『UFO少年アブドラジャン』に出てくるおいしそうなパン―ノン
今週も前回に引き続き、ウズベキスタン映画『UFO少年アブドラジャン』の食べ物について書く。
前回の記事はこちら↓
『UFO少年アブドラジャン』の食卓風景
『UFO少年アブドラジャン』には、ノン(ウズベキスタン料理には欠かせないパン)が度々出てくる。
その中でも印象的なのは、徴兵される息子を家族が見送るシーンである。母親に差し出されたノンを息子が一口かじってから、家を出ていく場面がある。はじめこのシーンを見た時には、「これは何か儀式的な意味合いがあるのか?」と思った。
白いキャップをかぶった息子がノンをかじるシーン
例えば、古くから欧米では結婚式で新郎と新婦が互いにケーキを食べさせるファーストバイト(バイトはかじるの意)があるように、ノンをかじる行為も儀式の一環かと思った。
又、私が留学していたロシアでは、誰かが旅行などで家を出る前に、全員沈黙したまま数秒間座り、旅行者の道中の無事を祈るのだが、ノンをかじるのもこれと似た願掛け?の意味合いがあるのかと思った。
そこでウズベク人の友人に聞いてみたが、特にそのような慣習はないらしい。
おそらく、ここで息子がノンをかじったのは、母親が作ったノンをこれから長い間食べられなくなるから、最後に母の味を噛みしめたかったのだろう。
現在ウズベキスタンでは、ノンを買うのが一般的であるが、昔は各家庭でノンを作り、自宅の窯で焼いていた。この映画では、まだ家でノンを作っていた時代を描いている。それが分かるのが、アブドラジャンの初恋のシーンだ。
家で村の娘がノンの生地をこねて形をつくっている姿を見て、アブドラジャンは恋に落ちる。ただそれだけのシーンだが、この初恋のシーンで女の子がノンを作っている様子を描写するのはとても興味深いと思う。
なぜなら、女の子が遊んでいるところでもなく、買い物しているところでもなく、まさしくノンを作っているところを初恋のシーンで使うということは、ウズベク人にとって「素敵な女性」というのは、“おいしいノンが作れる家庭的な女性”だということを暗示しているからだ。
そして、普通なら初恋の表現として、女性の美しさをカメラで捉えるが、アブドラジャンの初恋シーンでは、まずノンをこねている女の子の手元が映し出され、カメラが少しずつ上がっていき、最後に女の子の顔が映し出されている。つまり、アブドラジャンは、美しい顔立ちよりもノン作りの方にまず視線が向いているのだ。
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ノンを市場で買う現代とは違って、昔は家でノンを作っていたため、各家庭で少しずつ味が違っていたと想像できる。だから徴兵される息子は母親が作るノンの味を噛みしめて家を後にしたのだろう。
宇宙人であるアブドラジャンの超能力によって、息子は軍の施設から瞬間移動して家に戻ってくるのだが、軍にまたテレポートで戻る時に息子が持って帰ったのは、やっぱり母親の作ったノンだった。
母からもらったノンをしっかりと抱き抱える息子
ノンはウズベク人にとって、無くてはならない大切なものであり、母の優しさのつまったソウルフードであると感じた。
そういえば、私がタシケントでウズベク人の友達の家で夕食をごちそうになり、ホテルに戻ろうとした時に友達のお母さんから、「これを持って行きなさい」と言って渡されたのが、まさしくノンだった。たらふくウズベキスタン料理を食べた後なのに、「夜中にお腹がすいたら困るでしょう?」と言って大きなノンを丸々1枚渡された時は、とてもびっくりしたし困ったが、そんなお節介なウズベク人が私は大好きだ。
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