記事
第343回 花札 [2016/09/05 20:13]
文●ツルシカズヒコ
「男女品行問題号」である『女の世界』六月号は、アンケートへの回答も掲載した。
「良人が不品行をした場合、妻は如何なる態度を採るべきでせうか? その場合妻も亦良人と共に不品行をする事を許されるでせうか?」という質問を葉書で出し、その回答を求めたのである。
四十七名が回答を寄せているが、野枝も回答している。
野枝の肩書きは「社会主義者 大杉栄氏同棲者」である。
不品行といふのが、どんな事を..
第342回 男女品行問題号 [2016/09/05 19:56]
文●ツルシカズヒコ
一九二一(大正十)年五月九日、神田区美土代(みとしろ)町の東京基督教青年会館で、日本社会主義同盟の第二回大会が開催された。
五月十日『東京朝日新聞』によれば、官憲の厳重な警戒の中、午後五時半に開場、場内は三千の聴衆で埋まった。
午後六時、司会の高津正道が二言三言口にすると、錦町署長から中止解散命令が発せられ、検束者は四十名を超えた。
神田区北甲賀町の駿台倶楽部内の労働運動社は、官憲に厳重に警戒..
第340回 赤瀾会(一) [2016/09/03 13:44]
文●ツルシカズヒコ
一九二一(大正十)年四月十八日、神田区美土代(みとしろ)町の東京基督教青年会館で、暁民会主催の文芸思想講演会が開催されたが、小川未明、江口渙、エロシェンコらに交じり、野枝も「文芸至上主義に就いて」という演題で講演した(大杉豊『日録・大杉栄伝』)。
目的は資金稼ぎだったが、聴衆約千二百人の大盛況だった。
四月三十日、近藤栄蔵が東京を発ち上海に向かった。
コミンテルン(第三インターナシ..
第339回 ミシン [2016/09/01 13:23]
文●ツルシカズヒコ
そして、野枝は話題をミシンに転じる。
今日もまたいゝお天気。
今日は朝の間すこし必要な仕事をしました。
それからミシンもすこし動かしました。
機械と云ふものは面白いものですね。
私は機械がする仕事はきまりきつてゐて、本当に面白くないつまらないと思ひますが、しかし、その機械を働かせる仕組みは実におもしろいと思ひます。
私は、機械についての知識と云ふものはまるで持ちませ..
第338回 Confidence [2016/09/01 12:50]
文●ツルシカズヒコ
野枝は『改造』四月号に「『或る』妻から良人へーー囚はれた夫婦関係よりの解放」を書いた。
「性の解放・性的道徳の建設」欄の一文で、野枝の他にミス・ブラック、帆足理一郎、江口渙が執筆。
野枝は冒頭で「もう随分ながく、私は自分の友達を持ちません。そして友達を欲しいと思つたこともありません」と書いている。
『青鞜』時代に親しく交わった小林哥津、野上弥生子との友情を、野枝はときどき懐かしく思い出し、..
第336回 高村光太郎 [2016/08/29 10:30]
文●ツルシカズヒコ
大杉が聖路加病院から退院したのは、一九二一(大正十)年三月二十八日だった。
聖路加病院に入院中であつた大杉栄氏は
廿八日午後三時退院して午後四時十六分新橋発の列車で鎌倉雪の下の住居に帰つたが
伊藤野枝 村木源次郎の両氏が付添つて保護に努めた
(『読売新聞』1921年3月29日)
「日本脱出記」によれば、大杉が入院したために上海の社会主義者との連絡が絶たれ、ヴォイチン..