久しぶりの同窓会。
厳粛な受付での記帳に始まり、階段を上ると早くも熱気を帯びた会場
「久しぶり!」の掛け声に思わず綻ぶ笑顔の面々。
さっそく始まる各人の面影探し。「おまえ変わってないなー」「そうかー？お前の方こそ昔のままだ」
「あいつはどうした？顔が見えないが・・・」健在振りの声にも少しこころ細そうな陰りを帯びて。
「仕事の都合さ。それより先生の挨拶が始まるぞ。」
続いて、あちこちで賑やかな掛け声と各人の消息が披露される。
外は漆黒の天の下、音もなく、深々と冷気が降りていく。
五十年余りの記憶の帯を一気に越えて、楽しくも少しばかり寂しさがちりばめられた別世界がひろがる。
当時の記憶が一気によみがえる。
歌を歌う友、立派な地位を誇る友、家族や孫の消息に目を細める友、思わず昔のほろ苦い恋心をこぼす友、うんちくを語る友、情報の修正をして歩く友。
皆それぞれに昔に戻って楽しそうに、余裕を持って語り合い、詠い合う。
歌声が駆け巡る。料理には手もつけづ、世話をする友。
今は亡き友に思いをはせるものもいる。
縁あってみんな同じ舟に乗り合わせた友人同士。いつまでも元気でと、胸が詰まる。
二次会、三次会と気持ちは収まらず、深夜に及ぶ。
懐かしさとこのまま終わりたくない願いが、歌と踊りの輪を作る。
一人ひとりの目に見えない様々な思いの重みが、重力の輪となって廻る。
この重力をゆっくり踏みながら踊る。
意味と意味を超えているものとを、「踊り」が「歌」が繋いでいた。

名残惜しく酔い過ごした翌早朝、最後の日の心細さやら楽しいやらの胸中で目を覚ます。
昨日とは何か違った食事風景。誰かが察しておどけて笑いを誘う。

ゆっくりと入浴を楽しみ、気持ちを落ち着かせる。
浴後のぶらり散策。朝日に映える木々の間をたゆたう風に、火照った体を当てる。
鶺鴒だろうか、前を横切ったりこちらをちらちら気にしたり。
もう１羽がやってきてこちらを気にしているようで、人懐こい。
まるでほほ笑む様なやさしい目。思わずコースを変え、席を譲る。
道沿いのせせらぎの底に踞る落ち葉の堆積。形をとどめぬモミジの残映。
ふと見上げると、一輪の梅のつぼみ。
凍てつくように張りつめた空気の間を、はねず色の外辦に支えられて、凛として突き出る強さと温かな白さを放っている。

　「梅一輪、一輪ほどの暖かさ」(嵐雪)という句を思い出す。

この華の後ろにも、鶺鴒のなつこさの背後にも、この会に加われなかった、命を落とした旧友の面影が行き来する。
うっすらと染めあがったその蕾は、まだ続く仲間たちのこれからの旅を温かく見守ってくれているようなそんな気がする。やがてその順番は私にも回ってくるだろう。

部屋に戻り、我に返って生きていることを実感する。
別れの時が近づいた。
「又な！」一人一人との固い握手。
「元気でな。人間健康でなくちゃだめだよ。」自分に言い聞かせるような口ぶりで別れを振り切る友。

　　還暦を迎えて馴染めぬ宴かな　

お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。