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輝きはやまない

 スワンプ・ポップ・レジェンドの一人、Johnnie Allanの最近作を聴きました。
 今年発売されたもので、彼にとって特別な意味合いを持つ1枚と位置付けられてるようです。

 どういうことかと言いますと、裏ジャケにその解答があります。
 そこには大きく「音楽生活60年」といった趣旨のことが書いてあるのでした。


Shine On
Johnnie Allan

1. La Bague Qui Brille [The Ring That Shines] (John A. Guillot)
2. Shine On (John A. Guillot) 
3. Unfinished Business (Nichoison, Chapman)
4. Ça, Ça C'est Dur [It's, It's So Hard] (John A. Guillot)
5. La Mule À Fuselier (John A. Guillot)
6. I'm So Afraid of Losing You Again (Owen, Frazer)
7. Greener Grass on the Other Side of the Mountain (John A. Guillot)
8. Monde des Cadiens (John A. Guillot)
9. Homebound Train (John A. Guillot)  
10. La Robe [The Dress] (John A. Guillot)
11. You Win Again (H. Williams)
12. Where Are You Jolie Blonde? (Guillot, Comeaux)
13. Ma Belle sophie (C. Guilbeaux)
14. (Hey, Hey, Hey) I Feel Like dancin' (John A. Guillot)
15. Round Again (M. Hennssee)

 Johnnie Allanの音楽人生は、1951年、13歳のときに始まります。
 プロのミュージシャンの下で、バック・バンドの一員として活動を行い、最初はリズム・ギターを弾き、後にドラムスを経て、スチール・ギターも経験しました。

 1958年、自作曲"Lonely Days, Lonely Nights"を吹き込み、フロント・デビューします。
 このとき、所属していたバンドを自分のバック・バンド化したのではないかと思います。
 1951年を起点として、2011年で音楽生活60年というわけです。

 ほとんどの収録曲で作者とクレジットされている、John A. Guillotは、Johnnie Allanの本名です。

 フルネームは、John Allen Guillotで、ミドル・ネームのつづりがAllenなのが気になります。
 欧米の名前って、表記や発音が違うけれど、起源が同じってありますよね。
 ピーター、ピョートル、ペテロとか、ポール、パウロ、パウルとか…。

 おそらく、AllanとAllenは、それぞれ同じ名前を起源とするものなんでしょう。
 ミドル・ネームがAllanの有名人では、私は、Edger Allan Poeを連想します。
 ミステリーや怪奇小説の元祖といわれるアメリカの作家です。

 音楽関係では、ファースト・ネームになりますが、アラン・トゥーサンを連想します。 
 日本では、アランとカナ表記されるのが慣例ですが、スペルは、Allen Toussaintです。

 さて、いつもながら脱線しましたので、軌道修正します。
 中身を聴いていきましょう。

 確認出来たわけではありませんが、おそらく本盤は、新作に加えて、過去の自作のお気に入り曲(とりわけケイジャン曲)を新たに録音してまとめた、自薦集になっているのだと思います。 

 冒頭の1曲目から、フレンチで迫ってきます。
 フィドル、アコーディオン、ラップ・スチールが魅力的なメロを奏でる曲で、ブン、チャンチャン ブン、チャンチャンという、ケイジャンお得意のリズムを使った曲です。

 本盤収録曲を大別する三つのパターンのひとつです。
 フランス語のタイトルを持つ曲が、概ねこの系統に入ります。
 バラードもありますが、アコとフィドルがメインのパーティ・チューンが基本です。
 このケイジャン・スタイルのものが、本盤のメインになっています。

 とりわけ、トラック12の"Where Are You Jolie Blonde?"から始まって、とトラック13の"Ma Belle sophie"、トラック14の"(Hey, Hey, Hey) I Feel Like dancin'"と続く流れが最高です。

 このかっこよすぎるダンス・チューンには、誰もがノックアウトされるでしょう。
 ちなみに、ケイジャン・クラシックのタイトルにもある、「Joli Blon(ジョリ・ブロン)」とは、「ブロンド美女」を指す言葉です。
 Pretty Blondeですね。

 また、曲によっては、ほとんどザディコと区別できない曲もあります。
 フランス語だと思って聴いていたら、フレンチなまりの英語だったりして、楽しいです。
 思わず、クリフトン・シェニエが聴きたくなりました。

 ふたつめのパターンは、英語で歌うカントリーです。
 アルバム・タイトルの"Shaine On"がそうですね。
 こちらも、明るいミディアムもあれば、おセンチなバラードもあり飽きさせません。
 "Shaine On"は、感傷的なバラードに仕上がっています。

 リズムものは、カントリーの中でも古いスタイルのホンキートンクです。
 フィドルとラップ・スチールが効果的に使われています。
 ハンクの大有名曲では、ピアノが大活躍しています。

 そして、三つ目のパターンが、ロックンロールです。
 それもチャック・ベリー・スタイルのもので、「あれっ この人はこんな感じだったっけ?」と嬉しい戸惑いを覚えました。

 スワンプ・ポップ・レジェンドで、ロックンロール(ロカビリーではない)をやる人って、すぐ思いつくのは、Rod Bernardです。

 バラードの"This Soiuld Go On Forever"で知られる人ですが、実は、"Maybellene"や"Mamphis"をレパートリーにしていた人なのでした。
 彼の英Aceから出た編集盤のタイトルは、"Swamp Rock 'n' Roller"でした。 

 Jonnie Allanは、Rod Bernardに全く負けていません。
 トラック3の"Unfinished Business"、トラック9の"Homebound Train"が、完全にチャック・ベリー・スタイルの曲で、アルバムの中で、効果的な曲の並びもあって、とても印象づけられます。

 リズム・ギターがDave Edmunds並みに力強い"Unfinished Businessで胸がときめき、まんま"Let It Rock"みたいな"Homebound Train"の魅力的なフックにわくわくします。

 "Homebound Train"はブギですが、間奏の軽快なピアノの左手に切り込んでくるのが、アコーディオンのオブリなのが何ともケイジャンらしくて可笑しいです。
 早いフレーズを弾いても、のどかさがにじみ出てしまってます。
 "Homebound Train"は、Johnnieの自作となっていますから、彼がベリー・フリークなのは間違いないです。

 アルバム・ラストの"Round Again"は、力強いコーラスの出だしから、さらに大きく盛り上がっていく曲で、手拍子がとても効果的に使われています。
 分厚い男声のコーラスが見事で、Johnnieのリードが加わるところもスリリングです。
 まるで、ゴスペル・クワイアみたいに聴こえます。
 もしかすると、本当にゴスペル曲なのかも知れません。

 本盤は、スワンプ・ポップとしてみれば、R&Bテイストが若干希薄ですが、そんなことを忘れさせる別の魅力に溢れている素晴らしいアルバムだと思います。
 時にケイジャン・カントリーであり、時にケイジャン・ロックロールです。

 Freddy Fenderが、スパニッシュ、イングリッシュのバイリンガルを代表する歌手なら、Johnnie Allanは、フレンチ、イングリッシュのバイリンガルを代表するシンガーだと思いました。
 ともに、素晴らしい泣きのバラードもありつつ、根っこはパーティ・チューンであることが共通しています。

 本盤は、Johnnie Allanの音楽生活60年を祝う記念作ですが、よくある豪華ゲストに頼ったベテラン・スターのお祭り的企画盤ではありません。

 現役シンガーの力作だと強く感じました。




Promised Land by Johnnie Allan (1983)






  

ルイジアナ・バウンド

 現役のスワンプ・ポップ・シンガー、Ryan Foretの新譜がリリースされました。
 スワンプ・ポップは、古いスタイルの音楽かもしれませんが、こうやって地元で需要があるというのが嬉しいです。

 加えて、今回驚いたのは、本邦アマゾンで普通に予約して、遅延なく入手できたことです。
 まず、予約できたことからして(つまりラインナップに上がったこと自体が)小さな驚きでしたが、発売日に予定通り発送通知がきたときは、軽い感動がありました。



Let The Groove Move Ya
Ryan Foret and Foret Tradition

1. If It's Really Gotta Be This Way (Fritts, Nicholson, Alexander)
2. Wastin' Time (D. Richard)
3. Party Time (B. Channel)
4. Not Here for a Long Time (Colla, Hayes, Lewis)
5. Misery Loves Company (J. Reed)
6. Let the Groove Move Ya' (Gary Thibodaux, Shea Lander) .
7. Beggin' You Please (W. Foret)
8. Lousiana Bound (Mabery, Vieregge)
9. Already Gone (Gary Thibodaux, Shea Lander)
10. Bye Bye Baby (D. Richard)
11. Two Rights Don't Make It Wrong (Mabray, Viergge)
12. Must Be Love (E. L. Herrold)
13. Ain't No Trick (Hurt, Pippin)
14. My Other Woman (K. Butterhill)
15. Misery (M. Templet)
16. You Left the Water Running (Franck, Hall, Penn)

 アマゾンでは、予約していたにもかかわらず、発売日になった途端、該当ページの表示が「発送まで2週間から1か月」などと変わった例を何度も体験していたので、今回の思いのほかスムースな展開には嬉しい戸惑いを覚えたほどです。

 がっかりした例としては、最近では、英Aceの新譜のいくつかが入荷時期の変更通知がきています。
 英アマゾンでは、既に「在庫あり」となっているので、くやしいですね。 
 こんなことなら、英アマゾンへオーダーすべきでした。

 欧州債務危機のあおりで、ポンドもユーロにつれ安になる傾向が顕著で、なにげに円高の恩恵も少なからず受けられます。
 (まあ、ポンド自体の体力が弱っていますが…。) 

 さて、脱線してしまいましたので、軌道修正します。

 Ryan Foretは、デビュー当初、兄弟でバンドを組んでスタートし、Foret Traditionというバンド名を名乗りました。
 それからメンバーの変遷はあっても、同じ名前を使い続けています。
 今作のメンツでは、ギターがForetという姓ですので、縁者なのだと思います。

 とは思いますが、実は、Foretは、ケイジャンではよくある姓で、私の知る限りでも、Wayne Foret、Aaron Foretというスワンプ・ポップ・シンガーがいます。
 未確認ですが、彼ら相互の繋がりは、おそらくないでしょう。

 今作のパーソネルは以下のとおりです。

Ryan Foret : vocals & Keys
Jason Parfait : sax, keys, organ, bg vocals
Mark Templet : guitar
Lynn Boudreaux : drums
Allan Maxwell : bass
Brandon Foret : guitar
Jerry Plaisance : erectric piano
Jimmy Reamey : trumpet

 ギターが2本いますが、基本的にあまり目立たず、メインは、三連のピアノの連打又はオルガンのロング・トーンに、ホーン・リフというのが全体のサウンドから受ける印象です。

 さて、今作は、2曲の有名曲(?)とその他の無名曲で構成されたポップ・アルバムとなっています。
 スワンプ・ポップの特徴である哀愁のバラードは少し控えめで、私などは若干さびしい感じがしました。

 何といっても注目は、アーサー・アレキサンダーの名作、"If It's Really Gotta Be This Way"ですね。
 ここでのRyanは、とても丁寧に歌っていて、誠実な人柄が伝わってくるようです。
 その分、スリルは乏しいかも知れません。

 この曲のカバーでは、Maecia Ball盤もいいですが、やはりRobert Plant盤が最高でした。
 セクシーなボーカルとセンチメントな伴奏が胸に迫るベスト・カバーだと思います。

 ラストの"You Left the Water Running"は、誰が決定版なんでしょう。
 私は、この曲に関してはダントツに好きというものがありません。
 ここでのRyanのバージョンは、やはり誠実感は感じますが、まあ普通の出来でしょう。

 Don Richの曲を2曲やっています。
 トラック2の"Wastin' Time"とトラック10の"Bye Bye Baby"がそれで、いずれも私は初めて聴きました。

 初期の曲なのかも知れません。
 Don Richは、現役のスワンプ・ポップ・シンガーの中でも最も精力的に活動している人です。
 私の好みでは、"Bye Bye Baby"でしょうか。

 そして、Wayne Foretの曲もやっています。
 トラック7の"Beggin' You Please"がそれで、モダンではありますが、Don Richの作品より伝統的なスタイルに近く、私の好みです。

 B. Channel作となっている、トラック3の"Party Time"が気になる曲です。
 この作者は、あの「ヘイ・ベイビー」のBruce Channelでしょうか?
 せわしない三連リズムに、ホーンが被さるパーティ・チューンです。

 トラック5の"Misery Loves Company"は、J. Reed作となっており、多くの人がJimmy Reedを連想すると思いますが、正解はJerry Reedの作品のようです。

 ジェリーは、エルヴイスの「ギター・マン」などで知られる人で、彼のスタイルは、一部ではカントリー・グラスなどと呼ばれることもあった、スワンプ・スーパー・ピッカーでした。
 ただし、この曲からは、特別Jerryぽさは感じません。

 ジェリーが他のシンガーに提供した曲ではないかと思いますが、ここでのRyanのアレンジはカントリー調が希薄で、お手本になったバージョンが知りたいです。

 タイトル曲のトラック6、"Let the Groove Move Ya'"、そしてトラック9の"Already Gone"の作者のひとり、Gary Thibodauxは、スワンプ・ポップ・シンガーのGary T.の本名です。
 私は、この人は未聴で、近いうちにぜひ聴きたいと思っています。
 "Already Gone"は、作者を確認するまで、私は、ジャック・テンプチンの同名曲を期待していました。

 トラック8の"Lousiana Bound"とトラック11の"Two Rights Don't Make It Wrong"は、いずれもCrosscutというバンドのレパートリーです。

 Crosscutは、スワンプ・ポップとモダン・ブルースを演奏するブルース・ロック系のバンドです。
 ソロ・シンガーや、シンガーとバック・バンドではなく、完全なバンド形態というのは、スワンプ・ポップ界(?)では珍しい存在でしよう。

 2曲とも、彼らの1stからの選曲です。
 彼らは、バンド名からも想像できるとおり、アルバート・キング・フリーク"でもありますが、"Two Rights Don't Make It Wrong"は、サウス・ルイジアナらしいスワンプ・バラードです。

 トラック4の"Not Here for a Long Time"と、トラック14の"My Other Woman"は、なんとヒューイ・ルイス&ニュースのナンバーです。
 "My Other Woman"の作者クレジットはおそらく誤りでしょう。
 意識して繰り返し聴いていると、ヒューイぽさがおぼろげながら感じられる気がしました。

 Foret Traditionのメンバーが書いた、トラック15の"Misery"は、今作では最もスワンプ・ポップらしいバラードかも知れません。

 アルバムは、全体的にモダンな雰囲気が感じられ、私の好みとしてはもっとイナタい方がはまったでしょう。

 とはいえ、現役のスワンプ・ポップ・シンガーは貴重です。
 こうやって、普通に流通しているのは、とても喜ばしいです。



In To The Mystic by Ryan Foret & Foret Tradition




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アイ・タッチ・ユー

 元Wet Willieのリード・ボーカリスト、Jimmy Hallの1stソロ・アルバムを聴きました。
 80年にエピックからリリースされたもので、ナッシュビル録音です。
 同じ南部でも、近年にマッスル・ショールズで吹き込んだものとは、かなり雰囲気が違います。


 

Touch You
Jimmy Hall

Side One
1. 634-5789 (S. Cropper, E. Floyd)
2. Private Number (W. Bell, B. T. Jones)
3. Midnight To Daylight (L. Berwald, J. Hall, J. V. Hall Jr.)
4. Easy Street (J. V. Hall Jr.)
5. Rock & Roll Soldier (T. Seals, E, Setser)
Side Two
1. Never Again (J. Monday, M. Tanner, N. Jeffrey)
2. Bad News (J. D. Loudermilk)
3. I'm Happy That Love Has Found You (E. Chase, A. Jacobson, W. Haberman)
4. The Same Old Man (J. Hall, J. Goin)
5. Touch You (J. Hall, L. Berwald)

 メンフィス・ソウルのカバーで始まるのが、実はかなり嬉しいです。
 南部というより、ノーザンぽい躍動感のあるビートだったりもしますが、それはそれで面白いです。

 しかし、時代のせいもあるのでしょうか、自作曲のいくつかは、イーストコーストのシンガー、ソング・ライターぽい、ジェントルかつナイト・ミュージック風の落ち着いた曲があったりして、少し驚きです。

 事実、デルバート・マクリントンに似たハスキー・ボイスを持つ彼が、曲によっては、ビリー・ジョエルを思わせる喉を聴かせています。

 まあ、そんな一面もありますが、あくまで一部の話で、サザン・ロックのリード・シンガーがソロになった途端、全く別人のような音楽をやりはじめた、といったことにならなくてよかったです。

 私などは、そういった懸念をつい持ってしまうほうなので、いきなりEddie FloydやWilliam Bellの名作が出てくる展開に、安心を通り越して心が嬉しさで一杯になりました。
 Jimmy Hall、君はえらい !
 やはり、こうあってほしいです。

 A2"のWilliam Bellの名作、"Private Number"は、女性ボーカルとのデュエット曲ですが、ここでJimmyのパートナーを務めているのは、Bonnie Bramletです。

 私は、ボニーのアンニュイな歌い方が好きですが、この曲には情熱を表に出したスタイルがベターなのでしょう。

 私は、「オン・ツアー」でのボニーが大好きなのですが、あれを超えるものはなかなかないですね。
 あの現場だからこその、そして時代の空気みたいなものが化学反応を起こして、比類のないパフォーマンスとなったのかもしれません。

 Jimmyのボーカルのバックで、スムースなブルース・ハープが聴こえる曲がありますが、本人のプレイでしょう。
 Jimmyは、サックス・プレイヤーでもあるので、そちらも多重録音しているかも知れません。

 本盤は、名盤とまでは言えないかもしれません。
 でも、未CD化(だと思います)は、残念です。

 アナログLPのCD化は、すでに一巡も二巡もして、重箱の隅をつつくようなレア・アイテムの発掘が進んでいると思っていましたが、その一方で、まだまだすくった手のひらから零れ落ちたアイテムはあるのだ、と改めて思いました。

 2ndの"Cadillac Tracks"も併せ、忘れられたヴィニールの世界から、ぜひ救出してほしいものです。

 なお、本盤は、Marshall Tucker Bandのベーシスト、Tommy Caldwellの想い出に捧げる、と記されています。



I'm Happy That Love Has Found You by Jimmy Hall




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ステイツポロへ帰る




バリオでロッキン

 Barrioという言葉があります。
 通常は、米国のヒスパニック居住地やスペイン語圏の都市区域を指すらしいです。
 一般的には、ウエストコーストの特にイーストL.A.と呼ばれる地域、そしてテキサスのサン・アントニオ等が代表とされているようです。

 本盤は、60年代イーストL.A.の音楽シーンを記録し続けた、Rampart Recordsとその関連レーベルのコンピレーション・アルバムです。
 その内容は、特定のレーベルに焦点を当てたものではありますが、事実上、60sチカーノ・ロック(チカーノR&B)の代表曲を集めたコレクションになっているのではないかと思います。


East L.A.
RockIn' The Barrio
Eighteen Hits From The '60s
 

1. Land Of 1000 Dances (Naa, Na, Na, Na, Naa) : Cannibal And The Headhunters
2. Rainbow Stomp (Pt. 1) : The Mixtures
3. Remember The Night : The Atlantics
4. This Is The Night : Larry Tamblyn  
5. Strange World : The Majestics  
6. Don’t Let Her Go : The Romancers
7. Evil Ways : The Village Callers  
8. The Return Of Farmer John : The Salas Brothers with The Jaguars
9. Where Lovers Go : The Jaguars (inst.)
10. Darling (Please Bring Your Love) : Phil and Harv with The Mixtures
11. Leaving You : The Salas Brothers
12. Take My Heart : The Romancers
13. Farmer John : The Premiers
14. La La La La La : The Blendells
15. Follow The Music : Cannibal and The Headhunters
16. Hector (Pt. 1) : Village Callers (inst.)
17. Poquito Soul : One G Plus 3 (inst.)
18. Brown Baby : Willie G  

 大きなくくりでは、60sガレージ・パンクのコンピの1種ですが、さらにニッチなテーマ付けがなされているわけで、あるいは聴き手を選ぶものかも知れません。
 もちろん、私は大好きです。

 こういったテーマで編まれたコンピというのは、絶対数こそ少ないですが、それなりにあるようです。
 私は、いくつか複数の編者が編んだCDを聴きましたが、思いのほか似た内容のものが多く、その傾向から、ある程度定番というものがおぼろげながら分かった気がしました。 

 私は、本盤は、このテーマのコンピで、かつ1枚ものとしては、まず最初に聴くべきベーシックなアイテムのひとつではないかと思います。
 50年代の先駆者たち(知名度の高いリッチー・バレンスやチャン・ロメロ)が対象外となっているため、よりテーマが鮮明になっている気がします。

 曲数も18曲とほどよくて、おじさんとしてはこのくらいが良いです。
 最近のリイシューCDは、30曲とか当たり前のようにあって、聴きとおすのに疲れますよね。 

 ただ、先に述べましたように、これはシーンを横断した網羅的なものではありません。
 タイトルからは判別しがたいですが、あくまでイーストL.A.の特定のレコード会社のレーベル・コンピだということです。

 Rampart Recordsとその関連レーベルの音源を集めたもので、全てEddie Davisという人物がプロデュースに関わっています。
 本来なら、Rampart Records Storyとか、Eddie Davis Worksといったタイトルであるほうが、親切ではあります。

 しかし、私の思うところ、事実上、このRampartというのは、イーストL.A.のチカーノ・ロックを代表するレーベルなのではないかと思います。

 私もこのディープな世界を僅かに覗きこんだばかりで、確証はありませんが、Thee Midnitersがもれていること以外、特段違和感を感じない選曲になっていると思います。
 (その代りといってはなんですが、元Thee Midnitersのリード・ボーカリスト、Little Willie Gのソロ作の代表曲が収録されています。)

 Eddie Davisという人は、多分アングロ・サクソンだと思いますが、モータウンやベリー・ゴーディの仕事に憧れを持っていたようで、サウス・ルイジアナのシーンに例えるなら、Eddie ShulerやJ.D.Millerのような役割を果たした人なのかも知れないな、と私は思い始めています。

 さて、中身を聴いてみましょう。
 内容は、都市部の若いチカーノたちが、当時好んで聴いたに違いない音楽が詰まっています。

 その内容は、いくつかのグループ分けが出来るようです。
 仮に、5つに分けてみましょう。
 次のとおりです。

(初期のスタイル)
ガレージR&B系
ドゥワップ
マージービート
(中期以降のスタイル)
ラテン・ロック
ノーザン、スイート・ソウル系

 具体的に分けるとこうなります。

ガレージR&B系
1. Land Of 1000 Dances (Naa, Na, Na, Na, Naa) : Cannibal And The Headhunters
2. Rainbow Stomp (Pt. 1) : The Mixtures 
8. The Return Of Farmer John : The Salas Brothers with The Jaguars
13. Farmer John : The Premiers
14. La La La La La : The Blendells

ドゥワップ
3. Remember The Night : The Atlantics
4. This Is The Night : Larry Tamblyn
10. Darling (Please Bring Your Love) : Phil and Harv with The Mixtures
11. Leaving You : The Salas Brothers

マージービート
5. Strange World : The Majestics
6. Don’t Let Her Go : The Romancers
12. Take My Heart : The Romancers

ラテン・ロック
7. Evil Ways : The Village Callers
16. Hector (Pt. 1) : Village Callers (inst.)
17. Poquito Soul : One G Plus 3 (inst.)

ノーザン、スイート・ソウル系
15. Follow The Music : Cannibal and The Headhunters
18. Brown Baby : Willie G

その他
9. Where Lovers Go : The Jaguars (inst.)

 とりあえず、こんな感じです。

 まず、仮にガレージR&B系としたものは、R&Bのカバーをスモール・コンボ・スタイルでやったもので、主として南部R&Bのカバーがメインです。
 がやがや、ざわざわしたSEを配したアレンジが散見され、ライヴ感を生かした肌触りが売りといえるかも知れません。

 "Land Of 1000 Dances"は、チカーノの人気曲なのでしょう。
 邦題「ダンス天国」ですね。
 この曲は、Thee Midnitersも、さらにガレージ感満載のアレンジでやっています。

 オリジナルは、ニューオリンズR&BのChris Kennerで、パブ・ロック・ファンには、ブリンズリーがカバーした、"I Like It Like That"でも知られています。
 少しとぼけた味のあるシンガーで、アラン・トゥーサンの影響が大きい人だと思います。

 「ダンス天国」は、最も有名なバージョンはWilson Pickettだと思いますが、特徴的な「ナー ナナナ ナー」というフレーズは、Chris Kennerの原曲にはなく、このCannibal and The Headhunters盤が最初らしいです。
 Pickettは、このHeadhunters盤を参考にしたということになります。

 このアレンジは、リード・シンガーのCannibal(Frankie Garcia)が、歌詞を忘れたとき、とっさにその場をつくろうため、発したのが最初だと伝えられているようですが、私は、何となく話を作っているような気がします。
 考えられたアレンジだと思うからです。

 ちなみに、本盤のセッション・データによれば、このアレンジは、Frankie Garcia & Blendellsによるものだと記されています。

 Blendellsは、本盤のトラック14に収録されてる"La La La La La"で知られているバンドで、この曲がまさに「ラララララ」という意味のないフレーズが全編を支配する曲なのでした。
 Frankie GarciaとBlendellsとの関係についてはよく分かりません。

 The Mixturesについては、先ごろ単独のリイシュー盤がリリースされたばかりですね。
 私は未入手ですが、黒人、白人(ここではアングロ・サクソン)、チカーノ(ブラウン)混成のバンドのようです。
 バンドの名前からして混成という意味です。
 主としてソウル・インストを得意としています。

 Salas Brothersは、後にティアラというチカーノ・ロック・バンドを組んだチカーノ音楽では有名な兄弟らしいです。
 スイートなハーモニーが売り物で、しばしばセッションで他人のコーラスなどもやっているようです。
 このあたりは、まだまだ聴けてないので、今後さらに奥深く分け入りたいと思っています。

 Atlanticsの"Remember The Night"は、既存のドゥワップの名作のタイトルや、有名フレーズが次々と出てくるドリーミーなナンバーで、大好きな曲です。
 その他ドゥワップ系の曲は、いずれも素晴らしく、チカーノのブラック・ハーモニー好きがよく表れています。

 興味深いのは、マージービート系で、これらからはチカーノぽさは希薄ですが、普通によいです。
 まあ、全米が英国60sビートの流感にかかっていたのですから、チカーノ少年たちも例外ではないわけです。

 ここに入っているのは、たまたまでしょうか、いずれもロンドン系ではなく、リバプール系のいわゆるマージービートです。
 そして、サーフ・バンドあがりであることが見え隠れするサウンドが愛おしいです。

 ラテン・ロック系としたバンドは、ラテン・ファンクともいうべき陽気なエンドレス・チューンで延々と迫ってきます。
 オルガンとブラスのアンサンブルが好きな方にはたまりません。

 ノーザン、スイート・ソウル系としたものは、ガレージR&B系の洗練版でしょうか。
 とりわけ、Little Willie Gが歌う、チカーノ女性の美しさを讃えた、"Browm Baby"がとろけそうなスイート・チューンで美しく、この分野の定番の1曲でしょう。
 サラス兄弟がコーラスを付けているらしいです。

 とりあえず、奥深いディープな世界へのパイロット的コンピと言えると思います。
 同テーマのコンピでは、"The West Coast East Side Sound"という全4枚からなるシリーズがあり、ダブリも多いですが、さらにずぶずぶとはまることが出来ます。




Land Of 1000 Dances by Cannibal And The Headhunters




Brown Baby by Willie G




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イーストサイド・ワールドへようこそ
心の扉を開けてくれ
ウエストサイド・ソウル


スワンプ・レジェンドの帰還

 今回は、スワンプ・ポップ・レジェンドのひとり、T. K. Hulin(ヒューラ(ン)?)の78年リリースのアルバムを聴きました。
 彼は、本名をAlton James Hulinというらしいです。

 制作は、Huey P. Meauxで、彼のCrazy Cajun Recordsから出されました。
 ジャケは、なぜか本人の写真を使わず、湿地帯の風景を使っています。


 

As You Pass Me By Graduation Night
T. K. Hulin

Side One
1. Lonely Street (Robert Thibodeaux)
2. As You Pass Me By Graduation Night (Robert Thibodeaux)
3. Wedding Bells (Hank Williams)
4. You're So Good To Me (Blian Collins)
5. Time (C. Berry, Huey P. Meaux)
Side Two
1. What You Are Seeking (Huey P. Meaux)
2. You're His Alone (Huey P. Meaux)
3. My Treasure (Marti Manning, Robert Thibodeaux)
4. The Monkey Song (Huey P. Meaux)
5. I Can't Halp It (Hank Williams)

 収録曲は、このアルバム用に録音された音源なのかどうか、よく分かりません。
 音的には、70年代前半のものではないかと思われますが、確信はもてません。

 ただ、私の印象として、どうもシングル曲のコレクションという感じがせず、やはりアルバム用の音源ではないかという気がします。

 ここには、T. K. Hulinの代表曲のひとつ、"As You Pass Me By Graduation Night"が収録されていますが、最も有名なのは、ここには入っていない"I'm Not A Fool Anymore"という曲です。

 "I'm Not A Fool Anymore"は、Doug Sahmの素晴らしいカバーが忘れられない、スワンプ・ポップの名曲です。
 傑作アルバム、"West Side Sounds Rolls Again"の収録曲ですね。

 Hulinの原曲は、63年にLKというレーベルから出されています。
 T. K. Hulinが20歳のときのことです。
 (彼の最初のレコードは、13歳のときに出されたらしいです。)

 LKというのは、Lonely Knightsからきていて、これは彼の初期のバンドの名前です。
 最初は自主制作盤だったのでしょうか、その後マーキュリー系のスマッシュから全国配給されたようです。

 Meaux制作の同種のアルバム(彼の50s60sヒーローの再生盤)では、過去のヒット曲の新録音を収録するのが通例ですので、代表曲がもれているのは物足りないです。
 あるいは、他に"I'm Not A Fool Anymore"を軸とするアルバムを作っているのかも知れません。

 本盤は、スローの曲が多く、全体的に弾けたところがないアルバムです。
 ホーンは、曲によっては入っているようにも思いますが、ほとんど隠し味の域をでず、印象としては陽気さの乏しいカントリー・アルバムといったところでしょうか。

 T. K. Hulinがバラードを売り物にしているからでしょうが、ここではあまり覇気が感じられず、むしろミディアム〜アップのリズム・ナンバーの方に魅力を感じました。

 "You're So Good To Me"や、"The Monkey Song"などがそれに当たり、こういった曲をもっと取り上げ、要所にスロー・バラードを挟み込めば、随分と印象が変わったのではないかと思います。

 現在、ヴィンテージ時代の音源を収録したCDは流通していないと思います。
 古い音源はぜひとも聴きたいですが、70年代以降でも、もう少し黒っぽい音源があれば聴いてみたいものです。


 追記
 99年に英EdselからリリースされたCD、"I'm Not A Fool Anymore - The Crazy Cajun Recordings"には、本盤収録曲が全て収められています。
 そちらには、Doug Sahmの作品のカバー、"Revolutionary Ways"が入っているので、Doug Sahmファンは必携です。




I'm Not a Fool Anymore by T. K. Hulin


このアレンジはいいです。
多分、これがオリジナルなのでしょう。






土曜の夜のショータイム

 今回は、Huey P. Meaux制作のTommy McLainのCrazy Cajun盤をご紹介します。
 78年にリリースされたもので、ジャケ写だけでは分かりづらいですが、実はライヴ盤です。
 だからアルバム・タイトルが「ショータイム」なのでしょう。
 そして、A1の曲名が"Intro"なわけです。



Show Time
Tommy McLain

Side One
1. Intro
2. Take It Easy (Eagles)(77-40)
3. Red Red Wine (77-41)
4. Jackie Wilson, Said (77-63)
5. The Last Thing On My Mind (Gordon Lightfoot) (77-42)
6. Rockin Robin (77-43)
Side Two
1. Let It Be Me (Lennon, McCartney)
2. Suger Pie Honey Bunch (Jubette)(77-44)
3. The Long & Winding Road (Lennon, McCartney)(77-44)
4. Rose Garden (Joe South)
5. The Sea of Love (C. Khoury)(77-46)
6. Roll Over Beethoven (Chuck Berry)
7. The Commercials (77-44)

 それにしても、毎度のことながら、いい加減なクレジットには呆れますね。
 米国は、訴訟社会と言われていますが、この頃はまだギスギスしていなかったのでしょうか?
 とりあえず、各曲名のあとのカッコ書きは原文のままです。

 ここから、クレジットの誤りを一緒に笑っていきましょう。

 "Take It Easy"の作者がEaglesなのは可愛いものですね。
 まあ、正確ではないですが、他にもっとひどいのがあるので…。

 しかし、いくらなんでも、"Let It Be Me"で、Lennon, McCartneyはないです。
 妖しい謎の番号も不気味です。
 テキサスの大らかさは、プロデューサー経由でルイジアナへも伝染している感じです。

 さて、"Take It Easy"も、Van Morisonの"Jackie Wilson Said"も、まあTommyのファンとしては嬉しいサプライズ・チョイスです。

 流れ的に"Rockin Robin"が唐突ですが、Tommyのレパートリーとしては、トップ40のカバーよりずっと自然なチョイスですね。
 ただ、出来はいまいちで、意外にもメジャーもののほうがうまくいっています。

 B面1曲目の"Let It Be Me"ですが、見事にビートルズ・ナンバーではなく、曲名どおりの内容でした。
 この曲は、多くの人がやっていると思いますが、私の記憶が間違ってなければ、エヴァリー兄弟のレパートリーだったような気がします。

 "Suger Pie Honey Bunch"は、なんだか分かりますよね?
 このフレーズが出てくる歌詞を思い起こしてください。
 有名なモータウン・ナンバーです。

 そうです、フォー・トップスの"I Can't Help Myself"が正解です。
 それにしても、これって、ホーランド、ドジャー、ホーランドじゃなかったのかな?
 もう何でもありですね。

 続く"The Long & Winding Road"は、流石にビートルズのあの曲でした。
 間違ってなくて、むしろ拍子抜けしました。

 ほっとしたところで、何の紹介もなく、女性ボーカルが出てきて"Rose Garden"を歌い始めます。
 この曲は、ジョー・サウスの代表曲のひとつで、リン・アンダーソンほかのヒットで知られている名作です。

 さらに、何と続けて女性ボーカルが"Sea of Love"をアンニュイな雰囲気で歌い始めます。
 一体この女性は誰なんでしょう?
 実は、かなり魅力的な声の持ち主で、いいシンガーのように思えます。

 そんなことを考える間もなく、一転してTommyのボーカルで"Roll Over Beethoven"がスタートします。
 アレンジが、オルガン・メインの伴奏になっていて、これはこれで面白いです。

 ジャケ写では、Tommyがベースを構えていますが、もともと彼のメインはキーボードのはずです。
 彼自身が伴奏を付けている可能性は高いですね。

 さらに、謎の女性ボーカルがそのまま居残り、コーラスを付け始め、最終的にはデュエットに近い感じになります。

 うーむ、実を言いますと、観客の歓声が若干わざとらしいタイミングで入っていて、本当にライヴなのかも疑わしい面もあります。

 そして、一切のMCもないまま、ドラムのエンドもフェイド・アウトの編集さえなく、曲の終了とともに唐突にレコードは終わります。

 ここまで聴き手を突き放したレコードも珍しいでしょう。
 いっそ、いさぎよいと言ってしまいましょうか。

 このレコードをお持ちの方で、女性シンガーが誰かご存じの方がいらしたら、ご教示ください。


 


Before I Grow Too Old by Tommy McLain




 追記
 本盤収録曲は、どうやら99年にEdselからリリースされたCD、"Cajun Rod Stewart"に全て収録されているようです。
 私は未入手なのですが、そちらには女性シンガー名が明らかにされているのでしょうか。



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 今日もほんわかしたいと思います。
 スワンプ・ポップ・シンガーのJoe Barryです。
 本盤は、Huey P. Meauxが制作したアルバムで、77年にリリースされたABC-Dot盤です。


Joe Barry
Joe Barry 

Side One
1. You're Why I'm So Lonely (Heuy Meaux)
2. Tommorrow Never Comes (Tubb, Bond)
3. Think It Over (Huey Meaux)
4. Always Late (With Your Kisses) (Lefty Frizzel, Blackie Clawford)
5. I Almost Lost My Mind (Ivory Joe Hunter)
Side Two
1. It's A Sin To Tell A Lie (Billy Mayhew)  
2. Cold, Cold Heart (Hank Williams)
3. The Prisoner's Song (Guy Massey)
4. I Let Happy Pass Me By (Roy Chauvin)
5. If You Really Want Me To, I'll Go (Delbert McClinton)  

 Huey Meauxは、75年のFreddy Fenderの制作で成功した余勢をかり、この頃、50〜60年代にシングル・オンリーだったお気に入りのシンガーに、ここぞとばかりにLPを吹き込ませている気がします。

 制作は、いつものヒューストンのシュガーヒル・スタジオで行われ、演奏もお馴染みのMickey Moodyを中心とするハウス・ミュージシャンが受け持っています。

 アルバム・タイトルがアーティスト名であることから、あるいはJoe Barryの初のオリジナル・アルバムなのかも知れません。

 Joe Barryは、本名をJoseph Barriosといい、出身はルイジアナ州で、ほぼ間違いなくケイジャン(仏系米国人)だと思われます。
 それが証拠に、彼はまれにフランス語でも吹き込んでいます。
 "Je suis bet pour t'aimer"という60年の録音は、"I'm a Fool to Care"のフレンチ・バージョンでした。

 私が興味を持ったのは、Barriosという姓で、Barrioは、通常はヒスパニック居住区(特にスペイン語圏の都市区域)を指す言葉です。
 チカーノならぴったりですが、ケイジャンの姓だというのが面白いですね。

 Joe Barryの代表曲は、"I'm a Fool to Care"で、当初、60年に地元のJin Recordsからリリースされ、その後メジャーのマーキュリーの子会社スマッシュから全国配給されたのではないかと思います。

 "I'm a Fool to Care"は、40年代のヒルビリー・シンガー、Ted Daffanの作品のカバーですが、Joe Barryのスワンプ・ポップ版がヒットしたことから、テキサス、ルイジアナのミュージシャンの人気曲になりました。

 多くのシンガーがカバーしていると思いますが、私が特に印象に残っているのは、デビュー直後のJoe King Carrascoが、Doug Sahm人脈のバンド、エル・モリーノ・バンドと吹き込んだバージョンです。
 ゴージャスなホーン陣に支えられたオルケスタ・サウンドが最高でした。



 収録曲を聴いていきましょう。
 ちなみに、本盤収録曲は、99年にNight Trainという会社から出された2枚組CD、"I'm A Fool To Care - The Complete Recordings 1958-1977"に全て収録されています。

 当該CDは、パッケージだけを見ていると、一見ヨーロッパのブート・レーベルぽい匂いがしますが、本人のJoe Barryがリイシューを監督していて、資料的な価値も高い内容になっています。
 そのライナーによれば、今回のLPには、同内容のCrazy Cajun盤とABC-Dot盤があるようです。

 私は、当該CDをずいぶん前に入手しましたが、曲数が多すぎて(59曲入り)焦点を絞り切れず、さほど印象に残っていませんでした。
 しかし、今回のアナログLP盤を聴いて、眼が洗われるように、清々しい思いで聴くことが出来ました。
 私の思い込みかも知れませんが、LP盤のほうが心に素直に届く音だった気がします。

 さて、アルバム全体の印象としては、とても丁寧に歌っているなあ、と感じます。
 曲調は、ホーンレスのため、どちらかと言えばカントリー・テイストが強いようにも思いますが、ゆるゆるのサウンドであり、例えるなら、Bobby Charlesのウッドストックより後の録音のようです。

 このアルバムは、おそらくはカントリー・アルバムとして店頭に出たのでしょうが、聴いて感じるのは、隠しきれないR&Bフレイバーです。
 アーネスト・タブをやろうが、レフティ・フリーゼルをやろうが、本人の本質はヴィンテージ期から何ら変わっていない気がします。

 アレンジで興味深かったのは、Jimmy Donelyの"Think It Over"のカバーです。
 曲本編こそ、原曲にそった展開ですが、イントロが面白くて、まるでゴスペルのような教会風の荘厳な雰囲気で始まります。
 数あるこの曲のカバーでも、特筆すべき1曲になっていると思います。

 B面1曲目の"It's A Sin To Tell A Lie"は、私がずっと気になっている曲のひとつです。
 原曲は、「嘘は罪」という邦題を持つジャズ・スタンダードだと思いますが、私が初めて聴いたバージョンは、NRBQによる賑やかなアレンジのライヴ・テイクでした。
 一発で気に入った私は、それ以降、NRBQのアレンジの元ネタが知りたいと思い続けています。

 ここでのJoe Barryのバージョンは、ミディアム・スローで、ほとんど別の曲のように聴こえます。
 私は原曲を知りませんが、これが本来の姿に近いのかも、と思ったりしています。

 "The Prisoner's Song"は、ブルーグラス・ソングが原曲かと思いますが、スワンプ・ポップには、同名曲で58年にWarren Storm盤があります。
 私は、Warren Storm盤は未聴ですが、Johnnie Allan盤では親しんできた曲です。

 今回、Johnnie Allan盤(多分アナログのKrazy Kat盤)が行方不明で、聴き比べが出来ませんでした。
 そのうち、別のものを探していればひょっこり出てくると思いますので、その時に覚えていれば聴き比べたいと思います。

 ラストの"If You Really Want Me To, I'll Go"は、Delbert McClintonの曲で、私はDoug Sahmのカバーで知った曲です。
 この曲は、Delbertの最初期の活動、The Ron-Dels時代のレパートリーです。
 やはり、いい曲は古びませんね。

 70年代半ばから後半に、Huey MeauxがプロデュースしたLPたちには、この手の音楽好きにはたまらないアイテムがまだまだありそうです。
 さらに追いかけ続けたいと思います。



I'm a Fool to Care by Joe Barry




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スワンプ・ポップのふるさと

 このところ、私はSwamp Popを好んで聴いています。
 ただ、そのアイテムの多くは近年のものが多くなっています。
 これは、現役で活動しているシンガーが気になるからです。
 しかし一方で、手に入るものなら、古い音源が聴きたいとも思っています。

 そこで今回は、久々にヴィンテージものを聴くことにしました。
 本盤は、作者クレジットこそありませんが、Jivin' Geneの50年代から60年代の録音集だと思われます。


Breaking Up is Hard To Do
Includes Demo's, Promos, other Rereities
Jivin' Gene and the Jokers

1. Breakin' Up Is Hard To Do (orig Hall 103)
2. Love Medicine (Hall 103)
3. The Creek Don't Rise (Hallway 1202)
4. Love Light Man (Hallway 1202)
5. Little Country Girl (Hall 121)
6. Cry By Night (Hall 121)
7. Going Out With the Tide (Jin 109)
8. Up, Up, and Away (Jin 109)
9. Hooked To It (Jin 405)
10. The Thing Called Cheatin' (Jin 405)
11. My Need For Love (Jin 116)
12. Breakin' Up Is Hard To Do (Jin 116 version)Tracks 13 Thru 24 Mercury Records
13. You Make a Fool Out of Me
14. Don't Pretend
15. Poor Me
16. Breakin' Up Is Hard To Do (Radio Mix)
17. That's What It's Like To Be Lonesome
18. I Cried
19. You've Got a Spell On Me
20. You're Jealous
21. Go On, Go On
22. Goin' Out With the Tide (With Overdubs)
23. Release Me!
24. Breakin' Up Is Hard To Do (Hit version w. With Overdubs)
25. Cryin' Towel (Chess 1873)
26. Genie Bom Beanie (Chess 1873)
27. Leave Me (Capitol 2296)rare promo's recorded as Gene Bougeois
28. Look At Them (Capitol 2296)rare promo's recorded as Gene Bougeois

 本CDは、Mr. Moneyという会社からリリースされていますが、パッケージのつくりが簡素で(ジャケはリーフレットではなくペラ1枚)、匂いとしてはブートっぽい雰囲気が漂っています。

 全28曲入りという点も、お得感よりブート的な詰め込み感のほうが勝っているかも知れません。
 とはいえ、現在入手できるCDでは、唯一ヴィンテージ時代の音源をまとめた単独CDだと思います。
 音も悪くないので(LP時代と違い、最近のスタジオ音源のブートは音が悪い方が珍しい)、ありがたく拝聴しましょう。

 さて、Jivin' Geneです。
 この人は、本名をGene Bourgeoisというらしいのですが、Geneというのは、正式名の可能性もありますが、通常はEugene(ユージーン)の愛称(短縮形)です。

 まあ、これは普通ですが、姓の方が興味深くて、Bourgeoisという珍しい姓は、フランス語を語源とする「ブルジョワ(資産階級)」という意味の英語です。
 
 やはり、スワンプ・ポップ・シンガーは、ケイジャン(仏系米国人)なのだな、などと一人得心してしまうのでした。

 この人については、あまりよく分からないのですが、Huey Meauxの経歴をまとめた文章などでは、しばしば名前が特記されています。
 Jivin' Geneという芸名を付けたのが、Hueyだと記している文章もあります。
 また、その流れからいきますと、最初のプロデューサーはHuey Meauxだったということなんでしょうか。

 初期のレコード自体は、JinというFloyd Soileauが設立したレーベルから出ています。
 番号からいっても、ごく初期の契約アーティストだったのでしょう。

 最初の代表曲、"Going Out With the Tide"のレコード番号は、Jin 109でした。
 もうひとつの代表曲、"Breakin' Up Is Hard To Do"は、Jin 116です。
 (レーベルは、100盤か101盤からスタートしたのではないでしょうか。)

 ところで、本盤には、"Breakin' Up Is Hard To Do"が4バージョンも収録されていて、冒頭の1曲目に(Orig Hall 103)として収録されているバージョンがあります。
 これは、普通に考えると、オリジナル盤だという意味にとれます。
 (Jin 116は、トラック12に入っています。)

 これこそが、Heuy Meaux制作のオリジナルなのでしょうか?
 Hallというレーベルも含め、気になります。

 さて、"Going Out With the Tide"ですが、私は、Freddy Fenderのバージョンで親しんできた曲です。
 FreddyとTommy McLainとのデュオもあったような気がします。

 今回、Jivin' Geneのオリジナルを聴いて思ったのですが、いかにもヴィンテージ期のスワンプ・ポップという感じで、その空気感がたまりません。

 アレンジは、ホーンの導入とゆったりした三連リズムから、ニューオリンズR&B調ですが、曲調からは古いヒルビリーのような雰囲気がします。
 しかし、作者クレジットはHuey Meauxとなっているものが多いようです。

 このヒルビリー(マウンテン・トラッドなど)や、ニューオリンズR&Bとの深いつながりこそ、初期のスワンプ・ポップを特徴づける音だと思います。
 むしろそこには、フランス的匂いはあまり感じられません。

 さらに、時代が下がって60年代半ばになると、メンフィス・ソウルやJBなどの影響が出てきます。
 いずれにしても、そのときどきの黒人音楽の趨勢を反映したサブ・ジャンルなのだと感じます。

 "Swamp Pop - Cajun and Creole Rhythm and Blues"という本の著者、Shane K. Bernardによれば、58年がスワンプ・ポップの黄金時代の始まりの年だそうです。
 "Going Out With the Tide"は、その58年にリリースされています。
 さらに、"Breakin' Up Is Hard To Do"もまた58年リリースです。

 ちなみに、そのほかの58年のスワンプ・ポップのヒット曲は、Jimmy Clantonの"Just a Dream"、Cookie and the Cupcakesの"Mathilda"、Rod Bernardの"This Should Go On Forever"、Jimmie Donleyの"Born to Be a Loser"などがあります。

 いずれ劣らぬ珠玉作ですが、中でも"Just a Dream"がナショナル・ヒットしたため、このジャンルを知らしめる代表曲となりました。
 ナショナル・ヒットは、ジャンルをクロスオーバーしたカバーが生まれやすいです。

 バーナード氏は、いつがスワンプ・ポップの最盛期か明記していませんが、この爆発期最初の年が大きなうねりを生み出した年と言えるでしょう。
 彼によれば、ブリティッシュ・インベイションの来襲の年である64年を、スワンプ・ポップ黄金時代の終焉としています。

 これからいきますと、私がスワンプ・ポップに親しんだ最初の頃のアーティスト、Clint Westなどは終焉期以降に活躍してきた人だったりして、認識を新たにしたところです。

 プレ爆発期の58年以前は、スワンブ・ブルースとニューオリンズR&Bの代表曲、例えばGuitar SlimやBobby Charlesなどの曲に、スワンプ・ポップ誕生への萌芽がみてとれるような気がします。
 (ただし、これはスワンプ・ポップ中華思想の視点でみた話です。メインストリームの音楽シーンはもちろん、ブルース、R&Bもスワンプ・ポップなど、さほど関係ないところで発展していきます。)

 今回は、個別の曲について触れません。
 なにしろ、その音楽世界にひたっているだけで幸せな気分になれるのです。

 全28曲、なんの淀みもなく聴きとおすことが出来ます。
 とてもリラクゼーション効果の高い音楽だと感じました。
 これは、Bobby Charlesの初期の音源を初めて聴いたときと少し似ています。

 さらにいいますと、初期のBobby Charlesには、若干性急感を感じさせる曲もありましたが、本盤収録曲は、いずれもほんわかムードのなか、至福のひとときを過ごせるナンバーぞろいとなっており、弛緩効果はより増しています。
 曲によっては、後のCharlie Richのカントリー・ソウルに通じるようなものも見受けられます。

 本盤の流通は、あまりいいとはいえませんので、中古盤店などで見つけたら、ぜひゲットしていただきたいです。
 音楽全体からにじみ出る、しみじみとした幸福感、連休中日(なかび)を怠惰に過ごす日向ぼっこ感、などなど、何とも表現しがたいこの空気感を味わっていただきたいものです。

 また、宝物の1枚が加わった、そういいたいです。


 追記
 個別の曲については言及しないと書きましたが、きっと気になるに違いないことだけ記しておきます。
 トラック15の"Poor Me"は、ご想像のとおり、Fats Domonoのカバーです。
 そして、もう1曲、トラック23の"Release Me !"は、ホンキートンク・カントリーの名作で、黒人音楽では、エスター・フィリップスやジョニー・アダムスのカバーで有名なあの曲で間違いありません。

 いずれも、Jivin' Geneのバージョンは、時代の空気感も加味されて、素晴らしい味わいを堪能できます。




Breaking Up is Hard to Do by Jivin' Gene and the Jokers







シャーリー&リー、無類のデュオ

 私は、時々思い出したように得心することがあります。
 「ああ、自分は黒人音楽が好きなんだ」ということです。
 心の琴線に触れる古いリズム&ブルースを聴いたとき、特にそういった思いがつのります。

 私は、最近、Nick LoweとJohn Hiattの新作を聴きました。
 わくわくして待っていたアイテムでしたが、実は最もわくわくしていたのは、CDが届くまでの間だったのだと思いました。
 彼らの音楽に、昼も夜もなく身を焦がしたのは、はるか昔のことになりつつあります。

 こういったとき、私が改めて思うのは、私はロックが好きなのではなく、きらきらと輝いている音楽が好きなのだということです。
 とはいえ、私は、今後も彼らの作品に気をかけ続けるでしょう。
 もう一度、1曲1曲をなめるように聴いた、あの頃のトキメキが戻ってきてほしいと願っています。

 今回取り上げたものに、決して新しい要素はありませんが、私にとっての癒しの音楽です。

 

Let The Good Times Roll
Shirley and Lee

1. Let the Good Times Roll (Leonard Lee)
2. A Little Word  (Leonard Lee)
3. I Feel Good  (Leonard Lee)
4. All I Want to Do Is Cry  (Leonard Lee)
5. You'd Be Thinking of Me  (Leonard Lee)
6. Rock All Night  (Leonard Lee)
7. That's What I Wanna Do  (Leonard Lee)
8. I'm Gone  (Leonard Lee, Dave Bartholomew)
9. Sweethearts (Shirlie Goodman, Leonard Lee)
10. That's What I'll Do (Leonard Lee)
11. Shirley, Come Back to Me (Shirlie Goodman, Leonard Lee) 
12. Shirley's Back (Shirlie Goodman, Leonard Lee)
13. Don't You Know I Love You (Alvin Tyler)
14. Feel So Good (Leonard Lee)
15. Come on and Have Your Fun (Leonard Lee)
16. I'll Thrill You (Leonard Lee)
17. Don't Leave Me Here to Cry (Leonard Lee)
18. Before I Go (Leonard Lee, Shirlie Goodman, Earl Palmer)
19. The Reason Why (Shirlie Goodman, Leonard Lee)
20. I Didn't Want You (Leonard Lee)
21. I'll Do It (Deed I Do) (Leonard Lee)
22. Everybody's Rockin' (Leonard Lee)
23. Rockin' With the Clock (Leonard Lee, Eddie Mesner)
24. Lee's Dream (Leonard Lee)
25. The Flirt (Leonard Lee, Eddie Mesner)
26. Korea (Shirlie Goodman, Leonard Lee)
27. Comin' Over (Leonard Lee)
28. Marry Me (Earl Palmer, Leonard Lee)
29. When the Day Is Done (Leonard Lee)
30. True Love (Never Dies) (Leonard Lee)

 Shirley & Leeを初めて聴いたのは、日本盤LP「アメリカを聴こう」シリーズの中の収録曲としてでした。
 現物に当たらずに書いていますが、代表曲、"Let the Good Times Roll"と"I'm Gone"が出会いだと思います。

 "Let the Good Times Roll"は、不思議な曲ですね。
 というか、変な曲というべきかもしれません。
 なんだか、すっとんきょうに弾むなピアノのイントロで始まり、そこへワン・アンド・オンリーのデュエットがのってきます。

 とりわけ、女性ボーカルのShIrleyの声や歌い方が変で、印象的とかいう言葉を超えています。
 非常に甲高くとんきょうな声で歌う人で、他に比較できる人はいないでしょう。

 文章で表現するのが困難ですが、あえて、この曲を聴いたことのない、中高年向きに比喩をしますと、さくらと一郎の「昭和枯れすすき」を苦し紛れに例えさせてください。

 あの曲は、スムースな男性シンガーの歌いだしを受けて、不意うちのように発せられる、一見調子はずれかのような「いーえ」という女性シンガーのレスポンスが衝撃的でした。
 あのとんきょうな高い女性パートの歌いだしのスリリングさ、そこにShirley & Leeとの共通性を感じます。

 今回、曲のクレジットを確認して、男性シンガーのLeonard Leeが、ほとんどの曲を書いており、彼が優れたソング・ライターであることを知りました。

 男性シンガーのLeeは、Shirleyの甲高いとんきょうなボーカルに合わせて、しばしばユーモラスな歌い方をしており、お似合いのカップルだと思っていましたが、今回、30曲を聴きなおしてみて、実は味のあるいいテナー・シンガーだと気付きました。
 Leeがメインをはる曲や、ソロ・パートが長い曲を聴くとそれが分かります。

 今回の私の注目曲は、以下の通りです。

2. A Little Word 
3. I Feel Good 
4. All I Want to Do Is Cry
5. You'd Be Thinking of Me  
7. That's What I Wanna Do
8. I'm Gone  
10. That's What I'll Do
12. Shirley's Back
14. Feel So Good
20. I Didn't Want You 
24. Lee's Dream  
27. Comin' Over

 トラック2の"A Little Word"は、初めて聴いたとき、どうも居心地の悪い、そわそわとした気分になりました。
 この曲には、なんだか聞き覚えがあるのです。

 しばし頭をひねりましたが、解答が閃けば何ということはない、Lloyd Priceの大名作、「ジャスト・ビコーズ」のメロディそのものではないですか。

 このような有名曲でも、歌詞が違うとすぐにマッチングしないものなのでした。
 作者がLeeとなっていますが、まあ黒人音楽では、似た曲を自作として発表するのはさほど珍しいことではありません。

 トラック3の"I Feel Good"は、トラック14の"Feel So Good"と併せて聴きたいかっこいいリズム・ナンバーです。
 聴いていて、とても元気になれる曲で、二人の軽快なコンビネーションが最高に決まった傑作だと思います。

 "I Feel Good"は、Leeの比較的長めのソロ・パートで始まる曲で、彼の艶のあるテナー・ボイスを堪能できます。
 もちろん、女性パートに切り替わる瞬間はスリリングでたまりません。

 "Feel So Good"は、"Let the Good Times Roll"と似たイントロで始まる曲で、Swamp Popシンガーに人気の曲だと思われます。
 兄妹デュオ、Van & Graceのカバーが聴きものです。

 トラック4の"All I Want to Do Is Cry"ですが、この言い回しは慣用句なのでしょう。
 同名またはよく似たタイトルの曲があります。
 これはLee作のオリジナルです。

 トラック5の"You'd Be Thinking of Me"は、とてもブルージーな曲で、この時代ではよくあるスタイルですが、ここではLeeがチャールズ・ブラウンばりの素晴らしい喉を聴かせています。

 トラック7の"That's What I Wanna Do"は、Shirleyが出てくると一瞬で世界がユーモラスになる、ハッピーな展開が楽しめます。

 トラック8の"I'm Gone"もまた、Shirleyが最高のパフォーマンスを聴かせる曲です。
 この曲の展開は、まさに、さくらと一郎を連想します。

 トラック10の"That's What I'll Do"は、最近の私のお気に入りの一人、Swamp PopシンガーのWayne Foretの秀逸なカバーがあります。

 トラック12の"Shirley's Back"は、トラック11の"Shirley, Come Back to Me"と組みになっているのでしょうか。
 ここでは、Shirleyが「ただいま」と何度か呟き、Leeが「おかえり」と返す、それだけの曲のようです。
 2曲には、ストーリーに連続性があるのではとも思いますが、精査できていません。

 トラック20の"I Didn't Want You"は、一転してLeeが「ごめんなさい」と謝罪し続けるブルージー・バラードです。
 曲名との関係が知りたいですね。

 トラック24の"Lee's Dream"は、ほぼLeeのソロ・パートで珍しく構成されている曲で、Shirleyが語りのセリフのみで出てくるのが面白いです。
 曲の雰囲気は、そこはかとなく、Johnny Aceを連想させます。

 トラック27の"Comin' Over"は、調子のいい軽快な曲で、サビこそ違いますが、前半のメロディは「ホール・ロッタ・シェイキン・ゴーイン・オン」を連想させます。

 30曲を一気に聴きとおすのは、正直疲れますが、こういう好きなアーティストだと、あれこれ思うことが湧き出してきて、充実した時間を過ごすことが出来て楽しいです。



I Feel Good by Shirley & Lee




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ブルースの詰め合わせ

 「痛快丸かじり」
 最初の1音を聴いた瞬間に頭に浮かんだ言葉です。
 なかなかにカッコイイ出だしで、期待が高まりました。

 ところが、ボーカルが出てくると、若干意外な感じを受けます。
 私が持っているJohnny Winterの印象は、もっとドスが効いた声だったはずだからでした。

 年齢のなせる変化でしょうか。
 それとも、録音やミックスのせい?
 曲によっては、楽器の音圧に、ボーカルが若干押され気味な印象を受けました。


Roots
Johnny Winter 

1. T-Bone Shuffle : with Sonny Landreth
2. Further On Up The Road : with Jimmy Vivino
3. Done Somebody Wrong : with Warren Haynes
4. Got My Mojo Workin' : with Frank Latorre
5. Last Night : with John Popper
6. Maybellene : with Vince Gill
7. Bright Lights, Big City : with Susan Tedeschi
8. Honky Tonk : with Edgar Winter
9. Dust My Broom : with Derek Trucks
10. Short Fat Fannie : with Paul Nelson
11. Come Back Baby : with John Medeski

 Johnny Winterの最新作です。
 彼のスタジオ盤を聴くのは久々です。

 私は、最近では、少し前からリリースされている、ブートレグ・シリーズという、オフィシャルの発掘ライヴ盤シリーズをいくつか聴いていました。

 でも、スタジオ盤は、調べたところ、92年の"Hey, Where's Your Brother"を聴いたのが最後のようです。
 実に20年近く聴いていないことになります。
 驚きです。

 少し前に、George Thorogoodの最新作を聴いたときと少し似ています。
 どちらも、関心を持って聴いていたアーティストではありますが、次第に興味が薄れて疎遠になっていたのです。

 今回、このアルバムに興味を持って入手したのも、Thorogood盤同様、私好みの企画盤だったからです。

 George Thorogoodのそれが、シカゴ・ブルースへのオマージュだったように、これは、Johnny Winterが好んで聴いてきたブルースを追体験する内容になっています。
 タイトルはベタですが、ずばり「ルーツ」です。

 テキサス、ウエストコーストのブルースから、シカゴ・ブルース、チャック・ベリーのR&RからR&Bの古典まで、範囲は広いですが選曲はオーソドックスです。

 今作では、各曲にそれぞれ別のゲスト・ギターリストが参加していて、ギター・プレイは、彼らに敬意を表したつくりになっています。

 クレジットによれば、Johnnyがメインなのは1stソロだけで、イントロやおかずのフレーズ、そして2ndソロはゲストに出番を譲っています。

 各曲で、様々なゲストが、それぞれ個性を発揮していますが、実は全体のサウンド・カラーを決定づけているのは、プロデューサーであり、リズム・ギターリストである、Paul Nelsonによるところが大きいように感じました。

 この人は、輪郭のはっきりした魅力的なギターを弾いています。
 さらに、ゲストが弾いたとされる「フィル」が効果的で、こくと深みのあるブルース・アルバムに仕上がっています。

 このあたりは、誰にプロデュースを任せても、いつだって直球勝負のGeorge Thorogoodとは、少し違う印象を受けました。

 さて、中身ですが、まず冒頭のT-Bone WalkerとBobby Blandの名作連打が良いです。
 "T-Bone Shuffle"では、お馴染みのリフがいいのは当然として、リズム・ギターに絡むサニー・ランドレスのおかずが良くて、自然と頬が緩んでしまいます。

 "Further On Up The Road"は、誰がやっても名曲ですね。
 ただ、実は私は、Jimmy Vivinoという人物が誰か知りません。
 この曲でも、しっかりとしたリズム・ギターが全体を締めているのが印象に残ります。

 Johnny Winterは、テキサス・スタイルだけでなく、シカゴ・ブルースもうまくて、私は、80年代のアリゲーター時代にやっていた、"Serious Business"あたりの攻撃的なシカゴ・ブルースも好きです。

 本盤では、比較的淡々とやっていて、凶悪な突っ込みとかないので、このあたりをどう感じるかは好みの問題でしょう。
 私はと言えば、どちらも好きです。

 よく考えると、今作はあえて「ルーツ」をテーマに掲げていますが、Johnnyのアルバムはいつの時代だってルーツを探求していたように思います。
 その意味では、今作はゲストに敬意を払うあまり、少しフォーマルなJohnnyになっているかも知れないです。

 私の考えるところ、カジュアルなJohnnyは、Swamp Popも大好きだったはずです。
 コロンビアからメジャー・デビューする以前は、シリアスなブルースより、三連のマイナー・バラードとか、R&Bテイストが強い何でもありの音楽をやってました。

 さて、その他の曲も聴きましょう。

 スーザンとデレク夫妻の参加曲もいいですが(特にダンナが参加したエルモアが美しい。)、私の推しは、Vince Gillがボーカリストではなくギターリストとして参加した、"Maybellene"、そして、バンドの要であり、セカンド・ギター兼プロデューサーである、Paul Nelsonがリードを弾いた、"Short Fat Fannie"です。

 "Maybellene"では、Vince Gillによる、他のゲストとは明らかに違う、軽快なライト・ゲージのギャロッピング風プレイを聴くことが出来ます。
 Vince Gillは、確かセッション・ギタリスト出身で、エミルー・ハリスのホット・バンドでギターを弾いたことが大きなステップになった人だった気がします。

 "Short Fat Fannie"は、Paul Nelsonのソウル・ダンス風のバッキングが見事で、さらにリードとサイドを巧みに行き来しながら展開する、スイング感溢れるプレイが美しいです。 

 そして、ラストはレイ・チャールズのブルース・バラードで締めです。
 間奏では、ゲストによるグルーヴィーなオルガンが独演会をやっています。
 そこへ負けじとカットインしてくるJohnnyのギターが雰囲気満点で私は好きです。
 こういうのがもう1曲くらいあっても良かったかも…。

 全体的に、ノイジーなサウンドとは無縁で、開放弦がグワングワン鳴るようなラウドさも控えめなので、とても聴きやすいアルバムに仕上がっています。

 なお、日本盤には、ライヴ音源のボートラが2曲追加されているようです。









   
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