2011年07月24日
マイルド・ジーン・ヴィンセント
今回は、Gene Vincentの晩年の作品2枚を、1枚のCDにまとめたものを聴きました。
原盤は、カーマスートラという、ブッダと同系のレーベルからリリースされたものです。
トラック1から10までが、70年の"If You Could Only See Me Today"で、トラック11以降が、71年の"The Day the World Turned Blue"になります。
1. Sunshine (Newbury)
2. I Need Woman's Love (Mackay)
3. Slow Times Comin' (Meyers)
4. Danse Colinda (Ayres)
5. Geese (Frisco, Vincent)
6. 500 Miles (West, Williams)
7. Listen to the Music (Maxfeldt)
8. If Only You Could See Me Today (Meyers)
9. A Million Shades of Blue (Frisco, Vincent)
10. Tush Hog (Maxfeldt)
11. How I Love Them Old Songs (Newbury)
12. High on Life (Self)
13. North Carolina Line (Vincent)
14. You Can Make It If You Try (Jarrett)
15. Our Souls (Frisco)
16. There Is Something on Your Mind (Mcneely)
17. The Day the World Turned Blue (Vincent)
18. Boppin' the Blues (Griffin, Perkins)
19. Looking Back (Benton, Hendricks, Otis)
20. Oh, Lonesome Me (Gibson)
21. The Woman in Black (Vincent)
今回は、前半の10曲、70年リリースの"If You Could Only See Me Today"に注目したいと思います。
まず、ブックレットの写真に驚きます。
風呂上りのような、サラサラ髪に、少しぽっちゃり系の男性が写っています。
これが、あのGene Vincentと同じ人物でしょうか。
Elvisのような、ジャンプ・スーツを着ていないだけましかもしれません。
私のGene Vincentのイメージといえば、スリムな体型にこけた頬、髪は当然リーゼントです。
しかし、ここに写っているのは、ポマードの気配もない、七三分けの青年(?)なのでした。
衝撃は続きます。
CDをスタートさせると、軽快なアクースティック・ギターのストロークから、はずむようなエレキ・ベース、そしてグルーヴィーなオルガンの音が聴こえてきたのでした。
1曲目の"Sunshine"です。
ここには、クリフ・ギャラップの雷のようなギターはありません。
悪魔と競い合うボーカルもありません。
なによりも、残響音のない爽やかなサウンドに驚きます。
本作のセッションには、これまでのGeneのキャリアとは無縁のリズム隊が参加しています。
Amigos De Musicaとクレジットされた彼らの正体こそ、驚くべきことに、Sir Douglas Quintetの残党達なのでした。
問題のメンツは以下の通りです。
Amigos De Musica
Augie Meyers : keyboard, organ, piano
Harvey Kagan : bass
Johnny Perez : drums
Augie Meyersは、説明不要の人物ですね。
Doug Sahmの盟友にして、現在も広く活躍している、テキサスのリヴィング・レジェンドです。
彼とDougは、60年代から、ミレニアム前のDougの最期に至るまで、常にもつれ合うようにして、ともに活動してきた魂の兄弟でした。
そんな二人ですが、ごくごく短期間だけ、離れていた時期がありました。
69年の終わり、ないしは70年の初頭ころ、Doug Sahmは、看板バンド、Sir Douglas Quintetを解散したのでした。
スマッシュからのサンフランシスコ時代最後のオリジナル・アルバム、"1+1+1=4"がリリースされたのは、70年のことでした。
翌年の71年には、Doug Sahm抜きのQuintetが、単独アルバムをUAからリリースしています。
アルバム、"Future Tense"は、未だ一度もCD化されていないと思います。
このままビニールの世界の中で埋もれていく運命なのでしょうか。
"Future Tense"の参加メンバーは次のとおりです。
Augie Meyers : guitar, organ, piano
Byron Farlow : guitar
Jim Stallings : bass
John Perez : drums
Metin Fierro : alto sax
Luis Gasca : trumpet
Frank Morin : flute, harp, sax
重箱の隅をつつくような、レア盤のCD化はもう終わったのでしょうか?
決して、好盤とはいいがたいですが、できればCD化を望みたいです。
さて、"Future Tense"には参加していませんが、ベースのHarvey Kaganは、マーキュリー(スマッシュ)時代の全てをDoug Sahmと行動をともにしてきた人です。
サンフランシスコに残った人なのでしょうか。
テキサスに戻ったDoug Sahmのバックでベースを弾いたのは、Huey Meaux制作時代のSir Douglas Quintetのメンバー、Jack Barberでした。
以降、Dougのベースは、このJack BarberとSpeady Sparksが多くを務めることになります。
Jack Barberは、Garrett、Sahm、Taylor Bandの来日公演にも、同行していました。
ドラムスのJohnny Perezは、Augie Meyersと同じくらいDougと長くプレイしている人です。
最初期のSir Douglas Quintetのメンバーでもあります。
この人は、細く長くDougとつきあった人ですが、次第にGeorge Rainsなどに、その位置を譲ることになります。
さて、アルバムの仕上がりですが、好き嫌いの別れるところでしょう。
少なくとも、Gene Vincentの古くからファンが好むとは思いずらいです。
では、Sir Douglas Quintetのファンにはどうかと言いますと、これも微妙なところです。
"Future Tense"もそうでしたが、Quintetらしいサウンド(Augieのオルガンとか)で、その趣きを楽しむ程度が限界かも知れません。
テキサス・サイケ風の展開になる曲などは、まさに好き嫌いが二分されると思います。
Augieの作品が2作入っていますが、私の知る限り、その後ソロでもDougとの活動でも再び取り上げなかった曲だと思います。
"Slow Times Comin'"は、ディラン風のフォーク・ロックで、長いインストのインプロヴィゼーションがあります。
Augieは、初期のソロ作でディラン好きを明らかにしていた人ですから、こういう曲をつくる可能性はあります。
しかし、Geneにはどうでしょう。
アルバム・タイトル曲の"If Only You Could See Me Today"は、Augie流カントリー・ロックだと思いますが、Gene、Augieの個性がうまく化学反応したとは言い難いです。
ロッキン・ギターのソロを聴くことが出来ます。
実は、私が最も印象に残ったのは、1曲目の"Sunshine"でした。
この曲は、Mickey Newburyが書いた曲で、誰がオリジネイターか知りませんが、おそらくは多くのシンガーが歌っている曲だと思います。
Mickey Newburyは、私にとっては、"Sweet Memories"です。
とりわけ、Willie Nelson盤が心に染み入る名唱でした。
"Sunshine"は、原曲を知りませんので、見当違いなことを言っているかも知れませんが、ここではQuintet風のサウンドに仕上げながらも、うまくまとめていると思います。
ここで珍品を2曲。
"Danse Colinda"は、明るくかわいいケイジャンで、Geneとしては他にないタイプの曲でしょう。
"500 Miles"は、有名なフォーク・ソングで、Geneのイメージにはない曲ですね。
ここでは、Geneのモノローグを聴くことが出来ます。
最後に、10曲目の"Tush Hog"です。
この曲は、Quintetと無関係の作ですが、なぜか"She's About a Mover"を連想させる曲調です。
Augieが不在っぽいサウンドなのが残念ですが、ギターとマラカスががんばっています。
Amigos De Musica参加曲については、Augieのファンなら、一聴をお奨めします。
それ以外の方には、今回触れなかった後半の"The Day the World Turned Blue"を薦めます。
こちらのほうが、Geneの新しい個性を出しつつも、従来のファン向けにも配慮した内容になっています。
Gene Vincentは、71年に短い生涯を閉じました。
36歳でした。
友人のEddie Cochranが21歳で天に召されてから、11年後のことでした。
関連記事はこちら
ビニール・オンリーのクインテット
原盤は、カーマスートラという、ブッダと同系のレーベルからリリースされたものです。
トラック1から10までが、70年の"If You Could Only See Me Today"で、トラック11以降が、71年の"The Day the World Turned Blue"になります。
A Million Shades Of Blue
Gene Vincent
Gene Vincent
1. Sunshine (Newbury)
2. I Need Woman's Love (Mackay)
3. Slow Times Comin' (Meyers)
4. Danse Colinda (Ayres)
5. Geese (Frisco, Vincent)
6. 500 Miles (West, Williams)
7. Listen to the Music (Maxfeldt)
8. If Only You Could See Me Today (Meyers)
9. A Million Shades of Blue (Frisco, Vincent)
10. Tush Hog (Maxfeldt)
11. How I Love Them Old Songs (Newbury)
12. High on Life (Self)
13. North Carolina Line (Vincent)
14. You Can Make It If You Try (Jarrett)
15. Our Souls (Frisco)
16. There Is Something on Your Mind (Mcneely)
17. The Day the World Turned Blue (Vincent)
18. Boppin' the Blues (Griffin, Perkins)
19. Looking Back (Benton, Hendricks, Otis)
20. Oh, Lonesome Me (Gibson)
21. The Woman in Black (Vincent)
今回は、前半の10曲、70年リリースの"If You Could Only See Me Today"に注目したいと思います。
まず、ブックレットの写真に驚きます。
風呂上りのような、サラサラ髪に、少しぽっちゃり系の男性が写っています。
これが、あのGene Vincentと同じ人物でしょうか。
Elvisのような、ジャンプ・スーツを着ていないだけましかもしれません。
私のGene Vincentのイメージといえば、スリムな体型にこけた頬、髪は当然リーゼントです。
しかし、ここに写っているのは、ポマードの気配もない、七三分けの青年(?)なのでした。
衝撃は続きます。
CDをスタートさせると、軽快なアクースティック・ギターのストロークから、はずむようなエレキ・ベース、そしてグルーヴィーなオルガンの音が聴こえてきたのでした。
1曲目の"Sunshine"です。
ここには、クリフ・ギャラップの雷のようなギターはありません。
悪魔と競い合うボーカルもありません。
なによりも、残響音のない爽やかなサウンドに驚きます。
本作のセッションには、これまでのGeneのキャリアとは無縁のリズム隊が参加しています。
Amigos De Musicaとクレジットされた彼らの正体こそ、驚くべきことに、Sir Douglas Quintetの残党達なのでした。
問題のメンツは以下の通りです。
Amigos De Musica
Augie Meyers : keyboard, organ, piano
Harvey Kagan : bass
Johnny Perez : drums
Augie Meyersは、説明不要の人物ですね。
Doug Sahmの盟友にして、現在も広く活躍している、テキサスのリヴィング・レジェンドです。
彼とDougは、60年代から、ミレニアム前のDougの最期に至るまで、常にもつれ合うようにして、ともに活動してきた魂の兄弟でした。
そんな二人ですが、ごくごく短期間だけ、離れていた時期がありました。
69年の終わり、ないしは70年の初頭ころ、Doug Sahmは、看板バンド、Sir Douglas Quintetを解散したのでした。
スマッシュからのサンフランシスコ時代最後のオリジナル・アルバム、"1+1+1=4"がリリースされたのは、70年のことでした。
翌年の71年には、Doug Sahm抜きのQuintetが、単独アルバムをUAからリリースしています。
アルバム、"Future Tense"は、未だ一度もCD化されていないと思います。
このままビニールの世界の中で埋もれていく運命なのでしょうか。
"Future Tense"の参加メンバーは次のとおりです。
Augie Meyers : guitar, organ, piano
Byron Farlow : guitar
Jim Stallings : bass
John Perez : drums
Metin Fierro : alto sax
Luis Gasca : trumpet
Frank Morin : flute, harp, sax
重箱の隅をつつくような、レア盤のCD化はもう終わったのでしょうか?
決して、好盤とはいいがたいですが、できればCD化を望みたいです。
さて、"Future Tense"には参加していませんが、ベースのHarvey Kaganは、マーキュリー(スマッシュ)時代の全てをDoug Sahmと行動をともにしてきた人です。
サンフランシスコに残った人なのでしょうか。
テキサスに戻ったDoug Sahmのバックでベースを弾いたのは、Huey Meaux制作時代のSir Douglas Quintetのメンバー、Jack Barberでした。
以降、Dougのベースは、このJack BarberとSpeady Sparksが多くを務めることになります。
Jack Barberは、Garrett、Sahm、Taylor Bandの来日公演にも、同行していました。
ドラムスのJohnny Perezは、Augie Meyersと同じくらいDougと長くプレイしている人です。
最初期のSir Douglas Quintetのメンバーでもあります。
この人は、細く長くDougとつきあった人ですが、次第にGeorge Rainsなどに、その位置を譲ることになります。
さて、アルバムの仕上がりですが、好き嫌いの別れるところでしょう。
少なくとも、Gene Vincentの古くからファンが好むとは思いずらいです。
では、Sir Douglas Quintetのファンにはどうかと言いますと、これも微妙なところです。
"Future Tense"もそうでしたが、Quintetらしいサウンド(Augieのオルガンとか)で、その趣きを楽しむ程度が限界かも知れません。
テキサス・サイケ風の展開になる曲などは、まさに好き嫌いが二分されると思います。
Augieの作品が2作入っていますが、私の知る限り、その後ソロでもDougとの活動でも再び取り上げなかった曲だと思います。
"Slow Times Comin'"は、ディラン風のフォーク・ロックで、長いインストのインプロヴィゼーションがあります。
Augieは、初期のソロ作でディラン好きを明らかにしていた人ですから、こういう曲をつくる可能性はあります。
しかし、Geneにはどうでしょう。
アルバム・タイトル曲の"If Only You Could See Me Today"は、Augie流カントリー・ロックだと思いますが、Gene、Augieの個性がうまく化学反応したとは言い難いです。
ロッキン・ギターのソロを聴くことが出来ます。
実は、私が最も印象に残ったのは、1曲目の"Sunshine"でした。
この曲は、Mickey Newburyが書いた曲で、誰がオリジネイターか知りませんが、おそらくは多くのシンガーが歌っている曲だと思います。
Mickey Newburyは、私にとっては、"Sweet Memories"です。
とりわけ、Willie Nelson盤が心に染み入る名唱でした。
"Sunshine"は、原曲を知りませんので、見当違いなことを言っているかも知れませんが、ここではQuintet風のサウンドに仕上げながらも、うまくまとめていると思います。
ここで珍品を2曲。
"Danse Colinda"は、明るくかわいいケイジャンで、Geneとしては他にないタイプの曲でしょう。
"500 Miles"は、有名なフォーク・ソングで、Geneのイメージにはない曲ですね。
ここでは、Geneのモノローグを聴くことが出来ます。
最後に、10曲目の"Tush Hog"です。
この曲は、Quintetと無関係の作ですが、なぜか"She's About a Mover"を連想させる曲調です。
Augieが不在っぽいサウンドなのが残念ですが、ギターとマラカスががんばっています。
Amigos De Musica参加曲については、Augieのファンなら、一聴をお奨めします。
それ以外の方には、今回触れなかった後半の"The Day the World Turned Blue"を薦めます。
こちらのほうが、Geneの新しい個性を出しつつも、従来のファン向けにも配慮した内容になっています。
Gene Vincentは、71年に短い生涯を閉じました。
36歳でした。
友人のEddie Cochranが21歳で天に召されてから、11年後のことでした。
Tush Hog by Gene Vincent
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