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本日は ダグ・サーム・デイ

 今日は、本ブログを始めてから3度目のあの日です。
 というわけで(?)、Doug Sahm関連の音源を聴きたいと思います。

 今回とりあげるのは、Kevin Kosubさん(Augie Meyersのいとこらしいです)制作のコンピです。

 この人は、Augieの親戚かつDoug Sahmの友人ということ(だけ)をうたい文句に、DougとAugieのレア音源に自身の録音を抱き合わせ、似たような内容の自主制作盤を何枚か作っている人です。



The Best Of San Antonio Texas
Doug Sahm & Friends

1. Will You Love Me Manana : Doug Sahm & Randy Garibay
2. Whiter Shade Of Pale : Doug Sahm
3. Little Fox : Augie Meyers
4. The Joint Is Jumping : Augie Meyers
5. Loco Vacquero : Flaco Jimenez
6. Mexico : Toby Torres
7. Mess With Taxas : Kevin Kosub
8. Tacoland Shuffle : Kevin Kosub
9. Deep In The Heart Of Texas 〜 Green Acres : Kevin Kosub
10. Hideaway : Charlie Beall
11. All Along The Watchtower : Charlie Beall
12. Black Cat : Charlie Beall
13. Mas Cerveza Y Dob Tacos : Steve Mallett
14. Stuck In The Middle Of Nowhere : Steve Mallett
15. Crazy : Steve Mallett
16. Give Me Power : The Rat Race Kid
17. Yonder Walls : Doug Sahm
18. Toghether Again 〜 I Love You A Thousand Ways : Doug Sahm 
 
 比較的知られているものでは、80年代のテキサスのローカル・ミュージシャンの音源をコンパイルした、"Deep In The Heart Of Texas"というコンピレーションがあります。

 そのディスクの「売り」がDoug Sahm(2曲)とAugie Meyers(1曲)のレア音源で、実は今回のディスクとは、それら3曲を含む7曲が重複しています。




 今回のディスクの売りは、Doug Sahmの2曲(トラック17と18)とAugie Meyersの1曲(トラック3)で、私の知る限りでは、レア音源ではないかと思います。
 (ただし、Kevinさんは、これら3曲を使いまわして同時期に別のコンピも作っているようで、本盤が初出かどうかは不明です。)

 なにか小金稼ぎの仕事にまんまと嵌っているみたいでいい感じはしませんが、バカなファン(私のような)は、ラヴ・イズ・ブラインドでのせられてしまいます。

 さてまず、Augie Meyersの"Little Fox"ですが、他の音源と同時期のものなら、80年代の録音となりますが、なかなか興味深いです。
 なぜなら、この曲は、その後、テックス・メックス・ビートルズと称される、The Krayolasに提供し、それだけでなくAugieが彼らのアルバムに参加して共演しているからです。
 Augie参加のKrayolas盤"Little Fox"は、彼らの08年リリースの"La Conquistadora"に収録されていて、確かシングル化もされていたように思います。
 ポップなTex-Mexで、いい曲です。

 "Deep In The Heart Of Texas"で既出の"The Joint Is Jumping"は、がらっと雰囲気の違うジャンプで、かのコンピのハイライト的な曲でした。
 久々に聴きましたが、やはりよいです。

 そして、Doug Sahmです。
 "Will You Love Me Manana"と"Whiter Shade Of Pale"の2曲は、やはり"Deep In The Heart Of Texas"に収録されていた曲です。

 "Whiter Shade Of Pale"は、ライヴ音源のようで、ほかのイリーガル(?)ライヴ盤にも入っていたバージョンかもしれません。
 "Deep In The Heart Of Texas"のクレジットによれば、バッハ風のオルガンを弾いているのは、Sauce (Arturo "Sauce" Gonzalesのこと …例のストックホルム・ライヴに参加していた人)となっています。

 今回、Doug Sahm & Randy Garibayとクレジットされた、"Will You Love Me Manana"は、先の"Deep In The Heart Of Texas"では、Sir Doug Saldana名義で収録されていました。
 曲はもちろん、ゴフィン&キング作のシレルズのカバー、"Will You Still Love Me Tomorrow"で、アコーディオンのイントロから、途中、スペイン語歌詞が入るバイリンガル・バージョンです。
 "Deep In The Heart Of Texas"のクレジットでは、アコ奏者がSantiago Jimenezとなっていますが、どうでしょうか?
 ボーカル、ギター担当のRandy Garibayは、Dougの古い友人で、晩年にソロ・アルバムを数枚出している、チカーノ・ブルースマンの異名を持つ素晴らしいシンガーです。
 (Doug Sahmの88年の名作ソロ、"Juke Box Music"で、"What's Your Name"をDougとデュエットしている人です。)
  
 さて、今回の目玉2曲です。
 "Yonder Walls"(原文のママ)は、古いブルースのカバーですね。
 私が最も親しんでいたのは、Elmore James盤ですが、DougはやはりJunior Parker盤がお手本でしょうか。
 他にも様々な人がやっている有名曲で、ハーピストが好んでやッていたというイメージがある曲です。
 ボーカルのバックでせわしないブルース・ギターが鳴っていますが、Doug自身のプレイでしょうか。
 ライヴのような歓声が曲の終わりに入っていて、次のメドレーに続きます。
 
 "Toghether Again 〜 I Love You A Thousand Ways"は、打って変ってカントリーの有名曲のメドレーです。
 バック・オーウェンス 〜 レフティ・フリーゼルのナンバーで、ベイカーズフィールド・カントリーとプリ・ペイカーズのコースト・ホンキートンクのリレーです。

 "I Love You A Thousand Ways"は、Augie Meyersが82年のソロ・アルバム、"Still Growin"(未CD化)でジャンプ・ブルース・アレンジでやっていて、大好きな曲です。
 ここでのDougのバージョンは、あまりひねらず、王道のホンキートンクですが、ロッキー・モラレスぽいサックス・ソロが入っていて、観客の口笛「ヒューヒュー」もかすかに記録されています。
 ろうろうと歌うDougの鋼のノドに萌えます。 

 いずれも絶対必聴とまでは言えませんが、埋もれさせるには惜しい演奏で、Doug、Augieのファンなら聴くほかないレア音源です。
 完成度だけで言うなら、Augieの"Little Fox"が一番の出来かも知れません。
 (Augieの自作でもありますので…。)
 でも、Dougのライヴ音源、とりわけカントリー・メドレーは、繰り返し聞くとじわじわと効いてきます。
 
 今夜は、引き続きDoug Sahm三昧で眠りにつきたい、そんな夜です。



Will You Still Love Me Tomorrow - (¿Me amaras mañana?)
by The Shirelles




関連記事はこちら

Doug Sahm Day
テキサス遥か (2011年11月18日)
白夜の国から (2010年11月18日)

The Krayolas
テックス・メックス・ビートルズ
マージーでフォーキー、そしてテキサス

Randy Garibay
チカーノ・ブルースマン


 

エル・ランチョ・ロック

追記しました(斜体赤字)

 「つんどく」という言葉があります。
 本好きの人が、本を買ったはいいのですが、「なかなか読まずに積んだまま放置しておく」くらいの意味ですね。
 私は今、電子書籍リーダーというものにはまっていて、たまっている紙の本はつんどく状態のまま、電子化された、かつての愛読書をデジタル・データで読み返す体験をしています。

 7月に発売された楽天のKobo Touch(6インチ端末)で開眼した私は、現在は、主としてソニーのReader(同6インチ端末)で小説やノン・フィクション等のテキストを読みつつ、7インチの汎用タブレット、Google Nexus7でコミックを読んでいます。
 (今月まもなく及び来月に発売される「電子書籍界の黒船」アマゾンKindleの2機種も予約オーダーしています。)

 電子書籍が本格的に根付くかどうか未だわかりませんが、かつてレコードからCDへとメディアの移行が行われた時期のように、これを契機に、絶版本のいくつかが電子化されて読めるようになったのはうれしいことです。

 さて、今回のアルバムは、買ったまま聴かずに長い間放置していたものです。
 電子書籍を読む際のBGMとして、「そういえばこんなディスクがあったなあ」とトレイに乗せたのでした。
 結果、目が覚めるような新鮮な気持ちを得ることになりました。


 
The Tequila Man
Chuck Rio

1. Margarita (Chuck Rio & The Originals)
2. Midnighter (The Champs)
3. Surfin' Blues (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
4. Denise (Chuck "Tequila" Rio)
5. Tequila (The Champs)
6. El Rancho Rock (The Champs)
7. Bruce (Danny Flores & The Fans)
8. Antonillo (Chuck Rio)
9. C'Est La Vie (Chuck Rio & The Originals)
10. The Whip (The Originala)
11. Tnt (The Chumps)
12. Mama Inez (Chuck Rio)
13. Wildman (The Contenders)
14. Persuasion Aka Let's Go Surfin' (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
15. Taking Off On A Wall (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
16. Hanging Ten (The Creshendoes with Chuck Rio)
17. Surfer Strip (The Creshendoes with Chuck Rio)
18. Surfer's Lullaby (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
19. Gremmie Bread (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
20. Kreshendo Stomp Aka Kahuna Stomp (Chuck "Tequila" Rio & The Creshendoes)
21. Toes On The Nose (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
22. Caught In The Soup (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
23. Surfer's Nightmare (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
24. The Raid (The Persuaders feat. Chuck "Tequila" Rio)
25. Don't Go Baby (Danny Boy)
26. Crazy Street (Danny Flores)
27. You Are My Sunshine (Danny Flores)
28. Bad Boy (Chuck "Tequila" Rio)
29. Call Me Baby (Chuck "Tequila" Rio)
30. Worried, Restless And Sad (Danny Flores)

 本盤は、「テキーラ」のヒットで有名なThe Champsのサックス・プレイヤー、Chuck "Tequila" Rioのキャリアを総括したようなアンソロジーになっています。
 Champsのナンバーから、別のバンド名義のもの、ソロ名義、本名のDanny Flores名義のものなど、たっぷり30曲を聴くことができるお得盤です。

 サウンドは、総体して元祖ガレージというか、サーフィンくずれというか、良く言えば、ラテン・ロックンロールの熱気を体現した「ノリ」が心地いいです。
 とにかく、ブロウとブレイクのおかずの取り合わせが決まったときの味わいは格別です。

 トラック5には、代表曲"Tequila"も堂々と鎮座していて貫禄をみせています。
 そんな中、ながらで聴いていた私に、電子ブックのページから意識を引き離して、思わずパッケージの曲名を確認させたのがトラック28です。

 "Bad Boy"、この曲は、ビートルズが有名にしたラリー・ウイリアムズの曲ではありません。
 原曲は、ルイ・アームストロングの二人目の奥さん、ハーディン・アームストロングがバンド・リーダーをつとめるLil' Hardin Armstrong & Her Swing Orchestraの36年盤です。

 私は原曲は未聴ですが、きっとハーレム・クラブ風のちょっぴりお下品なスイング・ジャズなんだろうと想像します。
 Chuck Rio盤が、原曲の雰囲気をどの程度残しているのか不明ですが、58年リリースということで、ややクルーナー調のシャウター風味も残しつつ、50'sリズム&ブルースの猥雑な「ノリ」でリッチに歌いとばす楽しい仕上がりです。

 この曲は、Doug Sahmが、アントンズでのLast Real Texas Blues Bandによるライヴ盤でやっていた曲です。
 そして、先ごろリリースされた、ファン感涙の同バンド名義による、97年のストックホルム公演のライヴ盤でも記録されていた曲なのでした。

 この曲は、私がDoug Sahmのストックホルム公演盤を聴いた際、原曲が聴きたいと思った曲のひとつでした。
 もちろん、Doug Sahmがお手本にしたバージョンが聴きたいという意味です。
 確証はありませんが、このChuck "Tequila" Rioの58年盤こそ、その元ネタ・バージョンではないでしょうか。
 私は、思わぬ出会いからの興奮冷めやらぬ高揚感の中、期待も込めて、そう思っています。

 そして、「つんどく」状態のディスクの中には、他にもこういったサプライズが眠っているのではないか、などと夢想するのでした。

 追記
 本日(11/12)到着した熊家族の新譜CD、"Street Corner Symphonies The Complete Story of Doo Wop Vol.8 : 1956"に、Jive Bombersの"Bad Boy"という曲が収録されていて、なんとこれが同じ曲でした。
 Chuck Rioより2年前の録音で、サヴォイ録音のDoo Wopです。
 Clarence Palmerという人のリードが素晴らしく、どうもChuck Rioのお手本はこれっぽいです。

 Chuck Rio盤とJive Bombers盤ともに、つべにあがっていましたので以下に紹介します。



Bad Boy by Chuck "Tequila" Rio



Bad Boy by The Jive Bombers




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ストックホルムの贈り物







テハーノ・オールディーズ

 今回は、このバンドを聴きました。
 Liberty Bandという名のテハーノ・グループのアルバムで、おそらくはサンアントニオのバンドではないかと思います。
 本盤は、リリース時期があいまいで、裏ジャケには、2000-2003とクレジットされています。
 これが録音年をさしているのか、あるいは、過去作からの編集盤であることを意味しているのかは不明です。

 
Tejano Golden Oldies
Liberty Band

1. Oldies Medley
2. Te Quiero Mujer
3. Sumbale Maria
4. Si Quieres
5. El Hijo Del Gato Negro
6. Polkda Medley
7. El Solteron
8. Que Bueno
9. El Mucura
10. Oldies Medley

 収録曲の大半はスペイン語によるラテン曲で、スパニッシュ・コミュニティに向けたアルバムです。
 ただ、冒頭とラストに英語詞のオールディーズ・メドレーが配置されています。
 まあ、スペイン語曲もいいですが(特にポルカ・メドレーが◎)、やはり英語のオールディーズ・メドレーが私の一番のお目当てです。

 ここで披露されているのは、基本的にドゥワップを中心とした三連バラードたちです。
 少し古い世代のチカーノが昔から好んでいたリズム&ブルースの詰め合わせですね。
 これは、私の大好物でもあります。

 バンドは、メンバーのクレジットがないのですが、02年頃に出されたと思われる同バンドのアルバム、"Tell It Like Is"のクレジットを参考にすると、以下のような編成ではないかと思います。

Willie Martinez : lead vocals
Ernest Martinez : keyboard
Ledro Uriegas : trumpet
Raul Valdez : sax
Manuel Ramos : guitar
Victor Martinez : bass
Oscar Narvaiz : drums


(この写真では人数が合いませんね)


 さて、スペイン語の曲に関してはほとんど語る材料がないので、やはり、お気に入りのオールディーズ・メドレーについてご紹介したいと思います。
 曲目リストの表記のとおり、メドレーとあるだけで、両曲ともに個別のクレジットがありません。
 なので、私が分かった範囲で書きたいと思います。

 1曲目のメドレーは、以下のような流れだと思います。

1. Oldies Medley
Then You Can Tell Me Goodbye (The Casinos)
〜 不明
〜 Sometimes (Gene Thomas)
〜 Donna (Ritchie Valens)
〜 Tears On My Pillow (Little Anthony & the Imperials)
〜 不明 (スペイン語曲)

 冒頭の"Then You Can Tell Me Goodbye"は、カントリーでもサザン・ソウルでもカバーされている曲ですね。
 本バージョンのお手本は不明ですが、Doo WopならThe Casinos盤があるようです。

 2曲目は、You're Mine〜というフレーズから始まる曲で、最初はDoug Sahmもやった、"You're Mine Tonight"かと思いましたが、どうも違うようです。
 
 そして、大好きなジーン・トーマスの"Sometimes"がメドレーにうまく組み込まれているのが嬉しいです。
 (この曲の前に、"Close Your Eyes〜"のフレーズを持つ曲(Five Keysの有名曲ではない)が入っているかも知れません。)

 リッチー・バレンス(バレンズエラ)のバラード曲を経て、リトル・アンソニーへと繋ぎます。
 
 "Tears On My Pillow"は、チカーノの好きな曲ですね。
 Sunny & the Sunlinersが、Imperialsをお手本の一つとしていたことは、わりと知られています。

 メドレーは、スペイン語曲で終了します。
 もしかすると、比較的有名な英語曲のスペイン語バージョンという可能性もあります。

 一方、アルバムのラストのメドレーはこんな感じだと思います。

10. Oldies Medley
Oh, What A Night (The Dells)
〜We Go Together (The Moonglows)
〜Angel Baby (Rosie & the Originals)
〜Since I Fell For You (The Harptones)
〜Hey Paula (Paul and Paula)
〜スペイン語曲

 デルズの「オーワラナイ」でスタートし、ムーングロウズ・ナンバーへと引き継ぎます。
 冒頭のメドレーが、Doo Wopによくある三連バラード曲のメドレーだったのに対して、こちらは同じ三連でも少しメロディックな12ビート風の曲を集めた感じです。

 ムーングロウズの"We Go Together"は、50年代のChess録音で、「レッツゴー ステディ」のフレーズが耳に残る名作です。
 チカーノ・コミュニティでは、60年代に地元グループのRoyal Jestersのカバー・バージョンがローカル・ヒットしています。
 Royal Jestersは、Joe Jama、Dimas Garzaも在籍していたサンアントニオの名門ボーカル・ゴループです。

 そして、ロージーとオリジナルズの"Angel Baby"が続きます。
 "Angel Baby"は、ジョン・レノンも大好きだった曲ですね。
 原曲がリリースされた当時、ロージーは確かローティーンだったのではないかと思います。
 ロージーのフルネームは、Rosalie Hamlinといい、Originalsのメンバーも含めチカーノです。

 "Since I Fell For You"は、元はジャズ・ポピュラーのスタンダードで、Doo Wopではハープトーンズ盤が最初ではないかと思います。
 スカイライナーズ盤もいいです。

 "Hey Paula"は、オールディーズ、アメリカン・ポップスの代表曲のひとつですね。
 原曲を歌っているポールとポーラのPaulaは、フルネームをPaula Estradaといい、やはりチカーノです。

 最後は、スペイン語曲です。
 聴きようによっては、"Since I Fell For You"のメロディのような気もします。
 
 これらのメドレーの選曲は、チカーノ・オーディエンスが好む内容なのだと思います。
 ちなみに、イーストL.A.のチカーノ向けコンピ・シリーズ、"East Side Story"(CD12枚144曲)のラインナップを眺めると、人気アーティストの傾向がぼんやりと浮かんでくる気がします。
 "East Side Story"の収録曲数の上位5組は以下の通りです。

1. Brenton Wood 4曲
1. Brenda & The Tabulations 4曲
1. Billy Stewart 4曲
4. Etta James 3曲
4. Gene Chandler 3曲

 後半の3組はともかく、最初の2組はほとんど日本では話題にならないアーティストだと思います。
 イーストL.A.とサンアントニオを単純に「チカーノ」でひとくくりにするのは乱暴かも知れませんが、これを見る限り、日本との人気の傾向の違いが感じられて、大変興味深いです。

 ドリーミーに始まり、陽気なラテン曲を経て、最後は再びドリーミーかつマーベラスに締めくくる、そんなナイスなアルバムです。


Oldies Medley by Liberty Band


Oldies Medley
Then You Can Tell Me Goodbye
〜 ?
〜 Sometimes
〜 Donna
〜 Tears On My Pillow 
〜?



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テハーノ・サウンド・ショーケース

スカンジナビアン・ホンキートンク・ソング

 今回は、在スウェーデンのカントリー・シンガー、Red Jenkinsの最新作をご紹介します。
 この人のバイオはよくわからないのですが、多分テキサス出身のアメリカ人で、スウェーデンに住んでいるのは、スウェーデン女性と結婚したからなんだと思います。


Cheatin' Heart Motel
Red Jenkins

1. Three Chord Country Song (feat. Tony Booth) (Red Steagall, Danny Steagall)
2. The Cheatin' Heart Motel (feat. Johnny Bush) (Red Jenkins, Becky Hobbs)
3. A Texas Honky Tonk (feat. Georgette Jones) (Glenn Sutton)
4. Fallin' Down Ole Beerjoint (feat. Rick Sousley) (Lloyd Goodson, VanBuskirk)
5. Let's Go Dancing (feat. Mona Mccall)  (Buster Doss)
6. Wish I Had a Nickel (feat. Landon Dodd) (Terry Fell)
7. Drink My Wife Away (feat. Miss Leslie) (David Allan Coe)
8. One More Bottle from the End (feat. Norman Wade) (M. Paul, R. Parker)
9. Happiness Is Never Found in Cans (feat. Billy Mata) (Frank Dycus, Max D. Barnes)
10. Dreams of a Dreamer (feat. Darrell Mccall) (David Hugh Brown)
11. World of Make Believe (feat. Bill Green) (Bill Green)
12. Play the Jukebox One More Time (feat. Jake Hooker) (Eemonn Mc Philomey)
13. Glasses of Beer (feat. Amber Digby)  (Joel Mathis, Berrien Sutton)
14. You Can't Get There from Here (feat. Justin Trevino) (David Hugh, Red Jenkins)
15. Private Party (feat. Bobby Flores) (John Lambert)
16. Stay Under Me (´till I Get Over Her) [feat. Miss Leslie] (Red Jenkins, Joe Sun)
17. Heaven Ain't a Honky Tonk (feat. Johnny Bush) (Mark Vickery)
18. Psychedelic Cowboy (Tribute to Doug Sahm) [feat. Augie Meyers] (Brad Piccolo, John Cooper) 

 Red Jenkinsは、本名も不明です。
 ミレニアム以降にCDが4枚出ていて、いずれも同じコンセプトで作られています。
 (本盤が5枚目)
 録音のためアメリカへ赴き、オースチンもしくはナッシュビルで主として友人(?)のカントリー・シンガーとデュエットしています。

 本盤も同様のつくりで、Johnny Bush、Bobby Floresあたりの常連に加え、多くの私の知らないシンガーと共演しています。
 珍しく超大物のGeorge Jones参加かと思った、Georgette Jonesなるややこしい名前の女性シンガーもいます。

 しかし、私が注目したのは、ラスト18曲目に入っている、Augie Meyersとのデュエット曲、"Psychedelic Cowboy"です。

 この曲は、私が以前、本ブログでとりあげたオクラホマのカントリー・ロック(?)バンド、Red Dirt Rangersの作品のカバーで、Doug Sahmのトリビュート・ソングです。
 実は、Red Dirt Rangersのオリジナル・バージョンでも、Augie Meyersがゲスト参加してオルガンやアコーディオンを弾いていたのでした。
 この曲は、Doug Sahmへの憧れを歌ったもので、Dougの作品名を織り込んだ歌詞だけでなく、曲調も含め、Doug讃歌曲として最高の出来だと思います。

 本盤では、歌詞はもちろんそのまま、アコーディオンを効果的に使ったアレンジで、原曲よりもレトロなスタイルでやっています。
 Redの「カモン シンギン オーギー !」という呼びかけに応じ、オーギーの歌声が聴こえてくると、自然と頬が緩みます。

 Red Jenkinsは、完全にホンキートンクのオールド・スクールの人で、例えるなら、本盤にも参加しているJohnny Bushをさらに時代遅れにした感じです(言い過ぎかな?)。
 ワルツもやりますが、レパートリーの多くは、4ビート・スタイル(風)の正調ホンキートンク・カントリーです。

 Johnny Bushをご存じでしょうか。
 Willie Nelsonのレパートリーとして有名な"Wiskey River"のオリジネイターで、がちがちの陶酔系テキサス・ホンキートンク・シンガーです。
 近年の作品を聴いても、バックこそニュー・トラディショナル調ですが、中身は相変わらずのオールド・スタイルで嬉しくなる人です。
 RedとJohnnyは古い友人のようで、類は友を呼ぶをそのままいっています。
 私の聴いた範囲では、Red Jenkinsは、そんなJohnny Bushよりもさらにレトロな印象を受けます。

 Augie Meyersとは、Redが06年にリリースしたアルバム、"Neon Bible"でも共演していて、そこでは"Heartaches By the Number"をデュエットしていました。



 アルバム収録曲は、見事に同じような雰囲気の曲であふれています。
 テキサスではありますが、アウトロー・カントリー風ではありません。
 あくまで正調ホンキートンク・カントリーで、Bob Willsネタの曲もあるため、ウエスタン・スイングが好きな方にも、興味をもって楽しめる1枚だと思います。

 やはり、"Psychedelic Cowboy"が素晴らしいですが、その他では次の2曲が特に耳に残りました。

4. Fallin' Down Ole Beerjoint
5. Let's Go Dancing 

 "Fallin' Down Ole Beerjoint"は、完全にレフティ・フリーゼル調のメロディの曲で、"I Love You A 1000 Ways"や、"Always Late"を連想します。(実際、それ風の歌詞も出てきます。)

 "Let's Go Dancing"は、"Take Me Back to Talsa"、"Bob Wills Is Still the King"などの歌詞が出てくるウエスタン・スイング讃歌で、後者のフレーズは、もちろんウエイロン・ジェニングスのヒット曲のタイトルです。

 私にとっては、Augieとの共演曲が一番ですが、Johnny Bush、Bobby Floresとのデュエットも安定の良さです。
 また、女性シンガーとの共演曲もいい感じでした。

 カントリーに関心がない方、苦手な方にはお奨めしにくいですが、内容はいいアルバムだと思います。
 Redのボーカルは、Johnny Bushに似たジェントルなバリトンなので、古いカントリーからイメージする、鼻にかかったハイ・ロンサムなスタイルではないので聴きやすいと思います。


 追記
 Doug Sahmのディスコグラフィーによれば、82年にRed Jenkinsがリリースしたアルバム、"Redneck In a Rock & Roll Bar"では、Dougがゲスト参加して、アルバム・タイトル曲をデュエットしているらしいです。
 …という情報は以前から知っていますが、私はジャケ写すら見たことがありません。
 スウェーデン盤オンリーということもあり、Redのミレニアム以前のアナログLPは、残念ながら未CD化のまま埋もれようとしています。
 何とかならないものでしょうか。
 



Psychedelic Cowboy by Red Jenkins




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Doug Sahm Tribute Songs
サイケデリック・カウボーイ
悲しい知らせに 空が泣いた


ウエストサイド・ア・ラ・カルト

 今回は、このアーティストを聴きました。
 ドラマーのRocky "Shuffle" Hernandezがバンド・リーダーを務める、Oldies But Goodies Bandの2ndアルバムです。

 このバンドは、以前に1stをとりあげています。
 例によって、テキサス、ルイジアナ近辺のジュークボックス・ヒッツといった趣の作品集となっています。
 本盤は、01年にリリースされました。


Bringing Back The Memories 50's & 60's Vol.2
Rocky "Shuffle" Hernandez and The OBG Band

1. I Don't Want No Woman
2. You Don't Know Me   
3. Since I Don't Have You  
4. Breaking Up Is Hard To Do  
5. Turn Back The Hands Of Time
6. Lover's Prayer
7. Alligator Blues   
8. Rainy Night In Georgia  
9. Running Blues  

 まず最初におことわりしたいことがあります。
 少し前に、彼らの1stを取り上げた際、メンバーがはっきりと分からなかったため、Web情報を元に私の推測を書きました。
 次のようなメンツです。

Danny Esquivel : guitar, lead vocals
Nando Aguilar : bass, vocals
George Gonzalez : guitar
Tommy "El Gato" Luna : sax
Rocky Hernandez : drums

 しかし今回は、クレジットがありました。
 それによれば、本盤でのメンバーは以下の通りです。

George Ovalle : lead vocals
George Gonzales : guitar
Pete "Corce" Garza : bass
Steve Espinoza : keyboards
Louie Bustos : sax
Rocky "Shuffle" Hernandez : drums

 見事に違いますね。
 私が参考にしたWeb記事が最近のもので、そこへ至るまで、いろいろとメンバーの変遷があったようです。
 これにより、本盤の1年前にリリースされた1stのメンバーは、(またも推測ですが)おそらく本盤に近いものだろうと考えます。
 (Doug Sahm人脈のLouie Bustosの名前を見て、一層親しみがわきました。)

 ところで、本盤は前作とは少し違った印象を受けます。
 音の印象からは、私は今作の方がより好きです。
 ざっくり印象を言えば、1stがイナタくもっさりした音なら、この2ndは少しアーバンな雰囲気を感じさせる音になっています。
 特に感じるのがギターで、今作はギターの出番が多く、細かくシャープに歌っています。

 もちろん印象の違いは、選曲からくるものもあるでしよう。
 1stが、全体的にスワンプ・ポップ的傾向が強かったのに対して、今作はソウル、ブルース寄りの選曲に感じます。
 ただ、それらを加味しても、リズム隊、ホーン陣はともかく、ギターはメンツが変わっている気がします。
 これらから、ギターのGeorge Gonzalesの参加は本盤からではないかと推察します。

 他のメンツは、(リード・ボーカルも含め)よくわかりません。
 はっきり分かるのは、ジャケ写で分かるように、本盤は6人編成だということくらいてす。
 (また、ゲストのクレジットがありませんが、曲によってはトランペットが参加している気がします。)



 アルバムは、Bobby Blandの"I Don't Want No Woman"でスタートします。
 まず、出だしのこの曲で、前作との違いをはっきり感じます。
 最初から、ギターが細かくフレーズを入れ続けています。
 キーボードとホーンを柱に、ギターが歌と同じくらいの比重でメロに絡んでいます。
 ブルージーで流麗なギター・ソロがかっこいいです。

 次の"You Don't Know Me"が一転して、ホンキートンク・カントリーの名作のカバーで選曲の落差が激しいです。
 ただ、音の印象はさほどのギャップを感じず、カントリーの風合いが少ないアレンジのため、スムースに聴くことができます。
 曲は、Bob Willsに多くの名作を書いた、Cindy Walkerの作品で、オリジナルはビロード・ヴォイスのスタイリスト、Eddy Arnoldではないかと思います。
 Willie Nelsonが、この曲をアルバム・タイトルにした、Cindy Walker作品集を出しています。
 シンセが入っているように思いますが、ほとんど気になりません。
 ブルージーかつジャジーなナイト・ミュージック風の仕上がりです。

 "Since I Don't Have You"は、ドリーミーなDoo Wopバラードです。
 ここまでの一連の曲の並べ方がいいですね。
 ハード・ブルース、ホンキートンク、ドゥワップというわけです。
 Skylinersの代表作のカバーで、リード・ボーカルのジェイムズ・ボーモン(ト)のファルセットを最大限に生かした必殺のブルー・ラブ・バラードでした。
 ここでは、George Ovalleが頑張って原曲の雰囲気をトレースしています。
 高音パートでの彼の頑張りと、やはり選曲の流れの妙を評価したいです。

 "Breaking Up Is Hard To Do"は、スワンプ・ポップの名作の一つで、オリジナルはJivin' Geneです。
 Cookie & the Cupcakesのカバーもいいです。
 (カーペンターズに同名の名曲がありますが、あちらはニール・セダカ作の別の曲です。)  
 三連のホーン・リフを軸に、ボーカルが太い声でろうろうと歌っています。
 一気にイナタくなった感じがします。
 サックス・ソロからギター・ソロへつなぐ展開が聴きどころの一つでしょう。

 そして、"Turn Back The Hands Of Time"へとつながります。
 有名なタイロン・デイヴィスのシカゴ・ソウルの名作です。
 イントロのベース・ランから雰囲気満点で、期待させてくれます。
 原曲に沿ったアレンジで、軽快かつおしゃれに迫ってきます。
 このあたりも、イナタい曲からアーバンな曲へと考えて並べているのでしょうか。
 小粋なキーボードのオブリから、サックス・ソロまではまっています。

 ソウル・カバーが続きます。
 なんとオーティスの"Lover's Prayer"です。
 難しい曲だと思いますが、ボーカル、伴奏陣ともにサッドな雰囲気をうまく出しています。
 ロンサムなサックス・ソロがぴったりマッチしています。

 "Alligator Blues"は、サックスの前奏から、トランペットへのソロ回しで始まる、ソウル・インスト・ナンバーです。
 シャッフル・ブルース風でもあります。
 ひたすら気持ちのいいグルーヴに身をひたすのみです。
 原曲は分かりません。
 オリジナルなのかも知れません。

 "Rainy Night In Georgia"は、またも選曲の流れのうまさを感じさせる配置だと思いました。
 怠惰な雰囲気のバラードで、ブルック・ベントンで有名なトニー・ジョー・ホワイトの作品です。
 かっこいい系から、脱力系へと転換させた曲の並びです。

 ラストの"Running Blues"も原曲不明です。
 シャッフル・ブルース調の曲で、"Alligator Blues"に似た気持ちいいグルーヴに乗りながら、こちらはスタイリッシュなボーカルが歌い飛ばしていきます。

 かっこいい系の曲で始め、様々なタイプの曲を効果的に並べながら、最後はかっこよく締めた、ごきげんなアルバムだと思います。




I Don't Want No Woman
by
Rocky "Shuffle" Hernandez & OBG Band




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スワンプ・ポップのふるさと

前門の爆風 後門の狼

 今回は、少し休憩です。
 久しぶりに、パイレートDVDを観ました。
 「カリブの海賊」ではありません。

 無駄にひねってみましたが、つまりはブートDVDです。
 2組のアーティストの公演を収録したもので、なかなかに興味深い内容だと思います。

 収録されているのは、Blastersが11曲、Los Lobosが9曲です。
 クレジットによれば、両組とも85年4月16日、ニューヨークのクラブ・リッツ(Ritz)での公演となっています。

 この2組は、80年代LAロカビリー・シーン(?)から飛び出した代表的なバンドですね。
 Los Lobosは、East L.A.チカーノ・シーンからと言うべきかも知れませんが…。


Los Lobos / Blasters

 
The Blasters Live at the Ritz
New York, NY 4.16.1985

1. Rock 'n' Roll Will Stand
2. Long Black Cadillac
3. Crazy Baby
4. No Other Girl
5. Border Radio
6. Colored Lights
7. Little Honey
8. One More Dance
9. I'm Shakin'
10. American Music
11. Marie Marie
Los Lobos Live attThe Ritz
New York, NY 4.16.1985

1. Will The Wolf Survive
2. Come On Let's Go
3. Our Last Night
4. Anselma
5. Let's Say Goodnight
6. I Got To Let You Know
7. Farmer John
8. Don't Worry Baby
9. La Bamba

 この2組は、当初兼任していたサックスのSteve Berlinを通して、兄弟グループとも言えました。
 当時、SteveがLos Lobosの正式メンバーとして専任することになった時、Blasters派だった私は、少なからずショックを受けたものでした。

 85年というのは、Blastersにとって曲がり角になった(と私が思っている)、"Hard Line"をリリースした年でした。

 "Hard Line"は、私は「微妙かも」と思ったアルバムで、本盤収録の公演時に既にリリース済だったのか不明ですが、"Rock 'n' Roll Will Stand"、"Little Honey"の2曲が演奏されています。

 今回、邦題「ハリウッド旋風」収録の作品や、さらにそれ以前のレパートリーなど、初期作品のクオリティがやはり際立っていると改めて感じました。

 一方、Los Lobosは、世界にその存在を知らしめた名作、"How Will the Wolf Survive?"のリリースが前年の84年ですから、(異論はあると思いますが)私はバンドの個性が最高に機能していた時期だと思っています。

 ひとつ前のミニ・アルバム収録曲を含め、本DVDのセットリストは最高だと思います。
 既にLobos版の"La Bamba"もやっています。
 ここでは、Los Lobosが内包している(と私が初期から感じていた)影のある部分は、まだそれほど顕著になっていないと思います。

 ここからは、今回、映像で知ることができたことについて、私の感想をごく簡単にまとめます。
 実は私は、Blasters、Los Lobosともに、まとまった映像を観たのは初めてです。

 まず、Blastersですが、Phill Alvinが指弾きだということを初めて知りました。
 親指でベースを鳴らして、残りの指で下の弦を弾き下ろすパターン、そして、親指とその他の指で内側へつまむようにはじく2つのパターンが目につきました。
 よりファストな曲では、親指と人差し指でピックを握るような形をつくり、他の指は開いたままストロークしますが、サム・ピックをしているのか否かは判然としません。



 Phillさんは、残念ながら、フロントマンとして華があったとは言い難い気がします。
 広い額、後退気味の髪、笑うと歯を剥き出したように見えるルックスなどが印象的です。

 一方、Dave Alvinは、特別かっこいいソロの出番があるわけでもなく、兄弟二人とも、後のミュージシャンズ・ミュージシャン的な匂いを、既に少し感じます。



 Gene Taylorは、この頃から、後に日本で見た体型のまま、イメージそのままでした。

 曲としては、私は"No Other Girl"が特に好きで、演奏シーンが見られてうれしいです。
 あとは、"So Long Baby Goodbye"とJimmie Rodgersのグッド・ロッキンなカバー、"Never No More Blues"が入っていればなお嬉しかったのですが…。

 Los Lobosは、全て好きな曲ばかりです。

 映像を観て驚いたのは、David Hidalgoが、1曲の中でアコーディオンを弾きながら歌い、途中からアコを下して、おもむろにバーを取り出し、スチール・ギターを弾いたシーンです。
 Phill Alvinの指弾きもそうですが、こういった小さな発見は、映像ならではの楽しみですね。



 Cesar Rosasは、基本はストラト(サウスポー)ですが、曲によってバホ・セストに持ち替えるシーンがばっちり収録されていて、これは不思議でもなんでもないですが、やはり映像で確認できたのは感激でした。

 "Will The Wolf Survive"で始まり、中盤に"Anselma"を効果的に挟んで、"Don't Worry Baby"、"La Bamba"の流れで締める美しいセトリだと思います。

 "Farmer John"は、"Anselma"の裏面だった曲で、チカーノに人気の曲です。
 これで「サンアントニオをあとにして」が入っていればと思うのは贅沢でしょうか。



 岐路に立っていた時期のBlasters、本格的に飛躍をしようとしていた時期のLos Lobos、それぞれを捉えた貴重なソフトだと思います。



Never No More Blues by The Blasters
 


Never No Mo' Blues by Jimmie Rodgers




 

ロックパイルが北欧に残した芽

 今回も、スカンジナビア半島ネタです。
 北欧時代のBilly Bremnerについて、色んな角度からクグッていて、偶然見つけました。

 スウェーデンのバンドで、本盤は07年にリリースされた、おそらくは最近作ではないかと思います。
 このバンドのことは、ほとんど何も知りません。

 ビニール盤時代の最期くらいにデビューしたバンドではないかと思われ、本盤を含め、これまで5枚ほどCDがあるのではないかと思います。
 ただ、例によって過去作の入手はなかなか困難なようなので、見つけたらゲットしたいところです。


We're Back
Simon Crashly and the Roadmasters

1. She's A Real Rock & Roller (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
2. You Can't Catch Me (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
3. Tribute To Rockpile (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
4. Big Boys Boogie (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
5. One Way Romance (Bremner)
6. Lonesome Traveler (Guthrie)
7. It's Only Rock & Roll (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
8. There'll Be No Teardrops Tonight (Hank Williams)
9. Good Rockin' Daddy (Maher)
10. Wet Wet Wet (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
11. One Way Track (Svennbeck, Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
12. Blue Paradise (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
13. Boogie Woogie Baby (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
14. Brand New Man (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)
15. We're Back (Asberg, Nordahl, Nilsson, Larsson)

 本盤は、Billy Bremnerの作品("One Way Romance"、自演盤も有名人のカバーもないのでは?)1曲と、メンバー共作名義による"Tribute To Rockpile"という、嬉しくなるようなタイトルの曲を含む、とても興味深い内容になっています。

 バンド構成は以下の通りで、基本は、ギター、コントラバス、ピアノ、ドラムからなる4ピース・バンドです。
 (過去作のジャケでは、もう1本ギターが加わって、5人編成で写っているものがあります。)

Sten Asberg : guitar, vocals
Christer Nordahl : double bass
Anders Larsson : piano, accordion
Peter Nilsson : drums, backup vocals
guest
Janas Olpers : lap steel

 ギター、ボーカルのSten Asbergが、バンド名にある、Simon Crashlyのことです。
 なぜそう名乗っているかなど、理由は全く分かりません。
 アメリカ風のバンド名にしたかったのかもしれませんが、だとすれば、Crashlyという姓はあまり一般的とは言えない気がしますが…。



 曲目リストのとおり、オリジナル曲は、基本的にメンバー4人の共作名義になっています。

 バンドのスタイルは、編成的にロカビリー系を連想しそうですが、本盤に限って言えば、見事なくらいシンプルな8ビートのロックンロール・バンドそのものです。
 (デビュー時等、過去作ではロカビリー・スタイルでやっているようです。)

 Billy Bremnerの提供曲、ロックパイル讃歌曲に限らず、全体的にたんたんとロックンロールするナンバーがほとんどで、このての音楽が好きな人なら、思わず頬が緩むこと間違いないでしょう。

 例えば、多くの曲でのStenのバッキングは、小指を使ったChuck Berryスタイル・オンリーといってもいいくらいです。
 (思わず、Rockpile、Dave Edmunds、Billy Bremnerらを連想せずにはいられません。)

 一方、気になるベースは、つべの過去動画を見ると盛んにスラップしていますが、ピックアップなしなのか、本盤では(カチカチ音は)埋もれて聴こえません。
 また、多くの曲ではピアノが使われていますが、アコーディオンに持ち替えた曲(多重録音もあり)があり、同傾向の曲が続くなか、アルバムの良いアクセントになっています。
 とはいえ、そのバックでは、昔ながらの不変のギターブギ・リズムが刻まれているのでした。


Chriter Nordahl


5人編成時代


 ところで、気になったのは、オリジナル曲に有名曲と同じタイトルをつける傾向があることで、本盤では"You Can't Catch Me"、"It's Only Rock & Rol"などが目をひきますが、クレジットどおり間違いなく彼らのオリジナルです。
 過去作では、"Honky Tonk Woman"なんていうオリジナル曲もあるようです。

 Billy Bremner作品以外のカバーでは、Hank Williamsの"There'll Be No Teardrops Tonight"(邦題「今夜は涙なんか見せないぞ」)が注目です。
 アコーディオンを効果的に使ったアレンジで、原曲が持つロンサムなブルー・ラヴ・ソングの雰囲気を、見事にパーティ・ソングに変貌させています。

 とにかく、理屈抜きに楽しめるアルバムだと思います。


Tribute To Rockpile
by Simon Crashly & the Roadmasters




Jill
by Simon Crashly & the Roadmasters


初期ロカビリー時代 〜 この頃はギター2本でピアノレスのようですね。



スカンジナビアからロッキン

 うーむ
 北欧って、何かミュージシャンを惹きつける特別な魅力があるんでしょうか?
 この人もまた、スウェーデンを活動の拠点にしている(住んでいる?)人です。

 これって、いつ頃からでしたっけ?
 少なくとも、98年の2ndソロ、"A Good Week's Work"では、既にスウェーデンと深く関わっていたはず…。
 などとタイプしてから気付いたのですが、この人が制作したスウェーデンのRockpileこと、The Refreshmentsの1st、"Both Rock 'n' Roll"がリリースされたのは95年でした。
 そこから起算すると、あと数年で、北欧との蜜月は20年に及ぶわけです。


Billy Bremner's Rock Files
Billy Bremner

1. The Alliguitar And The Rockadile (Billy Bremner, Micke Finell)
2. I Hit The Nail Right On The Head (Billy Bremner, Micke Finell)
3. My Life Has Stopped On Red (Billy Bremner, Micke Finell)
4. Bullies (Billy Bremner, Micke Finell)
5. Emergency (Billy Bremner, Micke Finell, M. Ahlsberg)
6. At Last The Summer's Here (Billy Bremner, Micke Finell)
7. The Cocktail Of The Year (Billy Bremner, Micke Finell)
8. Take It Day By Day (Billy Bremner, Micke Finell)
9. Lie Detector (Billy Bremner, Micke Finell)
10. Can't Turn Back (Billy Bremner, Micke Finell)
11. Hell's Doors (Billy Bremner, Micke Finell)
12. Instead Of Believing You (Billy Bremner, Micke Finell)
13. Every Day I Love You More And More (Billy Bremner, Micke Finell)
14. She's No Queen (Billy Bremner, Micke Finell)
15. Lena (Billy Bremner, Micke Finell)

 本盤は、スウェーデンの会社から、今年6月末にリリースされました。
 例によって、販路はEU圏内の一部ショップ中心で、大手では未だあまり流通していないようです。

 本盤の裏ジャケには、"Ball & Chain"と"Rock Around The Clock"という二つのロゴがプリントされています。
 どうやら、"Rock Around The Clock"が元々の製作レーベルではないかと思われ、だとすれば、現状の販路の狭小さについては、"Ball & Chain"にもう少し頑張ってほしいところです。

 一方の"Rock Around The Clock"は、Refreshmentsのサックス・プレイヤー、MIcke FInellが深く関わっている(オーナー?、チーフ・プロデューサー?の)会社ではないかと思います。

 いつもながら、本題に入る前に脇道にそれますが、ここでBillyのキャリアについて、確認の意味でざっくりと振り返りたいと思います。
 以下は、私の勝手な整理ですので、「これを入れるのはおかしい、あれが入ってない」などの異論は認めます。

黄金期 (Rockpile時代)
78年 Trax On Wax 4 : Dave Edmunds
78年 Jesus of Cool : Nick Lowe
78年 Juppanese : Mickey Jupp (片面のみRockpile勢が伴奏)
79年 Labour of Lust : Nick Lowe
79年 Repeat When Necessary : Dave Edmunds
80年 Seconds of Pleasure : Rockpile
80年 Musical Shapes : Carlene Carter
81年 Twangin' : Dave Edmunds
(モントルー・ライヴは略)

放浪期 (必殺裏方人時代)
82年 Give Me Your Heart Tonight : Shakin' Stevens (リード・ギターでゲスト参加)
84年 Learning to Crawl : The Pretenders ("Back on the Chain Gang"の流麗なソロは◎)
84年 Bash! : Billy Bremner (1stソロ)
90年 Packed! : The Pretenders (メジャー・バンドに正式加入、この盤のみ)

北欧期 (スカンジナビア雄飛時代)
95年 Both Rock 'n' Roll : The Refreshments (制作及びゲスト参加)
97年 Trouble Boys : The Refreshments (制作及びバンドに正式加入)
97年 Hey Conductor : Inger Nordstrom (制作及びゲスト参加)
98年 A Good Week's Work : Billy Bremner (2ndソロ、Refreshmentsのメンバーが参加)
99年 Are You Ready : The Refreshments (この盤でバンド脱退)
00年 Musical Fun For Everyone : The Refreshments (制作及びゲスト参加)
00年 A Pile of Rock Live : Dave Edmunds (Refreshmentsが伴奏、録音は97年)

近年 (スカンジナビア半隠棲時代〜もしかして覚醒?時代)
06年 No Ifs, Buts, Maybes : Billy Bremner (3rdソロ)
11年 Bad Trouble : Trouble Boys (Sean Tylaとの双頭バンド結成〜まさかこれ1枚で自然消滅?)
12年 Billy Bremner's Rock Files : Billy Bremner (本盤4thソロ、Refreshmentsのメンバーが参加)


Hey Conductor : Inger Nordstrom (97)
(Billy制作のスウェーデンの女性カントリー・シンガー
ロッキン・カントリー盤、タイトル曲はBillyの提供曲)


 こうやって見ると、仕事してますねえ。
 もし、昨年からの流れが活動の再活発化につながるなら嬉しいです。
 (来日予定は中止になりましたが…。)
 というわけで、本盤へとたどりつくわけです。

 さて、本盤の参加メンバーは以下のとおりです。

Billy Bremner : guitars, banjo, bass, vocals
Micke Finell : saxophone
Pelle Alsing : drums
Mats Forsberg : drums
Rolf Jansson : drums
Matthias Bruhn : piano
Johan Blohn : piano
Bengt Bygren : piano
Sean Tyla : artwork & design

 このうち、Micke Finell(sax)、Mats Forsberg(dr)、Johan Blohn(p)の三人がRefreshmentsのメンバーです。
 Refreshmentsのギターとベース以外が参加していることになり、ここまでくると、バンドの核であるベースのJoakim Arnellの不参加に、何か意味があるのかと気になってしまいます。
 何しろベーシストを呼ばず、Billy自身がベースを兼任しているのですから…。

 この布陣は、まるで老師と師を慕う弟子たちのようで、全体的なサウンドは、Rockpile〜Refreshmentsの流れそのままの、痛快なロックンロール・アルバムに仕上がっています。
 
 このあたりは、Nick Loweが、数年前から完全に日向ぼっこ路線というか、(好意的に言えば)枯れた魅力を醸し出しているのに対して、Billyさんは変わらぬロケンローラーぶりを見せていて頼もしいです。
 (ただ、リーフレットの近影を見ると、その外見はNick同様のシルバー化が顕著で、哀愁さえ感じます。)

 全曲理屈抜きで楽しめるアルバムですが、収録曲では、あえて言えば以下の曲が印象に残りました。

1. The Alliguitar And The Rockadile
4. Bullies
5. Emergency
7. The Cocktail Of The Year
8. Take It Day By Day
9. Lie Detector
14. She's No Queen
15. Lena

 うーん、3〜4曲だけピックアップしようとしたんですが、あれもいい、これも気になるで、結局後半をはしょる感じのチョイスになりました。
 以下は私の感想ですが、ごく普通の音楽ファンには、「同じような曲ばっかりじゃん」と言われかねない美しいマンネリズムに共感できる方のみどうぞ…。

 まず、何と言ってもRockpile直系の曲調、サウンドがうれしい、トラック1の"The Alliguitar And The Rockadile"とトラック14の"She's No Queen"が特に印象に残りました。
 あっさりした曲の入り方、たんたんとロックンロールする展開など、Rockpile的様式美が美しい曲たちです。
 "She's No Queen"は、ギター、ピアノ、ボーカルのコール&レスポンス、多重録音のコーラスも良いです。
 もうこの2曲でオールOKという感じですが、その他の曲にも触れましょう。

 "Bullies"は、少しアメリカン・ロック調の作品で、どこか疾走系フォーク・ロックの風合いもあります。
 魅力的な12弦ギター風のリフレインに、Billyがバンジョーを多重録音しています。

 トラック5のEmergency"とトラック9の"Lie Detector"は、いかにも「らしい」トワンギンなギター・プレイが聴けます。
 基本は、思い切ってラウドに聴きたいですが、小粋なオブリの機微を聞き込むため、1度はヘッドフォンでも聴きたいところです。
 "Emergency"は、サックス・リフがメインのロックンロールで、こういうの好きです。

 "The Cocktail Of The Year"は、一転してピアノが主役のブギで、これまた好みです。
 これは、誰が弾いているのでしょう。

 本盤では、かなりアコギを多用していて、"Take It Day By Day"は、その代表例として紹介します。
 エヴァリー兄弟風のボーカル曲で、アルバムの一つのアクセントになっています。

 ラストの"Lena"は、唯一のインスト・ナンバーです。
 トワンギンなプレイ満載ですが、あまりスリルはないです。

 何となく、結論めいたことを、思わずフライングしてしまいました。
 私は、この音楽が大好きです。
 繰り返し聴いても疲れない、リラックス効果の高いアルバムだと思います。

 でも一方で、私の頭の隅には、ある冷めた考えが支配しているのでした。
 ここには、ある種の様式美があり、古くからの聴き手が期待していることに、期待しているタイミングで応えてくれます。
 これは立派な快感のフォーマットでしょう。
 しかし、予想を裏切るような、不安を抱かせるようなスリルの提示はありません。
 もしも、スリルの昇華からのカタルシスが欲しいなら、別の音楽がいいかも知れません。



 例えば、同じBillyでも、昨年リリースされた新バンド、Trouble Boys(こちらもMicke Finell参加)の"Bad Trouble"なら、Sean TylaとBilly Bremnerの個性の違いから、綱渡りのような緊張感を感じることが出来るかも知れません。
 (もっとも、個性がぶつからずに、すれ違っているような印象も受けますが、そこを面白く思う人もいると思います。)

 音楽の楽しみ方、個々の好みは千差万別です。
 また、好みが一つでない場合がほとんどでしょう。
 その日の体調、その場の雰囲気、気持ちに合った音楽を聴くのがベストです。

 とはいえ、全てをひっくるめた上で、本盤の音楽は、ひとたび鳴りはじめたら、私を幸福な気分へと導いてくれることも確かなのでした。

 (蛇足)
 "The Alliguitar And The Rockadile"ですが、アリゲーターのつづりが違うことに気付きました。
 (Alliguitar → 正 Alligator)単語の後半がギターのつづりになっています。
 Alliguitarは、All I Guitarと分解できますが、意味不明ですね。
 Rockadileも辞書にはない単語です。
 そこで少し考えたのですが、これって、意味なんかなくて、こういうことじゃないでしょうか?
 アリゲーターとクロコダイル(Alligator And Crocodile)のしゃれ…。


Alliguitar, Rockadile by Trouble Boys (2010年12月投稿動画)


 こんな動画を見つけました。
 オフィシャル動画ではないかと思われ、投稿時期から推察すると、元々はTrouble Boysの1st用に用意された曲だったのではないでしょうか。
 今回、Billyの4thソロに収録されたことが、Trouble Boysの前途と無関係ならよいのですが…。
 (この動画によれば、Rockadileは、Rock or Dieを意味するみたいですね。)


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チカーノ・ブルースマン

 追記あり : 斜体赤字

 今回は、この人を聴きました。
 Randy Garibayというシンガーの97年のアルバム、"Barbacoa Blues"です。
 この人は、以前に取り上げた、Sonny Aceのアルバムに、バックコーラスで参加していた人です。

 ランディ・ガーリベイは、Doug Sahmのファン向けに紹介するなら、Dougの88年の名盤"Juke Box Music"で、名曲"What's Your Name"をDougとデュエットしていた人です。
 長めのソロ・パートを交互に歌いあった、二人の名唱は素晴らしかったですね。

 

 
Barbacoa Blues
Randy Garibay
 

1. Chicano Blues Man (Randy Garibay)
2. Barbacoa Blues (Randy Garibay)
3. Too Close to the Border (Randy Garibay)
4. What Did You Think (Randy Garibay)
5. I Can't Stop Loving You Baby (James E. Lewis)
6. Viuda Negra (Black Widow Woman) (Randy Garibay)
7. Two Steps from the Blues (John Brown, Don Robey)
8. El Chupacabra (Randy Garibay)
9. Tell Me Why (Randy Garibay)
10. Curandera (Randy Garibay)

 本盤の裏ジャケには、5人の人物によるRandy Garibayの紹介、推薦文が寄せられています。
 その中から、3人の言葉の大意をご紹介します。

 「ランディは、チカーノのジャッキー・ウイルソンだ。」
 Clifford Antone (アントンズ・オーナー)

 「ランディは、私の師匠(my mentor)です。私にとって、彼のステージ上でのとても自然なパフォーマンスを見ることは大きな楽しみです。」
 Sunny Ozuna

 「私は、まるで50年代から時を超えてきたような、ランディの素晴らしい声に魅了されています。
 彼は、至高のチカーノ・ブルースマンです。
 ランディは、Little Willie John、Joe Hinton、Junior Parker、Bobby Blue Blandらの伝統を汲んでブルースを歌い続ける稀有な存在です。」
 Doug Sahm

 うーむ、色々とつっこみどころがあると思いませんか。
 本題に入る前に横道に逸れそうですが、私が気になったのは2点です。

 サニー・オズナの「私の師匠」発言。
 そして、ダグ・サームが、ジュニア・パーカーやボビー・ブランドと同じ並びで、ジョー・ヒントンの名前をあげていることです。

 まず、Sunnyの発言ですが、Sunny Ozunaは世に知られた時期が早く、一つ前の世代のスターのようにも思えます。
 しかし、SunnyとRandy、そしてDougの生年を比べると、思いのほか年齢が近いのでした。
 同世代といってもいいでしょう。 

 Randy Garibay : 39年生れ02年没 享年63歳
 Doug Sahm : 41年生れ99年没 享年58歳
 Sunny Ozuna : 43年生れ 今年69歳

 3人の中では、Randyが年長で、Sunnyが末っ子だったのでした。

 次にDougの発言です。
 Doug Sahmが、Junior ParkerやBobby Blandをアイドルとしていた事は、ファンの間では周知のことです。
 その他、ブルース系では、Guitar Slim、T-Bone Walkerなどが思いつきます。

 しかし、Joe Hintonをリスベクトしていたとは初めて知りました。
 ウイリー・ネルソンの"Funny How Time Slips Away"(時の流れは早いもの)のカバーで有名な人で、ディープな面もありますが、どちらかと言えばバラーディアー・タイプのシンガーだという認識でした。
 サザン・ソウル好きが多い日本のソウル・ファンの間では、あまり人気のない人ではないでしょうか。
 まあ、Duke(Backbeat)時代はバックが素晴らしく、滑らかな歌い方は、Junior Parkerのテイストに通じるところがあるかも知れません。
 などとタイプしているうちに、急にじっくり聴き返したくなってきました。
 (簡単に影響を受けてしまうのでした。)

 さて、本盤の参加メンバーは以下の通りです。

Randy Garibay : guitar、vocals
Jim Waller : keyboad、saxophone
Jack Barber : bass
Al Gomez : trumpet
Bobby Flores : steel guitar

 録音は、サン・アントニオのスタジオで行われたようです。
 ドラムスがノー・クレジットですが、Duke Anthonyという人ではないかと思います。
 Doug Sahm人脈のJack barber、Al Gomezの参加が気になります。

 Doug Sahmとの関係は、かなり古くまで遡るようです。
 Dougがパーソナルなバンドを持つ前、Harlem Records時代の頃が出会いのようです。

 Harlem時代の頃のDougは、色々と違う名義でレコードを出していました。
 その中の一つに、Doug Sahm & the Pharaohsがありました。
 私は、こういったものは、そのレコーディングの為だけに集められ、即席で名付けられたバンドかと思っていました。
 しかし、Pharaohsは実在していて、正確にはバンドではなく、5人組のボーカル・グループだったようで、そのリード・シンガーがRandy Garibayだったのでした。


Randy Garibay & the Pharaohs


 具体的には、Doug Sahm & Phraohs名義でリリースされた、"Crazy Daisy"/"If You Ever Need Me"(Warrior507)が、DougとRandyの最初の共演盤らしいです。

 18歳の時、ギターを手に入れたRandyは、Sonny Ace & TwistersやCharlie and the Jives(どちらも地元のローカル・バンド)と演奏するため、純粋なDoo Wopグループだったファラオスを脱退します。
 こうして、彼のチカーノ・ブルースマンとしてのキャリアが始まったのでした。 

 Randy Garibayは、これまで私が聴いてきた、Tejano Music系のチカーノ・シンガーとは一味違います。
 何しろ、一流の聴き手から、チカーノ・ブルースマンと呼ばれている人なのです。
 ルーツに根差したラテン系をやることもあるようですが、比較的控えめのようです。

 Doug Sahmとのデュエット曲では気付かなかったことですが、本盤を聴いて、あるシンガーを連想しました。
 それは、ニューオリンズのサザン・ソウル・シンガー、Johnny Adamsです。
 Randy Garibayは、伸びと艶のある声が大変魅力的なシンガーです。

 Johnny Adamsを連想したのは、声質が似ていることが第一ですが、優れた技巧を持つボーカリストだと感じたからでした。

 アルバムは、アップテンポのファンキー・ブルース、"Chicano Blues Man"でスタートします。
 思わず"Chicago Blues Man"と読みそうです。
 ホーン陣のせわしないリフをバックに、渋い美声で「アイム・ア・ブルースマン、チカーノ・ブルースマン」と歌っています。
 間奏では、ストラトでの素早いギター・ソロを聴くことが出来ます。
 アタマから「ガツン」とアイデンティティを披瀝した、Randyからの名刺がわりの一発という感じです。

 続く"Barbacoa Blues"は、マイナー調のウォーキン・ブルースで、ブランドに通じるようなブルージーR&B風のボーカルが聴けます。
 ホーン・パートをハープに変えれば、シカゴ・ブルース調にも聴こえそうですが、ギターがやはりテキサスっぽいです。
 ずっと英語詞なのですが、最後の最後になってスペイン語で振り絞るように歌う箇所が印象的です。

 "Too Close to the Border"は、よりストレートにテキサスを感じさせるリズム&ブルースです。
 ある意味、Fabulous Thunderbirdsがやっていてもおかしくないような感じの曲で、ブルース・ロック調と言えるかも知れません。
 そんな連想をしていると、Randyの声がKim Wilsonみたいに聴こえてきました。 
 (追記)
 この曲は、Joe Jamaが04年(Randyの没後)にリリースしたアルバム、"Leigh Street Blues"でやっていました。
 私は、当ブログで当該のJamaのアルバムをとりあげ、感想を書いていますが、そこでは「Bobby Blandに似合いそうな曲」と書いています。 (下段にリンク追加しました)


  "What Did You Think"は、スチール・ギターがフューチャーされる静かなバラードです。
 出だしのメロディ、アレンジが、Ray Charles版の"Ellie My Love"(愛しのエリー)を連想させます。
 ここでのRandyは、Johnny Adamsを彷彿とさせます。
 多分、スチールの参加はこの曲だけだと思います。

 "I Can't Stop Loving You Baby"は、アップテンポのごきげんなナンバーです。
 ころころと転がるピアノの前奏から、おしゃれなでジャジーなギター・ソロ、メイン・テーマのホーン・リフと徐々に分厚くなっていき、ボーカルが満を持して入ってきます。
 古いビッグ・バンドがやりそうな楽しさ満点のブギウギ曲で、間奏では小粋なミュート・ペットをバックに、RandyがT-Boneの手癖のようなソロを繰り返し弾いています。 
 私は、本盤では特に好きな曲のひとつです。
 ぜひ、オリジナルが知りたいです。

 "Viuda Negra (Black Widow Woman)"は、スペイン語で歌い始めるストレート・ブルースです。
 途中から英語詞になり、「私は囚人、喪服の未亡人」と歌っています。
 ギターのオブリ、ソロともにたっぷり聴けます。

 "Two Steps from the Blues"は、もちろんボビー・ブランドのDuke時代の代表曲のひとつです。
 これを聴くと、改めてブランドが後進に与えた影響力の大きさを感じます。
 Randyが、滑らかな歌いくちで、ブランド流ブルース・バラードを歌います。 
 サビ近くでの高音部のうがい唱法はなく、Johnny Adamsばりに伸びのある声を張り上げています。

 "El Chupacabra"は、ブルースではなく、はっきりとラテン・ルーツに根差した曲です。
 コンガやボンゴ風のリズムを、おそらくはシンセが出しています。
 楽しいメキシカン・ペットのリフにのせて、チュパカブラのことが歌われているようです。
 チュパカブラは、TVのSFドラマ「Xファイル」でも1話が作られた南米の未確認生物(UMA)です。
 歌詞の内容が不明なので、陽気な曲調とチュパカブラがどう結び付くのか謎です。

 "Tell Me Why"は、最高の曲、最高のパフォーマンスだと思います。
 完全に50年代のDoo Wopスタイルの曲で、思わずドリーミーとかマーベラスとか言いたくなりました。
 三連の鍵盤をバックに歌う、スタイリッシュかつジェントルなボーカルがたまりません。
 ノー・クレジットですが、素晴らしい男声コーラスが入っています。
 間奏でのリバーブの効いたギター・ソロが曲の雰囲気にぴったりです。
 "I Can't Stop Loving You Baby"とともに、本盤の双璧だと思います。

 ラストの"Curandera"は、バイリンガルで歌うブルースです。
 アフロ・アメリカンなホーン・リフが盛り上げるなか、ラテン調のリズムを隠し味に、ブルージーなギター・ソロが立ち上がってくる間奏は、ラテン・ロックみたいにも聴こえます。

 本盤は、要所にラテン風味を加味してはいますが、あくまでブルースを主体としたアルバムだと思います。
 そして、Pharaohs時代はこんな風だったのかと思わせてくれる、レトロな三連Doo Wopバラードが入ったことで、とても彩り豊かになったと感じました。

 本盤は、97年にAngelita Miaからリリースされました。
 このアルバム以前の活動は、あまり明らかになっていません。
 LP時代にアルバムを作った人なのか知りたいです。

 

 

ブエナのころ

 いつものように、obinさんのブログを訪問したところ、Johnny Perezが亡くなったとのことで、追悼の文を書かれていました。
 Johnny Perezは、Sir Douglas Quintetの初代ドラマーで、Doug Sahmとは60〜80年代あたりまで、Dougの様々なキャリアに密接に関わった人でした。

 今回は、Johnny Perezゆかりのアーティストである、この人のアルバムをチョイスすることにしました。 


Danceteria Deluxe
Joe King Carrasco & the Crowns

1. Buena (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
2. Let's Get Pretty (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
3. Betty's World (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
4. Party Doll (Buddy Knox, Brown)
5. Tuff Enuff (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
6. Wild 14 (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
7. Kicks On You (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
8. Nervoused Out (Joe King Carrasco, Johnny Perez)
9. Susan Friendly (Joe King Carrasco, Johnny Perez)

 Joe King Carrascoは、78年にTornado Recordsから"Rock-Roll Tex-Mex"でデビューしました。
 この時はDoug Sahm人脈のEl Morino Band(Speedy Sparks, Ernie Durawa, Augie Meyers, Louie Bustos, Charlie McBurney)という豪華なメンツをバックに、ゴージャスなオルケスタ・サウンドを披露してくれました。

 Joe King Carrasco & the Crownsとなったのは、翌79年にRoir Recordsからリリースした、"Tales From The Crypt"からです。
 Crownsでは、El Morino Bandとは一転して、コンパクトなロック・コンボ・スタイルをとり、当時の最先端、ニューウェイヴ風に調理した、Tex-Mex Rock'n' Rollをかっこよく決めてくれました。
 そして、ミニ・アルバム1枚を経て、欧州ではStiffから、米国ではHannibalから、バンド名をタイトルとしたアルバムがリリース(80年〜81年)され、広く(?)知られるようになります。

 Johnny Perezが、どうしてCarrascoの売出しに関わりを持つようになったのか、私は知りませんが、初期のCarrascoのアルバムには、Perezの名前がしばしばクレジットされています。
 精査したわけではありませんが、80年代半ば頃までは密接な関係にあったのではないかと思います。

 ドラムでの参加こそないようですが、しばしば一緒に曲づくりを行い、一部プロデュースもやっています。
 本盤収録曲では、バディ・ノックスのカバー、"Party Doll"1曲を除く全ての曲が、Joe King CarrascoとJohnny Perezの共作となっています。
 (本盤の表記に従いましたが、他の盤では別のクレジットになっている曲が含まれています。)

 さて、本盤は、曲目を見ると、Carrascoの初期の代表曲を集めた、ありきたりの編集盤のように思えます。
 しかし、Carrascoのオフィシャル・サイトの記述によれば、本盤収録曲は、80年3月にニューヨーク州ブロンクスで録音されたデモ録音で、11年のCrownsの再結成をきっかけに世に出ることになった、これまで一度もソフト化されていない音源だそうです。
 本盤は、11年6月にAnaconda Recordsからリリースされました。

 デモ録音とのことですが、通して聴いた感想は、普通に聴ける完成された音源だと思いました。
 というか、この頃は名曲ぞろいで、ぐいぐい引き込まれます。
 むしろ、曲によっては、普及版よりも荒々しさが感じられて好きかも知れません。
 エコー深めで、かつ録音レベルも高めです。

 などと書きましたが、実はそれほど真剣に二つのバージョンを聴き比べたわけではありません。
 そもそも、Carascoの音源については、混乱するようなクレジットが多いのです。

 Stiffでの出世作となったシングル、"Buena"は、同曲を最初に収録したアルバム、"Tales From The Crypt"のCDのライナーによれば、79年にオースチンで録音されたということになっています。
 しかも、この時のセッションでは、ベースはSpeedy Sparksと記載されています。
 (Crownsのベーシストは、Brad Kizerという人で、CDライナーによれば、収録曲の約半分がSparksのプレイで、残りがKizerとなっています。)

 しかし、オフィシャル・サイトでは、同アルバムはニューヨーク州ニューヨーク録音と記載されています。
 私は、オフィシャル・サイトの記述にいくつかの誤り(矛盾?)を見つけましたので、根拠は薄いですが、具体的な記述をしているCDライナーの方が、より信憑性があるのではと思っています。
 (しかし、確証はありません。) 

 そこで考えたのが、次のような推測です。

 Stiff盤のLP、"Joe King Carrasco & the Crowns"は、80年ニューヨーク録音となっています。
 このアルバムには、"Buena"を含む、"Tales From The Crypt"とかぶる曲が7曲も収録されています。
 これら7曲は、普通なら、前年に録音したものをそのまま再録するのでしょうが、あるいは、ベーシストを全面的にBrad Kizerとしたうえで、新たにニューヨークで録音し直したのかも知れません。

 ここで忘れてならないのは、本盤は同じ州でも、わざわざブロンクス録音だとしていることです。
 何か色々と面倒ですねえ。  
 そして、これら一連のことが、混乱に拍車をかける元ととなった、というのはいかがでしようか。 

 まあ、相手はテキサスですので、細かいことは言ってもしようがない気はします。
 聴き手側も、とことんは追及せず(疲れるので)、大らかな気持ちで、とにかく楽しみましょう。

 Johnny Perezは、私の手元にあるLPでは、85年の"Bordertown"までは名前を見つけることが出来ます。
 "Bordertown"のLPでは、一部の曲のプロデューサー、コンポーザーとしてクレジットされています。


Joe King Carrasco & the Crowns (80年 Stiff盤)


Party Weekend (83年 MCA盤)


Bordertown (84年 Big Beat盤)


 一方、Doug Sahmとの関わりでは、アルバムで言いますと、82年の"Quintessence"、83年の"Live Texas Tornado"(録音年不明、81〜83年?)あたりが最後ではないかと思います。
 Joe King Carrasco、Doug Sahmともに80年代ですね。

 さて、私がCarrasco好きということが大きいですが、本盤は「スカッ」と聴きとおせるパンチの効いたアルバムです。
 とりわけ、冒頭の"Buena"から、"Let's Get Pretty"、"Betty's World"と続く流れが最高にごきげんです。

 "Buena"の、アコギから始まってメロディックなベース、グルーヴィーなオルガンが入ってくる前奏の雰囲気は、Sir Douglas Quintetのサウンドそのものです。
 本バージョンでのベースは、ざっくりとクリーデンスの「雨を見たかい」を連想しました。

 "Let's Get Pretty"は、Joe King Carrasco版の"96 Tears"じゃないでしょうか。
 脳内に留まって暴れ回る無限軌道リズムは、分かっていてもはまってしまう高い習慣性があります。

 ちなみに、トラック7の"Kicks On You"は、Stiff盤では"I Get My Kicks On You"と表記されている曲です。

 Johnny Perezが曲づくりにどんな役割を担ったのか不明ですが、本盤の収録曲はみんな好きです。
 "Bordertown"収録曲で、Johnny PerezがJ.J.Light(クインテットの70年代初期のベーシスト)と共作した、"Baby Let's Go Mexico"もポップな良い曲でした。


Buena by Joe King Carrasco & the Crowns (81)




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