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第340回 赤瀾会(一) [2016/09/03 13:44]
文●ツルシカズヒコ
一九二一(大正十)年四月十八日、神田区美土代(みとしろ)町の東京基督教青年会館で、暁民会主催の文芸思想講演会が開催されたが、小川未明、江口渙、エロシェンコらに交じり、野枝も「文芸至上主義に就いて」という演題で講演した(大杉豊『日録・大杉栄伝』)。
目的は資金稼ぎだったが、聴衆約千二百人の大盛況だった。
四月三十日、近藤栄蔵が東京を発ち上海に向かった。
コミンテルン(第三インターナシ..
第339回 ミシン [2016/09/01 13:23]
文●ツルシカズヒコ
そして、野枝は話題をミシンに転じる。
今日もまたいゝお天気。
今日は朝の間すこし必要な仕事をしました。
それからミシンもすこし動かしました。
機械と云ふものは面白いものですね。
私は機械がする仕事はきまりきつてゐて、本当に面白くないつまらないと思ひますが、しかし、その機械を働かせる仕組みは実におもしろいと思ひます。
私は、機械についての知識と云ふものはまるで持ちませ..
第338回 Confidence [2016/09/01 12:50]
文●ツルシカズヒコ
野枝は『改造』四月号に「『或る』妻から良人へーー囚はれた夫婦関係よりの解放」を書いた。
「性の解放・性的道徳の建設」欄の一文で、野枝の他にミス・ブラック、帆足理一郎、江口渙が執筆。
野枝は冒頭で「もう随分ながく、私は自分の友達を持ちません。そして友達を欲しいと思つたこともありません」と書いている。
『青鞜』時代に親しく交わった小林哥津、野上弥生子との友情を、野枝はときどき懐かしく思い出し、..
第337回 壟断(ろうだん) [2016/08/30 13:08]
文●ツルシカズヒコ
野枝は『女の世界』一九二一年三月号に「現代婦人と経済的独立の基礎ーー謬られた思想で養われた独立婦人に与ふ」を寄稿した。
以下、抜粋要約。
〈一〉
●婦人の完全なる解放のためには、婦人の経済的独立がなくてはならないと、女権論者の方は主張しています。
●女権論者は自ら働きさえすれば、婦人は親なり夫なりの奴隷の境涯から解放されると考えていますが、主人が代わるだけでやはり奴隷の境涯から抜..
第336回 高村光太郎 [2016/08/29 10:30]
文●ツルシカズヒコ
大杉が聖路加病院から退院したのは、一九二一(大正十)年三月二十八日だった。
聖路加病院に入院中であつた大杉栄氏は
廿八日午後三時退院して午後四時十六分新橋発の列車で鎌倉雪の下の住居に帰つたが
伊藤野枝 村木源次郎の両氏が付添つて保護に努めた
(『読売新聞』1921年3月29日)
「日本脱出記」によれば、大杉が入院したために上海の社会主義者との連絡が絶たれ、ヴォイチン..
第335回 聖路加病院(五) [2016/08/27 13:35]
文●ツルシカズヒコ
『東京日日新聞』社会部記者の宮崎光男は、日蔭茶屋事件の際にも逗子の千葉病院に駆けつけたが、このときにも病床の大杉に面会に来た。
宮崎はまあ大丈夫だろうと思い、見舞いにも行かないでいた。
ところが、社の早出し版(東京市外版)を見ると、大杉はもはや死人扱いで、堺利彦や堀保子のおくやみ話まで載っていた。
あわてて車で聖路加病院に駆けつけた宮崎は、大杉を病気で死なせるのは惜しいと思い、できるなら早出..