燠火・おきび

(続き)近年この誤差や、不整合の向こうにあるカオス(混沌)を科学する、非線形科学も盛んになってきています。とても従来の発想からは思いつかない(自然界の普遍性を追求する科学とは反対方向の)現実を見据え、そこに何があるのかを考える。
1例を言えば、「顔つき」はヒトのこれらの要素をいくら分析し、その情報を持っていても判りません。それは、これら要素の「布置」から生まれる新しい性質であり、サムシングだからです。これ以外にも、鉄の結晶化や磁気帯びの現象も、原子構造からは何も出てきません。それは、構成要素間の相互作用から生まれる新しい性質、つまり「創発」なんですね。
この現象は一体何なのか？興味は尽きませんね。単に「飛躍」で片づけられるものではありませんね。でも話がそれるのでこの話は稿を改めることにしましょう。

そこでアナログの、単なる好き嫌いで片づけられない重要な点について話を戻しましょう。
アナログは「神」を生みだし、次いで人間の「意識」を生みだしたんです。唐突に何をとおっしゃるのも判るんですが、その本質は、デジタルなど足元にも及ばない巨大な宇宙をカバーしているんです。
相対性理論が明かしたこと。共通時間というものは無いということ。
一人一人全部違っている=ずれているんですね。光の速さがいくら速くとも、眼の前の距離ゼロと3メートル先の友人とは、到達時間に違いはあるんです。でもその差が余りに小さいから、日常生活上無視しているだけなんですね。だから私達が対しているのは、3メートル先の友人から、8分前の太陽光線(太陽発地球迄の到達時間)100年前の星の光まで、全てが私(現在)と少しづつずれて、現在と過去が入り混じっている世界なんですね。でもそれを、現在と呼んでいる。

そこを知っているアナログ。そこを意識しないで勝ち誇っているデジタルというところでしょうか。

だから「私は古い人間なんで、デジタルはどうも苦手で・・」などと劣等感まがいの感情を抱いているとしたら、「そんなもんじゃない。アナログは人間の原型をいつまでも忘れないで残したまま、外部にアプローチする非常に難易度の高い芸当なんで、デジタルは「人間大」という、決して忘れてはならない「初心」を忘れ、あたかも存在と非存在の境など無いとばかりに、計算上の世界を限りなく飛び続ける夢想の世界に他ならないんです。」といいたい。
「人間大」を忘れないとは、例えば「宇宙の始まりと同時に時間は始まった」と言えば、デジタルしか信じない人は始まりがあれば、その前がある筈だ。と考えるでしょう。でも、無いんです。宇宙があるから、時間はあるんですから。
もっと言えば、宇宙の膨張つまり「変化」があるから時間があるんです。丁度光は波か粒子か喧々諤々の論争が続けられたあと、20世紀の量子力学は「光は或る時は波で或る時は粒子の姿を見せる両方を兼ねた存在と説明し、永遠の謎に終止符を打ったように、宇宙が始まる前も、後も、同じものの見方次第で違うものになるのです。片や時間なし、片や時間ありです。時間というものもその様なものなんです。人間があるから存在するものなんです。
それが「人間大」の考え方です。
何の基準に基づかない「絶対時間」なんて、理論上の夢想に過ぎません。

以前にも言いましたが、今や世間は「ｸﾞﾛｰﾊﾞﾙ一色」で、「ライトｻｲｽﾞ」(2011.8.17参照)なんてみな馬鹿にしています。これも同様に、「人間」を忘れた、イデオロギーの暴走と言えるでしょう。
（「贈与慣行と貰いものと」2009・11・12内、領主の欲望の行参照)

だから何度も言いますが、
私は古い人間だから、デジタルなんて判らない。と恐縮する必要なんて全くありませんね。デジタルの代表でもあるコンピュータで人間の心を持つことはできません。
コンピュータには、命令(プログラム)が必要で、さらにどんなにスピードが速くとも「逐次処理」といって、沢山の命令を一つずつ連続的に処理するしかありません。一方アナログの代表である脳は、「並列処理」といって、あらゆる場所のﾆｭｰﾛﾝが同時に動きながらも、全体処理を出来るんです。つまり直観的に処理する力があるんです。

更に言えば、脳には「自分を他と違うものとして認識できる能力」があり、これは「他者のことを理解・推測しようという心の働き」ができる能力に繋がるんです。「共感」ですね。生物の中で人間にだけ可能な相手の立場に立って考えることができる能力。これこそ最初にお話しした「大事な忘れ物」の正体です。
もっといえば、この能力こそ、嘗て古代人に「私のアナローグ」を生みだし、これが「自分自身の類似物」であり、「自己意識を用意した何者か」となった。でもまだ「私」などという堅固な自己も持たない古代人にとってそれは(「私」でなければ)「神」と呼ぶしかないものだった。

・・・・「人の死がもたらすストレスは、故人の声の幻聴を十二分に引き起こしうることは確かだろう」
「そのため多くの古代文化では死者の胴体から頭を切断したり」「石を載せたり」された。
古代人の脳は、右脳と左脳が未分化で、ｳｴﾙﾆｯｹ野に相当する右半球の分野で「神の声を聞き」
、左半球の視覚野に話しかけたり、聞かれたりしていた。この状態をﾊﾞｲｷｬﾒﾗﾙﾏｲﾝﾄﾞ(二分心)という。」「この神の声こそ、嘗て支配していたそして現在は死者である「王」の幻聴だった」(ｼﾞｭﾘｱﾝ・ｼﾞｪｲﾝｽﾞ「神々の沈黙」)この人たちに未だ「意識」は無かった。つまり他者との関係に於いて「自分自身を見るアナログの自己」を持っていなかった。それゆえこれが神だった。
古代人ホメーロスの『イーリアス』を紐解けば、類稀なる想像力というよりは、その神の声を淡々と描き綴ったことが判るだろう。

やがて文明の巨大化や天変地異などにより、予言も外れ(予言の実現は予想屋じゃないんですね、予言者と予言されるものとの共同作業なんですね。だから当たるはずなんです。それでいいんですね。秩序を保つ道具だったんですから。近代になってからですよ、自分と相手を突き放してしか物事を見ることのできなくなった人たちが闊歩するように、協力でなく、皆でこきおろすようになったのは)、王の権威が地に落ちると王は単なる権力者になり下がり、神に代わって、「自分自身を見るアナログの自己」である「意識」が登場した。当然ながら、対極には「私」が発生した。そして「自己」は統一された。(左右の脳が繋がった)それを助けたのは「言語」だったが、これ以上横道にそれると、終わらないので・・・・。

デジタル技術の基本は、情報となる信号を、とびとびの値に分割して再合成することですが、自然界の姿は、それを小さな要素に分解・合成するのではなく、各要素を何があっているか、合っていないのかを(一瞬のうちに)想像し、パートナーの気持ちに寄り添い、調和の中で最もふさわしい行動をとることができるということです。
例えで言えば、(ケースによっても違いますが)ドイツの超有名なカメラ「ライカ」の最新M8は、デジタルに基づいた最新鋭機種だそうですが、実際に見えている(ｱﾅﾛｸﾞ)映像を拠りどころにせず、取り決めた理屈で色を決定する為あり得ないとんでもない色を出してしまう。太陽光を受けているものはことごとく真っ赤に映り、とんでもない映像が提供されるのですが(つまり一方的な押し付け)、アナログではでたらめに存在する感光粒子が共に協力し合って程良い加減の色合いを作りだす（つまり相手を受け入れる)のです。相手が必要としているか否かを考えず、一方的に「これがいいから」と押し付けるようなことはしないということです。

宇宙ですら、或いは物質ですら、互いの惑星の助け合いで、或いは原子・分子のﾙｰｽﾞｶｯﾌﾟﾘﾝｸﾞでそれぞれの存在が助け合っているというのに、人間だけが、そのことをすっかり忘れ、今は「共感」の世界から離れよう離れようという方向に向かっています。それは我々の祖先であるチンパンジーの世界に逆戻りすることに繋がります。

いかがでしたか？アナログのすごさを、スケールの大きさを、ご堪能いただけましたか？

デジタルなんて(否定はしませんが)唯の鼻たれ小僧ですね。(笑)

デジタルは「見える」、アナログは「わかる」！

Posted by 冬の紳士 at 15:56 | この記事のURL | コメント(40)

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