A Common Man
11. Love Can Make You Happy
12. It's Not The End

 この会社の通例どおり、全くクレジットのたぐいはありません。
 表ジャケットはペラ1枚で、一応紙質は厚めですが、裏は白紙、カラーコピーもしくは家庭用プリンタからの印刷かも、と思わせるような低レペルのものです。

 このように体裁は最低ですが、内容はかっこいいです。
 この感じ、何と言えばよいのでしょうか?

 いくつかのファンキー・ソウルとスイート・ソウルで構成されたアルバムで、ブレイク・ビーツ・ネタっぽい曲も含まれています。
 音の雰囲気的には70年代ぽく感じられます。

 アルバム・タイトルの"Soul Party"は、ベタに例えるなら、アーチー・ベル&ドレルズの"Tighten Up"みたいな感じでしょうか(そこまでクールではないかな?)。
 ギターのカッティングとファストでファットなベース、ドラムのビートが気持ちいいナンバーです。
 この曲が本盤の代表曲でしょう。
 同じくファンキー・ソウル系では、"Oh Dragon"、"After Party"("Soul Party"のインスト版?)も良いです。

 一方、バラードでは、ジェシー・ベルヴィンの"Goodnight My Love"のカバーのほか、とりわけ"Me & You"が聴きものです。
 "Goodnight My Love"は、曲の良さを再認識させてくれると同時に、Rocky Gilが歌える人だと感じさせてくれます。

 そして、"Me & You"は、フィリー・ソウルのような大甘の側面と、古いDoo Wopを思わせるような、スタイリッシュでダンディな側面を合わせ持った大変魅力的な仕上がりになっていて、ここでもRockyのよく伸びる声に聴きほれます。
 天まで昇るような緊張感の高いハイ・テナーが素晴らしいです。

 また、Rocky Gilのボーカルは、曲によってはスモーキー・ロビンソンを連想させたりもします。
 "Love Can Make You Happy"がそんな雰囲気の仕上がりになっています。
 私は、オリジナルのMercy(白人バンド?、68年のヒット)盤よりも好きです。
 この曲では、バックに寄せては返す波の音、海鳥のさえずり等のSEが配されています。 
 
 "Looking For A Lover"は、ファンキーかつスイートなナンバーで、やはりボーカルの構成力の高さを感じます。

 "I'm Sorry"は、一貫してスイートなバラードで、リードに寄りそう女性コーラスのリフレインが大変効果を発揮していて好きです。

 ラストの"It's Not The End"は、ボーカル、演奏ともにキラキラ弾けるような、溌剌としたノーザン・ダンサーで、60年代のデトロイトっぽい雰囲気の曲です。
 私は、リーヴァイ・スタッブスに似合うかもなんて思いました。

 全体として、アップ、スローともに優れた演奏を併せて収録した好アルバムだと感じました。
 見つけたら、「買い」だと思います。

 追記
 本アーティストは、Huey P Meaux関連の人のようです。
 Crazy Cajunのディスコグラフィーによれば、本盤の元は、78年の同名LP(Crazy Cajun 1018)のようです。
 アルバム・タイトル、収録曲、曲順ともに同じなので間違いないでしょう。
 Crazy Cajunでは、この1枚のみのようです。
 ジャケットは、元のLPからレタリングを少し変えていて、元のほうが良いです。


(Crazy Cajun 1018)
 

 …と終るところでしたが、念のためHuey P Meauxのもうひとつの代表レーベル、Tear Dropを調べたところ、どうやらCrazy Cajun盤は、Tear Drop盤の再発盤のようです。

 Tear Dropのディスコグラフィーによれば、Rocky Gil & The Bishopsは、Tear Dropに3枚のLPがあり、これはSunny & The Sunlinersの6枚、Rudy Gonzales Y Sus Reno Bopsの4枚に次ぐ枚数です。
 以下のとおりです。

The Two Sides Of Rocky Gil & The Bishops (Tear Drop 2012)
El Fantastico (Tear Drop 2016)
Soul Party (Taer Drop 2022) 本盤の元盤だと思われます。

 いずれも、Golden EagleでCD化されてます。
 "Two Sides Of …"は、LPのA面がスペイン語によるラテン曲、B面が英語のソウル・カバー曲になっています。
 "El Fantastico"は、全曲スペイン語のラテン曲で構成したアルバムです。

 問題のTear Drop盤"Soul Party"ですが、オークション・サイト等で調べたところ、ジャケ写は違いますが、アルバム・タイトル、収録曲、曲順ともに同じです。


(Taer Drop 2022)


 当初のリリースは、68年か69年だと思います。
 ちなみに、アーチー・ベル&ドレルズは、テキサス州ヒューストン出身のボーカル・グループで、LP、"Tighten Up"は68年にリリースをされています。


Soul Party
by
Rocky Gil & The Bishops



It's Not The End
by
Rocky Gil & The Bishops





テハーノ・オールディーズ

 今回は、このバンドを聴きました。
 Liberty Bandという名のテハーノ・グループのアルバムで、おそらくはサンアントニオのバンドではないかと思います。
 本盤は、リリース時期があいまいで、裏ジャケには、2000-2003とクレジットされています。
 これが録音年をさしているのか、あるいは、過去作からの編集盤であることを意味しているのかは不明です。

 
Tejano Golden Oldies
Liberty Band

1. Oldies Medley
2. Te Quiero Mujer
3. Sumbale Maria
4. Si Quieres
5. El Hijo Del Gato Negro
6. Polkda Medley
7. El Solteron
8. Que Bueno
9. El Mucura
10. Oldies Medley

 収録曲の大半はスペイン語によるラテン曲で、スパニッシュ・コミュニティに向けたアルバムです。
 ただ、冒頭とラストに英語詞のオールディーズ・メドレーが配置されています。
 まあ、スペイン語曲もいいですが(特にポルカ・メドレーが◎)、やはり英語のオールディーズ・メドレーが私の一番のお目当てです。

 ここで披露されているのは、基本的にドゥワップを中心とした三連バラードたちです。
 少し古い世代のチカーノが昔から好んでいたリズム&ブルースの詰め合わせですね。
 これは、私の大好物でもあります。

 バンドは、メンバーのクレジットがないのですが、02年頃に出されたと思われる同バンドのアルバム、"Tell It Like Is"のクレジットを参考にすると、以下のような編成ではないかと思います。

Willie Martinez : lead vocals
Ernest Martinez : keyboard
Ledro Uriegas : trumpet
Raul Valdez : sax
Manuel Ramos : guitar
Victor Martinez : bass
Oscar Narvaiz : drums


(この写真では人数が合いませんね)


 さて、スペイン語の曲に関してはほとんど語る材料がないので、やはり、お気に入りのオールディーズ・メドレーについてご紹介したいと思います。
 曲目リストの表記のとおり、メドレーとあるだけで、両曲ともに個別のクレジットがありません。
 なので、私が分かった範囲で書きたいと思います。

 1曲目のメドレーは、以下のような流れだと思います。

1. Oldies Medley
Then You Can Tell Me Goodbye (The Casinos)
〜 不明
〜 Sometimes (Gene Thomas)
〜 Donna (Ritchie Valens)
〜 Tears On My Pillow (Little Anthony & the Imperials)
〜 不明 (スペイン語曲)

 冒頭の"Then You Can Tell Me Goodbye"は、カントリーでもサザン・ソウルでもカバーされている曲ですね。
 本バージョンのお手本は不明ですが、Doo WopならThe Casinos盤があるようです。

 2曲目は、You're Mine〜というフレーズから始まる曲で、最初はDoug Sahmもやった、"You're Mine Tonight"かと思いましたが、どうも違うようです。
 
 そして、大好きなジーン・トーマスの"Sometimes"がメドレーにうまく組み込まれているのが嬉しいです。
 (この曲の前に、"Close Your Eyes〜"のフレーズを持つ曲(Five Keysの有名曲ではない)が入っているかも知れません。)

 リッチー・バレンス(バレンズエラ)のバラード曲を経て、リトル・アンソニーへと繋ぎます。
 
 "Tears On My Pillow"は、チカーノの好きな曲ですね。
 Sunny & the Sunlinersが、Imperialsをお手本の一つとしていたことは、わりと知られています。

 メドレーは、スペイン語曲で終了します。
 もしかすると、比較的有名な英語曲のスペイン語バージョンという可能性もあります。

 一方、アルバムのラストのメドレーはこんな感じだと思います。

10. Oldies Medley
Oh, What A Night (The Dells)
〜We Go Together (The Moonglows)
〜Angel Baby (Rosie & the Originals)
〜Since I Fell For You (The Harptones)
〜Hey Paula (Paul and Paula)
〜スペイン語曲

 デルズの「オーワラナイ」でスタートし、ムーングロウズ・ナンバーへと引き継ぎます。
 冒頭のメドレーが、Doo Wopによくある三連バラード曲のメドレーだったのに対して、こちらは同じ三連でも少しメロディックな12ビート風の曲を集めた感じです。

 ムーングロウズの"We Go Together"は、50年代のChess録音で、「レッツゴー ステディ」のフレーズが耳に残る名作です。
 チカーノ・コミュニティでは、60年代に地元グループのRoyal Jestersのカバー・バージョンがローカル・ヒットしています。
 Royal Jestersは、Joe Jama、Dimas Garzaも在籍していたサンアントニオの名門ボーカル・ゴループです。

 そして、ロージーとオリジナルズの"Angel Baby"が続きます。
 "Angel Baby"は、ジョン・レノンも大好きだった曲ですね。
 原曲がリリースされた当時、ロージーは確かローティーンだったのではないかと思います。
 ロージーのフルネームは、Rosalie Hamlinといい、Originalsのメンバーも含めチカーノです。

 "Since I Fell For You"は、元はジャズ・ポピュラーのスタンダードで、Doo Wopではハープトーンズ盤が最初ではないかと思います。
 スカイライナーズ盤もいいです。

 "Hey Paula"は、オールディーズ、アメリカン・ポップスの代表曲のひとつですね。
 原曲を歌っているポールとポーラのPaulaは、フルネームをPaula Estradaといい、やはりチカーノです。

 最後は、スペイン語曲です。
 聴きようによっては、"Since I Fell For You"のメロディのような気もします。
 
 これらのメドレーの選曲は、チカーノ・オーディエンスが好む内容なのだと思います。
 ちなみに、イーストL.A.のチカーノ向けコンピ・シリーズ、"East Side Story"(CD12枚144曲)のラインナップを眺めると、人気アーティストの傾向がぼんやりと浮かんでくる気がします。
 "East Side Story"の収録曲数の上位5組は以下の通りです。

1. Brenton Wood 4曲
1. Brenda & The Tabulations 4曲
1. Billy Stewart 4曲
4. Etta James 3曲
4. Gene Chandler 3曲

 後半の3組はともかく、最初の2組はほとんど日本では話題にならないアーティストだと思います。
 イーストL.A.とサンアントニオを単純に「チカーノ」でひとくくりにするのは乱暴かも知れませんが、これを見る限り、日本との人気の傾向の違いが感じられて、大変興味深いです。

 ドリーミーに始まり、陽気なラテン曲を経て、最後は再びドリーミーかつマーベラスに締めくくる、そんなナイスなアルバムです。


Oldies Medley by Liberty Band


Oldies Medley
Then You Can Tell Me Goodbye
〜 ?
〜 Sometimes
〜 Donna
〜 Tears On My Pillow 
〜?



関連記事はこちら

テハーノ・サウンド・ショーケース

ウエストサイド・ア・ラ・カルト

 今回は、このアーティストを聴きました。
 ドラマーのRocky "Shuffle" Hernandezがバンド・リーダーを務める、Oldies But Goodies Bandの2ndアルバムです。

 このバンドは、以前に1stをとりあげています。
 例によって、テキサス、ルイジアナ近辺のジュークボックス・ヒッツといった趣の作品集となっています。
 本盤は、01年にリリースされました。


Bringing Back The Memories 50's & 60's Vol.2
Rocky "Shuffle" Hernandez and The OBG Band

1. I Don't Want No Woman
2. You Don't Know Me   
3. Since I Don't Have You  
4. Breaking Up Is Hard To Do  
5. Turn Back The Hands Of Time
6. Lover's Prayer
7. Alligator Blues   
8. Rainy Night In Georgia  
9. Running Blues  

 まず最初におことわりしたいことがあります。
 少し前に、彼らの1stを取り上げた際、メンバーがはっきりと分からなかったため、Web情報を元に私の推測を書きました。
 次のようなメンツです。

Danny Esquivel : guitar, lead vocals
Nando Aguilar : bass, vocals
George Gonzalez : guitar
Tommy "El Gato" Luna : sax
Rocky Hernandez : drums

 しかし今回は、クレジットがありました。
 それによれば、本盤でのメンバーは以下の通りです。

George Ovalle : lead vocals
George Gonzales : guitar
Pete "Corce" Garza : bass
Steve Espinoza : keyboards
Louie Bustos : sax
Rocky "Shuffle" Hernandez : drums

 見事に違いますね。
 私が参考にしたWeb記事が最近のもので、そこへ至るまで、いろいろとメンバーの変遷があったようです。
 これにより、本盤の1年前にリリースされた1stのメンバーは、(またも推測ですが)おそらく本盤に近いものだろうと考えます。
 (Doug Sahm人脈のLouie Bustosの名前を見て、一層親しみがわきました。)

 ところで、本盤は前作とは少し違った印象を受けます。
 音の印象からは、私は今作の方がより好きです。
 ざっくり印象を言えば、1stがイナタくもっさりした音なら、この2ndは少しアーバンな雰囲気を感じさせる音になっています。
 特に感じるのがギターで、今作はギターの出番が多く、細かくシャープに歌っています。

 もちろん印象の違いは、選曲からくるものもあるでしよう。
 1stが、全体的にスワンプ・ポップ的傾向が強かったのに対して、今作はソウル、ブルース寄りの選曲に感じます。
 ただ、それらを加味しても、リズム隊、ホーン陣はともかく、ギターはメンツが変わっている気がします。
 これらから、ギターのGeorge Gonzalesの参加は本盤からではないかと推察します。

 他のメンツは、(リード・ボーカルも含め)よくわかりません。
 はっきり分かるのは、ジャケ写で分かるように、本盤は6人編成だということくらいてす。
 (また、ゲストのクレジットがありませんが、曲によってはトランペットが参加している気がします。)



 アルバムは、Bobby Blandの"I Don't Want No Woman"でスタートします。
 まず、出だしのこの曲で、前作との違いをはっきり感じます。
 最初から、ギターが細かくフレーズを入れ続けています。
 キーボードとホーンを柱に、ギターが歌と同じくらいの比重でメロに絡んでいます。
 ブルージーで流麗なギター・ソロがかっこいいです。

 次の"You Don't Know Me"が一転して、ホンキートンク・カントリーの名作のカバーで選曲の落差が激しいです。
 ただ、音の印象はさほどのギャップを感じず、カントリーの風合いが少ないアレンジのため、スムースに聴くことができます。
 曲は、Bob Willsに多くの名作を書いた、Cindy Walkerの作品で、オリジナルはビロード・ヴォイスのスタイリスト、Eddy Arnoldではないかと思います。
 Willie Nelsonが、この曲をアルバム・タイトルにした、Cindy Walker作品集を出しています。
 シンセが入っているように思いますが、ほとんど気になりません。
 ブルージーかつジャジーなナイト・ミュージック風の仕上がりです。

 "Since I Don't Have You"は、ドリーミーなDoo Wopバラードです。
 ここまでの一連の曲の並べ方がいいですね。
 ハード・ブルース、ホンキートンク、ドゥワップというわけです。
 Skylinersの代表作のカバーで、リード・ボーカルのジェイムズ・ボーモン(ト)のファルセットを最大限に生かした必殺のブルー・ラブ・バラードでした。
 ここでは、George Ovalleが頑張って原曲の雰囲気をトレースしています。
 高音パートでの彼の頑張りと、やはり選曲の流れの妙を評価したいです。

 "Breaking Up Is Hard To Do"は、スワンプ・ポップの名作の一つで、オリジナルはJivin' Geneです。
 Cookie & the Cupcakesのカバーもいいです。
 (カーペンターズに同名の名曲がありますが、あちらはニール・セダカ作の別の曲です。)  
 三連のホーン・リフを軸に、ボーカルが太い声でろうろうと歌っています。
 一気にイナタくなった感じがします。
 サックス・ソロからギター・ソロへつなぐ展開が聴きどころの一つでしょう。

 そして、"Turn Back The Hands Of Time"へとつながります。
 有名なタイロン・デイヴィスのシカゴ・ソウルの名作です。
 イントロのベース・ランから雰囲気満点で、期待させてくれます。
 原曲に沿ったアレンジで、軽快かつおしゃれに迫ってきます。
 このあたりも、イナタい曲からアーバンな曲へと考えて並べているのでしょうか。
 小粋なキーボードのオブリから、サックス・ソロまではまっています。

 ソウル・カバーが続きます。
 なんとオーティスの"Lover's Prayer"です。
 難しい曲だと思いますが、ボーカル、伴奏陣ともにサッドな雰囲気をうまく出しています。
 ロンサムなサックス・ソロがぴったりマッチしています。

 "Alligator Blues"は、サックスの前奏から、トランペットへのソロ回しで始まる、ソウル・インスト・ナンバーです。
 シャッフル・ブルース風でもあります。
 ひたすら気持ちのいいグルーヴに身をひたすのみです。
 原曲は分かりません。
 オリジナルなのかも知れません。

 "Rainy Night In Georgia"は、またも選曲の流れのうまさを感じさせる配置だと思いました。
 怠惰な雰囲気のバラードで、ブルック・ベントンで有名なトニー・ジョー・ホワイトの作品です。
 かっこいい系から、脱力系へと転換させた曲の並びです。

 ラストの"Running Blues"も原曲不明です。
 シャッフル・ブルース調の曲で、"Alligator Blues"に似た気持ちいいグルーヴに乗りながら、こちらはスタイリッシュなボーカルが歌い飛ばしていきます。

 かっこいい系の曲で始め、様々なタイプの曲を効果的に並べながら、最後はかっこよく締めた、ごきげんなアルバムだと思います。




I Don't Want No Woman
by
Rocky "Shuffle" Hernandez & OBG Band




関連記事はこちら

想い出のウエストサイド
スワンプ・ポップのふるさと

チカーノ・ブルースマン

 追記あり : 斜体赤字

 今回は、この人を聴きました。
 Randy Garibayというシンガーの97年のアルバム、"Barbacoa Blues"です。
 この人は、以前に取り上げた、Sonny Aceのアルバムに、バックコーラスで参加していた人です。

 ランディ・ガーリベイは、Doug Sahmのファン向けに紹介するなら、Dougの88年の名盤"Juke Box Music"で、名曲"What's Your Name"をDougとデュエットしていた人です。
 長めのソロ・パートを交互に歌いあった、二人の名唱は素晴らしかったですね。

 

 
Barbacoa Blues
Randy Garibay
 

1. Chicano Blues Man (Randy Garibay)
2. Barbacoa Blues (Randy Garibay)
3. Too Close to the Border (Randy Garibay)
4. What Did You Think (Randy Garibay)
5. I Can't Stop Loving You Baby (James E. Lewis)
6. Viuda Negra (Black Widow Woman) (Randy Garibay)
7. Two Steps from the Blues (John Brown, Don Robey)
8. El Chupacabra (Randy Garibay)
9. Tell Me Why (Randy Garibay)
10. Curandera (Randy Garibay)

 本盤の裏ジャケには、5人の人物によるRandy Garibayの紹介、推薦文が寄せられています。
 その中から、3人の言葉の大意をご紹介します。

 「ランディは、チカーノのジャッキー・ウイルソンだ。」
 Clifford Antone (アントンズ・オーナー)

 「ランディは、私の師匠(my mentor)です。私にとって、彼のステージ上でのとても自然なパフォーマンスを見ることは大きな楽しみです。」
 Sunny Ozuna

 「私は、まるで50年代から時を超えてきたような、ランディの素晴らしい声に魅了されています。
 彼は、至高のチカーノ・ブルースマンです。
 ランディは、Little Willie John、Joe Hinton、Junior Parker、Bobby Blue Blandらの伝統を汲んでブルースを歌い続ける稀有な存在です。」
 Doug Sahm

 うーむ、色々とつっこみどころがあると思いませんか。
 本題に入る前に横道に逸れそうですが、私が気になったのは2点です。

 サニー・オズナの「私の師匠」発言。
 そして、ダグ・サームが、ジュニア・パーカーやボビー・ブランドと同じ並びで、ジョー・ヒントンの名前をあげていることです。

 まず、Sunnyの発言ですが、Sunny Ozunaは世に知られた時期が早く、一つ前の世代のスターのようにも思えます。
 しかし、SunnyとRandy、そしてDougの生年を比べると、思いのほか年齢が近いのでした。
 同世代といってもいいでしょう。 

 Randy Garibay : 39年生れ02年没 享年63歳
 Doug Sahm : 41年生れ99年没 享年58歳
 Sunny Ozuna : 43年生れ 今年69歳

 3人の中では、Randyが年長で、Sunnyが末っ子だったのでした。

 次にDougの発言です。
 Doug Sahmが、Junior ParkerやBobby Blandをアイドルとしていた事は、ファンの間では周知のことです。
 その他、ブルース系では、Guitar Slim、T-Bone Walkerなどが思いつきます。

 しかし、Joe Hintonをリスベクトしていたとは初めて知りました。
 ウイリー・ネルソンの"Funny How Time Slips Away"(時の流れは早いもの)のカバーで有名な人で、ディープな面もありますが、どちらかと言えばバラーディアー・タイプのシンガーだという認識でした。
 サザン・ソウル好きが多い日本のソウル・ファンの間では、あまり人気のない人ではないでしょうか。
 まあ、Duke(Backbeat)時代はバックが素晴らしく、滑らかな歌い方は、Junior Parkerのテイストに通じるところがあるかも知れません。
 などとタイプしているうちに、急にじっくり聴き返したくなってきました。
 (簡単に影響を受けてしまうのでした。)

 さて、本盤の参加メンバーは以下の通りです。

Randy Garibay : guitar、vocals
Jim Waller : keyboad、saxophone
Jack Barber : bass
Al Gomez : trumpet
Bobby Flores : steel guitar

 録音は、サン・アントニオのスタジオで行われたようです。
 ドラムスがノー・クレジットですが、Duke Anthonyという人ではないかと思います。
 Doug Sahm人脈のJack barber、Al Gomezの参加が気になります。

 Doug Sahmとの関係は、かなり古くまで遡るようです。
 Dougがパーソナルなバンドを持つ前、Harlem Records時代の頃が出会いのようです。

 Harlem時代の頃のDougは、色々と違う名義でレコードを出していました。
 その中の一つに、Doug Sahm & the Pharaohsがありました。
 私は、こういったものは、そのレコーディングの為だけに集められ、即席で名付けられたバンドかと思っていました。
 しかし、Pharaohsは実在していて、正確にはバンドではなく、5人組のボーカル・グループだったようで、そのリード・シンガーがRandy Garibayだったのでした。


Randy Garibay & the Pharaohs


 具体的には、Doug Sahm & Phraohs名義でリリースされた、"Crazy Daisy"/"If You Ever Need Me"(Warrior507)が、DougとRandyの最初の共演盤らしいです。

 18歳の時、ギターを手に入れたRandyは、Sonny Ace & TwistersやCharlie and the Jives(どちらも地元のローカル・バンド)と演奏するため、純粋なDoo Wopグループだったファラオスを脱退します。
 こうして、彼のチカーノ・ブルースマンとしてのキャリアが始まったのでした。 

 Randy Garibayは、これまで私が聴いてきた、Tejano Music系のチカーノ・シンガーとは一味違います。
 何しろ、一流の聴き手から、チカーノ・ブルースマンと呼ばれている人なのです。
 ルーツに根差したラテン系をやることもあるようですが、比較的控えめのようです。

 Doug Sahmとのデュエット曲では気付かなかったことですが、本盤を聴いて、あるシンガーを連想しました。
 それは、ニューオリンズのサザン・ソウル・シンガー、Johnny Adamsです。
 Randy Garibayは、伸びと艶のある声が大変魅力的なシンガーです。

 Johnny Adamsを連想したのは、声質が似ていることが第一ですが、優れた技巧を持つボーカリストだと感じたからでした。

 アルバムは、アップテンポのファンキー・ブルース、"Chicano Blues Man"でスタートします。
 思わず"Chicago Blues Man"と読みそうです。
 ホーン陣のせわしないリフをバックに、渋い美声で「アイム・ア・ブルースマン、チカーノ・ブルースマン」と歌っています。
 間奏では、ストラトでの素早いギター・ソロを聴くことが出来ます。
 アタマから「ガツン」とアイデンティティを披瀝した、Randyからの名刺がわりの一発という感じです。

 続く"Barbacoa Blues"は、マイナー調のウォーキン・ブルースで、ブランドに通じるようなブルージーR&B風のボーカルが聴けます。
 ホーン・パートをハープに変えれば、シカゴ・ブルース調にも聴こえそうですが、ギターがやはりテキサスっぽいです。
 ずっと英語詞なのですが、最後の最後になってスペイン語で振り絞るように歌う箇所が印象的です。

 "Too Close to the Border"は、よりストレートにテキサスを感じさせるリズム&ブルースです。
 ある意味、Fabulous Thunderbirdsがやっていてもおかしくないような感じの曲で、ブルース・ロック調と言えるかも知れません。
 そんな連想をしていると、Randyの声がKim Wilsonみたいに聴こえてきました。 
 (追記)
 この曲は、Joe Jamaが04年(Randyの没後)にリリースしたアルバム、"Leigh Street Blues"でやっていました。
 私は、当ブログで当該のJamaのアルバムをとりあげ、感想を書いていますが、そこでは「Bobby Blandに似合いそうな曲」と書いています。 (下段にリンク追加しました)


  "What Did You Think"は、スチール・ギターがフューチャーされる静かなバラードです。
 出だしのメロディ、アレンジが、Ray Charles版の"Ellie My Love"(愛しのエリー)を連想させます。
 ここでのRandyは、Johnny Adamsを彷彿とさせます。
 多分、スチールの参加はこの曲だけだと思います。

 "I Can't Stop Loving You Baby"は、アップテンポのごきげんなナンバーです。
 ころころと転がるピアノの前奏から、おしゃれなでジャジーなギター・ソロ、メイン・テーマのホーン・リフと徐々に分厚くなっていき、ボーカルが満を持して入ってきます。
 古いビッグ・バンドがやりそうな楽しさ満点のブギウギ曲で、間奏では小粋なミュート・ペットをバックに、RandyがT-Boneの手癖のようなソロを繰り返し弾いています。 
 私は、本盤では特に好きな曲のひとつです。
 ぜひ、オリジナルが知りたいです。

 "Viuda Negra (Black Widow Woman)"は、スペイン語で歌い始めるストレート・ブルースです。
 途中から英語詞になり、「私は囚人、喪服の未亡人」と歌っています。
 ギターのオブリ、ソロともにたっぷり聴けます。

 "Two Steps from the Blues"は、もちろんボビー・ブランドのDuke時代の代表曲のひとつです。
 これを聴くと、改めてブランドが後進に与えた影響力の大きさを感じます。
 Randyが、滑らかな歌いくちで、ブランド流ブルース・バラードを歌います。 
 サビ近くでの高音部のうがい唱法はなく、Johnny Adamsばりに伸びのある声を張り上げています。

 "El Chupacabra"は、ブルースではなく、はっきりとラテン・ルーツに根差した曲です。
 コンガやボンゴ風のリズムを、おそらくはシンセが出しています。
 楽しいメキシカン・ペットのリフにのせて、チュパカブラのことが歌われているようです。
 チュパカブラは、TVのSFドラマ「Xファイル」でも1話が作られた南米の未確認生物(UMA)です。
 歌詞の内容が不明なので、陽気な曲調とチュパカブラがどう結び付くのか謎です。

 "Tell Me Why"は、最高の曲、最高のパフォーマンスだと思います。
 完全に50年代のDoo Wopスタイルの曲で、思わずドリーミーとかマーベラスとか言いたくなりました。
 三連の鍵盤をバックに歌う、スタイリッシュかつジェントルなボーカルがたまりません。
 ノー・クレジットですが、素晴らしい男声コーラスが入っています。
 間奏でのリバーブの効いたギター・ソロが曲の雰囲気にぴったりです。
 "I Can't Stop Loving You Baby"とともに、本盤の双璧だと思います。

 ラストの"Curandera"は、バイリンガルで歌うブルースです。
 アフロ・アメリカンなホーン・リフが盛り上げるなか、ラテン調のリズムを隠し味に、ブルージーなギター・ソロが立ち上がってくる間奏は、ラテン・ロックみたいにも聴こえます。

 本盤は、要所にラテン風味を加味してはいますが、あくまでブルースを主体としたアルバムだと思います。
 そして、Pharaohs時代はこんな風だったのかと思わせてくれる、レトロな三連Doo Wopバラードが入ったことで、とても彩り豊かになったと感じました。

 本盤は、97年にAngelita Miaからリリースされました。
 このアルバム以前の活動は、あまり明らかになっていません。
 LP時代にアルバムを作った人なのか知りたいです。

 

 

ブエナのころ

 いつものように、obinさんのブログを訪問したところ、Johnny Perezが亡くなったとのことで、追悼の文を書かれていました。
 Johnny Perezは、Sir Douglas Quintetの初代ドラマーで、Doug Sahmとは60〜80年代あたりまで、Dougの様々なキャリアに密接に関わった人でした。

 今回は、Johnny Perezゆかりのアーティストである、この人のアルバムをチョイスすることにしました。 


Danceteria Deluxe
Joe King Carrasco & the Crowns

1. Buena (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
2. Let's Get Pretty (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
3. Betty's World (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
4. Party Doll (Buddy Knox, Brown)
5. Tuff Enuff (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
6. Wild 14 (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
7. Kicks On You (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
8. Nervoused Out (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
9. Susan Friendly (Joe King Carrasco, Johnny Perez)

 Joe King Carrascoは、78年にTornado Recordsから"Rock-Roll Tex-Mex"でデビューしました。
 この時はDoug Sahm人脈のEl Morino Band(Speedy Sparks, Ernie Durawa, Augie Meyers, Louie Bustos, Charlie McBurney)という豪華なメンツをバックに、ゴージャスなオルケスタ・サウンドを披露してくれました。

 Joe King Carrasco & the Crownsとなったのは、翌79年にRoir Recordsからリリースした、"Tales From The Crypt"からです。
 Crownsでは、El Morino Bandとは一転して、コンパクトなロック・コンボ・スタイルをとり、当時の最先端、ニューウェイヴ風に調理した、Tex-Mex Rock'n' Rollをかっこよく決めてくれました。
 そして、ミニ・アルバム1枚を経て、欧州ではStiffから、米国ではHannibalから、バンド名をタイトルとしたアルバムがリリース(80年〜81年)され、広く(?)知られるようになります。

 Johnny Perezが、どうしてCarrascoの売出しに関わりを持つようになったのか、私は知りませんが、初期のCarrascoのアルバムには、Perezの名前がしばしばクレジットされています。
 精査したわけではありませんが、80年代半ば頃までは密接な関係にあったのではないかと思います。

 ドラムでの参加こそないようですが、しばしば一緒に曲づくりを行い、一部プロデュースもやっています。
 本盤収録曲では、バディ・ノックスのカバー、"Party Doll"1曲を除く全ての曲が、Joe King CarrascoとJohnny Perezの共作となっています。
 (本盤の表記に従いましたが、他の盤では別のクレジットになっている曲が含まれています。)

 さて、本盤は、曲目を見ると、Carrascoの初期の代表曲を集めた、ありきたりの編集盤のように思えます。
 しかし、Carrascoのオフィシャル・サイトの記述によれば、本盤収録曲は、80年3月にニューヨーク州ブロンクスで録音されたデモ録音で、11年のCrownsの再結成をきっかけに世に出ることになった、これまで一度もソフト化されていない音源だそうです。
 本盤は、11年6月にAnaconda Recordsからリリースされました。

 デモ録音とのことですが、通して聴いた感想は、普通に聴ける完成された音源だと思いました。
 というか、この頃は名曲ぞろいで、ぐいぐい引き込まれます。
 むしろ、曲によっては、普及版よりも荒々しさが感じられて好きかも知れません。
 エコー深めで、かつ録音レベルも高めです。

 などと書きましたが、実はそれほど真剣に二つのバージョンを聴き比べたわけではありません。
 そもそも、Carascoの音源については、混乱するようなクレジットが多いのです。

 Stiffでの出世作となったシングル、"Buena"は、同曲を最初に収録したアルバム、"Tales From The Crypt"のCDのライナーによれば、79年にオースチンで録音されたということになっています。
 しかも、この時のセッションでは、ベースはSpeedy Sparksと記載されています。
 (Crownsのベーシストは、Brad Kizerという人で、CDライナーによれば、収録曲の約半分がSparksのプレイで、残りがKizerとなっています。)

 しかし、オフィシャル・サイトでは、同アルバムはニューヨーク州ニューヨーク録音と記載されています。
 私は、オフィシャル・サイトの記述にいくつかの誤り(矛盾?)を見つけましたので、根拠は薄いですが、具体的な記述をしているCDライナーの方が、より信憑性があるのではと思っています。
 (しかし、確証はありません。) 

 そこで考えたのが、次のような推測です。

 Stiff盤のLP、"Joe King Carrasco & the Crowns"は、80年ニューヨーク録音となっています。
 このアルバムには、"Buena"を含む、"Tales From The Crypt"とかぶる曲が7曲も収録されています。
 これら7曲は、普通なら、前年に録音したものをそのまま再録するのでしょうが、あるいは、ベーシストを全面的にBrad Kizerとしたうえで、新たにニューヨークで録音し直したのかも知れません。

 ここで忘れてならないのは、本盤は同じ州でも、わざわざブロンクス録音だとしていることです。
 何か色々と面倒ですねえ。  
 そして、これら一連のことが、混乱に拍車をかける元ととなった、というのはいかがでしようか。 

 まあ、相手はテキサスですので、細かいことは言ってもしようがない気はします。
 聴き手側も、とことんは追及せず(疲れるので)、大らかな気持ちで、とにかく楽しみましょう。

 Johnny Perezは、私の手元にあるLPでは、85年の"Bordertown"までは名前を見つけることが出来ます。
 "Bordertown"のLPでは、一部の曲のプロデューサー、コンポーザーとしてクレジットされています。


Joe King Carrasco & the Crowns (80年 Stiff盤)


Party Weekend (83年 MCA盤)


Bordertown (84年 Big Beat盤)


 一方、Doug Sahmとの関わりでは、アルバムで言いますと、82年の"Quintessence"、83年の"Live Texas Tornado"(録音年不明、81〜83年?)あたりが最後ではないかと思います。
 Joe King Carrasco、Doug Sahmともに80年代ですね。

 さて、私がCarrasco好きということが大きいですが、本盤は「スカッ」と聴きとおせるパンチの効いたアルバムです。
 とりわけ、冒頭の"Buena"から、"Let's Get Pretty"、"Betty's World"と続く流れが最高にごきげんです。

 "Buena"の、アコギから始まってメロディックなベース、グルーヴィーなオルガンが入ってくる前奏の雰囲気は、Sir Douglas Quintetのサウンドそのものです。
 本バージョンでのベースは、ざっくりとクリーデンスの「雨を見たかい」を連想しました。

 "Let's Get Pretty"は、Joe King Carrasco版の"96 Tears"じゃないでしょうか。
 脳内に留まって暴れ回る無限軌道リズムは、分かっていてもはまってしまう高い習慣性があります。

 ちなみに、トラック7の"Kicks On You"は、Stiff盤では"I Get My Kicks On You"と表記されている曲です。

 Johnny Perezが曲づくりにどんな役割を担ったのか不明ですが、本盤の収録曲はみんな好きです。
 "Bordertown"収録曲で、Johnny PerezがJ.J.Light(クインテットの70年代初期のベーシスト)と共作した、"Baby Let's Go Mexico"もポップな良い曲でした。


Buena by Joe King Carrasco & the Crowns (81)




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想い出のウエストサイド

 以前、Sonny Aceというアーティストのアルバムを取り上げました。
 60年代にシングルを出していたサンアントニオのシンガーの近作(?)でした。

 そのセッションに参加したメンバーの顔触れが興味深くて、いろいろと勝手な推測を書きました。
 その際、メンツの中にあいまいだった人物がいたのですが、今回の主人公こそ、その当人ではないかと私は考えています。


Bringing Back The Memories 50's & 60's Vol.1
Rocky "Shuffle" Hernandez and The OBG Band

1. Linda Lu
2. I'm A Fool To Care
3. Corina
4. Guess Who?
5. Hurt
6. Will You Still Love Me Tomorrow
7. For Your Love
8. I'd Rather Go Blind
9. C. C. Rider
10. DWI Blues

 おさらいです。
 Sonny Aceのアルバム、"There's Good Rockin' Tonight"での伴奏メンバーてず。

Sonny Ace : vocals 
Rocky Morales : sax
Arturo Gonzales : keyboad
Mike Seal : bass
Felix Villarreal : guitar
Randy Garibay : background vocal
Rocky Hernandez : drums

 私は、このうち、ドラムスのRocky Hernandezが、Little Joeの弟と同姓同名であることから、同一人物かな、どうなんだろうなどと、ごにょごにょ口を濁していました。

 そんな中、本盤を見つけました。
 状況証拠ではありますが、言い切りたいと思います。

 Sonny Aceのアルバムでドラムを叩いていたのは、Little Joeの弟ではありません。
 同姓同名ですが別人です。
 今回ご紹介するアルバムの主人公こそ、その人だと思います。

 本盤のRocky Hernandezさんは

 状況証拠1 : ドラマーである。(これは間違いない。)
 状況証拠2 : 過去にSonny Aceと共演経験がある。(Web情報) 

 本盤は、Rocky "Shuffle" Hernandezさんがバンド・リーダーを務める、OBG Bandの1st(00年作)です。
 OBGとは、Oldies But Goodiesの略です。

 この人には、オフィシャル・サイトやファン・サイトがなく(多分)、Web情報もわずかです。
 そんな中から、断片的な情報を紡いでみました。
 (これから先は、またまた新たな推測を含みます。)

 Rocky Hernandezは、現在60代半ばくらいの年齢(多分)で、おそらくはサンアントニオ近辺の生まれ。
 同地で好まれていた50s60sの音楽(ウエストサイド・サウンド)を愛し続けている人だと思います。

 最初に参加したバンドは、Jesse & the Rocking Dukesで、15才の頃でした。
 65年に学校を卒業した彼は、Blue Notesというバンドに参加したらしいです。
 その後、Sonny Ace & the Twisters、Augie Meyersらと共演しています。

 彼のニックネーム、"Shuffle"は、Augie Meyersが名付けたそうです。
 当然、そのドラムの演奏スタイルから付けられたのでしょう。

 アルバム・デビュー(ソロ名義)は、90年代ではないかと推測しますが、定かではありません。
 (Web上では、OBG Band以前の痕跡が見つけられません。)
 ミレニアムを迎え、バンド名義でリリースした第一作が本盤になります。

 本盤の参加メンバーは以下のとおり(だと思います。)

Danny Esquivel : guitar, lead vocals
Nando Aguilar : bass, vocals
George Gonzalez : guitar
Tommy "El Gato" Luna : sax
Rocky Hernandez : drums

 実は、Tommy "El Gato" Lunaの担当楽器が(Webでも)不明なのですが、ジャケの5人の写真から、消去法で仮にSaxとさせていただきました。

 私の推測では、表ジャケ写の左から、George Gonzalez(g)、Danny Esquivel(l.vo)、Rocky Hernandez(dr)、Tommy "El Gato" Luna(sax)、Nando Aguilar(b)ではないかと思います。

 裏ジャケもご紹介します。



 左上がRocky、真ん中はリード・ボーカルのDannyではないかと思います。

 さて、バンドのサウンドは、曲によって適不適がある気もしますが、ミディアム・アップのリズム曲が合っている気がします。
 そして、Tommyのサックスが、時にロッキー・モラレスを連想させる素晴らしさで、ズバリ決まった曲では、Doug Sahmの名盤、"Juke Box Music"のサウンドを思い出します。

 私は、意外さでハードルが下がっているのか、"Will You Still Love Me Tomorrow"、"I'd Rather Go Blind"が気に入りました。
 両曲は、対極のイメージがある曲ですが、本盤では、どちらもコンパクトな演奏が効果を発揮していて、これらの曲のカバーでは、しばしば間延びしたバラードになりがちなのをしっかり締めています。

 ルイ・オルテガみたいな、シンプルなリズム・ギターで始まる、"Will You Still Love Me Tomorrow"は、80年代のSir Douglas Quintet風の軽快なサウンドを聴かせてくれます。

 そして、サックスのコーラス、ソロが映えている、"I'd Rather Go Blind"が印象に残ります。
 重厚なサザン・ソウル・バラードというイメージがある曲ですが、味のあるウエストサイド・サウンドの佳曲に仕上がっています。
 メロをリードするベースが見事に雰囲気をつくって曲を支配しています。

 スローでは、"Guess Who"、"For Your Love"での優しいサックスがやはり良いです。
 ろうろうと歌うボーカルに寄りそうメロウ・サキソフォンが堪りません。

 ラストの"DWI Blues"だけがオリジナルではないかと思われ、ブルージーに締めてくれます。

 OBG Bandは、このあと同じコンセプトで続編を作っていて、最近作はシリーズ4作目になります。



C.C.Rider by Rocky "Shuffle" Hernandez & The OBG Band




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サンアントニオ・コネクション

 今回は、サンアントニオ・ソウル・レジェンドの一人、Rudy Tee Gonzalesが、99年にリリースした、"The Rudy Tee Show"名義のアルバムを聴きました。

 Rudy Teeについては、当初、彼の音楽よりも先に、ファミリー・ネーム(ゴンサレス)の語尾が"s"である点が気になりました。
 リトル・ジョー・エルナンデス(Hernandez)、フラコ・ヒメネス(Jimenez)のように、語尾の表記が"z"で、読み方がサ行のスに近い発音であるのが、よく目にするケースです。


 
Reflections
The Rudy Tee Show

1. Matilda (G.Khoury, H.Thierry)
2. Just Because (L.Price)
3. Knock On Wood (Cropper, Stephen Lee, Eddie Floyd)
4. Walk Through This World (Seamons Savage)
5. Shake, Rattle & Roll (Charles Calhorn)
6. On Bended Knee (R.Guidry)
7. Gratefully
8. Never Let Me Go (Hold Me, Thrill Me) (H.Noble)
9. I'm Your Puppet (Oldham, Penn)
10. Pledging My Love (Washington, Rovy)
11. Just A Dream (J.Clanton, C.Matassa)
12. Alfie's Theme (Sonny Rollins) [inst]
13. When A Man Loves A Woman (Calvin Houston Lewis, Andrew James Wright)
14. Old Time Rock & Roll (George Jackson, Tom Jones V)
15. Together Again (Buck Owems)
16. All I Could Do Was Cry (B.Davis)

 Rudy Tee Gonzalesは、60年代に、Heuy P.MeauxのTear Drop Recordsから、"Rudy Tee Y Sus Reno Bops"名義で4枚のアルバムを出していた人で、これは当時、同レーベルでは、Sunny & The Sunlinersの6枚に次ぐリリース数でした。

 素直に考えれば、需要があったということでしょう。
 Sunny & The Sunliners同様、チカーノR&Bから出発して、次第にスパニッシュ・コミュニティ向けのレパートリーへとシフトしていった人でしたが、英語曲の代表曲は、本盤でも再演している、"All I Could Do Was Cry"です。

 本盤は、全編英語曲、それも古いリズム&ブルース、ロックンロール、メンフィス・ソウルなど、一定の世代のチカーノに、Oldies(Chicano Oldies、Lawrider Oldies)などと呼ばれ、愛され続けている音楽のカバー集になっています。
 (若干スワンプ・ポップ寄りに感じます。)

 本盤でのプロジェクト、"The Rudy Tee Show"の主なメンバーは、以下のとおりです。

Rudy Tee Gonzales : vocal
Rudy Palacios : guitar, vocal
Fernando Aguilar : bass, vocal
Tony Pena : bass
Manuel T. Gonzales : drums
Mike Baez : keyboads, vocal
Joe Posada : sax
Joey Perez : sax
Sandy Sanchez : accordion

 このうち、Rudy Palaciosは、Sunny & The Sunlinersのギターリストだった人です。

 Sunliners(Sunglowsではありません)の設立時のギターは、Oscar Villanuevaという人でしたが、録音時期不明のアルバム、"Live In Hollywoodの頃には、Rudy Palaciosに交代していたようです。
 このライヴでは、その他のメンツも含め、それまでのスタジオ盤とは大幅に違うため、ツアーだけのメンバーだった可能性もなくはないです。
 しかし、その後のSunliners(〜Sunliner Band)の活動は、この時のメンバーがベースになったようです。

 本盤のジャケ写で、中央のRudy Teeの左斜め上に配置されている、額が広く髪が後退気味の人物がRudy Palaciosです。
 この人は、近年ソロ・アルバムを出しているため、顔が分かるのでした。
 (ソロ作は、スペイン語曲中心ですが、英語曲では、"What's Your Name"、"You Send Me"などをやっています。)

 そして、写真の特定ができませんが、ベースのFelnando Aguilarは、Rudy Tee & Reno Bops時代からの古参メンバーです。

 本盤のリード・ボーカルは、もちろんRudy Teeですが、他にも3名がリードをとっています。
 以下のとおりです。 

Rudy Palacios (g) 3曲
8. Never Let Me Go (Hold Me, Thrill Me)
9. I'm Your Puppet 
11. Just A Dream

Fernado Aguilar (b) 1曲 
10. Pledging My Love

Mike Baez (key) 2曲
13. When A Man Loves A Woman
14. Old Time Rock & Roll

 Rudy Tee Gonzalesは、残りの9曲でリード・ボーカルをとっています。(トラック12のみインスト)



 さて、本盤のサウンドは、99年としては、かなり古い音のような印象を受けます。
 20年くらい前の音といわれても納得したでしよう。
 私は、シンセ・ブラスは好きではなく、本盤の編成は結構なことですが、では生音のホーン陣が効果的かというと、さほどでもない、と言わざるを得ません。
 そもそも、ホーン陣というほど分厚くない。

 名曲ぞろいですが、現在の技術でかっこよく録音したといった感じが希薄で、なおかつ、当然ながら、古いR&Bが漂わせていた時代の熱気、独特の空気感は望むべくもありません。
 少し残念なミックスのような気がします。
 いっそのこと、華やかで能天気なラテン曲があれば、少しは受ける印象も変わったかも知れません。

 ここで大胆に言ってしまいましょう。
 Rudy Teeは、決してへたなシンガーではありませんが、本盤から受ける印象は、あまりソウルフルとはいいがたいです。
 むしろ、最初からうまさで勝負していない他の3人のボーカリストの方が、素朴な味わいがあってよく感じました。
 これは、選曲にも関わりがあると思います。

 Rudy Teeは、Doo Wopが似合うと思うので、コーラス入りで50年代のDoo Wopをやってほしかったです。
 Doo Wop以外では、他のアルバムでやった、スペイン語版"Sometimes"(もちろん、Gene Thomas作の名作にして、Doug Sahmの愛唱歌)は良かったです。

 先に触れましたが、今回の盤の選曲は、テハーノというよりも、スワンプ・ポップ寄りのそれです。
 まあ、"Just Because"、"Pledging My Love"、"Just A Dream"なんかは、ガルフコースト共通の人気曲ですね。

 本盤だけを聴いていると、Rudy Teeは、スペイン語曲がベストと思ってしまいそうです。
 でも、ヴィンテージ期ののどの艶を再現できる、彼の個性を引きす選曲とプロデューサーに出会えれば、まだまだ、良いサンアントニオ・ソウルのアルバムが作れるシンガーだろうと私は思います。



All I Could Do Was Cry by Rudy Tee & The Reno Bops




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国境の南、月の西

 Los Texmaniacsの新作がリリースされました。
 今作は、09年にSmithonian / Folkwaysに移籍してリリースした"Border Y Bailes"の路線を継承したスタイルのアルバムになっています。 
 "Border Y Bailes"は、全編スペイン語の曲で構成したメキシカン・ルーツを探求したアルバムで、グラミーを獲得しました。

 Los Texmaniacsは、デビューから2作目までは、リズム&ブルース、カントリー、テックスメックスなど、ロック・サイドでいうルーツ・ミュージックのミクスチャー・バンドでした。
 
 ただ、当初から、バホ・セストとアコーディオンを核とする、コンフント・スタイルを頑固に貫いていたため、メキシコ伝統音楽の探求へとベクトルを絞ったのは、さほどサプライズではありませんでした。


Texas Towns & Tex-Mex Sounds
Los Texmaniacs

1. Ay te dejo en San Antonio (I Leave You in San Antonio)[cancion-polca] (Santiago Jimenez Sr.)
2. Amor bonito (Pretty Love) [cancion-polca](Lydia Mendoza)
3. El Paso / San Antonio Rose [western ballad] (Marty Robbins / Bob Wills)
4. Viva Seguin (Long Live Seguin)[polca] (Santiago Jimenez Sr.)
5. Si quieres verme llorar (If You Want to See Me Cry)[bolero] (Johnny Herrera)
6. Ana mia (My Ana) [cancion-polca] (Max Baca)
7. Los barandales del puente (The Railings of the Bridge) [cancion mexicana]
8. Atotonilco [Cancion-Polca] (inst.)
9. Waltz Across Texas [waltz-song] (Talmadge Tubb)
10. El buque de mas potencia (The Most Powerful Ship)
11. El aeroplanito (The Little Airplane) [redova] (Pedro Ayala)
12. Mojado sin licencia (Wetback without a License) [cancion-polca] (Santiago Jimenez Sr.)
13. Mil Besos (A Thousand Kisses) [bolero] (Emma E. Valdelamar)
14. La Lamparita (The Little Lamp) (Freddie Martinez)
15. The Eyes of Texas / Deep in the Heart of Texas (John Sinclair, June Hershey / Don Swander)
16. El Contrabando del Paso (El Paso Contraband) [corrido] (Gabriel Jara Franco)
17. Por una mujer casada (Because of a Married Woman) [cancion ranchera] (Felipe Valdes Leal)
18. Salvador [waltz]

 Los Texmaniacsのこれまでの歩みは、以下のとおりです。

04年 A Tex-Mex Groove (Maniax Records)
XX年 A Blue Cat Christmas (会社名の記載なし)
07年 About Time (Maniax Records)
09年 Border Y Bailes (Smithonian / Folkways)
12年 Live In Texas (Maniax Records)
12年 Texas Towns & Tex-Mex Sounds (Smithonian / Folkways)

 このうち、"A Blue Cat Christmas"は発売年の記載がなく、参加メンバーの顔触れから、とりあえず04年作と07年作の間に入れてみました。

 メンバーの変遷も記します。

第一期(04年 "A Tex-Mex Groove"の頃)
Max Baca : bajo sexto
Micheal Guerra : accordion
Speedy Vee : bass
…当初はトリオ編成でした。1stには、Flaco Jimenez(acc)、Augie Meyers(org)、Los Lobos(g)、Shown Sahm(g)、Ruben Ramos(vo)ら豪華なゲストが参加。(Micheal Guerraは、イーストLAのバンドへのゲスト参加が多い、アコのスタジオ・エース的な人)

(A Blue Cat Christmasのセッション)
第一期のメンツに加え、Danny Martinezという人がドラムスを叩いています。
Augie Meyers(Key)が参加。

第二期(07年 "About Time"の頃)
Max Baca : bajo sexto
David Farias : accordion
Speedy Vee : bass
Lorenzo Martinez : drums
…現在の中心メンバーである、MaxとDavidのコンピが揃いました。また、ドラムスが正式メンバーになりました。(ただし、間に合わなかったのか、ジャケ写はトリオのままです。)
David Hidalgo(g)、Bobby Flores(st.g)、Augie Meyers(org)他がゲスト参加。

第三期(09年 "Border Y Bailes"〜現在)
Max Baca : bajo sexto
David Farias :accordion
Oscar Garcia : bass
Lorenzo Martinez :drums
…ベースが交代して、現在のメンツになりました。
09年作には、Flaco Jimenez(acc)がゲスト参加。

 このあと、今年リリースしたライヴ盤、"Live In Texas"は、久々に1st、2ndと同じManiax Recordsから出されました。
 ただ、広く流通していないようで、本邦アマゾンはもちろん、アマゾンUSでもラインナップにさえ上がっていません。 

 そして、再びスミソニアン/フォークウェイズから、今回の最新作です。



 今作には、Ray Benson(vo)、Jason Roberts(fid. 共にAsleep At The Wheel)、Bobby Flores(fid)がゲスト参加しています。

 "Border Y Bailes"の音楽は、テハーノ、ラティーノの間ではどのように受け止められたのでしょうか。
 私は、メキシカン・ルーツを探求したアカデミックなアルバムだと思いましたが、スパニュッシュ・コミュニティでは、単純に懐かしの流行歌集、あるいは踊れる懐メロ集として聴いた人もいたと思います。

 古い良い曲を蒐集して、いい音で再現記録した資料的価値の側面、そして古びない踊れるパーティ・ソングの楽しさを若い世代に伝えた側面、両方正解だと思います。

 今回の新作は、その路線を継承したアルバムです。
 なおかつ、一部英語曲(カントリー、トラッド)を含んでいて、その意味では少しとっつきやすくなっています。
 サウンドとしては、Max Bacaのバホ・セストのリズム、ベース・ランでのメロディ弾きが特に耳に残ります。

 スペイン語曲では、フラコのお父さん、サンチャゴ・シニアの曲が複数入っていて、親しみがわきます。
 フラコは、親父さんの曲をいくつもカバーしているので、すぐに特定できなくとも、どこかで聴いたメロディがあるかも知れません。

 アルバム1曲目の"Ay te dejo en San Antonio"は、フラコがソロ・アルバムのタイトル曲にしている曲で、本盤のテーマともいうべき曲だと思います。
 邦題「サンアントニオをあとにして」です。
 Los Lobosも、あの「オオカミのアルバム」の前に、最初のミニ・アルバムのラストでやっていました。

 このあたりの曲が、本盤では、Cancion-Polcaと注記されているんですが、私の認識ではランチェラでした。
 Cancion Polca(Polka)は、歌ものポルカくらいの意味でしょう。
 全く無知なんですが、ポルカって、基本はインストなんですかね。

 "Viva Seguin"も、フラコを聴いていればお馴染みの曲ですね。
 この曲は、単にPolcaと注記されています。

 他にも、ボレロ、コリードなんて注記が出てきます。
 以前、ボレロがバラードのスペイン表記だと思っていたと書きましたが、どうやらコリードがそれに当たるらしいです。



 私は、今作もアカデミックなアルバムだと思っていますが、シンプルに楽しい流行歌集であることも確かです。
 どうしても英語曲に触れてしまいますが、Ray Benson、Bobby Floresが参加した"El Paso / San Antonio Rose"は、なかなかの聴きものです。

 Marty Robbins得意のカウボーイ・ソング、"El Paso"は、美しいメキシコ娘に恋をした若者が、恋敵を手にかけてしまい、町を去ろうとしながらも、恋する娘への想いが断ち切れず、追手の集結する町へときびすを返そうとする物語曲(サーガ)です。
 この異国情緒漂う名曲に続き、これまた名曲中の名曲、Bob Willsの"San Antonio Rose"が歌われます。
 こちらも、アラモとサンアントニオの美しい少女の想い出を懐かしむ歌です。
 このメドレーはいいです。

 Jason Robertsがフィドルを弾く、アーネスト・タブの"Waltz Across Texas"もまた、隠れた(?)名曲でしょう。
 タブは、もちろん"Walking Floor Over You"だけじゃないんです。

 そして、最後まで英語曲で申し訳ないですが、"The Eyes of Texas / Deep in the Heart of Texas"は、問答無用で郷愁を誘う曲です。
 "The Eyes of Texas"は、日本ではなぜか「線路は続くよどこまでも」の歌詞で知られている曲です。
 これは、鼻歌がでてきちゃいます。
 「テキサスの心に深く」とのメドレーでフィドルを弾くのは、Bobby Floresです。

 正直いって、私は1stや2ndのようなカオスなアルバムが好きです。

 グラミー・アワード・ウイナーになっても、この路線ばかりというのはどうでしょう。
 初心に戻って、思い切ってはっちゃけてくれたら嬉しいのですが…。




Si quieres verme llorar by Los Texmaniacs


これは、ボレロだそうです。



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Los Texmaniacs
ごきげんメックス・テックス
テキサス熱中時代
テックス・マニアのうたげ
フェリース・ナビダ
オーガストとマクシミリアン

Plus One
テキサンの心に深く



テハーノ・サウンド・ショーケース

 今回は、テハーノ・ミュージックの大物、Ruben Ramosが兄貴のAlfonso Ramosと組んで作ったアルバムの内の1枚を聴きました。

 彼ら二人の共同名義のアルバムは、両名の名前のあとに"The Texas Revolution"(オルケスタの名前)と名乗っているケースが多いですが、本盤は、単に"Ruben Y Alfonso"(Ruben & Alfonso)名義となっています。 


Medley of 34 Golden Hits
Ruben Y Alfonso Ramos

Exitos De Rancheras 
1. Un Cielo
2. Flecha Envenenada
3. Mala Cara
Charro Medley
4. Palabra De Hombre
5. La Mal Pagadora
6. Se Me Hizo Facil
7. Mi Unico Camino
8. Volver Volver
Rock & Roll Medley
9. Mr. Pitiful
10. Mustang Sally
11. Farther On Up The Road
12. Shake Rattle & Roll
Boleros De Oro
13. Amor Mio
14. Si Dios Me Quita La Vida
15. Amor De La Calle
16. Parece Que Fue Ayer
17. Si Te Vas De Mi
Rancheras Del Pasado
18. Un Nuevo Contrato
19. Con El Agua Hasta El Cuello
20. Ojitos Sonadores
Oldies Medley
21. Tears On My Pillow
22. When A Man Loves A Woman
23. What's Your Name
24. Silhouettes
25. In The Still Of The Night,
26. Stand By Me
27. My Girl
Boleros Romanticos
28. Gema
29. Sabra Dios
30. Dios No Lo Quiera
31. Estoy Perdido
32. La Barca
Fats Domino Special
33. Blue Monday
34. Blueberry Hill

 唐突ですが、英語では、なぜ兄弟姉妹を明確に表現しないのでしょうか?
 会話でブラザー、シスターと言うとき、兄か弟か、姉か妹か、彼らは気にならないのでしょうか。

 年齢が離れていて、かつ本人が目の前にいれば、見た目でわかるかも知れません。
 でも、そうでない場合、話題になっている人物が、ジョンの兄貴なのか弟なのか、ジュリアの姉なのか妹なのか、私は気になります。

 父と子と精霊の前では、家族かどうかさえ判別できればよく、長幼の別は問題ではないということでしょうか。
 まあ、お兄ちゃん、お姉ちゃんとは呼ばず、名前で呼ぶから問題ないんでしょうね。

 これは、日本人だから気になるのでしょうか。
 家長制は、もはや遥か昔の歴史的制度ですが、なごりが日本人のDNAに埋め込まれているのかも知れません。
 例えば、長男、次男、長女、次女の表記が住民票から消えたのは、さほど前のことではありません。
 これは、正嫡の別を表しないための改正だったはずで、今回の話題とは別の話でしょう。
 住民票の続柄の表記が「子」となっていることに、なんとなく不足感を感じるのは古い人間なのかな?

 すみません、脱線しました。
 何が言いたいかといいますと、アルフォンソ・ラモスはルーベン・ラモスの兄貴だと思うのですが、はっきりと"older brother"、"younger brother"などの表記が見つからないのです。
 どうも文化的ないしは宗教的なところに理由があるのか、などと無駄に考えてしまったのでした。

 ジャケット写真の左が兄貴のアルフォンソ(sax, vocal)、右が弟のルーベン(vocal)だと思います。
 最近のルーベンの写真を見ると、本盤写真よりもずっと年齢を重ねているように感じられ、かつ黒いサングラスをかけていることが多いです。
 本CDは、04年リリースと表記されていますが、オリジナルはもっと以前なのだと思います。

 もともとは、アルフォンソのバンドだった"Mexican Revolution"を兄弟でやるようになり、その後、名称を"Texas Revolution"と変更して、現在はルーベンのバンドになった…と理解しているのですが、間違っていたらご指摘ください。




 さて、全34曲入りとすごいボリュームのように感じられますが、消化不良などなく、流れるように楽しく聴けます。
 7分から8分程度のメドレー曲が多く入っていて、曲目表の見た目ほどの圧迫感はありません。
 実際には、8セットの曲に分かれている感じです。

 スペイン語によるラテン曲は、伝統にのっとりつつもモダンなサウンドで、とても耳に心地よく聴きやすいです。
 そして、英語曲のメドレーが最高のアクセントになっていて、胸が躍る展開です。

 ところで、メドレー群のうち、ランチェラは何となくわかるのですが、ボレロとチャロ(もしかしてチャオ?)がよく分かりません。
 私は、ボレロは英語のバラードのスペイン語表記かと思っていた時期がありました。
 今は、よく分からないとしか言えません。

 さらに、チャロ(Charro)なんていうのは、いったい何なんでしょう?
 メキシコの伝統音楽(文化?)のひとつの形態なんでしょうね。

 その点、英語曲のメドレーは分かりやすく、ほっとします。
 ただ、ロックンロール・メドレーとなっているのが、メンフィス・ソウルやブルースだったりするのが不思議ではありますが…。

 オールディーズ・メドレーとなっているものの中心は、いわゆるドゥ・ワップです。
 このあたりは、アメグラ的なオールディーズかと思いがちですが、少し違って、チカーノ文化では、この手の古いジャンプ、リズム&ブルース(とりわけドゥ・ワップ)をオールディーズ(チカーノ・オールディーズ)と呼ぶらしく、古くから長く愛されているらしいです。

 テハーノ・オルケスタの代表的存在、Sunny & Sunlinersが、その初期に、Little Anthony & Imperialsをお手本の一つとしていたことは、いくつかの文章に記されています。
 本盤のオールディーズ・メドレーの歌いだしが、Imperialsの"Tears On My Pillowであるのは偶然ではないでしょう。
 Imperialsは、チカーノ、テハーノに愛され続けているグループなのだと思います。

 このメドレーの選曲は、時期によって多少変化があるようで、"Just Because"や"You Send Me"を組み入れているアルバムもあります。

 このセットリストをライヴでやったなら、間違いなく楽しめるステージになると思います。
 ラストにFats Dominoがくるのも意表を突かれます。

 ソウル・レビューならぬ、テハーノ・レビューの最高の1枚だと思いました。




Oldies Medley by Ruben Y Alfonso


Tears On My Pillow 〜
〜 When a Man loves a Woman 
〜 What's Your Name 
〜 Silhouette 
〜 In The Still Of The Night 
〜 Stand By Me 
〜 My Girl






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