2015年08月03日
ミュー粒子が地球を守るって本当?
絶えまなく地球に降り注ぐ「宇宙線」。人体や電子機器に有害なものが多いなか、素粒子・ミューオンが地球の平和に貢献しているのはご存じだろうか?
ミューオンは原子の材料とも呼べる素粒子のひとつで、透過力が強く厚い岩盤をも通り抜けることができるため巨大な「レントゲン」のように利用されている。トラックの荷台や建物に不審物がないかを調べたり、火山の内部のようすを可視化するなど、地球の平和に役立っているのだ。
■ミューオンで作る巨大な透視装置
宇宙を飛び回っているきわめて小さな粒子は宇宙線と呼ばれ、高いエネルギーを持ったまま地球にも降り注いでいる。地表に届く宇宙線の約7割は、原子をさらに細かくした素粒子のひとつであるミューオンで、透過力が非常に強く岩盤やコンクリートも通り抜けてしまう。
ミュー粒子が地球を守るって本当?―地球を「のぞき見」する
この性質を利用してビルの内部や地下の様子を写し出す「ミュオグラフィ」が、犯罪防止や災害予知に活用されているのだ。
ミュオグラフィには2種類あり、
・透過法 … 物体にぶつかって減衰(げんすい)する
・散乱法 … 物体にぶつかって散乱する
性質が利用され、ボールにたとえるなら、透過法はなにかにぶつかってスピードが落ちる様子、ボールの進む角度の違いを利用したのが散乱法で、「なに」にぶつかったかまで特定できるというから驚きだ。病院のレントゲンや空港のX線検査のように穴を開けずに中身を知ることができ、しかも広い範囲を調査できるため、アメリカではトラックの荷物に不審物がないかをチェックするのに利用されている。
日本では2007年に浅間山の内部の活動状況が画像化され、マグマの位置から密度までを知ることができた。まるでSFのような話だが、宇宙から降り注ぐ素粒子が、犯罪予防や災害の予知に活用されているのだ。
■ニュートリノで地球を「のぞき見」する
これをさらにパワーアップさせたのが、南極でおこなわれている「IceCube(アイスキューブ)」計画で、ミューオンよりもはるかに透過力の強いニュートリノで地球の内部を「透かして」見ようとしているのだ。
IceCubeは1立方kmにも及び、氷面下1,400mから2,400mに光学装置が埋め込まれた巨大な測定器だ。ニュートリノが氷に衝突した際にミューオンを放ち、そのときのわずかな光を検知する。氷の透明度が高く、適度に暗いのが南極が選ばれた理由で、光学装置だけでなく氷もレンズのように使われている。
ニュートリノもミューオンと同じ素粒子のグループだが、非常に軽くほかの物質とも反応しにくいため、大がかりな装置を使わないと観測が難しいのだ。
この装置は宇宙にも目を向け、ニュートリノそのものや暗黒物質の調査も同時におこなわれている。地球内部を知るには少なくとも10年分のデータが必要といわれているので、なにかしらの結果が出るのは5〜6年後といったところだろうか。
いまだ正体がわからないため「暗黒」と名付けられた宇宙の物質やエネルギーも興味深いが、まずは自分が住んでいる地球の内部がどんな様子なのかを知りたいものだ。
■まとめ
・地表に降り注ぐ宇宙線の約7割は素粒子・ミューオン
・透過力が強く、岩やコンクリートも突き抜けてしまう
・ミューオンを使って、建物や火山の内部を見る装置が存在する
・さらに透過力の強いニュートリノで、地球の内部を「透視」する計画が実行中