2016年05月18日
「あくびで脳に酸素を送っている」はウソ! じゃああくびは何のため?
退屈な時、眠い時、疲れた時…時を選ばず出てしまうあくび。あくびをするのは人間だけではなく、犬や猫、インコやイグアナ、魚までもがあくびをする。例えば、愛知県蒲郡市の竹島水族館の魚たちは、開館前によくあくびをするという。まるで朝に弱い人間のようだ。
あくびについては解明されていないことが多い。しかし、人間だけでなく多くの生き物があくびをするなら、何か意味や役割があるに違いない。
あくびには、もらいあくびや生あくび、緊張する場面で出るあくび、病気の初期症状など、いろいろある。そのあくびが、脳の働きを助けて不眠治療にも役立つ可能性があるということが少しずつ分かってきた。
■あくびの出る原因 あくびが出ると“脳力”UP
あくびは脳に酸素が足りない時に、空気をたくさん吸って酸素を供給するために出るという説を聞かれたことがあるかもしれない。この説はかつては有力とされていたが、現在は否定されている。
あくびをしても、体内に取り入れられる空気の量はあまり増えず、血中の酸素濃度も実際には上昇しないことが実験で分かったからだ。
この説に代わって米国の研究グループが主張しているのが、あくびが脳の温度を調整し脳を冷やすという説だ。氷などで頭を冷やした人は、あくびが出にくくなることが実験で分かっている。あくびが出ると、血流をよくして脳のオーバーヒートを防ぎ、頭がよく働くようになるというのだ。
■あくびは冬にはあまり出ない?
オーストリアのウィーン大学の研究者は、もらいあくびには気温との関連があると発表している。あくびは気温と関連があり、外気温が非常に高いか、非常に低いとあくびが少ないという調査結果だ。調査は夏と冬のウイーンの屋外とアリゾナで行い、歩行者に他人のあくび写真を見せてあくびがうつるかを調べた。
その結果、冬は寒く、夏もさほど高温にならないウイーンでは冬より夏の方があくびが多かったが、夏の猛暑が特徴的なアリゾナでは逆だった。人にうつるあくびは気温が約20度の時に一番出やすいことが分かった。
研究者によると、脳を冷やすためのあくびは外気温が体温と同程度以上高いと機能せず、寒い気候では必要でさえない可能性があるという。
■あくびが脳を冷やす仕組みとは
不眠症治療で著名な米国ピッツバーグ大学 睡眠外科医局長のライアン・スーズ氏 は、あくびが脳を冷やすという理論から脳が冷える仕組みを検証した。そして、あくびで上顎洞(副鼻腔の1つ)の仕切り壁が動いて送風機のように拡大・縮小し、脳に空気を送り込んで脳を冷やす、という理論を発表した。人間の脳はコンピューターのように温度に対して非常に敏感で、効率よく機能するためには低い温度を保つ必要があるという。
■あくびの研究が不眠症を救うかもしれない
うれしいことに、あくびが脳を冷却するという理論やその仕組みは、不眠症治療に役立つ可能性もありそうだ。眠りを催すには、体温を下げる必要がある。しかし、不眠症患者では体温調節がうまくできない人が多い。そこで、あくびが脳の温度を下げて、入眠を助けるのではないかと期待されているのだ。スーズ氏は、さらにこの理論を応用して、副鼻腔を冷やすことで不眠症を治療するという、新しい不眠症治療を考案している。。
これまでは怠け者の証拠のように思われてきたあくびが、一転して脳のオーバーヒートを防ぎ、不眠症の治療にまで活躍する可能性が浮上してきた。あくびのマイナスイメージが、プラスに大きく変わっていくかもしれない。