医学の進歩は著しいものの、治療法どころか、病気の正確な原因が分からない病気も少なくありません。
脳、小脳、視神経、脳幹、脊髄などに炎症が起こる多発性硬化症もその一つです。急激な視力低下が起きるものの、しばらくすれば症状がおさまることが珍しくありません。ただし、症状が出ない状態になっているだけで、病気が治ったわけではありません。(寛解と呼ばれる状態です)
積極的な治療を行わないと再発を繰り返し、再発が起こるために症状が悪化します。運動器に障害が起きて、最後は歩行困難になる可能性が高い疾患だと言われています。現在、症状が出ない状態を維持するのに有効な方法は見つかっていますが、根治する治療法は見つかっていません。また、病気の原因についても正確な事が分かっていません。
似たような症状が起こる疾患はいくつかありますが、これらの病気に原始的な生物が関与している疑いがあるとして、注目を集めています。
京都大学と鹿児島大学は、物忘れや抑うつ状態がある認知症の患者について、2005年〜2012にかけて、認知症状が進行する40代〜70代の患者について調査を重ねています。その結果、核磁共鳴画像診断装置(MRI)で検査したところ、脳や脊髄に炎症が起きていることを確認しました。
患者の脳を検査する調査を重ねたところ、核や細胞壁を持たない原始的な菌である古細菌が感染していたことを発見。古細菌を殺せる抗生物質を投与したところ、症状が改善することがわかりました。京都大学と鹿児島大学は、13日、研究結果を米国の神経学会誌に公表しています。
古細菌とは、ウイルスや一般的な菌とは別の存在と考えられています。非常に原始的な生物で、火口の中の熱い湯や海底火山などといった過酷な環境でも生きられるタフな生物。今回発見された古細菌は、高度好塩菌という、塩分が非常に濃い水の中に住む古細菌の一種。
今回発見された古細菌だけでなく、全体として古細菌は、医師の間でも病気を引き起こす可能性がないものと考えられるのが通例でした。そのため、様々な方面から注目を集めているようです。
今回の研究結果が、まだ原因がわからない多発性硬化症などの疾患の改善につながるかは不明です。しかしながら、難病とされている似たような症状を起こす疾患について、意外にも簡単な治療法が見つかるかもしれません。