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第236回 自働電話 [2016/06/03 17:05]
文●ツルシカズヒコ
一九一七(大正六)年の正月、山鹿泰治が本郷区菊坂町の菊富士ホテルにいる大杉と野枝を訪ねた。
二言三言語り合う内に杉が、『それより不愉快な以前の問題を解決しやうぢやないか、大体あんな暴行を働いた以上は謝罪から先きにすべきものだ』といふから、僕は野枝さんに向つて『僕が今もし謝罪したら貴女は愉快になるんですか』と尋ねて見たら、『イヤ、そんな事はありませんが、あやまらなければ今後安神(ママ)して交際は出来ないだけなん..
第186回 謡い会 [2016/05/17 18:49]
文●ツルシカズヒコ
野上弥生子「彼女」によれば、野枝が突然、弥生子に会いに来たのは一九一六(大正五)年の四月下旬のある日だった。
『女性改造』一九二三年十一月号に掲載された、野上弥生子の口述筆記「野枝さんのこと」では、野枝が訪れたこの日を弥生子は「大正五年の三月」(p158)と語っているが、ひとまずここではこの「彼女」の記述に沿ってみたい。
「彼女」の記述から推定すると、この日は四月二十三日と思われる。
そのころ、野..
第115回 ヂョン公 [2016/04/24 20:30]
文●ツルシカズヒコ
辻一家が上駒込から小石川区竹早町に引っ越したのは、一九一四(大正三)年の夏だった。
野上弥生子「小さい兄弟」では、時間軸が一九一五(大正四)年に設定されているが、この辻一家の引っ越しについての描写もある。
「いやだな、野枝さん。なぜ引っ越さなきゃいけないの?」
素一は、隣りの若い叔母さんである、野枝の顔を見るたびに、そう言って不平を鳴らした。
いよ/\引越の日になるとN子さんの家の裏口ー..
第99回 ジプシイの娘 [2016/04/18 15:22]
文●ツルシカズヒコ
一九一三(大正二)年から一九一四(大正三)年にかけて、野枝は隣家に住む野上弥生子と親密な交わりをしていた。
弥生子は『青鞜』の寄稿者であったが、野上邸は野枝が住んでいた借家と生け垣ひとつ隔てた隣り合わせにあった。
辻と野枝が北豊島郡巣鴨町上駒込三二九番地、妙義神社前の借家に住み始めたのは一九一三(大正二)年五月ごろであるが、そのころから弥生子と野枝の公私にわたる親交が始まった。
『定本 伊藤野枝..
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