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若き日の王様とエル・モリーノ

 テックス・メックスって、何て楽しいんだ。
 しみじみとそう感じさせてくれるアルバムです。

 サウンドこそ、ラテン風味たっぷりですが、ほぼ英語で歌われているので、とっつきやすく、入門編として最適であるとともに、なおかつ高い音楽性を持ったひとつの完成形だとも思います。


Joe King Carrasco and El Molino

1. Jalapeno Con Big Red 
2. Mezcal Road  
3. Black Cloud  
4. Tell Me  
5. I'm A Fool To Care 
6. Rock Eate Noche 
7. Funky Butt 
8. Every Woman(Crazy About An Automobile) 
9. Please Mr. Sandman
10. Just A Mile Away
 
 
 このアルバムは、02年にリリースされたCDですが、私がこれを初めて聴いたソフトは、カセットテープでした。

 録音は77年ごろだと思われ、多分翌78年に自主製作盤としてひっそりと出され、その後商業リリースされたようです。
 最初のソフト形式がなんだったのか不明ですが、普通はLPでしょう。
 Joe King Carrascoのデビュー作になります。

 今手元にくだんのカセットテープがなく、いつ頃の発売で、私が入手した時期も霧のかなたですが、推測することは出来ます。

 CDの黎明期、LPからCDへのメディアの変更は、ゆるやかに行われました。
 事実は違うかも知れませんが、当時の私はそう感じていました。

 CDとLPの同時発売が普通になったころ、CDのみのボーナス・トラックというのが、ひとつの流行りでした。
 国内でCDがほぼLPを駆逐し、ヴィニール盤のプレス工場が姿を消したころになっても、海外の発展途上国では、まだヴィニール盤の需要がありました。
 国内の針メーカーは、海外向けに商品を作り続けていたのです。

 そして、カセットテープの需要もまた、国内では想像もつかないほど有ったのだと思います。
 これは、再生機の普及率に関わることでしょう。
 途上国では、CDプレイヤーはもちろんのこと、レコード・プレイヤーでさえ希少で、ラジカセこそ、庶民にとって身近な音楽再生機だったと思われます。

 私がこのアルバムのカセットテープを入手したのは、そういった時期だったのではないかと思います。

 さて、このジョー・カラスコのデビュー作は、その後のスティッフ時代などの音源のみ聴いて来られた方には、驚きの音源だと思います。
 
 一般的には、ジョー・キング・カラスコ & クラウンズ名義のものが有名だと思います。
 ニューウェイヴが流行っていたころに現れた、まさにパンクの洗礼を受けたテックス・メックスともいうべきものでした。

 それも聴いたことがないという方は、ニック・ロウのハーフ・ア・ボーイ・アンド・ハーフ・マンを思い出して下さい。
 あんなサウンドです。
 初めてニックのあの曲を聴いたとき、多くの人が「ああ、ジョー・キング・カラスコだ」と感じたと思います。

 私は、そのころのサウンドも大好きで、パーティ・ウイークエンドとか、ブエナとか、レッツ・ゲット・ブリティとかは、大のお気に入りでした。

 クラウンズのスモール・コンボ・スタイルも良いですが、こちらのオルケスタ(?)スタイルの演奏も素晴らしいです。

 エル・モリーノと名付けられたこのバンドの音は、最高のメンツによる、もう最高というしかないサウンドです。


 編成の肝は、ホーン陣で、テナー・サックスのロッキー・モラレス、ルイ・バストス、トランペットのチャーリー・マクバーニーのアンサンブルがとにくかく素晴らしいです。
 ホーン・アレンジは、チャーリー・マクバーニーが担当しています。
 チャーリーとロッキーは、とりわけこのバンドの要だと思います。

 一方、リズム隊は、ベースのスピーディ・スパークス、ドラムスのアーニー・デュラワ、リチャード・エリソンド、キーボードのオーギー・メイヤース、アルツロ・ゴンザレス、マリンバのアル・カストロ、そして、ジョー自身によるリズム・ギターからなっており、さらにアイク・リッターという人がリード・ギターを弾いています。

 その他、一部の曲では、さらにゲスト演奏者が入っていて、ゴージャス感たっぷりの編成です。

 多くの曲は、英語で歌われていますが、スペイン語を含む曲もあり、まず1曲目の Jalapeno Con Big Redからして、スペイン語で始まり、途中から英語になるという、黄金のバイリンガル・スタイルで歌われる、陽気なサンバです。

 続くMezcal Roadは、アコーディオンこそありませんが、コンフントによくある軽快なツービート・ナンバーです。
 全編とおして大活躍するホーン陣ですが、この曲やBlack Croudでは、特にトランペットが素晴らしく聴きものです。
 アイアイ、オイオイといった掛け声も楽しいです。、
 
 Tell Meは、ニューオリンズR&Bスタイルの曲で、三連ミディアムのリズムに、ロッキーのソロが最高です。
 そして、Rock Eate Nocheでは、マリンバのロールが美しく印象に残ります。

 また、Funky Buttは、ホーン・リフがメインのシャッフル・インストですが、リード・ギターが、パット・ヘアか、クラレンス・ホリマンかと言いたいような、スリリングなフレーズを連発して、思わず「おおっ」と声が出そうになります。

 Every Woman(Crazy About An Automobile)や、Just A Mile Awayでも、やはりリード・ギターが大活躍して、サザン・ロック風味のスライドを聴かせてくれます。
 Just A Mile Awayでは、ファーフィサ・オルガンが、脳内アドレナリンを活性化するような、反復ビートを奏でて、サー・ダグラス・クインテットを連想させます。

 そうです。
 メンツの名前を見て気付かれた方も多いと思いますが、エル・モリーノ・バンドは、ほとんどがダグ・サームの人脈に繋がる人たちなのでした。

 70年代終盤は、ダグ・サームが固定的なバンドでやっていなかった時期かも知れず、それがこのような名盤を生んだ大きな要因かも知れないな、などと私はひそかに思っています。

 彼らの多くは、その後も長く、折につけダグ・サームと活動を共にして、ダグが天に召された後は、この中から、ウエスト・サイド・ホーンズに参加した人も多いです。

 私は、ジョー・キング・カラスコが大好きですが、中でもこのアルバムは特別な存在で、もし1作だけを選べといわれれば、この作品こそ最高傑作であるといいたいです。 




これは素晴らしい!?
レアなスモール・コンボ編成のエル・モリーノ・バンドによるTell Meです。





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