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15年目の再会

 このアルバムを入手したのは、それほど前のことではありません。
 75年リリースということで、私はてっきり、同年にABC-Dotから出されたオリジナル・アルバム、"Are You Ready For Freddy ?"の次作に当たるものだと思っていました。

 ところが、現物を手にしてみますと、これは、60年代初期にWayne Duncanによって吹き込まれた音源だということが分かりました。
 明らかに、Huey P. Meaux制作の74年のNo.1アルバム、"Before The Next Teardrop Fall"の成功にあやかろうと、過去の作品をアルバム化したものなのでした。


Since I Met You Baby
Freddy Fender

Side One
1. Since I Met You Baby (Hunter)
2. A Man Can Cry (Duncan, Fender)
3. Louisuana Blues (Duncan, Fender)
4. Crazy Baby (G.Maltais)
5. I'm Gonna Leave (Duncan, Fender)
6. Little Mama (Duncan, Fender)
Side Two
1. You're Something Else For Me (Duncan, Fender)
2. Too Late To Ramedy (Duncan, Fender)
3. Find Someday New (Duncan, Fender)
4. Go On Baby (I Can Do Without You) (Duncan, Fender)
5. Wild Side Of Life (Warren, Carter) 

 本盤収録曲のいくつかは、Ray Topping編纂の英Krazy Kat盤(86年)、"The Eary Years 1959-1963"と重複しています。
 もちろん、こちらが先であるのは言うまでもありません。
 86年のKrazy Kat盤は、おそらく当時入手困難であったろう、本盤に替わるものかつ、補完するものとして出されたのでしょう。

 制作者のWayne Duncanによれば、Freddy Fenderとは58年に初めて出会ったそうです。
 南テキサスのナイトクラブで歌っているところをスカウトし、当時、本名のBaldemar Huerta、又はEl Bebop Kidと名乗っていたチカーノ青年に、Freddy Fenderという名前を与えたのだと言っています。

 このあたりは、Freddyが成功した後のことですので、話が膨らんでいる可能性は十分にあります。
 Duncanは、Freddyと自分が成功するのに、15年もかかったと、しみじみ語っています。

 Freddyの70年代の成功と、Wayne Duncanに何の関わりがあるのか、と言いたいところですが、Freddyのヒット曲は、この時代の作品を新たに録音したものがいくつかあり、その作者には、Wayne Duncanのクレジットが輝いているのでした。

 Duncan Labelでの最初のレコードは、"Holy One"で、これはバトン・ルージュ周辺でローカル・ヒットしたとのことです。
 まずは、ルイジアナから始まったわけです。

 Duncanは、これをナショナル・ヒットにするため、Imperial Recordsにリースしますが、期待ほどの成績は収められませんでした。
 中程度の成功を得たのは、次の"Wasted Days and Wasted Nights"で、この曲こそ、彼が言う15年後(75年No.1カントリー・ヒット、ポップ8位)の成功作のオリジナル録音なのでした。
 
 成功への光が見えてきた矢先、事件が起こります。
 Freddyとバンドが、麻薬不法所持で収監されたのです。
 Wayne Duncanによれば、本盤には、アンゴラ監獄への収監前、2万ドルの保釈金を払い、保釈中に録音した音源が含まれているとのことです。
 (これらの音源は、ImperialやChess、Talent Scoutなどからリリースされたようです。)

 3年間服役したとのことですから、Freddyにとって、60年代前半は暗い時代だったのだと思います。
 英Krazy Kat盤のタイトルは、"The Eary Years 1959-1963"でしたが、大半を塀の中にいたことになります。
 あるいは、本盤収録曲は、保釈中の録音が多くを占めているのかも知れません。

 さて、本盤を改めてじっくり聴いてみましょう。
 素晴らしいです。
 70年代に、Huey Meauxによって、テキサスで制作されたサウンドは素晴らしいですが、この時代も負けていません。
 70年代の音は、ポップでキャッチーでありながらも、甘くなりすぎず、爽やかなキレのあるサウンドでした。
 (私は、75〜77年ころまでが頂点だと思います。)

 一方、こちらの50年代終わりから60年代初期の音は、ナッシュビルのエースたちによって録音された可能性が高いです。
 コマーシャル・カントリーを多数吹き込んだメンツがやった仕事でしょうが、ここでの音は、コンパクトなポップさがありながらも、Freddyの持ついなたさを打ち消すことなく表現しています。

 おそらく、チャーリー・マッコイだと思われる哀愁のハーモニカ、フロイド・クレイマーだと思われる、よく弾むピアノが、とりわけ印象に残ります。
 数曲で聴ける、スチール・ギターのソロも素晴らしいです。

 唯一、惜しいのは、"Since I Met You Baby"での、Freddyのボーカルに硬さが感じられることです。
 丁寧に歌おうとするあまり、ガチガチになっているように感じます。
 他の曲ではほとんど感じませんが、あえて言えば、スローの曲に若干その傾向があるように思います。
 その点、ミディアム〜アップの曲では、伸びやかにやっているので、70年代の録音と比べても遜色ありません。


 さて、本盤のクレジットを見て気付いたことがあります。
 Buck Rogersの名作、"Crazy Baby"の作者クレジットが誤って記載されていることです。
 ここには、G.Maltaisとありますが、作者はBuck Rogers本人で、通常のクレジットでは、Buck Rogersないしは、L.M.Rodriguez(これが正解)と表記されています。
 実は、Maltaisには同名のロカビリー曲があり、そこからの誤記だと思います。

 私は思いました。
 その後、"Crazy Baby"の作者クレジットが、ときたま誤記される原因を作ったのは、実はこのアルバム発だったのではないか、ということです。

 何しろ、Buck Rogersの原曲より、Freddy盤の方が有名になりました。
 Freddyのアルバムのクレジットが、伝聞により独り歩きした可能性が高いのではないでしょうか。
 (G.Maitaisの誤記の件については、「メヒコ・アメリカーナ」の記事をご覧ください。)


 などと、想像の翼を広げてしまいますが、改めて本盤は、珠玉の作品集だと感じました。
 ヴィンテージ期の希少性だけでなく、楽曲、演奏としての完成度が高く素晴らしいです。
 この時代は、リード・ギターを自身で弾いた可能性も高く、興味は尽きません。


Crazy Baby by Freddy Fender




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