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バリオでロッキン

 Barrioという言葉があります。
 通常は、米国のヒスパニック居住地やスペイン語圏の都市区域を指すらしいです。
 一般的には、ウエストコーストの特にイーストL.A.と呼ばれる地域、そしてテキサスのサン・アントニオ等が代表とされているようです。

 本盤は、60年代イーストL.A.の音楽シーンを記録し続けた、Rampart Recordsとその関連レーベルのコンピレーション・アルバムです。
 その内容は、特定のレーベルに焦点を当てたものではありますが、事実上、60sチカーノ・ロック(チカーノR&B)の代表曲を集めたコレクションになっているのではないかと思います。


East L.A.
RockIn' The Barrio
Eighteen Hits From The '60s
 

1. Land Of 1000 Dances (Naa, Na, Na, Na, Naa) : Cannibal And The Headhunters
2. Rainbow Stomp (Pt. 1) : The Mixtures
3. Remember The Night : The Atlantics
4. This Is The Night : Larry Tamblyn  
5. Strange World : The Majestics  
6. Don’t Let Her Go : The Romancers
7. Evil Ways : The Village Callers  
8. The Return Of Farmer John : The Salas Brothers with The Jaguars
9. Where Lovers Go : The Jaguars (inst.)
10. Darling (Please Bring Your Love) : Phil and Harv with The Mixtures
11. Leaving You : The Salas Brothers
12. Take My Heart : The Romancers
13. Farmer John : The Premiers
14. La La La La La : The Blendells
15. Follow The Music : Cannibal and The Headhunters
16. Hector (Pt. 1) : Village Callers (inst.)
17. Poquito Soul : One G Plus 3 (inst.)
18. Brown Baby : Willie G  

 大きなくくりでは、60sガレージ・パンクのコンピの1種ですが、さらにニッチなテーマ付けがなされているわけで、あるいは聴き手を選ぶものかも知れません。
 もちろん、私は大好きです。

 こういったテーマで編まれたコンピというのは、絶対数こそ少ないですが、それなりにあるようです。
 私は、いくつか複数の編者が編んだCDを聴きましたが、思いのほか似た内容のものが多く、その傾向から、ある程度定番というものがおぼろげながら分かった気がしました。 

 私は、本盤は、このテーマのコンピで、かつ1枚ものとしては、まず最初に聴くべきベーシックなアイテムのひとつではないかと思います。
 50年代の先駆者たち(知名度の高いリッチー・バレンスやチャン・ロメロ)が対象外となっているため、よりテーマが鮮明になっている気がします。

 曲数も18曲とほどよくて、おじさんとしてはこのくらいが良いです。
 最近のリイシューCDは、30曲とか当たり前のようにあって、聴きとおすのに疲れますよね。 

 ただ、先に述べましたように、これはシーンを横断した網羅的なものではありません。
 タイトルからは判別しがたいですが、あくまでイーストL.A.の特定のレコード会社のレーベル・コンピだということです。

 Rampart Recordsとその関連レーベルの音源を集めたもので、全てEddie Davisという人物がプロデュースに関わっています。
 本来なら、Rampart Records Storyとか、Eddie Davis Worksといったタイトルであるほうが、親切ではあります。

 しかし、私の思うところ、事実上、このRampartというのは、イーストL.A.のチカーノ・ロックを代表するレーベルなのではないかと思います。

 私もこのディープな世界を僅かに覗きこんだばかりで、確証はありませんが、Thee Midnitersがもれていること以外、特段違和感を感じない選曲になっていると思います。
 (その代りといってはなんですが、元Thee Midnitersのリード・ボーカリスト、Little Willie Gのソロ作の代表曲が収録されています。)

 Eddie Davisという人は、多分アングロ・サクソンだと思いますが、モータウンやベリー・ゴーディの仕事に憧れを持っていたようで、サウス・ルイジアナのシーンに例えるなら、Eddie ShulerやJ.D.Millerのような役割を果たした人なのかも知れないな、と私は思い始めています。

 さて、中身を聴いてみましょう。
 内容は、都市部の若いチカーノたちが、当時好んで聴いたに違いない音楽が詰まっています。

 その内容は、いくつかのグループ分けが出来るようです。
 仮に、5つに分けてみましょう。
 次のとおりです。

(初期のスタイル)
ガレージR&B系
ドゥワップ
マージービート
(中期以降のスタイル)
ラテン・ロック
ノーザン、スイート・ソウル系

 具体的に分けるとこうなります。

ガレージR&B系
1. Land Of 1000 Dances (Naa, Na, Na, Na, Naa) : Cannibal And The Headhunters
2. Rainbow Stomp (Pt. 1) : The Mixtures 
8. The Return Of Farmer John : The Salas Brothers with The Jaguars
13. Farmer John : The Premiers
14. La La La La La : The Blendells

ドゥワップ
3. Remember The Night : The Atlantics
4. This Is The Night : Larry Tamblyn
10. Darling (Please Bring Your Love) : Phil and Harv with The Mixtures
11. Leaving You : The Salas Brothers

マージービート
5. Strange World : The Majestics
6. Don’t Let Her Go : The Romancers
12. Take My Heart : The Romancers

ラテン・ロック
7. Evil Ways : The Village Callers
16. Hector (Pt. 1) : Village Callers (inst.)
17. Poquito Soul : One G Plus 3 (inst.)

ノーザン、スイート・ソウル系
15. Follow The Music : Cannibal and The Headhunters
18. Brown Baby : Willie G

その他
9. Where Lovers Go : The Jaguars (inst.)

 とりあえず、こんな感じです。

 まず、仮にガレージR&B系としたものは、R&Bのカバーをスモール・コンボ・スタイルでやったもので、主として南部R&Bのカバーがメインです。
 がやがや、ざわざわしたSEを配したアレンジが散見され、ライヴ感を生かした肌触りが売りといえるかも知れません。

 "Land Of 1000 Dances"は、チカーノの人気曲なのでしょう。
 邦題「ダンス天国」ですね。
 この曲は、Thee Midnitersも、さらにガレージ感満載のアレンジでやっています。

 オリジナルは、ニューオリンズR&BのChris Kennerで、パブ・ロック・ファンには、ブリンズリーがカバーした、"I Like It Like That"でも知られています。
 少しとぼけた味のあるシンガーで、アラン・トゥーサンの影響が大きい人だと思います。

 「ダンス天国」は、最も有名なバージョンはWilson Pickettだと思いますが、特徴的な「ナー ナナナ ナー」というフレーズは、Chris Kennerの原曲にはなく、このCannibal and The Headhunters盤が最初らしいです。
 Pickettは、このHeadhunters盤を参考にしたということになります。

 このアレンジは、リード・シンガーのCannibal(Frankie Garcia)が、歌詞を忘れたとき、とっさにその場をつくろうため、発したのが最初だと伝えられているようですが、私は、何となく話を作っているような気がします。
 考えられたアレンジだと思うからです。

 ちなみに、本盤のセッション・データによれば、このアレンジは、Frankie Garcia & Blendellsによるものだと記されています。

 Blendellsは、本盤のトラック14に収録されてる"La La La La La"で知られているバンドで、この曲がまさに「ラララララ」という意味のないフレーズが全編を支配する曲なのでした。
 Frankie GarciaとBlendellsとの関係についてはよく分かりません。

 The Mixturesについては、先ごろ単独のリイシュー盤がリリースされたばかりですね。
 私は未入手ですが、黒人、白人(ここではアングロ・サクソン)、チカーノ(ブラウン)混成のバンドのようです。
 バンドの名前からして混成という意味です。
 主としてソウル・インストを得意としています。

 Salas Brothersは、後にティアラというチカーノ・ロック・バンドを組んだチカーノ音楽では有名な兄弟らしいです。
 スイートなハーモニーが売り物で、しばしばセッションで他人のコーラスなどもやっているようです。
 このあたりは、まだまだ聴けてないので、今後さらに奥深く分け入りたいと思っています。

 Atlanticsの"Remember The Night"は、既存のドゥワップの名作のタイトルや、有名フレーズが次々と出てくるドリーミーなナンバーで、大好きな曲です。
 その他ドゥワップ系の曲は、いずれも素晴らしく、チカーノのブラック・ハーモニー好きがよく表れています。

 興味深いのは、マージービート系で、これらからはチカーノぽさは希薄ですが、普通によいです。
 まあ、全米が英国60sビートの流感にかかっていたのですから、チカーノ少年たちも例外ではないわけです。

 ここに入っているのは、たまたまでしょうか、いずれもロンドン系ではなく、リバプール系のいわゆるマージービートです。
 そして、サーフ・バンドあがりであることが見え隠れするサウンドが愛おしいです。

 ラテン・ロック系としたバンドは、ラテン・ファンクともいうべき陽気なエンドレス・チューンで延々と迫ってきます。
 オルガンとブラスのアンサンブルが好きな方にはたまりません。

 ノーザン、スイート・ソウル系としたものは、ガレージR&B系の洗練版でしょうか。
 とりわけ、Little Willie Gが歌う、チカーノ女性の美しさを讃えた、"Browm Baby"がとろけそうなスイート・チューンで美しく、この分野の定番の1曲でしょう。
 サラス兄弟がコーラスを付けているらしいです。

 とりあえず、奥深いディープな世界へのパイロット的コンピと言えると思います。
 同テーマのコンピでは、"The West Coast East Side Sound"という全4枚からなるシリーズがあり、ダブリも多いですが、さらにずぶずぶとはまることが出来ます。




Land Of 1000 Dances by Cannibal And The Headhunters




Brown Baby by Willie G




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