2011年08月06日
王様、わんこをレスキューする
ジャケットのイラストがポップで楽しい、Joe King Carrscoの最新作です。
今年11年のリリースで、最近気付いて入手しました。
何月に出たのかは不明です。
内容は、08年にオースティンのRuta Mayaで行われたライヴで、ホームレスと動物(主として虐待された犬)を支援する趣旨で開催さたチャリティ・コンサートの模様を収録しているようです。
チカーノ音楽のジャケでは、ドクロのイラストが定番ですが、趣旨を反映して犬のバンドが描かれています。
1. Baby Let's Go To Mexico (Light, Perez)
2. Rock Este Noche (Crrasco)
3. Mas Mas (Crrasco)
4. Banana (Carrasco, Moskito)
5. Tequila Revolution (Crrasco)
6. Rosa La Famosa (Crrasco)
7. Wasted Days and Wasted Nights (Duncan, Fender)
8. Muchos Frijoles Borracho (Crrasco, Perez)
9. Jesus Malverde (Crrasco)
10. Chihuahua (Crrasco)
11. Por Que (Crrasco)
最新作のわりには、収録からすでに3年近く経過していて、Carrascoの現況を伝える意味では、さほど新しい情報ではないですね。
とはいえ、78年のレコード・デビューから、年月の経過を感じさせない、相変わらず楽しさ満載のステージです。
本盤の出演メンバーは、次のとおりです。
Joe King Carrasco : vocal, guitar
Dick Ross : drums
Miguel Cerventes : bass, vocal
Gil Herman : sax, vocal
Louis Murillo : Percussions
相変わらずの楽しさと書きましたが、実は1点だけ、気持ちとして寂しいことがあります。
それは、編成にキーボードが欠けていることです。
といいつつも、実は、Carrascoは、初期のCrowns時代こそキーボード(アコーディオン含む)がいましたが(クリス・カミングス嬢 !)、その後は必ずしもいたわけではありません。
ですので、予断なしに虚心に聴けば、何の問題もなく楽しめます。
しかし、キーボードは、彼の過去作での能天気サウンドを形づくるうえで、とても重要な存在でしたので、あたかも必須であるかのように刷り込まれているのでした。
Nick Loweの"Half A Boy And Half A Man"を初めて聴いたとき、思わず「あっ、Joe King Carrscoのサウンドだ!」と叫ばせた大きな要因だったと思います。
さて、キーボードはありませんが、Carrscoを一度でも聴かれたことがある方なら、ここには頭に浮かばれたとおりのサウンドが展開しています。
個々の曲がどうとかではなく、とにかく楽しませることに徹したパーティ・サウンドが嬉しいです。
まさに、期待どおりのアルバムです。
というわけで理屈抜きで楽しいライヴ盤です。
かつてCarrascoを聴いて好きだった人なら、失望しない出来だと思います。
さて、ここからは蛇足です。
しばらくおつきあいください。
冒頭の"Baby Let's Go To Mexico"という曲に注目です。
私が以前から思っていることなんですが、この曲は、そもそも初出はいつで、誰がオリジネイターなのでしょうか。
私が知る限りでは、この曲は、Carrascoが84年のLP盤、"Bordertown"でやっています。
ここで思い出すのは、Sir Douglas Quintetのバージョンを収録したCDです。
Sir Douglas Quintetのマーキュリー時代中心のベスト&未発表曲集、"The Best Of Doug Sahm & The Sir Douglas Quintet 1965-1975"のブックレットによれば、"Baby Let's Go To Mexico"は未発表曲となっていました。
つまり、Quintet盤は、このCDが初出ということになります。
クレジットは89年ですが、CDのリリースは90年のようです。
これから考えると、Quintet盤は75年にハリウッドで録音されたあと、90年の上記CDで披露されるまで、文字通りお蔵入りしていたということだと思います。
やはり、そのお蔵入り曲を、Carrascoが"Bordertown"で初めて取り上げ、リリースしたということでしょうか。
ここで、気になるのことがふたつあります。
ひとつは、CarrascoとDoug Sahmとの関係です。
ふたりは近しい間柄だったのでしょうか。
(CarrascoがDougをアイドルにしていたのは間違いないと思いますが…。)
そして、もうひとつが、この曲の作者です。
この曲は、Doug Sahmの作品ではありません。
作者クレジットは、Perezとのみ記載されていることが多いですが、"Bordertown"では、Perez, Lightと共作名義になっていました。
本盤での表記も同じです。
これらに関わるつながりが確認できれば、Carrascoがオリジネイターになった(と思われる)理由も、少しは得心できるかも知れません。
まあ、状況証拠探しです。
まず、CarrascoとDougとの関係ですが、そもそもCarrascoのレコード・デビューは、El Molino Bandをバックに、まるでオルケスタのようなサウンドでスタートしました。
(最初はインディーズといいますか、もしかすると自主制作盤だったかも知れません。
ちなみに、私が最初に入手したものは、カセット・テープでした。
入手時期は覚えていません。)
このEl Molino Bandこそ、Augie Meyers(kd)、Speedy Sparks(b)、Ernie Durawa(dr)らのリズム隊に、Louie Bustos(sax)、Rockey Morales(sax)、Charlie MacBurney(tp)らを中心とするホーン陣で構成された、完全Doug Sahm人脈のバンドなのでした。
Doug本人は参加していませんが、スタートから大きなつながりがあったといっていいですよね。
Carrascoは、Dougの没後10年にリリースされたトリビュート盤では、"Adios Mexico"を録音しました。
次に作者の件ですが、Perezというのは、Johnny Perezのことです。
この人は、Sir Douglas Quintetでドラムを叩いていた人で、おそらくAugieと同じくらい、古くからDougとつるんでいた人です。
少なくとも80年代半ばころまでは、様々なDougのセッションで叩いています。
そして、Lightというのは、J.J.Lightという人で、別名(本名?)をJim Stallingsというベーシストです。
この人は、多分、70年以降に、QuintetにHarvay Kaganの後任として加入した人だと思われ、レコーディングでは、Doug抜きで録音されたQuintetのUA盤、"Future Tense"で初お目見えしています。
その後、72年の"The Return of Doug Saldanaで、正式にDougのバックを務めています。
(余談ですが、この人はネイティヴ・アメリカンの家系らしく、J.J.Light名義でルーツに根差した(?)ヒット曲を持っており、ソロ・アルバムもあります。)
というわけで、このLight、Perezコンビは、Sir Douglas Quintetのメンバーだったわけです。
さらに、Carrascoと二人の関わりでいいますと、Johnny Perezが"Bordertown"のB面4曲で、別の数名とともに、Carrascoと共同制作者としてクレジットされています。
かなりつながりましたね。、
まあ、Quintetとしては、メンバー作の曲を録音したけれど、結局アルバムに収録しなかったということなんでしょう。
作風としては、Doug作品といっても通る秀作ですので、シングルのB面で出すという手もあったと思うのですが…。
さて、本盤収録曲で、Carrascoの過去作に収録されていたのは、私の知る限り、2曲目の"Rock Este Noche"と、4曲目の"Banana"だけです。
"Rock Este Noche"は、78年の1st(and El Molino)に、"Banana"は、87年の"Bandido Rock"に収録されていました。
今回、Carrascoバージョンの"Wasted Days and Wasted Nights"が聴けたのは収穫でしたが、欲を言えば、初期の無限グルーヴもの、"Let's Get Pretty"や"Betty's World"などもライヴで聴きたかったです。
私は今、Carrascoの過去作を、まとめて聴き返したくなっています。
関連記事はこちら
若き日の王様とエル・モリーノ
コンチネンタル・クラブへようこそ
今年11年のリリースで、最近気付いて入手しました。
何月に出たのかは不明です。
内容は、08年にオースティンのRuta Mayaで行われたライヴで、ホームレスと動物(主として虐待された犬)を支援する趣旨で開催さたチャリティ・コンサートの模様を収録しているようです。
チカーノ音楽のジャケでは、ドクロのイラストが定番ですが、趣旨を反映して犬のバンドが描かれています。
Concierto Para Los Perros
Joe King Carrasco
en la Ruta Maya
Joe King Carrasco
en la Ruta Maya
1. Baby Let's Go To Mexico (Light, Perez)
2. Rock Este Noche (Crrasco)
3. Mas Mas (Crrasco)
4. Banana (Carrasco, Moskito)
5. Tequila Revolution (Crrasco)
6. Rosa La Famosa (Crrasco)
7. Wasted Days and Wasted Nights (Duncan, Fender)
8. Muchos Frijoles Borracho (Crrasco, Perez)
9. Jesus Malverde (Crrasco)
10. Chihuahua (Crrasco)
11. Por Que (Crrasco)
最新作のわりには、収録からすでに3年近く経過していて、Carrascoの現況を伝える意味では、さほど新しい情報ではないですね。
とはいえ、78年のレコード・デビューから、年月の経過を感じさせない、相変わらず楽しさ満載のステージです。
本盤の出演メンバーは、次のとおりです。
Joe King Carrasco : vocal, guitar
Dick Ross : drums
Miguel Cerventes : bass, vocal
Gil Herman : sax, vocal
Louis Murillo : Percussions
相変わらずの楽しさと書きましたが、実は1点だけ、気持ちとして寂しいことがあります。
それは、編成にキーボードが欠けていることです。
といいつつも、実は、Carrascoは、初期のCrowns時代こそキーボード(アコーディオン含む)がいましたが(クリス・カミングス嬢 !)、その後は必ずしもいたわけではありません。
ですので、予断なしに虚心に聴けば、何の問題もなく楽しめます。
しかし、キーボードは、彼の過去作での能天気サウンドを形づくるうえで、とても重要な存在でしたので、あたかも必須であるかのように刷り込まれているのでした。
Nick Loweの"Half A Boy And Half A Man"を初めて聴いたとき、思わず「あっ、Joe King Carrscoのサウンドだ!」と叫ばせた大きな要因だったと思います。
さて、キーボードはありませんが、Carrscoを一度でも聴かれたことがある方なら、ここには頭に浮かばれたとおりのサウンドが展開しています。
個々の曲がどうとかではなく、とにかく楽しませることに徹したパーティ・サウンドが嬉しいです。
まさに、期待どおりのアルバムです。
というわけで理屈抜きで楽しいライヴ盤です。
かつてCarrascoを聴いて好きだった人なら、失望しない出来だと思います。
さて、ここからは蛇足です。
しばらくおつきあいください。
冒頭の"Baby Let's Go To Mexico"という曲に注目です。
私が以前から思っていることなんですが、この曲は、そもそも初出はいつで、誰がオリジネイターなのでしょうか。
私が知る限りでは、この曲は、Carrascoが84年のLP盤、"Bordertown"でやっています。
ここで思い出すのは、Sir Douglas Quintetのバージョンを収録したCDです。
Sir Douglas Quintetのマーキュリー時代中心のベスト&未発表曲集、"The Best Of Doug Sahm & The Sir Douglas Quintet 1965-1975"のブックレットによれば、"Baby Let's Go To Mexico"は未発表曲となっていました。
つまり、Quintet盤は、このCDが初出ということになります。
クレジットは89年ですが、CDのリリースは90年のようです。
これから考えると、Quintet盤は75年にハリウッドで録音されたあと、90年の上記CDで披露されるまで、文字通りお蔵入りしていたということだと思います。
やはり、そのお蔵入り曲を、Carrascoが"Bordertown"で初めて取り上げ、リリースしたということでしょうか。
ここで、気になるのことがふたつあります。
ひとつは、CarrascoとDoug Sahmとの関係です。
ふたりは近しい間柄だったのでしょうか。
(CarrascoがDougをアイドルにしていたのは間違いないと思いますが…。)
そして、もうひとつが、この曲の作者です。
この曲は、Doug Sahmの作品ではありません。
作者クレジットは、Perezとのみ記載されていることが多いですが、"Bordertown"では、Perez, Lightと共作名義になっていました。
本盤での表記も同じです。
これらに関わるつながりが確認できれば、Carrascoがオリジネイターになった(と思われる)理由も、少しは得心できるかも知れません。
まあ、状況証拠探しです。
まず、CarrascoとDougとの関係ですが、そもそもCarrascoのレコード・デビューは、El Molino Bandをバックに、まるでオルケスタのようなサウンドでスタートしました。
(最初はインディーズといいますか、もしかすると自主制作盤だったかも知れません。
ちなみに、私が最初に入手したものは、カセット・テープでした。
入手時期は覚えていません。)
このEl Molino Bandこそ、Augie Meyers(kd)、Speedy Sparks(b)、Ernie Durawa(dr)らのリズム隊に、Louie Bustos(sax)、Rockey Morales(sax)、Charlie MacBurney(tp)らを中心とするホーン陣で構成された、完全Doug Sahm人脈のバンドなのでした。
Doug本人は参加していませんが、スタートから大きなつながりがあったといっていいですよね。
Carrascoは、Dougの没後10年にリリースされたトリビュート盤では、"Adios Mexico"を録音しました。
次に作者の件ですが、Perezというのは、Johnny Perezのことです。
この人は、Sir Douglas Quintetでドラムを叩いていた人で、おそらくAugieと同じくらい、古くからDougとつるんでいた人です。
少なくとも80年代半ばころまでは、様々なDougのセッションで叩いています。
そして、Lightというのは、J.J.Lightという人で、別名(本名?)をJim Stallingsというベーシストです。
この人は、多分、70年以降に、QuintetにHarvay Kaganの後任として加入した人だと思われ、レコーディングでは、Doug抜きで録音されたQuintetのUA盤、"Future Tense"で初お目見えしています。
その後、72年の"The Return of Doug Saldanaで、正式にDougのバックを務めています。
(余談ですが、この人はネイティヴ・アメリカンの家系らしく、J.J.Light名義でルーツに根差した(?)ヒット曲を持っており、ソロ・アルバムもあります。)
というわけで、このLight、Perezコンビは、Sir Douglas Quintetのメンバーだったわけです。
さらに、Carrascoと二人の関わりでいいますと、Johnny Perezが"Bordertown"のB面4曲で、別の数名とともに、Carrascoと共同制作者としてクレジットされています。
かなりつながりましたね。、
まあ、Quintetとしては、メンバー作の曲を録音したけれど、結局アルバムに収録しなかったということなんでしょう。
作風としては、Doug作品といっても通る秀作ですので、シングルのB面で出すという手もあったと思うのですが…。
さて、本盤収録曲で、Carrascoの過去作に収録されていたのは、私の知る限り、2曲目の"Rock Este Noche"と、4曲目の"Banana"だけです。
"Rock Este Noche"は、78年の1st(and El Molino)に、"Banana"は、87年の"Bandido Rock"に収録されていました。
今回、Carrascoバージョンの"Wasted Days and Wasted Nights"が聴けたのは収穫でしたが、欲を言えば、初期の無限グルーヴもの、"Let's Get Pretty"や"Betty's World"などもライヴで聴きたかったです。
私は今、Carrascoの過去作を、まとめて聴き返したくなっています。
Buena by Joe King Carrasco
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