2014年11月14日
テキサス遠征 面影を追って
届いたパッケージを裏返して驚きました。
若いBen Vaughnと、在りし日のDoug Sahmのツーショット写真が眼に飛び込んできたのです。
"Texas Road Trip"という、アルバム・タイトルからして、何となく予感はありました。
だって、Ben Vaughnは、ニュージャージーだかフィラデルフィアだかの出身のはずです。
この人のテキサス好きは分かっていましたが、だからこそ期待していいんじゃないの?
そんな密かな私の思いは、見事に当たっていたのです。
「テキサス遠征」
なんて素敵なタイトルなんだ。
本盤は、Ben VaughnからDoug Sahmファンへの嬉しい贈り物になっています。
1. Boomerang (Ben Vaughn, Bill Lloyed)
2. Miss Me When I'm Gone (Ben Vaughn)
3. I'll Stand Alone (Ben Vaughn)
4. Fire in the Hole (Ben Vaughn)
5. Texas Rain (Ben Vaughn)
6. Sleepless Nights (Ben Vaughn)
7. She Fell Out the Window (Ben Vaughn)
8. Heavy Machinery (Dan Marcus)
9. Seven Days Without Love (Ben Vaughn, Bill Lloyed)
10. Six By Six (Ben Vaughn)
本盤は、今年リリースされた、Ben Vaughnの最新作です。
アマゾンのクレジットによれば6月24日発売となっていますが、私はつい最近まで、その存在に気付きませんでした。
ルーツ・ロッカー、Ben Vaughnは、日本ではあまり話題にならない人ではないかと思います。
この人には、"She's About A Mover"のカバーがあり、それで私もかろうじて知っていた人です。
この人は、おそらくはエンジニア系の人ではないかと思われ、スタジオ大好きのオタっぽい匂いがします。
私は、アーティストとしてより、プロデューサーとして先に知っていたのだと思います。
この人は、ほぼ引退して、バスの運転手をしていた偉大な歌手をくどき、アルバム1枚分の録音をさせた人です。
その歌手とは、Arthur Alexander
それは結果的に、Arthurの最後のスタジオ録音になりました。
最高の伴奏者をそろえ、素晴らしい演奏と歌唱を記録した、その功績は特筆すべきだと思います。
Arthur Alexander最後のオリジナル・アルバム、"Lonely Just Like Me"、未聴の方はすぐ聴きましょう。
さて、そんなBen Vaughnさんですが、今回、またも嬉しいお膳立てのうえ、本盤を創ってくれたのです。
本盤の録音に参加したのは、以下のメンバーです。
Ben Vaughn : guitar, harmonica, vocals
Augie Meyers : vox organ, accordion, piano
Alvin Crow : fiddle
John X Reed : guitar
Speedy Sparks : bass
Mike Buck : drums
Scott Esbeck : background vocals
Produced by Ben Vaughn
Recorded at Wire Recording, Austin TX.
思わず、「わかってるねえ Benさん!!」
と、快哉を叫びたい、そんな仕事ぶりです。
プロデューサーの仕事の大半は、資金繰り(調整)とキャスティングです。
Arthurとの仕事がそうであったように、条件(場所と人とモチベーション)をそろえたら、後は自然な化学反応を待つ、ということでしょう。
リスト最後のScott Esbeckさんは未知の人ですが、それ以外のメンツは、Doug Sahm人脈の主にリズム・セクションの常連たちで、この人たちを集めてアルバムを創ろうなんて、発想の段階で大成功ですね。
おそらく、集められた人たちは、特別な気持ちでスタジオに入ったに違いなく、こみ上げてくる想いがあったろうと推察します。
Doug Sahmの盟友、Augie Meyersは、ついこの間、最新作"Santa Fe"をリリースしました。
そして11月は、例年、Doug Sahmのメモリアル・イベントが開催されており、今年もJoe King Carrascoと一緒に出演する予定です。
Alvin Crowは、久々の登場という印象です。
Takoma時代(81〜83年)のSir Douglas Quintetで、ギター(とフィドル)を担当していた人で、自身がリーダーのバンドではウエスタン・スイングをやっていました。
86年の覆面バンド、Texas Mavericksにも参加し、Rockin' Leonの変名でギターを弾き、ボーカルを担当した曲では、ヒーカップ唱法を聞かせていました。
今作では、フィドルでの参加ということで、特定の曲のみの参加だったのかも知れませんが、きっと懐かしい面々と旧交を温めたことでしょう。
ギターのJohn X Reedの近況はどうだったのでしょう。
少なくとも、昨年13年までは、Lucky Tomblin Bandでツアーをしていたと思われます。
Louie Ortegaではなく、John X Reedが呼ばれたのは、特に理由はないと思いたいです。
John X Reedは、(伝説の)Freda & The Firedogsのギターリストだった人で、おそらくDoug Sahmとの出会いはその頃だと思います。
その後、John X Reedは、Sir Douglas Quintetの77年のアルマディロ・ヘッドクォーターの同窓会ライヴに参加したほか、80年のDougのソロ作、"Hell Of A Spell"、そして86年のTexas Mavericksでもギターを弾きました。
ベースのSpeedy Sparksは、(存在さえ知らなかった、又は知られていなかった)97年のソロ・アルバムが、12年にMP3で配信されました。
CDでのリイシューは、どうやらないようなので、私はしびれを切らせて購入しました。
が、今からでも全然OKなので、出来ればCD化してほしいです。
(実は、97年リリースというのは情報だけで、当時本当にリリースされたのか、確たることは不明です。)
Speedy SparksとDoug Sahmとの出会いの時期はよく分かりませんが、Sparksは、81年の"Border Wave"に参加して以降、86年の"Texas Mavericks"、90年以降の"Texas Tornadosの全てのアルバムに参加しています。
Doug Sahmのベーシストと言えば、Jack Barberか、この人という印象が強いので、Jackの近況も気になります。
ドラムスのMike Buckは、Doug Sahmとの関係では、George RainsやErnie Durawa、John Perez(故人)ほどの常連ではないです。
名前をあげた、かつての仲間たちも、当然ながら年齢を重ねているわけで、壮健でいてほしいです。
Mike Buckは、T-Birdsの初期メンバーであり、LeRoi Brothersのメンツでもありました。
90年のTexas Tornadosの1stでは、DurawaやRainsとともにドラムを叩いています。
(LeRoi Brosの92年作"Crown Royale"では、Doug Sahmが逆にゲスト参加して、"Angeline"という曲でハーモニーをつけています。)
そしてプロデュースは、当然、Ben Vaughn自身が行い、オースティンのスタジオで録音されています。
さて、収録曲ですが、Benが最も強くイメージするDoug Sahm、ということなのでしょう。
全曲、BenのペンによるDoug Sahm風のオリジナル曲で構成されています。
Benは、ブラック・ミュージックにも造詣が深い人ですが、傾向としては、Doug Sahmのカオスな音楽性のうち、Tex-Mexの側面を中心にフォーカスしたアルバムになりました。
アルバムは、Ben Vaughnの辛めの味付けを利かせた歌詞をのせ、Dougお得意のミディアム・テンポ曲でスタートし、Augieのピーピー・オルガン、のどかなアコーディオン、一転して哀愁の三連曲、ろうろうと歌い上げるバラード等々、さながらDoug Sahmのパブリック・イメージのショーケースのような展開を見せます。
また、表面上はTex-Mex中心のようですが、ホーンレス、フィドルあり、スチール・ギターなしという制約の中で、実はDoug Sahmの多彩な音楽性を再現しようと試みた、考えた構成になっているのかも知れません。
まあ、1曲くらいは、Doug Sahmのカバーがあっても良かったかも、などと思ったりしますが、きっとこれで正解なのでしょう。
とにかく、Doug Sahmゆかりの老雄たちに囲まれ、Doug Sahmのポジションで歌い演奏したBen Vaughnは、きっと本盤の制作を心から楽しんだに違いない、そう思うのでした。
関連記事はこちら
Alvin Crow
可愛い七つの子はフィドル弾き
ロッキン・レオンのふるさと
John X Reed
おいらのいい人 完熟トマト
回想のファイアドッグス
テキサス遥か
テキサスのご婦人がた
Arthur Alexander (Ben Vaughn)
本家ヘタウマ
Augie Meyers
オーガスティンの聖なる信仰
オーギーに首ったけ
曲に歴史あり、メキシコへ旅して
曲に歴史あり、セルマからヴェルマ物語
曲に歴史あり、夜の正座ものがたり
曲に歴史あり、ケパソ物語
三連符の調べで夢見心地
オーギー・マイヤースさん、気をつけて
若いBen Vaughnと、在りし日のDoug Sahmのツーショット写真が眼に飛び込んできたのです。
"Texas Road Trip"という、アルバム・タイトルからして、何となく予感はありました。
だって、Ben Vaughnは、ニュージャージーだかフィラデルフィアだかの出身のはずです。
この人のテキサス好きは分かっていましたが、だからこそ期待していいんじゃないの?
そんな密かな私の思いは、見事に当たっていたのです。
「テキサス遠征」
なんて素敵なタイトルなんだ。
本盤は、Ben VaughnからDoug Sahmファンへの嬉しい贈り物になっています。
Texas Road Trip
Ben Vaughn
Ben Vaughn
1. Boomerang (Ben Vaughn, Bill Lloyed)
2. Miss Me When I'm Gone (Ben Vaughn)
3. I'll Stand Alone (Ben Vaughn)
4. Fire in the Hole (Ben Vaughn)
5. Texas Rain (Ben Vaughn)
6. Sleepless Nights (Ben Vaughn)
7. She Fell Out the Window (Ben Vaughn)
8. Heavy Machinery (Dan Marcus)
9. Seven Days Without Love (Ben Vaughn, Bill Lloyed)
10. Six By Six (Ben Vaughn)
本盤は、今年リリースされた、Ben Vaughnの最新作です。
アマゾンのクレジットによれば6月24日発売となっていますが、私はつい最近まで、その存在に気付きませんでした。
ルーツ・ロッカー、Ben Vaughnは、日本ではあまり話題にならない人ではないかと思います。
この人には、"She's About A Mover"のカバーがあり、それで私もかろうじて知っていた人です。
この人は、おそらくはエンジニア系の人ではないかと思われ、スタジオ大好きのオタっぽい匂いがします。
私は、アーティストとしてより、プロデューサーとして先に知っていたのだと思います。
この人は、ほぼ引退して、バスの運転手をしていた偉大な歌手をくどき、アルバム1枚分の録音をさせた人です。
その歌手とは、Arthur Alexander
それは結果的に、Arthurの最後のスタジオ録音になりました。
最高の伴奏者をそろえ、素晴らしい演奏と歌唱を記録した、その功績は特筆すべきだと思います。
Arthur Alexander最後のオリジナル・アルバム、"Lonely Just Like Me"、未聴の方はすぐ聴きましょう。
さて、そんなBen Vaughnさんですが、今回、またも嬉しいお膳立てのうえ、本盤を創ってくれたのです。
本盤の録音に参加したのは、以下のメンバーです。
Ben Vaughn : guitar, harmonica, vocals
Augie Meyers : vox organ, accordion, piano
Alvin Crow : fiddle
John X Reed : guitar
Speedy Sparks : bass
Mike Buck : drums
Scott Esbeck : background vocals
Produced by Ben Vaughn
Recorded at Wire Recording, Austin TX.
思わず、「わかってるねえ Benさん!!」
と、快哉を叫びたい、そんな仕事ぶりです。
プロデューサーの仕事の大半は、資金繰り(調整)とキャスティングです。
Arthurとの仕事がそうであったように、条件(場所と人とモチベーション)をそろえたら、後は自然な化学反応を待つ、ということでしょう。
リスト最後のScott Esbeckさんは未知の人ですが、それ以外のメンツは、Doug Sahm人脈の主にリズム・セクションの常連たちで、この人たちを集めてアルバムを創ろうなんて、発想の段階で大成功ですね。
おそらく、集められた人たちは、特別な気持ちでスタジオに入ったに違いなく、こみ上げてくる想いがあったろうと推察します。
Doug Sahmの盟友、Augie Meyersは、ついこの間、最新作"Santa Fe"をリリースしました。
そして11月は、例年、Doug Sahmのメモリアル・イベントが開催されており、今年もJoe King Carrascoと一緒に出演する予定です。
Alvin Crowは、久々の登場という印象です。
Takoma時代(81〜83年)のSir Douglas Quintetで、ギター(とフィドル)を担当していた人で、自身がリーダーのバンドではウエスタン・スイングをやっていました。
86年の覆面バンド、Texas Mavericksにも参加し、Rockin' Leonの変名でギターを弾き、ボーカルを担当した曲では、ヒーカップ唱法を聞かせていました。
今作では、フィドルでの参加ということで、特定の曲のみの参加だったのかも知れませんが、きっと懐かしい面々と旧交を温めたことでしょう。
ギターのJohn X Reedの近況はどうだったのでしょう。
少なくとも、昨年13年までは、Lucky Tomblin Bandでツアーをしていたと思われます。
Louie Ortegaではなく、John X Reedが呼ばれたのは、特に理由はないと思いたいです。
John X Reedは、(伝説の)Freda & The Firedogsのギターリストだった人で、おそらくDoug Sahmとの出会いはその頃だと思います。
その後、John X Reedは、Sir Douglas Quintetの77年のアルマディロ・ヘッドクォーターの同窓会ライヴに参加したほか、80年のDougのソロ作、"Hell Of A Spell"、そして86年のTexas Mavericksでもギターを弾きました。
ベースのSpeedy Sparksは、(存在さえ知らなかった、又は知られていなかった)97年のソロ・アルバムが、12年にMP3で配信されました。
CDでのリイシューは、どうやらないようなので、私はしびれを切らせて購入しました。
が、今からでも全然OKなので、出来ればCD化してほしいです。
(実は、97年リリースというのは情報だけで、当時本当にリリースされたのか、確たることは不明です。)
Speedy SparksとDoug Sahmとの出会いの時期はよく分かりませんが、Sparksは、81年の"Border Wave"に参加して以降、86年の"Texas Mavericks"、90年以降の"Texas Tornadosの全てのアルバムに参加しています。
Doug Sahmのベーシストと言えば、Jack Barberか、この人という印象が強いので、Jackの近況も気になります。
ドラムスのMike Buckは、Doug Sahmとの関係では、George RainsやErnie Durawa、John Perez(故人)ほどの常連ではないです。
名前をあげた、かつての仲間たちも、当然ながら年齢を重ねているわけで、壮健でいてほしいです。
Mike Buckは、T-Birdsの初期メンバーであり、LeRoi Brothersのメンツでもありました。
90年のTexas Tornadosの1stでは、DurawaやRainsとともにドラムを叩いています。
(LeRoi Brosの92年作"Crown Royale"では、Doug Sahmが逆にゲスト参加して、"Angeline"という曲でハーモニーをつけています。)
そしてプロデュースは、当然、Ben Vaughn自身が行い、オースティンのスタジオで録音されています。
さて、収録曲ですが、Benが最も強くイメージするDoug Sahm、ということなのでしょう。
全曲、BenのペンによるDoug Sahm風のオリジナル曲で構成されています。
Benは、ブラック・ミュージックにも造詣が深い人ですが、傾向としては、Doug Sahmのカオスな音楽性のうち、Tex-Mexの側面を中心にフォーカスしたアルバムになりました。
アルバムは、Ben Vaughnの辛めの味付けを利かせた歌詞をのせ、Dougお得意のミディアム・テンポ曲でスタートし、Augieのピーピー・オルガン、のどかなアコーディオン、一転して哀愁の三連曲、ろうろうと歌い上げるバラード等々、さながらDoug Sahmのパブリック・イメージのショーケースのような展開を見せます。
また、表面上はTex-Mex中心のようですが、ホーンレス、フィドルあり、スチール・ギターなしという制約の中で、実はDoug Sahmの多彩な音楽性を再現しようと試みた、考えた構成になっているのかも知れません。
まあ、1曲くらいは、Doug Sahmのカバーがあっても良かったかも、などと思ったりしますが、きっとこれで正解なのでしょう。
とにかく、Doug Sahmゆかりの老雄たちに囲まれ、Doug Sahmのポジションで歌い演奏したBen Vaughnは、きっと本盤の制作を心から楽しんだに違いない、そう思うのでした。
Boomerang
by Ben Vaughn Quintet
by Ben Vaughn Quintet
Ben Vaughn - guitar, lead vocals
Gus Cordovox - accordian
Mike Vogelmann - bass
C.C. Crabtree - sax
Seth Baer - drums
Gus Cordovox - accordian
Mike Vogelmann - bass
C.C. Crabtree - sax
Seth Baer - drums
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テキサス遥か
テキサスのご婦人がた
Arthur Alexander (Ben Vaughn)
本家ヘタウマ
Augie Meyers
オーガスティンの聖なる信仰
オーギーに首ったけ
曲に歴史あり、メキシコへ旅して
曲に歴史あり、セルマからヴェルマ物語
曲に歴史あり、夜の正座ものがたり
曲に歴史あり、ケパソ物語
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