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冬の紳士
定年前に会社を辞めて、仕事を探したり、面影を探したり、中途半端な老人です。 でも今が一番充実しているような気がします。日々の発見を上手に皆さんに提供できたら嬉しいなと考えています。
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2011年07月20日
バーちゃんの白い鳩


鳩が帰ってきた。
と言ってもベランダの笠木に取り付けた真鍮の模型の2羽の白鳩だ。

40も後半に差し掛かった頃、少し無理して新築を決意した。
ベランダに取り付けたハトは、私達夫婦のささやかな希望の印しだった。
家を建てると悪いことがおこるとの噂通り、義父が無くなり
仕事面でも、家族の関係にも青天の霹靂とでも言いたいような悲しみが続いた。
そんな時でも、彼らは何処にも飛び立たず、いつも黙って心をつなぎとめてくれていた。
未だにその「負」は形を変えて私達の上に覆いかぶさっているが、決定的なものにならずに、何とか持ちこたえられているのは、その「負」を抱えて逃げ出さず、何処かへ捨てに行くこともせず正面から付き合っていられたからかもしれない。

近くに住み、私の亡母の縁で私達家族を何かにつけ支えてくれていたバーちゃんは
働き者で己に厳しく、彼女の口癖は、「人には沿うてみよ」そして「染みを作れ」だった。
人生を生きた証、「瑕痕」(きずあと)を残すことでしか生きたことは証明されないと言うのが長い人生を歩んだバーちゃんの信念だった。

そんな私達を見守ってくれていたバーちゃんは、新築の頃から、ちょくちょく私の家の「鳩」を見上げては、ただ腰の後ろに手をまわして、眩しそうに眼を細めてその鳩を眺めていた。
「本物じゃないよ」と声をかけると、驚いたように「そうかね、わしゃ生きた鳩が来てると思ってたよ」

或る日、そのバーちゃんが、病を得た。
家族の介護も徐々にきつくなり、デイサービスなどの施設のお世話になっていた。
つまらぬ忙しさに流されて、バーちゃんの様子も気に掛けなくなっていた頃
たまたま外でサービスのお迎えを待つ間のバーちゃんを目にした。
「おばーちゃん。」と呼んでも、応えは帰ってこない。それでも私の手を掴む力は
しっかりと「言葉」を語っていた。私は涙をこらえた。大声で泣けばよかったんだと、今では思っている。今となっては、それがバーちゃんへの「言葉」だったと。

バーちゃんは額の深いしわを押し上げて、精いっぱい眼を持ち上げていつものように眩しそうに鳩の方向を見上げていた。
実はその時既に、ちょっとした不注意と風のいたずらで1羽のハトが落ちていたが、「しょうがない。」とそのまま残りの1羽をそのままに、放っておいたのだ。
思わず、経過を説明しようとして、言葉を飲み込んだ。
ここでは「事実」などというものに何の価値もなかったのだ。
第1歩が踏み出せず、言葉もままならないバーちゃんが、突然「・・あと」といったような気がした。
確かに言ったような気がした。今となっては知る由もない。

「私の旦那」も既に去り、一人ぼっちになった鳩に境遇を重ねて、呼びかけたかったのか、ただただ覚えていた鳩に思い出を寄り添えたかっただけなのか。
それとも「1羽足りない」と言いたかっただけなのか。
既に「人と人との交わりから得られる染み」は、何処か遠くの歴史の世界に放り投げ、時間から解放され、唯、今現在の「ものとの反応から得られる染み」だけを相手に、生きている身軽な存在となったバーちゃんに、説明も意味のないものだったのかもしれない。
そのバーちゃんも今は亡い。

或る晴れた日、家のドアのブザーが鳴った。
新築時にお世話になった業者さんからの、経年劣化した外壁の再塗装のお知らせだった。よく家族と相談して、お願いすることにした。
決めるまでは、リタイアした身での出費は痛いと、気が乗らなかったが
工事が進むにつれて、あの新築当時の外観が復元されてくるにつれ、もう一度あの頃の何かが戻ってくるような、そんな甘い期待を心の片隅に置くように変っていった。
そんなある日、「幸運にも」と言ったら失礼だが、職人さんのちょっとした足のもつれから、残りの鳩が引っ掛かって落ちた。
家内と相談した。職人さんにはかわいそうだけれど、弁償してもらおうと。
「ついでに1羽ではかわいそうだから、もう1羽頼もうよ。」と当然有料でお願いしようと電話したところ、同じ様に考えてくれていた業者さんの粋な計らいで、無料のサービスで、図らずも、もとの番いの鳩に戻ることになった。

こうして彼らは、何年かの年を経て、してやったりともとのさやにおさまっている。何事もなかったかのように。

あのブザーは、バーちゃんと鳩の催促だったのだろうか。
一時、大空の境界まで、忘れかけた希望を探しに羽ばたいてくれていた鳩の
「ただいま!」のブザーだったのだろうか?
バーちゃんの脳裏に乗って、新しい世界への道案内を終えて、戻ってきてくれたのだろうか?

今黙って、もとの位置にもどり、何事もなかった様に清々しそうに大空を見つめている鳩は、
バーちゃんと私達の鳩は、何も語らない。

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Posted by:snookzskxq at 2015年11月20日(Fri) 17:43



 
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