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第150回 革命のお婆さん [2016/05/08 14:14]
文●ツルシカズヒコ
一九一五(大正四)年、三月二十六日、葉山の日蔭茶屋に到着した大杉は、風邪気味だったのですぐ床についた。
鼻水が出る。
少し熱加減だ。
汽車の中でもさうであつたが、妙に興奮してゐて、床に就いても眠られない。
彼女の事ばかりが思ひ出される。
其の翌日も、翌々日も、ほんのちよつとではあるが熱が出て、仕事は少しも手につかない。
矢張り、妙に興奮してゐて、彼女の事ばかりが思い出さ..
第145回 ゾラ [2016/05/06 22:30]
文●ツルシカズヒコ
大杉が野枝から受け取った手紙は、何か新しいものをもたらすものではなく、彼女の考えのことさらの表明にすぎなかった。
しかし、彼女のそのことさらの表明が大杉は嬉しかった。
特に著書の批評をするのに、これほどまでいろいろと神経質に言ってくるのが嬉しかった。
そして、野枝が谷中村の話にひどく感激させられたことを、自分に知らせてきたことで、大杉は野枝に内的親しみを持った。
僕は直に、彼女に何んと..
第144回 谷中村(九) [2016/05/06 18:29]
文●ツルシカズヒコ
大杉は谷中村の話には、すぐに見当がついた。
堺利彦からその話を聞いていたからだ。
ふたりは数日前に、こんな会話を交わしていた。
「谷中村から嶋田宗三という男が来て、たいぶ面白い話があるんだ。貯水池の沼の中にまだ十四、五軒ばかりの村民が残っていて、どうしても出て行かないんだ。で、県庁ではその処置に困って、とうとう来月の幾日とかに堤防を切ってしまうと脅かしたんだね。堤防を切れば、川から沼の中に水が入って..
第109回 猫板 [2016/04/22 17:17]
文●ツルシカズヒコ
野枝が訳した『婦人解放の悲劇』に鋭敏に反応したのが大杉だった。
大杉はまず女子参政権運動者とエマ・ゴールドマンとの違いをこう指摘している。
女子参政権運動者等は、在来の男子の所謂政治的仕事を人間必須の仕事と認めて、女子も亦男子と同じく此仕事に与る事を要求する。
然るにゴルドマンは、此在来の男子の所謂政治的仕事を人間の仕事として否認し、従つて男子も女子も共に此の仕事の破壊に与らなければならぬ事を..