2011年06月13日
彗星はアメリカの心に沈む
今回は、Tom Russellを聴きました。
私は、ほとんど聴いてこなかった人です。
ではなぜ、この人のアルバムを選んだのか、それは曲目を見ていただければ分かっていただけると思います。
実は、私は、これが完全に多数の大物シンガーを招いて作った企画盤だと思っていました。
しかし、実態は、Track15以下の4曲のみが新録音で、その他は様々なシンガーが、これまでにカバーしたTomの曲を集めてきたアルバムなのでした。
1. Veteran's Day : Johnny Cash (Tom Russell)
2. Blue Wing : Dave Alvin (Tom Russell)
3. Gallo Del Cielo : Joe Ely (Tom Russell)
4. Acres Of Corn : Iris Dement (Tom Russell)
5. The Outcastle : Dave Van Ronk (Tom Russell)
6. Manzanar : Laurie Lewis (Tom Russell)
7. St. Olva's Gate : Doug Sahm (Tom Russell)
8. Outbound Plane : Suzy Bogguss (Nanci Griffith, Tom Russell)
9. Canadian Whiskey : Ian Tyson & Nanci Griffith (Tom Russell)
10. Navajo Rug : Jerry Jeff Walker (Tom Russell, Ian Tyson)
11. The Sky Above And the Mud Below : Ramblin Jack Elliott (Tom Russell)
12. Haley's Comet : Texas Tornados (Tom Russell, Dave Alvin)
13. Stealing Electricity : Lawrence Ferlinghetti (Tom Russell)
14. Walking On the Moon : Eliza Gilkyson (Tom Russell)
Bonus Tracks
15. The Cuban Sandwich : Tom Russell (Tom Russell)
16. Who's Gonna Build Your Wall : Tom Russell (Tom Russell)
17. Home Before Dark : Tom Russell (Tom Russell)
18. The Death Of Jimmy Martin : Tom Russell
Tom Russellは、一般的にはルーツ・ロック系のシンガー・ソング・ライターに分類されるかと思います。
さらに踏み込めば、アメリカーナの歌い手だと言えると思います。
彼は、繰り返し、彼なりのカウボーイ・ソングに取り組んでいるようです。
また、彼はL.A.の出身ですが、ひとつの特徴として、Tex-Mexに接近した音楽性も持っています。
私の勝手な解釈では、アメリカーナとは、広義にはアメリカの伝承歌とそこから派生した音楽全てです。
そして、狭義には、開拓時代の物語を主題に創作された英雄譚だと考えています。
フォーク・ソングがスタートだと思いますが、主として、多くはカントリー・ミュージックに含まれるものでしょう。
ロックでいえば、初期のザ・バンドを連想します。
さらに勝手なことを言いますと、古典落語に対する新作創作落語をイメージしたいです。
シンプルな連想としては、伝承歌発信ではないカウボーイ・ソングの多くが、私のアメリカーナのイメージです。
本盤に収録された大物シンガーの顔ぶれを見れば、Tomがいかに錚々たる偉大な歌手の共感を得て、受け入れられているか、何となく垣間見ることができるように思います。
タイトルからして象徴的なのは、ラストの"The Death Of Jimmy Martin"でしょう。
Jimmy Martinは、ブルーグラス・ミュージック草創期の偉人の一人です。
さて、私がこのアルバムに注目したのは、例によってDoug Sahmがらみです。
ここには、"St. Olva's Gate"と"Haley's Comet"の2曲が収録されています。
"St. Olva's Gate"は、Doug Sahmの98年作、"Get A Life"(又は"SDQ98"、中身は同じ)が初出です。
「聖オルヴァの門」とはなんでしょう。
宗教的なところなど、ますますザ・バンドの最初の2枚を連想してしまいます。
私が最も注目したのは、"Haley's Comet"です。
この演奏は、Texas Tornados名義となっていますが、オリジナル・アルバムには未収録です。
はっきり言えば、私はこの曲を聴くために、このアルバムを手に入れたのでした。
のちに知ったことですが、これは96年のマキシ・シングル"Little Bit Is Better Than Nada"のドイツ盤にのみ収録されているようです。(私は未入手です。)
ちなみに、"Little Bit Is Better Than Nada"そのものは、5thアルバム"4 Aces"からのカットでした。
さて、"Haley's Comet"です。
この曲は、Tom RussellとDave Alvinが一緒に書いた曲です。
Dave Alvinは、言うまでもなく元Blastersのギタリストだった人です。
私は、この曲のTom盤は聴いたことがありませんが、偶然にも、もう一人の作者、Dave Alvinのバージョンを聴いていました。
ただし、スタジオ録音は持っていず、ライヴ盤"Out In California"のテイクです。
これを聴き返してみて、Texas Tornados盤が、一部原曲の歌詞を変えたり、曲の進行をアレンジしていることに気付きました。
私は、"Haley's Comet"がどのような曲か、長い間気付いていませんでした。
"Out In California"で、Dave Alvin盤を早くから聴いていましたが、気付いたのはごく最近です。
"Haley's Comet"は、何とBill Haleyの最後を歌った曲なのでした。
驚きです。
彼のバンド名コメッツと、夜空の彗星にかけられたタイトルなのです。
Bill Haleyは、ロック・アラウンド・ザ・クロックで大成功を収めましたが、エルヴィスに代表される若いスターの登場で、人気が凋落しました。
しかし、そんな彼もヨーロッパでは相変わらず大人気で、彼は活動の場を求め、海を渡ります。
60年代には、リバイバル・ショウで成功した彼ですが、長くは続きませんでした。
彼が中年のおじさんであることが分かってしまったからです。
70年代になると、アルコール中毒になって精神的に不安定になっていたらしいです。
そして、81年に脳腫瘍で天に召されました。
"Haley's Comet"は、そんなHaleyの最期を歌っています。
比喩なのか、なにか暗示的な歌詞なのか、判然としない部分がある歌詞です。
晩年の彼は、しばしば錯乱状態になったとのことですから、そこにひっかけているのでしょう。
ホテルのベッドで、幻覚を見ているような描写があります。
ヘイリーの彗星が墜落したとき
ホテルの寝室で 彼の意識は暗転し
天井と壁に向かって話しかける
彼が目を閉じると 1955年のステージ
こどもたちの叫び声が響いてくる
Texas Tornadosのバージョンでは、叫んでいるのは女の子になっています。
また、この曲には、最初と最後にセリフのようなヴァースがありますが、省略しています。
ジャズでは、しばしば使うアレンジですね。
作者のDave Alvin盤では、疾走感のあるメロディが始まる前に、このヴァースが歌われます。
リオ・グランデ近くのケーキ屋でのこと
ビル・ヘイリーが言う
「俺が誰だか分かるかい」
ウエイトレスが答えます
「さあ あなたは疲れたお年寄りです」
そして、主題が終わると、最期に再び短いヴァースで締めくくられます。
ヘイリーの彗星が落ちたとき
警官は テキサスでウエイトレスに話しかける
「昔有名だった人の遺体を見つけたよ」
Dougは、種明かし的なこの部分を省略することで、ある種の効果を狙ったのかも知れません。
聴きては、比喩的な歌詞を聴きながら、これは何を歌っているのかと考えます。
そして、原曲にはない独創的なアイデアで曲は締めくくられます。
Texas Tornados盤では、ラストのメロディに被さって、オフ気味にあの有名なフレーズが、密かに歌われているのでした。
(聞き逃し注意)
1、2、3時、4時にロック
5、6、7時、8時にロック
9、10、11時、12時にロック
ぼくらは 一晩中ロックするのさ
さすが、Doug Sahm !
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ビニール・オンリーのクインテット
私は、ほとんど聴いてこなかった人です。
ではなぜ、この人のアルバムを選んだのか、それは曲目を見ていただければ分かっていただけると思います。
実は、私は、これが完全に多数の大物シンガーを招いて作った企画盤だと思っていました。
しかし、実態は、Track15以下の4曲のみが新録音で、その他は様々なシンガーが、これまでにカバーしたTomの曲を集めてきたアルバムなのでした。
Wounded Heart of America
(Tom Russell Song)
Tom Russell
(Tom Russell Song)
Tom Russell
1. Veteran's Day : Johnny Cash (Tom Russell)
2. Blue Wing : Dave Alvin (Tom Russell)
3. Gallo Del Cielo : Joe Ely (Tom Russell)
4. Acres Of Corn : Iris Dement (Tom Russell)
5. The Outcastle : Dave Van Ronk (Tom Russell)
6. Manzanar : Laurie Lewis (Tom Russell)
7. St. Olva's Gate : Doug Sahm (Tom Russell)
8. Outbound Plane : Suzy Bogguss (Nanci Griffith, Tom Russell)
9. Canadian Whiskey : Ian Tyson & Nanci Griffith (Tom Russell)
10. Navajo Rug : Jerry Jeff Walker (Tom Russell, Ian Tyson)
11. The Sky Above And the Mud Below : Ramblin Jack Elliott (Tom Russell)
12. Haley's Comet : Texas Tornados (Tom Russell, Dave Alvin)
13. Stealing Electricity : Lawrence Ferlinghetti (Tom Russell)
14. Walking On the Moon : Eliza Gilkyson (Tom Russell)
Bonus Tracks
15. The Cuban Sandwich : Tom Russell (Tom Russell)
16. Who's Gonna Build Your Wall : Tom Russell (Tom Russell)
17. Home Before Dark : Tom Russell (Tom Russell)
18. The Death Of Jimmy Martin : Tom Russell
Tom Russellは、一般的にはルーツ・ロック系のシンガー・ソング・ライターに分類されるかと思います。
さらに踏み込めば、アメリカーナの歌い手だと言えると思います。
彼は、繰り返し、彼なりのカウボーイ・ソングに取り組んでいるようです。
また、彼はL.A.の出身ですが、ひとつの特徴として、Tex-Mexに接近した音楽性も持っています。
私の勝手な解釈では、アメリカーナとは、広義にはアメリカの伝承歌とそこから派生した音楽全てです。
そして、狭義には、開拓時代の物語を主題に創作された英雄譚だと考えています。
フォーク・ソングがスタートだと思いますが、主として、多くはカントリー・ミュージックに含まれるものでしょう。
ロックでいえば、初期のザ・バンドを連想します。
さらに勝手なことを言いますと、古典落語に対する新作創作落語をイメージしたいです。
シンプルな連想としては、伝承歌発信ではないカウボーイ・ソングの多くが、私のアメリカーナのイメージです。
本盤に収録された大物シンガーの顔ぶれを見れば、Tomがいかに錚々たる偉大な歌手の共感を得て、受け入れられているか、何となく垣間見ることができるように思います。
タイトルからして象徴的なのは、ラストの"The Death Of Jimmy Martin"でしょう。
Jimmy Martinは、ブルーグラス・ミュージック草創期の偉人の一人です。
さて、私がこのアルバムに注目したのは、例によってDoug Sahmがらみです。
ここには、"St. Olva's Gate"と"Haley's Comet"の2曲が収録されています。
"St. Olva's Gate"は、Doug Sahmの98年作、"Get A Life"(又は"SDQ98"、中身は同じ)が初出です。
「聖オルヴァの門」とはなんでしょう。
宗教的なところなど、ますますザ・バンドの最初の2枚を連想してしまいます。
私が最も注目したのは、"Haley's Comet"です。
この演奏は、Texas Tornados名義となっていますが、オリジナル・アルバムには未収録です。
はっきり言えば、私はこの曲を聴くために、このアルバムを手に入れたのでした。
のちに知ったことですが、これは96年のマキシ・シングル"Little Bit Is Better Than Nada"のドイツ盤にのみ収録されているようです。(私は未入手です。)
ちなみに、"Little Bit Is Better Than Nada"そのものは、5thアルバム"4 Aces"からのカットでした。
さて、"Haley's Comet"です。
この曲は、Tom RussellとDave Alvinが一緒に書いた曲です。
Dave Alvinは、言うまでもなく元Blastersのギタリストだった人です。
私は、この曲のTom盤は聴いたことがありませんが、偶然にも、もう一人の作者、Dave Alvinのバージョンを聴いていました。
ただし、スタジオ録音は持っていず、ライヴ盤"Out In California"のテイクです。
Out In California
Dave Alvin and the Guilty Men
Dave Alvin and the Guilty Men
これを聴き返してみて、Texas Tornados盤が、一部原曲の歌詞を変えたり、曲の進行をアレンジしていることに気付きました。
私は、"Haley's Comet"がどのような曲か、長い間気付いていませんでした。
"Out In California"で、Dave Alvin盤を早くから聴いていましたが、気付いたのはごく最近です。
"Haley's Comet"は、何とBill Haleyの最後を歌った曲なのでした。
驚きです。
彼のバンド名コメッツと、夜空の彗星にかけられたタイトルなのです。
Bill Haleyは、ロック・アラウンド・ザ・クロックで大成功を収めましたが、エルヴィスに代表される若いスターの登場で、人気が凋落しました。
しかし、そんな彼もヨーロッパでは相変わらず大人気で、彼は活動の場を求め、海を渡ります。
60年代には、リバイバル・ショウで成功した彼ですが、長くは続きませんでした。
彼が中年のおじさんであることが分かってしまったからです。
70年代になると、アルコール中毒になって精神的に不安定になっていたらしいです。
そして、81年に脳腫瘍で天に召されました。
"Haley's Comet"は、そんなHaleyの最期を歌っています。
比喩なのか、なにか暗示的な歌詞なのか、判然としない部分がある歌詞です。
晩年の彼は、しばしば錯乱状態になったとのことですから、そこにひっかけているのでしょう。
ホテルのベッドで、幻覚を見ているような描写があります。
ヘイリーの彗星が墜落したとき
ホテルの寝室で 彼の意識は暗転し
天井と壁に向かって話しかける
彼が目を閉じると 1955年のステージ
こどもたちの叫び声が響いてくる
Texas Tornadosのバージョンでは、叫んでいるのは女の子になっています。
また、この曲には、最初と最後にセリフのようなヴァースがありますが、省略しています。
ジャズでは、しばしば使うアレンジですね。
作者のDave Alvin盤では、疾走感のあるメロディが始まる前に、このヴァースが歌われます。
リオ・グランデ近くのケーキ屋でのこと
ビル・ヘイリーが言う
「俺が誰だか分かるかい」
ウエイトレスが答えます
「さあ あなたは疲れたお年寄りです」
そして、主題が終わると、最期に再び短いヴァースで締めくくられます。
ヘイリーの彗星が落ちたとき
警官は テキサスでウエイトレスに話しかける
「昔有名だった人の遺体を見つけたよ」
Dougは、種明かし的なこの部分を省略することで、ある種の効果を狙ったのかも知れません。
聴きては、比喩的な歌詞を聴きながら、これは何を歌っているのかと考えます。
そして、原曲にはない独創的なアイデアで曲は締めくくられます。
Texas Tornados盤では、ラストのメロディに被さって、オフ気味にあの有名なフレーズが、密かに歌われているのでした。
(聞き逃し注意)
1、2、3時、4時にロック
5、6、7時、8時にロック
9、10、11時、12時にロック
ぼくらは 一晩中ロックするのさ
さすが、Doug Sahm !
Dave AlvinのHaley's Cometです。
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