2022年09月12日
Alchemy of Actor epigenetics 07
Alchemy of Actor epigenetics07
X染色体の不活性化 X-inactivation
哺乳類の性染色体 X染色体が、1本を除いて、残りのX染色体で遺伝子発現が抑制される構造に変化すること。この現象はLyonizationとも呼ばれ、不活性化された染色体を:Barr bodyともいう。
X染色体の不活性化は、
X染色体のほぼ全領域(例外は擬似常染色体領域)がヘテロクロマチン構造をとることで起きる。
この不活性化は遺伝子量補償のために起きると考えられている。
雄では1本しかないX染色体で生存に必要な遺伝子を発現させているが、
雌では2本のX染色体からの過剰な量の遺伝子の発現を避けるために片方のX染色体を不活性化。
どちらのX染色体が不活性化されるかはマウスやヒトのような真獣下綱動物においては無作為に決まる、
いったん不活性化が起こるとそのX染色体の不活性化状態は変化しない。
これに対して有袋類においては父親由来のX染色体が選択的に不活性化される。
真獣下綱動物の雌では胚発生時に各細胞で不活性化されるX染色体が決定され、
それぞれの子孫となる細胞にもその不活性化状態が引き継がれる。そのため、
X染色体上の遺伝子座の遺伝子型がヘテロ接合型の場合、
細胞によって異なった対立遺伝子が発現するモザイク状態となる。
三毛猫は、この状態の代表例として知られる。
また、X染色体に座乗し伴性遺伝をする遺伝子疾患は
、ヘテロ接合型の雌(保因者)では疾患遺伝子が不活性化されていない細胞で発症している場合があり、
モザイクの分布に依存して軽症から重症まで様々となる。
同じ理由で、真獣下綱動物の雌のクローン(一卵性双生児など)は先天的な遺伝子型は一致するが、
器官各部で発現する対立遺伝子が異なる場合があり、
完全に同じ発育をするとは限らない(遺伝子疾患の病状が異なる一卵性双生児の女性の例あり)。
一方、X染色体不活性化が起きない真獣下綱動物の雄、
もしくは父方X染色体が不活性化される有袋類の雌などでは、クローン間でのこのような違いは生じない。
発現時期
胚発生初期の2細胞期-4細胞期に、
雌のマウス細胞は一度、父方X染色体のゲノムインプリンティングによる不活性化を受ける。
胚に栄養を供給する胎盤や羊膜などの胚体外組織になる栄養外胚葉(trophectoderm)は、
この初期刷り込みによる不活性状態を維持し、母方X染色体のみがこれらの組織では活性を持ち続ける。
胚盤胞初期に、後に胚となる内部細胞塊の細胞では前述の刷り込みによるX染色体不活性化は解除され
、それらの細胞では2本のX染色体双方が活性化する。
しかしながら再び、それらの細胞それぞれが独立かつ無作為にX染色体のうち片方を不活性化する。
この不活性化は、生殖細胞系列以外では、その細胞の生涯を通して解除不能であり、
その細胞の子孫となるすべての細胞は特定のX染色体の不活性化を引き継ぐ。これは、
もし雌が伴性遺伝子についてヘテロ接合型であれば、
三毛猫の毛皮の模様として観察されるようなモザイク状態をもたらす。
「独立した細胞」および「系列細胞への引継ぎ」は「無作為ではない」状態を作り出し、
これが伴性の遺伝子疾患保因者である雌において症状が軽くなる結果をもたらしている。
X染色体の不活性化は生殖細胞系列では解除され、すべての卵母細胞は活性型のX染色体を持つ。
X染色体の選択
正常な雌は2つのX染色体を持ち、
任意の細胞において1つのX染色体(Xa)は活性を持ち、1つは(Xi)不活性になる。
過剰なX染色体を持つ個体に関する研究によると、
2つを超えるX染色体を持つ細胞においては、
そのうちの1つだけがXaとなり、残りのX染色体は不活性化される。
このことは、雌のX染色体は基本的には不活性化されるように設定されているが、
常に1つのX染色体だけが活性を持つように選択される。
X染色体に結合して不活性化を阻害する常染色体上のブロッキング因子が仮説として提唱されている。
限られたブロッキング因子があり、
いったん利用可能なブロッキング因子が1つのX染色体に結合すると、
残った他のX染色体は不活性化が可能となる。この仮説は、
「多くのX染色体を持つ細胞でも活性を持つX染色体が1つだけであること」
「常染色体が正常の2倍ある培養細胞株では活性を持つX染色体が2本あること」による。
X染色体上のX不活性化中心(X inacivation center, XIC)塩基配列が、X染色体の不活性化を制御する。
想定のブロッキング因子はXICの内部配列に結合するものと予測す。
X染色体上にXICが存在することが、X染色体の不活性化が起きるための必要十分条件である。
XICが常染色体上に転座した場合、その常染色体が不活性化され、
XICを失ったX染色体は不活性化されない
。XICは、X染色体の不活性化に関係するXistとTsixの2つの非翻訳性RNA遺伝子を含んでいる。
XICはさらに既知および未知の制御タンパク質との結合部位を含む。
分子機構
Xist(X-inactive specific transcript)遺伝子は長大な非翻訳性RNAをコードしており、
それが転写されるX染色体の特異的不活性化に関与す。
不活性なX染色体(Xi)はXist RNAによって包まれており、活性を持つXaは包まれていない。
Xist遺伝子はXiから発現する遺伝子であり、Xaでは発現しない。
Xist遺伝子を欠くX染色体は不活性化されることはない。
人為的にXist遺伝子座を他の染色体に転座させ発現させた場合、
その染色体の遺伝子発現に抑制が起きる。
不活性化が起きる前には、2本のX染色体の双方がXist RNAをわずかに転写している。
不活性化プロセスが進むにつれ、
Xaとなる染色体はXist RNAの転写を止め、一方Xiとなる染色体はXist RNAの転写を劇的に増加させる。
Xiとなる染色体上でXist RNAはXIC領域から他の部分に広がる。
Xiにある遺伝子の抑制はXist RNAによるコーティングの直後に起きる。
Tsix遺伝子は、Xistと同様に長大な非翻訳性RNAをコードしている。
Tsix RNAはXistに対する相補鎖(アンチセンスRNA)として転写される。
すなわち、Tsix遺伝子はXist遺伝子にオーバーラップしており、
Xist遺伝子のDNA鎖の相補鎖から転写されるRNAである。
TsixはXistを抑える制御因子であり、
Tsixの発現を欠きXistが高発現するX染色体は正常なものより不活性化されやすい。
Xistと同様、不活性化が起きる前にはTsix RNAは双方のX染色体でわずかに転写されている。
X染色体の不活性化が始まると、将来のXiはTsix RNAの転写を止め、一方、将来のXaはTsix RNAの転写を数日間にわたって続ける。
Xiの構造
不活性化されたX染色体Xiは、全体的にヘテロクロマチン構造をとり、
多くの遺伝子の発現が抑制されている。
その状態を顕微鏡観察したものがBarr bodyで 、
Xist RNAにコーティングされており、通常は細胞核の周縁部で観察される。
また細胞周期では他の染色体より複製される時期が遅い。
XiではDNAおよびヒストンの修飾がXaと異なっており、それらは遺伝子発現の抑制に関与している。
1,高レベルのDNAのメチル化
2,低レベルのヒストンのアセチル化
3,低レベルのヒストンH3リシン4のメチル化
4,高レベルのヒストンH3リシン9のメチル化
さらに、Xiのヌクレオソームには「マクロH2A」と呼ばれる変異型ヒストンが特異的に見つかっている。
擬似常染色体領域 pseudoautosomal region
X染色体上のいくつかの遺伝子はXiでの不活性化を逃れる。
Xist遺伝子は、Xiでは高レベルで発現し、Xaでは発現しない。
その他のXiでの不活性化を逃れた遺伝子は、XaとXiとで同様に発現する。
ヒトのXiでは染色体の遺伝子のうち最大25%程度が発現
不活性化を逃れる遺伝子の多くはX染色体上で、
他のX染色体領域と似ておらずY染色体にある遺伝子の一部を含む、特定の領域に属している。
この領域は「擬似常染色体領域」と呼ばれ、Y染色体と擬似常染色体領域の間での乗換えも起きる。
このY染色体および擬似常染色体領域にある遺伝子座では、
常染色体と同じように、
雌雄どちらの個体でも(性染色体にある伴性遺伝子と違って)2つの遺伝子が遺伝する。
そのためこの領域では雌の遺伝子量補償が必要なく、
X染色体不活性化を逃れるメカニズムを発達させたと推定。
Xiの擬似常染色体領域の遺伝子は、典型的なヘテロクロマチン構造を持たず、Xist RNA結合もほとんど無い。
Xi中に不活性化されない遺伝子が存在することは 染色体異常による症状が現れる原因となる。
X染色体不活性化は、
理論的には常染色体で起きる様な染色体数の異状による発現量異状の影響を除去することができるが、
擬似常染色体領域の遺伝子についてはその機構が当てはまっていない。ただし、
常染色体数の異状に比べ、X染色体数の異状の影響は目立たないほど軽度。
と たのしい演劇の日々
X染色体の不活性化 X-inactivation
哺乳類の性染色体 X染色体が、1本を除いて、残りのX染色体で遺伝子発現が抑制される構造に変化すること。この現象はLyonizationとも呼ばれ、不活性化された染色体を:Barr bodyともいう。
X染色体の不活性化は、
X染色体のほぼ全領域(例外は擬似常染色体領域)がヘテロクロマチン構造をとることで起きる。
この不活性化は遺伝子量補償のために起きると考えられている。
雄では1本しかないX染色体で生存に必要な遺伝子を発現させているが、
雌では2本のX染色体からの過剰な量の遺伝子の発現を避けるために片方のX染色体を不活性化。
どちらのX染色体が不活性化されるかはマウスやヒトのような真獣下綱動物においては無作為に決まる、
いったん不活性化が起こるとそのX染色体の不活性化状態は変化しない。
これに対して有袋類においては父親由来のX染色体が選択的に不活性化される。
真獣下綱動物の雌では胚発生時に各細胞で不活性化されるX染色体が決定され、
それぞれの子孫となる細胞にもその不活性化状態が引き継がれる。そのため、
X染色体上の遺伝子座の遺伝子型がヘテロ接合型の場合、
細胞によって異なった対立遺伝子が発現するモザイク状態となる。
三毛猫は、この状態の代表例として知られる。
また、X染色体に座乗し伴性遺伝をする遺伝子疾患は
、ヘテロ接合型の雌(保因者)では疾患遺伝子が不活性化されていない細胞で発症している場合があり、
モザイクの分布に依存して軽症から重症まで様々となる。
同じ理由で、真獣下綱動物の雌のクローン(一卵性双生児など)は先天的な遺伝子型は一致するが、
器官各部で発現する対立遺伝子が異なる場合があり、
完全に同じ発育をするとは限らない(遺伝子疾患の病状が異なる一卵性双生児の女性の例あり)。
一方、X染色体不活性化が起きない真獣下綱動物の雄、
もしくは父方X染色体が不活性化される有袋類の雌などでは、クローン間でのこのような違いは生じない。
発現時期
胚発生初期の2細胞期-4細胞期に、
雌のマウス細胞は一度、父方X染色体のゲノムインプリンティングによる不活性化を受ける。
胚に栄養を供給する胎盤や羊膜などの胚体外組織になる栄養外胚葉(trophectoderm)は、
この初期刷り込みによる不活性状態を維持し、母方X染色体のみがこれらの組織では活性を持ち続ける。
胚盤胞初期に、後に胚となる内部細胞塊の細胞では前述の刷り込みによるX染色体不活性化は解除され
、それらの細胞では2本のX染色体双方が活性化する。
しかしながら再び、それらの細胞それぞれが独立かつ無作為にX染色体のうち片方を不活性化する。
この不活性化は、生殖細胞系列以外では、その細胞の生涯を通して解除不能であり、
その細胞の子孫となるすべての細胞は特定のX染色体の不活性化を引き継ぐ。これは、
もし雌が伴性遺伝子についてヘテロ接合型であれば、
三毛猫の毛皮の模様として観察されるようなモザイク状態をもたらす。
「独立した細胞」および「系列細胞への引継ぎ」は「無作為ではない」状態を作り出し、
これが伴性の遺伝子疾患保因者である雌において症状が軽くなる結果をもたらしている。
X染色体の不活性化は生殖細胞系列では解除され、すべての卵母細胞は活性型のX染色体を持つ。
X染色体の選択
正常な雌は2つのX染色体を持ち、
任意の細胞において1つのX染色体(Xa)は活性を持ち、1つは(Xi)不活性になる。
過剰なX染色体を持つ個体に関する研究によると、
2つを超えるX染色体を持つ細胞においては、
そのうちの1つだけがXaとなり、残りのX染色体は不活性化される。
このことは、雌のX染色体は基本的には不活性化されるように設定されているが、
常に1つのX染色体だけが活性を持つように選択される。
X染色体に結合して不活性化を阻害する常染色体上のブロッキング因子が仮説として提唱されている。
限られたブロッキング因子があり、
いったん利用可能なブロッキング因子が1つのX染色体に結合すると、
残った他のX染色体は不活性化が可能となる。この仮説は、
「多くのX染色体を持つ細胞でも活性を持つX染色体が1つだけであること」
「常染色体が正常の2倍ある培養細胞株では活性を持つX染色体が2本あること」による。
X染色体上のX不活性化中心(X inacivation center, XIC)塩基配列が、X染色体の不活性化を制御する。
想定のブロッキング因子はXICの内部配列に結合するものと予測す。
X染色体上にXICが存在することが、X染色体の不活性化が起きるための必要十分条件である。
XICが常染色体上に転座した場合、その常染色体が不活性化され、
XICを失ったX染色体は不活性化されない
。XICは、X染色体の不活性化に関係するXistとTsixの2つの非翻訳性RNA遺伝子を含んでいる。
XICはさらに既知および未知の制御タンパク質との結合部位を含む。
分子機構
Xist(X-inactive specific transcript)遺伝子は長大な非翻訳性RNAをコードしており、
それが転写されるX染色体の特異的不活性化に関与す。
不活性なX染色体(Xi)はXist RNAによって包まれており、活性を持つXaは包まれていない。
Xist遺伝子はXiから発現する遺伝子であり、Xaでは発現しない。
Xist遺伝子を欠くX染色体は不活性化されることはない。
人為的にXist遺伝子座を他の染色体に転座させ発現させた場合、
その染色体の遺伝子発現に抑制が起きる。
不活性化が起きる前には、2本のX染色体の双方がXist RNAをわずかに転写している。
不活性化プロセスが進むにつれ、
Xaとなる染色体はXist RNAの転写を止め、一方Xiとなる染色体はXist RNAの転写を劇的に増加させる。
Xiとなる染色体上でXist RNAはXIC領域から他の部分に広がる。
Xiにある遺伝子の抑制はXist RNAによるコーティングの直後に起きる。
Tsix遺伝子は、Xistと同様に長大な非翻訳性RNAをコードしている。
Tsix RNAはXistに対する相補鎖(アンチセンスRNA)として転写される。
すなわち、Tsix遺伝子はXist遺伝子にオーバーラップしており、
Xist遺伝子のDNA鎖の相補鎖から転写されるRNAである。
TsixはXistを抑える制御因子であり、
Tsixの発現を欠きXistが高発現するX染色体は正常なものより不活性化されやすい。
Xistと同様、不活性化が起きる前にはTsix RNAは双方のX染色体でわずかに転写されている。
X染色体の不活性化が始まると、将来のXiはTsix RNAの転写を止め、一方、将来のXaはTsix RNAの転写を数日間にわたって続ける。
Xiの構造
不活性化されたX染色体Xiは、全体的にヘテロクロマチン構造をとり、
多くの遺伝子の発現が抑制されている。
その状態を顕微鏡観察したものがBarr bodyで 、
Xist RNAにコーティングされており、通常は細胞核の周縁部で観察される。
また細胞周期では他の染色体より複製される時期が遅い。
XiではDNAおよびヒストンの修飾がXaと異なっており、それらは遺伝子発現の抑制に関与している。
1,高レベルのDNAのメチル化
2,低レベルのヒストンのアセチル化
3,低レベルのヒストンH3リシン4のメチル化
4,高レベルのヒストンH3リシン9のメチル化
さらに、Xiのヌクレオソームには「マクロH2A」と呼ばれる変異型ヒストンが特異的に見つかっている。
擬似常染色体領域 pseudoautosomal region
X染色体上のいくつかの遺伝子はXiでの不活性化を逃れる。
Xist遺伝子は、Xiでは高レベルで発現し、Xaでは発現しない。
その他のXiでの不活性化を逃れた遺伝子は、XaとXiとで同様に発現する。
ヒトのXiでは染色体の遺伝子のうち最大25%程度が発現
不活性化を逃れる遺伝子の多くはX染色体上で、
他のX染色体領域と似ておらずY染色体にある遺伝子の一部を含む、特定の領域に属している。
この領域は「擬似常染色体領域」と呼ばれ、Y染色体と擬似常染色体領域の間での乗換えも起きる。
このY染色体および擬似常染色体領域にある遺伝子座では、
常染色体と同じように、
雌雄どちらの個体でも(性染色体にある伴性遺伝子と違って)2つの遺伝子が遺伝する。
そのためこの領域では雌の遺伝子量補償が必要なく、
X染色体不活性化を逃れるメカニズムを発達させたと推定。
Xiの擬似常染色体領域の遺伝子は、典型的なヘテロクロマチン構造を持たず、Xist RNA結合もほとんど無い。
Xi中に不活性化されない遺伝子が存在することは 染色体異常による症状が現れる原因となる。
X染色体不活性化は、
理論的には常染色体で起きる様な染色体数の異状による発現量異状の影響を除去することができるが、
擬似常染色体領域の遺伝子についてはその機構が当てはまっていない。ただし、
常染色体数の異状に比べ、X染色体数の異状の影響は目立たないほど軽度。
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