今回は、台地上に築かれた金沢城に水を供給した用水の話です。市内を散策中にこんな光景と出会いました。
<石管と説明板>
なんだろう
説明板には、金沢市内を流れる辰巳用水と、石管に関する説明が記されています。少し抜粋させて頂きながらご紹介します(『』内は原文の転記です)。冒頭に『寛永八年四月(一六三一年)に城下から出火、当時水利の便に悪かった金沢城が全焼した』とあり、これが用水を造るきっかけとなったと記されています。この惨事に対し『翌九年に三代藩主前田利常は十キロ隔たった犀川上流の上辰巳から水を引くことを企て、小松の町人 板屋兵四郎 にその工事を命じた』とのこと。犀川(さいがわ)は金沢市の南側から西側を通って北へ流れる川です。そこから水を引き込むということになりますが、金沢城は周囲と比べれば高台に位置し、更に堀で囲まれています。どうしやって水を引き込んだのでしょうか?
説明を読み進むと『計数に長じた兵四郎』が難工事に挑み、『現在の兼六園から木管をもって城内へ通水した』と記されています。兼六園も金沢城と同じ台地上(段丘上)にありますが、川の上流から、つまりまだ高い位置を流れている川から用水を築くことで、なんとかクリアしたようです。ただ、高低差は克服できましたが、かなりの工程でトンネルを掘らざるを得ない難工事だったとのこと。
そこまで苦労して引き込んだ水ですが、兼六園と金沢城との間には堀があります。台地を断ち切るように設けた、金沢城最大の外堀です。どうやって城側に水を渡したのでしょうか?
水路橋を架けた…
答えは
地下に導水管を設け、堀底より低い位置を経由した水を、サイフォンの原理を利用して高い位置へ上げたそうです。
サイフォンの原理!懐かしい言葉ですね。ホースを使って試してみたのは小学生の時だったか(?)。水は高いところから低いところへと流れるのが原則ですが、空気の入っていない管の中を水で満たせば、もとの位置より高いところを経由してから落下する、つまり一瞬は水位より高い方へ移動するあの原理ですね。『計数に長じた兵四郎』が造った水の路も基本的には同じ原理ですが、逆に一旦低いところを経由した水が、もう一度高い方へ登る構造にしたようです。最終的な水の出口が、スタート地点の水位よりは低いことに変わりはありません。水の動きだけみれば「登って降りて」ではなく「降りて登って」になることから、逆サイフォンと呼ぶそうです。
なんだか理科ブログになってしまいましたが、私は学校の先生ではないので、表現が不適切であったらすみません。ただの会社員が、大まかに理解しているとだけと受け止めて下さい。
さて
導水管は当初木管でしたが『天保15年(1844年)に石管に取り替えられた』そうです。
<石管>せきかん
その石管がここに置かれているのですね。辰巳用水そのものの全長は10km以上にも及びますが、兼六園から金沢城を通過する区間では、地中に埋設された石管を経由していたことになります。ごく普通の水路が、街の開発にともなって地下に埋設される例、つまり暗渠はたくさん見てきましたが、辰巳用水は誕生した時から一部の区間は暗渠だったということです。
石管はそのなごり。説明板の言葉を借りれば『遺品ということになります』。更に説明を付け加えると、こういった石管は『ニ千数百個といわれている』とのこと。そして、その膨大な数の石管のつなぎ目には『松脂、桧皮などを用いて』水漏れを防いだそうです。
ということで
金沢城のインフラである辰巳用水の一部は、江戸時代の開設当初から暗渠だったというお話でした。いわゆる伏越(ふせこし)ということになりますが、江戸時代初期に、既にそんな工事をしていたということを共有できれば幸いです。
拙ブログにお付き合い頂き、ありがとうございました。
■訪問:辰巳用水石管
(尾山神社の南側斜面)
[石川県金沢市尾山]11
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■参考及び出典
・現地説明板(金沢市)
・Wikipedia:2023/10/28
・金沢市HP
「歴史都市金沢のまちづくり」
>用水・惣構> 辰巳用水
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/rekishitoshisuishinka/gyomuannai/1/1/18478.html
-----------( 追 記 )-----------
現地は別途ご紹介させて頂いた「尾山神社氷室跡地」のお隣です。
<現地>
石垣の左手が氷室跡地。右手に石管があります。説明板が設置されていなかったら、石管は見逃したかもしれません。後ろを振り向けば、そこは金沢合同庁舎です。
<参考>
こちらは別の場所(尾崎神社境内)で撮影した石管です。
2023年10月28日
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