2016年08月22日
私たちはなぜ眠るのか? 睡眠の究極的な役割が示す脳内のミステリー
動物が「睡眠」する目的は、脳の掃除… 蓄積した老廃物の廃棄なのかもしれない。
ニューヨーク大学などの研究チームが、科学雑誌『サイエンス』に、脳の掃除は睡眠中に活性化するという研究結果を発表した。老廃物の多い“汚れた”脳は、アルツハイマー病などの原因ともなるため、睡眠にはアルツハイマー病などの認知症予防効果の可能性もあるとして注目が集まっている。
□次々に明らかになる睡眠のはたらき
私たちはなぜ眠るのだろうか? そして、睡眠にはどのようなはたらきがあるのだろうか?
意外に思われるかもしれないが、この問い掛けに対して、明快な答えをくれる科学者は世界中にまだ誰もいないだろう。睡眠は科学者にとっても謎だらけなのである。人が睡眠について知り得たことなど、例えるなら、広大な砂浜から一握りの砂をすくい上げた程度なのかもしれない。
しかし、私たちは人生の3分の1もの時間を睡眠に費やしている。性欲、食欲に並んで人間の三大欲求と言われる睡眠は、人間の生存にとって欠かすことのできない重要な生体機能であり、「圧倒的に重要な何か」をしているはずである。
近年の科学技術の発展を背景に、人はようやく睡眠を科学することが可能になってきた。睡眠はいまだ謎多きミステリーだが、その本質は日進月歩で解き明かされている。今回ご紹介するのも、そんな謎多き睡眠の本質的なはたらきの一つとして、最近発見された事実である。
□睡眠中、脳はせっせとお片付けで老廃物を排出
豆腐のように軟らかい脳は、硬い頭の骨に覆われていて、その中で水のような液体にプカプタと浮かぶかたちで衝撃から守られている。この水は「脳脊髄液」といい、脳を衝撃から守るだけではなく、脳の老廃物が排出される場所でもある。
研究グループが明らかにしたのは、この脳の老廃物の排出が睡眠中に「積極的に」行われているということだ。睡眠中、脳脊髄液は脳のより細かい隙間や深部まで入り込んでいき、さらに、老廃物の排出に関わるとされる脳の自浄システム「グリンパティック系(Glymphatic system)」が、起きているときに比べて10倍以上活発になっていた。
□睡眠中も日中と同じくらいエネルギーを消費する脳
これまで、睡眠中も脳は日中と同じくらいのエネルギーを消費することは知られていたが、なぜかはよく分かっていなかった。しかし、今回の研究結果から、睡眠中のエネルギー消費は、グリンパティック系による脳の掃除が行われているためだと推測できる。
もし、この掃除が日中に行われていたら、私たちはすぐに低血糖で倒れてしまうだろう。脳は最もエネルギーを消費する組織であるにもかかわらず、少しもエネルギーを蓄えておくことができないからである。そこで、掃除は睡眠中にやってしまおうというわけだ。目覚めたあとに頭がスッキリとするのは、脳内がクリアランスされた結果と言えよう。
□脳の老廃物は認知症やアルツハイマーの原因に
脳にたまった汚れた老廃物は脳細胞を傷つけ、認知症などの脳機能障害の原因ともなる。したがって、睡眠が認知症予防に有効な可能性も示唆されるのである。
事実、今回の研究では、認知症の原因物質の一つと考えられている「アミロイドβ」が、睡眠中に脳脊髄液の中へと排出されることが確認された。
□睡眠をコントロールする時代が来る
今回、睡眠の新たな機能として「脳の掃除」という側面が浮かび上がってきた。睡眠にはほかにもさまざまなはたらきがあると考えられており、今後、それらは徐々に明らかになっていくだろう。睡眠のはたらきやそのメカニズムが解明されれば、私たちは睡眠をコントロールできるようになる。
睡眠のコントロールは、人生を豊かに生きることにつながるだろう。
例えば、テストで最も実力を発揮できるような眠り方、薬の効果を最大限に引き出すような眠り方をしたり、夢の中での学習や自主的に夢を楽しむことなどもできるかもしれない。それは、睡眠のメカニズムを利用して睡眠の力を最大限に発揮し、人生を豊かに生きることである。今はまだ、非現実的に聞こえるが、そんな夢のような話が今後は次々と実現されていくに違いない。