2015年08月08日
「脳のシワ」は紙と同じようにたたまれる
紙をクシャクシャに丸めると、脳のような見た目になりますね。実は、こうした紙の丸まり方は、実際に脳のシワのでき方とよく似ているのだそうです。
脳は、大きくなればなるほどシワの量も増えていく傾向があります。このため、科学者たちは長らく、脳がシワシワに折り重なるのは、神経細胞(ニューロン)の数と何か関係があると考えてきました。
けれども、科学誌『Science』に2015年7月3日付けで発表された研究によると、脳のシワの量は、実は神経細胞の数とは無関係であり、大脳皮質の厚さや表面積との関係が深いとわかったそうです。
を行ったリオデジャネイロ連邦大学(ブラジル)の研究チームは、大規模なデータセットを調べ、さまざまな動物種の神経細胞の総数および大脳皮質の表面積と厚さ、脳の容積、シワの量を比較しました。その結果、脳が現状の形をしている理由を哺乳類全般にわたって説明できる、たったひとつの方程式が見つかりました。それによると、大脳皮質が厚くなるほどシワの量は減っていくけれど、大脳皮質が薄くなり、表面積が広くなるほど、シワの量は増えていくのだそうです。
さらに研究チームは、この方程式が紙をクシャクシャに丸める時の法則とよく似ていることに触れています。脳の表層にある大脳皮質は、シワをほぐして広げてからまた丸めたら、紙のように折り重なって元のように収まります。粘土のように勝手にくっついて形を変えてしまうことはありません。今回の研究の共著者であるSuzana Herculano-Houzel准教授は、自宅のダイニングテーブルで、大きさや厚みの異なるいろいろな紙をクシャクシャに丸めて、脳と同じだと気づいたそうです。厚手の紙は、丸めようとしてもシワがつきにくいのに対し、薄く表面積の大きな紙は、細かなシワができて簡単に小さくまとまります。
シワの量と神経細胞の数に関係はないと書きましたが、それでも、シワが多いことには優位性があります。大脳皮質のシワは神経信号の伝達時間を短縮するので、結果としてシワが多いほど、脳が高速に機能するのです。
「脳が大きくなると、情報交換に時間がかかってしまいます。脳はできる限り小さくまとまっていたほうが好都合です。そうなっているのはシワのおかげです」とHerculano-Houzel准教授は言います。
それなら、哺乳類以外の動物の脳も、小さなスペースにみっしり折り重なっていた方が良さそうなのに、実際にはあまりシワがないのはどうしてでしょうか? Herculano-Houzel准教授によると、その主な理由は、必要がないということだそうです。脳は、その動物種が生きていくのに十分なだけの機能があれば良いので、大脳皮質が薄ければシワの数を増やせるという利点は、ほとんどの種にとっては必要ではないのです。
また、今回の研究は、「滑脳症」という脳の形成異常を考える上でもヒントを与えてくれます。滑脳症では、大脳皮質にシワがなく、脳の表面が平滑になります。この疾病の子どもたちには、一般的に、発達の遅れや認知機能の重篤な問題などが見られます。
滑脳症の研究では、脳のシワの形成に関与する遺伝子の特定が目指されていますが、今回のHerculano-Houzel准教授の研究によって、大脳皮質の厚さと表面積を制御する遺伝子にも目を向けるべきであることが窺えます。
今回の研究は、革新的な科学研究には、多額の予算は必ずしも必要でないということを示すものでもあります。
「私がこの研究で一番クールだと思っているのは、これが自宅にあったオフィス用紙だということです。紙をクシャクシャに丸めたこれらの模型を、私はダイニングテーブルで作りました」とHerculano-Houzel准教授は言います。「リソースがほとんどなくても、面白い研究をして、興味深い疑問を投げかけることはできる――そういう素晴らしい側面が科学にはあるのです」。