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第338回 Confidence [2016/09/01 12:50]
文●ツルシカズヒコ
野枝は『改造』四月号に「『或る』妻から良人へーー囚はれた夫婦関係よりの解放」を書いた。
「性の解放・性的道徳の建設」欄の一文で、野枝の他にミス・ブラック、帆足理一郎、江口渙が執筆。
野枝は冒頭で「もう随分ながく、私は自分の友達を持ちません。そして友達を欲しいと思つたこともありません」と書いている。
『青鞜』時代に親しく交わった小林哥津、野上弥生子との友情を、野枝はときどき懐かしく思い出し、..
第104回 サアカスティック [2016/04/20 22:14]
文●ツルシカズヒコ
一九一三(大正二)年の秋が深まるにつれ、野上弥生子と野枝の親交も深まりを増していった。
野枝はこう記している。
その頃、私と野上彌生子さんは疎(まばら)な生籬(いけがき)を一重隔てた隣合はせに住んでゐた。
彌生子さんはソニヤ、コヴアレフスキイの自伝を訳してゐる最中であつた。
私達二人は彌生子さんの日当りのいゝ書斎で、又は垣根をへだてゝ朝夕の散歩の道でよく種々なことについて話しあつた。
..
第84回 ドストエフスキイ [2016/04/15 18:57]
文●ツルシカズヒコ
一九一三(大正二)年六月二十六日、その日の朝、野枝は疲れていたのでかなり遅く目を覚ました。
野枝はこの日もまた校正かと思うとウンザリした。
しかし、今朝は手紙が来ていないのでのびのびとしたような気持ちになり、辻に昨日、岩野清子と築地や銀座を歩いたことなどを話した。
野枝は昨日と一昨日に書いた手紙を入れた封筒を持って出て、それをポストに入れた。
野枝は苦しい手紙を書いたことが遠い遠いことのよ..
第83回 動揺 [2016/04/15 16:14]
文●ツルシカズヒコ
野枝がようやくの思いで染井の家に帰り着き部屋に入ると、机の上にまた荘太からの手紙が乗っていた。
息が詰まりそうなので、横になり目を瞑ったままじっとしていた。
二十分もたってやっとの思いで手紙を開いた。
今日私は少し苦しみ始めました。
よく/\反省すれば僕の心の中には強くあなたを得たいといふ願ひが潜んでゐるのを知つたからなのです。
僕はこの今の自分の若しみを甘受します。
苦し..
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