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第343回 花札 [2016/09/05 20:13]
文●ツルシカズヒコ
「男女品行問題号」である『女の世界』六月号は、アンケートへの回答も掲載した。
「良人が不品行をした場合、妻は如何なる態度を採るべきでせうか? その場合妻も亦良人と共に不品行をする事を許されるでせうか?」という質問を葉書で出し、その回答を求めたのである。
四十七名が回答を寄せているが、野枝も回答している。
野枝の肩書きは「社会主義者 大杉栄氏同棲者」である。
不品行といふのが、どんな事を..
第274回 スペイン風邪 [2016/07/04 10:45]
文●ツルシカズヒコ
大杉豊『日録・大杉栄伝』によれば、一九一九(大正八)年一月二十六日、大杉は売文社で群馬県からこの日上京した蟻川直枝と会い、気が合ったふたりは浅草十二階下にある黒瀬春吉の店「グリル茶目」で食事をした。
このときの話を、安成二郎が大杉からおもしろおかしく語って聞かされた。
大杉と蟻川は「グリル茶目」での食事を終えると、吉原に行くことにした。
売文社に行くとき、大杉は尾行をまいていたので、黒瀬の尾行..
第246回 第二革命 [2016/06/09 16:27]
文●ツルシカズヒコ
一九一七(大正六)年十月三日、保釈中だった神近は東京監獄八王子分監に下獄した。
二畳ほどの独房に入れられた神近は、午前八時から午後五時まで、屑糸をつなぐ作業に従事させられた。
昼食後の三十分の休憩、夕食後から夜八時の就寝までは仕事がないので、本を読むことができた。
神近が保釈後に執筆を開始した『引かれものの唄』の原稿は、下獄間近に仕上がり、十月三十日に法木書店から出版された。
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第245回 魔子 [2016/06/09 16:10]
文●ツルシカズヒコ
一九一七(大正六)年九月二十五日、野枝は大杉との間の第一子、長女・魔子を出産した。
大杉豊『日録・大杉栄伝』によれば、魔子をとりあげた助産婦・北村悦は東京の産婆会の会長で小石川で助産婦をしていた。
そして、北村悦の夫、北村利吉は警視庁勤務の巡査だったが、魔子をとりあげた北村悦を介する縁で、大杉と北村利吉は親交があったという。
文学座俳優の北村和夫は、北村利吉・悦夫妻の孫である。
北村和夫は..
第244回 世話女房 [2016/06/07 21:13]
文●ツルシカズヒコ
七月初めに北豊島郡巣鴨村宮仲に引っ越して来た大杉と野枝だが、九月末に野枝が大杉との第一子、長女・魔子を出産する直前のころの野枝について、大杉が『女の世界』に書いている。
懇意の編集者である安成二郎に依頼されたようで、大杉は安成に話しかけるようなスタイルで書いている。
まず、冒頭にこう記している。
もう今日か明日か知れない産月の大きなお腹を抱へて、終日ごろ/\して呻つてゐるあいつに、何んの近..
第228回 塩瀬の最中 [2016/05/31 12:42]
文●ツルシカズヒコ
日蔭茶屋事件が起きる直前、大杉と野枝の訪問を受けていたらいてうは驚いた。
神近が『青鞜』から離れて以降、らいてうは彼女と疎遠になっていたが、彼女が大杉が主宰するフランス語教室やフランス文学研究会に参加しているらしいという噂話はどこからともなく聞いていた。
しかし、らいてうは神近と大杉が傷害事件に発展するような深い間柄であることは、まったく知らなかった。
こんないたましい破局に、神近さんが、..