記事
第306回 自由母権 [2016/07/26 19:49]
文●ツルシカズヒコ
野枝は『解放』一九二〇(大正九)年四月号に「自由母権の方へ」を寄稿した。
「新しい時代において両性問題はどう変化していくのか?」というテーマで原稿を依頼されたようだ。
野枝は冒頭で両性問題、つまり男女の問題について考えることに興味が持てなくなったと書いている。
そしてこう言う。
親密な男女間をつなぐ第一のものが、決して『性の差別』でなくて、人と人の間に生ずる最も深い感激をもつた『フレンド..
第142回 谷中村(七) [2016/05/06 13:23]
文●ツルシカズヒコ
こんなにも苦しんで、自分はいったい何をしているのだろう。
余計な遠慮や気兼ねをしなければならないような狭いところでで、折々思い出したように自分の気持ちを引ったててみるくらいのことしかできないなんて?
野枝はこんな誤謬に満ちた生活にこびりついていなくたって、いっそもう、何もかも投げ棄てて、広い自由のための戦いの中に飛び込んでゆきたいと思った。
そのムーブメントの中に飛び込んでいって、力一杯に手応えのあ..
第135回 ジャステイス [2016/05/03 13:19]
文●ツルシカズヒコ
しかし、野枝だけは青鞜社の仲間の中でも違った境遇にいた。
一旦は自分から進んで因習的な束縛を破って出たけれど、いつか再び自ら他人の家庭に入って因習の中に生活しなければならぬようになっていた。
野枝は最初の束縛から逃がれたときの苦痛を思い出し、その苦痛を忍んでもまだ自分の生活の隅々までも自分のものにすることのできないのが情けなかった。
野枝はそれを自身の中に深く潜んでいる同じ伝習の力のせいだと思って..
第134回 生き甲斐 [2016/05/03 12:52]
文●ツルシカズヒコ
一九一五(大正四)年一月末の深夜ーー。
吹雪の中、春日町(かすがちょう)で一(まこと)を背負って電車を待っていた野枝は、二年前のあの夏の日のことを思い浮かべていた。
ヒポリット・ハヴェルが書いた「エマ・ゴールドマン小伝」を読んだあの夏の日のことをーー。
多くの人間の利己的な心から、まったく見棄てられた大事な「ジャステイス」を拾い上げることが、現在の社会制度に対してどれほどの反逆を意味するかというこ..
第117回 下田歌子 [2016/04/24 22:17]
文●ツルシカズヒコ
結局、『青鞜』の「三周年記念号」は十月号(第四巻第九号)になった。
野枝は『青鞜』同号に「遺書の一部より」と「下田歌子女史へ」を書いている。
『定本 伊藤野枝全集 第二巻』の「解題」によれば、「下田歌子女史へ」は『新日本』九月号の「現代思想界の八先覚に与ふる公開状」に掲載されるはずだった。
「丁度新日本では戦争がはじまつて記事が輻輳(ふくそう)して困るから十月にまはすと云つて来た」(「下田歌子女史..
第109回 猫板 [2016/04/22 17:17]
文●ツルシカズヒコ
野枝が訳した『婦人解放の悲劇』に鋭敏に反応したのが大杉だった。
大杉はまず女子参政権運動者とエマ・ゴールドマンとの違いをこう指摘している。
女子参政権運動者等は、在来の男子の所謂政治的仕事を人間必須の仕事と認めて、女子も亦男子と同じく此仕事に与る事を要求する。
然るにゴルドマンは、此在来の男子の所謂政治的仕事を人間の仕事として否認し、従つて男子も女子も共に此の仕事の破壊に与らなければならぬ事を..
第108回 『婦人解放の悲劇』 [2016/04/22 16:07]
文●ツルシカズヒコ
『青鞜』一九一四年三月号に野枝は「従妹に」を書いた。
……実におはづかしいものだ。
私はあのまゝでは発表したくなかつた。
併(しか)し日数がせつぱつまつてから出そうと約束したので一端書きかけて止めておいたのをまた書きつぎかけたのだけれどもどうしても気持がはぐれてゐて書けないので、胡麻化してしまつた。
(「編輯室より」/『青鞜』1914年3月号・第4巻第3号/『定本 伊藤野枝全集 第二巻』_..
第102回 出産 [2016/04/19 19:36]
文●ツルシカズヒコ
野枝は辻の力を借りて、エマ・ゴールドマン『Anarchism and Other Essays』に収録されている「婦人解放の悲劇」を『青鞜』九月号に訳載した。
解放は女子をして最も真なる意味に於て人たらしめなければならない、肯定と活動とを切に欲求する女性中のあらゆるものがその完全な発想を得なければならない。
全ての人工的障碍が打破せられなければならない。
偉(おおい)なる自由に向ふ大道に数世紀の間..
≪前へ 次へ≫