2015年07月08日
春琴抄
谷崎潤一郎著『春琴抄』
非常に短い小説ですので
是非是非、あまり気負わず
読んで頂きたいと思います
その美しい美貌と
舞、読み書き何につけても
天才を発揮し
両親からの期待を
一心に背負っていた娘春琴
しかし、その春琴を
不幸が襲う
わずか9歳で彼女は
目の光を失うことになったのです
元々、驕慢なところのあった
お嬢様育ちの春琴は、
それにより、同情を感じる
両親からさらに甘やかされ
さらに、驕慢になっていく
そんな、かなり我が儘な
お嬢様のお世話役として
佐助という男が
長年仕えることになる
春琴の思いをくみ、
春琴が機嫌を悪くしても
ひたすら、どうにか
丁寧に、彼女のために……
とする佐助
そして、そんな佐助によって
ますます、その意地悪さを増す春琴
そして、その意地悪をしかし、
恩寵のように感じる佐助……
主従の関係であった二人は
やがて、琴を媒介に
師弟の関係をも結び
さらには……
しかし、春琴の気難しさから
二人の関係はどうも、曖昧なまま
公然の秘密として
佐助はかいがいしく
お世話を続ける
春琴は、佐助でなくては
嫌じゃという
かといって、佐助に
優しいかというと
むしろ逆で
読んでいて、佐助が
可哀そうに思われてくる
のですが、
当の佐助は全く持って
平気らしい
いや、平気という
言葉はおかしいですね…
平気なのか、何なのか……
とにかく、ここの
二人の儘ならぬ、尋常ではない
愛などと言う温かな
なにものかを微塵も感じさせぬ
割に、何かとてつもなく
鋭い結びつきの
描写、これを描けるのは
さすがとしか。
何と言いますか、
春琴の変化も、
違和感のあるものでは
ないといいますか、
確かに、そのようになる
女は、多くはなくとも
少なくともないのでは、と
思われるのです
光を失って、
ただ自分の思うその通りに
尽くしてくれるは佐助のみと
なって、その佐助に
まるで、意地悪することが
目的かのような、
そんな言動が増え
しまいにはコントロールが
きかなくなってしまう
非常に異端な恋のありようが
切々と描かれていて
話の展開そのものは
文庫の裏に書いてあることで
全てと言えば全てなのですが
始めは、ただ不幸な娘さんと
思われる春琴が
次第次第に本性を現す
もしくは、
次第次第に、その
嗜虐的な面を
開花させていく
そして、それと同時に
佐助の方も
自虐的な部分をじゅくじゅくと
成長させていく
春琴が、人生における
2度目の不幸により
その容貌を変わらせて
しまった際
佐助は、自ら盲目の道を
選ぶことにする
この、佐助が盲目になるシーン、
これ、見ていられないですね
言ってみれば
分かりやすい刺激的な
擬音語擬態語を用いている
訳でもないのに
この、、、
とにかく、これを
描いてしまうことが
とてつもないことです
ひいい、と
貼った絆創膏を
痛くて少しずつ少しずつ
剥がすようにしてしか
読めませんでしたが、
これを書くって、
どういうことなのだろう、と
思いましたね
静かに、とても静かに
書いてあるところが
怖ろしい……
佐助の自虐性の極致へ
至った瞬間では
ないでしょうか、これは…。
盲人になった佐助は
涙を流して歓喜する
うっすらと明るいということが
ぼんやり分かるだけの
彼には、ぼんやり見える
春琴の白い顔の輪郭に
彼の記憶の中の
美しい春琴のみを見る。
佐助は、生きている春琴を
夢の中でのみ見続け
徹底的に現実から
目を逸らす
このような結末に至るに
十分な程、佐助は
その自虐性を極限まで
開花させていたと言えるし
また、それによって
取り乱す事の無い
春琴も、それまでの
文脈を見れば納得できる
負けず根性が強く
気ままで驕慢な美しい女人と、
盲人になってなお
恍惚とした表情を浮かべ
その女人に進んで
翻弄される丁稚の男
純愛、というものでは
微塵もないというのに
いやらしさを見せず
ひたすらに官能的に、美しいと
思わしめるというのは、
並大抵のことでは
ありませんね
文学です、まさに文学
もしかして、ほとんど
あらすじを書かれたから
読む気が失われたという方は
早まらずに、読んでください笑
話の筋を知っているか
どうかは、重要では
ないように思うのです
だから、文庫本の後ろにも
今述べたようなほとんどの
あらすじを短くまとめたものが
書かれているのだと
思います
ようは、人の嗜虐性と
自虐性を緻密に緻密に
描いている、その緻密さに
驚嘆しながら読んでいく
小説なのだろうと思います
とりあえず読まないと
いくら読んだ人の感想を
聞いても何のこっちゃ
分からない、というような小説
いやあ、とにかく
読んで損はありませんので
短いですし。
少し時間を取って
読んで見てはいかがでしょうか?
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