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第96回 あの手紙 [2016/04/17 21:11]
文●ツルシカズヒコ
一九一三(大正二)年七月二日の午前中に行なわれた、野枝と辻と木村荘太の面談。
荘太がリアルタイムで書いた「牽引」の記述に沿って、その経過を追ってみたい。
この日また下宿に来てくれと野枝に手紙を書いたのは、荘太だった。
午前九時頃、下宿の婢が「伊藤さんがいらっしゃいました」と荘太に来訪を告げた。
荘太が取り散らかしていた部屋を片づけていると、障子を開けて入って来たのは、思いがけず辻だった..
第95回 二通の手紙 [2016/04/17 20:49]
文●ツルシカズヒコ
一九一三(大正二)年七月二日の午前中、野枝と辻と木村荘太は三人で面談をした。
まずは「動揺」の記述に沿って、その経過を追ってみたい。
その朝、野枝は腫れぼったい目を押さえて目覚めた。
午前十時ごろ、野枝と辻は家を出た。
ふたりが麹町区平河町の木村の下宿に着くと、野枝は不思議なくらい心が静まっていた。
前夜遅くまで起きて書いたものを荘太に渡した辻は、きっぱりと言った。
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第80回 高村光太郎 [2016/04/13 12:22]
文●ツルシカズヒコ
野枝は辻との関係を早く話してしまいたいとあせっていたが、なかなかきっかけがつかめないでいた。
そのうちに荘太は『中央新聞』の野枝の記事について話し出した。
「僕にはあなたがひとりの方ではないか(ママ)といふ不安があつたのでした。中央新聞 に出たとかいふ記事の事を聞いてからです。そしてさうだとすれば大変失礼な事をしたと思つたのです。けれども僕が手紙を書いた時には、ちッともさういふ事は知らなかつたの..
第75回 魔の宴 [2016/04/11 20:10]
文●ツルシカズヒコ
一九一三(大正二)年五月十六日。
雨が降る中、若い男が北豊島郡巣鴨町の青鞜社事務所を訪れた。
男の名は木村荘太。
荘太は応対した保持に野枝との面会を請うたが、野枝は不在だった。
野枝はその後二、三回、事務所に行ったが、保持は荘太が来たことを忘れてしまっていたので、野枝には伝えなかった。
らいてうは荘太が青鞜社を訪れたときのことを、こう書いている。
五月の或雨..