2016年03月06日
光の指で触れよ
さてさて本日はこちら。
池澤夏樹著『光の指で触れよ』
以前、ご紹介した
『すばらしい新世界』の
数年後のお話。
この物語自体は、
『すばらしい新世界』を
読んでいなくても、
楽しめるとは思いますが、
やはり、『すばらしい新世界』を
読んでおいた方が
分かりやすいネタが
織り込まれているので、
先にそちらを読むことを
お勧め致します。
また、今回の紹介記事は、
『すばらしい新世界』を
読んだ前提で書くため、
『すばらしい新世界』の
ネタバレを含んでしまいます……
あらかじめご了承願うとともに、
『すばらしい新世界』を
読んでいない方は、
読まない方を、お勧め致します……
ではでは、参りましょう。
まずですね、
大大大大大ショックでした!
だって、あの
『すばらしい新世界』の
天野家族ないしは夫婦
特に、夫婦の方は、
私にはとっても憧れ
だったんですよ……!
こんな関係、いいなぁ……と。
ちょっと哲学的で、
ほんの気付いたことを
ヒマラヤからメールで送れる、
そんな夫婦。
あのお話は、林太郎が風車を
ヒマラヤへ建てに行く物語で
あったでしょうし、その後で、
息子の森介が精霊に好かれて
帰れなくなった
父親を迎えに行く話でした。
それでも、やはり、
林太郎と妻アユミの
メールのやり取りって、
その内容を詳しく
覚えていなくても、
とても心に残っていました
あの物語の中で
なんだかんだ言っても
ものすごく大事な
ものだったと思うんです
林太郎とアユミの
強い心の結びつきが
窺われるような、
あんなメールのやり取りに
憧れる!
と思っていたというのに……
何と本書は、
その天野家が、バラバラに
なってしまっているところから
はじまるんです。
しかも、読んで行けば
理由は林太郎の恋。
もう、嘘でしょう…と
ずーん。
アユミはまだ小さな
娘を連れて
出て行ってしまうし……
けれども、
このお話はただただ
恋人をつくった
林太郎がどうこうだとか、
思わず小さな娘を
連れて出て行った
アユミが可哀そうだとか
そんな話にとどまりません。
『すばらしい新世界』では、
林太郎が、ヒマラヤの地で、
日本で当たり前の
既成概念や感覚から
解放されて、
現地の素朴な宗教を、
信仰する訳では
ないのだけれども、
感銘を受けて、
どこかで受け入れる……
そんな体験を
していました。
今度は、アユミなんです。
ヨーロッパのコミュニティから
スピリチュアル色の強い、
イギリスのコミュニティへ移りつつ、
林太郎なしで暮らすことが
どういうことなのか考え
経済基盤はどうするのか、
など悩んでいる一方で
お金にまったく縛られず、
農業や、
パーマカルチャーをしながら
生きる暮らし方に触れ、
ふと、胸をつかれる
当たり前のように、
林太郎の妻として、
家という
城を守る存在であることを
疑いもしなかった。
けれども、どうして、
私が家を守る
存在なのだろう?
『すばらしい新世界』の時も、
森介が林太郎を
迎えに行っている間、
私は、家を守っていた…
本当にそれでいいのかしら?
とにかく、アユミは
コミュニティの中で
様々な考え方に
出会いながら、
ゆっくりゆっくり
自分の中を
整理していきます
自分の、封印していた
過去なんかに触れながら
少しずつ、少しずつ、
時間をかけて……
そんな折、林太郎も、
偶然農業をはじめた人と
懇意になり、
「風車」から「農業」へ
興味を移し始める。
離れていても、
微妙に興味の対象が
同じという、この夫婦。
ゆっくり、ゆっくりと、
別の道を歩みながら
アユミも、林太郎も、
経済が全ての中心となっている
今の世界のありようを、
もう一度真っ白な状態
から、見つめ直していく
そうして、最終的に、
林太郎は、アユミは
どういう決断をし、
どういう行動に出るのか。
キャラクタが、
考え続け考え続け、
そして悩んでいるのですから、
本当に、分からない。
それでも、どうか、
自分にとって
一番良いと思える
選択をしてほしいと
願いながら、
読者は読み進めていく
ところで、この小説、
サブプライム問題や、
リーマンショック、
世界金融危機の
前に書かれていたんですね……
何というかそこも
含めてすごい作品です…
少し、ぞっとしたりして。
『すばらしき新世界』ファンには、
かなり冒頭から
ショッキングではありますが、
それでも、相変わらず
とてつもなく豊かな物語です
是非、読んでみて下さい
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