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冬の紳士
定年前に会社を辞めて、仕事を探したり、面影を探したり、中途半端な老人です。 でも今が一番充実しているような気がします。日々の発見を上手に皆さんに提供できたら嬉しいなと考えています。
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2011年05月29日
秘密と理解
前回私はアイデンティティーについて、それを否定するようなことを書きました。
「形の決まったアイデンティティーなんてない」と。変幻自在だと。
それでも日々自分のアイデンティティーを演出(創作)しながら一定の人格を生きなければならない。それが社会の中で生きなければならない人間の悲しく、しかし楽しくもある性(saga)なのだ。
人と人との間、つまり社会が無ければ不要なものなのですが・・・・・・。

ところで人は皆自分の人格を、自分の都合のいいように演じている。そして周囲からもその様に理解してもらいたいと思っている。それと同様に周囲の人間も、相手を、一定の理解の中に閉じ込めておきたがる。
毎日毎日A君が違う人格で登場したら、たまらないからだ。だからA君が理解の外に飛び出ることは裏切りとして許せない。しかし反対にまじめな人であればあるほど、他人をもっともっと理解しようとする。
そこまではいいのだが、余りに真面目が昂じて、恋人や、結婚相手に、私のことを全て知って欲しいし、あなたのことも全て知りたい、理解したいとなる。
こうなってくると、理解の美徳の信仰とでもいうもので、自分をも相手をも自分の理解した小さな枠の中に閉じ込めてしまう窮屈な関係に終始してしまうことになる。
そして行きつくところは、「相手の秘密を知りたくなる」。夫婦の間で、秘密なんて、とんでもない!と。

秘密ってなんでしょうね。
「秘める」とは「包む」事です。この包むという言葉から「つつましい、つつましさ」という言葉が生じたのであって、「秘める」とは決して包み隠したり、嘘を言ったりすることではありません。(福田恒存・幸福への手帳)

秘密は良くないといって、何でもかんでも、表に出していいかというとそうではありませんね。裸で外を歩いたり、公衆の面前で排泄をする人はいませんね。
ではなぜ包む必要があるのでしょうか?
それは自分の人と違った考えや嗜好や、性に対する恥じらいであったり、未知の社会に対する純真な心の戸惑いなどからではないでしょうか?
それはほんとに、羞恥心をもち、慎ましさも兼ね備えたフラジャイル(こわれやすい)なものです。

それほどまでして、大切に包まなければ壊れてしまう秘密とは、「生の根源とでもいうもので、覗こうとすれば毀れてしまうしまうようなものです」。(福田恒存・幸福への手帳)

自分の生の根源なんて、自分でもわからないのに、他人に判る筈もありません。
そんな微妙な命の営みの秘密に、ずかずかと入り込んで、「理解理解!」とやられたら、身も蓋もありません。行き着くところは、「本当に愛しているなら、判る筈。すっぴんだって愛せるはず」と理解の万能を押しつけて、二人の関係を、自分の理解した小さな枠の中に閉じ込めてしまう窮屈な関係に閉じ込めてしまうことになります。

「もともと人と人は理解なんてできないんだ」という共通認識の上に立って相互の
孤独を認めることから本当の関係は始まるのではないでしょうか?

秘密は理解することは困難ですが、共有することはできます。
秘密は理解の狭い殻に閉じこもって窮屈にしていく為にあるのではなく、二人の共有により、育ち・発見され・大きく育っていくものではないでしょうか?謎は謎のままに。
だからいつまでも、適度な緊張感を持ち、新しい発見があり、新鮮で、慎ましい関係が保たれるのでは無いでしょうか?

私も年なので、サラリーマンのころ部下の結婚式のスピーチを頼まれることが度々ありましたが、「大いに秘密を持ちなさい、そしてその秘密を秘密のままに大切に育てなさい。」とアドヴァイスしたものでした。
釣った魚にえさはやらない?と、翌朝からさっそく、全てをさらけ出して、すっぴんとカール巻き姿を見せつけることのないように、と。

勿論秘密は、これだけではありません。
秘密はいつかは、自立して外に向かって解放されたがるものです。特に関係する人たちの存在を脅かすような「重大な秘密」は。
要するに秘密は黙っていられない。誰かに話されて、本当に親しい人と共有され、場合によっては最後の最後には全ての人の前に開示されるものへと変化し、発達するものなのかもしれないのです。
それは理解という狭い枠を超えた、何か新しい世界を作り出すような、危険で危うい事件になる、と同時に自身の変身のチャンスでもあるかもしれません。

それは秘密が、自分のアイデンティティーを支えているものであり、自分だけに固有なものでありながら、他の人とのつながりの中で存在せざるをえないというパラドックスをもっているからです。

ユング心理学者で有名だった河合隼雄さんの本で、「子どもの宇宙」という名著があります。その中で、

或る時ある母親から、、自分の子どもは養子なのだが、それを本人に告げるべきか相談を受けたことがある。生まれてすぐで、全く知らない筈だが、高校2年になってから急に成績が低下し不安定になった。
ひょっとして「秘密」を知ったのではとおもい心配になった。ある教育者に聞くと「真実は隠すべきではない」といわれ、他の人に相談すると「本人が知らない限り、言うべきでない。」と言われた。どっちがいいのだろうということだった。

このような場合どちらが正しいかということは無意味である。
なぜなら、どちらにせよ答えることは、親に養子をもらった時点で、自分の負わなければならなかった責任を専門家に肩代わりさせて、子どもとともに背負うべき苦しみを放棄することに繋がるから。
河合さんの答えは、「子どもの置かれている状態を、心から判ってやってください」だった。

その母親は、養子をもらった自分たちと、実の親もそろって、この子に対してどうしても養子としなければならなかった由来を話すとともに、子どもに苦しい思いをさせたことを、揃って手をついて謝ったとのことだった。

幸いにもこの子は事実を受け入れることができて、以後どちらにも良い関係を維持していくことができたようだ。

秘密が解き放たれたことで、危機を通じてそれまでの自分が大きく成長したよい例だが、秘密が解放され、共有される時は、それに伴う苦しみ・悲しみを共に共有する強い覚悟が無いとうまくはゆかない。

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Posted by:czqkgykjen at 2015年11月20日(Fri) 17:52



 
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